MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-4

2007-09-18 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-4


           アギュ

ドラコが産れてしばらく、僕は子育てに専念していた。研究所からたくさん人が来たりして、検体としての僕も大忙しだった。ワームミルクと呼ばれるアドレナリンの一種の科学物質を電気エネルギーに変換したものを脳に注ぎ込まれたり、僕自身も精神を安定させるものやら免疫を上げるものやら、もうやめて~ってぐらいの慌ただしさ。卵が憑いた男として僕は有名人?になりつつあった。とどめになんだか嫌みな教官がやって来て、僕が特別クラスに入ることになったと告げたわけだ。

最初に横たわる僕の目に入ったのは銀の指輪だった。間接が弱いニュートロンは指を保護する為にリングを付けていることが多い。その指輪は他のリングより一回り大きく重そうで、保護と言うよりは装飾的な感じがした。流星をかたどっている紋章が取り巻いている。
遊民の有名な一族のものだ。渋い重力のある声が振ってきた。
「あのアギュレギオンと一緒に学べるなんて大変名誉なことである。感謝するがいい。」
「はあ。」僕はちょっと努力してそう答えた。なんとか、顔を上向ける。
教官は不満そうだったが、僕にとっては別にーって感じだった。
あ、でもユウリと一緒に学べるのか。そいつはクラス担任のケフェウスだと名乗った。
その教官は困ったことになかなか帰ってくれず、しまいにはワームがこの目で見たいと言いだした。年配の担任は銀髪を丁寧になで付け、グレイに金の縦縞が入った不思議な瞳をしていた。その爬虫類のような目の所為か、ニュートロン特有の仮面のような表情と相まってどうしても、酷薄な感じがしてしまう。妙に犬歯が出てるように見える、後ろに長い特徴的な頭蓋骨の形はニュートロンの中でも特にカバナ人種出身者特有のものであったのだが、その頃の僕はそんなことですらなんにも知らなかった。
そんな無表情で、どうやったら自分にもワームが見えるようになるか、僕になんとかしろ的事をしつこく言われても困るばかりだ。

終いには僕そっちのけで、後ろの方に控える数人の助手に何か工夫はないかとか言い出した。僕は首を向けるのもたるいから、横になって話を聞いているしかなかった。
そいつらの一人が僕ごと次元レーダーに、つまりとっても強力な電磁波に掛けることとか言い出した時は、あやうく癇癪を起こすところだった。
そんなことしたら僕が死ぬってーの。やりかねなかったので気が気でない。抗議しようと口を開きかける。
「所長の許可が必要ですから、それは無理でしょう。」
僕の代わりに誰かが言ってくれたので感謝する。
その声はニュートロンらしくない、原始星の訛りがあった。
やはり頼りになるのは同じ原始星同志やね。僕は命の恩人を一目見たかったが、首を動かすと眩暈がしたのでやめた。
「生まれたてのワームなら、抵抗が弱いから視覚化ができるのでは?」
「ワームも死ぬ公算が強いですね。」若い声にやんわりなだめられるしつこいオヤジ。
「ふむ。」
教官はおあずけを食ったエサを見るように僕をしばらく眺め・・そして、やっとあきらめたので、僕は心底ほっとした。
「僕のほかにもジュラからの生徒はいるんじゃないですか?」
僕は思いきって声を出した。そいつに見せてもらえばいいだろ、あーん?。
ようするに、シドラ・シデンのことを聞いてみたわけだ。
教官は露骨に顔をしかめた。それが返事だった。シドラは彼に全然、好かれてなさそう。
まあ、僕も好かれなくてもまったく構わないかもね。

教官が帰った後、僕は目を閉じて考えていた。ドラコが意識の片隅で寝ているのが確認できた。不思議な感覚。まだ完全には慣れてはいなかった。
その時、目の前がぼんやりと明るくなるのを感じた。。
「キミ・・・」かすれた声。ワームにしては変。
僕は目を開けて、仰天した。
目の前にいたのはアギュだった。
「わ!ビックリした!」
いつ、来たんだ?なぜここに?僕、混乱。
「キミさ、」アギュはむせた。
「わっ、汚ね!」思わず僕はのけぞった。
「なんだよ!せっかく、話しかけてやってんのに!このオレが!」
アギュはブリブリ怒った。怒ったら、青い火の玉の中の顔の回りだけ真っ赤になった。
瞳の輪郭だけが極端に青い。初めてマジカに見てしまった。
「声帯が薄くなってんだよ、オレは!知ってるだろ?」
知らないとは言わせないとその目が言っていた。でも知らん、そんなの。
アギュの声は少し耳障りだった。その辺、ドラコと似たり寄ったり。

(にょにょ?)まあまあ。

「ユウリから聞いたんだけど。」
それで僕にはすべてが理解できた。こいつもワーム見物なわけ?
アギュはマジマジと僕の頭の辺りを見ていた。
「お前、ワームが見えるの?」
「誰にものを言ってるんだ?」そう言いながらも熱心に覗き込もうと近づいて来た。
「アギュさま、臨界進化さまに。」僕は少し身体を引いた。
「失礼な奴だな。ケフェウスなんてオレが直接、話かけでもしたらチビらんばかりなのに」
「そりゃ、躾がなってないのさ。」僕だってあの教官は嫌いだけど。
「フーン。」アギュは初めて僕をちゃんと見た。
「それってアイツ?、それともオレ?」アギュの思考は早かった。
「ユウリが言ってた面白い奴ってこっち?。」何?ユウリが何だって?
「オマエもユウリが好きなんか」アギュはニヤニヤした。
「おい!人の考えを読むなよ!違反だぞ!」僕、激怒。慌ててできる限りの思考バリアー。
「オマエが悪いんだ。無防備で。オレからすると単純馬鹿過ぎ。」
アギュの全身を覆う光が僕に触れていた。熱くも寒くもない。ウールの毛先が触れてるように包み込まれる。光なのに触感があるなんて。しかも認めたくないが心地よい。
「どうした?臨界進化サマって呼ぶんだろ?」
「誰が呼ぶか!」
「そう呼ぶ奴が一番多いな。まあ当然?」アギュは視線を再びワームに戻した。
「嫌なら好きに呼んでいいぞ。オレが許してやる。」
「ありがたすぎて反吐が出ますこと」こいつには本音を下手に隠しても仕方がない。
「変な奴。卵でワームが授かるだけのことはある。ジュラの人間は皆こうなのか。」
シドラ・シデンに似てるってか。うーん、それはちょと。
でも。お追従や媚びへつらいがこいつにはみんなわかるってことか。そりゃ、性格も悪くなるってもんだ。
と、アギュはワームを指で突つこうとした。
「何すんだ!」僕は跳ね起きた。「やめろよ!やっと寝たのに!」
アギュがワームに触れることができたのに僕は驚いた。
「僕のワームに勝手に触るな!」
「かわいいなあ~」
僕は耳を疑った。アギュはニコニコしていた。気持ち悪う。

