MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-5

2007-09-19 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-5  ピクニック-2



「わ!お礼参りに来た!」
「誰がキサマにお礼なんかするか!。」それはアギュだった。つい今し方も、モニターで眠っているはずの御方。
こうして見ると、現実よりもリアルに見えるから不思議。普通の人みたいだ。青い光もあまり気にならない。
「オレはキサマなんか、裸にして学校から放り出してやるって言ったんだ!」
アギュは唇を噛んで、僕を睨み付けた。「でも、この二人が。」
おや、臨界進化さまはユウリ達が怖いらしい。
「怖いだと!オレが怖いわけあるか!」アギュはふくれて、プイッと横を向く。
認めたくない?うん、それもわかる。シドラ・シデンの破壊力はゴリラ並みだもんな。
「ゴリラと競ったことはないが確かに我は強い。」即座にシデンが言う。
「しかし、ほんとに怖いのはユウリだ。」
「あら、人聞きが悪い。」楽しそうに、ユウリ。
「あたしはそんなことしたら、二度と寝る前に唄ってあげないって言っただけ。
 なんなら、あたしも放り出してって。」
「できれば、我も頼む。」
あの~、このぶっちゃけ状態、いい加減どうにかならないの?ユウリが僕の前に空気のように回り込む。
「とにかく普通に口にするように考えて。意識して、表層意識とをはっきり分けて考えるのよ。
 無意識までは読まれないんだから。」
「余計なことは考えるなってことか。」僕は努力を始めた。難しいし、ややこしい。

ところで。
「オマエらは勝手な事ばかり言って!そんなことオレにできるわけないだろ!」
アギュがヒステリーを起こしていた。
「コイツだけなら!」と、僕を指さす。
「コイツはオレは追い出せる。オレがどうしても嫌だと言えばね。でも、オマエらは、もう違う!
 オレの回りにオマエらを置いてるのはオレじゃない!ヤツラなんだから!」
アギュの喉が甲高く鳴る。
「オレが追い出したくたって、オレにできるもんか!」
「彼奴等って?。」悲鳴のようなアギュの声に僕は割り込んだ。ケフェウスとか?
ユウリは黙って上を指さした。そこには天井が、いやそこを突き抜けてそこには第23番惑星の姿が大きく迫った。
オリオン連邦、最高機密研究所。
繰り返された、イリト・ヴェガと言う名前。所長だと言う、そいつが黒幕?

「そうだ!」アギュが手を打った。
「又、皆でオレとあそこへ行こう!ガンダルファにも現実を見せてやれ!」
アギュは鼻を膨らませると僕を再び指さす。「キサマも脅えるがいい!」
なんだ?この三流ドラマ?やっぱりお礼参りなんと違う?
「そうね。ガンダルファにもピクニック仲間になってもらうんだもんね。」
ユウリがいたずらっ子のような笑顔を向ける。唇に寄せる人さし指が激かわいいー。
ピクニック?んにょにょ? 急に肩のドラコが目を輝かす。
「オレは反対だ!言ったろ?コイツを起こすのは一度だけ!死ぬほど脅えさせるだけだって!」
アギュは手を振り回す。光の残像が残るところが臨界ぽい。
「スクールには自由がない。」シドラはアギュを無視。「監視されてないのは夢ぐらいだ。」
「アギュのおかげで、気が付いたの。あたし達、こんなことができるって。」
「たいしたことないさ、オレには。500年、寝てる間にずっとしていた。」
最高進化様は立ち直りも切り替えも早い。一転して満面の笑み。得意そうなアギュ。へぇ、じゃあ、世間的にヒッキーしてる間、あんたずっと遊び歩いてたわけか?
意識だけでって言うか、その、えーと心っての?
「生物の発する電気的磁場流体とか?簡単に言うと、原始惑星では魂とか言うのよ。」
ユウリがコロコロと笑う。
シデンもうなづく。
「能力があれば、他にもここに来れる生徒がいるかもしれんのだが。」
「ダメだよ。ここはオレが許した奴しか入れない。絶対、オレつぶすからな!」
小さなお山の大将希望者が僕を睨み付ける。
「キサマもだ!お山に登りたいなら、オレに絶対、服従!」
「じゃあ、とにかく、理屈は抜きで考えるようにするよ。これは夢じゃないと。」
「共有意識の場っていうのかしら。現実とは少しだけずれているの。」
ユウリは小首をかしげた。
「タンスの隅にあるゴミのような次元だ。」シドラはもともこもない。
「だからこそ、オレらは見つからない!。はい、ミンナ、オレを注目!」
お進化様ががじれる。
「じゃあ、行く?」ユウリはシドラとアギュを振り返る。
「ガンダルファも一緒に行くわよね?」はい。答え、早え~!

