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◇クラシック音楽CDレビュー◇ショーソン:ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 op.21/ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調

2021-12-07 09:34:23 | 室内楽曲



<CDレビュー>



~ショーソン:ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 op.21/ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調~



ショーソン:ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 op.21

  ヴァイオリン:ジョシュア・ベル
  ピアノ:ジャン・イヴ・ティボーデ
  弦楽四重奏:タカーチ弦楽四重奏団

          ガーボル・タカーチ(第1ヴァイオリン)
          カーロイ・シュランツ(第2ヴァイオリン)
          ガーボル・オールマイ(ヴィオラ)
          アンドラーシュ・フェエール(チェロ)

ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調

  ピアノ:ジャン・イヴ・ティボーデ
  ヴァイオリン:ジョシュア・ベル
  チェロ:ジャン・イヴ・ティボーデ

CD:ポリドール(LONDON) POCL-1034

 このCDに収められた、ショーソン:ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲それにラヴェル:ピアノ三重奏曲の2曲の室内楽作品は、いずれもフランスを代表する室内楽の名曲にも関わらず、わが国では、普段あまり耳にすることがない作品だ。この理由は、室内楽の名曲と言われている他の作曲家の曲に比べて、耳に馴染む聴かせどころに今一つ欠けるところが理由なのかもしれない。しかし、これら2曲にじっくりと耳を傾けると、音楽を演奏すること、そして音楽を聴くことの感動がじわじわと伝わってくる名作であることが分かる。「詩曲」で有名なショーソンにもこんなにも魅力的な作品があることを、そしてラヴェルの魅力が凝縮されたような作品を、このCDは教えてくれるのだ。


 ヴァイオリンのジョシュア・ベル(1967年生まれ)は、アメリカ、インディアナ州出身。14歳でリッカルド・ムーティ指揮するフィラデルフィア管弦楽団と、1985年にはセントルイス交響楽団と共演して、カーネギーホールにデビューを果たした。以後、世界中の主要なオーケストラや指揮者と共演している。2011年からはアカデミー室内管弦楽団の音楽監督を務めている。1998年のカナダ映画「レッド・バイオリン」において、また、2004年のイギリス映画「ラヴェンダーの咲く庭で」において、ソロ・ヴァイオリン演奏を担当している。グラミー賞受賞。

 ピアノのジャン=イヴ・ティボーデ(1961年生まれ)は、フランス、リヨン出身。リヨン国立音楽院およびパリ国立高等音楽院で学び、アルド・チッコリーニ、ラヴェルの友人リュセット・デカーヴなどに師事。1978年「ヴィオッティ国際コンクール」第2位。1979年「ロベール・カサドシュ国際コンクール」第2位。1980年「日本国際ピアノ・コンクール」(主催:日本演奏連盟)で1位なしの第2位。1981年、最年少の19歳で「ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディション」優勝した。フランスの作品を主なレパートリーとしているが、室内楽にも積極的に取り組んでいる。

 タカーチ弦楽四重奏団は、ハンガリー、ブタペストのリスト音楽院教授のアンドラーシュ・ミーハイの門下生の4人の学生によって1975年に結成された。1977年にフランスのエヴィアンで開かれた「国際弦楽四重奏コンクール」で一等賞および批評家賞を受賞したことで一躍を注目を集めた。1978年「ブタペスト国際弦楽四重奏コンクール」優勝、ボルドー音楽祭でゴールド・メダル受賞。その後、アマデウス四重奏団、ハンガリー四重奏団に師事するなど研鑽を積み、世界に知られる弦楽四重奏団に成長を遂げた。現在はアメリカ合衆国のコロラド州ボルダーを拠点としている。

 チェロのスティーヴン・イッサーリス(1959年生まれ)は、イギリス、ロンドン出身。10歳からロンドンの国際チェロセンターでジェーン・コーワンに師事。1976年、アメリカのオバーリン大学に留学。1977年、ロンドンでデビュー・リサイタルを開く。1993年「ピアティゴルスキー芸術賞」受賞。同年、イギリスのロイヤル・フィルハーモニック協会から「年間最優秀器楽演奏家賞」を受賞。1998年「大英帝国勲章」を授与される。協奏曲と室内楽の演奏に活躍し、長年忘れられてきた作品の復活にも取り組んでいる。多岐にわたるレパートリーと、ガット弦を用いた個性的な音色によって知られる。


 ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲は、1889年から1891年にかけて作曲された。作曲者によって協奏曲(Concert)と銘打たれたものの、楽器編成からすると、ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏からなる室内楽曲(ピアノ六重奏曲)である。ショーソンは、当初法律の道を志すが、同時に作曲も行っていた。その後、マスネに才能を見出されて1879年に25歳でパリ音楽院に入学。一方でセザール・フランクの講義にも研究生として出入りしていた。フランク門下で研鑽を積むことになったショーソンは、循環形式をはじめとする技法面のみならず、精神的にもフランクから強い影響を受けて独自のリリシズムを発展させていった。

 このCDでのショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲の演奏内容は、繊細な表現に徹するこの曲の雰囲気を最大限に表現し尽くしており、この曲を聴くには申し分のないレベルに達している。特に、第3楽章における表現は、ショーソン特有の繊細極まりない世界を、ティボーデのピアノが伸びやかに、透明感をもってリードし、これを受けてベルのヴァイオリン、それにタカーチ弦楽四重奏団がそれに完全に同調して、この曲が持つ美しくも深みのある内容の表現にものの見事に成功している。続く第4楽章は、一転して活発なテンポに変化するが、何の違和感もなく、ごく自然に聴き進めることが出来るほど、その正確な技巧にも満足させられる。


 ラヴェルのピアノ三重奏曲 イ短調は、1914年の夏に作曲された。この時ラヴェルは、フランス領バスクのサン=ジャン=ド=リュズに滞在して作曲を行った。ラヴェルの母親はバスク人であり、ラヴェル自身もバスク地方の街シブールで生まれたため、バスクの伝統を強く受け継いでいた。同曲の特に第1楽章については、ラヴェル自身が「バスク風の色彩を持つ」と述べている。同曲の作曲のさなか、第一次世界大戦が勃発し、ラヴェルは、徴兵に応じるため、同曲を急ぎ完成させた。1915年3月には志願兵となり、従軍した。初演は1915年。同曲は、各楽器を、きわめて広い音域において大胆に用いることで、通常の室内楽には見られないような豊かな響きを作り出している。

 ラヴェルは、この曲を書き終えた翌年に第一次世界大戦に従軍している。この曲の何か異様な切迫感は、このことと無縁ではあるまい。この曲には、来るべき従軍への漠然とした不安が底流に流れる一方、高揚した精神性も顔を覗かせる。このような複雑なラヴェルの心境を、このCDの演奏は、余すところなく伝えてくれる。全体に明快な旋律が強く印象に残る曲であり、一般のフランス音楽とは一線を画するところがあるのだが、このCDの演奏は、この難問を楽々と乗り越え、力強さと華麗さと、それに優雅さとをうまく融合させて、見事な仕上がりを見せている。特に、第3楽章パッサカイユ(非常に遅く)では、当時のラヴェルの内なる声を余すと来なく表現して秀逸。(蔵 志津久)
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