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◇クラシック音楽 NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー◇ペルト:「フラトレス」/ブゾーニ:バイオリン・ソナタ第2番/ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第2番「悲しみの三重奏曲」

2022-01-25 09:38:16 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー> 




~ペルト:「フラトレス」/ブゾーニ:バイオリン・ソナタ第2番/ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第2番「悲しみの三重奏曲」~ 



ペルト:「フラトレス」

     ヴァイオリン:ギドン・クレーメル

     ピアノ:ゲオルギス・オソーキンス

ブゾーニ:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ホ短調 作品36a

     ヴァイオリン:ギドン・クレーメル

     ピアノ:ゲオルギス・オソーキンス

ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第2番 ニ短調 作品9「悲しみの三重奏曲」

     ヴァイオリン:ギドン・クレーメル
     
     チェロ:ギードレ・ディルヴァナウスカイテ
     
     ピアノ:ゲオルギス・オソーキンス

収録::2021年8月1日、オーストリア、ザルツブルク、モーツァルテウム大ホール
   (ザルツブルク音楽祭2021)

録音提供:オーストリア放送協会

放送:2022年1月17日 午後7:30 ~ 午後9:10

  今夜のNHK- FM「ベストオブクラシック」は、”ザルツブルク音楽祭2021”に開催されたギドン・クレーメルと仲間たちによるペルト:「フラトレス」/ブゾーニ:バイオリン・ソナタ第2番/ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第2番「悲しみの三重奏曲」の演奏会の放送である。ギドン・クレーメルは、ビッグな曲目ばかり追うのではなく、優れた曲でありながら、あまり目立たない作品を積極的に取り上げている。今夜の演奏会の選曲も、そんなギドン・クレーメルの心意気が感じられる。

 ヴァイオリンのギドン・クレーメル(1947年生れ)は、ラトビア出身。モスクワ音楽院でダヴィッド・オイストラフに師事。1967「エリザベート王妃国際音楽コンクール」第3位、1969年「パガニーニ国際コンクール」優勝、1970年「チャイコフスキー国際コンクール」優勝。1975年にドイツにおいて西側へのデビューを飾った。2002年「グラミー賞」最優秀賞受賞。

 ピアノのゲオルギス・オソーキンス(1995年生れ)は、ラトビア、リガ出身。ピアニストの父 からピアノを習う。ニューヨークのジュリアード音楽院で学ぶ。2009年にパリで開かれた第9回「スクリャービン国際コンクール」第1位、2015年第17回「ショパン国際ピアノコンクール」のファイナリストとなり注目をされた。2018年「マンハッタン国際音楽音楽コンクール」第1位。

 チェロのギードレ・ディルヴァナウスカイテは、リトアニアのカウナス生まれ。ロストロポーヴィチやゲリンガスのマスタークラスで学んだあと、ロッケンハウス音楽祭に招かれ、クレーメルらとのアンサンブルにて注目された。クレーメルが創設したアンサンブル「クレメラータ・バルティカ」のチェリストであり、ソリストとしても活躍している。

 今夜の最初の曲は、ペルト:フラトレス。この曲は、武満徹とほぼ同年代のエストニア出身の作曲家アルヴォ・ペルト(1935年生まれ)が1977年に作曲した作品。もともとは室内アンサンブルのための作品だが、後に独奏ヴァイオリンと弦楽合奏の版や、ギドン・クレーメルのために編曲されたヴァイオリンとピアノのための版がある。タイトルの「フラトレス」とは「親族、兄弟、同士」といった意味を指す。

 今夜の演奏は、ヴァイオリンのクレーメルとピアノのオソーキンスが、互いに会話をするように曲を進める。互いに一音一音を確かめるかように奏でる雰囲気は、まるで和楽器で演奏しているかのような錯覚に捕らわれる。アルヴォ・ペルトはエストニア出身ではあるが、我々日本人の感性を有しているかのように感じられるのである。クレーメルとオソーキンスは、神秘的な雰囲気を持つこの曲を巧みに表現し尽くす。日本人なら一度聴くと必ず好きになる曲であり、今夜の演奏は内容は、これをさらに増したものとなった。

 今夜の次の曲は、ブゾーニ:ヴァイオリン・ソナタ第2番。 1898年、ブゾーニ32才の時の作曲。全部で11曲を合わせて1つの作品となっているが、スローテンポで瞑想的な第1部、リズミカルに展開して走り抜けるプレストの第2部、バッハのコラール「幸なるかな、おお魂の友よ」の変奏曲である第3部の3つの楽章に分けることができる。フェルッチョ・ブゾーニ(1866年―1924年)は、イタリア出身でドイツを中心に世界中で活躍した作曲家・ピアニスト。作曲家として新古典主義音楽を提唱した一方、電子音楽や微分音による新しい作曲法なども提唱した。以前ブゾーニは「バッハの編曲で知られる過去の大ピアニスト」という認識しか持たれていなかったが、最近では、作曲家として再評価されつつある。

 今夜の演奏は、ヴァイオリンのクレーメルとピアノのオソーキンスが、さらに密接な関係を取り合い、二人の演奏が完全に一体化するという、鮮やかな腕前を見せつけた。このヴァイオリンソナタは、古典派やロマン派の曲のように標題を持った作品でなく、どちらかというと古楽やバロック音楽のように音の響きそのものを楽しむ作品だが、醸し出す雰囲気はなかなか現代的であり、再評価されてしかるべき曲だと思う。二人の演奏内容は、起伏を持ったものに仕上がり、聴き応え十分。ブゾーニの他の作品ををもっと聴いてみたいと思わせる熱演ではあった。

 今夜最後の曲は、ラフマニノフ:ピアノ三重奏曲第2番。ラフマニノフが初期に作曲した2つのピアノ三重奏曲は、”悲しみの三重奏曲”と名付けられている。これら2曲は、モスクワ音楽院在籍中の1892年に完成された単一楽章によるト短調の作品と、卒業後の1893年に作曲されたニ短調による作品である。現在では前者を第1番、後者を第2番と名付けている。第2番は、1893年11月にチャイコフスキーの訃報を受け、それからわずか1ヵ月あまりの12月15日に完成した。故人を偲んでピアノ三重奏曲ないしは室内楽を作曲するという発想は、チャイコフスキー自身によって確立され、ラフマニノフもこれに倣って作ったと考えられている。

 今夜の演奏は、この曲の輪郭をくっきりと明確に表現した、他にあまり聴かれないような雰囲気を醸し出していた。この曲は、ラフマニノフがチャイコフスキーの死の知らせを受け、悲しみを表した作品。このため、演奏する場合は、哀悼の情をもって奏でるのを常としている。ラフマニノフの心中の吐露がテーマとなるからだ。今夜の演奏は、もちろんこれをベースとしているのだが、もっと根本に戻り、曲の構成を真正面から見つめ直し、より客観性を持たせた演奏内容に徹していた。そのことによってこの”悲しみの三重奏曲”の全体の構成像が、リスナーの前にくっきりと浮かび上がる効果をもたらしたようだ。(蔵 志津久)
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