MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

美男梱包

2017-02-27 | 絵葉書

© BODIES IN BLACK / RIE TONO

 

手前味噌を

お送りします・・・

素晴らしいハガキとは

なんの関係もありません

 

 

 

小説・・・なんですが

大雑把な構想だけで

書き進める暴挙に出ております・・・

 

できればこんなことはしたくなかった

のですが・・・

いつまでたっても〜

脳みそから〜

プリントアウトできないもんで〜(汗)

 

そういうわけで・・・

 

書き直しや

入れ替えの可能性があることを

ここであらかじめ

お知らせしておきたいのです

 

どうなるか自分でも

全く

よくわからないのですが・・・

どうか広い心を持って

お許し下さいますように・・・

 

よろしくお願い致します。

 

CAZZ 拝

 


蔦なのか星なのか

2017-02-24 | 絵葉書

©BODIES IN BLACK / RIE TONO

 

はたまた

ヒトデ?

んなわけあるかい!

 

小説

また制作中

よって

 

ハガキで

お茶濁します

 

 

 


スパイラル・フォー-3

2017-02-22 | オリジナル小説

       小惑星帯の若造

 

「Σ85rからの侵入は阻止しました。」
「そうか。」母船を管理する上位のニュートロンの一人がうなづく。
「Ωの穴は開けておくように。」
これは太陽系に重なる無数の次元と無数のワームホールのことである。

そこは木星の小惑星帯にある母船。
月と同じ大きさで中心に鎮座する360度の巨大な次元ボードがその船の全てと言ってもいい。
人間がイメージする居住空間、体と精神を休めるところなど、そこには全く存在しない。
球体の中心、あらゆる座標のゼロとなるところにコントロールスペース。そこに常時いるほんの数人の人間がボードを監視している。宇宙人類『ニュートロン』達。
原始星人だったらとても耐えられない長期の宇宙生活をなんの苦痛もなく、むしろ嬉々として乗り越えられる人間たちだ。彼らは宇宙で生まれ、宇宙で暮らし生き、死んでいく。
宇宙しか知らない人類たち。
しかし彼らにも時々、交代は有る。
果ての太陽系と呼ばれる辺境地帯の外側にある無数の小惑星帯。その星の1つが母船と同じく、星と見まごうほどの船であったとしても第3惑星の住人に到底見分けがつかない。
それは母船とは比べようもないほど巨大だ。大きさは太陽系にある木星と変わらないのだが、その質量は1/10にも及ばない。その中身のほとんどがびっしりと整然と積め込まれた無数の戦闘船と冷却されたホムンクルスの軍団だからだ。そこに交代要員がスリープするわずかな施設がある。
そして仕事がある。停止する巨大輸送船の照準は外宇宙に定められていた。
停戦しているカバナリオンとの間にいつでも起こりうる、あらゆる不測の事態に即座に対応するという仕事。交代要員にも真の休憩はない。
母船の主な任務が内向きであることとは対照的だ。
第3惑星への外部宇宙から、そしてあらゆる次元からの出入りに常に目を走らせるということ。
さらに、母船には表向きにはされてない仕事がある。
第3惑星、『果ての地球』に降り立った上陸部隊をサポートする。あるいは監視する。
特に部隊を率いる立場にいる特殊な人類、『臨界進化体』の逃亡を防ぐこと。
それは唯一無二の極秘任務であった。
そのことを把握しているのは連邦の極一部、中枢のみ。
敵であるリオンボイドは勿論、第3惑星にすでに入り込んでいる合法非合法な遊民組織もそのことはまだ知らない。連邦から派遣されている原始星人たちも一部を除き知らされてはいない。

「Ωの進入航路を開けておくのは連邦からの指示なのですか。」
まだ任期の浅いニュートロンが尋ねた。
「このことは質問しても良かったでしょうか。」
管理者はしばし沈黙の後、告げる。
「この母船は連邦にあるイリト・ヴェガの管轄下であるが。Ωの進入航路の指示は更なる上からの指示であると心得よ。このことはイリト・ヴェガも承知している。」
若いニュートロンはしばし頭を巡らせた。イリト・ヴェガは臨界進化体の逃亡を阻止した功績で今の地位に登りつめた高官だ。そのことを面白く思わない者たちも当然、存在する。
そういったことは後のちの己の処世術ために心に留めおく必要があった。
Ωの進入航路が連邦が『果ての地球』を発見し管理下に置いて以来、遊民の抜け道であること。
そしてそのたった1つの道以外から進入を試みるものは全て次元の狭間で破壊され消滅する。
これはどういうことであるか。

