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「ふたつの部屋、ふたりの暮らし 」(2019年、フランス、ルクセンブルク、ベルギー)

2022年05月11日 | 映画の感想・批評
南フランスの町、アパルトマンの最上階に、通路を挟んで二つの部屋がある。ほとんどドアを開け放して、お互いの部屋に行き来している、70代の女性たち二人。マドレーヌとニナ。
マドレーヌの誕生日祝いに美容師の娘アンヌと孫息子、亡くなった父を大事に思っている息子フレッドが訪ねてくる。
マドレーヌはこの日、子どもたちに重大決心を話すつもりだったが、とうとう言いそびれてしまう。
隣の部屋のニナはドイツ人の独身女性。

二人は部屋を売ってローマに移住するつもりでいるのだが、マドレーヌはニナには「家族も承諾してくれた」と嘘をついてしまう。
ある日、二人で買い物に出た町で、担当の不動産屋からマドレーヌが売却を迷っていると聞かされたニナはマドレーヌに激怒して、捨て台詞をはいて立ち去る。
その日、マドレーヌの部屋から肉の焦げるにおいが流れてくる。ニナが駆け付けるとマドレーヌが倒れている。脳卒中を起こして救急搬送されたマドレーヌ。それからは病院を訪ねようとしても家族ではないニナは自由に面会もできない。ようやく退院してきたが、言葉と体の自由を失ったマドレーヌには泊まり込みの介護士が付き添い、アパートでも会えない。
ニナはマドレーヌが心配で、あれこれ策をめぐらし世話を焼こうとするが、ことごとく失敗。
当初はニナを親切な隣人と思っていたアンヌだが、異常なニナの行動に不安を感じ、母の病状が悪くなったとして、マドレーヌを療養施設へ送る。

マドレーヌは決して悪化していたわけでなく、言葉には出せないがニナの動きに反応し、やがてニナとともに施設を脱走。
その足取りと表情の生き生きした変化は、おお、がんばれ!と思わず声が出そうになる。

老年期の女性同士の「共に生きたい」がかなえられるのか。社会的には徐々に理解しようという動きは出始めている。
さてさて、家族となると全面的に受け入れられるものなのか。
介護士の仕事の不安定さ、おそらくアジア系の貧困家庭の女性なのだろう。仕事に対するモチベーションにも怪しいものがある。いずこの国も同じだなと感じさせられる。

マドレーヌの娘アンヌは「母の20年前の浮気」の相手が誰だったのか、ようやく気付いたのだろう。父の母に対するDVも知っていたのだ。だから、母の脱走を見て見ぬふりをした。父親が大好きだった息子は、母の苦しみを理解できなかっただろう。

懐かしいメロディに乗せて、ふたりが踊るシーンがある。はじめと終わりに。
その歌がまたいい。「愛のシャリオ」だったようだ。ラストに歌詞がスクリーンに流れる。

   あなたは私と生きるの すばらしい島の上で
   そこから世界を眺めるの 
   青に隠れた世界を 真新しい世界を
   地球には 国境などないのよ 
   地球には 月が幸運をもたらすの 
   ふたりの未来に
   あなたが私を愛するなら 
       Chariot Sul mio carro (パンフレット掲載分より)

会場はほとんどが女性、しかも中高年。いずれ我が身!とばかりに、ニナとマドレーヌの今後を憂いつつも、時限のある自由、だからこそ好きにさせてあげてよと応援したくなる。

冒頭と時折挟まれる、森の中で遊ぶ少女たち。カラスがたくさん不穏な空気を醸し出す。フランスでもやっぱりカラスは嫌われ者なのか?
この少女たちとのかかわりも少々謎めいていて、実は十分把握できなかったことがちょっと悔しい。
(アロママ)

原題:Deux
監督:フィリッポ・メネゲッティ
脚本:フィリッポ・メネゲッティ、マリソン・ボヴォラスミ
撮影;オーレリアン・マラ
出演;バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール







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