「…やれやれ、俺はホントに八方美人だね、みんなとうまくやりたいし仲良くしたいんだよ。みゆ希を仲間に入れることには賛成してくれたんでしょ? つまり増員でしょ? メンバーチェンジじゃないよね。だから涼香はずっといてくれるよな…。それともそこまで期待するのはまたもっと重いものを背負わせてしまうことになるのかな…。」
「……うう…だから店長なんて大っ嫌いだって言うんですよお…。たった今は大嫌いだけど…大好きでしたよ…。もう、過去形にしてやるんだ!」
涼香は泣き笑いの顔になってそういうと俺をにらみつけた。
「アタシだからいいけど…みゆ希さん泣かせたら…殺しますよ!」
「ああ、はい! 気をつけます!!」
「きっとですよ…。」
「うん、きっと。」
涼香はあふれかけた涙を拭って、なんとか笑ってくれた。だから俺は顔の高さに手を挙げて涼香に向けた。
「なんですか…?」
「んー、イヤ、なんとなく。握手。」
「もう……しかたないなあ~。確かにアタシがいないとこんな店三日で潰れちゃいますもんね!」
「うん、だから頼むな。」
涼香は憎まれ口を叩いて俺の手をぐっと握った。恨みがこもっているのか?痛いほどに。それから俺に急に抱きついてきて…俺の肩で泣き出した…。
「涼香…。」
「ちょっとだけ…借りてもいいでしょ?! ちょっとだけだから!!」
「うん。…ホントにごめんな。ありがとう。」
俺は涼香の頭を軽く抱えた。

「だから、用がないなら戻ってちょうだい。俺一人であのメンツの面倒は見れないよ、手伝ってくれないと。お前がいなきゃホントダメだね。」
涼香は黙って――でもしっかりと頷いてくれた。
その後はまた酒もないのに小宴会になり、一応みな機嫌よく帰って行った。もちろん涼香も戻って手伝ってくれた。しっかり機嫌も直して、元気に明るく。ホントにいい子だよ、この子は…。みゆ希とも仲良くなってもはやマブダチのノリ。このノリの良さが涼香のいいところだ。もちろん、ノリではみゆ希はそれ以上だけど…少々大人気ないのが俺は気にならんでもないのだが…。
そのみゆ希も上機嫌で帰って行った。したがって勝負パンツはお預けだ。イヤイヤイヤ、いくらなんでも、まだ俺はそこまではするつもりはないよ?! 嫌じゃないけど、全然!! …だからオトナってのはメンドくさい。好きなだけではダメなのだ。責任ってもんがある。遊びとかじゃないなら余計に。
片付けもすんだらもう結構な時間になった。いろんな意味でとんだ定休日だったな。よかったといわなきゃならないんだろうけど、正直マジ疲れた…。
「さて、明日もあることだし、さっさと寝るか、今日は。」
「井上さん、先に休んでください。あと僕がやっときますから。」
清司がそう言ってくれた。
「ああ、でもまあ大丈夫だよ。」
「すみません、井上さん。…あなたの方が僕よりずっと大変な目にあってきて、たくさん辛い思いしてきたのに、助けて貰ってるの僕の方ばかりで…なんか、何も役に立ててなくて…。」
「ん? そんなことないぜ? いろいろやってくれてるでしょ。助かってるよ、俺は。」
「そんな…。」
「それにな…今日俺が今まで話せなかったことが話せたのも、みゆ希のお陰ももちろんあるけど、お前のお陰でもあるんだよ。」
「え? 僕は何もしてませんけど…。」
「う~ん、なんていうのかな…前にも言ったけど、お前と俺とはなんか、どっか似てるんだよ。やって来たこととか、立ち位置みたいのが。急に兄弟が見つかったってことまでそっくりでしょ?そうするとさ…お前は俺自身を映す鏡みたいっていうのかな? 自分を見ている気になるんだ。そうやって外側から自分を見てるとさ…いいかげん俺もトラウマをこえなきゃならないなって思ったりしてな…。過去に負けてちゃ悔しいし。そう思えたんでさ、とっさに…ホントにいち刹那で腹くくった。この際喋っちゃおうって。」
