刑事達
「雅己くん、いいかしら?」
困惑した星崎の後ろにやや貧相な中年男が二人モニターに映し出されている。
「鬼来さん?鬼来雅己さん、ですか?」くすんだ色の背広だが、身なりはキチンとしている。もしかして・・と思う前に胸元から手帳を出した。「警察のものです。少し、お話を伺いたいのですが?」
「上に上がらないとくわしく話せないっていうから、お願い。」
「警察だって。」もう血液の分析結果が出たのだろうか。
「え~、今からぁ。」ブツブツ言う雅己を無視しオートロックを解除する。
床にあるものを脇に積み上げて、椅子二つを中央に移動させる。テーブルを動かす暇はない。。「おい、手伝えよ。」雅己がようやくポテチを置いて手を貸した時にはもう玄関のインターホンが鳴っていた。基成先生は寝室の前に自分のスペースを作り腰を降ろしている。
「中野署の高木といいます。」刑事は二人、制服警官が一人だ。なんだかでかそうな警官は、屋内には入らなかった。刑事だけが星崎と共にリビングに招き入れられる。
「お引っ越しですか?」高木が室内を見るなり「いや、それが。」
星崎も戸惑いを口にしながらもどうにか基成勇二を見つけそこを目指そうとする。
「ぼく、覚えてないんだよね。」
「あなたが鬼来雅己さん?こちらは?」「あっ、僕は友人で仕事仲間で、岩田と言います。」「先ほど言いましたが、うちの出版社の社員です。」編集長は基成先生に手を貸してもらってどうにか寝室の前に陣取った。「こちらは、霊能者の基成勇二先生。」
二人の警察官はあきらかに動揺した。
「ほほぅ・・あの、テレビに出ている?霊能者、ですか?」
「はい、その当人ですぅ。」
譲は警官達に椅子を勧めてステレオのスピーカーに座る。
雅己はテーブルに座る。まだポテチを持っている。
「あの・・・できれば関係のない方々は席をはずしていただけるといいのですが・・」「全員、関係者なんですの!」星崎が叫ぶ。
「しかし・・・マスコミ関係は・・」と口を濁す高木に隣の刑事が肩を竦めてみせた。「まぁ、もう今更隠しても」などと、短い二人のやり取りの後、
「私は群馬県警の松橋と言います。」もう一人の刑事が名乗った。
「群馬県警?」「彼はちょっと事件がありまして、こちらに出向しているわけでして。」丁寧な口調で高木刑事。「事件?群馬で、ですか?」譲はハッとする。
「まさか、鬼来の実家で・・・何か?」
二人の刑事はポテチを食べ終わって指をなめている雅己をしばらく見つめ、また顔を見合わせた。「先ほど、病院の方へ伺ったんですが。」高木刑事がゆっくりと「あなたがたはもう病院を出られた後でしたので。担当の先生から少しだけお話を伺ってきたのですけれど・・雅己さんは、ご病気とか?」
「あ、いや病気ってわけではないんですが。」
「医者の守秘義務とやらで我々もはっきりとはお答いただけなかったのですが・・・色々と推察したことを繋ぎ合わせてみますとどうやら・・・記憶喪失なんですか?」
「はぁ、まあ。」譲も曖昧にうなづく。「そうみたいなんですよ。」
それを聞いた松橋刑事がため息を付いた。「そうですか。それは、残念です。」
肩が下がっている。「どのくらい前から記憶がないのか、わかりますか?」
高木刑事は相棒の落胆にもめげる様子もなく前向きだ。
「あっ、ここ1ヶ月ぐらいだと・・・そうだよな、キライ?」
「う~ん、ぼく、よくわかんないよ。そんぐらいじゃないのぉ?」
「例えば18日前、あなたはご実家の鬼来村に帰られましたよね?最寄り駅からタクシーに乗られてますが、その辺りは?」
「わかんないよぉ~そんなのぉ!」
「あっ、その記憶はないみたいですので。」駄々をこねる雅己に代わり譲。
「わかりました。もうその辺で。」高木が見かねたのか口を挟む。
「雅己さんが記憶をなくされたのは、降霊会でだとか。」霊能者を横目で捕らえる。
「降霊会っていうか・・霊視の最中・・まぁ、降霊会か。基成先生に失踪したこいつのおじさんとおばさんの行方を視てもらっていたんですよ。」
細かい説明はどうせ信じまい。「そこで突然、倒れて。」
