![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/41/144b6139afdbd115d73bf39cdfa910d6.jpg)
ハチャトゥリアン:バイオリン協奏曲
サンサーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
指揮:ウラジミール・ゴルシュマン
管弦楽:Viena State Opera Orchestra
CD:VANGUARD CLASSIC OVC 8035
このCDの発売は1959年6月で、あの“エルマン・トーン”で一世を風靡した著名なバイオリニストであるミッシャ・エルマンが弾いている。スキンヘッドの独特な容貌がこれまたなんとなく親しみが持て、スター的な要素にこと欠かないバイオリニストではあった。バイオリンの音そのものが聴くものにはっきりとアピールし、少しもあいまいなところがない。それでいて、独特の甘い香りが漂ってきそうな弓使いが、魅力をたっぷり含んでいた。
エルマンが「どうだ、いい音だろう」とでも言っているような音づくりは、ショウマンシップたっぷりで、聴いていると精神が自然に高揚してくる。クラシック音楽なのに、何故かロックコンサートで会場が盛り上がったような感覚すら受ける。これからのクラシック音楽が発展を考えると、今後いい意味でのショウマンシップを持ったエルマンみたいな演奏家がたくさん出てきてほしいものだ。
ところで、このハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲を改めて聴いてみると、なかなかいい曲であることに気づく。親しみやすいメロディー、リズムが織りなす第一楽章、ロマンティックな香りが魅力的な第二楽章、そして軽快なバイオリンの音色が印象的な第三楽章。どれをとっても魅力たっぷりだ。バイオリン協奏曲というとモーツアルト、ベートーベン、ブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキーばかりが繰り返し演奏されるが、このハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲はもっと演奏会で取り上げられてもいいのではと思う。バイオリンの音そのものを楽しもうとするなら、一番に挙げてもいいバイオリン協奏曲でなかろうかとさえ思えてくる。
このCDには、サンサーンスの序奏とロンド・カプリチオーソがカップリングされているが、これはまさに“エルマン節”全開といった趣で、甘いバイオリンの音色に全曲が覆われ、しばし、現実の生活を忘れ、音楽の夢の世界に迷い込んでしまう感覚が堪らない。それに、このCDは50年ほど昔の録音であるにもかかわらず、音質が素晴らしく良く、現役盤としても十分に通用しそうだ。(蔵 志津久)