MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-10

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-10  シドラ・シデン-2



翌朝、食堂に行くとシドラ・シデンが一人で座っていた。
いつもなら3人でとるのだが、これ幸い。
僕はアサメシを取るとまっすぐ隣に行って腰掛けた。
「ユウリは?」
「朝のお勤めだ。」アギュタイムってことか。「あでも、時間早くね?」
「今日はユウリと食べるのだそうだ。」シドラは自分の食べかすの残った皿を見下ろした。
「いつもの気まぐれだ。おかげで我達も味気ないってもんだ。」
シドラはストローをキュッと鳴らした。
「昨日はご苦労だったな。」
「いえいえ。」
「ユウリの期待によく応えた。」
「はあ。」僕はいごこち悪くなる。
シドラが食事の相手を僕一人で我慢してくれてるみたいだったので、僕は昨日から一番聞きたかったことを勇気を持って聞いてみることにした。
「あのさ、シドラ・シデン・・ユウリが好きなわけ?」
「ほらな。聞くと思った。」シドラが肩をしゃくったのでそこにバラキが控えてるのがわかった。

「我はユウリが好きなのだ。ガンダルファ」
真面目な顔してシドラ・シデンの目は笑っていた。
「この返事で満足したか?」あの~恥ずかしげもなく・・え~と。
「ちなみにユウリには告白済みである。パートナーとしての将来性を検討してもらってる。」
「えーっ!なんだよ、それっ?もう、そんなことまで?」
「我は子供などいらぬ。ユウリがアースに帰るなら我もその星に身を埋めてもかまわないと思っている。」
僕はあきれると同時に感心してしまった。まったく臆面もなく、うらやましいぞ~ほんと勇気あるじゃん。それに比べて、僕ときたら。ふう。告白かあ。昨日の話の後だとなあ。
友達からジワジワ攻める以外の作戦は失敗しそうな気がすんだよなあ。くうー。
なになにゃ?なににゃ? ドラコが興味津々。片言を話し出した。おおっ!お父ちゃんは嬉しいぞ!感激~と思う暇もなく。 はにゃしってなんにゃ~ 
「バラキ!」シドラの一言でバラキがドラコをゴクンと飲み込んで空間に消えた。
もにょ~

あ、でも待てよ。「お前も女じゃん」
「これだから、田舎者は。」シドラは顔をしかめた。
「中枢ではパートナーを同性にすることは珍しくもない。」
「うーん、確かに・・そういうこともあるとは聞いていたけどさー」
僕ら人類の寿命は格段に伸びていた。子孫を残すだけのことなら性は、もうあまり意味はなかった。実際、ニュートロンの間ではすでにどんな組合わせでも関係なかった。そもそも、肉体交渉なんて奴らはしないしね。
(子供だって、優性遺伝子しか残さないし自分で育てないし。試験官ベイビー達は連邦国家がまとめて面倒をみるってのが普通だもんね。)
もちろん、そういう流れが存在するってことはわかってたんだけど。だってさ、原始星は・・特にジュラは保守的な星なんだもん。
「イヤラシイことしか考えてないから、広い視点を持てないのだ。」
なんだと。その通りだよ、悪いか。はあ、しかし。

「シドラが僕のライバルかあ」
「最大のライバルは臨界進化体だ。」シドラは冷静に問題提起した。
「まあ、取り敢えずそういうことにして置こう。」
「なんだよ、それ?」
「我はおぬしよりも、アギュよりも先にユウリを知った。なにしろ同じ船で来たのだからな。」
前回の招集かあ。その頃はまだアギュは政治的には目覚めてなかったんだっけ。
「最初はおぬしと同じ、ソリュートの腕に魅かれた。」シドラは続けた。
「我はユウリがどれだけアギュの心を開く為に苦心したか、すべて見ていた。
我もワームを持つ者だ。二人の心が交流していくのはなんとなくわかってしまう。
例えどんなに見たくなくてもな。」
「・・それでもユウリなの?シドラ、僕なら」耐えられない。
「あの娘は連邦の辺境から来た。色々事情を抱えている。その辺はある程度聞いたな。」
シドラはカフェオレを飲み干した。
「だからかな。あれは外宇宙には珍しい、心のキレイな娘だ。計算がない。戦略と言うものがない。危険だ。見てられなかった。」
野望、出世、ねたみ、ジェラシー。そういうのか。
「あの娘がアギュを目覚めさせたこと、臨界進化体の側にいつもいることをおもしろくおもわない者も多いのも知ってるな?」はい、それは僕です。いや、でも違う。
それは主にニュートロン達のことだろう。一緒にされたくないぞ。
僕が嫉んでるのはアギュなんだもんな。
「ユウリは中枢に野望なんて持ってない。あの娘の最大の希望は、父親と共に故郷に帰ることだった。今は・・違うのかも知れんが・・それはともかく、」息をつぐ。
「アギュは連邦最大の機密、希望と言ってもいい。出世したい為にアギュとかかわりたがる奴のなんと多いこと。アギュの偏屈な性格と、ここと研究所の代表責任者の所長がそれらをある程度、遠ざけてはいるが・・」
シドラ・シデンとしては異例の長セリフを僕はおとなしく拝聴する。
「嫉妬は草の下に潜む思い掛けない毒蛇だ。一瞬で殺されることもある。素直な心はそれゆえ、頑固だ。ユウリは草むらや薮にためらわず入っていく。誰かが気を付けてやらねば。」
「それがあんたってこと?」ちよっと嫌みだったか。でもシドラは素直にうなずく。
こいつもストレート過ぎて危なくね?まじ心配。
「直球勝負では勝ち目はないと知ってる、ユウリがあれだからな。アギュがかわいそう、とはな。何が、どこが可哀相だ、まったく!あやつは我達とは違う存在なんだ!同じ人間と思っちゃいかんのだ!。」
ストローがバキッと折れる。
「寿命のことだけじゃない。同じ次元にいるのかいないのかもわからなくなる奴とパートナーもないだろ。一人で無駄に年取って死ぬだけだ。」
薄い材質のカップのフタが握力責めで飛ぶ。シドラ・シデンが本気になったら、アギュだってどうまるかわからないと背筋が寒くなる。
「だいたいアギュはおのれが一番、大事なんだ。おのれが寂しいのが嫌だから、ユウリのご機嫌を取ってるだけなのだ。ユウリの寿命を利用してるのだ!」
とうとうカップが粉砕された。残り水と氷がテーブルに飛び散る。
僕は自分のエサを慌ててどかす。
「でも・・ユウリは、アギュを・・好きなんじゃ・・ないの?」
「好きなものか!」やっとのことエサを飲み込んだ僕を睨みつけるので、僕は食欲を失う。
「あれは罪悪感だ。同情だ!母親が子供の心配してるのと一緒ではないか!」
今度はプレートを叩き付ける。ポテトの切れ端が僕の顔に飛んだ。
「何度もユウリに言ったのだがな。色恋ではないと。つまらない約束をしたことを悔やんでるから、自分の気持ちすら見失うのだ。」
シドラは腕を振り回すのを止めて、咳払いをした。
僕が顔からケチャップを拭ってるのを見て、自分を抑えることを思い出したらしい。
「フン。相手は臨界進化体だ。回りもあーだこーだうるさいからな。アギュがユウリにずっといて欲しいとか、わがままを言い出さなきゃ心配することはないのかもな。もし、そんなことを言い出したら・・見てるがいい!」背後のバラキの目も赤く光ってるようだ。思わずドラコにも僕は同情する。
「あ、でも、昨日ユウリから聞いたんだけど、アギュは好きにしろって言ったらしいけど。」
僕は思い出して報告。
「昨日?我が惑星から帰る前か?」
「うん。僕がリングに行った時、最初はアギュがいたんだ。」
「あやつが?」シドラ・シデンは眉を寄せる。凶悪な表情。
「どうだかな。あやつがそんなこと言うとは・・本気とは思えん。」
「じゃあ、冗談?」
「わからん。」シデンは腕を組んだ。
「しかし、メンツがあるから泣いてすがったりする奴ではない。所長にうまく間に立ってもらうか。」
「所長って・・イリト・ヴェガって人?」
話ながら、わずかにうなづく。
「シドラって、親しいの?」
「ユウリも連邦が恩赦と帰還命令を出せばあきらめるしかないだろう。どうにか、あきらめて欲しいものだ・・」
熱く語る彼女。僕の当然の質問は無視されてしまった。しかしまあ。
なんともいじましいシドラ・シデン。ハーッと息を吐く。僕の前の塵のような食べかすが舞い上がる。
「ユウリの星もベースは古風だ。アギュはやがて男ですらなくなる。そうしたら、ハンデは我となんら変らない。」
「そうだね。アギュに比べたら僕らはずっと身近にいられるし。自由だし。」
いつの間にか僕はシデンに親近感を覚えていた。
「おぬしはあきらめろ」
「嫌なこった!」僕はニヤリとした。

その頃のシドラ・シデンは僕より背が高くて、素早く動かすことに長けた鍛え抜かれた体をしていた。控えめに言っても、どっちかと言うと男らしい体をしていた。ユウリも進化体に混ざると頭一つ大きかったが、僕から比べると小さくて可愛い女の子に過ぎなかった。そんなわけで、シドラのでかさは推察すべし。
進化体の奴らも彼女のリーチが届かないところで、ジュラの大猿だのジュラ原人とか呼んでいた。でもシドラ・シデンはまったく相手にしてなかった。だってシドラが本気になったら、瞬殺だよ、瞬殺。

(シドラが聞いたらガンちゃんが瞬殺にょ~)
 だまっててよね、ドラコ。後で「取ってこ~い!」して遊んだるから。
(それ、楽しいにょ?ならいいにゃ!でも、バラキはごまかせるかにゃ~?)

シドラが指をパチリと鳴らすと、一瞬巨大なバラキの頭の一部が現れた。
んにょ、にょ~ ジタバタするドラコをプッと吐き出す。ドラコ果敢に反撃を試みるも玉砕。爪に噛み付くも一振りで僕の上に吹っ飛ばされた。
うにょ~!ドラコ哀れ。バラキの一部はかき消すように見えなくなる。電磁波の名残がチリチリと漂うばかりだ。
「では。そろそろユウリを迎えに行ってやらねば。」
シドラ・シデンは立ち上がると立ち去った。
「ほっとけば、ずっと側に置いとかれる。」
おい、アサメシの後始末は僕かよ。
「アギュが嫌だと言ったら?この前、ふてくされてた時みたいにさ。」
「お付がいなかったら、ぶっとばしてやる。」
「ぜひ、そうして。」
でも僕は彼女がちょっとうらやましかった。告白か~してみるってどうよ。
今はちょっとキビシイけど。
シドラが直球勝負なら、僕は友達からお願いします!って、変化球勝負だ。

(バラキは未だにドラコを赤ちゃん扱いするにょ!むかつくにょ~)
ドラゴンの幼体であるまぎれもない証拠のヒレをヒラヒラさせててますけどね、ドラちゃんや。
(今にマッチョなドラゴンになってバラキを振り向かせて見せるにゃ!)
えって、待って?じゃあ、ドラコってオスって前にバラキってメスなの?

前にシドラが僕のワームの名前を笑ったことがある。
「ドラゴンにドラコってそのまんますぎる名前だな。」だって考えたのは子供の時なんだから。ジュラの子供の夢でしょ。
「じゃあ、バラキって何だよ。」
「フルネームは薔薇騎魔維羅ばらきまいらだ」
シドラは得意そうに鼻を膨らませた。それで僕はこいつは見かけ通りのヤンキーだとわかった訳だけど。ドラゴンの性別までは聞いてなかったよまいったな。

さて食堂に一人残された僕は深く考えるのをやめて、アサメシ二人分を片づけ、ドラコをギュッと固めてポケットの突っ込んだ。ドラコはまだふくれて駄々をこねてたから、うるさいんだもん。
僕のユウリへの想いもちょっとだけ強固なモノになった気がした。
だって確かにユウリだってアギュをあきらめて、もっと身近な誰かと生涯を暮らしたくなるかもしれない。僕だってユウリのアースで一生を終えてみるって選択肢もありかも。とにかく、アギュがいいと言ってるんだ。彼との便宜的な一時の約束に一生心をを縛られるなんて馬鹿げた話だ。アギュもそろそろ大人になってもいいはずだ。違うかい?。
ジュラのドラゴンボーイだって500年は生きられる。ユウリが生きてる限り、時間はまだあるってこと。
ベースが古風なら絶対、男の方が有利だって。

(ユウリに有利ってガンちゃんは言いたいのにょ?)それじゃ、オヤジギャグでしょが。
(そろそろ言い出したくなるお年頃かと思ったにょ)

え?最近のシドラ・シデンとイメージが合わないって?。
確かに、女って変るよな~。軍の編成替えで久しぶりに再会した時は目を疑ったもの。
まあ、すっかりナイスバディになっちまって。ちょっとグッときたかな。でも、口を開けば相変わらずだものな~。今だに男より女にモテてるみたいだしさ。

(ちょっと待つにゃ!なんか来たにゃ!)

おいおい、シドラじゃないか?やべぇ!何しに来たんだ?。
えっ?あ、はい?
アギュが呼んでるって?マジ?マジすか?まいったなー、ほんと。
え?どこ行きゃいいの?通信室?、あじゃあ、ちょっと行って来るわ。
すぐ帰るから待ってて。

(やっぱりバラキにちくられたにょ~)
ドラコ、早くバラキを縛けるようになってくれよ。
(んにょ~それを言われると弱いにょ)

GBゼロ-10

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-10


              シドラ・シデン

「聞かされる身にもなれ。」シドラは僕を睨みつけた。
「そもそもおぬしがまぬけだからつまらぬ立場になるんだ。ガンダルファ」
え?僕ですか?
シドラは僕の隣のユウリに目をやった。

「短い生しか持たぬ者が何を言うか」
押し殺した声で言う。
「臨界進化体は何万年と生きるかもわからない。」
シドラの声はあまりに低くて最後はささやくようだった。
「ましてそなたの種族は短命だ。100年がやっとであろう。」
ユウリの目は濡れていつもよりさらに黒々と見えた。彼女は身を返してシドラを見た。
それで僕からユウリの表情は見えなくなった。シドラはユウリだけを凝視する。
「無益な心配に身をやつす前にさっさとおのれの生を全うしろ。」
「・・ええ、そうなのよね」
長い沈黙の後でユウリはやっと言った。僕の胸も痛たんだ。
「ユウリの命が短いからなんだって言うんだ、シドラ・シデン!」
僕は怒りをシドラに向けた。
「だからアギュとはつり合わないって言うのか?」
足場が定まらないがかまっちゃられるか。
「そのとうり」
シドラ・シデンはここが無重力リングとは思えないほどどっしりと安定して浮いている。
「あの、そういう話じゃないんだけど・・」ユウリが言いかけるが聞いちゃいない。
「短いのは僕らだっていくらも変わらない!でも、でもユウリが思うのは勝手だろ!」
「思っても無駄だと言ってる。」
「あの、思うとか思わないとか、そういう話ではなくて・・私は」ユウリは真っ赤になる。
「もう!・・いいわ。」ため息を付く。
「もう、わかったから。もう、いいのよ。やめて、ガンダルファ」
なおも言いたい僕の手首にユウリが振り返って、そっと指を添えた。それは上気した頬とは反対に、とても冷たい指だった。
「ごめんね。ガンダルファ。変なこと相談してほんとごめんなさい。」
ユウリは力なく笑うと身をのばした。
「自分で決めるから。忘れて。」
無重力を漂うドラコを両手でそっと捕んで僕の手の上に乗せた。ドラコは眠りながら小さくゲップした。あ~なんて平和そう、なんかむかつく。
ユウリが後ろも振り返らず、チューブを蹴って出口へと向うと、シドラもすぐに後を追おうとした。「待てよ!シドラ!」
僕が叫ぶとシドラは振り返り、体だけ遠ざかりながら妙な目つきで僕を見た。
「失恋だな、ガンダルファ」
「なんだってんだ!何様なんだお前!」
ムッカッー!わめいて詰め寄ろうとジタバタするのをシドラは慣性にまかせて静かに待っていた。
僕は力が入りすぎて、あやうく激突しそうになる。シドラは両手で僕の肩をこともなく掴んで安定させる。デカイ手に捕まってもがくハエみたいな気分。シドラ・シデンの目は僕と同じ色、髪も肌も同じジュラの色だった。その目がニッと笑った。
「我もだ。」え?ええー!?
シドラ・シデンはすぐにいつもの表情に顔を戻すと、ものすごい力で僕を来た方向に蹴り出した。なすすべもなく慣性に捕まった僕は、ジェット機のように発射される。
その反動を使ってシドラは勢いよく出口へ、飛んで行く。その姿がどんどん遠ざかる。あー、待ってくれー!叫ぶもむなし。壁に背中から叩き付けられるのも嫌だったが、うまい具合にチューブの中心を僕は押し戻されて行く。コントロール良すぎだっての。馬鹿力がー!スピードが付きすぎてむなしくチューブが手をかする。戻るのどんだけかかるのよ。
あっけにとられたまま、やっとホールのブイを捉えて体勢を建て直した時には、僕だけが無重力空間に取り残されていたというわけ。胸にしっかり抱いたワームのいびきを聞きながらね。

(その結び方は失礼にゃ!)そう?でも本当のことだもんねー。
(んにょ、にょ~、人が覚えてないからって~小さい時の話は卑怯にょ~!)
あはは、親戚のおじさんやおばさんからよく聞かされる話だね。
(ガンちゃんだって、おねしょとかしたに決まってるにょ!)
証拠なき誹謗中傷は認めませーん!