「ふむ、我々が署で聞いたことと概ね一緒ですな。」
なんだ、知ってるんじゃん。「新しい手がかりとかは出て来ていませんか?」
「そうですね・・・失踪の件は言うなれば、こう着状態です。」
「もう少しすれば本格的な事件として捜査することになるかもしれませんよ。」
脇からの刑事がやけに熱心に口を挟んだ。「事件性があると認識されたのですか?」
「いや、それはまだ。待っていただかないと」なんだか思わせぶりだ。
「それにしても霊能者に依頼されるとは。警察が頼りにならない証みたいで、申し訳ないですな。料金もお高いでしょうに。」
星崎が鼻を鳴らした。融の返事も素っ気ない。
「いや、そういう取材とかが・・たまたま僕や鬼来の仕事だっただけです。」
「すいませんね。色々と試すようなことを言って。我々もこれが仕事なものですから。」高木も頭を下げるのが慣れているようだ。
「とにかく、雅己さんのおじさんとおばさんの件も引き続き、調査中です。ただ、それとの関係は確定できないのですが、緊急に新しい事態が発生しましたもので。そっちの件も含めてこうしてお話を伺いに来た次第なんです。」
「ふ~ん。」雅己がどうでもいいような声を出す。「それが、群馬なわけ?」
「えっと、そう、そうですよ。こいつの実家で何か起こったってことですよね?。」
高木刑事が松橋刑事を見た。
「雅己さんには、大変ショックなことと思いますが実は。」松橋が背筋を伸ばす。
「鬼来村でも失踪事件が発生していたことが、この度判明しまして。」
「えっ?」声を失う譲とは正反対に雅己はどこか人ごとだ。
「もしかして、まさか母さんとかぁ?」
「鬼来リサコさんだけではありません。」高木が深刻な声を出す。
「村人全員が消えたんです。」
第2の事件
『なるほどね。』という基成勇二の声は刑事達には聞こえなかった。
物問いた気に見上げた星崎にはそっと首を振る。
「これはまだ正式発表はされていませんが。」
松橋の話を要約するとこういうことだ。
それはおそらく1週間から2週間前の出来事と思われる。
最初に気が付いたのは郵便配達員だったらしい。1週間ほど前から人を見かけなくなったとは思っていた。12軒しかない山の中腹にある小規模な村落だ。もともとその村の住人はあまり社交的ではなかったと言う。たまたまタイミングが合わなくて、家の中に籠っているんだろうぐらいに軽く考えていた。
それに当時は、その地方にはかなりの雪が降り積もり続けていた。配達も毎日というわけには行かない。村に出入りする為だけの幅の狭い生活道路に除雪車がでないことには村の近くまで行くことも叶わないのだ。それでも雪が途絶えたわずかな晴れ間に配達員はたまった郵便物の配達に出かけた。ハンコが必要な小包があった為だ。雪は膝丈を少し越えていたが、大型の4WDを麓の交番の駐在員が出してくれた。彼も電話もないその村の住民の安否が気になり出していた。村の入り口に当たる竹やぶの前には大きな雪だまりができていたので、そこからは雪を掻き分け苦労してやっとたどり着いた。その一番近い家の玄関で住人を呼ばわったが応答がなかった・・・その集落では誰も鍵なんかかけない・・・そこで二人は家に入っていった。しかし、人気がまったくなかった。駐在員は始めからなんだかおかしいと思ってはいたという。いくら雪が降り続いているとはいえ、まったく雪かきした形跡が村にはなかったからだ。出入りする人間の足跡もない。
どの家にも行ってもすべて同じだった。
「2週間前・・・」譲は呟く。おじ夫婦が失踪したのも同じ頃。当事者であるはずの雅己はさっきからあからさまにポカンとしている。状況が飲み込めないのだろうか。
「そうです。」高木が融にうなづいている。後を松橋が続ける。
「何が起こったかまったくわかっていません。普通に生活していた人間全員が忽然と消えてしまったわけです・・・自ら出て行ったのだとしたら雪が降り出す前、約2週間前ということになります。その場合、無理矢理連れ去られた可能性はないものと思われます・・・何故かというと、抵抗したような痕跡がまったくないからです。家の中はまるで、ちょっと席を外してすぐに帰るつもりだったかのような状況です。用意された食事、これはさすがに腐ってはいませんでしたが乾燥し切って固くなっていました・・・読みかけの本やゲーム・・・テレビも電気も付けっぱなしでした。現金も貴重品も手つかずで、車も車庫に入ったまま・・・」
