MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

月夜のフライングについて

2008-05-28 | Weblog
  

このタイトル
ちょっと大丈夫かなーと迷いながらも
付けました。
他に思い浮かばなかったし。
タイトルはいつも悩みます。

時代は古いですね。
バブルの頃
まだ携帯がなかった頃
つまりは私の青春?時代じゃん!

実際に私が体験したことを
3つぐらい足して引いて
そんな感じです。

車内のアナウンスは
実際にありました。
この耳で聞きました。
中央線の三鷹辺りでした。。。
おトイレ我慢も体験
あれ以来、電車に乗る前は
必ずトイレに行っておきます。なるべく。

連れションはありません。
ライブやイベント、居酒屋で
たまさか知り合った子と
夜明かししたり家に泊めたり
ほんと楽しい時代でした。

こういうこと言ってると
年寄り臭いんですけどね。。。。



月夜のフライング2

2008-05-26 | オリジナル小説
帰り道の方が妙に恥ずかしかった。
良くも悪くも最初は高揚感があった。
なんとなくみんな酔いが醒めたみたいだ。
「ねえ、知ってる?」お水風OLがボソリとつぶやく。
「夜の飛び込みよりも朝の飛び込みの方が重いんだよね。」
「え、どうして?」
「夜の方が衝動的じゃない。朝はさ一晩中、寝ないで考えてから始発に飛び込むんだからさ、きっと。」
「でもさ~、一日中悩んだ結果ってのも重くない?」
訳知りに遊び人が口を挟む。
「それもまた嫌。」「重いね。」
「ダー!」突然、彼が大声を発する。
「どっちでもいいよ!まったく!参った、参った!まったく付いてないよな~。」
「ほんとに、フライングなんて!まったくなんて、一日だ!」
最後の方は、独り言。
「それって飛び込みのこと?不謹慎だわ、そんな言い方!」
お水風、改め出来るOL風は釘を刺す。

フライング。
頼子は妙に軽い語感を噛み締める。

フライング、夜から朝へ、人生から死へ。あるトコから別のトコへ。

電車に近づいて行くと白い布に覆われた担架のようなものが線路脇に見えた。
赤い血が付いているのではないかと一瞬、凝視してしまう。
「うわあ~、ほんと勘弁!一発で酔いが醒めた!」
遊び人は心なし青ざめたようだ。
出来るOLは不機嫌に唸る。
「まったく、人騒がせよね。死ぬなら、人に迷惑掛からないとこで死んで欲しいわ!
他人も巻き込むっていう、そういう甘えた姿勢が嫌!」
「オネーサン、強いね~そういう強気な女王様って嫌いじゃないよ~」
遊び人は感心したあと、急に真顔になる。
「・・勇気あんよな。フライングなんて、俺にはとてもできないよ。」
「そうよ、そんな勇気あんなら、あたしならバンジージャンプするっ!」
「バンジージャンプ?ですか?」
「大嫌いなのよ!高いとこ!」出来るOLは激しく首を上下させる。
「ああ~あれだって時々、紐がプチッと切れて死ぬ人いるもんなぁ」
「でも、たいがい死なないですよ。」
「死ななかったら、それからは死んだ気でがんばるのよ!」
「なるほど~そういう手もあるかぁ~でも、バンジーも俺やだなぁ。」
遊び人は頭を振る。
「しかし、少年。」OLは派手シャツの男を振り返りニコリと笑う。
「意外よね、あんたでも死にたくなることあるんだ?」
「あはは、人間だもん。」
「どうせ、あれでしょ?失恋!女に振られたんでしょ!」
「そう、そう。切ないねえ~。」
メッシュの入ったゆるいパーマ。派手なシャツと細身の皮パンツ。
片や、ワンレン、スミレ色のボディコン。
そんな二人が前で並んでるとまるで私服のホストと客。
あるいは、ミュージシャンの楽屋に来たなじみの店のチーママとか。
「そんなネエさんだって、どんだけ飲んでたんだか。なんか嫌なことでもあったのかな~?やけ酒?なら、俺と一緒、一緒!」
「そりゃ、あたくしも人間ですからね。酒ぐらい飲ましてよね。」
後ろからサラリーマン2人が追いついて来る。
「姉さん達、のんびりしてるねー」「見学かい?」
「いや、そういうわけじゃ。」頼子は慌てる。「乗ります、乗ります。」
「パンツ見ないでよね。あたし達、後から乗るから。」
「ケチ~。」
「オジさん達、見ないよ~」