その日は教室に行っても、ユウリにもシドラ・シデンにも会えなかった。
僕がいなかったことなんて、誰も教師も気にしてないみたいだったので、僕も部屋に帰って今日の出来事をじっくり検討してみることにした。

その夜。
無重力リングでの出来事のすぐ後なので、僕はユウリとシドラ・シデンに会いずらかった。でも、何事もなかったようなユウリの笑顔に誘われるとついついでかけてしまう。
シドラ・シデンも何食わぬ顔で参加。でも、アギュがいるんで聞くのもはばかられる。残念ながら、その件は明日の昼に持ち越すしかない。夜に秘密があるなんて変な感じだったけど。
しかし、困ったことにカプートがいなかった。こんな時に限って!。
ユウリの話では、実験の準備とやらで寝てる場合じゃないらしい。
僕にしてみりゃ、ちょっと気まずい二人とアギュさましかいないなんて困ったぞ。
仕方がないので、試しにアギュをドラコ・ボールに誘ってみたりして。
「オレが?オマエと?」アギュは目をむく。「なんでオマエと?」
「相手がいないし、体もてあますから。」
期待してないもん。僕は投げたドラコを受け止めながら返事する。
「嫌ならいいよ。」
「オマエがどうしてもって、言うなら、オレは考えてやってもいいぜ。」
あら、珍しい。やりたいなら、やりたいって言えよな。ほんともったいぶってんだから。
その時、ユウリと目が合う。その目が語っている。シドラ・シデンの目には冷やかすような笑いが浮かんでるが、仕方がない。
「・・お願いします。」僕は苦虫を噛みつぶしたようにモゴモゴ。
「なんだって?オレには聞こえないなー。」ちっくしょー。
「お願いいたします!臨界進化さま!」もうやけくそ。
「よーし。そこまで言うなら、付き合ってやる!」
なんか、思ったよりほんとに嬉しそうじゃん。やっぱり、単純なヤツだわ。
「オマエ、オレが嬉しがってるとか思ってるだろ?。」
「思ってませんよー。」
「ほんとはやりたかったくせにとか、勝手に思ってんじゃねーぞ。」
「思ってませんて。」しつけー!意識防御レベル最大値設定だっての。疲れるー。
「言っとくが、オレは嫌々付き合ってんだぞ。」はいはい。

思えばカプートにこの間、指摘されていなければどんなに退屈でもそんなことは言い出さなかったと思う。もし言い出したとしても、ユウリにお願いされたって、速攻断っていたと思う。うーん、なんだろ、これってボランティア? 

(ガンちゃん性格悪いにょ~)これは不可抗力だって。

アギュははっきり言ってお話にならないくらい下手くそだった。僕はとにかく彼が取りやすい球を投げなくてはならなかった。少しでも反それたらキサマの球が悪いとか、取れなかったら自分の流体が薄くなってるからだと一々いちいち言い訳する。それでも、それまでとくらべると随分長い間僕はよく耐えたと思う。これが驚いたことに、まったく楽しくなかったわけでもない。アギュは鍛えたら(それもスパルタでね)ものになりそうなところがあった。なんと言っても身軽だし。自由自在な動きはカプートを思わせるキレが、ところどころ(ホントにところどころね)見られた。
ただ、グダグダうるさいのがめちゃんこ腹が立つ。
ユウリはニコニコして僕らを終始見守っていた。シドラと笑いあったりして。
これでユウリに高得点を叩きだそうなんて、あまりにいじましい作戦かも。苦労の割に成果なし。今も、アギュが変な方に投げたボールを、早よ拾って来いってうるさいし。飛んでんだから、自分が行けっての。それにドラコ玉は自分で帰ってくるんだぞ。
さすがに終わりの方になると僕もご機嫌取りに疲れて来た。
「なんだよ。又OBですか。アギュじいさんよ。」
「うるさい。オマエは黙って拾って来い!。」
「ちぇ・・ああ、早くカプート帰って来てくんないかな?」
「なんか、言ったか?」
「いえいえ。じいちゃん耳遠いんじゃないの?」
「言っとくが、アイツなんかよりオレの方が上なんだかんな。」
「なんだよ!その上とか下とか。めんどくせーな。年のことかよ、じじい。」
アギュはプリプリ怒り出す。
「キサマはほんと口が悪いな!オレがどんだけ我慢してやってるか!」
我慢はこっちも一緒だっての。
「とにかく!あんな出来もしないことを言ってる生意気なヤツとオレを比較なんかしたらぶっとばすぞ。この間、みたいにな。」
無様にぶっ飛ばされた僕の姿が脳裏にフラッシュ・バック。カチ~ン。
「オレは偉いの。最高に進化したんだからな。進化してないヤツなんかと一緒にすんな。」
「何が臨界進化だっての。全然、なりたくもないわ!。偉いとも思わねーし!」
「なんだと!この!」アギュはボールをぶつけてきた。
にょ~ん! 「ドラコを粗末にすんなよ!じじい!」 
気が付くと、毎度おなじみど突き合いになっていた。
「バカ、アホ!死ね!」
アギュさまは大変親密なお言葉までかけてくださる。
「お前が死ね!」死ねるもんならだけどね。
「オレは死なねーんだよ、ばーか!」すかさず、アギュは血管を浮かせてどなる。
「うらやましくもないわ!」僕もまけじとどなり返す。
そして、一方的にアギュが立ち去ってゲームは終わりになってしまった。
でもこの間バラキが怒ったせいか、セーブしているらしいアギュは切れたりはしなかった。
「ありがとう。ガンダルファ。」側にユウリが来た。まぶしい笑みが僕を向いている。
「アギュ、楽しそう。」どこが?。
「アギュが自分からスポーツするなんて初めてだもの。今までいろんな人が誘ったりしたのよ。アギュを快活にしようとして・・もちろん、起きてる時だったけど。アギュは絶対、やらなかった・・やろうともしなかったのに。」
「この次元は、勝手が違う。我達しかいない。恥をかかなくてすむ。」
「そうね。プライド高いものね。」ユウリは口を押えた。
「でも、ほんとはやりたかったんだわ。ほんと、楽しそうだったしね、ガンダルファ。」
「あのー僕・・楽しくないんだけど。」
「そうでもなかったぞ。」僕の時はカットイン遠慮なしのシドラ。
「いいコンビだ。」
「そりゃ、ないでしょ・・・」
なんとなく気まずい。頭にシドラの最後の言葉がこだまする。我も。我もってどういうこと?つまり・・シドラ・シデンも・・?あわてて、目を反らす。
でも、ユウリが喜んだからいいかって・・これでほんと良かったのかな?僕。
ほんとこれ、僕の為?
シドラ・シデンのニヤニヤを誰か止めてくれよ。
アギュがケロッとして、滝の方から僕らを呼んでいる。
しかし、疲れた。カプートとだと心地よい疲労なのにね。ほんとカプート、早く帰って来てくれ。
それがその日の僕の心からの感想。

(ガンちゃんは子供のお守りができないにょ~)ああ、できないよ。できませんね。
特に500歳のじじいのような子供なんてごめんこうむるわ。
(それはガンちんも子供だからなのにゃ~)ムッカー、赤ちゃんワームのお守りを散々した僕に向ってなんてこと言うんだ。この恩しらず。
(恩返しに骨は拾ってやるにゃ~)なんだ、どうせなら、殉死してよ。
(それは考えとくにょ~)

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-9  無重力リング-3


僕たちは出口に向って泳ぎ始めた。
随分、時間を費やしてしまっている。そろそろ、怪しまれないとも限らない。
道々、ユウリはまた無言になる。
悪い傾向。ムードメイカーの力不足?
ユウリは突然、壁を蹴ると勢いよく跳ね上がった。
「あぶない!」僕はわけがわからず、追い駆ける。チューブに激突しても、死んだりはしないが打ち所が悪かったら、痣になるよ。
でも、ユウリはすんでのところで素早く膝を抱え込む。キック&ターン。
追って来た僕とぶつかって目から光が散った。
「痛~い!」
「痛いじゃねーよ!」ハスラーにはじかれた玉のように散りながら、怒る。あ~コブが出来るかと思った。
「ガンダルファの石頭!」ユウリは涙を流して笑い転げてる。なんなんだよ、この娘こ。
「お前もだろが!」頭をかかえる僕。
ふと、気付くと素早く体勢を整えたユウリが目の前に迫る。
「ごめんね。痛いのとんでけ~」その痛いのが飛んでった方向をドラコが追う。お~い何、追い駆けてんだよ~。
「これで良し」ユウリが頭をナデナデしてくれる。笑顔のアップ。近すぎ!
僕のバロメーターは一気に上がる。
「なんかさ、やっぱ悩んでんじゃないの?」これは僕の勘だった。

ユウリは、手を伸ばした。
「ドラちゃん、こっち、こっち!」遠くでドラコがにょ~んと答えた。
思えば、不思議だ。ワームが契約者以外にこんなに、なじむなんて。ドラコはまだ赤ちゃんだから?まあ普通は見ることもできないのだから、アギュやユウリが特別なんだろうけど。シドラ・シデンのワームドラゴン、バラキですらユウリには触れることを許しているもんな。
ふと見るとドラコはユウリの腕に落ち着いてしまった。
うにゃ~ん そして、小さなゲップ。

何、食ってきたんだよ、ドラコ。僕の血以外に。
(ガンちんの痛いの痛いのを食って来たにょら~)なんじゃ、そりゃ?

その時のドラコはほんとに、たらふくになったツチノコそっくりだった。腕から肩にかけて、体を長く伸ばした。ユウリに平気で腹を見せてる・・こんなに無防備でいいのだろうか?おーい、契約者は僕だぞー、と叫ぶ。
「ガンダルファはジュラが恋しい?」
ふと、ユウリがドラコの腹をなでてた手を止めた。
突然の質問に僕は詰まった。そりゃ、恋しいような、恋しくないような、でもジュラには誰もいない。それにスクールの生活を僕は嫌いじゃなかった。だって、ここには友達やユウリがいる。
「あたしは恋しい」ユウリの伏せたまつ毛が濃い陰をその肌に落としていた。
「ほんとは恋しくてたまらないの。あたしの産まれた星。私のアース。」
ユウリのまつ毛の下がうるんだように見えた。
「ただ恋しいの。どうしようもなく」
さっきまでの強さの片鱗とはまるで違う顔。なんてユウリは、はかなく、キレイに見えるんだろう。そんなことを思ってるなんて、僕は少し後ろめたくなった。
僕はここに来た子供は結果的にはみんな喜んでると思っていた。将来が開けるんだし。たとえさらわれるようにして来た子供であっても。もちろんアギュを除いてだけど。

「さっき、ソリュートはあたしの父の為って言ったじゃない?」
ユウリはドラコを僕の上に戻した。そして、宙を翻った。無重力を泳ぐオレンジ色の金魚。彼女はバランス感覚がほんとに飛び抜けている。
「ソリュートに目を付けたのは、もともとケフェウス教官なのよ。研究してたって言ってたじゃない?だから、アギュに働きかける手段の一つとして使い手を探していたの。彼は楽器が持つ効能に着目していた。・・それぐらい、アギュに手をこまねいていたってことだけど。」
ユウリの舞いはまだ続く。なんて美しい風景。微かな振動は彼女に同調したソリュートだろう。無重力の空気も揺れる。僕も揺れに身を任して漂う。気持ちよかった。
ドラコを腹に乗せてなでる。ドラコが寝ながらあくびをした。
「あたしは父から離されて混血原始人類を管理する収容施設にいたの。でも、あたしは父からソリュートを受け付いていたから・・特別に中枢の方でソリュートを磨くことが許されていた。その話が来た時、自分から志願したの。」
なんだか心地よくて眠くなりそうだ。まずいぞ。僕は身動きした。
「アギュを起こすことができたら、父の刑期を縮めてもらえるだろうって聞いてね。オリオン・シティでオーデションを受けて副所長のケフェウスが私を指名した・・。彼は成果を挙げたら父の保釈後の身の振り方に着いても善処してやると言ったわ。。父と故郷に帰れるかもしれない・・私は父と共に産まれた星に帰れるならなんでもしようと思った・・私も星に帰りたかった・・その選択は後悔してないけど。」
そうか。彼女は父親の人質だったんだ。そういうことか。眠い目をこする。
「しかしなんて言う、好条件!奴にそんな力があったなんてね!」
これは、教官への皮肉だ。
「ケフェウスに、じゃないわ。」ユウリはスッパリと。「あたしは当時、連邦の事がよくわかってない世間知らずだったから信じてしまったけど。違うの。あんな人に権力なんてあるもんですか!あってはいけないのよ!」
ほんとに心底、ケフェウスが嫌いなんだね。僕も嫌われることだけはしまい。
くわばら、くわばら。ユウリは重々しく言葉を口にする。
「本当に権力があるのは、臨界進化体・・なのよ!」
「アギュゥ?」
「アギュ本人じゃないわよ。彼にまつわる回りのこと。だから、彼を起こしたあたしは特別な位置にたった。そうでしょ?それは、アギュのおかげなのよ。」
ちょっと、それおもしろくないなあ。

ユウリはちょっと不思議な考え込むような表情を浮かべると微笑んだ。
「あたし、宇宙に来るまえは寝るといつもアースの夢ばかり見たものよ。5歳ぐらいで離れたから記憶もうつろなはずなのに。とっても鮮明でリアルでね、苦しいぐらい。あたしの星の人は魂は千里を走ると言ったそうだけど、寝てる間に心だけは帰ってたりしてね。でも、目覚めると暗い宇宙の真ん中に一人ぼっち。いっそ目覚めなかったら、どんなに良かったか。」ユウリは哀しげな吐息をもらした。
「だからあたし、ピクニックが嬉しいの。本当の夢を見ないですむでしょ?」
「そうか・・」
「こんなにアースを懐かしく思うのは母が産まれた星で、父が母と出会った星だからかもしれないわね。」
「でも、帰れるじゃん。卒業すれば」僕は努めて明るく言った。
「お父さんだっていつか釈放されるし、帰りたかったら帰れるでしょ。ユウリには権利があるっしょ!だって立派にアギュのお守りの役目を果たしてるし。恩赦だって出るんでしょ?・・僕は、たぶんやっぱり軍隊に入ると思うな」なにげに付け加えた。ユウリと同じ部隊なんてステキなのにな、残念。
「そうね。」ふいにユウリの声が変った。どういうこと?僕も突然落ち着かなくなった。

次の言葉を放つのは勇気が言った。でも言わなきゃ。
「もしかして・・アギュの許しがいる・・とか?」言葉にしたら胸がカッと熱くなった。
気がつくと僕は怒っていた。「アギュが許してくれないとか?」
「まさか」ユウリは舞うのを辞めた。
「え?どういうこと?」
「あたしがあの人を起こしたのよ、知ってるでしょ?」ユウリは怒ったように言った。
「あたしがアギュを自分の勝手で、見栄で起こしたの。カンブリアンの囚人の娘なんかに、ちょっとソリュートがうまいぐらいの小娘に何もできるわけないって言う、ニュートロン達に自分の力を見せつけてやりたかったの。」
「ユウリにもそんな気持ちがあったんだ・・」
「もう、ドロドロ!。」ユウリは少し笑った。
「親近感わくなあ。」
「あたしが必死だったからかしら?アギュは夢で会いに来てくれたわ。それから毎日寝てる間に色々、話したわ。アギュはずっと嫌がっていた。でもあたしは説得した。」
ユウリは左右に首を振り続けた。
「説得し、説得し、泣いて懇願し、懇願したの。結局、彼は折れてくれた。あたしが手柄を立てて、それで父の刑期が特赦され、父と再会できるようにって。」
「意外だ。」
「あの人、不器用だけど優しいとこちゃんとあるのよ。」
ユウリがアギュはを褒めるのは、やっぱ複雑な気分。
「あの人、100年ほどならあたしの為に付き合ってやるって言ったわ。」
「恩着せがましいなあ」僕は顔をしかめる。
「じゃあ、もう問題ないんじゃないの?」
「ええ。イリト・ヴェガはあたしをアギュの側に措いときたがるでしょうけど。それはどうにかなるの。私の卒業に合わせて、父も特赦が決まってるの。」
僕はユウリのアースはどこか気になった。僕もそこに行きたいな。
口に出しては、「何が問題なの?」とだけ。

「あたし、アギュに約束したのよ。無理やりあの人を起こした時に・・あたしがずっと側にいるからって。嘘を付いたの。本当は父とアースに帰るつもりだったのに。彼をだましたわ。」
「じゃあ、やっぱりあいつがユウリを縛ってんじゃん!」
ユウリは再び、首を振り続けた。
「さっき、アギュに言われたの。そんな約束信じてないって。最初から当てにしてなかったから、好きにろって。」
え、じゃあ、なんで?
するとユウリは驚くべきことを口にしたんだ。

「あの人がかわいそうで・・」
なんじゃそりゃ?それって?僕はいっぺんで頭から水をかけられた気分。思わず、バランスを崩す。
ユウリは僕の腹から投げ出されても、マイペースで惰眠をむさぼるドラコにジッと目を据えた。
「あたし、父に会いたい、アースにも帰りたい。でも、きっとここを離れたら後悔すると思うの。彼を又、一人ぼっちににするなんて。自分だけ彼を利用して幸せになって、彼をここに置き去りにするなんてどう思う?。そんなことしていいと思う?どうしたらいい?ねえ?」
「それって・・つまり、」
ガンダルファちゃんよう、好きな子にそんなこと言われてるってどういうことよ。やっぱ、お友達、そりゃお友達なんだけどさ。お友達からって言う、期待は打ち砕かれたってことだよね。
僕はやっと声を絞り出した。
「ここを離れられないのは、離れたくないのはユウリってこと?」

「ほんと迷惑な相談だな。」いつの間にか近くにシドラ・シデンがいた。

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-9  無重力リング-2



僕はアギュの来た方へ進んだ。微かにオレンジ色のものが浮かんでいるのが見える。
近づくに連れて、それは人の形になった。
それはまちがいなく、ユウリだった。橙色のヒラヒラしたスーツが機能的ではないが、彼女にはよく映えてる。お日様のようだ。
「おーい!」僕は慣性がもどかしく宙をかいた。この辺はチューブが最大に広いのでジグザグが長くなる。コントロールに神経を使う。
僕はなんとか訓練用のホールに到達した。ユウリに向って、思い切って壁を蹴る。この辺の力加減が難しい。下手するとユウリに激突してしまう。ユウリに避けられたら・・壁か柱に激突だ。
ユウリが振り返る。なんか、変。泣いてた?。心は急ぐが思ったほど思うようには進まない。

やっとたどり着いた時、ユウリの目からは涙は消えていた。思いっきりの笑顔。
「ガンダルファ、お久しぶり!」確かに、現実ではお久しぶりだ。
気のせいか目が赤い?。橙の服の色が反射してるだけかもしれないけど。
「アギュがなんか言ったの?」
「え?なんで?」
「いや、なんとなくだけど・・」僕は静止する為に、透明な鎖につかまってゆっくりと上下運動をしていた。
この辺りは下方にあたる部分に、訓練の為の足がかりとなる透明な柱が壁から何本も生えていて、重りが付いた鎖が張り巡らされてあった。激突しないように、これを避けながら泳ぎ回るのはけっこうしんどい授業だった。無重力に長くいると体の間接や筋が伸びきったような感覚になり全身がだるくなる。無意識に力を入れるくせが抜けないからだ。余計な力を加えるとそれだけバランスを崩しやすい。
「そこでアギュに会ったからさ。」
「そう・・」
「ここにはよく来るの?」
「アギュが目を覚ました時の条件だったの。彼は一人になれる場所が欲しいと言ったのよ。それで、叶えられた。」
「ふーん。なんだ、もともとはアギュ様専用だったんだ。」
「まだ、アギュはこのスクールの電磁結界を破る力はないから。彼が再び自分に閉じこもったり、狂ってしまうよりはいいと思ったのね。」
ユウリの太陽のようなスーツのヒダがユラユラと広がっている。水槽の中の金魚みたいだ。
「だから、ここには今は盗聴も監視もないの。イリト・ヴェガはアギュの人権を最低は守ろうと譲歩してくれたわ。人類回帰主義者だから。前の所長は違ったけど・・。」
「前所長って?」
「ケフェウスの言いなり。」
「あーなるほど!」
ユウリは心なしか沈んでいるような気がした。やはり、アギュがなんか言ったのかな?