思わず譲は編集長を振り返っている。星崎は緊張した面持ちだが、その目はキラキラと輝いていた。基成先生もクリームを舐めているネコのようだ。
雅己は口を締め忘れたまま、ここに至っても一言も発していない。
「つまり、東京で起こった鬼来夫婦の場合と大変似通っているわけです。」
高木刑事が声を張り、やや引きつった笑いを浮かべた。松橋は背筋を伸ばした。
「心当たりをあたっていますが・・・16名もの人間がいなくなったのにその所在がまったく確認できない状況です。村から通じる道は1本ですから、必ず麓の村を通過するはずなのですが。そこを含め近隣の目撃者はゼロという有様で・・・ただ、特記すべきこととしては猫と犬が数匹とあと鶏も飼われていたはずですが・・・それらのペットや家畜の類いは今年になってすべて他村の第三者に譲渡されているようなので・・・彼等が自分の意志で姿を隠したという可能性もあくまで否定できないわけなのですよ。何らかの事情で住人達が率先して山に入ったと言う可能性も出てくるわけです。出来る範囲内で山狩りとかもしていますが・・・なにせ山の方は雪が深いもので。本格的な捜索は雪解けを待たなくてはなりません。ヘリによる上空からの捜査ではなんの痕跡も今は見つかっていません。」
「皆さんが自ら山に入る事情を何かご存知ではありませんか?」
鬼来雅己はご存知ではなかった。刑事二人は、重いため息を付いた。
「ところで。」ふいに基成勇二が手を挙げて割り込む。
「事情と言えば、その鬼来村の伝説を警察ではご存知ないのかしらん?」
「伝説?」「鬼来家の呪いのことですか?」「呪い?」「そっちじゃないわよ、ほら、緋沙子ちゃん!」「あっ、死人帰りですね。」星崎緋沙子がいきいきとした。
「死人帰り?」
刑事達は先ほどから何を言うのかというばかりに単語だけを繰り返している。
「刑事さん達はご存知ありませんね。あの、柳田邦男の遠野物語にもある死んだ人間が村に戻って来て一緒に暮らすという話です。」
「はぁ、それが何か?」「つまりもともとそういう場所なんですよ。」
「他にも隠れ里伝説とかあるんです。鬼来村はね、他所から来た人間がなかなか見付けられない、そういう所と言われていたこともあるんです。ねぇ、譲くん。」
「あっそう言えば。」譲も思い出す。「あった、あった。でもキライが話してくれたのはもう桑聞社に入った後だったな。大学時代に知ってたら、絶対おまえの田舎にフィールドワークに行ったのによ。」「だって、村から離れたくて東京に出て来たのになんでわざわざ戻るわけないじゃんよぉ」
「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ!」高木がたまらず声を出す。
「鬼来村の伝説は確かにあります、私も小耳に挟んだことぐらいはありますよ。」松橋がため息を突く。「でもですね、それとこの今度の事件は関係ないでしょう?」「あら、そうかしら?」ここぞと基成勇二が身を乗り出した。
「そういう不可思議な場所であるということなんですよ。そういうところは次元が何かしら歪んだり裂け目があったりしています。人ぐらい消えても不思議はないんです。」「しかしですね、警察ではそういう方面からは・・」
「ええ、そうでしょう。わかっておりますって。ただ、こういう話も念頭においていただければと。捜査の幅も広がるし山狩りの経費も削減できるんじゃないかしら。」
「あっ、はいはい。承りました。」高木が収束をはかりたがっているのは明白だった。
「まっ、それはあちらにも伝えておくこととしまして。ですね、松橋刑事。」
「あっ、はい。そうですね。」松橋の顔も引きつっている。