ついさっき、Ω5565の進入航路を通って1つの船が暗黙裡に惑星に侵入を許された。

つまり、それ以外は。
すなわち囮。

第3惑星への侵入を阻止しているという表向きの帳尻合わせ。
いったいどこへ向けてのパフォーマンスであるのか。
連邦とカバナリオン、その間を自由自在に行き来する合法非合法の遊民組織。
まさかそのパワーバランスに今、何かの変化が生じようとしているのだろうか。
若いニュートロンは強いて疑問を押し殺す努力をする。

彼はΣ85rから侵入を試み、ホムンクルスの次元監視船に追尾、攻撃された小型船もしくは航行カプセルを表していた点を無意識に次元ボードに探していた。
もうその痕跡は跡形もない。

 

 


スパイラル・フォー-2

2017-02-06 | オリジナル小説

コビト


僕はドギーバッグから産まれたんだと言ったら君は最初なんのことかわからなかった。
ドギーバッグ・・・パーティや店で食べ残った残り物を持ち帰る袋のこと。
そんな残飯から僕は産まれたんだ。
あのとき、何で君がすごくびっくりして言葉に詰まったのか、僕にはわからなかった。
僕のいた世界ではそれは普通のこと。君みたいに『お母さん』から産まれるってことの方が僕にはよくわからない。そのことを僕が羨むべきなのかもね。
だけど、君は結局事実をそのままに受け入れてくれた。
僕が君を好きな理由はそういうところ。
かわいそうなんて言われたら、こっちが困るもん。
隣のおばさんは僕によくそういうからね。『僕がかわいそう』って。
『あんな母親を持ってかわいそう』ってね。
僕は『あんな母親』どころかドギーバッグから産まれたんだよって言ったらきっと驚くだろうな。まず、信じないだろうけど。
そうなんだ、僕の『ハハ』は『母』じゃないし、『チチ』も違う。
僕がこんなことを君にぶちまけてるのを知ったら『チチ』は怒るだろうな。
『ドギーバッグに戻しちまうぞ!』ってね。僕に腹をたてると『チチ』はいつもそういうんだ。
そういわれても僕にはあんまし響かないけどね。それは君を羨ましく思っていいか、わからないのと一緒だ。僕は怯えてビビるべきなんだろうか。
だけどそういう『チチ』だって僕がビビって泣くことなんかハナから期待してないと思うよ。
だって『チチ』だって多分、肉を持った母親からなんて生まれてないもん。
ただ『チチ』は腹を立てた自分をどうにかスッキリさせたくて、そういうのさ。
喚き散らすと自分が楽になるからね。だって、『チチ』は僕を腹をたてる価値もないと思ってる。それはずっとずっと前から僕にはわかってたってだけさ。

今、僕は『チチ』に見張られてない。
その方法は『切貼り屋』が教えてくれたからね。
僕はここぞという時に、そうできるってことを彼から習った。
もちろんこれが、『チチ』には内緒の最高機密だってすぐにわかったよ。
自由になりたいって思ったその時に、そうなれるやり方を彼は教えてくれた。
今が絶対にそうだと僕は思っているからね。
君と二人きりで身を隠している今。
笑っちゃうね。
どこかもわからない山奥の廃墟でさ。

『切貼り屋』って誰?
ああ、君に彼のことを話したいな。何もかも、ずっとずっと話したかった。
彼は僕を造った人だ。だけど彼が僕の本当の『父親』ってわけではない。
さっきも言ったドギーバッグ。そこから僕を造り出した人ってこと。
彼は博士かって?違う。彼は科学者とか、研究者とかそういうのではない。
彼は何者でもないんだと思う。
スキンカッター。
そう呼ばれていた。
あっちの世界での違法な肉体改造者だって『チチ』は蔑んでいるけどそれは違うと思う。
だって彼は僕が僕であり続けることに心を砕いてくれた最初の人間だから。
君に出会う前までは、彼とあともう一人だけ。
ああ、そうだ。スキンカッター。彼が頼まれて僕を造った。誰から?
僕と『チチ』を君のところへ送り込んだ人達から。
ここに来る前から僕は、君の情報を持っていた。実はね。
驚いた?いや、あんまし君は驚いてないね。
君は一目見たときから僕が遠くから来た異邦人だって見抜いていたんだものね。
僕は君と仲良くなって『神月』ってところへ行かなきゃいけなかったんだ。
そこに何があるのか僕は知らない。
それ以上のことは知る必要はないと言われていた。
そこから先は『チチ』の仕事なんだ。
あっちの世界のことを話そうか。
それと『切貼り屋』ともう一人のこと。