「ケフェウスってさ、あいつ何者なの?そんな権力あるの?ただの先生じゃないのはわかったけど・・」
「あの人は・・」ユウリの顔が一瞬凍り付く。苦手なな虫とかを発見したみたいに。
「あたし達、誰もが嫌ってるわ。」押えきれなくて吐き捨てる。
「僕も生理的に合わないって思ったよ。」ドラコが僕の首の後ろから出てきてうなづく。
んにゃ! 「ドラコもそう言ってる。」
「偉いわ。ドラちゃん!」ユウリはニッコリ言って手を伸ばした。ややデカ目の錦鯉が尾っぽをフリフリ飛んで行く。おい、契約者をあっさり見捨てんなよな。
「ケフェウス教官は副所長だったのよ。」
ユウリはドラコに頬ずりをする。あ、こら、契約者だってまだくんくんしてないのに。
「でも、イリトが降格させたの。前所長の研究費の不正使用での監督責任でね。あの人が、首謀者だって意見もあったんだけど・・前所長が死んでしまったから・・証拠がなかったのよ。」
「そりゃまた、都合よく。なんか壮大な犯罪の香りがしない?」
「あの人、今はスクールの総括管理官なの。そして、ソリュートの練習の顧問をしているわ。」僕は驚いた。そりゃ、お気の毒すぎる話だ。
「でも、なんで?ケフェウスって、ソリュートとなんか関係あるの?」
「いいえ。でも、ソリュートの訓練の統括と実地実験の監督に自ら志願したのよ。」
苦々しい響きがこもる。
「ソリュートで滅ぼされた星の研究をしてたみたい。」
ユウリは僕の方にドラコを放つ。寸詰まりの体がくねる。
「なんか、昔ね、これを楽器じゃなくて軍用で使ってたらしいわ。」
ユウリは手の中から石の欠片をとり出した。わあ、ほんとだ、噂通りちっちぇー!それって、普段どうやって持ってるの、ねえねえ?激しく、興味を覚える。
「ほら、こうやって手首に巻き付けとくのよ。」
「すげえー石じゃないみたい?粘土?なんだかアメみたいじゃん。」手を伸ばして触る。
「あ、やっぱ固い、粘土じゃないや。感触は石なんだけど?なんで伸びるんだろう?」首をひねる。
「あたしの生命波動に共鳴するから、らしいけど・・くわしくは知らないわ。」
「おもしれー!」興奮。
「やってみる?」ユウリは鈍い骨色の  実際に古代魔法生物の化石なんだけど   軽石を手渡した。
「いいの?でも、適性が必要なんじゃないの?」
「あたしも最初はできなかったのよ。アースを出てから習ったんだから。」
やっと、いつもの笑顔が戻った気がする。
僕はその楽器に本気で立ち向かう覚悟を決める。
しかし、数分後。
ユウリから散々ご教授を受けた末に、汗水たらして僕は楽器を投げ出した。
「僕にもソリュートの才能はないみたいだ。」
精神集中。ソリュートは僕の手の中で震えはしたが、何度やってもそれきりだった。無重力の世界で自分の体をブイに足で繋いだ形の伝授の方法に無理があったのかも知れないけど。
「辛抱強く楽器と心を通わせねばダメよ。」ユウリは漂うソリュートをすくい上げた。
それは彼女の手の中で横笛のようなおもしろい形になった。ちえっと僕。その先端に僕から離れたドラコが巻き付く。
にょ、にょ、にょ~ するとそこがワームのように螺線を描いたではないか。
「ひょっとしてワームはソリュート吹けるのかしら。」ユウリが目を輝かす。
ますますもっておもしろくないや。

(笛吹ワームにょ~)アホ面の虫が笛を食わえて、こっけいきわまりないったら。
(ガンちん、うらやましいのにょ~)シドラじゃないが、フンだ!。

「でも、これでどうすんのかね?軍事利用、殴んの?形がかわるから、武器っぽくしてさ?」
ユウリは吹き出した。「いい!それ、いいわね!剣みたいにしてみて・・」
たちまち手の中でソリュートはそれらしい形になる。見事だ。空中細工。
「痛い!」カツン!僕は頭を押えた。
「エヘヘ、必殺剣!なんてね。」ユウリは回りながらブンブン振り回す。
「結構痛いよ、でも軽石みたいだね。」
「やっぱ、切れないもんねえ」
「ま、まさか、切る気だったん?」
「私チャンバラ、子供の時好きだったの」
「お転婆じゃーん。」上段の構えからの緩い一撃を白刃取り。無重力では簡単だ。
「足での白刃取りは認めません!」
「ルール無用のストリートファイトさ。」膝に力を入れて回転させる。
ユウリははしゃいで剣を引いて、ムーンサルトのように身を翻す。
肩で息をしている。なかなかバランスいいじゃん。球技は下手だけどってあ、余計か。
ユウリがあかんべをする。
しかしさ、なんかいい感じじゃない?僕ら。ちょっと体も暖かくなってきたし。
僕らはしばらく必殺剣ごっこに興じる。が、ドラコがヒラヒラと間を飛び交ってはっきり言って邪魔。おまけにドラコがほどいたコードがブイの鎖に絡まってしまった。
「隙有り!」
「わっ!ずるい、タンマ!」
「問答無用!」
焦った僕はコードを引きちぎる。運悪く、その時ランニング装置の端が僕の指先を傷つけた。赤い血の玉が幾つか、宙に飛び散った。
ソリュートソードを掲げて飛び込んで来たユウリが短い悲鳴を上げた。

「きゃ!」ユウリは顔を背けた。
そのまま、勢いの付いた体を僕が受け止める。えへへ、クンクンのチャンス到来か?
しかし、なんか様子が変だ。ユウリの体がブルブル、震えてる!。
「あ、ごめん!」僕はあわてて体を放した。「接近禁止だった?」
狼狽した僕の口調に、彼女は黙って首をふる。
僕は漂う血の塊を見た。ドラコが何を思ったか、それを追い駆けて飛ぶ。僕は傷口を押える。ほんの小さな傷だが、まだ出血している。
「わりい!。汚れちゃった?」
僕はユウリの美しい色の服を見た。血がユウリの方に飛んでしまったのかと思った。
「大丈夫、こんなのなめときゃ直るから!」僕は指を口にくわえておどける。
ユウリは荒い息をしていた。。顔色が悪い。唇が白い。
え?僕のこと、そんなに心配? んにゃ~!
戻って来たドラコが傷口にまとわりつく。
あの、でかすぎるから絆創膏としてはさ。
ユウリは肩で息して呼吸を調えた。
「あたし、血がダメなの・・嫌いだわ・・」
「そ、そうか。ごめん。」
なんと、ドラコがぺろぺろ?してるとこを見ると血が止まってる気がする。こんな効果もあんのか? んまいにょ~
まさか、さっきの血の玉を食べて来たんか?それで味をしめたとか?
やめんか!こ、この巨大モスキートが!
空中でドラコを引き離そうとする。ワームが見えない者から見たらあぶない奴としか見えない。

「ガンダルファのせいじゃないわ・・」ユウリはそれを眺めてるうちに平静に戻る。
「ほら、あたし・・あたしの母は殺されたでしょ?」
「え?うそ!知らないよ!」
「シドラから聞かなかったの?最近、いつも二人でいたって言うから。」
「シドラなんてユウリのことどころか、自分のことだってろくに話してくれないよ。
それどころか、顔を見れば予習復習の話でさ。いつも説教ばっか!もう毎日、みっちりお勉強させられてるよ。」
「あら、あたしもそうよ。シドラ・シデンはとっても面倒見がいいの。」
「嘘つけ。悪意を感じる。トホホ、僕が気に入らないんだろ。」
「大丈夫、ちゃんと勉強してれば怒られないわよ。それに、本当にシデンが気に入らなかったら大変よ。たぶん、半径1メートル以内に寄せてもらえないわ。」クスリ
「それに、そうだったら、それってバラキも気に入らないってことだから。そうなったらとっくに生きてないかもしれないから、だからそんなことないはず。」
ユウリは持って回ったうえにとんでもないことを言う。なんか、それってきっとマジだよ、そんな気がする・・。
思わず、咳払い。
「ま、まあそれは、いいや。それよりさっきの話だけど・・」
「そうそう、あのね、あたしの母は癒し手だったの。父はその惑星に赴任してた他星人だったわけ。それで、その原始星の中で争いがあってね・・他惑星の人と結婚してた母は同じ星の住民に殺されたのよ。父の留守に・・目の前だった・・おじさんが逃がしてくれたからあたしは助かったけど・・」
さっきとは違って落ち着いて、ユウリはなんでもないように話した。
「そ、それは・・!」僕はいったい、なんて言ったらいいんだ?
ユウリは投げやりに手を振り回して叫ぶ。宙に体が漂う。
「戦争よ。つまらない殺し合い。あたし、戦いは嫌!争いも大嫌い!」
そ、そうか・・僕は軍隊志願なんだけど。ゆうりはあわてて付け加える。
「あら、他の人はいいのよ。あたしはご免被るけど。」
「ごめん。ユウリはスポーツ選択してるから、軍隊志望だと勝手に思っていた。」
「あたしはしがない、一般人志望。故郷ふるさとに帰りたいだけの人!」ユウリは手を振る。
「だから、他の人が入隊するのを止めたりしないわよ。それに、連邦の軍隊ならいいんじゃない?まだ、ましだわ。守る側なんだし。犠牲者も少ないしね。」
考え深げに続ける。
「あたしが嫌いなのは、民間人が巻き込まれるような内戦なの。不毛で無意味な殺し合い。」
「でも、ユウリは守られる側じゃないの?志願するなら別だけど・・」
「そうでもないのよ・・」ユウリはため息を付いた。
「ソリュートの軍事利用なんて考えてる人もいるし。・・まったく、困っちゃうわ。私、絶対協力なんかしてやらない!」
ユウリはスルリと虚空に身を踊らせる。僕も続けて身を泳がせる。
「あたしのソリュートはそんなことに絶対、使わせないわ!」
ユウリの強い言葉が無重力を漂う。
「私、父に誓ったのよ。私のソリュートは人を癒す為。そして、父を救う為。」
「ユウリのお父さんて?」
ユウリは反転して僕の方を向く。
「さっき、ソリュートは星を滅ぼしたって言ったじゃない?」
ユウリの目には強い光があった。それは、いつもの優等生的な学園のスターの顔ではなかった。たぶん、彼女はとても芯が強いものを持っているんだ。いつもは穏やかに隠してるけど。僕はしびれた。そういうのって、ちょっと好き。ますますタイプ。
「あたしの父はその滅ぼした方の星の出身。」
ユウリは淡々と続ける。
「母の星は人類が発祥のアースを捨てた時に、ライトサイトにもダークサイトにも付くことを拒んだの。一族は辺境のアースで連邦にもカバナ・シティからも隠れて独自に暮らし続けてきた。」
うんうんとうなづきながら、僕も後を付いて泳ぐ。
「たまに発見されるよね、そんな星。」
ユウリのオレンジの服のヒダが花のように広がる。僕はその花を目指す蜜蜂だ。
「そうなの。あたし達の星も発見されてしまったわ。父はその星の監察官だった。あたしの一族はね、まだ遺伝子情報とかの分類途上だって言ったじゃない?。」
花弁が上空でゆるりと回って動きを止めた。
「原始星政策上、あたしの母は外部の原始星の人間と子供を作ってはいけなかった。」
追いついて浮上してきた僕にユウリは笑いかける。

「あれ?ってことは?」僕はたいして深く考えもせずについ、疑問を口にした。
「そう。いま父は服役してるの。」ユウリはサラリと言う。
「本物の監獄に。」足下に宇宙の監獄と呼ばれるスクールの巨大な概容が広がる。無重力リングの透明な回廊がレンズの役割をして端の方が歪んで見えている。
僕はそのまま間抜けに回りの空気をかいた。
「あたしは禁じられたハーフってわけ。だから、収容所にいた。」ユウリは唇を噛む。
「この連邦には居場所がないの。アギュと一緒ね。」
「なんか・・言葉につまることばっかしだなー」間抜けな僕。
「ごめんね。でも、事実だから隠してもしょうがないでしょ?友達には知っててもらいたいのよ。」と、友達かあ。う~ん、友達からお願いします!ってあったなあ・・
「なんか気の利いたビシッとしたなぐさめとかいえたらなぁ~」ため息。
「あら充分、ガンダルファにはなぐさめられてるわよ。」
え?ほんと?
「いつも、おもしろいこと言って笑わしてくれるでしょ。」
う~ん。ムードメーカーってことで、喜んでて大丈夫かな~。

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8


               無重力リング

その頃の学校ってやつは、人類回帰運動まっさかりの最中だった。だからちょっと後戻りした感はいなめないだろうね。こんなに科学や文明が発達したのに、すっかりローテクまっただ中なんだもんね。文字や言葉なんて使ってて。
もっとも、原始星の文化はずっと前から政策によって現状維持を強いられていたから僕らはたいして辛くはなかった。ジュラでは手先を使わない子供はバカになると信じられていたし。歩かない子供は怠け者になると言われ、ちゃんと話せない人間はワームとの交信は授からないと言われた。(ワームは礼儀正しく口うるさいと思われていた。)

(それって、バラキのことにょ?)
わあ!うそ!言っちゃったよ、ドラコ!僕はそんなこと言ってないもんね!知らねえぞー!
(にょ~)あらら、ブルー入っちゃった。大丈夫、言わないからさ。へへ。
(はめられた感はいなめないにょ~)やだな、ドラコ被害妄想だぞ。(ぷう~)

ずっと前からニュートロン達は自分の脳で覚えることを辞めて、記憶端末を持ち歩いていた。それを頭に装着した装置(ヘッドギアタイプ、ヘアバンドスタイル等、おしゃれなのが色々ある)に差し込めば、どんなおバカさんでもある程度の基礎知識を活用することができるようになっていた。さらに高度な門外漢の知識、宇宙船の運転や人工知能を修理するなんてこともできた。
一過性なら、その手の知識メモリー薬を脳の対応する活動領域に直接流し込んだりもする。さらに一定期間保たせるならば、情報記憶細胞を移植して脳に打ち込んだりすることもできる。基礎知識が備わっていれば、その知識が定着する場合もあるし、それはもう、とてもお手軽だ。
ただ。人類恐るべし。人間がロボットに置き換えられてないその最大の理由は、それぞれに「我」が存在する為らしい。つまり、個性ってやつ。それを手放すことを人類はいまだに拒んでいた。
そうなってくると、個人差も大きかった。体内の脳は記憶の容量が限られていた。もとから、細胞を鍛えていないと端末がないとすぐ忘れてしまう奴が出てくる。高い地位に就けばつくほど、どんなに圧縮しても追いつかない膨大な端末や外部記憶脳と接続するコードを持ち歩く奴も続出。なんせ、アクセスできない非常事態が勃発したりすると、緊急時に普通以上に役に立たないんだからお笑いだ。だいぶ前だけど、戦時下の宇宙空間で大きな事故が起きて深刻な問題になったことがある。ピーナッツの皮の向き方さえわからなくなっちまった人類が右往左往する間に事故拡大。
(勿論、中枢にいる本当に優秀な人達はほんの補助的にしか使わないらしい。)
僕みたいな粗忽者は小さいチップをすぐなくしたり、置き忘れたりするから、さらに始末に悪い。
それが最大の原因ではないだろう(人類回帰運動がはじまったきっかけのひとつにはまちがいない。)が、連邦は人民の基礎知識のテコ入れを始めた。
と、言うわけで教育だ。理由はなんであれエリート養成所である僕らのスクールでは特にそれが顕著となっている。雰囲気はまさに進学校。
まあ、ある程度身に付けて置けばあとは端末に頼ればいいわけだが。持ち歩く端末が減れば減るほど、優秀の証。卒業後に詰め込める端末知識の容量も増えるってわけ。
さて、特別クラスではローテクプラス、それが義務づけられていた。
僕ら、原始星人は端末に慣れてないから悪戦苦闘だった。故郷で優秀だった奴は慣れさえすれば、なんてことないらしい。いつだったかカプートなんて、新しい知識が流れ込んでくる瞬間が好きなんです~とか、抜かしてくれたしね。僕は妙に頭がクリアーになるその瞬間、自分の脳が膨張するような感覚が大嫌いだ。いつか爆発してしまうんじゃないか、と心配になる。それにそれを定着させる為に何度もラーニングしなくてはならない。なんてことはない繰り返し応用するだけだから、それも面倒。
装置からは頭の皮膚の表面細胞に痛みがないミクロな針のようなものが複数差し込まれる、そこから脳神経に信号が送られる仕組みなんだけど・・僕は絶対、痛みはあるような気がする。ほんとだって。気になっちゃってさ、落ち着かない。だから、あんなもんはなるべく使わない方がいいと思う。