車内に戻った時、別のサラリーマン達が声高に話していた。
「若い男がさ、命を粗末にしたもんだ、まったく。」
「もったいないねー」
「会社勤めかね?」
「そうとも限んないだろ。」
トイレ組オヤジ達も話に加わる。
「死んだのって、サラリーマンなのかい?」
「あ、なんか、そんな話だよ、な?。」
「見に行ったんだよ、こっちの兄ちゃん達が・・」
ヒソヒソ話してた、若者グループが首を竦める。
「ありゃ~そうかい・・仕事で嫌なことでもあったのかね~。」
「そんなんだったら、俺なんか毎日、死にたいよな!」
「そうだよ、死ななきゃやってらんねーよ!」
「そうだ、そうだ!」

[えー・・まもなく、電車発車いたします・・たいへんお待たせ致しました・・まもなく発車いたします・・]

車の下でエンジンが始動するのが伝わる。
認めたくはないが、戻った3人にはなんとなく連帯感が生まれている。
「サラリーマンかあ。」できるOL風がうなる。「なんだろね。」
頼子はふと、飴をなめたくなる。
「サンキュー。口乾いちゃった。」ミントの香り。
「あ、ありがとう。」遊び人は手が汗ばんでるのか、なかなか紙が開かない。
彼は飴をバリバリと噛み砕く。

「どこで降りるの?」
「国分寺。」「え?私も。」「あっ、俺も!」
「嘘つくんじゃないわよ!あんた、さっき高尾だって言ったじゃない!」
「あれはさ、君らが遠くまで行くのかなって思ったからさ。君らだって国分寺なら、各駅でも良かったじゃない。」そうなんだけどと、頼子。
「せっかく特快に乗れたのに、なんで飛び込みのせいで降りなきゃなんないのよ!」
出来るOLは涼しい顔。「あんたこそ、国分寺なんて嘘なんでしょ!」
「本当だよ~偶然、偶然、いやあ、奇遇だな~!」
大きくかしいで、電車が動きだした。慌てて手すりに捕まる。

[大変ご迷惑をおかけしました・・この電車は武蔵境駅と東小金井駅の間での・・人身事故の為、30分程遅れて運行を再開しております・・お客様には大変ご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします・・・次は国分寺・・次は・・]

何事もなかったように滑らかに車窓が動いて行く。
回転灯も救急車も背景に遠ざかって行く。
「あのさあ、遊びがあってさ。」背が高い遊び人風は派手なシャツの袖が皺になるのも構わず、つり革を変な風に手に絡ませている。
「駅に電車が入って来る時、ホームの先頭でさ、合掌してるとメチャクチャ運転手がビビるんだよね。」
「何よ、それ遊び?くだんないわねえ、やめてよ!」
「ほんとにビビるんだぜ。学校で流行んなかった?」
「流行んないわよ。まったく!」
「どういう学校なんですか~」

「ねえ、ほんとに国分寺に住んでるなら飲み直さない?」
できるOL風が電車から吐き出される前に頼子に提案した。
遊び人が即答する。
「あ、口直し、賛成!大賛成!行こ、行こ。」
「あんたのは迎え酒でしょ?」
「朝まで飲んじゃお~ぜ!どうせ、明日は祭日だぁ!」
「誘ってないんだけど、いっかあ?」頼子はうなづく。
彼の顔はちょっと好みだったし。
「へへ、両手に花!エッチできるかなー」遊び人風は能天気に叫んでいる。
その幸せそうな顔に二人は真面目に怒る気が失せてしまう。
「大丈夫、弱そうじゃん。酔い潰してやるから。」できるOL風が又、囁く。
「あたし、凄いの、酒豪なんだから。」
「そうなの?」
「親が四国だからね、鍛えてるんだ。幼稚園から飲んでるのよ。」



