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西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

勝三郎連獅子

2010-08-26 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
138-「勝三郎連獅子」(1861・文久元年)

”獅子の子落とし”というのがある。
強い子だけを残すために、
子獅子を谷に突き落として、その度量を試すという。

それを、河竹黙阿弥が書くとこうなる。

『かかる嶮岨の山頭より
 強臆ためす 親獅子の
 恵みも深き谷間へ
 蹴落とす子獅子は
 ころころころ
 落つると見えしが 身を翻し
 爪を蹴立てて 駆け登るを
 又突き落とし 突き落とす』
 
これも意訳の必要はないだろう。

この曲は、花柳寿輔の長男の、二代目芳次郎襲名披露に作られたもので、
芸の伝承の厳しさを、獅子の子落としになぞらえた。
寿輔が振り付けて、親子で踊った。
それまでの獅子物は、女形の踊りとして定着していたものを、
能装束の立ち役二人の踊りに演出したのは、この時が初めてだ。

以来、すっかりこのスタイルが定着したのだから、
この時の連獅子が、いかに衝撃的で斬新だったのかが分かるだろう。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

たぬき

2010-08-25 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
137-「たぬき」(1865・慶応元年)


正式名は「昔噺たぬき」という。
群馬県館林の茂林寺に伝わる、分福茶釜と、
「かちかち山のたぬき」の話を交ぜた、酔狂な曲。

『自体我らは 田舎の生まれ
 月に浮かれて 腹鼓
 打つやうつつの夢の世を
 狸寝入りか 
 あゝら不思議や
 忽ち広がる大金玉
 八畳敷を炉にかけし
 茶釜尻尾をオヤオヤ
 オヤオヤ振り立てて
 狸囃子の音につれて』

これは意訳の必要はないだろう。
長唄でこれほど、おふざけの過ぎる曲は他にない。
いたずら好きの杵屋勝三郎(2世)は、
さぞや楽しんでこれを作ったのだろうなあ。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

三曲糸の調その2

2010-08-24 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
136-「三曲糸の調」その2


胡弓という楽器は、何か物悲しい雰囲気を醸し出す。
ここに人生の無情感を持ってきたのは、効果満点。

『吉野 龍田の花紅葉
 更科 越路の月雪も
 夢と醒めては跡もなし
 仇し野の露 鳥辺野の煙は
 絶ゆる時しなし
 これが浮き世の真なる』

●奈良吉野の桜、龍田の紅葉、信州更科の月、越後越路の雪、
 古今無類の雪月花も、時が過ぎれば、跡形もなく消え去る。
 京の西、化野に捨て置かれた遺体にかかる草の露、
 東の鳥辺野には、荼毘の煙が絶えず。
 これが人というもの…

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

三曲糸の調その1

2010-08-23 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
135ー「三曲糸の調」その1
(作曲年代不詳・但し、1819年没の9代目杵屋六左衛門作曲)


平家の侍大将、悪七兵衛景清は、壇の浦の合戦で平家が破れた後、遁走。
都に潜み、頼朝殺害の機会を狙う。

一方、景清の行方を追う源氏方は、
景清の愛人、五条坂の遊女阿古屋を堀川問注所に連れ出し、詮議する。

知らぬ存ぜぬの一点張りの阿古屋に、役人は琴・胡弓・三味線の三曲を弾かせて
音に乱れがなければ放免させるという、音楽裁判に出た。

これが歌舞伎『壇浦兜軍旗』の三段目『阿古屋琴責め」だ。

『影と言うも 月の縁
 清しと言うも月の縁
 景清き名のみにて
 映せど 袖に宿らず』

●影といえば月の影、清しといえば月の光、いずれも我が袖に宿るのに、
 私の景清は名ばかりで、少しも留まりはしない。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

菖蒲浴衣

2010-08-22 | 長唄の歌詞を遊ぶ (c) y.saionji
134ー「菖蒲浴衣」(1859・安政6年)

この曲は題名のとおり、浴衣の宣伝ソングだ。
そしてこれは、芳村伊十郎(4世)の、5世伊三郎襲名に披露された曲でもある。
ゆえに、まずは襲名披露の挨拶を述べる。

『五月雨や 傘につけたる小人形
 晋子が吟もまのあたり
 己が換名を市中の
 四方の諸君に売り広む
 拙き業を身に重き』

●「五月雨や 傘につけたる小人形」と、
 其角が詠んだ俳句さながらの、今日の良き日、
 伊十郎改め、伊三郎となりますことを皆様にご報告いたします。
 家元名に恥じませぬよう、精進いたします。
 
作詞者は不詳だが、こういう洒落もいいものだ。

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