 

 

 

「自分以外を信じないことを俺は勧める。」
スキンカッターがそういうのは何度目か。コビトが発育装置からヨタヨタと這い出した瞬間、それがその最初のはず。
コビトという呼び名はニコがつけた。
ニコは気まぐれにコビトとスキンカッターを訪れ、来ては怒ったりわめき散らしたりした。
コビトの成長が彼の思ったよりも進んでないのが主な原因だった。
だけどスキンカッターは全く意に介さなかった。
「俺のことは頼むから絶対にお父さんとか呼ぶなよ。」
スキンカッターは困った顔をしてそう言った。
ニコがいちいち彼が父親だとか、パパと呼ぶと喜ぶぞとか、あてこするからだった。
「切貼り屋とでも呼んでくれ。その方が呼び慣れてるから落ち着く。」
そういうと彼は大きな洞窟のような空間の中に奇妙な街を出現させていった。
線とか四角とかで構成されているが、全部がそう言った幾何的形状ばかりじゃなくて決まった形では表現できないもやもやとした小さな集合体とかも配置されている。後でそれは木とか草とか花というものだと知る。そして『切貼り屋』やニコには似ても似つかないが、僕にはよく似た姿形の生物がゆるゆると動いていた。『切貼り屋』の長い体をゆらゆらと生物の影が通り過ぎていく。実態はないのだ。
どっちにしてもそんな変な都市、コビトは初めて見た。
「これが文字だ。看板、宣伝。所番地。」
そう言われて、よく見ると汚れのようなものが建造物のそこかしこについている。
「俺の記憶から立ち上げた擬似空間だ。それも、お前がこれから行くだろうところに合わせた。」文字というもののことはなんとなく既に脳に与えられていた知識でわかった。知ってるはずがないのに理解出来る、読めて意味がわかるのが当たり前というのがコビトのいた世界だ。
それよりも何よりも驚いたのは「まずはこれが重力。」
『切貼り屋』がそういうとコビトの体はたちまち浮遊力を失いその決められた平面に吸い付くように張り付いてしまったことだ。
「地面ってやつに足をつける。」
「動けないよ。」コビトがヘナヘナと立ち上がることさえできなくなった有様を『切貼り屋』は冷静に観察していた。「最初はそんなもんだ。お前は生きた惑星を知らない。大丈夫だ。実際のものより弱く設定にしている。じきになれる。」
そしてそれは本当のことだった。
しばらくするとコビトは立ち上がることができ、細い足を前後に動かして平行移動もできるようになった。最初は頭がグラグラと揺れ不安定だった。両足がとても重く、固定されているみたいで不快でたまらなかったが、やがて自分で持ち上げたり降ろしたりすることもできるようになる。ただそれを繰り返すと、たちまち首と背なかが痛くなるのだ。
「背筋をまっすぐにするんだ。」
『切貼り屋』は彼が疲れると作り出された平らな寝床の上で腕を総動員して、小さな体の硬くなった筋肉をほぐした。それを見ていたニコが背骨を固定する装置を持ってきたが、それときたら装着すると逆に痛くてすぐやる気を失うような代物だった。それなのに、ニコが恩着せがましくて得意げにいちいち指図するのがコビトは内心我慢ならない。そのおかげで彼は必要以上に頑張ることができた。とにかく早く、自分で体をまっすぐに保てるように。
コビトが装置を外し『走る』と『跳ぶ』をマスターすると、『切貼り屋』は地面からの重力を少しづつ上げていった。
「お前らは6歳。田町隼人って名前だ、復唱しろ。」
ある日、例によってふらりと現れたニコが尊大そうにコビトに告げた。
「オスでもメスでもいいが、オスが望ましいとさ。」
『切貼り屋』が少し緊張したのがコビトにはわかる。
「オスって何?」コビトが口を挟むとニコは意味深にコビトの体を突いた。
「まだ、どっちでもないんだろ?」
「まだこの子供達は完全じゃないぞ。」『切貼り屋』は怒ったようにニコに言った。
「出立が決まったんだぞ。」
はねのけるようにそういうとふくれっ面でニコは出て行く。
「早く両方とも言われたようにしろ。」
「やれやれ。」『切貼り屋』が嘆く。「まったくだ、やれやれ。」

