MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-16

2017-12-25 | オリジナル小説

魔物対人造人間

 

「屋敷さん、早く元奥さんを車に運んでください。」

弁護士は玄関先から現れた男へと落ち着いた足取りで近づいていく。その間に屋敷正則は田町裕子の体を引きずって弁護士の黒い車へと運び始めた。

「弁護士さん」・・・男が口を開く。「その人をどこへ連れていくつもりですか。」

「ちょっと早急に確かめたいことがありまして。」そう言うテベレスの顔には何か、軽く驚いたような表情が浮かんだがすぐに消えた。「少し裕子さんをお借りしますよ。」

「それは困りますね。」相手も不自然なほど冷静に受け返す。「お断りします。」

「ヘエェェ、じゃ、警察でも呼んだらどうですか。」笑みを浮かべ「こちらは大して困らない。お困りになるのはそちらじゃないですか?」男が弁護士を無視し突き進もうとする・・・その体を肩でもって止めた。「何を言ってるんですか?邪魔はしないでください。」振り払おうとする男、腕を掴んだ弁護士。互いにビクともしない。

高らかに「すごい、力だ。あなた・・・人間じゃありませんね。」

その瞬間、ハヤトが『チチ』と呼ぶ男の肉体は弁護士とともに空に跳躍する。しかし普通ならば振り払われるはずの人間は男の動きに完璧についてきていた。

「ハハァ!やっぱりそうだ!私はよく知ってるんだ!」テベレスは口笛を吹き鳴らす。

「ホムンクルス!」

叫んだ瞬間、テベレスは弁護士の肉体から飛び出し、魔物の手は相手の頭を掴みねじり上げた。美豆良の体は地面に崩れ落ちる。

「美豆良!」駆け戻ってきたマサミだけがテベレスを感知し、それを見た。屋敷は車の中から不安そうに様子を見ていたが魔物を見なかった。彼の目には二人が激しく跳ね上がり弁護士が地面に叩きつけられた姿だけだ。

そしてなぜか、裕子の内縁の夫が急に頭を押さえ、唸り痙攣し、一人もがき出すその姿。

『美豆良を連れて離れていろ!』テベレスにそう言われた時には既に、マサミは美豆良に駆け寄りその体を抱え起こしている。「・・・マサミ」突然、解放された美豆良の意識はまだ混濁している。それでもどうにか自分の力で歩き、マサミを助ける。

『俺はお前をよく知ってるんだ!』その間も魔物の指はギリギリと相手の頭の中に食い込んでいく。ありえないほど手足を振り回すホムンクルスの体は一人で踊り狂っているようだ。

『何年もその中にいたんだからな!さぁ、お前を操るやつはどこだ!どこに通じている!』

ホムンクルスの頭を一瞬で握り潰した鳳来の姿がテベレスによぎる。ここだ、ここが弱点だ。ここに命令系統があるのだ。一筋の糸が見えた。田町家とつながる人為的な光。

魔物はその量子の糸に沿って中へと滑り込んだ。

 

 

焦ったのはガルバだ。何が起こったのか、理解できない。魔物の存在など考えたこともない宇宙人類。完全な不意打ち。何かがホムンクルスに侵入したことだけがわかった。

量子次元を犯す何らかのエネルギー。未知のウィルス。

『見つけた!』田町家のリビングにいるガルバの視界に微かな黒い渦炎が明滅する。

『見たぞ!お前が操り師だな!』驚愕した宇宙人類は咄嗟に全ての回路を遮断するしかない。それは完全に戸外にいるホムンクルスを自分から切り離すことになるが、他に選ぶ手段はない。さもないと理解できない何かがガルバの領域に侵略することを許すことになる。

 

 

ブレイカーが落ちたようにホムンクルスは動きを止めた。

その体がギクシャクと向きを変え、歩み寄ってくるのをエンジンをかけたまま、ハンドルを握るマサミが見ている。

「出せ!早くっ!車を出せって言ってるんだ!」屋敷が怯えきって後部座席からマサミの肩に掴みかかる。それを押しとどめたのは先刻まで裕子の隣に同じようにぐったりとしていた美豆良だ。「待てよ、おっさん。屋敷さん・・・だっけ?」その口調や顔つきは弁護士とは全く変わっている。そのことに気がついたのか、屋敷は怪訝そうに美豆良を見る。

自分の肉体を確認するかのように、頭を押さえたり首をしきりに回している。

「どうやら」マサミが薄い笑いを浮かべ振り返る。「ね?」

「さすがだ・・・乗っ取ったようだな。」美豆良も応じた。次第に意識がはっきりしてくる。

「久しぶりだ・・・自分の体で・・・自分で考えるのは。」

「久しぶりですね。」『チチ』の肉体の動きは次第に滑らかになり、何の違和感もなく助手席に乗り込んできた。屋敷がビクリと身じろぎし、反射的にドアロックに触れた。ドアは開かない。

