ショパン:ノクターン/バラード
ピアノ:遠藤郁子
CD:ビクターエンタテインメント VICC-168
遠藤郁子は“ショパンに最も近づいた日本人ピアニスト”といっても過言はないであろう。決して、きらびあかなピアノの弾きぶりではないが、作曲者が言いたいところを表現する能力については、他のピアニストが束になってもかなわないほど凄みのある弾きぶりで圧倒される。彼女は病苦に苦しめられながら、不屈の闘志で現在も第一線のピアニストとして健闘している姿は、ピアニストの鏡とも言える。
このCDのタイトルは「ショパン序破急幻」である。序破急とは能楽の1日の公演のことで、初めはゆっくりと、そして徐々に速くなり、最後のクライマックス迎える。自然界から得た流れであり、日本人が本能的に持っている感性ともいえる。遠藤はこの“序破急”をショパンのノクターンとバラードに置き換えて1枚のCDにした。遠藤が病苦に苦しめられていた時に、夢にでてきたのが能「巴」の姿だったそうだ。このCDはショパンの世界と能の世界とが渾然と一体化した、遠藤郁子しか成しえない高みに達している、永遠に語り継がれるCDなのだ。(蔵 志津久)