ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET CHAPTER11 PART.6

2011年11月23日 02時53分45秒 | 創作小品
 井上さんは、いつになく饒舌な僕の話をときどき相槌を打ちながらしっかり聞いてくれた。間ちょくちょく咳をしているのは僕も気になったけど、それより話せることがたくさんあって、聞いてくれる人がここにいて、僕はホントによく喋れた。自分でもびっくりするくらい…。
 「とにかくそんなで…すみません、僕つい喋りすぎちゃいましたね。なんか、テンションあがっちゃってて。」
「いいよ、面白かったし。お前って無口でもないんだな、ホントは。」
「ああ…どうなんでしょう? 話す中身がなかったら喋れませんしね、なんか、今はすごく話したかったって言うか、いっぱい話すことがあって…。」
「そうだな…うまく喋れるやつとそうでない奴がいるのは確かだが、自分をわかって欲しい、理解して欲しいと思うのはみんな一緒じゃないかな…。誰にもわかってなんて欲しくないなんていうのはウソだと俺は思うがな…。」
「ですよね。それで、井上さんはどうだったんですか? 僕ばかり話しましたけど、和佳菜さんといいお正月でした?」
「…ああ? ああ…実は俺はどこへも行ってないんだ。」
「ええっ?!」
僕は驚いた。どうして? 毎年和佳菜さんのところで過ごしているって言ってたのに? 井上さんはちょっと咳き込んでいる…? あ、そうか、だから…。
「風邪引いて行けなかったんですか?!」
「そんなとこ…。風邪っつーか、インフルエンザな。大晦日から38度以上の発熱だ。文字通り寝正月だよ。」
「えええーっ?! そんな…じゃあ、ずっと一人で…寝込んでたんですか?!」
「いや…その…まあ…これもタマタマだけど…騒がしいのが来てて…ちょうどって言うか…運悪くというか…。」
「あ…みゆ希さん…。」
なあんだ、そういうこと…。なのにインフルエンザ…。
「せっかくの機会にインフルですか…。それは何とも…残念でしたね…。」
「いや…だからあいつが来たのはホントにタマタマだって。呼んだわけじゃないよ、言っとくけど。大晦日の仕事がこの近くになったのでついでに来たってだけ。」
「結果は同じでしょ?」
「そうだけど…。お前も言うねえ…。」
「あっ、すみません。つい…。でも、良かったですね、来てくださってて。」
「ん~~~。良かったといっていいかどうか…。」
珍しく井上さんは照れくさそうだ。やっぱり二人はすごくうまくいってるってことだよね? なのにインフルエンザ…。なんていうか…ご愁傷様…。
 とにかく僕とは正反対のお正月だったらしい。ちょっとばかり申し訳ない気もする。僕はあまりに楽しくて幸せな時間を過ごせたのに、その間井上さんは正月どころじゃなく寝込んでいたわけなんだから――それを僕は知りもせず。みゆ希さんが来てくれてなきゃ最悪だったかも…。いやいや、みゆ希さんに看病して貰ったのなら、そう悪くもなかったって言っていいのかな? でも、まだ治りきらないのか顔色はやっぱり良くないな…。
「あの、それで店はいつから開けるんですか? 明日は水曜日だから明後日ですか?」
「そうだな。それくらいかなとは思ってるけど。…明日の昼過ぎに、俺、ちょっと出るわ。」
「え、そうですか? 大丈夫ですか? 病み上がりで…。」
「出るってっても、向かいの浜へ出るだけだ。心配はいらんよ。」
「何をするんですか? この寒いのに浜なんかで。」
「人に会う。それだけだ。」
「だったらここで…。僕は上に上がってますよ、邪魔はしません。寒いからここに来て貰ったら…。天気は悪くないらしいけど、寒いでしょう?」
僕は当然の提案をしたつもりだけれど、井上さんは心なしか厳しい顔で答えた。
「良いんだよ、表で。その方が頭も冷える。」
「井上さん…。」
 何だ? 井上さんは何を考えているんだろう? 何故、店があるのに来てもらうこともせず、この寒空の下、まだインフルエンザも治りきっていなさそうなのに。そもそも相手の人が気の毒…。相手? 相手って誰?? 井上さんは誰と会うつもりなんだろう? どうしてその人を店に招きいれ…。
あっ! もしかしたら…。
「井上さん…もしかしたら、明日会う相手の人って…お母さん…ですか?」
僕はこわごわ聞いてみた。井上さんは――少し目を細めた。果たして
「ああ。」
と、短く答えた…。
「…大丈夫なんですか?! あの…辛くなったり…気分が悪くなったりしませんか?」
「さあな…。大丈夫だと言いたいが…正直自信はないな。」
井上さんはそう言って少しうつむいた。
「でも、逃げないよ。」
「井上さん…。」
 僕が次の言葉を捜しているうちに、彼は席を立ち、また少し咳き込んだ。
「悪い…まだ調子が完全じゃないみたいだ。俺、先に寝るわ。お前も帰ったばかりだし、今日は後片付けもいいから早めに休みなさい。」
「あ、はい…。」
僕は何かうまい言葉を掛けたかったけれど…思いつかないというよりはその彼の後姿がすべてを拒否するように見えて、結局何も言えなかった…。



CHAPTER 11  END
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