僕は寝ている僕を見降ろした。眉間にしわを寄せて歯をくいしばっている。うなされてるよ、これ絶対。
自分の寝顔なんて見るもんじゃないぞ、ほんと。
「間抜けな寝顔だ。」うるせぇ、アギュ。
「キサマが離れたらそのまま、死ぬかもな。」まじ?
「アギュも意地悪言わないの!ほら、みんな仲良く!」ユウリは軽くアギュを睨んだ。その顔はまるで我が子を叱る母のよう。心なしか甘い笑顔。アギュは目をそらす。まさか、照れてるんじゃないよな?。僕は穏やかではない。
「フーン」そんな僕をシドラ・シデンが、バラキがじっと見ている。焦る。
アギュは僕に舌を出した。
「うらやましいか?バ~カ!」
ユウリはそんなアギュは構わず、僕を励ます。
「大丈夫よ。あたし達、何度も遊びに行ってるから。」
うーん。それは確かに、とてもはげまされるよ、だけど。
なんかこの二人、ほんとに、ほんとにあやしくないの?。
僕、心配。
と、思いがけず、その場を救ったのはドラコだった。
いょーにょ!いきょ~のにゃ~
すぐ耳の側で声がしたからビックリする。なんか、シッポをふる錦鯉。
「しゃ、しゃべった!」
「どうやら。しゃべったようだな。」シドラが笑った。

GBゼロ-5

2007-09-19 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-5


          ピクニック-1

しばらくすると少し、心配になってきた。僕はドラコと意識の中で場所を取り合うゲームをして遊んでいたが、それに飽きてきたせいもある。ドラコに焼かれた跡は赤くなっていたが、明日になったらキレイに元に戻る程度のものだ。でもひょっとして、臨界進化体の性質上(彼等とワームが非常に近い存在だと主張している学者もいたしね)、アギュの方がダメージが強かったりするのだろうか。あいつ、被爆とか大げさに騒いでいたけど。それに「覚えてろ」とか言ってたし。しつこそうだし。
まさか、退学?、オーノー!いや~ん。それは嫌!。でもなぁ。
随分手加減してやったつもりなんだけど、ボカスカなぐっちまったわけだし。
あでも、アギュが言いつけなくても、ほんとにここが監視されてるなら、もうバレバレなわけだよ。あれから、もう三時間は経つのに一向に、先生方が誰もどなりこんで来ないってことは、僕の行為はOK圏内ってことなの?。・・なんてことを思っているうちに眠くなり、僕もドラコもすっかり眠ってしまった。