んにゃ? その時、ドラコが身じろぎした。
「わ!目を覚ました!小っさいなー小さいのに小さい目と口がちゃんとある!」
アギュは馬鹿みたいなことをしきりに感心しながら叫んだ。
「あのなぁ」うっぜいよ、お前!
「この黒くてはっきりしてるのが三次元の目かあ?後の8つは複眼だな。」
 「まだ仕組みがよくわかってないんだよ。」僕はしぶしぶ教えた。
「ワームホールとか異次元に対応してるらしいけどさ」」
「へへーっ」お進化様は間抜けな返事をしつつ、隙をみてドラコの首の下をすばやく掻いた。
「おい!そこ!見たぞ!」ドラコは目をパチパチしていたが しゃわっ・・にゃ? と初めて声らしきものを発し、慌てて僕の中に隠れた。
「おびえたじゃないか!」でも僕は他のことを考えてた。
「良かったじゃん。初めてしゃべって。オレのおかげで。」
又、読まれてる!むむむっ、ちっくしょう!どうしてくれよう!
身もだえする僕をほっといてアギュはさらに僕のベッドに身を乗りだしてきた。
「バラキはごつくて可愛げなくて、オレに触らせてくれないんだ。
 愛想がない、シドラそっくり。」
おいおい、近づき過ぎだろ。お前ってそっち系かよ?
「契約者でもないのにユウリは良くて、オレはダメなんて。ほら、出て来い!」
んにゃ~いにゃ~!「やめろって言ってんだろ!」僕は切れた。アギュの手が僕の脳の中に入るような感覚。ギョッとして思いきり突き飛ばしていた。
「嫌がってるだろが!」
「何すんだよ、キサマ!」
短い間にキミからキサマにまで。僕も出世したもんだ。
「オレにこんなことしてただで済むと思うなよ、ガンダルファ!」
あら、名前も知ってるじゃん。
「ただじゃないなら、おいくらぐらい?」僕が笑うとアギュは僕に掴みかかった!
なんと臨界進化さまが。でも、アギュは僕の敵でなかった。彼は小柄で痩せッぽっちだし、まだ両手で締め上げてぐいぐいする肉体があったからね。格闘技好きの僕に敵うもんか。
「ちくっしょう!ちっくしょう、キサマ」アギュは僕の下でジタバタした。
「キサマなんか、大ッ嫌いだ!死んじゃえ、バカ、アホ!」
小学生並みの罵倒。きゃは、おもしれえ~!十字固めでも、かけちゃうおっかな~?
その時、ドラゴンの契約により加勢しようと思ったのか、ドラコがポン!と僕の頭から飛び出した。んみゃ~っちゃっ! ドラコはプウと一瞬膨らんでから僕らに向かって、小さい炎を吐いた。「あちぃ!」僕も叫んだが、アギュも吠えた。
「被爆だ!被爆!オレ被爆した!」
アギュはベッドの下に転がり落ちるとギャーギャーわめいて、姿が消えた。どうやら部屋に帰ったらしい?アギュはその気になればこんな学校の安普請な内装なんかいくらでもすり抜けられるって噂だし。僕は心配しなかった。
「それより、すごいぜ!お前!」にゃ~にょ~! 威張るワームの姿。
ちょっと可愛いかも?と僕も認める。

(あの時、ガンちゃん初めて褒めてくれたのにょ)
なんせこれが二人の初めての共同ミッションだったんだもんな。あの時のアギュときたら、ププッ。今も笑える。あ、でも、あの後、ドラコ少しだけ大きくならなかった?。金魚が錦鯉になったぐらいだけどさ。
(成長したんにょ。ワームの成長はランダムにょ)あんなことで?
(何事も経験値なのにゃ)うん、確かに。それは言えるな。

これがまあ、臨界進化体アギュレギオンとの初の謁見ってわけなんだけど。
僕も子供だが、アギュもどっこいどっこいだよね。ちょとガッカリした?。もっとかっこよかったら良かったのかな。ごめん、ありのままで。

(親しみがもてるにゃ?)もてるかなー?

GBゼロ-3

2007-09-18 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-3


                 ユウリ

さて、ユウリはアギュを現実世界へと導いたと言われてるけど・・実は、僕の運命も変えているんだ。僕とドラコと。彼女がいなければ、僕らは一緒に死んでたかもしれない。

(ガンちゃんごめんにょ~、ドラコにせいにょ)泣くなよ、ばか。

結局は死ななかったんだし。もし、僕が死んだら卵の中のドラコも死んでいただろって、推察をちょっとドラマチックに言っただけなんだから。すべてはドラゴンが憑く時の通過儀礼ってやつだ。人の能力がワームに劣ると受け止めきれずに人は死んだ。普通、ワームの方は死ぬことはない。体力も精神力も人よりも勝っているからね。でも、卵のままのワームだったら孵ることはできないまま、おそらく幼体は死んでいただろうって話。これはもういない僕の物知りの親友の受け売りなんだけどね。

