みゆ希さんに言われずとも、アタシ達は・・・少なくともアタシは席を動けなかった。今日くらい感動したことはないよ。初めてコンサートというモノに行った時より、更に初めてユウジのコンサートに行った時より、今日の方がはるかに感動が大きい。なんでかな、招待されたから? もちろんそれもあるはずだけど、それだけじゃない気がする。でも、とにかくアタシはこれまでになく圧倒されていた。
それは総くんも同じだったみたい。初めて来たおばさんに至ってはもっとじゃないかな・・・。いつまでも余韻が残ってて、本当にアタシ達は動けなくなっていた。ああ・・・みゆ希さん、ありがとう・・・。今、アタシこれ以上ないくらい幸せな気がします!! ついでの付き添い・・・てか、付き添いのオマケのアタシがこんなに堪能していいのでしょうか・・・。
でも、後から思えばこんなのまだまだ序の口だった。この先もっと怒涛の展開が待っていようとは、アタシは露ほどにも思っていなかった。そう、それは・・・いい意味でも、悪い意味でも・・・。
気がつくと、他のお客さんは引き上げた後。会場の係員の人たちが忘れ物や落とし物をチェックしながら座席の間を通り抜けていく。ここまで来てアタシはやっとリアルに帰って来た気がする。でもまだ茫然としたまま、あたりを見回した。と、ステージの下座、一番左端の幕の影からみゆ希さんがひょっこり顔を出した。あたりを確かめてから、アタシ達に向かって手を振る。どうやら他のお客さんが誰もいないことを確かめていたみたい。それから姿を現して、ステージからするりと降りてきた――その後ろに・・・男性一人を伴って。
「リョウちゃん、みなさーん、お待たせしちゃってごめんねえ~!!」
みゆ希さんは叫びながら早足で上がってくる。係員の人たちはチラッとみゆ希さんの方を向いたが、聞かされていたのかどうか、すぐに黙々と自分の仕事を続けた。みゆ希さんの後をついて、その男性も軽い足取りで上がってくる。
「みゆ希さ~ん!」
と、アタシも手を振り返して、やっと席を立って彼女を迎えた。
「ありがとう、みゆ希さん! すっごく楽しかった・・・。」
アタシは言いかけて・・・その人を見て凍り付いてしまった・・・。その人、みゆ希さんの後を追ってついてきたその人・・・。うそっ!!!!!!!!!!!!!! ま、ま、ま、まさか・・・!!!!!!!!!! まさかの・・・・まさかの・・・・まさかの!!!!!
「そりゃ~よかった!! 紹介するね、これがユウジだよ~! ホンモノだぞ! ナマユウジ!!」
うそおおおおお――――――――――――――――――!! ホントにホントのユウジだあああ・・・!!しかも素顔の、グラサンかけてない・・・・す、す、す、素敵すぎる・・・・・!! 間近で見ると・・・やっぱオーラすっごい、パネエ、うわああ・・・・。
アタシは一瞬めまいがして気が遠くなりそうになっていた・・・・・。
ああああああ・・・・・、う、嬉しすぎるよ、もうアタシどうなってもいい・・・・と、はしゃぎそうなアタシは次のセリフでこけそうになった・・・ていうか、別の意味で気が遠くなりそうになってしまった・・・。
「ヒッデーなあ、みゆ希姉。その言い方キショイよ~。人をナマゴミみたいにさあ。」
・・・・・あれ。・・・今のセリフ誰が言ったの?
「ヤハハハ、ゴメンゴメン!」
「ど~も。このたびは快くワタクシの招待をお受けくださって痛み入ります。ご堪能いただけましたでしょうか? まあ、良かったに決まってるだろうけど~。」
・・・・はい~?・・・
「てか、君が涼香ちゃん? みゆ希姉から聞いてたけど、可愛いねえ! 予想よりはるかにイケてるわ。君ならアイドルで売ってもいいかもよ、あ~、でもハタチ過ぎてんだっけ。惜しいなあ~! やっぱ十代でないとキツイかな。」
すみません・・・てか誰?
「ユウくん!! やめなさい! セクハラ発言よ、それ!!」
「あ~ん、みゆ希姉ってば、ちょっとしたウエルカムジョークじゃん。ごめんねえ、涼香ちゃん。ちょっとオレってば調子こきすぎ?」
こ・・・こ・・・これが・・・ユウジ?! マジで? なんてゆうか・・・・軽っ!!!!! この人軽うっ!!
「軽薄に見えるからやめなさいっつってるでしょ!!」
と、みゆ希姉様は彼の頭をはたいた・・・。
「あいたっ!」

「まったくアンタときたら黙ってればイケメンなのに、喋ると超軽いんだから、もうちょっと口の利き方に気をつけなさいよね! ゴメンね、リョウちゃんたち、コイツこういう奴なのよ、残念なイケメン。根は悪い奴じゃないって言うか・・・まあ・・・バカじゃないんだけど・・・・バカだし。」
「みゆ希姉、ソレどっちよ・・・。」
「だからコンサートとかでは喋んないの。喋ったらボロッボロだから。」
ユウジは・・・あ、いや、“さん”つけなきゃ失礼だよね、ユウジさんはみゆ希姉を軽く睨んだけど、こっちへ向き直ってニッコリすると今度は低めの落ち着いた声で
「どうもいきなり失礼しました、根が正直なもんで。あー・・・ライブ直後なんでテンション上がってるのと声が少々ハスキーになってるけど勘弁してね。本当に今日はようこそいらっしゃいました。涼香ちゃん、改めてありがとう。それから山科くんだっけ? それとそのご母堂?」
と、ユウジさんはおばさまの方へ紳士然として胸に手をあてて恭しくお辞儀をした。

「お目にかかれて光栄に存じます、マダム。お元気でしたか? お楽しみいただけましたでしょうか?」
「ええ、とっても! ありがとうございました。私までご招待いただけるなんて、こちらこそ光栄です。本当に嬉しかった・・・。素晴らしかったですわ。心から楽しみました。本当にありがとうございました。」
おばさんは心底感動し、感心した顔で満面笑ってそう返す。おお・・・さすがオトナは違う! て・・・あれっ?
「お気に召しましたなら幸いです。」
ユウジさんは目を細めて優しく微笑んだ。・・・あれれ・・・。今しがたまでの軽薄さがウソみたい・・・。この人、いったい・・・。それに・・・。なんだろう、なにか違和感が・・・。
アタシの小さな疑念をスルーして、彼は、不安とか嬉しさとか戸惑いとか安堵とかごちゃ混ぜになったようなフクザツな顔をしている総くんの前に膝を折ってかがみこんで、まっすぐ総くんを見つめて
「伺いましたよ、事故にお遭いになったそうで・・・大変でしたね。もうだいぶおよろしいので?」
「あ・・・はあ・・・、まあ・・・。あの・・・ありがとう・・・ございます。」
総くんはしどろもどろで頷いた。いろんな意味で無理ないけど・・・。
「どうかくれぐれもお大事に。」
と、そこで立ち上ったユウジさんはさっきの軽薄な?口調に戻って、総くんに意地悪く
「たく! お袋さんに心配かけちゃいけねーぞ! オレもクソ親父はともかくお袋だけは大事にしてんだかんね! このオレを見習いたまえ!」
「だーかーらー!! やめなさいっていってんでしょ!! 何回言えばわかるの、バカユウジ!! なに上からエラソーな口利いてんのよ! やっぱバカよ、あんたは!」
と、みゆ希姉様はまた彼の頭をはたいた・・・。
「あいてっ!!」
・・・これはデジャヴじゃないよね・・・。
・・・TO BE CONCLUDED.