「大丈夫?少年。」本領発揮したOLは再びお水風な雰囲気をまとう。
「つぶれたら捨ててくよ。」
遊び人風はぐったりと机に体を広げ青吐息だ。
「あい、おネーサン・・心配してくれてありがとうです・・」
彼の顔はとても幼く見える。
「ああ、しかし、ほんとひどい日だった~フライングなんてさ~縁起悪すぎ!」
にやける。「あ、でも、こうやっていいこともあったけど、えへへ。」
「ば~か!」お水風は更に飲ませにかかる。
「あんたも結構、飲んでたもんね。」あ、あたしほどじゃないかと続ける。
「しかし、見えないわね~。ほんとにサラリーマン?」
彼は長めのウエーブのかかった髪を片手で掻き揚げる。
「いいでしょ!うちなんてちっさい会社なんだから。そっちみたいな大きな会社とは段ちですよだ。」口を尖らせる。
「今日はどうしたのよ。休んだの?」お水風出来るOLの尋問が続く。
「同窓会だったんですよ。」「同窓会で休むの?」
頼子も酔いにゆだねていじめに加わる。
「いいっしょ、もう、休みたかったんだから。」二人に責められ声を荒げる。
「はい、そうです!休みましたよ、ずる休みです。面白くなかったから!ほんとよくあることですよ~会社でよくあること。でも、同窓会は本当だったんす。ま~ったく、つまらなかった!みんな、なんだか出世してるし。」
「出世って、あんた幾つよ。」
「26。」
「意外に行ってたのね。まあ、私よりは下だけど。」
女二人はこそこそと年齢の告白をする。
(え~そうなの!そんな、見えない!あなただって!)
一番下だと判明した、遊び人風は気づかずに続けている。
「あこがれの人は結婚してるしさ~!独身彼女なしは俺だけじゃんか!あ~もう~むかつく~!今日はも~う、酒飲んでぱあっと寝ちゃおうか~!」
お水風は満足げに失恋か、やっぱりねと声をあげ頼子は、お、意外にまつげ長いじゃんと戯れに思った。かつて知ったる、似たような童顔。

数日前に仕事の愚痴を連発してた男のことを頼子は思い出す。
繰り返される、そんな愚痴が煩わしくて、うざくて嫌だったのだ。
でも今、同じようなことを口にする幼い顔は逆に母性本能をくすぐる。
人はみんな、そんなに強くはない。
あっと言う間に死んでしまう。
付き合ってた彼の汗の香りがふっと甦る。

「俺、サラリーマンに向いてないのかなあ。」遊び人風サラリーマンは杯を重ねる。
「俺、ホストにでもなろうかな~」
それ、ぴったり!と頼子は口にするが、お水風は矢のようにいきり立つ。
「何、言ってんの!ホストだって大変なのよ!なめるんじゃないわよ!」
「厳しいのよ!サラリーマンが嫌だからとか、女と簡単にやれるとか思ってる奴はね、絶対ヘルプで速効挫折よ!」鼻息が荒い。
「あげくね、足下見た客にだまされて自腹でボトル入れてさ、結局踏み倒されて借金がオチなんだから!」
「・・・オネエサン、なんでそんなホストにくわしいの?」
「あ、さては、ホストクラブに通ってるんですか?」
「うるさいわね!」お水風は口から思いっきり息を吐き出した。
頼子はうすいチューハイを飲み干す。
また、トイレに行きたくなりそうだ。
チラリと過る先程の記憶を意識して振り払った。
「ホストクラブって、お金かかるんでしょ?」
「そうなのよね~。」お水風が肩を落とす。
「これが又、大変でね~稼いでも稼いでもっと。」
「貢いでんだ~俺、やっぱりホストなろうっと!」
「あんたなんか、絶対指名しないわよ!」
「俺だって、客選ぶ権利あんでしょ?」
「選り好みは水商売の敵!」
そんなこと言うお水風OLこそ、銀座でナンバーワンみたいな風格だ。
「いいじゃない、サラリーマンで。」
お水風が急にトーンを落とす。
「うちなんか大きくたって最低よ。男しか出世できないんだから。」
「初めて管理職になった女なんてね、残業の後で重役に呼びつけられるの、飲み会のお酌にね!男と同じように働いてさ、それから9時10時に呼びつけられてさ!ホステスじゃない、つーの!」
手を挙げて、冷酒同じのお代わり!と叫ぶ。
「女は損だって。飲まなきゃ、やってられない!」
彼女がトイレに行きたくなった理由はそれだったのか。
お気楽な頼子の理由は、二人とはあまりに違う気がする。
おまけに頼子は自由業なんで、二人にうらやましがられてしまった。
「そんないいもんじゃないですよ。」
「好きなことを仕事にできるなんて一番よ。」
「そうだよ~、俺もやっぱりホストになりたい。」
「まだ、言ってるの?オネエサン、怒るわよ!」
自由業。
確かに仕事は好きだ。
日当でも例えそれが安くても。
だけど。先が見えない。
芽が出ないままに、いつの間にかライブにのめり込んでいる。
私も逃げてるんだ。
付き合ってた男からも。
何もかもから。
バカみたい。

それでも、気がつくと、頼子は笑っていた。


フライングのことは、トイレに行った時にふと思い出しただけだった。
トイレでの圧倒的なあのリアル。
あの時の天啓はいったい、なんだったのか。
今もまた、当然のように排泄をしているけれど。
頼子は自分にまつわりつくそんな気持ちを持て余す。


