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「ブレードランナー」(1982年 アメリカ映画)

2023年01月04日 | 映画の感想・批評
 ネオンサインであふれる歓楽街と近未来の高層ビル群が併存するロサンジェルス。猥雑で荒廃した夜の街に、スピナーと呼ばれる空飛ぶ車が降りてくるアンバランスが面白い。リドリー・スコット監督の「ブレードランナ」(1982)は近未来SF映画で、暗く退廃的な格差社会として2019年のロサンジェルスを登場させている。
 人類はレプリカントと呼ばれる人造人間を開発し、宇宙開拓の現場(植民地)で苛酷な労働にあたらせていた。製造後数年経つと人間的感情が芽生えるために、最新型のレプリカントは4年の寿命しか与えられていない。それに不満を抱いた数名のレプリカント達は植民地から脱走して地球に潜入した。彼らには裁判を受ける権利も、異議申し立てをする権利もなく、発見されしだい殺される運命にある。そのレプリカント抹殺の任務を負ったのがブレードランナのデッカード(ハリソン・フォード)だった。
 旧約聖書のエレミヤ書18章に「陶工は粘土で一つの器を作っても、気に入らなければ自分の手で壊し、それを作り直す・・・この陶工がしたように、わたし(神)もお前たち(イスラエルの民)に対してなしえないと言うのか・・・」と書かれている。陶工が気に入らない器を壊すように、神は気に入らない人間の命を奪うことができ、人間も気に入らないレプリカントを抹殺することができる。創造する者は常に造られた者に対して優位にあり、気に入らなければ破壊することができるというのは、神を創造主とする宗教に対する皮肉なのだろうか。
 脱走したレプリカントのリーダーであるバッテイ(ルトガー・ハウアー)は、4年しかない寿命を延ばすようにレプリカントの開発者であるタイレル博士に迫るが、拒否され、殺害してしまう。興味深いのはバッテイの要求が、苛酷な労働の改善でも地位の向上でもなく延命であるということだ。バッテイのタイレル博士への訴えと、人間が神に<永遠の生命>を与えてくれと懇願している姿がオーバーラップしてしまう。
 リドリー・スコットの「プロメテウス」(2012)に、人類の創造主であるエンジニアなる宇宙人が登場する。宇宙船を開発した会社の老社長がエンジニアに<死を逃れる方法>を尋ねるが、エンジニアの逆鱗に触れあえなく殺されてしまう。寿命を延ばしたいとか、<永遠の生命>をもちたいという願望を持つと、創造主はひどく不機嫌になるようだ。
 リドリー・スコットは「2001年宇宙の旅」(68)(スタンリー・キューブリック)を見て衝撃を受けたと公言しているが、スコットが影響を受けたのは、この<永遠の生命>という概念ではないか。「2001年~」に登場する地球外知的生命体は<永遠の生命>を持ち、肉体をもたない魂だけの存在だ。キューブリックはこのアイデアを「2001年~」の原作者であるアーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」から取り入れたらしい。ちなみに「2001年~」はこの地球外知的生命体が人類を猿から人間に進化させたという話で、この地球外知的生命体は言わば人類の創造主である。
 同じように「2001年~」の影響を受けた映画監督にスティーヴン・スピルバーグがいる。スピルバーグは、どちらかというと宇宙人と地球人のファーストコンタクトの問題に関心があったようで、「未知との遭遇」(77)や「E.T.」(82)等、主として異星人との遭遇をテーマにしたSF宇宙映画を多く撮っている。スコットとスピルバーグはキューブリックの問題意識をそれぞれ分担して継承したかのような感がある。
 デッカードはタイレル博士を訪問した際に、秘書のレイチェル(ショーン・ヤング)と出会う。フォークト=カンプフ検査(共感テスト)によってレイチェルがレプリカントであることに気づいたデッカードは、彼女の6歳の時の記憶はタイレル博士によって移植されたものであると告げる。自分を人間だと信じていたレイチェルは激しく動揺するが、悲しみの原因はそれだけではなかった。すでに人間的感情が芽生えていたレイチェルにとって子供時代の記憶がないことは存在の危機を意味していた。記憶とは人間のアイデンティティなのだ。『ブレードランナ』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の著者であるフィリップ・K・ディックは、アイデンティティを喪失した人間の実存的不安を描いてきた作家だ。この作品が提起する問題は単なるSF的未来予想図を超えて、人間存在の根幹にまで及んでいる。(KOICHI)

原題:Blade Runner
監督:リドリー・スコット
脚本:ハンプトン・ファンチャー 
   デヴィッド・ピープルズ
撮影:ジョーダン・クローネンウェス
出演: ハリソン・フォード 
    ルトガー・ハウアー  ショーン・ヤング



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