「おい、一体・・・どうなってんだよ?なんなんだよ?お前らグルなのか?さっきの騒ぎは何なんだよ。わけわからない!」

「負け犬はよく吠える。」マサミが車を動かす。

「それにしても、この体が手に入ったのは良かったです。前のよりいいかもしれない。」

「相手は・・・カバナとやらの男は、見つかったのか?」美豆良はテベレスに体を乗っ取られていたのだが、事情は全て察しているらしい。「まぁ、見たといえば見ましたよ。奇天烈なヤツです・・・逃げられたと言うか、締め出されてしまいましたが。」ここで弁護士の口調をしたホムンクルスの顔がニタリと笑う。

「だけど、印はつけてありますから・・・もう、こじ開けることはできると思いますよ。」

「全く、なんなんだよ・・・あんたたちはっ?」気味悪そうに屋敷が吠える。

「そいつは裕子の男だろ?なんでここに乗ってくるんだ。おい、お前、どういうつもりなんだ。」

「見定めるためですよ、屋敷さん。」裕子の男は助手席から振り返る。

「さぁ、あなたの行きたいところへ行きましょうよ。」

「ハヤトとあなたのハヤトが同じなのか、違うのか。面白いじゃないですか。さて、相手はどう出ますかね?」「その女と一緒に子供を埋めた場所だ。」美豆良と目があうと屋敷は縮みあがった。

車は田町邸からみるみる遠ざかる。

屋敷が恐々と「あんたたち・・・人間なのか?」聞くが、まさか本気でそう思ってるはずはない。確認して安心を得たいだけだ。

「さぁてね。」テベレスが答え、すかさず美豆良が笑う。

「あんたが人間なんだとしたらね・・・俺たちだって、人間に近いと思うよ、屋敷さん。」

「やめてくれよ、冗談は。」安心には程遠く、屋敷の声はたいへん小さい。

 

ところが、しばらく行ったコンビニの前で唐突にマサミが車を停めた。

駐車場に見覚えのあるシルバーの車が停められていたからだ。

「僕は子供を追いかけるよ。屋敷さんの車を借りる。」

「逃げたんじゃないのか?」ホムンクルスに促され、渋々と屋敷がキーを出す。

「車に乗った。」「誰の?」「わからないが、あれは普通じゃない。運転してたのは・・・」

「ほっときゃいい、カバナが連れてきた、例の子供だろ?」美豆良は全く興味がないようだ。

(屋敷はホムンクルス?ってなんだ、元妻の内縁の夫の名前はカバナというのか?と考えている。)

「ハァァン・・・」テベレスがマサミの頭の中の残像を見たかのようだ。

「そいつは私と同類かもしれませんねぇ。さすがお優しい、ほだされましたか?だけど、私がいなくても追えますか?」屋敷からキーを奪うように取り、マサミは運転席のドアを開けた。

「大丈夫、痕跡なら、なんとなく。そちらは任せたよ。」


また、やっちまった

2017-12-20 | Weblog

これは『ガルバの困惑』と『疾れよ、子供』の間に載せるはずだったんですが

抜かしてしまってました(しかも今、気がついたという・・・)

これは完成したら改めて掲載ヴァージョン決定!・・・かしらねぇ。

こんな感じで現在進行中でお送りしております、SP-04です。

カットも全く関係ありませんことを改めてお伝えいたします。

本当にごめんなさい。

 

 

こんなこともこれからもあるかも的なことを思いつつ

CAZZ 拝

読んでくださっていることを深く感謝しています!


スパイラルフォー-13〜14の間

2017-12-20 | オリジナル小説

宇宙(そら)との間

 

 

神月からも通じる遥か上空次元に青い影があった。

「とうとうミズラとマサミは不法滞在ユウミンのテサキか。ミを落としたもんだな。」

「カバナのスパイと互いに食い合うことになるんでしょうか。」

「そうウマク行くか。このホシにはマモノがいる・・・」

視界は歪み安定しない。

「次元酔いしそうです。思ったよりも、神になった気分はしませんね。」

カプートこと418。「せいぜい4大天使ですか。」

「カミにはならないし、テンシどもよりオレたちのいる深度の方が深い。」

「まぁ、そうでしょうけど。」

負けず嫌いなアギュの答えに418は笑いをこらえて意識を集中する努力をする。

だがしんどい、とてもしんどい。

「ここはイマまででイチバン、フカイ・・・ココは」

ざらついた空間、比重が重い。それはアギュも418も意識の端に言葉を乗せているでわかる。

細く頼りない今にも分子崩壊しそうな息だった。

そこで『アギュ』418は物理的会話をやめる。アギュと418はより一つに溶け込んだ。

『ここでは私たちすら、気を抜くと互いに分離してしまうようです。』『そうだ、支え合わないとぺしゃんこだな』アギュも意識内の会話で答える。『おそらくここが・・・ブシツセカイのハてに近いのだろう。このサキがまだありそうだが・・・イマのオレたちにはゲンカイだ。』

臨界進化したオリジナルである分があるのか、経験値の高いアギュの方が次元変換に耐える力が強いようだが。もう少し進んで・・・意識が保てるかどうか・・・?