私。
不浄だけども、確かな存在。
私の肉体。
私は生きてる。
飲み過ぎたかな、酔った頭の隅でぼんやり思う。

フライング。
こうして、朝まで飲んでいればあの人も考えが変わっただろうか。

足場も固めず、振り返りもせず、あの人はまっすぐに飛び込んだ。
空間を過るそのわずかな間、あの人は最後に何を思ったのだろうか。

私にもとてもできないな。
瞬間、すぐ後悔しそうだ。
頼子はのろのろと手を洗う。
だけど、フライング以外だったら?
頼子は死に至るまでの苦痛と恐怖が嫌なのであった。
だけど、もしも
ボタン一つで、ポンと向こう側に飛べるのだとしたら?
私だって、あの人と何も変わらない。
あっちに飛ぶか、こっちに居続けるか。
多分今は、膀胱のあのリアルが私をここに繋いでるだけかも。
一人で笑う。疲れた顔が鏡に映っている。
もうすぐ、30しっとるけのけ?



二人とは始発の頃に別れた。
お水風は踏切を渡って手を振って行った。反対側にアパートがあるらしい。
遊び人風はほんとうは国立らしく、線路沿いにのろのろ歩いていった。
電車乗ったら、寝ちゃうからとあくびをしきりにした。
背を丸めたゾンビのような彼の後ろ姿に、朝日が降り注ぐ。
白いシャツの薔薇模様が目に眩しかった。



アパートの部屋に戻ると夏の夜の名残がむっとしている。
クーラーのスイッチを入れると、電話を手にする。
ためらわず、覚えているナンバーを押す。
・・・長い呼び出し音。
やっと、手応えがあった。
『・・はい・・』
「私、わかる?」
『・・・頼子?』
「久しぶり。」頼子はベッドに長々と横になる。
「モーニング・コール・・」
『・・今日、祭日・・だろ?』
「特別、サービス。」
『・・もう、かかって来ないと思ってた・・』
「どうして?」
『怒ってんだろ?電話してもいつも留守だし。』
「水に流す。」私は酔ってる。
『・・良かった・・あれ以来、遅刻しっぱなしなんだ、俺』
「2週間も?アハハ、会社とっくにクビになっちゃうわよ!」
『誰も起こしてくれる人いないから・・さ』
彼の大きなあくびが頼子の耳を刺激する。
頼子も眠かった。でも、まだ眠りたくない。
「ねえ、今日会えない?」
一眠りしてお昼過ぎからでもいい。
『いいよ』

それを聞いてなんだかひどく安心した
頼子の意識は
少しづつ、はるか彼方へとフライングしていく。

あちらから、こちらへ。

この地点からあの場所へ。



彼の声を聞きながら頼子は眠っていた。
大きな月の夢を頼子は見ている。

満ち足りた満月。
楽し気に軽々と。
その月の前をよぎる影を。

月夜のフライング1

2008-05-26 | オリジナル小説
大きな満月の夜だった。



電車が止まった。
乗客は急停車にとまどう。
もちろん、酔いつぶれてる人々は何も気がつかない。
寝ていた者は面倒くさそうに頭を上げた。
車内はひと時の不安な沈黙を共有する。

[・・失礼いたしました・・]
[・・踏切内に人が立ち入りました・・ただ今、車掌が確認に向かっています・・]

ざわめきが広がる。
窓の外に荒い砂利を踏んで走る音。
若いグループがひそひそと話しだす。

[・・えー・・ただ今、人身事故が発生しました・・]

ついに、車内ははっきりと目覚めだす。
注目が車外に集まるが、照明に照らされた暗い窓には疲れた乗客の群れが映るばかりだ。
困惑と不安。神経質な笑いがあがるが、すぐに止む。

[・・えーっ、ただ今、レスキュー隊を要請しています・・・えー、レスキュー隊到着まで今しばらくお待ちください・・]

急に生き生きしだす者達もいた。
退屈な一日の終わりを打ち壊す、ささやかな興奮。
「見に行くか!」車掌の足音を追って隣の車両に走り出す。
物見高い若者達に眉をひそめる大半の者は居心地悪そうに身動きする。

[・・えーっ、ただ今、足が挟まっております・・足が挟まっております為にレスキュー隊を要請しています・・]