忘れもしない、その日。僕は数日前から熱っぽくて具合が良くなかった。寝ても寝つけず、やっと寝たと思ったら夢見は最低。黒い渦が僕を次々と締めつける。まさにザ・悪夢。
自分のうめき声で目が覚めると、食いしばり過ぎて歯ぐきが痛たいという有り様だ。
それでも僕は敢えて人中にいた。自分の部屋で一人でいるとなんだか落ち着かなかった。
胸騒ぎとでもいうのだろうか、何かにジッと見られてるような説明不能な感じ、みんなに囲まれてないと安心できなかったんだ。アギュ以外の生徒は特別クラスを除いて、表向きまったく野放しだった。僕ら一般学生は休憩室でだべろうが寝てようがお構いなしだった。
僕はひどい顔色をしていたから、だんだん回りも挨拶もそこそこに離れて行った。それが裏目に出た。
教室では授業が始まった気配がした。でも僕はフロアのイスから動けなかった。まずい、と思った時はもう遅かった。展望窓から見えるいつもの惑星の姿がモノクロにしかも歪んでいった。腰から始まった突き上げるような実態のない振動が背骨を伝って頭がクラクラする。無重力酔いのような吐き気と胃を締めつける痛み。全身がぞうきんの様に捩じられ、ガンガンと叩き付けられるような痛みが襲って来た。僕は背中を曲げテーブルの上で身体を支えたが、背骨を砕き肉が裂けるかの苦痛に獣のようにうめくだけだった。両手の上に生暖かい唾液をこぼしながら。そして、あ~っと言う間にどんどん目の前がかすみ急激に遠ざかって行った。抜ける、魂が抜ける~、僕の意識は叫んでいた。僕自身は暗いチューブの中に吸い込まれて遂に消えてしまった。そう、それが僕の臨死体験の始まりだった。お花畑を駆け回る僕。

ところがふと気が付くとお花畑は跡形もなく、故郷の母の手が僕に触れていた。小さな手のひらは燃えるように熱かった。手は僕の背中をさすっている。次第に体が温まり、気分が楽になっていった。
「大丈夫?」母でない若い声がした。目を開けると、大きな黒の靴の先が見えた。僕は床に転げ落ちていたらしい。

「そんな奴、ほっとけ」別の声がした。そのドスのきいた声に聞き覚えがあった。苦労して見上げると見覚えのある輪郭でそいつだとわかった。それはシドラ・シデンだった。
シドラ・シデンはスクールの女子の半数になぜかキャーキャー言われてるいけ好かない奴で、僕とはほとんど口を聞いたことはない。でも特徴のある声と話し方だからすぐわかる。同じジュラの訛りは間違えようがない。
「ねえシドラ」誰かが僕の背中の方にもいて、シドラと話していた。
「ガンダルファは卵が付いてるのね?」
仁王立ちした黒光のブーツは、今や小刻みに踵を鳴らし始めた。
「教官を呼べばいい。そやつに構うのは時間の無駄。そやつの問題。」
いらいらした声に構うことなく、誰かさんは僕の脇腹の下に手を差し入れ、僕を仰向かせた。
なんと。それはカミシロ・ユウリだった。ゲロ発作の最中に、あこがれのマドンナに初めて話しかけられ、介抱されてるなんてラッキー!・・な訳はない。と自分に突っ込みを入れたつもりが、うう~っと言う、うめき声が出ただけ。頼む、頼む、ほっといてちょ~、シドラの言う通り誰か呼んできて、お願いだから。うっぷ。ガクッ!僕、脱力。
「ガンダルファをほっとけないわ。」ユウリは断言した。なんで僕の名前知ってんの?あ、そうかなんだ、シデンが教えたんだ。二人は仲が良いと聞いていた。ユウリがアギュから開放された時には、ガードマンよろしくシドラ・シデンがピッタリ付いているからファンレターを渡す隙すらないとか言う話。
「卵を孵す手伝いをした方が良くはない?」
「命を取られたら、こやつが弱かっただけのことだ。」シドラの答えは冷たい。
「我だってなんとか乗り越えたんだ。
 卵程度のキャパシティもないなら死んでしまえ。」ひ、ひどい。
「でも、シドラの時にはあたしがずっと側にいてあげたわけじゃない?」
「あのな」
「だから、ずっと楽だったんでしょ?」
「・・・」
「卵ってあまり例がないってシドラ言ったじゃない。」
今やユウリの片手は僕のおでこを気持ち良く冷やし、もう片方は胸の上で反対に熱く熱く発光しているかのように感じた。確かに楽、かなり楽。
しかも彼女の膝枕だし。ヒャッホウ~!って、ガクッ!
「おせっかいが。好きにしろ」シドラはフゥーと息を吐いた。
「人が来ないように見張っててやる」シドラはノシノシ遠ざかって行った。

