★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ベルリン・フィルハーモニー八重奏団のベートーヴェン:七重奏曲/シューベルト:八重奏曲

2016-09-06 17:20:34 | 室内楽曲

<DISC1>

ベートーヴェン:七重奏曲 変ホ長調 作品20

<DISC2>

シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 D803

演奏:ベルリン・フィルハーモニー八重奏団
           
      ヘルベルト・シュテール(クラリネット)
      ゲルト・ザイフェルト(ホルン)
      ハンス・レムケ(ファゴット)
      アルフレート・マレチェク(ヴァイオリン)
      フェルディナント・メツガー(ヴァイオリン)(2)
      土屋邦雄(ヴィオラ)
      ペーター・シュタイナー(チェロ)
      ライナー・ツェペリッツ(コントラバス)

録音:1972年11月(ベートーヴェン)/1971年4月(シューベルト) 、ベルリン、ヨハネススティフト聖堂

CD:ユニバーサルミュージック(DECCA) PROC‐1650~6

 このCDには、ベルリン・フィルハーモニー八重奏団が1970年代に録音したベートーヴェン:七重奏曲とシューベルト:八重奏曲が収められている。当時、ベルリン・フィルハーモニー八重奏団にはヴィオラ奏者として土屋邦雄在籍していた。現在でもその伝統が引き継がれ、活発な演奏活動を続けている。同CDは1971&72年というカラヤン&ベルリン・フィルの黄金期に録音されたものであり、このためか輝かしい音色が魅力たっぷりに詰め込まれていることが聴き取れる。ベートーヴェン:七重奏曲は、今回が日本初CD化であり、シューベルト:八重奏曲 は世界初CD化となるもの。CDのジャケットも凝っていて、フィリップス原盤のLPレコードのジャケットをそのまま使っている。ベートーヴェン:七重奏曲のジャケットは、7つの使用楽器を整然と配置したものであるのに対して、シューベルト:八重奏曲の方は、絵画を使用している。そして、2曲を聴き比べてみると、演奏間隔が1年であるのに、印象がだいぶ違うのに気付く。ベートーヴェン:七重奏曲の方は、現代感覚に溢れ、各楽器の個性が如何なく発揮されている一方、シューベルト:八重奏曲の方は、ロマンの色が濃く反映されて、各楽器の協調性が強調された演奏になっている。

 ベートーヴェンの七重奏曲は、全部で6つの楽章からなる。作曲されたのは1799年~1800年で、ベートーヴェン前期の最後の時期に当たる。同時期に作曲された曲にはに交響曲第1番、ピアノ協奏曲第3番、ヴァイオリンソナタ第5番「春」などがある。形式的には娯楽性の高いディヴェルティメントとして書かれているが、内容的には、その後の名作の森を予言するかのように、ベートーヴェン特有の精神の高揚さが顔を覗かせる所も見られ、作曲当時から現在に至るまで人気のある室内楽曲として定着している。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、ホルン、ファゴットという楽器編成となっており、その音色を聴くだけでも楽しい雰囲気を漂わせる。初演は、1800年4月2日に、交響曲第1番と共に行われ、好評を博したという。このことがあったためか、後にベートーヴェンは、この曲をピアノ三重奏曲にも編曲している。この頃のベートーヴェンは、リヒノフスキー侯から年金が支給されるようになり、経済的にも安定しちたようで、ピアノの弟子も持つようになった。ただ、当時のウィーンは、ナポレオンのフランス軍に圧迫されており、敗北を喫するなど、ベートヴェンの周囲は政情不安の空気が漂っていた。

 シューベルト:八重奏曲は、トロイヤー伯フェルディナンドの依頼によって、1824年2月~3月に書かれた。フェルディナンドは、ベートーヴェンの友人で弟子であったルドルフ大公の執事長を務めた人物。作曲に際しては、「ベートーヴェンの七重奏曲のような曲」であることが条件として付けられた。このことを見ても当時のベートーヴェン:七重奏曲の人気の高さが窺われる。完成したシューベルト:八重奏曲は、次のような点でベートーヴェン:七重奏曲との類似点が浮かび上がる。①楽器編成がシューベルトの方がヴァイオリンが一つ多いだけで同じ②楽章数は6つで同じ③第2楽章と第4楽章はアダージョ、アンダンテと同じ④第4楽章は、2曲とも主題と変奏⑤第1楽章と第6楽章は、共にゆっくりとした序奏部を持つ⑥第3楽章と第5楽章は、スケルツォとメヌエット。この曲の公式の初演は、1827年4月16日に楽友協会の定期演奏会で行われた。出来上がった作品は、ロマンの色合いが濃い、伸び伸びとした内容を持ち、ベートーヴェン:七重奏曲以上に娯楽性の高いディヴェルティメントとして完成したようだ。シューベルト自身は、この八重奏曲を「大きなシンフォニーの習作」として考えていたことを、手紙に書き残している。

 ベルリン・フィルには、ベルリン・フィルのメンバーによる全部で29の室内楽グループがあるそうであるが、その中でも一番長い伝統を持つのがベルリン・フィルハーモニー八重奏団。その歴史は、1928年に8人の楽員たちがシューベルトの八重奏曲を演奏するために集まったところからスタートした。メンバーは現在に至るまで、ベルリン・フィルのトップ奏者および世界第一級の演奏家によって構成され、世界の諸都市で活発な演奏活動を展開している。日本には1957年の初来日以来、定期的に来日している。2013年には、第1コンサートマスターの樫本大進、首席ホルン奏者のシュテファン・ドール等が新たにメンバーに加わり、新たな活動をスタートさせた。シューベルト:八重奏曲をそのレパートリーの頂点に据え、様々な編成の作品を演奏するスタイルは、今も昔も一貫している。1958年、ヒンデミットがこの八重奏団のために八重奏曲を作曲し、自らヴィオラを担当したほか、ヘンツェ、シュトックハウゼンなど著名な現代作曲家が、彼らのために作品を残している。このCDでは、一人一人の演奏家の高い演奏技術が聴いていてよく分かる演奏内容となっているのに加え、ベートーヴェン:七重奏曲では、奏者一人一人の自由闊達で躍動感溢れる明快さが印象に残り、一方、シューベルト:八重奏曲では、奏者間の緻密な連携が、リスナーを知らず知らずのうちにシューベルトの深いロマンの世界へと導き入れてくれる。(蔵 志津久) 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

室内楽曲」カテゴリの最新記事