「えー、壮絶!」「そこまで言う~?」
車掌達だけでは、この荷は重すぎると思ったのかもしれない。それとも悪趣味な重荷を分かち合うことによって、乗客に状況を納得させようとの職業的判断か。
案の定、車内の騒音はピークに達する。
「なんだよ~まったく」「中央線って多いよね。」「知ってる、三鷹の踏切でしょ?」
「この前もさ、あったじゃん?」「俺たち、遭遇率高くない?」「やめてよ~」
「ホラーだよな。」「それを言うなら、スプラッタだろ~が」「バカ、罰当たり!」
どこか他人事のかしましい音声が車内に満ちて行く。
「こりゃ、当分、動かないな!」
ほろ酔いの気味のサラリーマンが誰ともなく大声で断言する。
乗客の力が抜けていく。長期戦の構えへと。


困ったことになった・・と頼子は思った。
実はトイレに行きたい。
ずっと行きたかった。この電車に乗った時から。
今夜の新宿ロフトでのライブ。お気に入りのバンドにノリノリになって、友人二人と打ち上げをした。気持ちよく飲んで騒いで、ホームで別れた。
トイレは居酒屋で行ったのが最後。気がついたら、時間がなかった。
なにせ、最終の特別快速だ。
次からは各駅しかないとあれば、多少の無理をしても乗りたい。
乗って正解のはずだった。
頼子の降りる駅は順調ならば新宿から25分程。
その程度ならなんとかなるだろうと、タカを括ったのが運の尽きだった。
あと1駅。なんで待ってくれなかったのか。
『ばかばか。死んだって、成仏させないぞ。』
友達と流し込んだ6杯のチューハイが頼子の膀胱を激しく攻撃し始めていた。
なんとも恨めしい。
ドアの側でもじもじと足を組み替える。ボックスタイプの鞄に手首に何重にも巻き付けたブレスレットが当たる度にジャラジャラと鳴った。
どうみても周りの人はそれぞれの手持ち無沙汰に没頭しているようだ。
こんなハメに陥っている人間はおそらくいないのだろう。
視線はむなしく非情開閉装置を彷徨う。開けちゃう?そんな馬鹿な。
できるわけなんかない。
我慢するしかなかった。
心持ち冷気の排出口から身を遠ざける。
最大我慢をした記憶は中学生の頃、帰省中の高速で渋滞に巻き込まれた時だ。
あの時は死ぬかと思った。でも、なんとかなった。しかし、今回は?。

まさに、ピンチだった。

「まだ、かなーっ!」
後ろで声がした。振り向くと混んだ車内を縫うように女が歩いて来た。どうみても水商売のような派手なスーツを着ているがおそらくは素人だろう。
かなり酔ってるのがわかった。
人々はブツブツ不平を言ってる彼女に道を開ける。床の荷物を跨ぐ度にブランドのバックが揺れる。ミニから突き出たストッキングの足は長く美しい。
頼子の近くまで来た時、女は長い髪を邪魔そうに掻き揚げて外を伺うと、おもむろに閉まってた窓を開けた。生温い車外の熱気が風と共に入って来る。前に座ってるおじさんの顔はちょっと迷惑そうな嬉しそうな顔。胸が頭髪にぶつかりそうだった。
「ああ、お兄さん、車掌さん!」嬉々として叫んだ。
「まだなの?まだ動かないのー?」
どうやら外に車掌がいるらしい。ちょうど頼子の角度からは見えない。
「あたしさー、おしっこもれそうなんだけど!どうしてくれるのー?」
頼子は度肝を抜かれる。誰もが彼女に注目している。
顔を背ける男性。笑いを殺すのは女性。
彼女と車掌の交渉は続いてるようだった。
「待てないって。ここでするー!」
頼子の気持ちは羞恥から羨望に変わる。
「・・後部まで、来てください。」
今度は外で声がわずかに聞き取れた。
「はいはい。」と彼女は後ろに歩き出す。頼子は一瞬、迷うが気がつくと後を追っていた。
「私も。行っていい?」
振り向いた彼女は人のいい酔っぱらいの顔でニヤッと笑う。自分とそんなに年齢は変わらないと頼子は判断した。
「いい、いい、来なさいって!良かった仲間がいてー。」
気さくに女は頼子の手を取る。二人は2つの車内を通り抜けた。
乗員室に導かれる時に後ろにもう一人いるのに気がついた。
おしゃれな若い男。遊び人風とでも言えばいいか。
「何よ、あんた。」
「俺もしょんべん、つれしょん、しよー!。」彼も酔っている。
ヒソヒソ「誰?知ってる人?」「ううん、全然。」
「気をつけて降りてください。」
ドアを開けた車掌が後ろから声をかけた。
「この列車にはもう乗れませんけど、いいですか?」
「え?。」とにかくトイレに行きたかったので頼子はうなずく。
「なんで?どうしてよ!又、戻ってくるわよ!当然でしょ。」お水風は憤る。
「お戻りになるのはあぶないんで、できれば次の電車にお乗り下さい。」
「次って、各駅じゃないの!ただでさえ遅れてるのにさ、これ以上、遅く帰れって言うの!」
「そうだよ~、俺たちだって被害者なんだよね~。お互い、迷惑は一緒じゃないですか~!」男も口を揃える。「次の各駅、高尾まで行かないですよね~!僕、帰れないですよ~!お願いしますよ~車掌さ~ん!」口数が多いだけではない、甘えるのがうまかった。おそらく年下、一人っ子か末っ子と頼子は踏んだ。
根負けした車掌はため息をつくと、さっきから鳴りっぱなしの呼び出し無線に手を伸ばした。
「・・・なるべく、早くお戻り下さい・・」
頼子自身は各駅でも構わなかったのだが、余計なことは言わなかった。
「大きいのじゃあるまいし、そんなに時間かかんないわよ!」
「どうせ、すぐは動かないって。余裕、余裕!」
一刻も早く、駅に行きたい。