ユウリは小さく僕に唄いかけた。するとあら不思議、僕に寄り添うように現れたソリュートが振動を送り始めた。全身が風の中で揺すられてるようだ。体中の毛が気持ちよく波立った。その波は何度も僕を洗う。揺すり上げ、さすりあげる。あまりの気持ち良さに寝てしまいそうだ。でも、突然、意識の中に何かが現れた。なんて言ったらいいか、自分の中に誰かがいたのに改めて気が付いたと言うか。うまく言えない。でもはっきりイメージできた。何かが僕の中でに~に~泣いていた。そいつはモゾモゾ動いていた。小さな虫だ。
「孵ったわ」ユウリがつぶやくのが聞こえた。
「赤ちゃんだな」いつの間にかシドラの声が戻ってきた。
「じきじゃべり出すぞ」
「ねえ、シドラのバラキみたいに、ワームって成獣なんでしょ。」
「いや、幼体は例がある。子供でも意思があるからな。しかし、卵は。待てよ。
 卵があるってことは親がいたはずだ。」
シドラは何か考えているようだった。
「親はどこに行ったのだ?感心しないな。産み捨てとは」
「そういう問題なの?」
「バラキ、おぬし何か知ってないか?」
シドラが背後に声をかけるとそこの空間が歪んで渦になるのが見えた。
「ふん。そうか。ワームは秘密が好きだな。」シドラは唇を曲げた。
半死半生の僕と目が合うとシドラ・シデンはうなづいた。
「我のワームが見えるようになったか?」
僕は頭の中が音で混乱していたが、なんとかうなづきかえした。
歪みの中心に赤い目が見えた。あれが父と母の見ていたワームドラゴンなのか。怖くはなかった。ユウリが頭をしきりになでてくれているおかげかもしれないけど。
「そうだ。」急にシドラが手を打つ。
「おぬしの父は確か前線で大分前にに死んだと聞いた。母はどうした?」
母親はジュラにいる、僕は説明しようとした。でも頭の中がにょ~とかにょおおおおなんて声に埋め尽くされていたので、容易ではなかった。でも一瞬、母は死んだのではないかという強い確信が突き上げてきて、声を遠くに追いやった。
最後に覚えてる母は弱っていたが、ワーム使いらしく目には強い光があった。その目がまじまじと思い出せた。
母は一人で死んだのだろうか。
父が戦死した時、父のワームも命を落としたと聞いていた。それはとても珍しいことだった。それだけお互いの絆が強かったのだ。
ひょっとして。母のワームも母に殉死してくれたのだろうか。今と違い、昔のワーム使いは通常、家族でもワームが見えない者に自分のワームの名前を明かしたりしなかった。
だから、僕は母のワームの名前も知らない。
「泣かないで」ユウリが顔を寄せた。僕は泣いていた。小さい子供みたいに。
「そうか」訳知り顔でシドラはうなずく。
「今人を呼んでくる。休んでろ」そのまま、ズカズカと教室に入って行く気配。
僕の涙は今やとめどがなく流れていた。頭の中で誰かがにょ~にょ~ 泣いててもお構いなく。その涙をユウリの手が優しく拭い続けていた。彼女はもう何も言わなかった。僕は彼女の目を見ていた。彼女の髪と同じ、黒々とした深い目だった。彼女の目も少しうるんでいた。クリーム色のなめらかな肌に、赤い髪の飾りがぼんやりとにじむ。。
やがて騒めきと人の気配が近づいて来た時、彼女はふと僕に屈みこんだ。
「私は、カミシロ・ユウリ。」ユウリが囁いた。
「ドラゴンボーイ、おめでとう」

最初にワームドラゴンと契約したのは神話世界のジュラの王様だ。ワームは宇宙に無数に開いたワームホールという穴を群れで移動して生活している。ジュラの太陽系には有史以前から目には見えない巨大な穴が開いていたらしい。ジュラに植民した古代の王が、ワームの最初の契約者になって以来、ジュラの民はワームの力を求め、ワームは気まぐれにその求めに応じてきた。人の求めに応じるワームの旨味は何なんだと思う?。契約者の命?。数千年の命を持つと言うワームがそんなチッポケなものを欲しがるのかな?。案外、僕の親友の言ってた、暇つぶしって説が一番当たってるのかもしれない。ワームは臨界進化体と同じく謎が多い存在だ。
例えば、ワームは契約者の命を食べ尽くすと、他の契約者へと移って行くと言われてる。普通は契約者が途中で死んでもワームは死なない。だから、原始体の中でも長命な方のジュラの人間だったが、ドラゴンボーイと呼ばれる契約者達は半分の500年ぐらいしか生きられない。君達から見るとそれでも多すぎるって?そりゃ、そうだ!失礼。
それはさておき、ワームドラゴン。その姿は肉眼では流れ星のようにとらえられる。ワームの群れが僕らの次元を横切る時、人は長いこと無数の流星群が宇宙をを横切るのだと思っていた。
そして今や連邦には、君も良く知る有名なワーム部隊がある。その仕事は補給船や貨物船を、時には軍艦部隊をワームホールの中、安全に導く先駆けだ。襲われた時はドラゴンボーイもワームドラゴンも先頭で戦った。それはジュラ星系の主な収入源になっている。連邦がダークサイトと呼ぶ勢力やペルセウス連邦と小競り合いを繰り返している前線で、父と母は知りあった。父が戦死した戦いの後、母もボロボロになって産まれた星に帰還した。母はもうワームを駆る体力がなくなっていたから。
そして母は僕を産んだわけ。まあ、それで更に死期を早めと言ってもいいんだけどさ。
ふう。
それはさておき、僕はワームにドラコと名付けた。

(もっとカッコイイ名前でも良かったのにゃ~)
仕方ないだろ。3歳の時に思いついた名前だってーの。
大体、お前は覚えてないだろうけど、大変だったんだ。育てるのにすごい手間がかかったんだぞ。卵からじゃ、基本ができてないもんな。
(覚えてるにょ!ガンちんはいつもいつも怒ってばっかりにゃ!)
赤ちゃんは手が掛るんだよ。
(赤ちゃん言うにゃ~!んみゃみゃみゃ!)イテテ!噛み付くなって。
それより、その頃と比べてもこいつあんまし大きくなってないのよ。
(大きくなったにょ!それはガンちん、言いがかりにょ!)
つまりね僕が言いたいのは、早く僕が間抜けに見えないくらいにせめて大きくなってってこと。(どういうことにょ?)シドラとバラキみたいにさ。
(今だって乗れるにょ!ちゃんとガンちゃんを乗せてるにょ!)
乗れりゃいいってもんじゃないでしょが。
絶対きっと、鯉のぼりに跨がったアホに見えてるからねーだ!
正直、あまり人に見られたくないカッコだと僕は秘かに思うわけさ。
(し、しっつれいな奴にょ~!)

まあ、まあ。
さあ、お待ちかねの次の出会いは、一気に行こう。

GBゼロ2

2007-09-13 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-2   



ガンダルファ-2


そうこの学校、スペーススクールができた始まりは実はアギュのためだった。アギュ一人のために連邦中から原始体の子供や優れた能力の子供が集められ、彼の閉ざした岩戸の前で歌ったり踊ったりってのが当初の隠された本当の目的だった。実際、彼の心を開いたのはそのうちの一人だったわけだし。(念のため、ガンちゃんではないのにゃ)そうそう、僕らはアギュをリラックスさせるため・・その他大勢のご学友として今もその恩恵に浴してるわけ。ああ、ありがたやありがたや。

 
(ガンちゃん、心がこもってないにょ)こもるか!
(失恋の恨みは執念深いのにょ~アギュの女に手を出すからにゃ!)
 誰が失恋じゃ!手なんか出しとらんて!この~口の減らないワームときたら!
 虫なんか無視じゃ!
(虫じゃないのにゃ!ワームドラゴンにょ~!ガンちゃんだってドラコがいなかったら
 アギュにもユウリにも会えなかったのにゃ~!)
 ん~悔しいがそれは認めよう。(や~いや~い)むかつく~!