「………。」
「だからお前にも世話になったよ。直接的ではないかもだけど。その上話聞いてくれたしさ、感謝してるよ、ホント。」
「はあ…でも、僕はやっぱり何にもしてませんけど…。」
清司は相変わらず恐縮するような顔だ。具体的に何の行動もしていないと言いたいんだろう。
「ははっ、まあ、あくまでそう言うんならこれから出来ること見つけて何でもいくらでもやってちょうだい。とにかく今日はもう休もうぜ。眠いわ。」
「はい。だから後は僕がやっときますから、井上さんは先に休んでくださいって。」
「わかった。じゃあ、そうさせてもらうよ。先、風呂入ってこよう。」
俺は笑って浴室へ向かった。
翌日は朝からいつもどおりの平常営業。かなり冷え込んでいる。さすがにもうすっかり冬だ。9時に開店して、しばらくしたら毎朝の散歩とその途中のコーヒーを日課にしている湯里さんと沖本さんがあいついでやって来た。
「おはよう、いやあ、寒い寒い!! カズちゃん、早いとこあついの入れてくれや! すっかり冷えちまった。冬だねエ、もう。」
「ふう…あったかいとこはいるとホッとするねえ。」
「おはようございます。ちょうど出来たところだから、すぐお出ししますよ。そろそろ来られると思ったし。」
ミンツをくわえてそう答えた俺は、二人の方へちょっとはにかんだ(と、自分で思う)笑みをむけた。湯里さんが気づいて言った…。
「??? あっれえええ?! カズちゃん、あんた、その目! どーしたの?!」
ついで沖本さんも
「目? おやああ?! こいつは驚きだ! どしたの?! え? 左目だけ青いぞ??」
「すみません、ずっと隠してましたが、これが私の本当の目なんですよ。」
そう…カラーコンタクトはもう必要ない…。

CHAPTER 9 END
「……うう…だから店長なんて大っ嫌いだって言うんですよお…。たった今は大嫌いだけど…大好きでしたよ…。もう、過去形にしてやるんだ!」
涼香は泣き笑いの顔になってそういうと俺をにらみつけた。
「アタシだからいいけど…みゆ希さん泣かせたら…殺しますよ!」
「ああ、はい! 気をつけます!!」
「きっとですよ…。」
「うん、きっと。」
涼香はあふれかけた涙を拭って、なんとか笑ってくれた。だから俺は顔の高さに手を挙げて涼香に向けた。
「なんですか…?」
「んー、イヤ、なんとなく。握手。」
「もう……しかたないなあ~。確かにアタシがいないとこんな店三日で潰れちゃいますもんね!」
「うん、だから頼むな。」
涼香は憎まれ口を叩いて俺の手をぐっと握った。恨みがこもっているのか?痛いほどに。それから俺に急に抱きついてきて…俺の肩で泣き出した…。
「涼香…。」
「ちょっとだけ…借りてもいいでしょ?! ちょっとだけだから!!」
「うん。…ホントにごめんな。ありがとう。」
俺は涼香の頭を軽く抱えた。

「だから、用がないなら戻ってちょうだい。俺一人であのメンツの面倒は見れないよ、手伝ってくれないと。お前がいなきゃホントダメだね。」
涼香は黙って――でもしっかりと頷いてくれた。
その後はまた酒もないのに小宴会になり、一応みな機嫌よく帰って行った。もちろん涼香も戻って手伝ってくれた。しっかり機嫌も直して、元気に明るく。ホントにいい子だよ、この子は…。みゆ希とも仲良くなってもはやマブダチのノリ。このノリの良さが涼香のいいところだ。もちろん、ノリではみゆ希はそれ以上だけど…少々大人気ないのが俺は気にならんでもないのだが…。
