乳がん患者のサロン2 - ノエル編

乳がん患者の皆様、このサロンでのびのびと雑談しましょう。くつろぎの場です。

二階発言の余波

2008年11月19日 | 社会
先日、二階経済産業大臣が代理人を使い、自分の発言を撤回しました。発言後、各方面から抗議や非難が押し寄せて来て、新内閣に影響を与えるから…と、渋々の撤回だったようです。撤回文から私はそのように受け止めました。

民間団体からも抗議が寄せられました。二例紹介します。

「モラルの問題」との非難、批判は妥当でしょうか?

拝啓二階殿:兵庫県立柏原病院の小児科を守る会からの手紙
       丹生裕子(兵庫県立柏原病院の小児科を守る会代表)

 私たち「県立柏原病院の小児科を守る会」は、兵庫県丹波市で、「子どもを守ろう、お医者さんを守ろう」をスローガンに活動しているグループです。市民を助けたいと思っている医療者と、助けてほしいと思っている市民の間に横たわっている溝を埋めようと、活動をしています。

 先日の「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思います。忙しいだの 、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」という二階俊博経済産業大臣の発言は、患者を救おうと、過酷な労働環境の中でがんばっておられる産科、小児科、いわゆる周産期医療にたずさわっておられるお医者さんの心を折る発言ではなかったかと、残念に感じています。

 赤ちゃんは、何時に生まれるか分かりません。私の3人の子どもは。日中に生まれましたが、明けがたに出産したり、年末の深夜に生んだメンバーもいます。交代勤務ができるほどお医者さんはおられませんから、へその緒を切って下さったドクターは、その翌日も、朝から夜まで働き続けられたことと思います。ほとんど、眠れないままに、です。

 産科医は、ここ数年でものすごい勢いで数が減っています。その結果、辞めずに残られたお医者さんたちの負担がどんどん増える悪循環に陥っています。今も周産期医療に携わり続けておられるお医者さんたち、私たちのためにがんばっていただいているお医者さんたちにかける言葉は、「モラルの問題」という非難めいたものなのでしょうか?

 夜も寝ない、眠ることができない状況でがんばっている人たちを、「忙しいだの、人が足りないだの」と、批判することが、果たして妥当なのでしょうか?

 私たちの地元の兵庫県立柏原病院も43人おられたお医者さんが、3年ほどで20人にまで減りました。今年7月、病院のすぐ近くで開かれた医療フォーラムで兵庫県知事は、こんなあいさつをされました。

 「もっと情熱に燃えた医師と地域が協力し、医療を確保している所がある。我々も負けてはおれぬ」。半分に減った医師数で身を粉にして働くより、医師数が多い別の病院に移った方が、お医者さん自身は幸せでしょう。

 しかし、自分の幸せよりも、患者の、住民の幸せを優先し、地域医療を支える道を選んで頂いている。そんなお医者さんに対して、「もっと情熱に燃えた医師が」などと、あたかもお医者さんの情熱に問題があり、お医者さんの情熱不足が医師不足や地域医療の低下を招いているかのような発言をされたことに、落胆しました。お医者さんたちに申し訳なく、涙がこぼれそうになりました。

 兵庫県立柏原病院には、今は3人の産婦人科の先生がおられますが、4月からは、55歳の上田先生と50歳の丸尾先生のお2人になります。2人でお産を続けるということは、2日に1度、年間180日病院に泊まらなければならないということになります。

 泊まらない残りの180日も、緊急帝王切開などが入った時に駆けつけられるよう、待機が必要になり、24時間365日の緊張状態、休めない、ということになります。

 地方には、1人、2人で産科医療を支えておられる病院がたくさんあります。1人、2人のお医者さんが「もう続けられない」とお辞めになるだけで、産科医療がゼロになってしまう地域がいたるところにあるのです。東京で産科医が不足すれば、地方から補充され、地方の医師不足は進みます。これは周産期に限ったことでなく、全ての救急医療現場に共通していることです。

 政治家の先生の不用意なひと言が、医療を壊してしまうことがあります。とにかく現場に足を運び、お医者さんの声に耳を傾けて下さい。

 今日の産科医療、医療崩壊の原因は、医師個人の資質にあるのではなく、産科医を、勤務医を続けたくても続けられなくしている社会にあるのではないでしょうか。私たちは、患者、国民の側から、医師を守り、医療を守る運動を続けます。大臣が、政治の側から、医師を守り、医療を守る運動を展開して頂けることを期待します。

 終わりに、墨東病院でお亡くなりになられた方のご冥福と、意識不明が続いておられる方の回復を心からお祈り申し上げます。また、この世に生を受けた2人のお子さんが健やかに成長されることをお祈り申し上げます。
----------

現場で医療崩壊をくい止めようとしている人たちは、このような意見を持って活動しているわけです。

二階大臣は自分の発言に責任を持っていただきたい。

自分の仕事をこなす上で、忙しいだの 、人が足りないだのというのは言い訳になりますよ。国会に一日も欠席することがないのはもちろん、上記の産科医のように、不眠不休で365日、最高の仕事をするべきです。ミスは絶対に許されません、、、
というか、アンタは実行しているのかい?! 