さて・・平常心で続けよう、アギュの心を開いたのはユウリ。カミシロ・ユウリって言うちょ~かわいい女の子だった。小さくて細くて優しくて気配りがきいて、嫌みな進化体女性徒からも一目置かれているなんて、すごくね?。欠点と言えば見かけに寄らずチト頑固ってとこだけど、それもオーソドックスで良くね?ねえ、そう思わん?


(ガンダルファはユウリちんに惚れていたのにゃ~でも振られたのにょ)振られるかい!
(振られるまでもなかったのにゃ)トホホ、てめぇ覚えてろよ!しくしく


その頃のアギュときたらタカビーで嫌みで、自分のことしか考えてないのバレバレで悲劇の主人公ぶってるけど、本当はお前超ナルシストだろって感じだったから僕は彼が大嫌いだった。その他大勢のお取り巻きと共にかわいいユウリまでいつもいつも側にはべらしてたし、気にくわないことこの上なかった。
心底手に入らない女ほどよく見えるとはよく言ったもんだ。だってユウリはまさに「アギュの女」と呼ばれていたんだからね。
でも、これさ、イヤラシイ意味はみじんもないから。そこ、期待しても無駄だから。
ユウリはソリュートと呼ばれる楽器の使い手で、アギュさまはその音色がないと眠れないとか、食が進まないとか、わがままを言うらしいのだ。
その頃、僕はまだユウリと直接話したことはなかった。彼女は高嶺の花だった。一般クラスの僕とは接点のない、特別クラスの生徒。たまにスクールが主催する、娯楽アトラクションの準主役。なぜ、準主役なのかって?。だって主役は当然、アギュだったからさ。例え、何もしなくてもね。みんなの好機の目は常に噂の臨界進化体に向けられていたから。好奇心丸出しの露骨な目配せや、こそこそ交わされる短い感想と共にってわけだ。勿論、本当の娯楽はそれだけじゃないよ。色々なすぐれた芸能の才がある生徒がいたから、みんなすぐアギュの事なんか忘れちまう。そしてまちがいなく、そのショーのスターはユウリだった。つまり僕は彼女の熱烈なファンの一人だったってわけ。まったく、せつないねぇ。それがどうしてって?まあ、待ちねえ。
僕がアギュのお目見え身分になるのは、晴れてドラゴンボーイとなってからの話だから。


(ドラコのおかげにょ!)お、おう!
 ジュラの子供にとってはワームドラゴンに選ばれたドラゴンボーイになるのは一生の夢だもんなあ。
 その点では感謝だ、ドラコ。でもなんで俺を選んだの?
(それはドラコにも解らないのにゃ~誰が誰を選ぶのかは基本的に内緒にょ)
 ああ、そう。まあ、いいか。あれ?どうしたの、ドラコ?。
(その点以外はどうなのにゃ?気になるにょ)小さいこと気にすんなって!
(小さいって言葉も虫って言葉と同じぐらい嫌いにょ・・ブツブツ)


アギュの話をすると言ったけど、正直僕はアギュにも臨界進化にも興味なかった。その頃にはこのスクールに初めて到着した時、引きつけられた強い光が彼であることは僕も、もう知っていた。でもだからと言って、特に何かを感じていたわけではない。ふーん、そうだったんだあ~って感じだ。
だって、彼と僕らは直接にはまったく接点がなかったから。アギュは子供が好んで話したがる学校の怪談や、古い伝説の主人公みたいな存在だった。まとった布を透かしてアギュの体全体が青く光ってる様子とか(その頃のアギュはまだ普通に服が着れた)猫めいたアギュの風貌といいどっちかと言うと薄気味が悪く思っていたのは僕だけじゃなかったよ。大人達の彼に対する絶対的な興味なんて僕らに理解できるわけがない。大人達だって本当には臨界進化ってものを誰も理解できてなかったんだから。
だいたい、アギュは観光価値としてみるとまったく、たいしたことなかったもの。見た目は派手だが中身のないアトラクションのようにね。僕はまだ本性を知らなかったこともあるが。知った後でも表向き、アギュはほとんど誰とも口を聞かなかったから。一般の生徒からは限りなく遠い存在なのは、ずっと変らなかった。
たまにアギュは進化体の世話係やユウリにボソボソと甲高いかすれた声で話かけたが、それ以外はパッとしないことこの上なかった。だからアギュとパートナーになりたいとか、遺伝子上の子供を作りたい、そしてあわよくば自分も臨界進化体の母親になりたいとか言ってる主にニュートロンの女達が信じられなかった。ニュートロンの女ってのほとんどが気が強かったけども、中にはそれがなんだか魅力的に感じられる子もいたね。でも彼女達は同級生であっても原始体の僕なんかとは遊びでだって付き合ったりはしない。一般的にニュートロン達は肉体的交際を(この辺、自主規制ね)行わないってのもあるけど。触れただけで遺伝子が汚れるとか言うむかつく奴もいて、まあ学校特有のいじめって訳だ。スクールに来て、最初にかわいい子にこれを言われた時はマジへこんだ。
なのに同じ原始星出身でもアギュさまは特別ってわけだ。
(ちなみにじゃあどうやって子供を作るのかと言うと、試験官の中でさ!ベイビー)
そんな訳で、アギュの取り澄ました無表情な顔を見る度、僕はむかむかしていた。こんな奴があんな才能あるユウリと彼女のスペシャル級の音技を独占してるなんて許せないと思ったものだ。


(その頃のアギュにとってもガンちゃんはアウトオブ眼中にょ)
 ああ、まさに虫のように無視だ。(やっぱ~しつこいにょ~)