幸いなことに、ワーム使いである僕はスポーツ特待生のようなものでお勉強はほとんどしなくても教師に怒られたりは全然しなかった。
その代わり、シドラ・シデンが充分に怒ってくれたからね。とほほ。
「基礎ぐらいせんと軍隊にだって受からん!」
鬼教官と化したシドラに怒濤のしごきを受ける日々。
僕がクラス変えをした頃はアギュのわがままでユウリが昼間はしばらくいなかった。
もう、ユウリがいなくて暇だからってさ。そんな真昼の恐怖も夢で女神に会えれば、ニッコリってわけだ。
だいたい僕は、性分として体を使うことなら得意なんだけどな。
でも、スポーツの時間の参加者、少な!選択してる生徒自体、ほとんどいないでやんの。
肉体の鍛練は軍人希望者が多いから、ニュートロンはもともといないとは思ってたけど。
シドラ・シデンと二人きりでなくてほんと良かったよ。
ユウリもいたし。あと数人の原始星人。主に筋肉を効率良く作り、長期の宇宙生活でも保つ為のトレーニング、無重力空間でのバランスの取り方や泳ぎ方とか、後半は作業スーツを着用しての船外作業もあるらしい。すごい楽しみだ。
ニュートロン専用のパイロット養成学校以外でそんな高度な練習をさせてもらえるところはない。星の数ほどある各種の訓練校だって、原始星の人間は特別の申請がないと入学できないんだからね。

実はワーム使いである僕は、シドラと一緒に特別訓練も受けなくてはならないはずだった。シドラもユウリと同じように定期的に第23惑星へ通っていた。なんでも、そこは訓練用の人工の異次元空間が構築されている部屋があり、そこでワームと戯れたりできるらしい。勿論、それは研究所のワームを用いた実験に協力するってことでもあるらしいが。
「まあ、バラキの機嫌次第だな。」
シドラは楽しそうにその体験の土産話をしてくれる。
「まだ、パートナーとなって日が浅いから。奴らも無理強いはできない。」
「ねえ、(夢でワームに乗るのと)どこが違うの?」
「こればかりはおぬし自身が体験してみないとな。」もったいぶるシデン。
「口では言えん。」
上機嫌のシドラ・シデンはこれでも最大限に口数が多い。
「ちぇ!けち」シドラの目が細くなったが、僕は無視。
「僕はいつからその訓練、受けれるの?」
「もう少し、大きくならんとな。」
これは僕の背のことではなくて、ドラコのことだ。
「引っ張っても無駄だ。」
(にょ~)ドラコが申し訳なさそうに縮む。縮むなよ。

また、ユウリがソリュートの練習だか、研究協力だかでいない別の日。
僕はシドラに聞いた。
「自分からピクニックに起きるにはどうしたらいいの?」
シドラは軽蔑したように僕をチラリと見た。
「起きたいのか?」
「だっていつも起こしてもらってばかりじゃない。」
「フーン!」これ、鼻から空気が抜けた音だからね。しかも、すごく馬鹿にした調子で。
「本来なら、ワームに起こしてもらうのだが。」
「え?シドラはバラキに起こして貰うの?」
「ワームは寝ない。」
僕は肩の上で惰眠を貪るドラコを指さした。
「これって、ワームと違うの?」授業中でもうるさいのよ、イビキ。
「おぬしの勉強がはかどらないのはそれと関係ない。」
「わかってますけどさー。」
「まだ幼体だからだ。」シドラは少し耳をすます。
「以上、バラキ談だ。」
「あかんぼってことか。」
「寝る子は育つ。」

以上、シドラ談だ!。(違うにょ~ドラコは赤ちゃんじゃないにょ~)
まだ言うか!バラキ談。(バラキなんてドラコ、こわくにゃ~ごにょごにょ~)なんか言った?
(んにゃ~)じゃあ、そこで焦ってなさい。

そんなある日。シドラ・シデンが惑星にバラキと研究者達で遊ぶ為にでかけた日。
僕は朝から一人だった。アギュはピクニックに戻って来たが、昼間は相変わらず出て来なかった。ユウリも付き合わされているのか、現れない。
僕はそうそうにさぼりを決め込もうかと迷った。こんな時にカプートでもいればいいのに。
部屋を出て、教室へと外側の回廊を歩いていた時だった。僕は見覚えのある光を外の無重力リングに見つけた。アギュが外にいるらしい。ってことはユウリもいるのだろうか。
僕は回れ右をして教室に背を向けた。

僕は無重力リングへ向う扉を開けた。3つの扉を次々に開けて体をならして行く。
最後の扉を開けて重たいような空気の中に漂い出た。太陽光が当たってないこちら側は肌寒い。反対側はかなり蒸し暑いに違いない。もちろん、透明なゴムチューブのような円管は紫外線や宇宙線から、真空と絶対零度から僕らを守っている優れものだ。
僕は記憶端末のラーニング装置を頭からはぎ取ってコードを首に巻き付けた。僕があまりにあちこちにいろんな物を置きわすれるので、あきれたシドラ・シデンにコードを付けられてしまったのだ。ソリュートらしき音は聞こえなかった。自分の息と服の擦れる音だけが聞こえる。ここに来るのならスポーツ用の白い耐熱スーツの方が良かったのだが、どうにかスクールのどぶねずみ色の制服でも耐えられないことはない。ただ、余分な布が多いので泳ぎずらいのが難点だ。
僕はチューブの内側を蹴りながら慣性を使って泳いで行った。チューブの始まりは狭いのでまだ進みやすい。でもこれも蹴る力とか、方向とか微妙にあってなれないと意外に難しいもんなんだよ。ふざけていてグルグル回転したあげく、吐いてしまった同級生とかいたからね。(もちろん、空気はゲロごと常に浄化されて入れ替わってるからね)
確かにここはカメラで監視はできるだろうが、盗聴は難しい。唇さえ読まれなければね。
かなりすすむとチューブが広くなる。惑星から見てリングの一番頂上に当たる部分はやや小さいホールぐらいある。逆立ちをした状態でスクールの回転するドーナツを見る。ここは回転しない、だから無重力なわけだ。チューブがなければ上か下かとかどのくらい進んだとかの距離感が、自分でわからくなってパニクってしまっただろう。パニックこそが無重力空間での最大の敵と言ってもいい。ストレスで自分を攻撃してしまうんだから、笑えない話だよ。

僕はやっと青い光を遠くに見つけた。そこを目指す。
すると見る間に、青い光の方がこっちに近づいて来た。
アギュの意地悪い顔がかすかに判別できた。
僕はまぶしさに目を細目ながら、挨拶した。
「よう!」
「邪魔すんな。気の利かないヤツ。」いきなりのお言葉。「さぼってんのか。」
「お前もじゃん。」僕はチューブの端に避ける。
「オレはいいんだよ。」不機嫌そうな声が急速に近づく。
アギュは慣性とかいらないのかね?なんの推進力だろ?おなら?
「おならじゃねーよ!」
「ああ、はいはい。特別なんだもんね。500年生きてるし。」
「ほんとむかつくな。オマエ。」とりあえず、キサマから出世。
「そりゃ、お互いさま。」
「ユウリなら、あっちだ。」アギュは通り過ぎる。
「アイツに会いに来たんだろ、どうせ。」
「あんたは帰っちゃうの?」
「むかつくヤツが来たから、気分が悪くなった。オレは寝る。」
「そりゃ、ごめんなさい。」後ろ姿に舌を出す。
「お年寄りは体をいたわらないとね。」
アギュは振り返ると僕を侮辱するような怖い顔を作り舌を出して加速して行った。
ほんと、子供のやることだよって、僕が先か?。

(ガンちんは悪ふざけし過ぎにょ?)自分でも困った癖だと思うけど、なかなか直らな いもんだね。

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8  ベラス・スクール-3



アギュはなかなか機嫌を直さず、夜のピクニックは僕らだけの日々が続いていた。惑星に行かない時、僕らはスクールの回りで追い駆けっこしたり、生徒達の居住空間に忍び込んで隠れんぼしたりもした。カプートも来たり来なかったり。勉強が忙しいとか言っていた。
それで、仕方なくシドラ・シデンとキャッチドラコをやってみた。シドラは別に嫌がらず、かといって喜ぶでもなくたんたんと玉をこなした。シドラの球は重い重量級だ。さすがゴリラ並みの握力を誇るだけある。しかし、怖い顔で無表情でやるんでこっちの気分が盛り上がりようがない。そこそこ動きもいいがカプート程の縦横無尽の反応は望めなかった。僕が相手では、やる気がでないだけかもしれない。だって、ユウリとやるととても楽しそうだし。
ユウリときたら、誰とやってもはっきり言ってバトミントン状態。空振りしてはキャーとかイヤーとか言って、生き生きして可愛いから下手でもなんでも許す。
バラキまでやりたそうな雰囲気があるもんね。でも、それは無理だって言っといた。
どうしたって、カプートがいないと僕はなんとなくストレスがたまってしまう。特別クラスでは体を動かすのも一苦労だもの。スポーツ好きには耐えられないよ。
授業だってスクールの監視体制を知ってしまった今は、現実の中じゃ心から馬鹿ができない気分だもの。

言うまでもなく特別クラスと言ったら、もう特別に監視されているクラスと言って間違いないんだ。その上にニュートロンの焼きもち焼きと差別主義者がまわりにたくさんいて、目を光らせてる二重苦、三重苦。なんせユウリはソリュートで有名人だったし、シドラ・シデンはでかくて目立ちまくりだったしね。
(まさにクラスにそびえ立っていた。しかし、シデンファンが遠巻きながら特別クラスの女子の中にもかなりいたのには驚いた。これは僕もかたなしだったよ。)
とは言え、新参者の僕は二人ぐらいしか知り合いがいなかったから他に行動を共にする人がいなかった。それだけでも、痛いぐらいの視線を感じたもんだ。いやーなありがたくない、そんなスター気分。
そんなだから二人やカプートと思いきり本音で話せる、夢の時間は僕にはとっても貴重だった。ユウリの話によると、アギュはずっとふてくされてるみたい。現実でも授業に出てこなかった。
その上でさらなる嫌がらせにアギュは出た。昼間のユウリを自分の手元に置いて、なるべくスクールに出さないようにしだしたんだ。
おかげで僕はシドラ・シデンとお互い、気の乗らないおしゃべりをする羽目になる。
シデンファンの年下の女の子達に睨まれたり、その中の一人と仲良くなりかけたり、それがばれて今度はシデンに思いきり軽蔑されたり。

(シドラはガンちんとは正反対のタイプにょ!)いやはや、今も昔もストイックな奴だからまったく、やんなるよ。(手本にするって話もあるにょ)そんなことしたら、僕が僕でなくなちゃう、それでもいいの?(ん~それは困るかにゃ?)よしよし、愛うい奴じゃ。

まあ、とにかくいい憂さ晴らしだったよ。勉強に息詰まり気味の僕としては。ニュートロンの女の子達には冷たくされても、めげずにトライすることが大事なんだと言うのがわかっただけでも、僕の方のトラウマはかなり癒された。
シドラ・シデンは女の子との付き合いが苦手で、面倒臭いらしいという点を除けば同じジュラ出身だから共通点もあったし。
まあ、サバサバしてわかり易いし、言われたことを気にしなきゃ結構いい奴じゃん。馬が合うっていうか、ワームが合うっていうか。

(ドラコもバラキと仲良くしてみたにゃ!)
そうそう、苦手克服!努力が一番!
(結構いい奴にょ!)そうだろう、そうだろう。バラキにも僕がそう言ってたって言っといてね、よろしく!(自分で言えばいいのににゃ~)

アギュは昼間のユウリを僕らから取り上げて、溜飲を上げたかもしれない。
しかし、ユウリがアギュに呼ばれて授業にも出ないことをケフェウス教官やニュートロン達は喜ばなかった。アギュは相変わらず、他の人には心を開かずほとんど話もしなかったから。シドラ・シデンの話によるとユウリは惑星で行われていたソリュートの実験もすっぽかしたらしい。
「スクールでは実験ができないからな。だが今さらアギュに文句言うのも、なんだと思うがな。もともとケフェウスはユウリを惑星に行かせたくはなかったのだ。」
「ケフェウス教官が?なんで?」僕は不思議に思う。
「惑星に行くと所長がユウリと会う可能性がある。」
意味深なシドラ。「臨界進化体と一番親しい生徒に所長が会いたがらないわけはない。」
「会ったことないの?」白と金色の面影がかすめる。
「夢以外はな。」鼻をならす。「ケフェウスが目を光らせている。」
「あやつはどんなささいなことでも、イリト・ヴェガの望みは叶えたくないのだ。」
だけど、そんな教官室への呼び出しもアギュが行かせなかったとか。
アギュがますますユウリに固執してるなんて噂がまたも広まってしまった。
これには僕もシドラ・シデンもまったく為す術がなかった。

全部、アギュが悪いんだ。(ユウリ可哀相にょ?)まったくだよ。
嫁入り前の娘の評判を落としまくってさ。

しかし。
ユウリは自分の評判なんかまったく気にしなかった。ユウリは僕らには包み隠しもなく二人で昼にしているゲームや議論の話をしてくれたし、それを聞くとアギュって改めてガキだなあと感心してしまった。12歳からいくつも年を重ねていない、500歳。
それに、二人が完全に二人きりになる時間は就寝前に彼女がソリュートを弾く時だけだってことを僕はシドラから聞いて知っていた。アギュにはニュートロンのお付や世話係が常に付いていることとか。だからほんとは、勝手放題な口さがない噂よりも実際はかなり少ない時間でしかなかったんだよね。

そして、何故かアギュは突然機嫌を直した。
もともと気分屋だと思っていたから僕はあまりに気にしなかったけど。
ある日唐突に、彼はピクニックに戻って来た。多分、喜んだのはユウリだけだと思う。
相変わらずのハイテンション。相変わらずの嫌み。
「なんでしょうかね?なにかあったんでしょうか?」
カプートだけはアギュの上機嫌をとても気にしていた。
「カプートこそ何んで心配してるの?」
「ぼくが参加することがずっと、許されてるからですよ。」
「僕らはユウリが呼んでんでしょ?」僕には疑問がなかった。
「そりゃまあ、ユウリがアギュに、お願いしてるからかもしれないけどさ。」
そう思うとちょっと不愉快。カプートがさらに落ち込ませるようなことを言う。
「だってアギュが本気で嫌がったら、ユウリはぼく達を呼びませんよ。」
「まさかー。」僕は厭な気分で絶句した。
「本当です。残念ながら。」彼は髪を気取ってかき上げる。ふざけてんのか?。
僕はふてくされた。「それはどういう、データの組み合わせからなんだよ。」
「これはぼくの勘ですね。」
「全然、物理じゃねーじゃん!」
「物理はすべからく推論、つまり勘から始まるのです。」カプートはもったいぶる。
「あとはそれを証明するだけと言うわけです。」
「証明できるんかよー!」僕はつい噛み付く。
「公式でも作りましょうか。」からかわれていたのにやっと気が付く僕。
「なんだよー!」カプートもニヤリとする。
「でも、本当に公式化できるか、やってみたらおもしろいかもしれません。」
「やめて。お願い、頼むから!。」
二人でこづきあいながら笑いあう、そのすき間をドラコがにょにょとじゃれまわる。器用なワーム。
ふと目を上げると遠くからアギュと目があった。アギュはプイと横を向く。
隣のユウリが困ったような表情で謝る仕草。何もユウリが謝らなくたって。
側に控えるシドラ・シデンはあきらかに面白がっている。
カプートと又、ボールを投げ合いながらも実は僕の心中はおだやかではなかった。
さっき、カプートに言われたこと。それが、どうしても気になった。
それはどこかで、ほんとにそうかもしれないと思ったからだった。

その日、僕とカプートは一日無視され続けた。
アギュに無視されたって僕は平気なんだけどね。
でも、カプートがアギュが近くに来ると引き気味になるのが僕にはわかった。
だから、僕もその日はアギュにはかかわらないことに決めた。
シドラ・シデンが果敢にもユウリの悪い噂のことを抗議した時はさすがに一言、参加したかったが、そんな隙も与えないアギュが
「勝手に、言わせとけ!」とまったく取り合わい。
そりゃ、アギュは自分が何をやっても非難されることがないから、いいんだろうよと遠くで聞いてないふりして恨めしく思う僕。

なのに。
ユウリときたら、アギュのひたすらオレ様な会話にいつまでも辛抱強く付き合っている。しかも、おもしろそうに笑ったりうなづいたりしてるのだ!。聖母のような微笑みを浮かべ、アギュに話の続きを促したりしてるの彼女を見ると、アギュの話はユウリにとって大変価値のある話題のように思われて、僕の心は乱れた。
しかし、それよりも気になったのは常にユウリの側にいるシドラ・シデンだった。シドラの振るまいが僕にはとても不可解に思えた。シドラはユウリに付き合って話すでもなくいつも二人の側にいる。アギュがいると、ドラコボールにも加わらない。だいたい、あんな退屈なアギュの話を黙って聞いてるなんてシドラに似つかわしくなかった。それが好きとはとても思えなかったのだ。
僕だったら、絶対に絶えられない。チャチャも突っ込みも入れずになんて不可能に近い。
だから僕は、シドラはアギュを監視しているのかな?と漠然と思ったものだ。スクールで聞いた教官達の会話を思い返す。つまり、スパイってこと。
それもシドラ・シデンに似合わないけどね。
ある意味、それはどっちも当たっていたわけだ。

勿論、その真相は後日明らかになるわけだよ。
(ドラコそれ、しってるにょ!言っちゃダメかにゃ~?)ダメ!