『すべての物質は・・・データが・・・すり潰されて粉々になりますよ。』

『だがタンジカンだが、ここならダレにも気づかれない、ジシンがある。』

『イリトにも・・・連邦にも?』

二人はアギュの中で遥か現実界を脳裏に見ているのだ。それでも集中しないと無理だった。上とも下とも言えない。あるいは重なっているかもしれない。遠いのか近いのか、常に流動的な場。アギュの物理的肉体は神月の家にいる。

最近、アギュが度々こうして長くまどろむことをガンダルファやタトラは気づいている。

体の臨界が進むための変化と警戒していても、物理的体から動かぬままに引き寄せた次元をさまよっているとは思ってもいないはず。ガンダルファの契約ドラゴン、ドラコはある程度は知っているがガンダルファにどこまで話しているのか。

先ほどからそのドラコがの次元の空間外を、しきりによぎるのを感じるが、今の二人はドラコにも容易に見つけられない。激しくブレたドラコの影が二人を探しながらアギュのすぐ横に現れ、消える。二つの次元は重なっているが遠いのだとわかる。

『ところで』418がさっきまで標準を合わせていた座標の光景に話を戻す。

『イリトの事をどの程度、信用していいのでしょう?』

『カバナのイヌか。アイツがいうことがスベテだとはダレも思ってないだろう・・・オレたちドウヨウに。』それなのにこのような展開で妥協するとは。『レンポウもレッカしている。』

『カバナの目当ては次元生物の存在の確認なのでしょう?イリトが地球を渡さない理由にそれをあげたのは間違いだったのでは?』

『それはイリトよりジョウソウブにイッタだけなんだとサ。それがカバナにモレタのさ、カンタンにな。』

『イリトは・・・まだ権力基盤が弱いというわけですね。信用されていない。私たち、臨界進化体の情報を一手にしていることで反感をかっているのですね。お気の毒な。』

『そのブン、オイシイオモイをしたのはタシカだ。』

『つまりカバナから来た男は・・・イリトより上位の中枢の意図も背負っていると言ってるわけですね、イリトは。イリトの報告だけじゃ待てないんですかね。』

『ワヘイが絡んでるのさ。新しいキバンが作られる・・・ダレもがワヘイ以後のヒューマンカバナレンポウを見据えて、その中でのチイをスコシでもユウリにするタメ動こうとしている・・・

オクレを取りたくないのさ。』

『連邦とカバナが・・・今更、一つに戻るなんて、あり得るんですかね。最初に聞いた時は驚きましたが・・・』

『そうなれば、ユウリのチキュウはカバナとレンポウのイタばさみから逃れられる・・・違うか?

サンザン脅した後で、アマイ飴玉をオレたちに差し出したつもりだ、イリトはな。』

その方が我々を扱いやすくなると踏んだとは、なめられたもんだと。

『カバナの侵攻は避けられないという話だったのに、水面下でずっと和平交渉が続けられていたなんて・・・裏切られた気分です。』

『それがキンダイ戦というヤツのジョウシキらしい。ジカンが経てば経つほど難しくなるバアイとたやすくなるバアイがある・・・コンカイはゼンシャか。』

『遊民のあの男を助けたのは、どういうわけなんです?カバナのスパイに殺されるところだったのですから・・・だから、悪い男とは思えない?。あなたらしくないような』

『単なるステゴマ、ムノウだからかもしれないがな。』アギュはせせら笑い、笑いながらも意識は冷たく蒼くなる。『違う・・・感じないか?サイキン、ずっとだ。ナニカがオレたちに干渉しようとしている・・・そんなカンカクだ。それとオナジものをアイツからを感じた・・・だからタスケようと・・・。』

そうでもなければ不法侵入者の一人二人、囮にされて死んだところでどうでもいい。

アギュがそう言い終わった瞬間、彼らのいる次元の層が激しく振動したように感じた。

『まずい、潰されます?』『これだ・・・このカンジ・・・すぐそこに・・・』

『戻ります。限界です。』初めて418が主導的立場で決断し離脱する。

 

彼らは自分たちを変換し階層をかなり低いところへとあっという間に下る。

いつドラコに見つかってもおかしくないところまでだ。

そこまで来るとかなり楽になったが・・・二人はずっと無言でいた。

『・・・これまでの臨界進化体が逃亡したわけですが』ようやく口を開いた418だが意識での会話のままだ。『外部からの接触ということは・・・ありえませんか?』

「あるかもな」アギュは言葉を用いる。ぶっきらぼうな言い方といい、この話は終わりだという印だった。418もすぐに話題を変える。「それよりもあの子供です。なんだか僕には他人に思えない・・・」「作られたからか。」「もっと・・・それだけじゃない。あの子供、オメガ星系の遺伝子じゃないですか。」「オメガ」アギュの故郷、臨界進化を出したが故に丸ごと、連邦に封じられた太陽系だ。「よくわかるな。」「なまじ研究していたわけじゃないですからね。」かつて418が関わっていた実験とはアギュのDNAをもとに臨界進化を起こさせるものだったのだ。

「オメガの遺伝子が手にはいる可能性がわずかでもあるところといえば・・・」

「ウラギリモノのケフェウス。」

(アギュ!見つけたにょ!)