実際、ユウリはかわいかった。でも本当にすごいのは彼女のソリュートの音技で、それを初めてショーで見た時から僕は一発でやられてしまった。
ユウリはアギュや僕たちの前で大きな鉢の中の水に唄いかけた。ソリュートは彼女の声を増幅させて伝えていく。ソリュートは原始星の一部から発掘される古代生物の骨から作られる。使い手を選ぶと言われ、誰にでも弾けるものではない。そんなに大きな楽器ではないがユウリが持つとなんだかとても大きくなった。もともとは手の中にすっぽり収まる貝のような小さな骨だと言う。楽器は使い手のエネルギー振動によって様々の形に変化する。その形により、独自のリズムを出しさらに色々な波長を増幅させて行く。ユウリがすごいのは振動のリズムによって、回りの万物にも影響を与えることができることだった。ユウリが澄んだ豊かな声で唄い始めると、歌とリズムによって会場の空気がさざめくのがわかった。見る間に水が泡立ち始め、水蒸気が立ち登り出すのが離れた僕の席からも見えた。水の分子が激しく揺れ、熱さで蒸発したのだ。そしてグルグルと渦巻き始めた部屋中の空気と混ざり合い、水に空気にと目まぐるしく変わりながら天井を巡り始めた。水素と酸素が反応し煌めいては消えていく。水はアギュの青い光も写し反射した。その煌めきが宝石のように時折輝いては消えて行く。なんとも美しい光景。身も心も癒される気分だった。僕らの回りをさわやかな涼しい風が吹き巡り、水が生き物のようにうねり続けた。ユウリが再び鉢へと集めて誘い込むまでの間。その後、ユウリは鉢を飾る金属から稲妻を取り出した。電気を走らせぶつけ合い、空中から火を生じさせた。それらがリズムに合わせて踊り、またたく。まったく、アギュがヒッキーから目覚めたのも無理はない。僕がアギュだったとしたって、じっとしているなんて不可能。見たくなくてもつい、釘付けになってしまうって!。500年の眠りから覚めて見る価値が絶対あるんだって!ほんと君にも見せてあげたいよ。


(ひょっとして、アギュならできるかもにょ?)
アギュがぁ?。ああ、ソリュート持ってるしね。
でも、ぜーったい、絶対、やらないと思うな。
(そうかにゃ~?意外に演芸好きかもにょ~)


アギュが何故、500年も閉じこもっていたのをやめる気になったのか、それは誰にも、公式には今も謎なんだよね。非公式には、カミシロ・ユウリの手柄らしいとなっている。それはその当時から、彼女に対する教官の扱いの違いとかでなんとなくみんなわかっていた。そうでなきゃ、いくら優れた楽器の使い手だって、ああもべったり大事な臨界進化体の側に置いとくもんか。そうだろう?。だから彼女とアギュの間をどうこう言う噂も流れたりしていたわけだ。ユウリは潔白だってのに!まったく腹の立つヤジ馬どもが。


(ユウリのことになるとガンちんはいまだに熱いにょ~ふう~)
 おいおい、ため息付くなよな。


その辺の真相はいつかアギュに、聞いてみたらいい。彼の長い人生をユウリがどうやって変えたのかね。
僕?僕は知りたくないよ。まだね。
僕はまだ、聞く勇気が持てないんだ。

こら、ドラコ、余計な事は何も言うなよ。

GBゼロ-2

2007-09-13 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-2

               ガンダルファ-1
                                       
人類として「最高に進化した」と言われた少年の話をしよう。
僕達人類の「進化の行き着く果て」と言う意味であるが。
それとも「退化」なのだろうか?その答えはいまだにわからない。
彼の名前はアギュ。アギュレギオン。

僕はガンダルファと呼ばれている。僕は「彼」とオリオン領域のペテルギウス第23惑星で・・スペーススクールと言う場所で出会った。
そこは僕達生徒には「宇宙の監獄」と呼ばれていた。
なぜならスクールは惑星を回る人工衛星であり、卒業するまで脱獄不可能だったからね。
スクールには色んな星の色んな意味で選りすぐりの特別な子供だけが集められていた。  
 とは言ってもいたのは人類型の遺伝子を持つ子供だけだった。
ペルセウス星系やケイロン星系に近い辺境では岩石生命体やヘドロ生命体、色や形も別々な、我々が陰でこっそりと「知性を持ったモンスター」を呼んでるような生命体が、人類と条約を結び連邦の一員として共生しているけれど、さすがにそこまでの子供はいなかった。つまり掛け合わせ自由、お互い配合可能なDNA同士だけってわけだ。
そして人工衛星が回っている、第23番惑星にはオリオン連邦の悪名高い最高機密研究所がある。
ここまで言えば、僕の言いたいことがわかるだろう?そう、そこは異種人類や異能人類を掛け合わせて更なる人類の可能性をさぐる!と言う・・人類進化研究所の牧場だった。いわば僕ら哀しき子羊ってわけ。


(でもガンダルファにゃ楽しんでたにゃ?)おっと、うるさい!
(こいつは女たらしにょ、遊んでたにょ)雑音は無視して先を続けよう。


後で考えてみれば、遺伝子レベルやら肉体レベルの配合やら、すべてを連邦政府にコントロールされていたわけだ。
そんな場所なんて地獄のようなところだと思うだろう?
ところが実際はそうでもなかった。僕らはみんな子供だったし、ほとんど産まれた星と
そこしか知らなかったしね。それにちょうど色々な興味もわく年頃だもの。
まあ、そんなところに赤ん坊から16歳まで・・政府が認める表向きの特殊拘束の可能限界年齢の子供が10000人ぐらいいたわけだから、なんともかしましいもんだ。
ご苦労さんな体験だったが、とても楽しかった。
なんたって恋愛し放題!でも普通なら痴話喧嘩だの刃傷沙汰だの妊娠だの起こりそうなものだけど、その辺がうまく陰でコントロールされていたらしい。
もし「できちゃった」としても夜中にこっそり女の子の身体から取り出されてるという怖い噂もあった。
実際、定期的に研究所から人が来て、僕らの身体から色々採取したり測定したりしていたしね。そうなると、そのデータの利用先はあまり想像したくないかもね。
それ以外はたらふく食べて寝て遊んで、色んな知識や技術を習ったり。そこらのアースの学校となんら変わらない。そして無事卒業できたあかつきには原始星出身の身分では到底就けない職業   軍人やパイロットとかの採用試験を受ける資格を獲得したり、脳みその適応基礎力のもっと高い優秀な奴ならば、さらに狭き門の医者や科学者にだってなれる可能性が産れるのだよ。そうなればまさに、文字通り宇宙を股にかけて飛び回れるってわけだ。これが魅力的じゃなくてなんとする?
まだ生徒になりたての頃には、まさか自分の学校に一生卒業できないヤツがいるなんて思いもしなかった。
それって、つまり噂のアギュのことなんだけどね。


