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西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

廓丹前

2010-08-21 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
133ー「廓丹前」(1857・安政4年)


元禄頃(1688~1707)の伊達男は、廓に通うのに目一杯おしゃれをしたものだ。
廓も全盛で、四季折々の風流なイベントが花盛りだった。

『俳優の 昔を今に写し絵や
 及ばぬ筆に菱川の  
 寛濶出立ち 廓通い
 姿彩る丹前は
 今日を晴れなる初舞台

 よしや男と名に高き
 富士の白柄まばゆくも
 紫匂う筑波根の
 腰巻羽織六方に
 振って振り込む
 奴のこのこの
 酒ならねじ切り色上戸
 恋の取り持ち
 してこいまかせろ しょんがえ
 花にも優る 伊達な風俗』

●菱川某の描いた役者の浮世絵にはとてもかなわぬが、
 廓に通う、伊達男を再現してみた。
 今日は、花柳寿輔宅の舞台開きなのだ。

 男は義也、白柄組、江戸紫の短い羽織を粋に着て、
 颯爽と歩く姿の六方振り。
 酒を一杯、顔に出る、お供の奴は尻はしょり。
 へい、恋の取り持ちまかせろ合点!
 花にも勝つぞ、この風俗。
 
義也とは、旗本奴の三浦小次郎義也のこと。
吉屋組の親分で、金も力もある大変な色男。
金に糸目をつけない華美な衣装は、奴共の羨望の的で、
義也が歩くと見物人が溢れたという、いわば男伊達のスター。
斯くして義也は色男の代名詞となる。

丹前については、8/4、10に詳しい。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

風流船揃

2010-08-20 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
132ー「風流船揃」(1856・安政3年)

題名のとおり、色々な船で賑わう隅田川の景色を詠んでいる。

『屋形 屋根船 猪牙 荷足 
 御厩 隅田の渡し船
 遥か向こうを
 竹谷と呼ぶ声に
 山谷の堀を乗り出す
 恋の関屋の里近く
 花見の船の向島
 軒を並べし屋根船の
 簾の内の爪弾きは』

猪牙(ちょき)とは、細長い早船のこと。
荷足(にたり)はそのものズバリ、貨物船。

「竹谷と呼ぶ声に」、とは。
竹谷の渡しには「竹谷」という船宿があり、宣伝のため向こう岸から
大声で「たけやー!」と、呼び始めたところこれが大当たり。
次第に隅田川の名物となった。

屋根船


屋形船


猪牙船

都鳥

2010-08-19 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
131ー「都鳥」(1855・安政2年・市村座)


都鳥とは、ユリカモメの古典文学上の別称。
昔は隅田川にしか生息しなかったとかで
(鴨川で見かけるようになったのは、ほんの40年程前からだとか)、
都から来た旅人が必ずその鳥の名を聞いたそうな。 
都のつく鳥と知り、なお親しみを増したことだろう。


都鳥(ユリカモメ)

しかし、厳密にいうと”ミヤコドリ”という鳥は別にいる。
こちらも越冬のために渡来する鳥で、九州や東京湾などを餌場とする。


ミヤコドリ


『便り来る
 船の内こそ床しけれ
 君なつかしと都鳥
 幾夜かここに隅田川
 行き来の人に名のみ問われて
 花の影
 水に浮かれて面白や』

●首尾をして、あの人と逢う船の内、心がときめく。
 ああ、離れたくないこのままずっと。
 桜の影が水に映って面白いこと…

題名の”都鳥”にはもう一つの意味がある。

この狂言『桜姫東文章』に登場する、桜姫家の重宝、巻物の銘が”都鳥”だ。
この”都鳥”を、伊勢物語に出て来る歌、
「名にしおわば いざこと問わん都鳥 わが思う人はありやなしやと」
にかぶせ、都鳥を逢引きの女に見立てたところが、ミソだ。 

桜狩

2010-08-15 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
130-「桜狩」(嘉永年間・1848~54)

浅草寺の二天門をくぐって、左に行くと”奥山”というエリアに出る。
奥山は吉原への近道で、観音詣でを言い訳に
雷門から仲店通りを来た男は、二天門を抜けるや、
本堂を尻目に、ひょいと左にそれる。

射的・見せ物・茶屋・占い・かんざし・指物屋
などなどの誘惑をくぐり抜け、吉原へ一目散。

嘉永4年の春に、奥山に客寄せの桜が植えられた。
もちろん吉原仲の町形式に、「根ごして植えし初桜」
(山で育てた桜の木を、根のついたまま運んで植えること)だ。
この曲はそれを詠んでいる。

『其の昔 ありしも恋の手引き草
 誓いも深き奥山に
 根ごして植えし初桜
 色香を送る春風に
 馬道越えて通う駕
 三枚 四枚 衣紋坂
 はや大門と夕桜
 気高き花の装いに
 松の位の外八文字
 実にこの廓の春の宵』

●その昔、恋の手引き草というのがあったそうな。
 観音様のご利益深い奥山に、この春植えた初桜。
 花の色香に誘われて、馬道を越えて駕に乗る。
 超特急の早駕で、あっという間に衣紋坂、
 左に折れて、大門(おおもん)に着いた。
 桜の提灯に灯りがともり、まあなんとまぶしい花魁たちの装い。
 外八文字を踏むような、高級な遊女もいて、実に浮き立つ廓の春よ。 

三枚、とは駕かきの人数のこと。普通は二人でかくのだが、
急ぐ時は担ぎ棒の先に紐をつけて、一人が引っ張りながら走る。
四枚になると、引っぱり手が二人になり、両方の棒を引っ張る。
計四人で走るのだから、そりゃあ早いだろう。

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teea breaku・海中百景 
photo by 和尚 

君が代松竹梅

2010-08-14 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
129-「君が代松竹梅」(1843・天保14年・市村座)


この曲は、本名題を「松竹梅乙女舞振」という。
「松竹梅」と言う曲はいくつもあるので、混乱をさけるため、
唄い始めの歌詞、「君が代は 恵みかしこき高砂の…」を冠して、通称とする。

ちなみに、「室咲きの 梅の笑顔やとりどりに…」
で始まる「松竹梅」の通称は、「室咲きの松竹梅」という。

松竹梅だけに、お約束通りに”梅の名づくし”が登場する。

『梅の数々指折りそえて
 数え数うる 手鞠梅
 空ものどかに やり梅や
 着なす姿の 鹿の子梅
 まだいとけなき とりなりも
 小梅振りよき 八重梅の
 誰が袖ふれし 匂い梅
 包むに余る恋風に
 なびく心のしだれ梅
 咲き初めしより鶯の
 いつか来なれて ほの字とは
 離れぬ仲じゃないかいな』

●のどかな春の日、鹿の子の着物を着た女の子が、鞠つきあそびをしている。
 まだあどけないしぐさの中にも、いい女になりそうな気配が…
 いつか男に言い寄られ、恋をして離れぬ仲になるんだろうな。

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tra breaku・海中百景
photo by 和尚