テツが言うには『みゆ希のおかげ』――それはそうかも知れないが、もしアイツ(も、あえてアイツ呼ばわりする!)がここへ偶然来るようなことがなかったとしても、遅かれ早かれ清司は自分の双子の兄貴と巡り会えていたように思う。それが幾分早まったのは確かだが、だからってそんなに感謝ってほどでもないのでは、と俺は思う。
それに今のところ俺自身の身の上というか生活には、あの突レポはさほどの影響はなかったと言える。三上君のことは清司には大きな出来事だったけど、俺は直接関係があるわけではないんだし。
まあ、あのあと若干常連客に冷やかされたり、そうじゃない客にも尋ねられたりはしたけれど、それはそれだけで大したことではない。
だもんで、それでまたそれまでの日常の生活に戻るだけだと思っていたのだけれど…ところが突レポの余波はまだまだ続いた。というか、実はこれからが本番だったようだ。そう、もっと大きな波が来たのだ。生活を一変するほどのものではないけど、俺のなかでくすぶっていて完結していなかったことがまず一つ片付くようなことが起こった。
結論から言えば、それはありがたいことではあるのだけどな…。
その人はある夜にやってきた。
喫茶店に誰かが訪れるのはあたりまえのこと。客が来てこそ成り立っている。だが、その客が珍しい訪問客で、しかもそれが続くと『なんかそういうわけありな人が集まる店』になってしまう。清司と三上君がまずその例。まあ、もともと俺もそうだったかもしれない。
そしてそう、またまたワケありな人がやって来た。
夜の7時半ごろか、涼香はもちろんまだいたし、他の客も何人かいた。そろ~っとドアが開き、涼香がそっちへ
「いらっしゃいませ~。」
と、明るい声を上げて、俺もそっちに向いて――でも俺はその客に声を掛ける暇をもらえなかった。その客は俺を見るなり
「あああああ~~~~!!」
と、驚きの?声を上げた。そしてわなわなと震えながら入ってきて、俺をまっすぐ指差して(失礼じゃね?)まだ続けた。
「あ・あ・あ・あ………あの、あの、あのお~!!!」
見れば結構派手な女性。歳はアラサーといったところかな? イヤ、なんか歳はちょっとわかりにくい。そこそこ美人だけど、どっかスレた感じ。とにかく化粧が濃い。お水系だろうな、たぶん。俺のような天然茶髪とは明らかに違うキンキン茶…イヤ、これは金髪というべし。んん~、見たことあるような…ないような…。化粧が濃くってよくわからないな。涼香はじめ清司もほかの客も何事かと固唾を呑むようにこっちを見ている…。
彼女は他には目もくれず、俺のことを試すような上目遣いで見てこわごわ
「……カズ?」
と言った…。あれ、俺を知ってる? それもちょっと親しかった?
「あ…?ああ…。」
俺は慎重に少しだけ頷いて肯定した。見る見るうちに彼女は相好が崩れて…
「あああああ~~~~!!!!」
とわめきながら何故か俺に向かって突進して飛びついて抱きついた!!
「ちょ…!! えっ? 何?? あのっ!!」
「ててて店長おおおっ!! 何やってんですかあ、いったい!」
涼香の悲鳴みたいな声が上がる。イヤ、悲鳴を上げたいのは俺の方なんだけどね!! もちろん清司や他の客の唖然とした表情は推して知るべし。
俺はあわててその女を引っぺがそうとしながら叫ぶように言った。
「ちょっと! 何ですか、いきなり! やめてください!」
が、彼女はめげずにこう言った。
「生きてた、生きてたんや~!! 良かったあ、カズ生きてたんやあ!!」
え? この…関西弁は…。
俺は彼女の肩をつかんで強引に引っぺがし、その顔をもう一度じっくり確かめた。あ…あれ? 確か…このヒトは…。
「……ひょっとして…マキ…?」
「そうや…。そうやで! わあ~! よかったあ!やっぱりカズやあ!」
そうわめいてまた俺にしがみついた。皆の、特に涼香の視線が痛い気がする…。
「わ、わかった! わかったからちょっと離れて! みんなガン見してるし!!」
「ほえ?」
ようやく彼女――マキは周りを見渡して…自分たちを呆然と見つめる目に気づいた。それでやっと離れるとあっけらかんとして笑った…。
「ああ、ごめんごめん! つい嬉しくて…。あははははは…。」
照れ笑いをするが今更遅いって…。
「とりあえず…そっちへ座ってくんない?」
「ああ、せやな。あ~参ったわ~。」
参ったのは俺の方だよ…。マキはそれでも素直にカウンターを回って俺の正面の席についた。
