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◇クラシック音楽CDレビュー◇メロス弦楽四重奏団 とムスティスラフ・ロストロポーヴィチによるシューベルト: 弦楽五重奏曲

2022-09-06 09:44:31 | 室内楽曲



<CDレビュー>



~メロス弦楽四重奏団 とムスティスラフ・ロストロポーヴィチによるシューベルト: 弦楽五重奏曲~



シューベルト: 弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956

弦楽四重奏:メロス弦楽四重奏団

チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

録音:1977年

CD:ドイツ・グラモフォン 00289 477 6357

 メロス弦楽四重奏団(Melos Quartett)は、1965年に、ヴュルテンベルク室内管弦楽団とシュトゥットガルト室内管弦楽団の首席奏者らによって結成されたドイツの弦楽四重奏団。結成当初の1966年「ジュネーヴ国際音楽コンクール」で最高賞を取得。ヴィルヘルム・メルヒャーの死により、2005年に解散した。「メロス」の名称の由来は、第1ヴァイオリンのMelcherのMelと第2ヴァイオリンとヴィオラのVoss兄弟のosを組み合わせ、ラテン語で「歌」「音色」「旋律」を意味するmelosに掛けたもの。ドイツの弦楽四重奏団らしく、重厚な音が魅力で、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、シューベルト、シューマン、ブラームスを得意とし、これらの全曲録音を行い、特にベートーヴェンでは高い評価を得た。第1ヴァイオリン:ヴィルヘルム・メルヒャー、第2ヴァイオリン:ゲルハルト・フォス(1993年まで)、イーダ・ビーラー(1993年から)、ヴィオラ:ヘルマン・フォス、チェロ:ペーター・ブック。

 ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927年―2007年)は、アゼルバイジャン、 バクー(旧ソビエト連邦)出身。チェリストとして20世紀後半を代表する巨匠として知られる。1943年モスクワ音楽院に入学したが、作曲の師はショスタコーヴィチであったという。1945年「全ソビエト音楽コンクール」金賞受賞。1951年バッハの無伴奏チェロ組曲の演奏で「スターリン賞」受賞。そして1961年指揮者としてもデビューを果たす。1963年「レーニン賞」受賞。1966年ソビエト連邦「人民芸術家」の称号を受ける。しかし、1970年社会主義を批判した作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを擁護したことにより旧ソ連政府から「反体制」とみなされ、以降、国内演奏活動を停止させられ、外国での出演契約も一方的に破棄される。そのため1974年に亡命。1977年アメリカ合衆国へ渡り、ワシントン・ナショナル交響楽団(ケネディ・センターを拠点に1931年に設立されたワシントンD.C.のオーケストラ)音楽監督兼首席常任指揮者に就任。1978年旧ソビエト政府により国籍剥奪されるが、1990年ワシントン・ナショナル交響楽団を率いてゴルバチョフ体制のソ連で16年ぶりに凱旋公演を行い、国籍を回復した。親日家としても知られ、1958年に大阪国際フェスティバルの初来日以降、たびたび来日した。


シューベルト: 弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956は、1828年の夏に作曲されたシューベルト最晩年の室内楽曲で、死のわずか2ヵ月前に完成された遺作である。1850年になってようやく初演され、1853年に初版が出版された。同作は、シューベルトの全作品の中でも、唯一の本格的な弦楽五重奏曲としてその存在意義は高い。また、多くの弦楽五重奏曲は、モーツァルトの先例に従い、弦楽四重奏に第2ヴィオラを加えた楽器編成が標準としているが、同曲は、ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ2という独特な楽器編成となっている。シューベルトはこの作品で、チェロを加えることによって、低音域の充実とバランスを図っている。全体は、アレグロ・マ・ノン・トロッポ、アダージョ、スケルツォ(プレスト)-トリオ(アンダンテ・ソステヌート)、アレグレットの4つの楽章からなり、演奏時間は約1時間近くに及ぶ大曲となっている。この弦楽五重奏曲は、シューベルトの作品中、もっとも真情吐露の度合いの強い室内楽作品という評価が与えられている。

 シューベルト: 弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956におけるメロス弦楽四重奏団とムスティスラフ・ロストロポーヴィチの演奏は、沈鬱な表情をを持つこの曲に相応しく、重厚で深みのある表現が、他の録音の追従を許さぬ境地にリスナーを誘う。シューベルトの死の直前に完成したこの曲は、シューベルトの全作品の中でも特別な意味合いを有している。単なる悲痛とか哀惜とかの範疇を越えて、深い精神の世界へと踏み込んだシューベルトの精神面の凄みが、この演奏からは遺憾なくひしひしと伝わってくる。全体を通して聴くと、ロストロポーヴィチのチェロに比重が傾いていることは否めないが、この曲に限って言えば、このことがかえって幸いし、曲の持つ本質を十全に表現し尽くすことに繋がっているのがよく分かる。ロストロポーヴィチは自身、不本意にも亡命を余儀なくされた経験を持つだけに、死を予感したシューベルトの心情を余すところなく表現することが出来たのだろう。メロス弦楽四重奏団員もそんなロストロポーヴィチに完全に同化し、深い精神性を持った演奏に徹している。曲といい、演奏といい、この録音は、クラシック音楽の頂点を極めた出来栄えを、ものの見事に表現したと言って少しも過言あるまい。(蔵 志津久)
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