コビトはそれを聞いて足元に転がっているもう一人を見下ろした。
そう実は子供は二人いた。もう一人は静かにコビトを見上げている。
もう一人の『コビト』。いや、コビトですらない。ニコは名前も付けなかった。
どうしても呼ばなくてはならない時は『失敗作』そう呼んだ。
「オビトとでも呼ぶかな。」『切貼り屋』が遠慮がちにそう決めて、以後そう認識されていた。
『切貼り屋』に名付けられたオビトがコビトは羨ましかった。
オビトが自分と同じ完全な『完成品』だったら憎んだかもしれない。
オビトは声を発しなかったし、最初から立ち上がることができなかった。
「背骨と骨盤に問題がある。」
『切貼り屋』はそう言ったがそれでコビトと扱いを変えたわけではなかった。
同じように彼の脳の発育を促し、知識をプログラムに沿って注入し続けた。
「使えるかもしれない。」ニコがそう言って廃棄しろと言わなかったこともある。
『人工骨を移植すればこの子も立てる。みんなやってる。お茶の子だ。』
『切貼り屋』の提案は歓迎されない。
『それはこっちがダメになった時だ。』コビトのことだ。『あえて立たせる必要はない。』
『あまり目立つとゾルカに目をつけられるからか。』『ここは切り離されている。』
だからなおさら、なんだなと『切貼り屋』が呟いた。
カバナリオンのほぼ全域を統括、管理する人工知能のことはコビトにはよくわからなかった。
「使えるって?」「オメェが壊れた時の部品だよ。」
ニコがオビトの前で嘲るように答えたのでコビトはそっと横たわっている顔をうかがう。
だけどオビトの目と顔はこちらを向いていたが何の表情も伺えなかった。
「パーだからよ。」
ニコはそういうが『切貼り屋』もコビトも彼がそうではないことを知っていた。
それはもう一人いた『失敗作』が死んだ時だ。

 

 

「オビトって君の兄弟なの?」
君が不意に聞く。僕に説明するのは難しかった。同じ子宮から造られたといえば兄弟だと言えるだろう。ただドギーバッグは子宮じゃない。中に詰め込まれていた破壊されたDNAたちは決して同一の素材(人間だよ)だけではなかったと『切貼り屋』は言っていたからね。
その最後の子供以外はちゃんとした『形』にはならなかったんだ。
そう言ったニコのいう貴重な『部品』たちはそれこそ物言わぬ兄弟として保存液の中で生き続けていた。その時も。僕たちはそんな『部品』たちに常に見下ろされていた。
僕の説明を君は黙って聞く。
「だけど、やっぱり兄弟だよ、オビトくんは。」そう断定しと笑う。
「いいね、兄弟って。今、僕のお母さんにも・・・」
僕は君の言いたいことがわかる。会いたいな。会えるかな?
大丈夫、絶対に会えるよ。
そう言ってあげたいと強く思うのはこの星に馴染んできたせいだろう。
それを言ってあげられないと思うこの辛さも多分、そのせいだ。
だから僕は痛いほどわかる、だけど自信はなかった。
それでも、会わせてあげたい。
君をもう直ぐ生まれてくる兄弟に。
これが『願う』というやつなんだろう。

 

 


