ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER 5  PART.3

2010年08月05日 12時58分40秒 | 創作小品
 あれは8年前…の冬のこと。
 俺はちょっとした目的があって、そのころ住んでいた横浜から長野県の佐久市を目指していた。素直にJRの最寄り駅から路線バスかなんかで佐久市内の目的地に行けばよいものを、経費節減をめざした俺は駅からそこへ歩いて向かった。路線バスの便数がほとんどない上に目的地までは乗り継ぎをしなくてはならず、更に運賃もバカにならなかったし、30kmくらいなら半日かければなんとか行けるだろう…などタカをくくったのが間違いだった。
 30キロは都会の30キロではない。寒さ対策は一応しっかりしてきたつもりだったが、寒さプラス高さを甘く見ていた。主に都会で育った俺には、路線バスが片道数時間の道のりを行くこともあるとか、雪国では路線バスが普通に高い山やスキー場を回ることもあるとかいうことを見逃していた。その少し前までいろんなところを旅してまわっていたくせに、である。いや、旅では一日30キロを歩こうとしたことなどなかったせいだ。
 ともかくその30キロの半ば、予想外の高地へ来て、疲れ果てたところに吹雪がやってきてしまったのだ。山の天候はかわりやすい。麓で晴れてても、ちょっとした風向きで吹雪くことも珍しくはない。このまま歩き続けるのは無理があったし、引き返すにも遠すぎる。それでも万一を考え、その日のうちに山を越えられなかったら途中で避難する場所は見当をつけてあったので、とにかくそこを目指してぎりぎりの状態で歩いて行った。
 それはその路線沿いに開発されていたスキー場の近くの避難小屋だった。車でも何でも山越えをしようとして途中立ち往生した人が避難できるように建てられた小屋で、路線からは少し山へ入ってはいたが、さほど遠くはなく、行き倒れはなんとか免れた。
 われながらちょっと無茶をしてしまったと反省しつつその小屋に入ると、中は10畳ほどのログハウス。真ん中にストーブが置いてあり、灯油も満タンで入っていた。簡単なキッチンに保存食も備え付けてあるし、もちろん暖かい毛布も用意されていた。俺はとにかく急いでストーブを点火し、すぐに食べられそうな保存食と飲み物をいただいて毛布をかぶって火にあたった。
 とにかく寒かった。寒さはそれだけで体力を奪っていく。ましてやここまで何時間も歩き続けて俺はへとへとになっている。いちど座り込んでしまうと立ち上がるのがものすごく億劫になっていた。
 そうだ、ストーブにやかんをかけよう…。そう考えて俺は立ち上がろうとしたが、なんだかからだがものすごく重い。ようやっと立ち上がってやかんに水を汲んで手に持ったら、これまたものすごく重い。ストーブの天板にガチャンと置いたら、なんだかふらついてへたりこんでしまった。そんなに疲れたかな…と思ったら、今度はめまいがして倒れるように横になってしまった。
 暑い…。寒気がするのに暑い。ああ、そうか、熱があるんだ…。こんなところで…。やばい、こんなところで寝込むようなことになるなんて…。ここにいれば少なくとも凍死はしないだろうけど、ずっといるようなところでもない。くそ、明日の朝には下がっててくれよ…。そう今は祈るしかない。一応目的地には、到着が一日遅れるかもしれないことを事前に知らせてあったので、そちらの方は気にしなくて良かった。明日になれば何とかできるだろう…。
 だけど、ひとりでそんなところで熱を出して倒れているとものすごく不安になってきた。ひとりでいるのは慣れているはずなのに、何故か心細い。不安だ。体調が悪いからか、人里はなれた隔絶した場所だからか…。何だか世界で一人きりのような気にまでなってくる。ひとりとり残されたような焦燥感さえつのってくる。
俺は急にものすごく恐くなって毛布を頭からかぶった。こんなところにひとりきりでいると魑魅魍魎に襲われそうな気すらしてくる…。百鬼夜行…飛天魔軍――ヴェーテンデスヘール――それが見えてきそうな異常な精神状態…。熱があるから余計ひどい…。体力と気力の限界が迫っているような、そんな追い詰められた極限状態に俺はいるような気がした…。
 その時、それを吹っ飛ばす勢いで誰かが飛び込んできた。雪まみれのその人は俺のそのときの感傷じみた心細さを吹っ飛ばしてあまりある変なオーラをまとっていた。なにしろ開口一番言った言葉が
「うっわああ~。めっちゃぬくいやんか~!! 生き返ったわあ~!」
イヤ…とても死んでいたようには思えないんだけど…。ベタベタの関西人か…。
「あ、すんません、お邪魔します~! あ~さぶっ、はよぬくもらしてもらお!」
な…なんて元気なんだ…。避難してくる遭難寸前の人間とは思えない。俺は少しだけからだを起こした。
 何か派手な女だ…。イヤ、化粧じゃなくて(化粧もだけど)キャラ的に。
「あ~、ぬく! すいません、部屋ぬくめてくれてはってんね。ありがと~。」
「いや…。」
あんたのために、じゃないんだけどな…。
 俺はさすがに頭は出してその人に向き直った。途端に彼女はマジ顔になった。
「ちょっと、アンタどないしたん? めっちゃ顔赤いし、眼が死んでるで? ごっつしんどいんちゃうん?」
いいながら這い寄ってきて手袋をはずすと俺の額に手をあてた。凄く冷たい。そして
「めっちゃ熱あるやないの! ちょお待ちや、こういう時はちゃんと寝た方がええよ。こういうとこは毛布がいっぱい置いてあるはずやから…、と。」
 彼女は小屋の押入れから数枚の毛布を出してきて、床に何枚か広げて重ねた。
「んで、アンタ…名前は?」
いきなり名前を聞いてきた。なんだ、このヒト…。メンドそうな人だ。俺が黙っていると
「名前! めんどくさいし覚えられへんから下の名前だけでええわ。あ、ウチから名乗るべきやんなあ。マキでええよ。で、あんたは?」
答えなければかえってややこしそうだ。ああ、まったくメンドくさい…。言えばいいんだろ、言えば…。
「和行だ…。」
「カズユキ? 長いなあ。」
ほっとけよ! 失礼な奴だな~! だいいち俺がつけたんじゃないっつーの!
「カズでええな。」
もう…勝手にしてくれ…。
「ほんならカズ、ちょっと上脱ぎ! 寒気するんやろうけど、そんなごっついのん着んほうがええ。熱が下がりだす時汗かくからな、そのときごついの着てたらたいへんやからな。で、ココへ寝ぇ。」

・・・TO BE CONNTINUED.

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