降り立った時に、ようやくサイレンが聞こえだした。
「あちらの駅まで引き返してください。」
車外にいた車掌が近寄ってくると、指し示した。
電車の先頭の方をしきりに気にして、落ち着きがない。

振りかえるとさっき通過したホームが思ったよりも近くに見えた。
「あーっ、しょんべんしてーえ!膀胱、パンパンだろっ?みんな!」
「あんたなんか、その辺でしなさいよ!駅まで行く必要ないでしょ!」
「嫌だよ~こんなギャラリーの中じゃ!はっずかし~ぃ!」
「離れて歩こーね!」お水風の彼女が囁く。
砂利に足を取られて、ヒールの彼女はよろめく。
頼子は思わず肩を貸す。思ったより、軽い。
「あ、見て。」「パトカーが来た。」
回転灯が点滅している。

遊び人風はそちらから眼が離せない。
「・・死んだのかな?」
「死んだでしょ。」お水風がすっぱりと。
「そんな状態で生きてる方が怖いですよね。」
車内アナウンスを思い出し、頼子は身震いする。
「仏さん、見た~?どこにいんだろ~?あの辺だぜ、きっと。俺たちの乗ってた車両の下だったりして・・」
「ぎゃー、やめてよ!酔っぱらい!ちびるでしょ!」
お水は遊び人に蹴りを入れようとしている。もつれる3つの影。
「お客さん、足下あぶないですからふざけないでくださいよ。」
遠くからこちらを気にしてた車掌は、そう叫ぶと回転灯の方に走って行った。
「怒られちゃいましたね・・」
「はーい。すみませんってね!」遊び人は足早になる。
「マジ、漏れそうだっての。」賛成。



ホームの端にたどり着くと、何人かが止まった電車と救急車を見るために集まって来ていた。
運転手から連絡があったのか駅員が立っていた。
歩いて来た彼らに注目が集まる。
「あちらです。どうぞ。」
「俺らしょんべんしに来ました~!」遊び人が叫ぶ。
トホホ、恥ずかしいって。女同士は身を寄せ合う。
「あれ、あれだろ、あれ!」
酒臭い親爺が走り寄って来た。
「ありゃ、飛び込みだろ?飛び込み!」
溌剌としている。
「ご想像にお任せします。」
口ごもる頼子と対照的にお水風彼女はOL口調で整然と答える。
かわすなり走り出す。
頼子も慌ててその背中を追う。
「そうだよな、兄ちゃん!おりゃ、飛び込みだと思ったんだよ!」
「邪魔だよ、オヤジ!どけって!」
遊び人と親爺の攻防が耳の端にわずかに残った。


飛び込むなり、荒っぽくドアを閉めた。
ジッパーを降ろすのもまどろっこしい。
緊張して汗をかいている。
我慢していたから・・すぐには出ない。
心臓がドキドキする。
やっと。
・・感じる。
痛みと熱。
フーッと全身でため息が出た。
全体が弛緩して行く。
単純だけど至福の瞬間。
『ああ・・私、生きてる・・』そんなことがふとよぎる。
ほんの少し前に(多分)死んだ人がいるってのに。
『生きてる・・』
この感覚、すごくリアル。
たわいもない、つまんないことだけどと膝を抱えた。
不覚にも涙が滲みそうになる。


