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◇クラシック音楽CDレビュー◇チェコ・ナショナル・トリオのドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番 「ドゥムキー」/シューベルト:ピアノ三重奏曲 第1番

2022-07-12 09:38:53 | 室内楽曲



<CDレビュー>




~チェコ・ナショナル・トリオのドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番 「ドゥムキー」/シューベルト:ピアノ三重奏曲 第1番~



ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番 ホ短調「ドゥムキー」Op.90、B.166
シューベルト:ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 Op.99、D.898

ピアノ三重奏:チェコ・ナショナル・トリオ(ADトリオ)

         イジー・フルニーク(ヴァイオリン)
         ミロシュ・ヤホダ(チェロ)
         マルティン・カシーク(ピアノ)

CD:ビクターエンタテインメント VICC‐60736

 チェコ・ナショナル・トリオ(ADトリオ)は、チェコ・ナショナル交響楽団のコンサート・マスターのフルニーク、同響首席チェロ奏者のヤホダ、ピアノ奏者のカシークというチェコ音楽界をリードする3人により2007年に編成された。チェコ国内およびヨーロッパではアントン・ドボルザークの名を冠した「ADトリオ」の名称で活動し、高い評価を受けている。2010年、日本でのCDデビューに際して、日本のファンに分かりやすい名称でということで、イジー・フルニークとミロシュ・ヤホダが所属するチェコ・ナショナル交響楽団の名に因みチェコ・ナショナル・トリオという名前でのリリースになった。レパートリーは、古典派からチェコの現代音楽作曲家までと幅広い。


 ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第4番 「ドゥムキー」は、1891年2月に完成された6つの楽章から成るピアノ三重奏曲。副題の「ドゥムキー」とは、ウクライナ起源の憂鬱な叙事的な歌謡バラッド「ドゥムカ」の複数形である。各楽章は自由な形式で構成されており、ソナタ形式の楽章がまったく含まれないこと、楽章間の調性の関連付けが自由で組曲といった側面を持つことなどの特徴を持つ。いずれの楽章においても突然の転調や、テンポや気分の急激な変化が顕著である。いかにもドヴォルザークらしい、スラヴ的な愁いを含んだ美しい旋律が全篇に流れている一方、ジプシー音楽やチェコの民族舞曲に影響された激しいリズムの曲調も織り込まれている。

 チェコ・ナショナル・トリオによるドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第4番 「ドゥムキー」の演奏は、まずは、第1楽章の出だしからロマンあふれる情緒満点の響きに引き付けられる。その後も次々と繰り広げられる美しいメロディーと突如出現する悲し気なメロディー、さらには軽快なメロディーを、チェコ・ナショナル・トリオは、豊かな響きで明快に弾き分けてくれるので、リスナーは、ただその流れにゆったりとした気分で身を浸すことが出来るのだ。スラヴ的な雰囲気が演奏全体の隅々まで行きわたり、日本人が聴いていても、何か故郷にでも帰ったみたいなしみじみとした雰囲気に浸ることが出来る。これは滅多に聴くことが出来ないほどの秀演と言っていいだろう。


 シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番は、4つの楽章からなるピアノ三重奏曲で、シューベルトの死後に出版されたため、「遺作」とされている。シューベルトはピアノ三重奏曲を4曲作曲しているが、その内の1曲(変ロ長調 D28)は1812年に作曲され、当時のシューベルトはまだ15歳であった。残る3曲のうちD.897は「ノットゥルノ」と名付けられ、残る2曲がピアノ三重奏曲第1番と第2番である。この第1番は、シューベルトがベートーヴェンのピアノ三重奏曲「大公」に刺激を受けて書かれた作品と言われている。確かに同じ変ロ長調で書かれ、明るく雄大な曲想も「大公」を思わせるところはあるが、いかにもシューベルトらしい美しい旋律に溢れている作品。

 チェコ・ナショナル・トリオによるシューベルト:ピアノ三重奏曲第1番の演奏は、豊かな響きを持った伸び伸びとしたところが大きな特徴だ。このためリスナーは、いつも聴くシューベルト:ピアノ三重奏曲第1番のようなよそ行きの堅苦しさから解放され、何か、招待された私邸でリラックスした気分でこの室内楽の名曲を存分に味遭う気分に浸ることが出来る。ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第4番 「ドゥムキー」の演奏にも言えることだが、このトリオの放つ響きには、活き活きとした輝きに満ちており、あいまいさはどこにも見当たらない。だからと言って微妙なニュアンスに欠けるのかというとそうではない。チェコの演奏家らしい歌心満点の演奏内容に酔いしれてしまう。(蔵 志津久)
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