現れたドラコがアギュに飛びついてきたのはその時だ。

「ドラコ、シゴトだ。」


スパイラルフォー-15

2017-12-18 | オリジナル小説

落ち行く船の記憶

 

 

船はまっすぐに落ちていく。大地に開いた無数の傷、マグマが真っ赤に吹き出し流れる川。

そこを目指して。稲妻に黒いシルエットを晒して。

女はそれを微動だにせずに見上げている。その目から滂沱のように流れ落ちるのは涙。血の涙だ。女が振り向き何かを言う。少女だ。ユリに似ていると思った、でも雰囲気がまるで違う。気高く近寄りがたい、そして、彼女は激しい怒りを自分に向けて火炎のように吐き出している。

怒りと深い悲しみ。取り返しのつかない、取り返しようのない思い。

女の言葉はこれまで一度も聞いたことがない言語だ。しかし言ってることはわかる。

なぜだか悲しいほどに・・・渡にはわかった。

『わらわと共に・・・命の螺旋に還るがよい』耳元で囁く声。見れば自分の胸には深々と剣のような金属が刺さっている。痛みはない。渡は倒れて行きながら目の前の少女をずっと見ていた。

彼女の目にもう涙はない。

『共に未来永劫、飛び続ける定め』なんど夢で聞いても覚えられない彼の名前を彼女は正確に言った。『さらばじゃ』

愛しい人、この人を手に入れたかった。

幸せにし、いつも笑わせたかったのだ。・・・どこで間違えたのだろう。目の前が次第に暗くなり・・・少女が身をひるがえすのが見える。マグマに身を投げたのだと渡にはわかった。

わかるがどうしようもできない。もう体は動かない。

仰向けに倒れた地面はそれこそ船のように揺れている。引き裂かれる大地の咆哮、空を無数に走る稲妻、空気を震わす雷鳴。だけども自分と彼女が死ねばこの天変地異は終わりを告げるはず。

彼女・・・彼女の名前は・・・アゥエン・・・『唯一無二の巫女』・・いや、違う・・彼女は僕にとって・・・いつだって。

そして・・・渡の目には何も見えなくなる。

ああ、これで良かったと思う。これは罰。罰だから死ぬ。とても・・・心地よい。

 

「渡!」誰かが呼んでいる。呼んで体を揺さぶっている。体が揺れているのはそのせいだった。

「ユリちゃん・・・」渡は頭を横にして目覚まし時計を見た。午前2時ジャスト。よくうなされる時間だ。最近は特に多かった。それも同じ夢・・・

パジャマの首にかけたタオルで渡の額の汗を拭き取ってくれる。

「良かった。また船か?」「ああ・・」それと君によく似た女の子の。船の話は子供の頃にしたことがある。それ以来、ユリはいつも隣に寝に来てくれた。ユリと布団を並べて寝ると夢は見ないから。ユリと渡が中学生になってからは一緒に眠る事はなくなったが、夢はもう見なかった。

ずっと見る事がなかったのだ。大学受験が終わるまで。

「ユリちゃん・・・どこから来たの?」渡は声を潜める。ユリも倣った。

「廊下の窓、鍵がかかってなかったぞ。」「ここ、2階だよ。離れに寝てたんじゃ・・・」

鍵はかかっていたはずと思ったが、ドラコにでも頼めばわけはないだろう。そう思ったが追求はしない。ユリが得意そうにしているからだ。

「ナニ、ユリにかかればわけはない。ちょっと梯子を借りただけだ。」

「危ないよ、女の子が」「女だから梯子を使っちゃいけないなんて言うなら、シドラに言いつけてやるぞ。」

「いや、そうじゃない。そうじゃないって・・・」

声が大きくなり慌てる。隣には両親の寝室があるのだ。笑いを噛み殺した。

「あのさ、夜這いって普通、男がするもんじゃないの?」

「だから、女だからって夜這いをするなっていう理屈はだな・・・」

渡の口がユリの口を塞いでいた。唇を合わせたまま、強く腕を引くとユリはおとなしく渡の布団の上に倒れた。布団から腕を出し、ユリを抱き締める。夜は冷える山間・・・二人の間には布団があるがユリの柔らかい重さが心地よい。

