MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-9  無重力リング-3


僕たちは出口に向って泳ぎ始めた。
随分、時間を費やしてしまっている。そろそろ、怪しまれないとも限らない。
道々、ユウリはまた無言になる。
悪い傾向。ムードメイカーの力不足?
ユウリは突然、壁を蹴ると勢いよく跳ね上がった。
「あぶない!」僕はわけがわからず、追い駆ける。チューブに激突しても、死んだりはしないが打ち所が悪かったら、痣になるよ。
でも、ユウリはすんでのところで素早く膝を抱え込む。キック&ターン。
追って来た僕とぶつかって目から光が散った。
「痛~い!」
「痛いじゃねーよ!」ハスラーにはじかれた玉のように散りながら、怒る。あ~コブが出来るかと思った。
「ガンダルファの石頭!」ユウリは涙を流して笑い転げてる。なんなんだよ、この娘こ。
「お前もだろが!」頭をかかえる僕。
ふと、気付くと素早く体勢を整えたユウリが目の前に迫る。
「ごめんね。痛いのとんでけ~」その痛いのが飛んでった方向をドラコが追う。お~い何、追い駆けてんだよ~。
「これで良し」ユウリが頭をナデナデしてくれる。笑顔のアップ。近すぎ!
僕のバロメーターは一気に上がる。
「なんかさ、やっぱ悩んでんじゃないの?」これは僕の勘だった。

ユウリは、手を伸ばした。
「ドラちゃん、こっち、こっち!」遠くでドラコがにょ~んと答えた。
思えば、不思議だ。ワームが契約者以外にこんなに、なじむなんて。ドラコはまだ赤ちゃんだから?まあ普通は見ることもできないのだから、アギュやユウリが特別なんだろうけど。シドラ・シデンのワームドラゴン、バラキですらユウリには触れることを許しているもんな。
ふと見るとドラコはユウリの腕に落ち着いてしまった。
うにゃ~ん そして、小さなゲップ。

何、食ってきたんだよ、ドラコ。僕の血以外に。
(ガンちんの痛いの痛いのを食って来たにょら~)なんじゃ、そりゃ?

その時のドラコはほんとに、たらふくになったツチノコそっくりだった。腕から肩にかけて、体を長く伸ばした。ユウリに平気で腹を見せてる・・こんなに無防備でいいのだろうか?おーい、契約者は僕だぞー、と叫ぶ。
「ガンダルファはジュラが恋しい?」
ふと、ユウリがドラコの腹をなでてた手を止めた。
突然の質問に僕は詰まった。そりゃ、恋しいような、恋しくないような、でもジュラには誰もいない。それにスクールの生活を僕は嫌いじゃなかった。だって、ここには友達やユウリがいる。
「あたしは恋しい」ユウリの伏せたまつ毛が濃い陰をその肌に落としていた。
「ほんとは恋しくてたまらないの。あたしの産まれた星。私のアース。」
ユウリのまつ毛の下がうるんだように見えた。
「ただ恋しいの。どうしようもなく」
さっきまでの強さの片鱗とはまるで違う顔。なんてユウリは、はかなく、キレイに見えるんだろう。そんなことを思ってるなんて、僕は少し後ろめたくなった。
僕はここに来た子供は結果的にはみんな喜んでると思っていた。将来が開けるんだし。たとえさらわれるようにして来た子供であっても。もちろんアギュを除いてだけど。

「さっき、ソリュートはあたしの父の為って言ったじゃない?」
ユウリはドラコを僕の上に戻した。そして、宙を翻った。無重力を泳ぐオレンジ色の金魚。彼女はバランス感覚がほんとに飛び抜けている。
「ソリュートに目を付けたのは、もともとケフェウス教官なのよ。研究してたって言ってたじゃない?だから、アギュに働きかける手段の一つとして使い手を探していたの。彼は楽器が持つ効能に着目していた。・・それぐらい、アギュに手をこまねいていたってことだけど。」
ユウリの舞いはまだ続く。なんて美しい風景。微かな振動は彼女に同調したソリュートだろう。無重力の空気も揺れる。僕も揺れに身を任して漂う。気持ちよかった。
ドラコを腹に乗せてなでる。ドラコが寝ながらあくびをした。
「あたしは父から離されて混血原始人類を管理する収容施設にいたの。でも、あたしは父からソリュートを受け付いていたから・・特別に中枢の方でソリュートを磨くことが許されていた。その話が来た時、自分から志願したの。」
なんだか心地よくて眠くなりそうだ。まずいぞ。僕は身動きした。
「アギュを起こすことができたら、父の刑期を縮めてもらえるだろうって聞いてね。オリオン・シティでオーデションを受けて副所長のケフェウスが私を指名した・・。彼は成果を挙げたら父の保釈後の身の振り方に着いても善処してやると言ったわ。。父と故郷に帰れるかもしれない・・私は父と共に産まれた星に帰れるならなんでもしようと思った・・私も星に帰りたかった・・その選択は後悔してないけど。」
そうか。彼女は父親の人質だったんだ。そういうことか。眠い目をこする。
「しかしなんて言う、好条件!奴にそんな力があったなんてね!」
これは、教官への皮肉だ。
「ケフェウスに、じゃないわ。」ユウリはスッパリと。「あたしは当時、連邦の事がよくわかってない世間知らずだったから信じてしまったけど。違うの。あんな人に権力なんてあるもんですか!あってはいけないのよ!」
ほんとに心底、ケフェウスが嫌いなんだね。僕も嫌われることだけはしまい。
くわばら、くわばら。ユウリは重々しく言葉を口にする。
「本当に権力があるのは、臨界進化体・・なのよ!」
「アギュゥ?」
「アギュ本人じゃないわよ。彼にまつわる回りのこと。だから、彼を起こしたあたしは特別な位置にたった。そうでしょ?それは、アギュのおかげなのよ。」
ちょっと、それおもしろくないなあ。