「大丈夫?」ノックの音が遠慮がちに響く。「具合悪いの?」
「大丈夫です。」慌てて流して外へ。「ごめーん。」
お水風は影を潜め、酔いが醒めて来た素面の彼女が覗いてる。会社ではできる人なんだろうと頼子は思う。
「遅いからさ、心配しちゃった・・あんなことあったから。あなたデリケートそうだし。」ほんと?そんなこと言われたの初めて。私をかなり年下にみているのかな。
「おトイレしたら、なんかほっとしちゃって。」「ああ、わかる、わかる。」
「つまらないけど、生きてるなって思って・・」
しゃべりながらホームへと戻る。
「それわかる。俺も、俺も。」遊び人風がトイレの外でタバコを吹かしていた。
「ちょっと何よ、なんでいるのよ。」
「すっきりしたーっ、俺も。生き返っちゃったよな。抜群の放尿感!」
「ちょっと一緒にしないでよね!」
「なんかSEXに通じるってーの?」
「ギャー!下品、やめろー!変態!」
「えーっひどいなぁ、傷ついちゃうよ。」
「もう、放尿男は放尿終わったらさっさと戻ったら!」
「だって、俺たち仲間じゃん」他人じゃん!と頼子。
「一緒に帰ろーよ」
頼子は急に恐れをなす。「また、あの列車に乗るの?」
「いいんじゃない?だって、最後の特快だし。あたし、全然、平気。」
「血に塗れた呪いの電車だけどね~」
「止めてよ、もう!」
「俺たち、パイオニアなんだって。ほら、後に続く者が出た!」
中年サラリーマン二人が連れ立って線路を歩いて来る。
酔っぱらい親爺に捕まりそうになるが、うまくかわしトイレに走って来た。
「よう、ねえさん達!」
「もうすぐ、動くみたいですよ。」
線路の彼方は色とりどりの灯りが揺れている。
人の命ははかないね。

野ばらの唄

2008-05-22 | Weblog
野ばらの唄
by.CAZZ


咲いてるように見えたのは
それは幻だったのかも
この眼で見てはいないのに
揺れる音が聞こえます

咲いてるように見えたのは
季節外れの秋のせいかも
今は夏が欲しいのに
ほんのり香りが匂うのです

野ばら ばら ばら
色はくれない


笑ってるように見えたのは
空を走る 金の下駄
カランコロンと鳴るままに
花びらだけが舞い狂う

それだけしか知らないみたいに
散ることしか知らないみたいに

野ばら ばら ばら
色はくれない

光が苦しい葉影には
そっと咲いてる気がします

黙って見ている気がします




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
これも古い詩です。
「見守られたい症候群」でしょうか?
常に見られているのはちょい苦痛な感じします。
今、家に犬がいるんですけど
犬って常にじっと見ていますね~
やられたって思いました。
本来は猫が好きなんですけど・・
犬って飼ったことなかったから・・
可愛いと思いつつ、ずっと苦手意識があって
それを解消したくて?
つまり一度も飼ったことなかったから
飼ってみたかったんで、飼ったんです。
そして・・・気がついたら、視線。
当初はほんとどうにか視線を避けようとしてましたが。
なんだか、最近では快感になってきましたよ。
猫を飼う人はMで犬はSって説がありましたが
(あれ?ありましたよね?)
その話はなんだか、当たっているのかもな~と思えて来ました。
どんどん、ちょっと女王様気分になっていきますよ。
「このけだもの!」「おやめ!」とか叫んでしまいそう。
この「!」が付くしゃべりが非長女、文科系な私は
なかなか慣れなかったんだけど・・
(誰がボスであるかを教える為に強い命令口調は必然なのだ!)
実際には(ひょっとして言葉がわかる?かもなんで)
「このおばかちゃんが~!」とか「だめ!」ぐらいで
トラウマになるような過激な台詞は言ってませんけど。
奴が散歩したかったり遊んで欲しかったりと
きゅんきゅん鳴いていても甘やかさない為にもひたすら無視。
罪悪感を覚えさせるようなこれみよがしの
ため息が聞こえても振り向いてはいけない。
(うちの犬はほんと子供がすねた時の声に
そっくりな息の吐き方をしてくれます。
なんだよ~がっかりだよ~って)
今もこれを書いてる間中、何気に熱い視線が
注がれ続けてていることをお伝えしておきましょう。
はー、きゅん、きゅん!