「朝までいてやるぞ。」ユリが囁く。「悪い夢はもう見せない。」

渡が悪い夢を頻繁に見るようになったきっかけをユリは知っているのだ。

その場にいたから。

『あの子供にあったからだ。トヨとかいう・・・あれから渡はおかしい。』

かつて闇を割いて飛んできた魂。渡の体に飛び込んだ魂だ。その魂が魔物を・・・悪魔デモンバルグを呼び込んだ。渡が背負っているものが何なのか、ユリにははっきりとはわからない。

ただ『守ってやるぞ、ユリが。』ずっとそう思ってきた。

あの子供は渡のそれと対になる魂を持っているはずだ。確か、アギュはそう言っていた・・・

「そういえば・・・神さんはどこに行ったのかな。」

雰囲気を壊す、突然の渡のつぶやきにユリはムッとした。

「ユリは知らん。」渡が気にする神恭一郎とはデモンバルグそのものではないか。

「須美江おばさんと旅行だなんて・・・あの二人、結婚するのかな。」

「するもんか。佳奈恵に殺されればいい。」ユリはそっけなく言うと渡の頰に自分の頰を重ねた。デモンバルグがおとなしくデート旅行なんかするわけないとユリは思っている。

悪魔が何かをするといえば、何か理由があるのだ。何か、悪い理由が。

だけども大丈夫だ。そう、ユリは信じている。ユリの父が・・・遺伝子上の父親のアギュレギオンが悪魔の動向を見逃すわけはないのだ。


スパイラルフォー-14

2017-12-13 | オリジナル小説

疾れよ、子供

 

「おい、お前、いったい誰だ?」いきなり後ろから腕を掴まれ、ねじり上げられた。

朝、集合場所に行こうとして家を出た途端だ。10メートルも歩いていない。トヨの家に入る路地近くに黒いのセダンが止まっていたけれど、あまり気にしていなかったんだ。

「お前、答えろ。ハヤトじゃないんだろう?。」屋敷政則だとわかって、驚いたけれでも最初ほどではなかった。また来るかもしれないと警戒はしていたから。だけど面と向かって疑われたのはさすがに衝撃だ。

「僕はハヤトです。」声は上ずってなかったと思う。「嘘をつけ!」

ハヤトの『父親』の目は血し走っている。グイグイと締め上げる力に遠慮がないと感じた。

「離してください!」目は家の門扉へと走る。しかし、何も起こる気配はない。たまたま人気がなかった。トヨは先に行ってしまったのだろう。隣のおばさんは何してるのか。

ちくしょう、ハヤトは『チチ』に念じる。何してる、本当の危機だっての。

ハヤトは振りほどこうとするが、大人の力は容赦がない。骨が軋み、肩が外れると思った。

足が相手を蹴っていた。手は離れたが「何しやがる!」屋敷が吠えると同時に拳が頭に振り下ろされ、地面に叩きつけられた。路面が激突し、激痛が走る。

「屋敷さん」誰かが後ろで話しかけている。「暴力は良くないな。」

暴力。生まれて始めての暴力。本物のハヤトが受けていたのはこんなものじゃないんだろう。

「・・助けて」ハヤトは声のした方に頭を持ち上げるのがやっとだ。痛みとショックでブレた視界の中に背広を着たのっぺりとした男と車から現れたスーツの女がやけに遠くに見えた。

 

『止めなくていいのか。』定番の黒いスーツは体にフィットしてかえってラインを強調している女が連れに囁く。『頼まれたわけじゃない、勝手についてきただけだからな。』『違う、こんだけ騒げば人目に触れるぞ。』高級なスーツを着こなすオールバックが済まして答える。

『触れないさ。人間には見たくないものに目をふさぎ、聞きたくないものに耳を閉ざす能力がある。それぞれ急に忙しくなったってわけだ。操るのは造作もない、俺の力を見くびるな。今はここはある程度、番外地だ。ほんの十数分だが・・・いわば、蝕の最中だ。』

『蝕・・・なるほど』女の形のいい唇が呟いた。『人知のエア・ポケットか。』

 

 

 

「俺が本気を出せばこんなもんじゃないぞ。」

再び、荒々しく腕が掴まれ体がずり上がる。「殺すぞ。」屋敷の顔が目の前に迫るが目が見れなかった。たった一度の暴力で足が震えている。みるみる抵抗する勇気が萎え、心が無力感に押しつぶされていくのがハヤトにもわかった。

そうか、これが。これがハヤトが・・・『ハハ』が支配されていた『生活』なんだ。

そのあと、何が起こったのか、ハヤトにはよく、わからなかった。

「屋敷さん!」背広が動くのと鈍い音と屋敷が振り返り叫ぶのと全部、一緒だ。

「裕子か!」肉が鳴る音、ハヤトの目は『ハハ』が後ろに跳ね飛ばされるのを見た。

「危ないですよ、奥さん。こんなもの振り回して・・」

背広が持っている皮のケースにキラリと光るものが刺さっている。細身の包丁だった。ハヤトには見えなかったが、いつの間にか背後から静かに歩み寄った田町裕子が止める間も無く元の夫の体に刃物を突きたてようとしたのだ。かろうじて背広姿の男が自らのカバンを間に差し入れて阻止したというのが真相だった。