僕は夢を見ていた。
「起きて、ガンダルファ」
ユウリが僕を揺すっていた。ああ、こりゃ、なんてラッキードリーム。
「本当に起きてはダメよ!」訳のわからないことを言う。
「そのまま、少し上に上がるのだ。」
シドラ・シデンもいる。悪夢か?
「悪夢にしてやってもいいぞ。」
ナニ?なんのこと?少し身体が持ち上がった。見るとドラコが僕の手をくわえて持ち上げようとしていた。んにょ!んにょお~!
必死そうなんで協力、僕も身体を起こした。ドラコはつぶらな瞳を僕に向けた。あれ?ドラコの外観はなんとなく、僕だけに見えるイメージとしてとらえてたけどさ。肉眼でこんなにはっきり見える感覚、変だ。
いつの間にか僕の身長半分ぐらいになってるし。ちょい?成長したドラコに助けられて、僕はなんとかベッドに立ち上がった。
足下を見ると僕が寝ていた。規則正しい、寝息を立てている。
なんじゃ、こりゃ?やっぱ夢じゃん?。
「脳波が乱れるとバレちゃうのよ。」ユウリが指さす方を見ると、コントロールルームらしきものが見えた。スクールの衛星ドーナツの真ん中に、こんな広大な空間があったなんて。その巨大な球体の中心に向かってゲームの足場のように、変則的に通路が吹き抜けになったり部屋が仕切られたりしてる。機械に乗った小さい小人さんが大勢動いてるのが見える。勿論、そこでは誰も寝ていない。
でも、実際はここにいるのに、それが見えるなんてあり得ないんだけど。すべてが情報として頭に入ってきたんだから、仕方がない。ドラコの意思の伝え方とすごく似ている。ドラコはまだ、人類の言語はうまく話せないけど。


(今にゃペラペラにゃ、バイリンにゃ!)バイリンガルって言いたいのね。


やがて広大な作業場のど真ん中、コアにあたる部屋の一部分がクローズアップされた。そこは壁一面、切り立った崖のような、パネルに生徒一人一人の脳波らしきものが映し出されている。刻々と変る波形の前に10人ほどの人間がいる。
「臨界進化体は就寝して46分経過、脳波に異常はない。」
「δデルタ波がでているな、レム睡眠中だ。」
「珍しく感情を高ぶらしてると思ったのにな。平常と変らん。つまらんな。」
移動機械に乗った年配の男が偉そうに話す。そいつに報告する助手らしき男。この部屋にいる大半の人間が身体半分、機械仕掛けだと意識に情報が伝わる。
進化した人類、ニュートロン達。原始体らしき人間も数人いたが、どうせ使いっぱだろう。
「特別クラスで一人、起きている。」
「その生徒は先ほどイリト・ヴェガに確認した。許可が出ている。」
「勉強熱心だな。」
「下層クラスでは、R8区域で5人ほど。中層でも9人。だが問題はない。」
「どうせゲームだ。ほっておけ。」
普段、表では絶対に見ない、研究者らしい大人達の会話が一瞬ですべて流れ込む。
「ところで臨界進化体のワームからの損傷はどの程度だったのかな?」
偉そう君が口を開く。
「傷は見受けられない。相手が子供だったせいか、ノーダメージのようだ。」
なんだ、ちぇ。心配して損した。それに僕より注目はワームか。まとわりつく、ドラコのウロコとヒレの冷たい感触。
夢なのにな~。
「しかし、臨界進化体の見る夢とはどんなものなのかな。」
「できるなら、頭から取り出して見てみたいものだ。そんな技術使用の許可が欲しいの。」
「今のところは、大して我々と変るまいよ。確証はないが。残念ながら、本人のコメント はいまだ、得られないからな。生意気なガキが。いちょまえに私に抵抗とは。」
よく見ると偉そう君は、あの嫌みな教官だった。白い研究用ボディスーツを着ているので気付かなかった。乗っていた移動機械も教官の時とは大違い、オシャレな白で統一、自分のグレイっぽい髪や肌ともしっかりコーディネイト。見かけより、若いのかもしれない。
しかし、科学者だったのか?。あいつ、ケフェウス、担任だって言ってたけど。
自分の指輪で乗っている機械の縁をコツコツと叩いているのが、いかにも神経質そう。
「ユウリやシデンに臨界進化体がもう少し、協力的になれば可能性がある。
 しかし、あの二人も完全に信用できるかわからん。」ケフェウスは顔をしかめた。
「・・私にはもっといい方法があるのだが。これだけは話すわけにいかんな。
 まだ、研究段階だ。」指輪で顎をさすり、ニヤニヤする。
「なんですか、教官。」
「もったいぶらないでくださいよ。」
これにはさすがに無表情なニュートロン達から抗議の声が一斉にあがった。
「お前らの中に所長のスパイがいないとも限らんからな。」教官の声音はマジだ。
「そりゃ、そうだ。」
「可能性はありますね。」
そんなマジな疑いも軽くジョークで返す。緊張感みなぎる、なんて明るい職場。