ユニコーン

2008-05-19 | 漫画
ユニコーンって
純潔な乙女しか近づけないんですよね~
なんかちょっと男性原理?
だったら
純潔な男ってのはないのかいな?
なんてね。

ノンタイトル5

2008-05-14 | 漫画
その唄を歌わむ

巡り巡って
また再び
産まれ来る
子供らのために

ノンタイトル4

2008-05-14 | 漫画
男は十字架にかかる夢を
繰り返し見ていた

女は
その男の為に
暗闇をひた走る夢を


(マグダラのマリア)

狐の名前

2008-05-08 | Weblog
隠されしもの。

そんな話をします。
子供の頃の話。

ちょうどオーラの泉でこっくりさんの話を
していたもんで。
私達もよくしたもんです。

小学生の頃、稲荷神社のすぐ近くの家で
狐を呼びました。
「・・稲荷の狐さんおいでください」とご指名で。
なにかの本で狐の名前を聞くというのを
読んだ記憶があったので
最初に「あなたの名前はなんですか?」
と質問し、それからはその名前で呼んでいました。
その時はたわいもないこっくりさん遊び。

後に中学生になって
別の場所で同じ名前でその狐を呼びました。
今思うとそれは別の悪いものだったのでしょう。
帰らなくなって友人を脅したり
友人の家に何かが来たり・・・
散々な目にあってしまいました。
以来、もうその遊びはぱったりとやめました。

その当時。
私の家であったこと。
怪談と言うには、あまりにたわいもない話です。
夜、部屋の角にある木の椅子。
そこで音が定期的にするんです。
例えば、木に貝ボタンがぶつかるような
小さい固い音。
木の部分に何かがぶつかって音がしているのに
間違いありませんでした。音は確かにその椅子の周りでしているのです。
しかし、音の原因がさっぱりわかりません。
目を凝らしました。
椅子の周りをグルグル回りました。
音は相変わらず、目の前でしています。
お手上げになった私は部屋を後にし、
テレビの前で数時間、時間をつぶしました。
それから部屋に戻ると、もう音はしなくなっていました。

巡礼者の錫杖の音が聞こえたこともあります。
壁の中で羽音がしたことも。
隣の部屋だと思った私は廊下に飛び出しました。
その部屋には誰もいません。怖い程の静寂。
ベランダから月の明りが煌煌と部屋に差し込んでいるだけでした。
美しさは恐怖を煽るもの。
部屋に逃げ帰るとヘッドフォンをして
ひたすら音楽だけに集中しました。

しばらく、こっくりさんと狐の名前は
私には思い出すのも嫌な禁句でした。

最近になって冷静にその頃を思い返してみると
おもしろいことに気がつきました。

狐の名前は『おねまねこ』
字が浮かびませんか?
尾根招狐。
もしくは
尾で(尾根で)招く狐。
小学生の時はでたらめなひらがなの羅列だと思っていたのに。
偶然でありこじつけであり思い込みなんでしょうけど。

このことに気がついた時
目からうろこが落ちた気がしたもんです。

以上、お粗末さまでした。
こっくりさんはやめましょうね。
「おねまねこ」さんを呼んでも
きっと悪いものしか来ないでしょう。

ノンタイトルについて

2008-05-07 | Weblog
これらの作品ってもともとは
あるインディーズバンドのイメージで
連作したものの一部です。

ノンタイトルの3のヴィーナスについては
テレビジョンと言うバンドの同名の曲が下地にあります。
いいんですよ、この曲。私には趣味です。
揺らいだというか、捩じれたようなヴァーカル。
腐敗したものから甦る、光りを押さえた鱗粉をまとう
あでやかな蝶のように。
(ボッティチェリのビーナスの誕生も好きだけど)
ニューヨークのパンクバンドはみんな夜っぽくて。
ジャパンのD・シルビアンにも通じるものが。
(ラルクアンシエルとかにも通じる?)
デビシルに関しては「ゲロ吐く寸前の声」とか
言われてましたが・・・

ノンタイトル3

2008-05-07 | 漫画
大鴉の閧の声
すべての墓は開かれる

血塗れた十字架の下
屍肉から甦るヴィーナス


ノンタイトル2

2008-05-02 | 漫画
私が
かの声を聞いた
最初の女です

私を愛することが叶った男は
誰であれ
神とされました

私が火あぶりとなり
かの声の許に召されると
男は百人の幼子をさらい
その血をすすりました

彼の名はジル・ドレ

私は彼を愛したい
なぜなら
彼は私と同じ肉と骨
私の血で作られているから

来るべき日
私と彼が
等しく
かの声の身許にあらんことを



(ジャンヌ・ダルク)