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「パターソン」(2016年 アメリカ・フランス・ドイツ)

2017年10月04日 | 映画の感想・批評


 むかし、ジム・ジャームッシュの代表作「ダウン・バイ・ロー」を見て背筋がゾクゾクした。あの冒頭部分である。アメリカの裏寂れた町の通りをモノクロームのキャメラがずんずん横移動して行く。まるで電車の車窓から町を見ているように。
 幼かったころ、電車に乗ると座席に後ろ向きに膝まづいて車窓を眺めたものだ。右から左へ風景が際限も無く通り過ぎて行く。私はそれをいつまでも見飽きることなく見ていた。私の「横移動撮影」好きの原点である。つまりは映画好きになった根本はそういうことと関係があるのかもしれない。
 さて、主人公はニュージャージー州にあるパターソンという地方都市の公営バスの運転手だ。ドタバタ喜劇で一世を風靡した凸凹コンビのルー・コステロを生んだ町だという。主人公の名前が町と同じパターソンというのもおかしいが、ジャームッシュは詩、ノート、腕時計、ポスト、ビール、何組もの双子などなど、そうしたものを繰り返し登場させて、それが巧まざるユーモアというか、不思議なニュアンスを醸し出しているのだ。それに、主人公の妻は絵に描いたようなペルシャ美人で、草間彌生風の水玉模様のデザインに凝っているのがまたおかしい。
 当然バスが登場し、窓から風景が例によって横移動する。やはりこの人は横移動撮影が好きなのか。
 月曜から始まり月曜で終わるこの映画の主人公は毎日判で押したように6時10分か15分に起き、歩いて近くのバスのターミナルに行き、バスに乗り込んだあと日課のごとくノートを取り出しては詩を書く。
 繰り返しのクスグリをひとつ例に引こう。主人公が帰宅するとまずポストの郵便物をとって、傾いたポストを垂直に立て直すという動作を毎日繰り返す。それを窓越しにブルドッグが見ていて、主人が玄関から入る前に慌てて部屋の中央の愛用の椅子に移動するという動作も繰り返される。実はこのワンちゃんが主人の帰る前にオモテヘ出てポストを押して傾け、さっと家に入るという場面があとのほうに出て来て種明かしされる。つまり、ワンちゃんは毎日主人がポストを直すのを確認しては、何食わぬ顔で待ち構えていたわけで、これには笑ってしまった。
 何の変哲もないありきたりな1週間を描いてかくも感興を呼び起こす手腕には脱帽するしかない。しかも、絶えず見る者の頬を緩ませる。最後に永瀬正敏が登場するのだが、なかなか味のあるいい場面だった。
 間違いなく今年の収穫のひとつである。(健)

原題:Paterson
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレデリック・エルムズ
出演:アダム・ドライヴァー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、永瀬正敏


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