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8   ベラス・スクール-2



「我もぬしを完全に信用はしてない。」
シドラ・シデンが僕の気持ちを代言するかのようにカプート言う。
「しかし。我の行けないところでは、おぬしに頼むしかない。」
苦虫を噛みつぶした表情。カプートは黙って頭を下げる。
ってことは、シドラは知ってるんだな。僕以外はってことか。ちぇ。
ユウリは困った顔してそんな僕とシドラを見つめたが何も言わなかった。
「ぼくもソリュートを習っていたんです。」
僕の不満が目に現れたのか、カプートがやんわりと引き受けた。
「かつてソリュートの学科は月に3度、惑星で行われていました。」
「そうなの。これはと言う素質のある人を捜す為に。」
「スクールの全面協力で。」
二人の間に素早い目配せがあったような気がしたのは気のせい?
「じゃあ、カプートもソリュートが弾けるんだ?」
「いえ、ぼくは」悲しそうに「素質がなかったようなのです。」
「惜しかったわ。」ユウリが肩を落とす。「期待の星だったのに。」
「そういえば、我もダメだったな。」シドラも参加。
「残念だったわ。ほんと、期待の星だったの。」涙を拭く仕草。
なんかからかわれてない?僕。ちぇ!
「・・じゃあ、いいや!」僕はやけくそではしゃぐしかない。
「今は聞かないよ。それより、もう一勝負どう?」
面倒臭い時もこれに限るってね。

(ガンちゃん、えらいのにょ~)
ほえ?何が?(カプートにはしつこくしなかったにょ?)
ああ、それか。本人が進んで言いたくないことを無理強いするのはどうかと思っただけだよ。そりゃ、僕だってめちゃくちゃ、気になったけどさ。その時は、きっといつか話してくれると思ったしね。
(そういうとこガンちんの唯一の良い所にゃ?)
ごるぁ、他にもあるだろうが!怒るどーっ!(にょ~っ!!!)

その日の帰りしなのことだった。
「どうかしたの?シドラ」ユウリがバラキの上で心配そうに尋ねる。
「ん、いやな・・」シドラはバラキに寄せていた体を起こした。
「ワームと内緒話ですか?」
僕の腕の中でドラコがんにょ~んと吠える。
「どうしたの?ドラコ?」
「気のせいかもしれないが・・」シドラも不可解そうな様子。
「惑星でバラキがアギュの気配を感じたというのだが。」
「アギュ?」
「アギュが来てるの?」ユウリはあわてて回りを見渡す。そんなに喜ぶなよなー。
僕もドラコを見る。ドラコはにゃにゃと首をかしげる。
「いないんじゃないの?」いたら、テンション下がりまくりだよ。
「もうここでは感じないそうだ。」
僕らは足下に迫る宇宙ステーションを見た。スクールは平穏な様子。アギュ・ルームが光ってるのも透過して見える。
「勘違いじゃないの?」
「バラキも確信はないと言ってる。」
「ひょっとして、ぼく達とは違う次元を使えば可能かもしれません。かなり離れた次元ですが・・アギュがそこまでできるなら・・」と考え深げにカプート。
「覗きだ、きっと。」僕は容赦しない。
「実はどっかで見てんじゃないの?あいつのやりそうじゃない?。」
「やらないと断言はできないが。」
「アギュはそんなことしないと思うけど。」
ユウリだけがアギュを弁護する。カプートは考え込んでいる。
「アギュは思った以上に臨界化が早いのかもしれませんね。」
「まあ、そこまで暇じゃないかな。」僕は話題を変えた。
「それより、いよいよ明日こそ僕のクラスデビューだよ。特別クラスってどんな感じ?」
「覚悟しておけ。」即座にシドラが応じる。「いけすかない。」
「勉強がとても厳しいわ。スポーツはほとんどないの。」
ますます憂鬱になりそうだよ。
「ひとつ、いい点がありますよ。」
カプートがスクールのドーナツの回りに張り出したチューブを指さした。
「無重力リングを使用できますよ。」
「ああ、あそこはいい。」シドラも笑う。「かなりの運動になる。」
ユウリもすかさず付け足す。
「それに、監視もされずらいの。」
僕は透明なチューブ状の回転してるデッキを見た。ここは無重力の訓練が行われる場所だから、授業でしか使用したことはない。僕の好きな授業のひとつだが、一般の生徒にはとても回数が少なかった。ここが使いたい放題なんて、ちょっと楽しみ。
「いいとこあるじゃん。特別クラス!。」
気持ちが前向きになる。単純だなー僕も。(それでこそ、ガンちゃんにょ!)

そして僕は次の日、一日遅れで特別クラスに移ったわけだ。
「ガンダルファ、こっちよ。」
だだっ広い心細い教室の中でユウリが笑顔で手を振ってくれた時は、ほんとうれしかったな。回りがオッと僕に注意を払うのがわかったので、ちょっと誇らしい。スターの友達ってわけだ。
「お久しぶり!ワームは元気?」
「はい、あの時はありがとうございました。」僕は話を合わせる。背中でにょ~ と相づちの声。勿論、僕とユウリにしか聞こえない。
咳払い。シドラ・シデンが隣にいたので僕はそちらにも最高礼のご挨拶。
シドラに「フン!」と言われながらも二人と並んで座ることに成功。
なんかみんな僕らを遠巻き?ちょっと浮いてるデカイ集団だ。
「わからないことがあったら聞いてね。」
体調最高の現実でマジカで見るユウリはやっぱり、最高にかわいい!髪に付いた記憶端末器に赤い星が付いている。目に鮮やか、よく似合う。ピンクのスーツに映えている。自家製みたい。裁縫なんて原始星の遺物だとか言われてるけど。手先の器用さの現れだ。
ユウリと並んで授業なんて、マジ幸せ過ぎて怖いぐらい。シドラ・シデンにいくら鼻を鳴らされたって平気だっての。

だけど、世間的には出世とみられるこの出来事は、予想外に僕にとって試練となった。
なぜなら、特別クラス入りした僕にかつての上級クラスの仲間たちは一様によそよそしい反応をしたからだ。ワームが授からなかった彼等の何名かはもうすぐ、卒業することになっていた。大半はジュラに帰って高級官僚になる道を進むらしかった。僕はあからさまな羨望と反感をぶつけられた。僕はもう、彼等に歓迎されていなかった。
かと言って、特別クラスにも何人かの原始星出身者がいたが気の合いそうな奴は一人もいなかった。まったくシドラの言った通りだ。
ご挨拶がてら一人一人と注意深く話をしたが、彼等はみんなやせっぽっちで体も心も余裕がなく、ひたすら勉強だけに夢中だった。(勿論みんな僕とは宗派を異にする。)
ユウリとシドラとも積極的に付き合いたい様子もない。カプートみたいに運動にも素質を持ってそうな奴なんか、もちろん誰もいなかった。
特別クラスと言っても準クラス5つを含めて800人ぐらいいたけどね。
いないとは予感してはいたが、実際にカプートがいなかったのは僕にはかなりショックだった。
しかし、卒業した若い特待生も働いてたから、当時の僕はカプートはそっちなのかと考えていた。僕たち、生徒が入れないエリアには教官に教師、講師とか監督とか医療者に指導者、学科研究者とか助手とか、もうウジャウジャいたからね。

(いたらドラコがわかったにょ~)僕だってわかる自信あったんだって。
(なんでにょ?)雰囲気とか、体格とかさ。彼の筋肉は本物だったもの。
(キャッチドラコは本格スポーツにゃ!なめたらダメにょ!)その通り。

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8



            ベラス・スクール

翌日、アギュはピクニックに現れなかった。
体が寝静まった後、僕の意識はシドラ・シデンに起こされた。
「ご機嫌斜めらしいな。」上機嫌で開口一番。
「昨日の今日だからな。」
ユウリが何度も呼びかけても彼は光り輝く自分の部屋から出て来なかった。アギュの部屋の回りは臨界進化体の肉体の方を逃がさない為に最高の次元バリアーや電磁結界が幾重にも張られていた。そのせいなのか、アギュが拒否してるのか、肉体がない僕らにも彼の部屋には入れなかった。
「ぼくがいるからではないのでしょうか~」
帰ろうとするカプートの精神をみんなが引き止める。特に僕。
「カプートの所為じゃないわ。」ユウリが未練たらしくアギュの部屋をまだ見ている。
「あやつは甘やかされている。」
「たまにこんな事、あるの・・彼は傷つきやすいのよ。」
「500歳の純情ボーイってわけかー、たち悪そう。」
「もう、ガンダルファたら。あなたが彼をいじめるからでしょ!」
えー!どちらかと言うと昨日、殺されかけたんですけど・・カプートだっていじめられてたような・・僕が怒られちゃうの?    (ガンちゃん幸薄いにょ~)
「で、どうしますか?今日。」今日のカプートは眼鏡がない。でも、髪はボサボサ。
「もちろん、行くっしょ!」僕はアギュに八つ当たり。「惑星にゴー!」
「我は構わんが?」後ろに目もやる。「バラキもな。」
「そうね。」と、小さなため息。「行きましょうか。」
やっと、ユウリはアギュルームから目を離した。

僕にとっては、2度目の楽しいピクニック。アギュなんかいなくても、僕にはまったく問題じゃない。と、その時、僕はギョッとした。思わず、近くにいたシドラ・シデンの腕につかまってしまったんだから、不覚としかいいようがない。
「おぬし・・?」シドラはドスの利いた低温で不快そうに唸った。
「あれ!あれ見てよ!」僕は夢中で振り返る。「ゆ、幽霊?」
ユウリとカプートがポカンとし、すぐに納得したように笑った。
「ああ、あれね。」
「あれは大丈夫ですよ。よくあります~」
僕が見つけたのは、薄ぼんやりとスクールの回りに浮かんでいる影だった。
「なんだ!」シドラが爆笑した。「あれが怖いのか!」
し、失礼な奴。でも、その時の僕は必死。「なんだよ。あれって!」
「あれは他の生徒の精神流体ですよ~。」
「ほら、他にもピクニックに参加できそうな素質のある子がいるって言ってたでしょう?」
ゆうりは憂い顔を忘れてニッコリ。
僕はぼんやりとした影がフラフラと彷徨っているのを改めてよく見てみた。よーく見ると確かに人の形、子供らしき顔が見分けられた。
「じゃあ、こいつも僕らみたいなの?」
「それは違うな。」シドラ即答。
「おい!ちょっと、君!」僕は構わずその子供に話しかけた。体を掴もうとするが手は素通り、何も掴めなかった。シドラの腕は掴めたのに。
「同じ夢でも私達とは階層が違うのよ。」ユウリが寂しそうにつぶやく。
「努力して同じチャンネルに合わせないと一緒に遊べないわ。」
そういう子供がいくつか、行き場もなくスクールの回りに浮かんでいるのが僕にも感じ取れた。ジュラの夢を繰り返し見た入学当初がふいに胸に蘇ってきた。
「彼等に話しかけても無駄です。彼にはぼくらが見えませんし、声も届きません。」
「当人は夢の中にいる自覚しかないだろう。」
「チャンネルってさ、僕らは合わせられるの?」
「できると思うけど・・」ユウリは言いよどんだ。
「でも、できないわ。ガンダルファも聞いたでしょう?」
「アギュさんが嫌がるからです。」カプートがキッパリと言う。
「そうなんでしょう?ユウリさん」
「アギュが心配してるのは人が増え過ぎると気付かれやすいからなのよ。けしてお山の大将でいたいからだけじゃないわ。」
シドラ・シデンが意義を唱えて鼻を鳴らした。僕もそれに大賛成。
大勢でつるむのは僕だって好きじゃないが、ユウリが熱を込めてアギュを弁護するのは聞いて楽しいわけない。
「言っとくがな、バラキが待ってる。」
僕らの上で赤い目が瞬く。
「バラキさんは待たされるのが大嫌いなんでしたっけね~。」
カプートは巨大な闇に向って大胆に敬礼した。

なんとなく惑星でも、アギュがいないとみんなが生き生きしている気がしたね。
ご機嫌なシドラ・シデンがユウリと話し込んでる間、僕はまたカプートと心置きなくドラコボールを始められたし。
ユウリも気になったが、僕にとっては体を動かす感触はバーチャルでもあらがいがたい。現実では寝相による筋肉痛で欠席中なんだけどね。
肩慣らしの後、カプートがノソッとつぶやく。
「アギュは焼きもちをやいていたんですよね~」
「焼きもち?」僕はポカンとした。「誰に?」
「ぼく達ですよ。」カプートはドラコ玉を空に放り投げてキャッチした。
ドラコはんにょんにょと喜ぶ。
「アギュは産れてから一度も、誰かとキャッチボールなんてしたことないんでしょうね。」
カプートは少し寂しそうに笑った。不思議な奴。アギュなんてどうでもいいのに。
「そうか。優しいんだな。」
「違いますって。誰もが推察可能な歴然たる事実です。」
カプートは肩をすくめた。
「彼はずっと友達なんて持ったことないんです。特に同年代の男友達は、一度もね。」
5歳でスクールに連れて来られ、大人の研究者の中で育ったアギュ。
僕はそれを聞いて少しだけ、アギュがかわいそうになった。
アギュがそれを聞いたら、きっと怒り狂っただろうけど。
それより、試合、試合!

「・・ところでさ、厄災の星って何?」
小休止の時、聞いてみた。
「ああ、あれですか?」カプートは草にぺたんと座りこともなげに言う。
「オメガ=スパイロのことですよ。有名でしょ?」
「ああ、アギュの誕生した伝説の星とか。」
「今や、存在そのものが伝説ですけどね・・」
カプートの声には珍しく皮肉な調子がこもった。
「アギュは昔も今も大いなる厄災と呼ばれています。」
その話は僕も聞いていた。アギュの所為で住民バラバラとか言う、気の毒な噂。
「お前もそこの出身なの?」
「ええ・・まあ。第4世代だから、スパイロの土は踏んだことはないけど。ぼく達はみんな親がいないんですよ。知ってますか?ニュートロンみたいに、原始人類なのに人工繁殖なんですから。」カプートはイライラと髪に手を突っ込んだ。
「ああ、慣れないな!夢なのに!この髪形!」
「それって、お前がそんな変装してるのと関係あるの?」
「あ、わかりますか?」
「わかるっての、コメディみたいじゃん。そんなカッコ。」
「カプートに入れ知恵したの、あたしなの。」
振り向くと他の二人が立っていた。シドラはニヤニヤしている。
「ちょっと、凝りすぎだと我も言ったろ。」
「どうしよう、アギュも気が付いていたかしら?」
「気付くでしょ、普通!」僕、バッサリ。
「アギュはもともと自分以外は関心がない。」
シドラが慰める。
「ほら、この目です。」青の縁取りが入った緑瑪瑙のような瞳を指さす。
「スパイロの人間の特徴です。オメガ-θの星系の中でも特に、惑星スパイロの住民
90%にこの縁取りがあらわれます。」目の前に腕をのばす。
「肌も髪も青の色素が強く出やすいんです。惑星の成分の影響ですよ。アギュも青い光が強くでてるでしょ?。きっと関係あるんですよ。」
「そうか、それならアギュならひと目で気が付くってことか。」
「あやつは人の目なんか見ないぞ。」尚も固執するシドラ。
「・・あいつ、厄災の星って聞いたら固まってたよね。」
「スクールの初期にはここはスパイロから連れて来られた子供達の研究施設でした。親達は研究所で・・引き離されたんですよ。それを恨まない子供はいないでしょう?連邦を憎むより、一緒にいたアギュを憎んだ方が簡単です。その時に彼はかなり、色々言われたみたいですね・・彼が引きこもったのはそれが原因でしょう。」
カプートがボソッと言う。
「なんせ大いなる厄災だからな。」シドラは片眉をあげる。
ユウリは沈んだ顔になる。
「口に出さなくても恨みは伝わるわ。まだ幼かったアギュにはすごいストレスだったはずよ。」そんなアギュを起こしてしまったことをユウリは後悔してるのだろうか。
「あの人が今でも人に攻撃的な態度を取るのは、そんなトラウマがあるからよ。人を傷つけるのは、逆に傷つけられるのを恐れているから。だからスパイロの名前は彼の前ではタブーなの。アギュはああ見えて、意外に繊細なんだから。」
へーさすが、純情ボーイだけのことはある。
「でもさ。いつまでもそんなにまわりが庇ってやる必要あんの?」僕、ちょっと意地悪。
「もっとたくましくならないとさ、これから先ずっとやっていけないじゃん。」
彼の場合、本当に永遠に子供のままだってありえるんだから。それってどうなのよ?
「ほら、もうガンダルファ!
お願いだから絶対、アギュの前ではそんなこと言わないでよ!。」
うーん、そんな目でお願いされちゃうと・・ユウリに嫌われるくらいなら言いませんよ。
「口がさけても。」僕は誓った。
「ぼくもどうかしてました・・ぼくは恨みなんて持ってないと思っていたのに・・そんな世代は、ぼくの曽祖父の時代ですから。」
「曽祖父?あでも、スパイロの人間は親がいないって言わなかった?」
僕は無遠慮に突っ込む。
「書類上はいますよ。一緒に暮らせませんけどね。すべて管理されてますから・・」
「いつ臨界進化しないとも限らないからな。」むっつりとシドラ。
「ええ。初期はまだ、連邦政府も何が起こってるのかわからず、事態を把握しきれなかったので緩やかでしたが。前の前の臨界体ぐらいから・・もう徹底的に。どの種族も未だに、それぞれ管理下に置かれています。」
辺境のジュラは原始星の中でも始まりの人類から離れたDNAの位置づけに置かれている。当然、臨界進化なんて出したことはない。そんな星出身の僕にとっては知らないことだらけ。カプートの星は、始祖の血がもっと濃いはずだった。
「別にスパイロだけが特別じゃない。臨界進化が出てしまったら、当たり前の事なんです。アギュ当人を恨むのは筋違いなんです。でも、わかったつもりでもいても、つい口を出てしまったんです。アギュをとっちめてやりたくなった・・まったく・・ちゃんと消化できてなかったのかもしれませんね。」ため息を付く。
「ぼくも大人げない。」
大人げないって、お前いくつなんだよ~。
カプートのつぶやきを僕は聞き逃さなかった。
「例えアギュから絡まれたとしてもだ。」そんなカプートの背中にシドラの片手の喝が飛ぶ。「おぬしはしっかりせねばならん!」とっても痛そう。
筋肉痛になるくらいだから痣にもなるよね、きっと。ププッ。
僕は顔をしかめてるカプートに向き合った。
「あのさ、カプートって実際はいくつなのよ?」
「それは・・」
「ガンダルファ、お願い。」ユウリが僕の肩に触れる。
「その事は今は聞かないであげて・・」
「ユウリ・・?」
「あなたが信用できないわけじゃないのよ。アギュはあなたの思考のほとんどを読んでしまうみたいだから・・知らない方がいいと思うの。」
つまり・・僕が丸見え君だから?ってこと?
「うわーショック!」
「そのうちコントロールできるようになったら教えますから・・」
カプートがすまなさそうに言う。んにょんよ? とドラコがおもしろそうに覗く。
「ただ彼は、カプートは悪い人じゃないから・・信じて。」
「ありがとうございます、ユウリさん。」
カプートのユウリを見る感謝の眼差し。ユウリは口を引き結んで真剣な眼差し。
なんだよ。ユウリにこんな目をさせるカプートに嫉妬!
僕って手当たり次第に嫉妬し過ぎ?。