また、ご自分が脳出血で倒れても、身内に妊婦さんがいても、特例扱いされることなく、一般市民と同様、病院の受け入れ不能の可能性のある救急車の中で、自身の対処を考えて下さいね。「大臣は特別だぞ、俺も身内も救命しろ、言い訳するな」なんて言っちゃダメですよ、みんなそうしているんだから。

もう一つの紹介は、福島県立医大産婦人科教授の佐藤章氏の抗議文です。
----------
「二階俊博経産相の『医者のモラルの問題』発言への抗議文」
        佐藤章(周産期医療の崩壊をくい止める会代表)

 周産期医療におけるいたたまれない事態が今もなお続いている昨今の状況の改善には、周産期医療に携わる医療者一同努力を重ねておりますが、今もなお国民の皆様の期待と信頼に十分にお答えすることができない状況が継続しており、ご心配をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。

 しかしながら、現場の努力だけでは解決できない状況を二階俊博経済産業大臣へもご理解頂きたく存じます。そして、二階大臣が舛添要一厚生労働大臣との会談において、「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」と発言されたことに対して、周産期医療の崩壊をくい止める会代表として、強く抗議いたします。

■周産期領域の医療水準と受け入れについて

<水準が満たされていない状況で患者を受け入れることは違法な行為>

1 医師に課せられた法律上の義務

 新潟地裁長岡支部平成14年7月17日判決は、「品胎(いわゆる三つ児)の分娩において帝王切開を行う場合、帝王切開を施行する医師2名、麻酔専門医で輸血を行う医師1名、出生した児の蘇生・介護・検査を施行する医師3名、その助手的看護師3名(新生児1名毎に各1名の医師と看護師)、手術の器械出し、手術の外回りにそれぞれ看護師1名の人的準備と、輸血用の血液、輸液、酸素、新生児蘇生用の気管内挿管器具3組、保育器3台、インファントウォーマー3台、全身麻酔器、血中ガス濃度分析機、その他新生児の血液生化学検査一式が可能な検査設備という物的準備が必要である。」と判示し、上記設備を持たない施設において「分娩を行うこと自体を違法な行為」と判示し、約1億1千万円の損害賠償責任を認めている。すなわち、上記の水準程の設備が整っていない限り、患者を受け入れることは、それ自体が違法な行為であるとするのが司法の判断である。

2 墨東病院、杏林大学病院の事案も受け入れること自体が違法

 墨東病院の事案では、当直医が1名しかいない状況で、脳出血の疑いのある妊婦を受け入れることは、それ自体が違法な行為であることは明らかであった。

 また、杏林大学病院の事案でも、産科医が手術中であったのであるから、実質的に産科医不在の状況であり、当然に妊婦を受け入れること自体が違法な行為であった。

3 二階大臣の言うモラルとは法に反すべしとの趣旨か

 確かに、モラルとは内面的規範であり、外面的規範でかつ物理的強制を伴う法律とは異なる。

 しかるに、二階経産大臣は、行政府である一省の長として、内面的規範と外面的規範たる法が相反する場合には、積極的に法に反せよとの趣旨で上記発言をされたことになるが、それでよろしいのか。

4 月平均300時間の勤務、月平均当直日数4日は政治と行政府の責任

 日本産婦人科医会の産婦人科勤務医・在院時間調査によると、産科医の月平均勤務時間は300時間を超え、月平均当直日数は4.2日であり、産科医の労働基準法違反の違法な勤務状況が常態化している。

 舛添厚生労働大臣は、この現状を鑑み、医療行政及び労働行政を管轄する監督省の長として、この違法な状況を速やかに改善しようと努力されている。

 しかるに、二階経産大臣は、行政府たる内閣の一員でありながら、この明白な違法状態を「モラルの問題」であり、「言い訳」であると判断しているとするならば、その規範意識の欠落は看過できないものであるし、なにより、法律による行政の原理に反する「モラル」を信条として持っているのであるならば、内閣の一員たる資質において大きな疑問を感じざるを得ない。

■結語に代えて

 私たち周産期に携わる者は、先の奥様を亡くされたご主人からのお言葉である「妻の死が浮き彫りにした問題を力をあわせて医師、病院、東京都、国で改善してほしい。妻の死を無駄にしてほしくないし息子のためにも息子にとって日本一の母親だったといえるような状態に改善してほしい。」を忘れることなく、事態解決に向けこれからも努力をして参ります。

 二階大臣におかれましても、政治の立場において、我が国の医療の状況を正しくご認識頂き、国民のために内閣の一員として、事態解決にむけご助力を頂きますようお願い申し上げます。

 以上の次第により、私は、周産期医療の崩壊をくい止める会の代表として、二階経産大臣の上記発言につき強く抗議し、発言の撤回を求めます。
----------

大臣の代わりはいても、産科医の代わりはいないのが現状なんだよと思う人、ここをクリックよろしくね

なかのひと

This blog “The salon of breast cancer women authored by Noe:l” is able to read in Japanese:-)