(やっとアギュまでたどり着いたにゃ~長かったにゃ)
 おっとまだまだ進化体の話をし なきゃね!
(ええ~!ガンちんはもったいぶってるにょ~だから最後にはいつも振られるにょ?誠 意が感じられないにゃ)
 ほっとけよドラコ!


最高に進化した臨界進化体であるアギュの前に、まずは進化体の話をしなきゃね!
人類がアースから発生してその太陽系から外宇宙へと広がって行ったのは知ってるよね?
もう何百万年も前の話だ。今やそこいら中にアースがあり、掃いて捨てるほどの太陽系が存在する。銀河系のオリオン腕と呼ばれる一帯に僕らの連邦は存在してる。それでもまだ銀河の8分の1ぐらいでしかない。それ以外は他の連邦の支配領域だったり、誰の物ともしれない未知の領域だ。
(故に僕らは他の異人種や知性生命体からは、オリオン人と呼ばれている。)
人類が何世代も外宇宙で縄張りを広げつつ人口が拡大していく間に、とうとう宇宙に産れ宇宙しか知らない新人類が登場した。そういう宇宙民族が進化体とも呼ばれる「ニュートロン」だ。肉体が華奢で小さくて目も口も小振りになる傾向が顕著だ。それどころか色素や髪もどんどん薄くなり、終いには背骨さえ無くなった者もいるという・・!。
つまり肉団子人類!ううっ恐ろしい!
幸い?まだそこまでの人類にはお目にかかったことはないが、身体に人工の殻や骨を取り付けたり、機械に乗らなくては移動できない程度の人間ならスクールの教官にも何人かいる。きっと、研究所にはもっといるだろう。
彼らはもっとも進化した知性を持っていて、今やこの連邦の中央の組織のほとんどを占めているのだ。
そう言った極限まで能力値の高いニュートロンは「進化体」と呼ばれている。
さあ、やっとたどり着いた!。
とにかく進化体は、ただの名称でありただではない地位でもあるんだ。言わば、認定必要な免許みたいなもんだ。
それに反して  僕らジュラの人間は原始体とか原始人類と呼ばれているわけだ。原始体は主に人類発祥の地から遠ざかる地域ごとにカンブリアンとかデボニアンとか細かくエリア分けされている。
進化体が宇宙の申し子だとしたら原始体は星の子供だ。空を自由に飛び回る進化体から見れば、僕らは哀れ大地の重力に繋がれてホーホー叫んでるお猿のようなもの。現にそう言ってはばからないニュートロンもいる。
ところがここに宇宙の摩訶不思議が登場する!臨界進化体と呼ばれる人類は、なぜか原始体の中から突然変異としてしか産れないのだ!へへん!(ガンちゃん得意にょ?)
今まで臨界進化と認められた人類は6人いる。アギュを入れれば7人だ。
でもその6人はかつてはいたが、今はいない。いないと言うか、この広い宇宙のどこかにはいるのだろうけど。ジュラの古代神話で言う肉体を離れた魂がすべて目指すという、人類がまだ見たことのない場所、最初に星が産れたと言う、宇宙の揺りかごにでもいるのかもしれない。肉体の臨界に達した最高進化人類を政府の支配下に止め置くことは、今の科学でもまだ実現できそうにない。彼らはやがて人としてのコミュニケイトを失うと言われている。
臨界進化体はいずれも発狂し宇宙の彼方に去ったと言われているのだ。

(大変にょ!アギュもいつか狂ってしまうのにゃ?)
 さあな?今のところまだ、正常みたいだけど。

とにかくなんてステキな臨界進化!なんて不吉なその響き!臨界進化体のことはまだよく解っていない。臨界進化体には寿命がないとかも言われている。生きていれば一番最初のヤツで85000歳ぐらいだろうか?噂に寄ると臨界進化体は生きている星のような存在で最後には星と同じように超新星爆発を起こして死ぬと真剣に言ってる学者もいる。
まあこの話だけでもアギュがどんなに厳しく監視されていたか、わかるだろう?
7人目の研究材料にまで逃げ出されたら、どうすりゃいいのって?政府の皆さんや科学者の皆さんが頭を悩ませていたのはそんなところ。アギュは臨界化の最初の兆候が出た5歳の時に、両親や故郷からさらわれるようにして研究所に連れて来られたと聞いている。
何が人類期待の星だ。人類の行き着く先なんて、正直知るか。ジュラのじいさん達ならこう言うのさ、やがて嫌でもわかる焦りなさんなってね。
勿論、アギュは抵抗した。アギュは実は500歳ぐらいらしいが、まだ12歳ぐらいにしか見えない。彼は500年のほとんどを自分に閉じこもって過ごしたらしい。
まさに一人ヒッキー!一人ニート!完全協力拒否ってわけだ。最初の頃は身体からは色々なデータを取り放題だったろうが、臨界進化体は人類の肉体としては考えられないくらいに限りなく肉体が気体に近くなって行く。それはニュートロンが骨がなくなるのとは違う。あえて言うなら岩が水に、水が気体になって臨界流体なるような感じとでも言えばいいかな。採取したアギュの組織細胞からクローン体とかも色々試したらしいが、成長してアギュと同じ変化をした者は一人もいなかったと言う話だ。
どれだけの科学者達がアギュの回りをくやしがってのたうちまわったことだろう!唯一のアギュを切り刻むわけにもいかない。彼の協力が得られない限り研究は頭打ち。ましてアギュの心の中の問題は誰にも調べようがなかった。