(純情ボーイなのにょ)殴るぞおい。

GBゼロ-7

2007-09-21 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-7  ドラコ・ボール-2



何回か目に、玉が反れてアギュ達の近くに飛んだ。
「うるさいんだよ!オマエら!」アギュがドラコ玉を掴んで投げようとするが空振り。
ドラコはほどけながら、フラフラとアギュの手から逃げる。
「オレがあぶないだろ!オレになんかあったら、どうすんだ?」
どうもしません、はい。
ユウリとシドラが僕らを見て、なんか言って笑っている。うわあ、シドラが笑ってるよ、初めて見たーと動きながらもすかさずチェック。
アギュが空にボールを追うと、バラキが8の字を描いている。ワームも楽しいのかな。
臨界進化体様以外はおおむね好評みたい、このゲーム。
アギュはまだ何かわめいていたが僕は気にせず、取り返したボールを再び手に取った。ドラコもまだまだ、やる気万々。
そして、カプートの目も迎え撃つ勝負師の眼差しだ。

なんと言っても、カプートが反射神経も運動能力も僕と互角だってわかった事は大発見だった。嬉しくてしょうがない。スクールにだって僕と互角な奴なんて、そういないよ。
今度はテニスのように互いの腕で、激しくボールを打ち合った。
「駄目だー、もうタンマ!」さすがに僕も息をつぐ必要を感じ、草の上に体を投げ出す。カプートも座り込み、ゼイゼイ息をした。ドラコもグッタリとしてる。
「ひどいですよ~ガンダルファ~強引だな~明日はきっと筋肉痛です。」
「夢でも~筋肉痛になるの~かな?」
「自己催眠というのがあるし~ほら~思い込むと傷ができたり~するでしょ?
 夢でも無意識に~対応して~脳から信号が発信されたりしていますから~。」
「じゃあ、僕らごっつい寝相してたりしてー!」
「ベッドから転がり落ちてたりしますよ。」
わはは、そりゃ愉快。モニターで観察しながら首をひねるケフェウスを思い浮かべた。
そしてふと、気が付く。カプートの顔を覆っていたあの時代錯誤眼鏡がなくなっていた。
気のせいでなく、手も足も伸びて服もすっきり。彼の精神がまとっていた鎧がほころんでいたわけだ。

「おまえ!」
視線ですぐそれに気が付くカプート。僕は思わず、彼の手を押さえる。
「おまえ、それかけない方がずっといいじゃん。」
彼の目はどんよりとなり、うっとしい髪に再び覆い隠された。
「なんか事情があんのね?」僕は察した。
「ひょっとして、モテすぎるのが嫌とか?だったりして。」
カプートはブッと吹き出した。
「女がほっとかんぜ。もったいない。」
「言っときますけど、ぼくはいわゆるそっち系じゃありませんよ。」
こいつも思考が早い。「男女交際は学問の邪魔です。」
「ふ、古っぇ~ダッセェ~!」僕、思わず絶叫。
大笑いするとカプートも笑った。しゃべりも随分、テキパキしてきたし。
んにょ、んにょ! ドラコも地面を這ってくる。あーおかしい。

(カプートも楽しかったにゃ!油断したにゃ!)
思えばこの時も、アギュはずっと側にいたんだよな。
(アギュは結構鋭いにょ。)
どんくさい割にはね。いけずってか、意地悪だもんねー。

「お前、今どき出世目指してんの?」僕は息も絶え絶えに笑いながら聞いた。
「原始体でも下地になる脳はそんなに変らないのです。」
カプートは再び曇った眼鏡を顔にかける。彼の手は意外にも骨太で男っぽかった。
「連邦の中枢に入れれば・・今の原始星政策の見直しをはかることも可能です。」
カプートはもう最初ほどブカブカしてない、衣服の中の広い肩をすくめた。
「とにかく今は勉強です。」
「そうかー」僕は感心してしまった。
「僕なんて軍隊入って生涯安定ぐらいしか考えてないのになー。お前は原始星のみんな のこと考えて、偉いな。すごいよ。」
カプートはすごく照れ臭そうにしたが、僕は本気でそう思ったんだ。
「変えてくれよな。お前ならできるよ、きっと!」
「一緒にがんばりましょうよ、ガンダルファ」
「いや、それは・・」僕は言葉を濁した。

(ガンちんは昔から勉強は今一つなのにゃ)はい、今一つなのでした。っておい!

「あーつまらん!オレはもう帰る!」
アギュの声がふいに響いた。あれ?あっちにいたと思ったのに。
「あ、今いいとこだから。ドラマで言えば見せ場ね。」僕は手の平を振った。
「オレにはくだらんだけだ。だいたい、オマエらに連邦が変えられるわけないだろ!」
「あれ?立ち聞きなわけ?お進化様とあろうものが。」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
アギュは足を踏みならした。カプートが座ったまま、びっくりしてアギュを見ている。滝つぼにいたユウリとシドラも話を中断。ユウリが立ち上がるのが見えた。

「特にオマエ!オマエごときに連邦を変えることなんか、できるわけないだろが!」
アギュはカプートの肩を掴もうとした。僕が撥ね除けなければ、揺すぶっていただろう。
「乱暴すんなよ。」僕はむっとして言った。「何、熱くなってんだよ。」
アギュの顔はその光よりも真っ青になり、所々に赤い斑点が浮かんでいる。お世辞にも見栄えがするとは言い難い。ユウリがこっちに歩き出す。
「生意気言いやがって!たかが原始星の分際で!」
「・・それはどういう意味でしょう?。その言葉、聞き捨てなりません。」
カプートは居住まいを正し、僕は噛み付く。「お前だって、もとはそうだろが!」
「オレはもう違う!」高ビーに鼻をそびやかす。「オレは進化したんだ。」
このお進化野郎が!。アギュがカプートをペシャンコにしてやろうと思いついたのは確かだった。指を突きつけて、偉そうにまくし立てる。
「オマエみたいな進化もしないただの原始星人が、いくらお勉強したって無駄なんだって話だよ!原始星出身で権力持った奴なんているか?遊民ニュートロンだって厳しいのに。オマエなんかが、対等に扱われるわけないだろ!。オマエが百歩間違って、もしも中枢に行ったってな、何もできるもんかとこのオレサマがジキジキに教えてやってるんだよ!ありがたがれ!」
むく犬カプートは落ち着いて返す。
「確かに・・ぼくは進化しなかった・・でも、ぼくはあきらめない。なぜなら、ぼくは・・あきらめるわけにはいかないんだ、だって、」
カプートは突き刺すように言葉を吐いた。
「ぼくは厄災の星の出身だからです。」
カプートのその言葉にアギュは動きを止めた。いきなり彼は青ざめた。
「何?どういうこと?」僕はまごつく。

一瞬の沈黙だったが、アギュの瞳が不気味に揺れ動くのが見えた。発作の前触れみたいに。僕は思わず、カプートを守ろうと彼の前に出た。
ふいにアギュは狂ったように笑い出した。ヒーヒーと息が鳴る。
ユウリが駆けつける。「狂っちゃった?狂っちゃったの?」
僕は口の動きで言葉を伝える。シドラが苦い表情で面倒くさそうに立ち上がる。
「あーおかしい!」アギュは甲高い声でせき込む。
「アギュ、大丈夫?」おろおろするユウリを無視して、口を拭う。
「そうか、オマエ。そうか!そういうことか!それならなおさら、不可能だ!」
カプートは無言。強い目でアギュを凝視。
むせぶ笑い声のなかに切れ切れに混じる声。「まるで、・・敵討ちってか・・」
「どういうこと?どういうことなの?」と僕。
「連邦を変えるなんてことは、コイツになんかできないってことだ!」
アギュは甲高く言葉を発した。
「じゃあ、あなたはどうなんです?」カプートが静かに問い返す。
「二人とももう、やめて・・」ユウリが心配そうに二人を見比べる。。
シドラが手をあげて合図する。バラキも上空で動きを止めた。
アギュは一瞬泣くのかと思った。それぐらい、いっちまった感じ。
「連邦なんか知るか!」アギュは声を爆発させた。「オレが!なんで、オレが!」
足を踏みならす。「連邦なんか、大嫌いだ!オレは許さない!滅んじまえ!」
ユウリを乱暴に押しのけると僕とカプートに向き合う。
「連邦なんか、どうなったってオレの知ることか!原始人もニュートロンもオレの仲間じゃない!オレに関係ない!」
「関係ないって、お前・・」僕はアギュの剣幕に圧倒されて言葉を失う。
「お前って人類の・・希望の星なんじゃねーの?」つい、半笑いになる。
「オレにもしも、力があればだ!連邦なんか焼いてやる、跡形もなくな!」
むき出しの憎しみに僕はおののく。最高進化どころか、最高危険人物だっての。
「もういい!オレはうんざりだ!ちきしょう!見てろ!」アギュの声がかすれた。
「今にオレは、オレは・・!」
意地悪心が僕をそそのかす。その誘惑をどうしても止めることができなかった。
「そうか、そうだった。どーせ、どっか逃げちまうだろ?お前の仲間みたいに。」
そう言った瞬間、アギュはがすごい目で僕を睨んだ。一瞬で、僕はふっとばされていた。
まるで空気のパンチ。とてつもなく固い、目に見えない塊が稲妻のように走り、僕は目から火花が出た。とっさにドラコが後ろに回り込んでいたらしい。おかげで僕は地面に叩き付けられることはなかったのだが、ドラコが甲高い悲鳴をあげた。
にょー!
ぐあおおぉぉぉ~っバラキが吠えた。
「よせ、バラキ!」シドラ・シデンは落ち着いていた。
「それは、まずい。この惑星が飛ぶ。」
「カプート、何を言ったの?」
ユウリがオロオロとアギュに寄り添う。「アギュ、どうしたの?答えて、お願いよ。」
アギュは脱力して、しょんぼりと立っていた。
「ごめんなさい。、ユウリ。せっかく招いてもらったのに。」
カプートは心からすまなそうだった。
「やはり、来るべきではなかったのです。」
「そんなことないわ・・アギュ、アギュだって、楽しかったでしょ?」
「そんなにコイツラがお気に入りか!オレはおトモダチなんていらないんだ!
ユウリの手をアギュが払った。
「オレの保護者ずらは止めろ。」
「なら甘えるな。」シドラ、一喝。最悪の空気。

「しかし、怖いですね~」カプートが何事もなかったように、突然仕切り直す。さっき、自分が原因だと認めたのが嘘のような能天気にな口調。思わず、緊張が解ける。
「実際、ワームの能力なら惑星破壊も可能なんでしょうか。次元と次元の狭間で粉々になるんでしょうかね~?へたしたら、ぼく達、世紀の瞬間に立ち会えたわけですよ。考えて見れば惜しい事をしたわけです。ねえ、ガンダルファ~?」
「あのなあ」僕はあきれながら、下敷きになったドラコの上からなんとか立ち上がった。
「大丈夫か?」シドラが聞く。勿論、ドラコのことだ。
んにょ!見た所、傷はない。赤ちゃんワームも一二度膨らんだ後、伸びをした。目をパチパチさせて僕を見る。
「大丈夫だって。」と、頭上のバラキにも報告。バラキは同じワームのドラコの為に怒ってくれたんだ。僕なんておまけなのは知ってますとも。
「臨界進化体とワームのマジバトル!見たかったです~」
カプートはさっきのマジなやり取りなどどこ吹く風。まだ、残念そうにつぶやいてる。
「お前、実際科学者向いてるよ」とため息の僕。つい、蒸し返してしまう。
「厄災がどうしたって?どういう意味なの?」

「アギュ!」ユウリが叫んだ。アギュはユウリを振りきって空へと飛んだ。
「スクールに帰ったんだろ。」シドラがユウリに寄り添う。
「他に帰るところなどないのだ。」そう、僕らもね。

シドラ・シデンがそう言ったと同時に僕らの体を白い光が貫いた。第23番惑星の地平線から光が空へと何本も走る。
「もう、夜明けだわ。」ユウリはとても疲れたよう見えた。僕はちょっと反省。
天罰か、彼女の目は遠ざかる青い光をひたすら見つめている。
「帰りましょう。」ユウリがやっと振り返った。

こうして長い、初めての夢のピクニックが終わった。
僕は自分の部屋で目覚めた。そして、実際ひどい筋肉痛に襲われた。ドラコと共に午後まで寝て過ごすこととなった。それでその日、初めて受けるはずだった特別クラスの授業を欠席してしまったわけだ。とほほ。
アギュが僕を眠らせず脅えさせ、困らせる為に企んでた当初の計画通りになったわけ。

(あの時は死ぬかと思ったにょ)ああ、アギュの攻撃を受けた時のことだろ?。
アギュ怒るとこええー!と、思ったからさ、それからは大分お行儀良かったでしょ?。
(どうかにょ~それはノーコメントにゃ!)
まあ、他にも心境の変化ですかね?
けしてアギュにブルッタわけじゃないからね。そこんとこ、よろしく。

GBゼロ-7

2007-09-21 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-7



       ドラコ・ボール

闇夜の提灯のように深い森を先に立って飛ぶアギュを追い、僕らは茶色い枯葉や黒い色素の草の上をすべっるように進んで行った。するとアギュの青い光に反射して水面らしきものが鏡のように葉隠れに見えて来た。気のせいか滝の音まで聞こえる気がする。これは夢だから実際に聞いてるわけはない。脳が作り出したリアルな音を感じてるだけなんだろうけども。でも人間の現実だって似たようなもんだったりしてね。
水の輝きを目にしたドラコは大興奮。んにゃーお!歓喜の叫びをあげると僕から飛び出す。と、思ったら勢い余って赤い水に頭からポチャン!
うぉーっ!「大丈夫か?ドラコ、溺れてるぞ!」あわてて駆け寄る。
僕らには直接水に触れる実感はないが、淵は赤く錆びてドロドロと深い。僕が水に潜る感覚が掴めず苦闘する間に、空からバラキが尾を水に刺し入れてあっと言う間に救出。
僕らと違う次元を行き来するワームにはまったく、関係ないみたい。ワームの夢ってどこの世界の夢なんだろ?臨界進化体の夢をみたいと言ったケフェウスの言葉をふと思い出す。

「へただ。へた過ぎる。」シデンがあきれる。「空間認識能力が育ってない。」
「悪かったなー!」僕は変なゲップをしているドラコを焦って抱き上げた。
ちょとグッタリしてない、これ?揺するとケフォッと赤い水の玉を吐き出した。
「ガンダルファのことじゃないわよ。」ユウリ。
「ガンダルファのことでもある。」とシドラ。
「いっそキサマも溺れちまえ」むかつく提灯青バエ。
「そのワームは言わば、3次元で溺れているのですね~」カプートが手を貸してくれた。
「ぼく達は実体がないから溺れた気になるだけでしょうけど。この現実から少しだけズレた夢次元?はワームにとってはまだまだ現実なのでしょう。興味深いです。」
「それで?それでさ、うちのドラコは大丈夫なの?」
僕を見上げるワームの涙目を見つめる僕。とっても気分が悪そう。
にょ~お、えぐっ!
「この惑星は鉄分が多いので水も重いのです~。人間なら飲めません。」
「お腹こわすでしょうね。」
ユウリは錆びた水に顔をしかめながらドラコのお腹を擦った。
「ワームなら大丈夫じゃないかしら?。確信ないけど。」
「しばらくおとなしくなるだろう。それだけだ。」
バラキと少し話をしたシドラ・シデンが僕に振り向く。
「おぬしが母親となって教えてやらねばならないとさ。」
「キサマにワームの親が務まるかよ。」えーっ!無理と言う前にアギュに言われる。
「やってやろうじゃないか!」僕もつい、言い返す。
「でもバラキが協力してくれたら嬉しいんだけどさ。シドラ」なんとかならない?
んにょ~んドラコは全身のウロコを震わせて伸びをした。
黒い目に生気が戻ってる。
「なんか、大丈夫みたいだよ。」
「気を取り直したみたいですね~。」
「立ち直りの早さはキサマそっくりだな。」アギュに言われたくありませんって。

その星はジュラにはまったく似ていなかったが、それでもどこか故郷を思い出させた。衛星に来て8年あまり、でも自分がジュラを忘れたことは一度もなかったんだと改めて思わされる場所。勿論スペーススクールにも無機的でない世界、人工太陽に照らされた温室や農園のような場所がそこかしこに設けられていた。内装自体も僕らがストレスを感じないように吹き抜けや曲線が多用されていた。でも例え夢であってもその惑星にいると、僕はスクールがどんなに閉鎖された空間であるかを嫌でも思い知らされたんだ。
僕はその水辺で、始めて本当にリラックスできたのだと思う。
そう身体から精神エネルギーが、磁場流体が独立して遊んでるという信じがたい状態の割にはね。進化体のニュートロン達は証明が難しい状況を、最終的にはなんなく受け入れてしまう原始星の風習を迷信深いとか妄言を信じるとか言って僕らが知性が劣っている良い証拠だと言う。僕ら原始人類は、それぞれの故郷の伝説を大切に保存している親を誇りとし、その物語を毎晩の寝物語として聞いて育つだろう?。独自の宗教が今も残っている星もまだ多いしね。それを僕らを中央から切り離す言い訳にするなんて、ひどい話しさ。そんな認識の食い違いが、連邦の原始星政策を思いとどまる楔にはならなかったってわけだ。

