心臓の形成に必要な上、万能細胞が心臓の筋肉「心筋」に分化するのを促すタンパク質を発見したと、千葉大のグループが四日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。さまざまな臓器などに分化できる万能細胞の一種「ES細胞」に、このタンパク質「IGFBP―4」をかけると、ES細胞が心筋になることを確認した。心筋梗塞(こうそく)や心不全の患者の心臓再生治療に役立つ可能性もあるという。
IGFBP―4を発見したのは、千葉大付属病院(千葉市中央区)の小室一成教授(循環器内科)らのグループ。さまざまな細胞をマウスのES細胞と一緒に培養し、ES細胞を心筋にする細胞を選抜。この細胞が分泌していたのがIGFBP―4で、ES細胞が心筋になる確率を約二十倍に高めた。カエルの胎児でIGFBP―4を抑制すると心臓ができないことも分かり、心臓の形成に欠かせないことが示された。
今後、ES細胞や「iPS細胞」(新型万能細胞)から効率的に心筋を作り出して心臓に移植する方法や、心筋梗塞や心不全になった心臓に直接IGFBP―4を注入して心筋を再生治療する方法の確立を目指す。重症な心不全の治療法は現在心臓移植しかないが、国内での実施例は少ない。小室教授は「今まで治療が難しかった重症な患者さんたちの治療に役立てたい」と話した。
IGFBP―4は「Wnt」という心臓の発生を制御するタンパク質の作用を阻害していたことも判明。Wntはがんなどさまざまな病気に関係しており、IGFBP―4を使ってがんの肥大化を抑制するなどの応用も考えられるという。
[ちばとぴ=千葉日報ウェブ 2008年06月05日]
http://www.chibanippo.co.jp/news/chiba/society_kiji.php?i=nesp1212633734
【「万能細胞から心筋」効率上げるたんぱく質 千葉大発見】
さまざまな細胞や組織になりうる万能細胞の一つ、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から心筋の細胞をつくる効率を最大20倍に高めるたんぱく質を、千葉大学医学部の小室一成教授らの研究グループがマウス実験で見つけた。心臓病の再生医療の開発につながる。新型の万能細胞である人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも試す。英科学誌ネイチャー(電子版)に発表した。
研究グループは、骨髄系の細胞を培養した液を使うと万能細胞から心筋細胞への分化が促されることに着目した。この培養液中にある「IGFBP―4」というたんぱくが心筋をつくる効率を上げる働きがあることをつかんだ。ES細胞から心筋細胞になるのは、これまではよくて全体の1%程度だが、マウスのES細胞にふりかけて培養したところ、10~20倍もできた。
再生治療に使うためには、万能細胞を心筋細胞にして移植するか、このたんぱく質を含んだ薬剤を注射し、心臓内にある幹細胞を心筋に変身させる方法が考えられる。(竹石涼子)
[朝日新聞 2008年06月07日]
http://www.asahi.com/science/update/0606/TKY200806060038.html
【IGFBP-4:心筋細胞の分化促す、たんぱく質発見 千葉大院教授ら、マウスで実験】
心臓の形成に重要な働きをするたんぱく質を、小室一成・千葉大大学院教授らが発見した。幹細胞の培養に使うと、10~20%の高い割合で心筋細胞が発生するという。人にも存在し、重篤な心臓病の新たな治療法につながるか注目される。
心筋細胞の再生には、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚(はい)性幹細胞(ES細胞)が注目されている。だが、心筋細胞に分化する割合は1%程度だった。
研究チームは、心筋細胞への分化を促すたんぱく質が存在すると考えた。マウスで実験した結果、「IGFBP-4」というたんぱく質を幹細胞の培養に使うと、10~20%の割合で心筋細胞が発生することを突き止めた。
また、孵化(ふか)直後のオタマジャクシで、このたんぱく質の働きを止めると、心臓が小さくなったり消滅することも分かった。
現在の重症心不全の治療は薬物治療が主流だが、生存率は5年で平均約50%。心臓移植も国内で年間10例前後にとどまる。小室教授は「このたんぱく質を使い、心筋細胞内の幹細胞を刺激し、心筋の再生を可能にしたい」と話す。5日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。【柳澤一男、神足俊輔】
[毎日新聞 2008年06月17日東京朝刊]
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/06/17/20080617ddm016040104000c.html
【タンパク質の心筋細胞分化 20倍の効率で誘導 千葉大が発見】
多様な細胞になることのできる胚性幹細胞(ES細胞)を、高い確率で心筋細胞に分化させるタンパク質を、千葉大大学院医学研究院の小室一成教授らの研究グループが突き止めた。人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも確かめる方針で、心臓再生医療への応用が期待される。英科学誌「ネイチャー」(電子版)に発表した。
小室教授らは、ホルモン調節作用が知られていた「IGFBP4」と呼ばれるタンパク質が、単独で心筋細胞への分化を強く誘導することを新たに発見した。このタンパク質を培養液に添加すると、通常の約20倍の効率でマウスのES細胞が心筋細胞になった。
また、このタンパク質の発現を抑えると、ES細胞で心筋細胞が作られず、アフリカツメガエルを使った実験では形成後の心臓が縮小・消失したことから、心臓の正常な形成に不可欠であることもわかった。心筋細胞への分化誘導は、発がんや老化に関係する物質とも密接に関わっているとみられ、がんや骨粗鬆(そしょう)症などにもIGFBP4が関与している可能性が考えられるという。
iPS細胞は再生医療の切り札として期待されるが臨床応用への課題も多い。小室教授は「今回の成果は、心臓病治療の再生医療にとって大きな意義がある。今後実用化に向けて研究を重ねていきたい」と話している。(黒田悠希)
[msn産経ニュース 2008年06月23日]
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080623/acd0806230831009-n1.htm