(ヒッキーはアギュの最後の防衛なのにゃ~悲惨にょ~)
 わかってるって、だから僕らが集められたんだからね。

GBゼロ-1

2007-09-11 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-1


              旅立ち

少年は叔父夫婦と共に宇宙港に行った。
弱った母はその朝、寝室で彼を見送った。水色の目ばかり目立った母は、骨が透けてみえるような細い腕でそれでも力をふりしぼって少年を抱き息子の旅の幸運を祈り髪をなでた。

叔父夫婦がにぎやかなジュラの町を感慨深く語り合ながら空港を後にした頃、少年は白い巨大な旅客船の展望デッキにいた。
そこには10人ばかりの子供がこれで最後と故郷を食い入るように見つめていた。出発以来、船室にこもりきりで泣き続けていた子供をいれても20人にも満たなかった。
船客は彼らだけだったのだ。
まだ小さくて事態が飲み込めてない子供達は落ちつきなく絶え間なく体を揺すったり互いに突っつきあって押し殺した笑い声を立てたりしていた。年長組はそれぞれだまりこくって本能的にお互い寄り添っていた。
少年はどちらにも混じらない者の一人だった。
自分の世界のすべてだと思っていた大地が遠ざかりパノラマとなり、すべてが大きな惑星の一部に過ぎなかったことに彼は圧倒されてしまった。
これからのことを思うと胸が高鳴るのを抑えられなかった。
それでも母そっくりの水色の目はにじんでくる涙をどうしようもなかった。
母に二度と会うことはないだろうと彼は思っていた。
あまりに何度もこぶしで目頭を強くこするので彼の目の下には、それから何日も赤い筋が付いてしまった。
成層圏を離れ、大人達が呼びにくるまで彼らはずっとそこにいた。

ガンダルファと呼ばれる少年の旅はこうして始まった。

こうして彼は産まれ故郷のジュラの原始アースを後にした。乗っていた16名はジュラで産まれた6歳から10歳までの子供のすべてだった。動かすだけで莫大な燃料や生え抜きの乗員がいる最新式の客船がオリオン連邦からジュラに差し向けられるなどかつてないことだった。それだけでもこのプロジェクトがジュラという原始の掟に縛られる人々にとってもどんなに重大なことであったかがわかるだろう。
船はスリープワープを繰り返し、時にはブラックホールや磁気嵐をワームホールで避けながら連邦の中心部へ向けて進んで行った。途中でいくつかのジュラと同じような原始星に立ち寄った。その度に又何人かの新しい人種の子供達が乗り込んで来た。
客が子供しかいなかったためだろうか、船長はいくつかの観光ポイントに船を止めてくれた。その度にスリープから起こされても文句を言う子供はいなかった。全員が初めての旅だったのだ。
ガンダルファはひたすらむさぼるように観光した一人だった。リング銀河や薔薇星雲、双子星や彗星の尾、星の産まれている霞のような雲や、死んで行くブラックホールが遠くから安全に臨める絶景ポイントの数々。どれひとつも見落としたくなかった。体全体が目になってしまえばいいのにと彼は思った。外宇宙を見たことがあるジュラの人間はごくわずかだった。まして子供であれば。もし又ジュラに戻ることがあったらみんなどんなにうらやましがるだろう!エリートと言う言葉が頭に浮かんだ。それは誇らしげに叔父が出発する前に離空手続きの事務員に自分を指し示した言葉だった。
この果てない宇宙のちっぽけな原始惑星で産れ、そこで死んで行く運命だった自分がこうして宇宙を旅している。しかもそれも終わりが近づいていた。
オリオン星系のペテルギウスが近づくにつれてスリープは短く、間遠くなって行った。
子供達の体内時計を目的地の時間に合わせるためだった。
そこには彼らが暮らす予定のスペーススクールがあった。

ガンダルファの目にはスクールは惑星の衛星軌道上にある、巨大なドーナツに見えた。8本のリングが絡み付いた銀色のドーナツ。でもその真ん中の空洞は真っ暗だった。穴の向こう側は暗くて何も見えない。太陽に照らされた巨大な惑星の稜線が、そこだけ途切れていた。まるでここに来る途中で見たブラックホールみたいだと彼は思った。
客船のデッキから太陽ははるか遠くに見える。ジュラの太陽より何千倍も巨大な一等星。太陽光は白く少年の目を焼いた。
そして目の前の赤い雲が渦巻く茶色と黒の惑星。ジュラの水色と緑のアースとは違って毒々しい。いつかそこに降り立つことがあるかもしれない。ガンダルファは想像を膨らます。その星は辺境のジュラではもはや伝説だった。
昔話の亡霊のような遠い存在。
それが少年が産まれて初めて見た、ペテルギウス第23番惑星だった。

船が衛星に接岸する為に近づいて行くとドーナツは二重になっていて、巨大な窓らしきものが側面に付いていることが肉眼でもわかった。そのうちの一つに青い光が見えた。
ガンダルファは妙にその光に目が引きつけられたのを覚えている。
「なんだろ、あれ?」少年は明けの明星ように輝く、その光を指さして叫んだ。
「展望デッキだろ。」クルーの働きに目を奪われていた仲間は上の空だった。
ガンダルファはずっとその光を見つめ続けた。やがて船はドックに収容される為にステーションの下に回り込んで行き、光はまったく見えなくなった。

思えばその光がガンダルファの旅の終点。
その光がすべての始まりだった。

なんちゃってSF

2007-09-11 | オリジナル小説
いよいよ新しい作品を載せて行こうかなと思います。
SFなんですけど。
私のSFの知識はお粗末なもんです。
ルーツは萩尾望都先生や竹宮惠子先生です。(地球へ・・やってますね)
その辺で培ったあの雰囲気を目指したいものであります。
希望です。
だからまあ。
お手柔らかにお願いします。
18章(19に分けようか)100ページ分ぐらいあるんです。
我ながら困ったもんです。
気長に載せて行きたい。
週に1章が希望です。
小説と言っても素人が好き勝手に書いてるものです。
波長が合われた方が気長におつき合いをしていただけると
大変にうれしい。
トシちゃん感激!です。
では。