シネマ見どころ

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「たかが世界の終わり」(2016年、カナダ=フランス映画)

2017年03月01日 | 映画の感想・批評
 カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた問題作である。子役からスタートしたグザヴィエ・ドラン監督は今や美形の俳優としてもまた気鋭の若手監督としても注目される才人だといってもいい。この映画は、ドランが監督業に徹してフランス映画界の芸達者を迎え、その俳優操縦術の点からもまた一流であることを証明した。
 作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)は20歳を少し過ぎた頃に家を出て以来12年ぶりに実家に帰還する。具体的な言及はないが余命幾ばくもない病を得て最期の別れを告げるためである。そんなこととは知らないルイを待つ家族は不安と歓びが交錯してみんな浮き足立っている。母親(ナタリー・バイ)はハイテンションで次男坊を歓待し、幼い頃に別れた末の妹(レア・セドゥ)の次兄を見る目は憧れに近い。いっぽう、弟と年の離れた粗野な長兄(ヴァンサン・カッセル)はルイに対する劣等感のなせるわざか、和やかな空気を壊してはみんなの神経を逆なでせずにはおかない。ルイとは初対面の、長兄の控えめな妻(マリオン・コティヤール)は夫の暴走にただ困惑した表情を見せるだけ。ルイはルイでいつ言い出そうか、告白のきっかけを掴めずにうじうじしている。
 さて、いよいよルイがみんなを前にして帰って来た理由を告げようと意を決したそのとき、長兄の言動(それはこの男の意外な繊細さから出た衝動的な反応だったのだが)にその場は凍りつくのである。
 俳優たちの細かな表情を克明に追うためか、クローズアップの多用が目につく。久しぶりの再会を喜ぶ表面的な繕いとは対照的にこれまでの家族間の複雑な感情の確執が徐々に噴出し、やがて怒濤のごとく衝突するクライマックスはマイク・リー監督の秀作「秘密と嘘」を彷彿とさせる。
 因みに、ルイの回想場面にハイティーンの頃だろうか、ボーイフレンドとの情熱的な濡れ場がイメージショットして挿入されるが、ルイに自己を投影したと思しき原作者ラガルスは1995年に37歳の若さでエイズで夭折したそうだ。(健)

原題:Juste la fin du monde
監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
原作:ジャン・リュック・ラガルス
撮影:アンドレ・テュルパン
出演:ギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ、レア・セドゥ