「裕子テメェ、俺を殺そうとしやがったのか!」

さすがに屋敷政則も唖然としたのだろうか。動きが止まったと、見るや『ハハ』がものすごい勢いで跳ね起きると屋敷にむしゃぶりついた。

「ハヤト!」

『ハハ』の目は真っすぐにハヤトを見た。

「逃げて!」

『ハハ』が屋敷の腕に渾身の力で歯を立てる、男は雄叫び、ハヤトを放す。背広が笑っている。ハヤトの父は『ハハ』を振り放そうとし片手でめちゃくちゃに殴りつけている。スーツの女がそれをやめさせようとしている・・・『ハハ』の目は・・・。

今もハヤトに叫び続けている。

『逃げて』『今度こそ』『生きて』『殺されないで』

母親を知らない、寄せ集めからつくられたことなど関係ない、古代から刻み込まれた、母親からの子供への警告なのか。本能というものが、ハヤトにもあったのか。それはわからない。

ただハヤトの体は弾かれるように走り始めていた。

 

 

「やめなさい。」弁護士がようやく手を出した時、田町裕子は血だらけの蒼白な顔を地面に横たえていた。もうその目は閉じられている。

「それ以上、やったらば死んでしまいますよ。ハヤトくんみたいに。」

荒く息を吐く男をマサミが後ろから羽交い締めにしている。マサミ一人では屋敷の力を削ぎきれなかったのだ。屋敷の体から力が抜けたのでマサミも手を離す。

「子供を見てくる。」そう言うと姿が見えなくなった方へ向かう。

「こいつを連れてく。」男は元妻の体を足で示す。「こいつに聞く。」

「それならば。」弁護士はあたりに目を走らせる。「急いがないと・・・いや、待て。お待ちかねの登場だ。」その唇には笑みが浮かぶ。

田町家の玄関先から男が出てきたのだ。

 

 

ハヤトは無我夢中で走っていた。わけのわからない衝動に突き動かされて。『・・・君、』

『ハヤトくん・・・』声をかけられていることに気づいたのは随分経ってからだ。目がよく見えず、並走している車から声がかかっているとわかるまで更に数分。ようやくハヤトは走りを止めた。

「どうしたの?ハヤトくん。」車も停まったようだ。「泣いているけど、何があったの?」

これでハヤトは見えずらかった目もとに手をやり、そこが濡れていることを知った。

『涙』、これが本物の。オビトが流した涙。ハヤトは声から顔を背け、グイッと頰を拭った。

トヨとの、みんなとの集合場所へ曲がる角を通り過ぎてしまっていた。家から直進し農業用水路だった小川にぶつかったハヤトはその脇道に出ていたのだ。そこは学校からは逆方向だった。

「よかったらおじさんに話してみないかい?」

おずおずとした声に振り返ったハヤトはトヨのストーカー、あの『変態』と顔を合わせていた。

助手席のドアは開いている。「送ってってあげる、宝小学校でしょ。」

トヨは禍々しいとか血の匂いとか言っていたが、線の細い、気の弱そうな若者にしか見えない。

迷った。危険だ、乗るべきではない。『チチ』がなんというか。しかし、自分は『この星』のそんじょそこらの子供ではないのだ・・・

「なんかわからないけど・・・トラブルなの?お母さんともめてたの、お父さんかな。あの人たち、誰?お母さんを助けないと・・・警察に電話してあげるよ。」ボソボソと小声で喋りかける声は丁寧で優しい。まるで恥ずかしがっているのか、もうハヤトの目は見ない。話しながら、男は背広のポケットからスマホを出し、まるで見せびらかすように示した。「ハヤトくんたちはまだ、携帯なんて持たせてもらってないよね?防犯ブザーかな?」

見てたのか?どうして名前を知っているんだ?トヨの友達だから?これをきっかけにトヨとも親しくなろうとしているのかもしれない・・・自分から警察に電話するとか言い出してるけど。

開いたドア、示された座席を見たまま、どのくらいだろう?ハヤトはフリーズしていた。

その時、変態が動いた。

「あっ、ほら、追ってきたよ。」肩越しに振り向くと小川の道に飛び出す人影が見えた。立ち止まりあたりを見回したのは黒いスーツ姿の女だ。屋敷と一緒にいた。

『ハハ』はどうなったんだろう。そうだ、警察。『ハハ』を助けないと。

「乗せて。」考えるより先に声が出ていた。変態が本当に警察を呼んでくれるかは疑問だとはちらりと思ったが。もうどうとでもなれとどこかで思っている。乗りかかった船とやらか。

あれ以上、悪くなりようがない。

 

 