ユウリはちょっと不思議な考え込むような表情を浮かべると微笑んだ。
「あたし、宇宙に来るまえは寝るといつもアースの夢ばかり見たものよ。5歳ぐらいで離れたから記憶もうつろなはずなのに。とっても鮮明でリアルでね、苦しいぐらい。あたしの星の人は魂は千里を走ると言ったそうだけど、寝てる間に心だけは帰ってたりしてね。でも、目覚めると暗い宇宙の真ん中に一人ぼっち。いっそ目覚めなかったら、どんなに良かったか。」ユウリは哀しげな吐息をもらした。
「だからあたし、ピクニックが嬉しいの。本当の夢を見ないですむでしょ?」
「そうか・・」
「こんなにアースを懐かしく思うのは母が産まれた星で、父が母と出会った星だからかもしれないわね。」
「でも、帰れるじゃん。卒業すれば」僕は努めて明るく言った。
「お父さんだっていつか釈放されるし、帰りたかったら帰れるでしょ。ユウリには権利があるっしょ!だって立派にアギュのお守りの役目を果たしてるし。恩赦だって出るんでしょ?・・僕は、たぶんやっぱり軍隊に入ると思うな」なにげに付け加えた。ユウリと同じ部隊なんてステキなのにな、残念。
「そうね。」ふいにユウリの声が変った。どういうこと?僕も突然落ち着かなくなった。

次の言葉を放つのは勇気が言った。でも言わなきゃ。
「もしかして・・アギュの許しがいる・・とか?」言葉にしたら胸がカッと熱くなった。
気がつくと僕は怒っていた。「アギュが許してくれないとか?」
「まさか」ユウリは舞うのを辞めた。
「え?どういうこと?」
「あたしがあの人を起こしたのよ、知ってるでしょ?」ユウリは怒ったように言った。
「あたしがアギュを自分の勝手で、見栄で起こしたの。カンブリアンの囚人の娘なんかに、ちょっとソリュートがうまいぐらいの小娘に何もできるわけないって言う、ニュートロン達に自分の力を見せつけてやりたかったの。」
「ユウリにもそんな気持ちがあったんだ・・」
「もう、ドロドロ!。」ユウリは少し笑った。
「親近感わくなあ。」
「あたしが必死だったからかしら?アギュは夢で会いに来てくれたわ。それから毎日寝てる間に色々、話したわ。アギュはずっと嫌がっていた。でもあたしは説得した。」
ユウリは左右に首を振り続けた。
「説得し、説得し、泣いて懇願し、懇願したの。結局、彼は折れてくれた。あたしが手柄を立てて、それで父の刑期が特赦され、父と再会できるようにって。」
「意外だ。」
「あの人、不器用だけど優しいとこちゃんとあるのよ。」
ユウリがアギュはを褒めるのは、やっぱ複雑な気分。
「あの人、100年ほどならあたしの為に付き合ってやるって言ったわ。」
「恩着せがましいなあ」僕は顔をしかめる。
「じゃあ、もう問題ないんじゃないの?」
「ええ。イリト・ヴェガはあたしをアギュの側に措いときたがるでしょうけど。それはどうにかなるの。私の卒業に合わせて、父も特赦が決まってるの。」
僕はユウリのアースはどこか気になった。僕もそこに行きたいな。
口に出しては、「何が問題なの?」とだけ。

「あたし、アギュに約束したのよ。無理やりあの人を起こした時に・・あたしがずっと側にいるからって。嘘を付いたの。本当は父とアースに帰るつもりだったのに。彼をだましたわ。」
「じゃあ、やっぱりあいつがユウリを縛ってんじゃん!」
ユウリは再び、首を振り続けた。
「さっき、アギュに言われたの。そんな約束信じてないって。最初から当てにしてなかったから、好きにろって。」
え、じゃあ、なんで?
するとユウリは驚くべきことを口にしたんだ。

「あの人がかわいそうで・・」
なんじゃそりゃ?それって?僕はいっぺんで頭から水をかけられた気分。思わず、バランスを崩す。
ユウリは僕の腹から投げ出されても、マイペースで惰眠をむさぼるドラコにジッと目を据えた。
「あたし、父に会いたい、アースにも帰りたい。でも、きっとここを離れたら後悔すると思うの。彼を又、一人ぼっちににするなんて。自分だけ彼を利用して幸せになって、彼をここに置き去りにするなんてどう思う?。そんなことしていいと思う?どうしたらいい?ねえ?」
「それって・・つまり、」
ガンダルファちゃんよう、好きな子にそんなこと言われてるってどういうことよ。やっぱ、お友達、そりゃお友達なんだけどさ。お友達からって言う、期待は打ち砕かれたってことだよね。
僕はやっと声を絞り出した。
「ここを離れられないのは、離れたくないのはユウリってこと?」

「ほんと迷惑な相談だな。」いつの間にか近くにシドラ・シデンがいた。

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