そのみゆ希も上機嫌で帰って行った。したがって勝負パンツはお預けだ。イヤイヤイヤ、いくらなんでも、まだ俺はそこまではするつもりはないよ?! 嫌じゃないけど、全然!! …だからオトナってのはメンドくさい。好きなだけではダメなのだ。責任ってもんがある。遊びとかじゃないなら余計に。
片付けもすんだらもう結構な時間になった。いろんな意味でとんだ定休日だったな。よかったといわなきゃならないんだろうけど、正直マジ疲れた…。
「さて、明日もあることだし、さっさと寝るか、今日は。」
「井上さん、先に休んでください。あと僕がやっときますから。」
清司がそう言ってくれた。
「ああ、でもまあ大丈夫だよ。」
「すみません、井上さん。…あなたの方が僕よりずっと大変な目にあってきて、たくさん辛い思いしてきたのに、助けて貰ってるの僕の方ばかりで…なんか、何も役に立ててなくて…。」
「ん? そんなことないぜ? いろいろやってくれてるでしょ。助かってるよ、俺は。」
「そんな…。」
「それにな…今日俺が今まで話せなかったことが話せたのも、みゆ希のお陰ももちろんあるけど、お前のお陰でもあるんだよ。」
「え? 僕は何もしてませんけど…。」
「う~ん、なんていうのかな…前にも言ったけど、お前と俺とはなんか、どっか似てるんだよ。やって来たこととか、立ち位置みたいのが。急に兄弟が見つかったってことまでそっくりでしょ?そうするとさ…お前は俺自身を映す鏡みたいっていうのかな? 自分を見ている気になるんだ。そうやって外側から自分を見てるとさ…いいかげん俺もトラウマをこえなきゃならないなって思ったりしてな…。過去に負けてちゃ悔しいし。そう思えたんでさ、とっさに…ホントにいち刹那で腹くくった。この際喋っちゃおうって。」
「………。」
「だからお前にも世話になったよ。直接的ではないかもだけど。その上話聞いてくれたしさ、感謝してるよ、ホント。」
「はあ…でも、僕はやっぱり何にもしてませんけど…。」
清司は相変わらず恐縮するような顔だ。具体的に何の行動もしていないと言いたいんだろう。
「ははっ、まあ、あくまでそう言うんならこれから出来ること見つけて何でもいくらでもやってちょうだい。とにかく今日はもう休もうぜ。眠いわ。」
「はい。だから後は僕がやっときますから、井上さんは先に休んでくださいって。」
「わかった。じゃあ、そうさせてもらうよ。先、風呂入ってこよう。」
俺は笑って浴室へ向かった。
翌日は朝からいつもどおりの平常営業。かなり冷え込んでいる。さすがにもうすっかり冬だ。9時に開店して、しばらくしたら毎朝の散歩とその途中のコーヒーを日課にしている湯里さんと沖本さんがあいついでやって来た。
「おはよう、いやあ、寒い寒い!! カズちゃん、早いとこあついの入れてくれや! すっかり冷えちまった。冬だねエ、もう。」
「ふう…あったかいとこはいるとホッとするねえ。」
「おはようございます。ちょうど出来たところだから、すぐお出ししますよ。そろそろ来られると思ったし。」
ミンツをくわえてそう答えた俺は、二人の方へちょっとはにかんだ(と、自分で思う)笑みをむけた。湯里さんが気づいて言った…。
「??? あっれえええ?! カズちゃん、あんた、その目! どーしたの?!」
ついで沖本さんも
「目? おやああ?! こいつは驚きだ! どしたの?! え? 左目だけ青いぞ??」
「すみません、ずっと隠してましたが、これが私の本当の目なんですよ。」
そう…カラーコンタクトはもう必要ない…。

CHAPTER 9 END