コビトが一定の成長を迎え外に出た時、オビトはまだ特殊な液体に満たされた発育装置の中にいた。オビトがコビトよりも弱々しく発育が劣る状態として外に出た時、第3の子供はまだ出られなかった。彼が出れたのはずっと後だ。コビトが立ち上がり、オビトが話すことと立ち上がることができないとわかった頃。『切貼り屋』は彼を外に出すことを最後までためらっていた。
だけど「そんな穀潰しはさっさと分解してスペアにしろ。」そうニコに責められ続け、ため息をつきつつ、ついに同意した。
コビトは少し離れて興味深く、その作業を見学していた。
地面を重力基点として固定した為にニコはコビトよりも背が低く丸いウニみたいになる。
それが嫌でニコはコビトと並んで立たないようにしていた。『切貼り屋』どころかコビトにまで上から見下ろされることに上位者としての誇りが傷つけられるからだ。
ニコは好んでオビトのそばにいた。
尊大にバカにして常に見下ろせる立てない子供だから。
発育機の中の液体が抜かれ濃厚で濃密な大気のガスに変わっていく間、第3の子供は辛うじて頭を上にしていた。しかし、体がグラグラと揺れて見るからに危なっかしい。
「あれでは完全に解放する前に、事前に支えてやった方がいい。」
『切貼り屋』はそう言ったがニコは許さなかった。
「ここにいる『失敗作』だって、この擬似重力の中で自分で自分を支えられた。歩けなかったがな。それすらできないなら・・・。」
『切貼り屋』は顔をしかめ操作を続ける。濃密な気体からも解放された瞬間、子供はゆっくりくずおれることもできず、勢いよく折れるように倒れた。
「うわっ、汚ねぇな!」ニコが叫んだのは子供が頭を打ち付け血がでたからだ。
しかも細い足の脆い骨は複雑に折れ崩れ、皮膚の弱く薄い部分を突き破っていた。
そこから吹き出した血がニコを狼狽させた。
「おいおい!冗談じゃない、処理班を呼ばねぇと汚染されちまう!」何に?血にだ。
後になって『切貼り屋』から教えてもらったが、その世界では生々しい血液そのものを見ることがほとんどないのだという。確かにコビトが『切貼り屋』に連れられて行った重力が違う船内都市も、その中に惑星のように漂う建物も内もピカピカと硬質でどこも清潔だった。海を泳ぐ魚のように漂う様々な姿かたちの生物たち(進化した人間たちだという)の外観もその皮膚もそういったつくられた物質に限りなく近い。
『切貼り屋』が作ったヴァーチャル空間は舞い上がった土や埃、塵だらけだった。
通り抜けていく人々も抜け毛や糸くずや目やにがついたままだ。傷口があるものもいる。
だからコビトも初めて見た血と骨に(自分の体の中にそう言ったものがあると知っていてもだ)何も考えられなくなり、体が動かなくなった。
「落ち着け、ニコ。この子の血には何の細菌もないぞ。」
そう言う『切貼り屋』よりも早く、オビトが動き出したのにコビトは気づいた。
這うように(それでも出来る限り早く)倒れた子供に寄り添い、その溢れ出る血を自分の手で止めようと覆った。自分が汚れるのも構わず。
「触んな!そいつはもうだめだ。廃棄だ、廃棄!」ニコが遠くで喚く。
「できそこない、オメェも廃棄するぞ。」
彼の手をどけて手当てをしようとする『切貼り屋』をオビトが見上げる。
血はすぐに勢いを失う。何も話さないけど『切貼り屋』はオビトと確かに、見つめ合った。
それからオビトたちよりもさらに小さい子供の折れた骨をまっすぐに伸ばした。
治療光を一切に浴びせ始める。血は完全に止まる。
ニコは狂ったように床をクリーニングライトで掃除しまくっていた。
『切貼り屋』はそれを借り、自分の手とオビトの顔の汚れを消してしまった頃、コビトはようやく体が動くようになる。
恐る恐る3人に近ずいてはみたものの、血液が広がっていた後の床に近づくことはできなかった。骨が折れてボコボコになった足、傷はきれいに塞がれていたが第3の子供は、うめき声すら発しない。
見る間に、コビトにもオビトにも似た瞳はどんどん光を失っていく。
「死んだ・・・わけ?」小さい声で問うとオビトが顔を上げた。
コビトと初めて視線が合う。その目は強い光を放っていて、コビトは目が離せなくなる。オビトはうなづいた。同時に流れ込んできたむき出しの感情は初めてのものでコビトを混乱させる。オビトの両目から溢れ出たものも。
それは涙、感情は『悲しみ』そして『怒り』だとコビトはやがて知る。

その時からだ。
第3の子供が使える部分を残し『部品』に変わった後。
ニコが偉そうに『切貼り屋』たちを監視に来た時。いつものようにコビトをバカにしオビトを蔑んだ後、コビトはオビトがわざとニコの体に自分を引っ掛けるのを何度か見た。ニコもその空間では地面の重力に体の下部分が固定されてしまうので、ニコはバランスを失なう。宙に逃げることができないニコは地面を転がるしかなかった。そんなことが続き、その度にニコは怒り、オビトを罵るのだが暴力を振るうようなことはできない。ニコの手足はすごく短く、オビトはたちまち表情のない木偶に戻ってしまうからだ。
ニコはオビトの側にも近寄るのも控えるようになる。

 


そうなんだ。
オビトは僕よりも勇気があった。
『チチ』の言いなりになるしかない僕よりもずっとずっと。
体は僕より弱いのに心はとても強いんだ。
オビトはどうなったの?
そりゃ、気になるよね。オビト、僕の兄弟。
そして『切貼り屋』は?
それは話すのはとても辛いよ。
だけど自分の記憶がただでさえ少ない僕にとって大切な記憶だ。
君たちには理解できないだろうけれど。
宇宙遊民はすべての記憶に誇りを持つ。痛みとは別に。『切貼り屋』ならそういうだろう。
だから僕は思い出すと辛くて捨ててしまいたいそんな記憶だって大事に、日に夜に何度も何度も反芻するんだ。その度に涙を流すことになったとしてもね。
大事だから。苦しくて悲しくて・・・
それでも、愛しいから。