僕はユウリとシドラ・シデンを振り返って見た。ユウリは強ばった笑顔を返す。
「あたし、あの人大嫌いよ!。」吐き捨てるように。
「好きな奴、いるか?」シドラが揶揄する。

「カミシロ・ユウリはよくやってると思うが。」もう一人が離れた機械の上から答えた。
「新しいドラゴン・ボーイの方が可能性がある。やはり、ワームの介在が大きいのか?」
僕はドキリとした。ドラコと顔を見合わせる。ドラコの意識が伝わった。僕をスパイにしようってことだ!。そしてつまり、それは、もう二人も?。ユウリは口を引き結んで、首を横に振った。シドラは両手を広げ、天を仰いでみせた。

研究者達の会話はまだ、続く。
「ところで、いつから脳波が検出できなくなるんだ?」
「6番検体の記録では2500歳を過ぎたころかららしいが。」
「臨界進化体にかかわれた、我々は幸せだな。」
うっとりとつぶやく相手は女性のようだ。顔つきに男女が出にくいので、成人のニュートロンはよくわからない。
「なんとか過去にない、新しい発見がしたいな。」
他の一人がつぶやく。
「抜け駆けは許さんぞ。」ケフェウスの声に殺気がみなぎる。おおコワ!
「お前もどうせ、所長に気に入られたいのだろう?」
「イリト・ヴェガに?まさか。」女性所員は見返す。
「臨界進化はかつてない人類の共有の研究対象だ。なのに!」ケフェウス吠えまくる。
「あいつも流行の人類回帰主義者が!何が、穏健派だ、夢想家め。私の研究が成果を挙げ れば!」声に悔しさがにじむ。
「とにかく!出世したければ、このケフェウスに付いてくるってことだ。」
「・・冗談ですよ。わかってますって。」そう答える、所員の細い目がギラギラ。
「ここの実権を握るあなたを出し抜こうなんて考えてもいませんから。」
別の所員も薄ら笑いを浮かべる。彼等の目もメラメラ。ケフェウスも負けじと部屋中を睨みつける。
うわぁ・・なんか疲れそう、この職場。絶対、就職したくないってさ。
彼らはなおも語り続けているが、これ以上はもう勘弁。もう、充分だって。

僕は改めて納得。やっぱり、本当に監視されてたのね。昼も夜も、寝てる間も。しかしこの間、僕がワームで死にかけた時、誰も助けに来てくれなかったってどういうこと?。納得いかないなあ。僕ってワームが付かなかったら死んでもいい存在だったってことなの?(ガンちんいじけちゃダメにょ)どうやら真に大切なのは生徒の20%を占める特別クラスってわけか。とにかく、特別な生徒は怪しい行動があると画面がすぐ、その部屋に切り替わる。夜も異常がないのに寝てる脳波がないと、ドクターやカウンセラーのお出ましってわけだ。勿論、最高に特別なアギュの回りはいつもどこでもモニタリング。
モニター画面の中のアギュは丸い水槽のような睡眠ドームに浮かんで光り輝いていた。
寝ているかどうかは僕にはわからない。でも、脳波が寝てるんじゃ寝てるんだろうな。
脳波まで監視されてるんじゃ、αアルファ波も出ないかもね。

やっと僕にも、なんとなく事態が解りかけてきた。
つまり、ユウリが言いたかったのは、たぬき寝入りはすぐにバレるってことだ。
ふいにドラコが警戒音を出した。
僕らを囲い込むように、いつの間にか黒々とした闇がとぐろを巻いている。ドラコがおびえる。もしかして、これが。「バラキだ。」シドラ・シデンが誇らしげに紹介した。
その闇の前に人が立っていた。