「それにしてもホンマにカズなんやねえ~! 10年…もたってへんか、8年ぶりくらい?」
「ああ、そんなもんだな…。でも、なんで? 偶然じゃないよね?」
「ふん。こないだココテレビ映ってたやん? 寝起きにアレたまたま見ててさあ。」
ああ…見たのか、アレ。こんなところで影響が出てくるとは…なんともはや。て…、んん? 寝起き? 何時に起きてんだ。あのコーナー確か夕方の4時ごろだぞ。
「うわ!うそ!アレカズちゃうのんっ!!ってなって…。でも確信はあれへんしな~、他人の空似かなあとかいろいろ考えてんけど、人違いやったら人違いで納得できると思うてや、とにかく確かめとかんとって思て。んで、来てみてん! ほなやっぱりカズやんか~!! もう嬉しいわあ~。めっちゃ嬉しい!! あ、コーヒーもらおか。」
「あ、ああ…。相変わらずそうだな。」
俺は苦笑するしかなかった。ああ、これこそみゆ希のおかげ…てことになるのかな…。
そこで涼香が近づいて来て
「あの、店長のお知り合いですか…?」
と、不信感丸出しで聞いてきた。
「ああ、まあ、昔ちょっとな…。」
と、答える俺の後をついで、マキはイタズラっぽく笑うと。
「あ~んなこととか、こ~んなこととかした仲やねん!」
と言った…!
「え? そうなんですか…??」
涼香はますます不審そうに…ていうか見損なった視線を俺に投げかける。
「違う違う! そんな、何もしてないって!!」
「いやあん、誤魔化さんとって! 雪山の山小屋で…ほらあ~!」
「て…店長?」
「違う! ホントに何もないよ!」
俺は必死に抗弁するが、マキは面白がってるんだ、それを肯定しようとしてくれない。
「何もないことなかったやんか~。雪山で遭難しかけてあの小屋でふたりで…。雪山、遭難、避難小屋ときたら当然のお約束や! 外は吹雪、お互いの体温で…」
「してないだろーが!! 一晩二人で過ごしただけだ!! て、……あ……。」
墓穴を掘った…。
「店長、やっぱり…。」
・・・TO BE CONNTINUED.
それに今のところ俺自身の身の上というか生活には、あの突レポはさほどの影響はなかったと言える。三上君のことは清司には大きな出来事だったけど、俺は直接関係があるわけではないんだし。
まあ、あのあと若干常連客に冷やかされたり、そうじゃない客にも尋ねられたりはしたけれど、それはそれだけで大したことではない。
だもんで、それでまたそれまでの日常の生活に戻るだけだと思っていたのだけれど…ところが突レポの余波はまだまだ続いた。というか、実はこれからが本番だったようだ。そう、もっと大きな波が来たのだ。生活を一変するほどのものではないけど、俺のなかでくすぶっていて完結していなかったことがまず一つ片付くようなことが起こった。
結論から言えば、それはありがたいことではあるのだけどな…。
その人はある夜にやってきた。
喫茶店に誰かが訪れるのはあたりまえのこと。客が来てこそ成り立っている。だが、その客が珍しい訪問客で、しかもそれが続くと『なんかそういうわけありな人が集まる店』になってしまう。清司と三上君がまずその例。まあ、もともと俺もそうだったかもしれない。
そしてそう、またまたワケありな人がやって来た。
夜の7時半ごろか、涼香はもちろんまだいたし、他の客も何人かいた。そろ~っとドアが開き、涼香がそっちへ
「いらっしゃいませ~。」
と、明るい声を上げて、俺もそっちに向いて――でも俺はその客に声を掛ける暇をもらえなかった。その客は俺を見るなり
「あああああ~~~~!!」
と、驚きの?声を上げた。そしてわなわなと震えながら入ってきて、俺をまっすぐ指差して(失礼じゃね?)まだ続けた。
「あ・あ・あ・あ………あの、あの、あのお~!!!」
見れば結構派手な女性。歳はアラサーといったところかな? イヤ、なんか歳はちょっとわかりにくい。そこそこ美人だけど、どっかスレた感じ。とにかく化粧が濃い。お水系だろうな、たぶん。俺のような天然茶髪とは明らかに違うキンキン茶…イヤ、これは金髪というべし。んん~、見たことあるような…ないような…。化粧が濃くってよくわからないな。涼香はじめ清司もほかの客も何事かと固唾を呑むようにこっちを見ている…。
彼女は他には目もくれず、俺のことを試すような上目遣いで見てこわごわ
「……カズ?」
と言った…。あれ、俺を知ってる? それもちょっと親しかった?
