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医学研究関連記事の新聞紙面から切り抜き
再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

がん腫瘍まで抗がん剤が運搬される様子をナノメーターレベルで観察に成功=東北大学

2007年02月05日 | 癌、腫瘍
がん医療に明るいナノの光
-がん腫瘍まで抗がん剤が運搬される様子をナノメーターレベルで観察-


 東北大学医学系研究科の大内憲明教授、多田寛医師及び先進医工学研究機構の樋口秀男教授のグループは、マウスのがん腫瘍に抗がん剤がたどり着くまでの過程を、直径数ナノメートルの粒子1個の蛍光を利用して、動画像化することに成功した。この成果により、抗がん剤の薬効を向上する道に明るいナノの光がともされることになるだろう。この成果はアメリカのがん専門雑誌(Cancer Research)で2月1日(アメリカ時間)に発表された。

 ナノテクノロジーとバイオテクノロジーは次世代の産業を支えると予想されている分野であり、先進国がこれらテクノロジーの開発と利用にしのぎを削っている。最近では、ナノテクノロジーの第二世代としてナノテクノロジーで発展した技術を、医療に応用するナノ医療が芽生えつつある。大内研究室の多田寛医師らと樋口教授らは、乳がんに対する画期的な抗ガン剤であるハーセプチンに蛍光を発する半導体ナノ粒子を結合し目印とした。この目印付きのハーセプチンをマウスの静脈に注射して、血管からがん細胞に到達するまでの全過程を、新たに開発した超高精度の蛍光顕微鏡装置にて動画として観察した。抗ガン剤ハーセプチン1分子は、血管からすり抜け(図1)、その後、動いたり止まったりを繰り返しながら、がん細胞に近づいてゆき、がん細胞に結合して、細胞内を走り細胞核付近に至る(図2)、動画像が観察された。このように、抗がん剤1分子の挙動を観察できたことにより、抗がん剤がどのような経路でがん細胞に近づき、どの場面に最も時間を費やすかを理解することができた。この研究は将来、副作用の少なく、迅速にがん組織に到達する抗がん剤開発に役立つだろう。 

 ※図は添付資料を参照


語彙説明

ハーセプチン:
 乳がん細胞のなかで約30%は細胞表面にタンパク質HER2を過剰に発現しこれが癌化を引き起こしている。ハーセプチンはタンパク質HER2に対する抗体であり、抗体が結合することにより、HER2の機能が弱まり、がん細胞の増殖が抑えられ、最終的には死滅させることができる。日本では、最初のがん抗体治療薬として2001年に発売された。現在ではハーセプチンを含めた抗体医療の2005年の国内売り上げは550億円にのぼり、年20%前後の成長をしている。

半導体ナノ粒子:
 半導体材料を数ナノメートルまで小さくすると、量子力学的な効果により、蛍光を発することができるようになる。この半導体ナノ粒子は非常に安定であり、従来の有機蛍光分子の1000倍以上の光子を出すことができる。また、半導体ナノ粒子の大きさを変えることで蛍光の色を変えることができる。

[日本経済新聞社 NIKKEI NET / 2007年02月05日]

http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=152051&lindID=4


リンパ球の「教師役」となる細胞を特定、Nature誌に発表=京都大学

2007年02月05日 | 免疫
 免疫反応の司令塔となるリンパ球(T細胞)に、攻撃してはいけない「自己」を教える「教師役」の細胞を、京都大医学研究科の湊長博教授(免疫学)、浜崎洋子助手らが胸腺の細胞から特定した。免疫細胞の教育システムを解明する大きな手がかりとなる成果で、英科学誌「ネイチャーイムノロジー」電子版で5日、発表した。

 T細胞の前駆細胞が「学校」である胸腺で成熟分化する時、自己と非自己を見分ける能力をつけるために、あらかじめどのような物質が自身の体内にあるかを知る必要がある。胸腺の髄質で作られるタンパク質AIREの働きによって、本来は胸腺以外の組織や細胞でつくられるさまざまな物質が、攻撃してはいけない「教材」として網羅的につくられていると考えられている。

 この仕組みがないと、T細胞が自己の物質を異物として攻撃し、自己免疫性の糖尿病などを発症する。しかし、この「教師役」の細胞がどんな細胞なのか謎だった。

 湊教授らは、上皮細胞や内皮細胞で細胞同士をぴったりと接着する分子クローディンが、胸腺内部の髄質上皮細胞で作られていることに着目。同細胞がAIREやインスリンなども作っていることを突き止め、胎生期にクローディンを持つ上皮細胞の一部が分化してできることも分かった。

 さらに、クローディンは細胞を接着するだけでなく、教師役として生徒であるT細胞と情報をやりとりするという、これまで知られていない機能があるかもしれないという。湊教授は「教師役の細胞の一つが見つかり、起源も分かったことで、T細胞をうまく教育するために、どのように胸腺という学校がつくられているかという免疫学の重要なポイントの解明につながる」と話している。

[京都新聞 / 2007年02月05日]
http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007020500019&genre=G1&area=K10