マサミはシルバーの軽自動車にハヤトが乗り込むのを見た。

一瞬、知り合いの車に拾われたと安堵するがすぐに心がざわつく。

『なんだ?あの車・・・』走り去る車体にまとわりつくような黒い闇がつかの間、マサミには見えたのだ。それは気分が悪くなるような不快な靄だ。

マサミはしばらく車を目で追って立ち尽くす。

『子供はあの車に乗るべきではなかったのではないか。』その思いがぬぐえない。

かつて岩田譲に語ったようにマサミにはいわゆる霊感はない。だが彼の中の地球外人類の血には次元探知能力だある。

実は現在、霊能者として活躍する基成勇二も次元探知能力と情報収集によって名声を得ているのである。おそらくマサミは車にまとわりつく空間の歪みを察知したのだろう。

鈴木トヨがハヤトに告げた変態男に取り付いた魔物の気配。


スパイラルフォー-13.5

2017-12-08 | オリジナル小説

『チチ』(ガルバ)の困惑

 

ハヤトがトヨと共に『神月』にお呼ばれする話が公式になり、ぐんぐんと近づいて行く。

楽しみが膨らむ一歩で、ハヤトはどこかで気が進まなかった。

楽しみなのは家を離れてトヨとしばらく過ごせること。滞在するのはトヨの親戚の経営する旅館らしい。ハヤトには知識はあったが、実際に旅館というものに泊まるといことは初めてだったので、ごくごく普通の6歳の子供としてワクワクする心を抑えられなかった。

それとは反対に、気が進まないのは恐れからだ。神月に常駐しているという正規軍の知識は与えられず、白紙で臨むようにと取りはかられている・・・果たして正体を見破られずにうまくできるだろうか。もしも、できなかったら・・。

ハヤトは認めなかっただろうが、『チチ』が着々と『ハハ』の排斥の布石を打っていることも彼の憂鬱に少しは関係しているのかもしれない。

『チチ』は『ハハ』が廃人であるかのように吹聴した為に、旅支度はトヨと共にトヨの両親によって行われている。4月最後の日曜日、トヨの父と3人で買い物に行き、必要なものを買い揃えた。最初は自分の欲しいものを素直に選ぶことに慣れなかったハヤトだが、次第にあれこれとものを買うことは楽しいと思うようになる。ちなみに費用は『チチ』から渡されていた。デパート内のフードコーナーでトヨの父は何でも食べたいものをおごってくれる。次々と面白い発掘の話を聞かせてくれて、子供達をワクワクさせたり笑わせたりする。陽気で気さくで、それでいて頼もしい。本来の父親というものは、こういうものなのだろうか。

家に帰る前には必ず、トヨの家での夕飯をご馳走になる。トヨの母親が夕飯はカレーしか作れないとハヤトがトヨに言っていたせいかもしれない。それはほぼ事実だった。トヨの母親の料理は『ハハ』のとはヴァリエーションといい味といい比べものにならないことがハヤトにも痛いほどわかる。『ハハ』から料理といえば、あとは朝に目玉焼きを作るくらいだから。

今までトヨと自分の境遇に対して何も感じていなかったハヤトだった。そんなハヤトも考える。

もしこの家族と暮らせるのなら。

次第にこの星の文化、考え方が染み込んできたのだろうか。

『チチ』と『ハハ』と別れて、トヨとその両親と『家族』になる。それは考えただけで気持ちが良い。もちろん、『チチ』とは完全におさらばにはならないんだけれど。

『ハハ』にはもう2度と会うことはなくなるのだ。それもいいかなとハヤトは思うことにする。

痩せた肩や悲しそうに見つめる目を考えまいと思う。

そしてとうとう、トヨの父が入院する妻の為に長期休暇を取った日。

『神月』が翌々日に迫っていた。

 

 

「何か、企んでいるのかな。」田町裕子の家の中では、ガルバがつぶやいていた。

一番最初に弁護士が来た時はインターホン越しの対応で済ませたのだ。

それであっさり引き下がったので、大した問題ではないと思っていた。

(注:弁護士が屋敷政則に田町裕子に会った時の経緯を事細かに述べていたのは、相手を煙に巻き有利に進めるための彼流の盛りに盛った嘘であった)

ハヤトの父親の再婚相手に関する弁護士との問題はガルバにとってはそれでもう終わっていた。

しかしすぐに、ハヤトに実の父親が接蝕する問題が浮上した。

ハヤトに直接、接触してくるとは予想外の展開だ。あの男が捨てた妻子に興味を持つ理由が見当たらなかった。もとより父と子の関係などというものは宇宙人類に分かりようがないが、あのような男が原始星人特有の父性愛なる本能を持っているというデータは、皆無だったはず。考えられるとすれば、愚かな所有欲ぐらいだろうか。