「あ…?ああ…。」
俺は慎重に少しだけ頷いて肯定した。見る見るうちに彼女は相好が崩れて…
「あああああ~~~~!!!!」
とわめきながら何故か俺に向かって突進して飛びついて抱きついた!!
「ちょ…!! えっ? 何?? あのっ!!」
「ててて店長おおおっ!! 何やってんですかあ、いったい!」
涼香の悲鳴みたいな声が上がる。イヤ、悲鳴を上げたいのは俺の方なんだけどね!! もちろん清司や他の客の唖然とした表情は推して知るべし。
俺はあわててその女を引っぺがそうとしながら叫ぶように言った。
「ちょっと! 何ですか、いきなり! やめてください!」
が、彼女はめげずにこう言った。
「生きてた、生きてたんや~!! 良かったあ、カズ生きてたんやあ!!」
え? この…関西弁は…。
俺は彼女の肩をつかんで強引に引っぺがし、その顔をもう一度じっくり確かめた。あ…あれ? 確か…このヒトは…。
「……ひょっとして…マキ…?」
「そうや…。そうやで! わあ~! よかったあ!やっぱりカズやあ!」
そうわめいてまた俺にしがみついた。皆の、特に涼香の視線が痛い気がする…。
「わ、わかった! わかったからちょっと離れて! みんなガン見してるし!!」
「ほえ?」
ようやく彼女――マキは周りを見渡して…自分たちを呆然と見つめる目に気づいた。それでやっと離れるとあっけらかんとして笑った…。
「ああ、ごめんごめん! つい嬉しくて…。あははははは…。」
照れ笑いをするが今更遅いって…。
「とりあえず…そっちへ座ってくんない?」
「ああ、せやな。あ~参ったわ~。」
参ったのは俺の方だよ…。マキはそれでも素直にカウンターを回って俺の正面の席についた。
「それにしてもホンマにカズなんやねえ~! 10年…もたってへんか、8年ぶりくらい?」
「ああ、そんなもんだな…。でも、なんで? 偶然じゃないよね?」
「ふん。こないだココテレビ映ってたやん? 寝起きにアレたまたま見ててさあ。」
ああ…見たのか、アレ。こんなところで影響が出てくるとは…なんともはや。て…、んん? 寝起き? 何時に起きてんだ。あのコーナー確か夕方の4時ごろだぞ。
「うわ!うそ!アレカズちゃうのんっ!!ってなって…。でも確信はあれへんしな~、他人の空似かなあとかいろいろ考えてんけど、人違いやったら人違いで納得できると思うてや、とにかく確かめとかんとって思て。んで、来てみてん! ほなやっぱりカズやんか~!! もう嬉しいわあ~。めっちゃ嬉しい!! あ、コーヒーもらおか。」
「あ、ああ…。相変わらずそうだな。」
俺は苦笑するしかなかった。ああ、これこそみゆ希のおかげ…てことになるのかな…。
そこで涼香が近づいて来て
「あの、店長のお知り合いですか…?」
と、不信感丸出しで聞いてきた。
「ああ、まあ、昔ちょっとな…。」
と、答える俺の後をついで、マキはイタズラっぽく笑うと。
「あ~んなこととか、こ~んなこととかした仲やねん!」
と言った…!
「え? そうなんですか…??」
涼香はますます不審そうに…ていうか見損なった視線を俺に投げかける。
「違う違う! そんな、何もしてないって!!」
「いやあん、誤魔化さんとって! 雪山の山小屋で…ほらあ~!」
「て…店長?」
「違う! ホントに何もないよ!」
俺は必死に抗弁するが、マキは面白がってるんだ、それを肯定しようとしてくれない。
「何もないことなかったやんか~。雪山で遭難しかけてあの小屋でふたりで…。雪山、遭難、避難小屋ときたら当然のお約束や! 外は吹雪、お互いの体温で…」
「してないだろーが!! 一晩二人で過ごしただけだ!! て、……あ……。」
墓穴を掘った…。
「店長、やっぱり…。」
・・・TO BE CONNTINUED.
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