「ええと群馬県警では・・・身内同士の関係とか事情とかを、近隣地域まで範囲を広げ・・何らかのトラブルとかそういうことを全力で探っている最中なわけです。実態がつかめないだけにとにかく、今はデリケートなんですわ。」
視線が改めて寝室の入り口に向けられる。
「あなた方はマスコミの関係者ですから、特にお願いしたいわけです。」
卑屈なほどの低姿勢は先ほどの話の効果か。
「マスコミって言ったって、月刊誌ですから。」星崎が肩を竦める。
「大丈夫、依頼人の秘密を守ることは慣れてますから。私の口は堅いですわよ。」
霊能者のウィンクに刑事達は引きつった苦笑いを浮かべるしかできない。
「ま、まあ。発表されてしまったら・・これは仕方がないわけですが。まだ数日中は他言無用に願います。」
「はい、もうそれは、もうぉぉ。」星崎の答えは不自然に高い。
「あの~ぉ」ここでやっと鬼来雅己が声を出す。「それって・・・ぼくの母さんも行方不明ってころなんですかぁ?」『そう言ってるだろ』と言いかけて譲は雅己の表情を見て引っ込めた。「残念ながら、そう言うことです。」刑事がうなづく。
「あの、兄貴も・・・?」一瞬、刑事達も首を傾げるがすぐに思い至ったらしい。
「ああ、同居されてる、鬼来美豆良さん?でしたっけ?その方もです。」
「そんなぁ!」雅己が激しく泣きじゃくり出す。「兄貴がいなくなるなんてぇ、そんなはずないよう!だって、兄貴は・・・兄貴は、強いんだもん!」
「キライ?」母親のことよりも兄貴がいなくなったことの方がショックだったのか。
星崎が物につまずきながら駆け寄り雅己の肩を抱いた。涙を拭いてやる。
「大丈夫、大丈夫よ。雅己くん。」
次なる展開
刑事達が引き上げたと見るや、基成勇二が声を上げた。
「はいはい、なるほどそういうことねぇ~」
「センセ、すごい展開ですわよっ!」
星崎は雅己を気にしながらも、興奮を隠せない。「編集長、不謹慎ですよ。」
「わかってるわよ、だけど考えなさいよ!あんたもマスコミの端くれでしょが。」
鬼来雅己はもう泣くのは止めたが、時々鼻を啜っている。
譲は星崎に代わって雅己に寄り添い、その肩に手を置いた。
「キライ、耐えろ。この職業に就いたからには諦めるんだ。」
「・・・譲っちぃ」「どうした?」「・・・ポテチ、まだない?」
涙を拭く手にお菓子を渡した。「これって塩味じゃん。コンソメじゃないよぉ。」「贅沢言うな、こんな時に。」呆れた。ほんとただの子供だ。
「いいっ?譲くん!つまり何もかもがっ・・・2週間前からってことなのよぉ!。」
「??何があったっけ?」サクッとポテチが割れる。
「あのな!おまえのおじさんとおばさんが失踪したんだろが。それでもって同じ頃に、鬼来村でも人が消えていたってことなんだよ。」
譲もようやくあきらめの境地に達した。それに正直に言うと少し怖い。
目は無意識に基成勇二を捜している。
「どういうことなんでしょう?失踪と呪いは確かに繋がっっていたってことですかね。」投げやりでもある。「もう、一緒に解決しちゃっていいんじゃね?」
霊能者が重々しくうなづく。「勿論、一緒にやるしかないでしょ。」でもね。「関係性はまだキチンとわかってない。整理もついてないけどね。」
「センセ!これぞ、基成勇二ファン待望の表舞台ですわよ!刑事事件なんですから。これをサクッと解決しちゃったとしたら、もう基成先生最大の事件と世間が呼んでもてはやしても過言じゃありませんってことです!」
星崎の頭にあるのは連載枠、ひたすら拡大。
ポテチを投げ出し、「なんなんだよぉ、もう~ぅぅぅ!」雅己がとうとう奇声を上げた。「もうわけがわかんないよ!もう、どうでもいい!」
「雅己くん。とにかく、鬼来村に行きましょ。」霊能力者は唐突だった。
「へっ?なんで?」「行きましょう!センセ、あたしもお供しますわ!」
「今日はもう暗いから、行くなら明日、朝一ね。」「行きましょ、行きましょ!」
「ちょっと、待ってください。」自分のアパートにすら帰ってないのに更にこのまま、群馬行きなんですか。「なんでそんな急ぐんです?」
「それにはちゃんと理由があるの。これは霊視じゃなくて推理だけどね。」
おもむろに寝室を指差す。