さて、僕はワームの親としての見本を見せねばならないのかも知れなかったが、取り敢えず無理なんで、まずは一緒に遊ぶことにした。結局、それかい!しかも、僕の元を離れたドラコがカプートやシドラを回って帰ってくるという、超単純なしょーもないゲームだったが、ドラコは嬉々としてやっていた。


(あの頃は何をやっても新鮮で楽しかったのにょ~)
なんだよ、その親父な発言。
(まだまだドラコは歳を重ねなくてはならないのにょ、ため息にょ)
昔のドラコは僕が命じるとコクコクうなづいて言うこと聞いて可愛かったなー。
(ガンちんはすぐ、ジジイになって、体が利かなくなって死ぬにょ?)
おいおい、なんてこと言うだ、この虫は。おだやかじゃないね。
(最終的にはアギュとバラキしか残らないのかにゃ~ちょっと問題にょ)
あのなー、その心配まだ早いってーの!。


そんなちんけなゲームの最中でも僕は気掛かりでならなかった。それは勿論ユウリ、そしてアギュの野郎の二人なんだが。

ユウリはカプートと花を見ていた。カプートが何やら熱心に説明しているよう。彼は植物に屈みこんでいるのでユウリがうわの空なのに気が付いていない。
アギュは上空でバラキをからかおうとしていた。しきりに巨大なワームに近づこうとするが、相手はとても迷惑そう。威嚇しては離れる、でもやっぱアギュしつけー。そんなこんな追いかけっこで、もう何度この星を回ったことか。終いには見上げるシドラ・シデンの目が細くなってきた。険悪な雰囲気。
宵の星のように地平に没し、数秒で暁の光となって山の頂から現れるアギュ。シドラが見ているのが、黒いつむじ風のようなバラキであることはまちがえようがない。しかし、ユウリはどっちだ?ユウリが見ているのはアギュの青い光の方なのではないか?カプートに相づちを打ちながらも目はいつも、青いハエ野郎を捜している。そんな不吉な疑いがムクムクと僕に浮かんできた。どうしよう?。

青い輝きは滝に来てから、落ち着きがなく動き回って目まぐるしい。次にアギュはすばやくカプートに近づくと彼を水に突き落とそうとした。バラキはどこかに雲隠れした模様。ユウリが声を出すが一歩遅い。シドラが彼の襟首を引っつかんで救出。
さすがにアギュもシドラ・シデンはからかわない。

僕は我慢できなくなり、ドラコを肩に乗せユウリに近づいた。その時、恐ろしい事が起こった。
「キレイね。」ユウリはそう言ってアギュの残像を指さし、僕に笑いかけたのだ。
「星の残光みたいじゃない?それとも、原始の宝石かしら?」
その瞳はアギュの光を映し、心なしか青く潤んでいるではないか!

アギュは再び離陸し、バラキを捜しに向かう。

「あら、違うのよ!」僕が絶句したので、ユウリは慌てた。顔が赤くなる。
「そういうんじゃないの、誤解しないで。」
じゃあ、どういうんのさーと無意識の僕。
「つい浮かんだことをそのまま口にしただけ。そのままの意味よ。キレイな光ってこと。」なんか言い訳がましくない?「ガンダルファって、以外に疑り深いのねー。」ちょっと、あきれたような声。やばっ。慌てて信じますって。
「あたしは思い出してたの。」再び空を仰ぐ。「似ているのよ。あたしの故郷。」遠い目になる。「水の星と言われていたの。青い星。」
ユウリは僕に映像を送って来た。美しい青い惑星の姿だった。確かにアギュの光の色によく似ていた。
ふーん。じゃあ、まあ、いいか。ユウリがうっとりとしていたのはアギュではなくて、懐かしの故郷なわけだし。でも、ほんと、それだけ?
と、「ばーか、焼きもちかよ」と今度は耳元で声がした。
ちょっと目を離した隙にいつの間にかお進化様が近くにいたのだ。油断していた僕は気持ちが丸見えだったに違いない。
「オレにはそれだけの価値があるってことだ!少しは恐れ入れ!」
「なんだとー!嫌なこった!」
屈辱に震える瞬間、アギュがリアルに僕の髪を掴んで引っ張ったので僕は即座に反撃する。地上に引きずり落とし、体にケリを入れてやった。しかし、この世界ではアギュは現実ほど、鈍くさくない。「うっひゃっひゃ~」とふざけた声を出しながら向こうも蹴り返してきたので、僕も無言で受けて立つ。しばらく蹴りあってる間、ドラコが僕らの回りをピョンピョン跳ねまわる。応援しているつもりかよー?、だったら、こいつを再びプリーズ焼いちゃってくれ!と願う。
「結局、ワーム頼みかキサマは!」調子づく青坊主。
「ここでならオレは負けない!オレだってオマエを焼いてやろうか?」
「もう、二人ともいいかげんにしてよ!」ユウリたまらず声を出す。
「争い事は嫌いよ、あたし。」
「アギュが取っ組み合いするの初めて見ました。」カプートがビックリしてつぶやく。
「バラキ、キルしていいぞ。」シドラ・シデンがむっつりと顎に手をやる。

本当にいいのか
その声は割れ鐘のように僕らの意識を揺さぶった。アギュも僕もピタリと止まり、ドラコは脅えて僕に逃げ込んだ。
意識の欠片も残るまい それが初めて聞いた、バラキの声。声と言うより意思を持った振動だ。森の上からいつの間にか、赤い目が見下ろしている。8枚の黒い羽が広がろうとしている。
「嘘!」僕あわてて掴んでいたアギュを放つ。「冗談でしょ?シドラ」
「冗談だ。」冗談でキルとか言うなよ。
アギュも気を取り直す。
「フ、フン、オレはまあ、大丈夫だろうけどな。これぐらいで許してやるよ。」
もったいぶった顔付きはやっぱり猫に似ている。しかも、目付きの悪い痩せた野良猫。もう一発、殴りたいけど我慢。僕は動物愛護派だもんね。
「意識と体の境がなくなってきてることを思うとアギュさんの方が大ダメージかも知れませんけどね~」カプートが僕にコソッと言う。

アギュは当てつけがましく、ユウリを引っ張って滝つぼの方へつれていった。シドラがすかさず、後を付いていった。
僕はカプートと残された。
「なんだよ。あれ!」むくれる僕。近くに来たカプートが慰める。
「彼は子供ですから。500年、生きてますけど。」
「子供なら子供らしく、可愛くしてろって!。」
「案外、子供は残酷なものです。」
そういう彼の口調は妙に大人びていた。僕はむく犬そっくりの彼の容姿には慰められなかった。ユウリが抵抗もせず、おとなしく付いて行ってしまったからだ。
「なんだ、間延びしなくてもしゃべれるんじゃん。」僕は遠慮なくズケズケ。
「カプートって僕と同じ生徒なの?特別クラス?」
「いえ~まあ~っていうか・・」ストレートパンチの応酬に彼の歯切れが悪くなる。
「まあ、いいや。どうだって。」
僕はむしゃくしゃしていたので、スカッとすることがしたかったのだ。

そういう時こそスポーツだよね。じゃない?

カプートにドラコでキャッチボールをしようと誘ってみた。ドラコは大賛成。
「ぼくは運動はちょっと~」カプートの方は大賛成とはいかなかったが、問答無用。
すかさず、ドラコ玉をぶつける。ドラコさらに大喜び。自主的に丸くなった体をバウンドさせ、何度もカプートを襲う。んにょ!にょ!
「やめて下さい~!」と逃げ惑うカプート。意外に素早いではないか。感心してる間に何度目かに、なんかの加減で彼の手の中にスポリとボールが収まった。
「おっ、うまいじゃん!」んにょ~ん!
カプートの返し玉は最初は超おざなりだったが、やがて僕は同類の手応えを感じ出した。彼の玉は段々と早く、鋭くなっていく。
気が付くと僕らは夢中で投げ合っていた。無重力の中の授業のように縦に横に斜めにと自由気ままに跳ね回る。
にょ~わ~ ドラコがさすがに目を回したようだが僕らそっちのけ。

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6  第23番惑星ベラス-2



その頃   
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。

とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」

その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「臨界進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」

イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」

しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。

「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6  第23番惑星ベラス-2



その頃   
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。

とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」

その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「最高進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」

イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」

しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。

「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6



           第23番惑星ベラス

(ドラコはあの頃は言葉の学習に燃えていたにょ)
でも考えてみれば、言葉なんてお前らいらないじゃん。
(だからこそにゃ!言葉っておもしろいにょら!)おもしろい?どこが?
(はっきり口にするとにゃ?言葉によってにょ?ちゃんと形を取るのにょ!)
あーわかんねぇ。三次元の話じゃないのだけはわかるっす。ねえ?
(ドラコは今じゃすっかり言葉マスターにょ!)
そうかな。さっきも思ったけど、あんまり昔と変ってない気がするけどにょ。
(バカにしたにょ!ガンちんはすぐそうやって人を傷つけるにゃ!)おいおい。
(今の話だって、もう一人忘れてるのにょ!ひどいにょ。)
忘れてないでしょ。話の流れです。おこりんぼドラちゃん。さあ、続けるよ。


「カプートも行く?」
さあ、行こう!となったその時だった、ふいにユウリが後ろに声をかけた。
どこからともなく、のっそりと現れた小さなズングリムックリ。ウヒャー人間じゃん!僕はびっくりした。
カブトムシの幼虫かと思ったよ。
「カプートは恥ずかしがり屋だから、いじめないでね。」心配そうにユウリ。
なんなんだ?この時代錯誤な眼鏡は?アンティークも程がない?コント?絶対、わざとだよね。趣味?ひょっとして、銀河医学もなおせない頑固な対面恐怖症?あふれ出る意識をコントロールできない。でも、ボサボサのうっとうしい髪と眼鏡の歪んだレンズのせいで表情はまったくわからない。サイズの合わないパジャマも、うさん臭さ倍増。体のサイズも一切不明。
多分、男?と僕の本能が告げる。


勿論、思えばこれは彼の意識が僕らに見せているイメージであったわけだけど。言わば、どっかの歴史書から持ってきた精神的鎧のようなものだ。

 そんな技があると知っていたら、僕も夢ではもっとイケメンにしときゃ良かったよ。
(それ以上、イケメンにしてどうするにょ?)
 お、いいこと言うね、ドラちゃん。そうだろ、そうだろ。
(ガンちんのこういう単純なとこが好きなのにょ)
 なんだって?(なんでもないにょ。それよりカプートにょ?)
 そうだった。そうだった。
(カプートはアギュが怖かったのにょ。)
 そうだね。今思えば。僕にとってアギュは怖いというよりは、うざい、めんどいだったけど。
 アギュに力があるとか、影響力があるとかいう考え方はまったくしてなかったからね。
 (回りの空気を読まないからにょ!)
マイペースって言って欲しいね。
 だいたい臨界進化?何、それ?って思ってたし。そんなもんに絶対なりたくなかったしさ。
 アウト・オブ・尊敬外ってわけ。
(そういうざっくばらんなところが逆にアギュには良かったんかにょ~?)
 訂正。ユウリにだろ?
(かわいそうにゃガンちゃんにょ)


僕はカプートに対して自分なりの結論を迫られていた。良く言えば「クラッシックなベーシックオタク。」
僕は声に出して言ってみた。
「イエ~ス。」カプートはいきなり言葉を発した。「まあ~、そんな感じですかね~」
すぐに、脱力。「よろしく~、です。」
まったく覇気がない。つかめない。声自体は悪くないのに。
僕は困ってユウリを見る。ユウリはニコニコしてうなずいた。
「カプートは私が見つけて来たの。目立ってたから。」目立ちすぎだっての。こんな奴、上層クラスにいたっけか?
まあ、10000人ぐらい、生徒がいるからわかるわけないか。
カプートはいきなり大きな書物を取り出した。流行の人類回帰運動家みたいだ。ドラコと話が合いそう。


(言葉と文字は切り離せないにゃ)


「夢の中でも本読むわけ?」
「物理サイコー」あ、そう。仕える神が違うのね、僕たち。
「そんなことどうだっていいじゃん!ソイツはほっといてやれ!」アギュがじれた。
「ユウリがどうしても、連れて行きたいならオレが許してやってもいいけど。」
ユウリはひざまずく。「お願い。アギュ」手を組み合わせおねだりポーズ。
長いまつ毛の下から仰ぎ見るようにしてまさに、特別に生き生きとした表情をみせた。
それを見下ろすアギュの頬には勝ち誇るような赤味が差した。
シドラ・シデンの鼻が盛大に鳴ったが、そんなこと今はどうでもいい。
僕はカッとなった。口が勝手に開く。
「つくづく、自分が中心じゃないと気に入らないのな、お前。」
「実際、中心だろ?」こいつ!。「誰か文句あんの?」涼しい顔。忌々しい。
「それを言ったら身もフタもないだろがっ。」コブシを固める僕。
「事実だから仕方ないです~。行きましょう~ガンダルファさん。」
カプートが僕の手を掴んだ。
「殴っても無駄。時間も無駄。」シドラ・シデンも闇を振り返った。
「バラキ」
黒いとぐろが頭上に立ち上がる。デカイ。思ったよりデカイ。でかいシドラが問題にならないくらいにデカイ。目の前の黒光りするウロコも直径ユウリぐらいある。頭の方はもやもやとした渦に覆われよく見えない。真っ赤な目だけが光っている。ドラコが僕の中に半分隠れたくなるのも無理はない。にょ~。僕はそっと、小さく叩いて励ました。
「さあオレとピクニックだ。」アギュははしゃいだ。「わくわくするな。」
「それにしても」ユウリが僕を見る。オレンジ色の髪飾りに縁取られて、お日様のよう。
白いスーツはパジャマかしらん。うーん、良い輪郭。
「なんか、アギュとガンダルファっていい友達になれそう!」クスリと笑う。
クスリじゃねー!僕とアギュは同時に叫んだ。「絶対にならない!」
「そんなに嫌がらなくても・・」たじろぐユウリ。「ねぇ、シドラ?」
シドラ・シデンはオーッマイガーットポーズで参戦せず。対照的に黒いスーツ。
シドラは利口だ。面倒ごとはとことん嫌いなタイプ。
僕もそうだったんだが。あれ?おかしいな。
僕がブツブツ言ってる間にアギュが高らかに号令していた。
「みんなオレに付いてこい!」アギュの光がみるまに濃くなる。
「バラキ、頼む。」シドラは再び肩をすくめた。
バラキもフン!と言わなかったか?。ペットは主人に似るというし。


(ワームはペットじゃないにょ!)例えだよ、例え。
 しかし、団子状態とはいえ初めて乗ったワームの背中がバラキだったとは。
(ドラコも初めだったにょ!)そ、そうか。ドラコはワームの親がいなかったからなあ。
 うっと目頭を押さえる。(ガンちん、涙が出てないにょ!)
 ところで契約してないのにワームに乗れるのは、やっぱり生身じゃないからなのかな?
(ワームが見える人なら生身でも可能かにゃ?でも、あくまで臨時の特別待遇にょ~)
 聞いたかい?今度、機会があったら試してみるか?。遠慮すんなよ。鯉のぼりに跨がる二人の男、大歓迎だぜ。
(ふ、二人にゃ~大丈夫かにゃ。が、がんばるにょ)


僕らはバラキと溶け合って宙を飛んだ。わお!生身じゃなくても夢でもすごいよ、これ!夢で見てもデカイから実際にドラゴン・ボーイとなって、宇宙空間で見たらさぞ壮観だろう。スクールでは、ワームドラゴンはシドラの回りの次元の狭間に隠れていて姿を現すことはなかった。見える人間は少なかったが存在を感じ取れる生徒の中には管理官に苦情を言ったり、体調を崩したりする奴がいたから仕方なかった。
今はバラキは巨体をくねらせている。盛り上がる目の前の背中。ウロコの割れ目と透明なヒレに捕まっている感覚はあるが宙を飛ぶような抵抗感は皆無。寒さも熱も感じない。息もできるし、まるですごくリアルな夢を見ているようだ・・って夢なんだけどさ。ほんとに魂が抜け出したら、こんなだろうと言うよ。自覚があって、思い通りになる夢の中。
そんな夢のキャラバンの先頭をアギュが行く。
アギュの青い光を追いかけるようにバラキも飛ぶ。
無酸素地帯の星の流れ、大気圏突入、惑星の大気の流れを目で楽しむ間も無く、もう僕らはその星の空にいた。第23番惑星も夜だった。スクールにいつも見せている側は真っ暗な大地だった。遥か端の稜線がやがて来る朝の光の予感に光っている。
バラキは高度をどんどん落として惑星の大地と森に近づいて行った。すると所々にかすかな明かり、深い森の中に飛び飛びの施設らしき建物が確認できた。
「あそこは入り口なの。」ユウリがささやく。「研究所本体は地下にあるの。」
「地殻のほとんどを食い尽くしてな。」バラキの頭の上にスクッと立つシドラ。
かっこよかったな~。ドラコと共にしがみつくのがやっとの僕も、自分がワームを操る姿を思い描こうとした。
しかし、麗しい映像をはっきり思い描く前にアギュに邪魔される。
「どんな研究をしてるか、ガンダルファに見せてやれ!」うきうきしながら僕に付きまとうんだから、ほんとうっとしい。
お前は青バエか。
「私達は実体がないから見つからないの。だから大丈夫よ。」ユウリはシドラの足下に横たわり身体をもたれさせている。
乗り慣れたもんだ。落ち着いている。
「君も研究所の実態を知ってるの?」僕は羽にしがみついている、カプートを振り返った。
「うん。もう、見た~。」少し顔色が悪い。実体がなくてもワーム酔いってあるのかね。
「頼む」シドラがバラキの角を優しくなでた。ワームとワーム使いは対等な存在だからね。

