<組み体操事故をなくせ>「中止」決断した学校 称賛より安全を優先
2015年11月17日(東京新聞朝刊より)
日本スポーツ振興センターによると、二〇一四年度の小中高校の組み体操事故は一都六県では東京都が七百二十八件と最多で、埼玉県が五百五十九件、千葉県が四百十八件と続いている。
東京都北区の区立稲付(いなつけ)中学では一三年を最後に、運動会での組み体操を取りやめた。その理由を武田幸雄校長(54)は「危険だから」と言い切る。
武田校長が同校に赴任したのは一一年。当時は春の運動会で三年生の男女ともに組み体操を披露していた。男子は肩を組んだ上に人が立つ四段タワーを実施。拍手喝采を浴びる伝統行事で、保護者アンケートには「感動した」との称賛の声が並んでいたという。
一方で、練習に毎回立ち会っていた武田校長は、生徒がタワーから落下するのを何度も目撃。大事には至らなかったが最上段の生徒は高さ六メートル弱の位置におり、「死亡事故さえ起きかねない」と感じ、運動会後に当時の体育教諭と話し合った。だが体育教諭の返答は「保護者の期待が大きく、代替案もない」。すぐにはやめられなかった。
一三年、田村充(たかし)教諭(39)が新しく体育教師として赴任したのを機に、武田校長は同年春の運動会を最後に組み体操をやめるよう打診。保護者会でも二回にわたり中止を説明した。「事故が起きていないのに、なぜやめるのか」という意見もあったという。
昨年と今年の運動会では、三年生の男子は集団行動、女子はダンスと空手の演舞を披露。田村教諭は「一糸乱れぬパフォーマンスを目指すことで、生徒たちは組み体操と同じように一体感や達成感を味わうことができた」と話す。
武田校長は保護者向けの秘策も用意。校舎三階を開放して、上から見学できるようにした。約四百人分の保護者アンケートでも評価が高く、「組み体操の方が良かった」との声は数件にとどまった。
武田校長は、「伝統的に続く組み体操は、やめることの方が難しい。だが批判をはねのけてでも子どもの安全を優先するのが校長の役割」と強調。「校長は毎回練習に立ち会って実施するかどうかを決断するべき。それでも巨大な組み体操に危険を感じなければ、その感覚が怖い」と話す。