「雅己くん、あなたはね。最近、兄貴という人に会っているのよ。」
「兄貴?」「鬼来美豆良さんですか?」それもまた唐突な。
「あなたが田舎に帰る前に・・・2週間前ぐらいにその人はここに泊まったはず。」
「・・・そうなの?でも、そんなはずないよ。だって兄貴は一度も群馬から他所へ出たことがないんだもの。」「そうなのか?」「確かなの?」「うん・・」雅己の眉が曇る。譲は基成先生に向き直る。「どうして先生はそう思うんです?」
「譲くんが雅己くんから聞いたお母さんの結婚話よ。電話もない携帯電波も届かない田舎からあなたはどうやってそれを知ったの?」「手紙とか・・・電報?」
「じゃ手紙、捜して。」
譲と星崎は整理された床の山からそれらしきものを捜した。山はそれぞれ整理分類されているのでそんなに難しくはない・・・はずだったが。譲は先ほどの違和感の正体に気が付いた。「う~ん、これってどういうこと?」星崎も気が付いた。部屋はリビングと寝室しかない。玄関、廊下、ユニットバスと洗面所には既に物が何もないのだ。「えっと・・・手紙の類いがありません。」手紙だけではない。雅己の生活の匂いがする私物や書類の類い、メモ帳や覚え書きに類するもの。保古、ゴミそれらは全て処分されたとしか思えない。
「写真はどう?」基成先生は携帯で外のエレファントに何やら色々指示しながら。「個人的な思い出にかかわるものは?」
なかった。床に積み上げられているのはあくまでも生活雑貨や必要品だけなのだ。
「サークルのアルバムもない・・・大学の卒業アルバムも。なぁ、あったよな?」
「あったっけ?」雅己は投げ出したポテチを拾うのも忘れて考える。「だよねぇ?」
霊能者は携帯をモコモコした毛皮の中にしまった。
「電報については素子に裏を取らせる。」
その方法は聞かないでと。
「雅己くん。私がこの場から読み取ったものは(勿論、推理したことも含めてよ)あなたが田舎に帰る2週間前にここに鬼来美豆良さんがいたの。そしてどういう意図があるかわからないけれど、あなたは、もしくは二人はこの部屋を整理し物を処分した。それからあなたは充出版に出かけ融くんと話をし、その後で美豆良さんと一緒に田舎へ帰ったんだわ。そして帰って来てからおじさん達の失踪を発見したの。私はそう確信している。」
先生はジッと雅己を見た。
「あなたの回りに私に匹敵するぐらい力のある人間がいるとしたら誰を思い浮かべる?」「霊能力ってことですか?」譲は息が止まりそうになる。だとしたら、それはもう。「兄貴はUFOを呼ぶんだったよな。」
「お化けも見るよ。」瞬間、雅己の顔は誇らしさにはち切れんばかりになった。
「色んなこと知ってるし。先生に匹敵するかはわからないけど・・・でも。」
なにか含んだ霊能者の眼差しにやっと気が付いたのか、声が小さくなった。
「でも・・・霊能者じゃないよ。」
「それはね、お仕事にしてないって差だけかもしれないでしょ?」
基成勇二がにんまりした。雅己の高揚はたちまちしぼんだ。
「あの・・・それって。」星崎が用心深く切り出した。「以前、センセがおっしゃっていた呪いから守る為におじさん達を隠したのは・・・その兄貴って人だってことになるんですか?」「かも、しれない。って言うか、私はそう確信してるってこと。」
勇二は目を細めた。
『守るため?果たしてそうなのかしら?』それはまだ確信が持てなかった。
『ここでも痕跡をぬぐい去った・・・何の為にこんなことをしたのか。』
『結果として、おじさん達は命を失って雅己くんは記憶を失った。』
『村の住民が消えたのはどうしてなの?鬼来美豆良は今どこにいるのよ?』
霊能者の背中をブルブルと震えが突き抜ける。予定外の武者震いである。
『魔物だけじゃない、すごい奴がまだまだ、いるんじゃない。この世界に。』
「とにかく、鬼来村に行くわ。あなたの兄貴に会いたい。雅己くん、あなたも一緒。」
「我々もお供します!」星崎の視線はガッチリ譲をロックオン。
ここで断ることなどできなさそうもない。群馬行き、決定か。やはりアパートには帰れないみたいだ。もう永遠に帰れなかったりして・・・。