あっと言う間に僕らは、地下の施設の中を彷徨っていた。それは一つの都市だった。忙しそうな大勢の人々、様々な会話。あふれ返る情報がドッと迫って来るのは恐怖に近いものがあった。主にカプート、時にはユウリやシドラの力を借りて僕はそれらを選別していった。一番地下の深い層が問題の場所らしかった。地熱の熱さが感じられるような最下層。
大小のたくさんのカプセルやドームが乱立し、組立工場のようにも見える。もしくは養鶏場か動物園のような。細かく区切られたブース、巨大な会議室。その研究所で行われてることがはっきり理解できるまで僕には時間がかかった。カプートが暗い低い声で丁寧に説明してくれた。夢で物理の本を持ち歩くぐらいだ、彼はとてもくわしかった。たぶん、生物や科学技術のことも。シドラが時々、口をはさむ。ユウリは途中から黙って目をそらしてしまう。アギュは終始一貫して、ニヤニヤしながら僕を観察していた。
僕は、僕らから取られた細胞、血液、DNAが何に使われているかを知ったんだ。
もう、だいたい想像できるだろう?。
その部署では、僕らの細胞とそのパーツが遺伝子操作と体外受精を繰り返されていた。ゲージに入ったたくさんの赤ん坊。
「付加をかけて育てるから~通常とは成長が違うのです。」カプートが説明を続ける。
「色々な組み合わせを試してます~小さいカプセルはもっと細かい臓器を培養してます~」
「待って!」僕は慌てる。「色んな組み合わせって、僕たちの子供ってこと?」
ユウリとカプートが顔を見合わせる。アギュがけたたましく笑う。
「もちろんさ!オマエも秘かに子持ちだ!オヤジだ、ジジイだ!」
「え、じゃあユウリと僕とか?」
「にやけるな!」シドラがどつく。
「ユウリの一族は連盟では非公式だから、反中外だ。」
「あたしは保護動物なの。」ユウリがはしゃぐ。
「なんだよ。勝ち誇って!」僕はぞっとした。
「細胞操作なら男女は関係ありません。」カプートがすまなそうに付け足す。
「まさか、シドラとも?」シドラはにやつく。「あらゆる組み合わせと言ったろが。」
「ぼくともアギュのともあるでしょうね~お気の毒です。」
「えー!」まるっきり、テンション下がりまくりだよ。


(ドラコとはあるのかにゃ~)あるわけあるか。DNAもないくせに。(差別にょ~)

GBゼロ-5

2007-09-19 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-5  ピクニック-2



「わ!お礼参りに来た!」
「誰がキサマにお礼なんかするか!。」それはアギュだった。つい今し方も、モニターで眠っているはずの御方。
こうして見ると、現実よりもリアルに見えるから不思議。普通の人みたいだ。青い光もあまり気にならない。
「オレはキサマなんか、裸にして学校から放り出してやるって言ったんだ!」
アギュは唇を噛んで、僕を睨み付けた。「でも、この二人が。」
おや、臨界進化さまはユウリ達が怖いらしい。
「怖いだと!オレが怖いわけあるか!」アギュはふくれて、プイッと横を向く。
認めたくない?うん、それもわかる。シドラ・シデンの破壊力はゴリラ並みだもんな。
「ゴリラと競ったことはないが確かに我は強い。」即座にシデンが言う。
「しかし、ほんとに怖いのはユウリだ。」
「あら、人聞きが悪い。」楽しそうに、ユウリ。
「あたしはそんなことしたら、二度と寝る前に唄ってあげないって言っただけ。
 なんなら、あたしも放り出してって。」
「できれば、我も頼む。」
あの~、このぶっちゃけ状態、いい加減どうにかならないの?ユウリが僕の前に空気のように回り込む。
「とにかく普通に口にするように考えて。意識して、表層意識とをはっきり分けて考えるのよ。
 無意識までは読まれないんだから。」
「余計なことは考えるなってことか。」僕は努力を始めた。難しいし、ややこしい。

ところで。
「オマエらは勝手な事ばかり言って!そんなことオレにできるわけないだろ!」
アギュがヒステリーを起こしていた。
「コイツだけなら!」と、僕を指さす。
「コイツはオレは追い出せる。オレがどうしても嫌だと言えばね。でも、オマエらは、もう違う!
 オレの回りにオマエらを置いてるのはオレじゃない!ヤツラなんだから!」
アギュの喉が甲高く鳴る。
「オレが追い出したくたって、オレにできるもんか!」
「彼奴等って?。」悲鳴のようなアギュの声に僕は割り込んだ。ケフェウスとか?
ユウリは黙って上を指さした。そこには天井が、いやそこを突き抜けてそこには第23番惑星の姿が大きく迫った。
オリオン連邦、最高機密研究所。
繰り返された、イリト・ヴェガと言う名前。所長だと言う、そいつが黒幕?

「そうだ!」アギュが手を打った。
「又、皆でオレとあそこへ行こう!ガンダルファにも現実を見せてやれ!」
アギュは鼻を膨らませると僕を再び指さす。「キサマも脅えるがいい!」
なんだ?この三流ドラマ?やっぱりお礼参りなんと違う?
「そうね。ガンダルファにもピクニック仲間になってもらうんだもんね。」
ユウリがいたずらっ子のような笑顔を向ける。唇に寄せる人さし指が激かわいいー。
ピクニック?んにょにょ? 急に肩のドラコが目を輝かす。
「オレは反対だ!言ったろ?コイツを起こすのは一度だけ!死ぬほど脅えさせるだけだって!」
アギュは手を振り回す。光の残像が残るところが臨界ぽい。
「スクールには自由がない。」シドラはアギュを無視。「監視されてないのは夢ぐらいだ。」
「アギュのおかげで、気が付いたの。あたし達、こんなことができるって。」
「たいしたことないさ、オレには。500年、寝てる間にずっとしていた。」
最高進化様は立ち直りも切り替えも早い。一転して満面の笑み。得意そうなアギュ。へぇ、じゃあ、世間的にヒッキーしてる間、あんたずっと遊び歩いてたわけか?
意識だけでって言うか、その、えーと心っての?
「生物の発する電気的磁場流体とか?簡単に言うと、原始惑星では魂とか言うのよ。」
ユウリがコロコロと笑う。
シデンもうなづく。
「能力があれば、他にもここに来れる生徒がいるかもしれんのだが。」
「ダメだよ。ここはオレが許した奴しか入れない。絶対、オレつぶすからな!」
小さなお山の大将希望者が僕を睨み付ける。
「キサマもだ!お山に登りたいなら、オレに絶対、服従!」
「じゃあ、とにかく、理屈は抜きで考えるようにするよ。これは夢じゃないと。」
「共有意識の場っていうのかしら。現実とは少しだけずれているの。」
ユウリは小首をかしげた。
「タンスの隅にあるゴミのような次元だ。」シドラはもともこもない。
「だからこそ、オレらは見つからない!。はい、ミンナ、オレを注目!」
お進化様ががじれる。
「じゃあ、行く?」ユウリはシドラとアギュを振り返る。
「ガンダルファも一緒に行くわよね?」はい。答え、早え~!

僕は寝ている僕を見降ろした。眉間にしわを寄せて歯をくいしばっている。うなされてるよ、これ絶対。
自分の寝顔なんて見るもんじゃないぞ、ほんと。
「間抜けな寝顔だ。」うるせぇ、アギュ。
「キサマが離れたらそのまま、死ぬかもな。」まじ?
「アギュも意地悪言わないの!ほら、みんな仲良く!」ユウリは軽くアギュを睨んだ。その顔はまるで我が子を叱る母のよう。心なしか甘い笑顔。アギュは目をそらす。まさか、照れてるんじゃないよな?。僕は穏やかではない。
「フーン」そんな僕をシドラ・シデンが、バラキがじっと見ている。焦る。
アギュは僕に舌を出した。
「うらやましいか?バ~カ!」
ユウリはそんなアギュは構わず、僕を励ます。
「大丈夫よ。あたし達、何度も遊びに行ってるから。」
うーん。それは確かに、とてもはげまされるよ、だけど。
なんかこの二人、ほんとに、ほんとにあやしくないの?。
僕、心配。
と、思いがけず、その場を救ったのはドラコだった。
いょーにょ!いきょ~のにゃ~
すぐ耳の側で声がしたからビックリする。なんか、シッポをふる錦鯉。
「しゃ、しゃべった!」
「どうやら。しゃべったようだな。」シドラが笑った。

GBゼロ-5

2007-09-19 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-5


          ピクニック-1

しばらくすると少し、心配になってきた。僕はドラコと意識の中で場所を取り合うゲームをして遊んでいたが、それに飽きてきたせいもある。ドラコに焼かれた跡は赤くなっていたが、明日になったらキレイに元に戻る程度のものだ。でもひょっとして、臨界進化体の性質上(彼等とワームが非常に近い存在だと主張している学者もいたしね)、アギュの方がダメージが強かったりするのだろうか。あいつ、被爆とか大げさに騒いでいたけど。それに「覚えてろ」とか言ってたし。しつこそうだし。
まさか、退学?、オーノー!いや~ん。それは嫌!。でもなぁ。
随分手加減してやったつもりなんだけど、ボカスカなぐっちまったわけだし。
あでも、アギュが言いつけなくても、ほんとにここが監視されてるなら、もうバレバレなわけだよ。あれから、もう三時間は経つのに一向に、先生方が誰もどなりこんで来ないってことは、僕の行為はOK圏内ってことなの?。・・なんてことを思っているうちに眠くなり、僕もドラコもすっかり眠ってしまった。



僕は夢を見ていた。
「起きて、ガンダルファ」
ユウリが僕を揺すっていた。ああ、こりゃ、なんてラッキードリーム。
「本当に起きてはダメよ!」訳のわからないことを言う。
「そのまま、少し上に上がるのだ。」
シドラ・シデンもいる。悪夢か?
「悪夢にしてやってもいいぞ。」
ナニ?なんのこと?少し身体が持ち上がった。見るとドラコが僕の手をくわえて持ち上げようとしていた。んにょ!んにょお~!
必死そうなんで協力、僕も身体を起こした。ドラコはつぶらな瞳を僕に向けた。あれ?ドラコの外観はなんとなく、僕だけに見えるイメージとしてとらえてたけどさ。肉眼でこんなにはっきり見える感覚、変だ。
いつの間にか僕の身長半分ぐらいになってるし。ちょい?成長したドラコに助けられて、僕はなんとかベッドに立ち上がった。
足下を見ると僕が寝ていた。規則正しい、寝息を立てている。
なんじゃ、こりゃ?やっぱ夢じゃん?。
「脳波が乱れるとバレちゃうのよ。」ユウリが指さす方を見ると、コントロールルームらしきものが見えた。スクールの衛星ドーナツの真ん中に、こんな広大な空間があったなんて。その巨大な球体の中心に向かってゲームの足場のように、変則的に通路が吹き抜けになったり部屋が仕切られたりしてる。機械に乗った小さい小人さんが大勢動いてるのが見える。勿論、そこでは誰も寝ていない。
でも、実際はここにいるのに、それが見えるなんてあり得ないんだけど。すべてが情報として頭に入ってきたんだから、仕方がない。ドラコの意思の伝え方とすごく似ている。ドラコはまだ、人類の言語はうまく話せないけど。


(今にゃペラペラにゃ、バイリンにゃ!)バイリンガルって言いたいのね。


やがて広大な作業場のど真ん中、コアにあたる部屋の一部分がクローズアップされた。そこは壁一面、切り立った崖のような、パネルに生徒一人一人の脳波らしきものが映し出されている。刻々と変る波形の前に10人ほどの人間がいる。
「臨界進化体は就寝して46分経過、脳波に異常はない。」
「δデルタ波がでているな、レム睡眠中だ。」
「珍しく感情を高ぶらしてると思ったのにな。平常と変らん。つまらんな。」
移動機械に乗った年配の男が偉そうに話す。そいつに報告する助手らしき男。この部屋にいる大半の人間が身体半分、機械仕掛けだと意識に情報が伝わる。
進化した人類、ニュートロン達。原始体らしき人間も数人いたが、どうせ使いっぱだろう。
「特別クラスで一人、起きている。」
「その生徒は先ほどイリト・ヴェガに確認した。許可が出ている。」
「勉強熱心だな。」
「下層クラスでは、R8区域で5人ほど。中層でも9人。だが問題はない。」
「どうせゲームだ。ほっておけ。」
普段、表では絶対に見ない、研究者らしい大人達の会話が一瞬ですべて流れ込む。
「ところで臨界進化体のワームからの損傷はどの程度だったのかな?」
偉そう君が口を開く。
「傷は見受けられない。相手が子供だったせいか、ノーダメージのようだ。」
なんだ、ちぇ。心配して損した。それに僕より注目はワームか。まとわりつく、ドラコのウロコとヒレの冷たい感触。
夢なのにな~。
「しかし、臨界進化体の見る夢とはどんなものなのかな。」
「できるなら、頭から取り出して見てみたいものだ。そんな技術使用の許可が欲しいの。」
「今のところは、大して我々と変るまいよ。確証はないが。残念ながら、本人のコメント はいまだ、得られないからな。生意気なガキが。いちょまえに私に抵抗とは。」
よく見ると偉そう君は、あの嫌みな教官だった。白い研究用ボディスーツを着ているので気付かなかった。乗っていた移動機械も教官の時とは大違い、オシャレな白で統一、自分のグレイっぽい髪や肌ともしっかりコーディネイト。見かけより、若いのかもしれない。
しかし、科学者だったのか?。あいつ、ケフェウス、担任だって言ってたけど。
自分の指輪で乗っている機械の縁をコツコツと叩いているのが、いかにも神経質そう。
「ユウリやシデンに臨界進化体がもう少し、協力的になれば可能性がある。
 しかし、あの二人も完全に信用できるかわからん。」ケフェウスは顔をしかめた。
「・・私にはもっといい方法があるのだが。これだけは話すわけにいかんな。
 まだ、研究段階だ。」指輪で顎をさすり、ニヤニヤする。
「なんですか、教官。」
「もったいぶらないでくださいよ。」
これにはさすがに無表情なニュートロン達から抗議の声が一斉にあがった。
「お前らの中に所長のスパイがいないとも限らんからな。」教官の声音はマジだ。
「そりゃ、そうだ。」
「可能性はありますね。」
そんなマジな疑いも軽くジョークで返す。緊張感みなぎる、なんて明るい職場。

僕はユウリとシドラ・シデンを振り返って見た。ユウリは強ばった笑顔を返す。
「あたし、あの人大嫌いよ!。」吐き捨てるように。
「好きな奴、いるか?」シドラが揶揄する。

「カミシロ・ユウリはよくやってると思うが。」もう一人が離れた機械の上から答えた。
「新しいドラゴン・ボーイの方が可能性がある。やはり、ワームの介在が大きいのか?」
僕はドキリとした。ドラコと顔を見合わせる。ドラコの意識が伝わった。僕をスパイにしようってことだ!。そしてつまり、それは、もう二人も?。ユウリは口を引き結んで、首を横に振った。シドラは両手を広げ、天を仰いでみせた。

研究者達の会話はまだ、続く。
「ところで、いつから脳波が検出できなくなるんだ?」
「6番検体の記録では2500歳を過ぎたころかららしいが。」
「臨界進化体にかかわれた、我々は幸せだな。」
うっとりとつぶやく相手は女性のようだ。顔つきに男女が出にくいので、成人のニュートロンはよくわからない。
「なんとか過去にない、新しい発見がしたいな。」
他の一人がつぶやく。
「抜け駆けは許さんぞ。」ケフェウスの声に殺気がみなぎる。おおコワ!
「お前もどうせ、所長に気に入られたいのだろう?」
「イリト・ヴェガに?まさか。」女性所員は見返す。
「臨界進化はかつてない人類の共有の研究対象だ。なのに!」ケフェウス吠えまくる。
「あいつも流行の人類回帰主義者が!何が、穏健派だ、夢想家め。私の研究が成果を挙げ れば!」声に悔しさがにじむ。
「とにかく!出世したければ、このケフェウスに付いてくるってことだ。」
「・・冗談ですよ。わかってますって。」そう答える、所員の細い目がギラギラ。
「ここの実権を握るあなたを出し抜こうなんて考えてもいませんから。」
別の所員も薄ら笑いを浮かべる。彼等の目もメラメラ。ケフェウスも負けじと部屋中を睨みつける。
うわぁ・・なんか疲れそう、この職場。絶対、就職したくないってさ。
彼らはなおも語り続けているが、これ以上はもう勘弁。もう、充分だって。

僕は改めて納得。やっぱり、本当に監視されてたのね。昼も夜も、寝てる間も。しかしこの間、僕がワームで死にかけた時、誰も助けに来てくれなかったってどういうこと?。納得いかないなあ。僕ってワームが付かなかったら死んでもいい存在だったってことなの?(ガンちんいじけちゃダメにょ)どうやら真に大切なのは生徒の20%を占める特別クラスってわけか。とにかく、特別な生徒は怪しい行動があると画面がすぐ、その部屋に切り替わる。夜も異常がないのに寝てる脳波がないと、ドクターやカウンセラーのお出ましってわけだ。勿論、最高に特別なアギュの回りはいつもどこでもモニタリング。
モニター画面の中のアギュは丸い水槽のような睡眠ドームに浮かんで光り輝いていた。
寝ているかどうかは僕にはわからない。でも、脳波が寝てるんじゃ寝てるんだろうな。
脳波まで監視されてるんじゃ、αアルファ波も出ないかもね。

やっと僕にも、なんとなく事態が解りかけてきた。
つまり、ユウリが言いたかったのは、たぬき寝入りはすぐにバレるってことだ。
ふいにドラコが警戒音を出した。
僕らを囲い込むように、いつの間にか黒々とした闇がとぐろを巻いている。ドラコがおびえる。もしかして、これが。「バラキだ。」シドラ・シデンが誇らしげに紹介した。
その闇の前に人が立っていた。