「あの弁護士のせいなのか。いったい、あの父親にどんな話をしたのだ?」疑いが生まれた。

そしてとうとう、屋敷政則自身が田町邸に現れる。

チャンスだった。裕子の記憶と彼の記憶を照らし合わせ、さらに二人とも描き変えることもできる。彼がベルを押すことを今か今かと待っていたと言ってもいい。

なのに屋敷は直前で『あの弁護士』に止められ、そのまま彼に連れられて行ってしまった。

「あの弁護士・・・何が目的なのだ?」

再婚した相手との話し合いがまだもつれているのか、というような発想がガルバにあったならば彼も少しは安心できただろうか。

サーチした肉体の素性分析からあの弁護士は宇宙遊民ではないとわかっている。だが

「何かを企んでいるとしか思えない。」

ガルバはこの『果ての地球』に入ってから、初めて不安を持つ。

それは久しぶりに覚える心を鼓舞するジレンマというものだ。

彼は連邦とカバナの抱える様々な事情から極力、目立たないようにしている。カバナ政府、あるいは軍部からの正式な対連邦向けの『不法侵入者』であったならばもっとバックアップがあっただろう。とりあえず、表向けにあるのは彼自身の肉体と道具である子供だけというのは極めて例外的なことだ。しかし、それは彼の目的には沿っている。

屋敷政則自身にとって幸いだったことに、彼は自分の息子がわからなかった。

どっちみちハヤトの父親はハヤトの母親がそのうち殺すから問題はない。

そう安心仕切っていたことが後々、致命的となって帰ってくる可能性もある。

すでにこの星に定着している遊民組織からの何らかの邪魔が入っているとは考えられないか。

 

そして今日。これが三度目だ。

最初はシルバーの不信な動きをする車。屋敷政則の所有車だ。まだ未明のうちから何回か通り過ぎ、どこかへ消えた。その次は弁護士の黒い高級車。その車は今、路地の角に停車している。

ガルバは振り返り、先ほど起きてきたハヤトを見る。屋敷裕子が作った朝ごはんを食べていた。準備をし、これから登校するのだ。

またハヤトがターゲットなのだろう。ガルバは思案する。

「どうかした?」ハヤトが聞く。下等な原始星人に普通に気遣われたことへのいらだち。

「どうもしない。早く行け。」

しかし、ハヤトは反抗的に『ハハ』にトーストに塗るジャムを求めた。

子供にかいがいしくジャムを塗ってやる屋敷裕子はごく普通の『この星の母親』にしか見えない。このかりそめの母子の心中に全く関心のないガルバにはわからなかったが、『ハハ』の服はいつもの着たきりではなく真新しいものだ。数日ぶりに体も髪も洗っている。

ハヤトはいち早く、それに気がついてそのことを洗面所でタオルを差し出す彼女に告げていた。

裕子と彼の心が弾んで、『チチ』を恐れないのはその所為なのかもしれない。

ガルバはホムンクルスの上から滑り落ち、隣室の小部屋に向かう。

ハヤトが驚いたようにそれを見ている。『チチ』が自力で移動するのを初めて見たからだ。

『チチ』の周りは重力が調整されているので浮いているようにも見える。

「しばらく、邪魔をするな。お前はいつも通りに行動しろ。」

返事を待たずにドアが閉じられる。ハヤトは『ハハ』に肩をすくめ『ハハ』は微笑んで子供を見返す。登校前の平和な光景。

 

 

隣室はもともとは四畳半の仏間だ。かつてあった仏壇は屋敷の親のもので今は何もない。

「一度、あの弁護士に・・・ぶつけてみるか。」

ガルバの内部の何かが騒ぎ、一時、彼はその対応に集中する。彼の内部にみっしり詰まった・・・有機物でできた内臓の偽物たち。

不意にガルバの歪んだ体に何かが生じる。穴だ・・・黒々とした深い闇。量子次元が開いたのだ。と、いうことはガルバの奇異に見える肉体の中は機械が次元がみっしりと詰まったワープ装置でもあるのか。

これでは有機人形に過ぎないホムンクルスに乗り込む、ガルバ自身の改造された肉体内部すらも空と言ってもよい。脳も様々な仕掛けで穴だらけなのか。

現れたのは黒々とした影だ。それが床に流れ出て丸く固まる。はるばるカバナリオン・ボイドから運ばれた思念体のボールだ。

『だから、切り貼り屋とかいうペテン師を生かしておけばよかったのだ。』

声ではない、誰かの思考の塊が意見をのべ始める。

『動き回れないお前に変わって色々と雑用をこなすためにだ。失策だったな。』

「あの男はそんなに簡単に動かせる駒ではない。洗脳にも耐性があることは明白・・・何せ、ペルセウスから無傷で帰った男なのだ。」『それが羨ましくて殺したのかな。』

体に穴を開けたままのガルバの口が黙る。図星か。

『話は簡単だ。その弁護士とやらも父親とやらもみんな消してしまえばいいのだ。』

「何でも簡単に排除しろという・・・ここはリオンではないのだ。」

ガルバは苦々しく。「頼んでいた・・・スペアはあるか。」

『ここにな。』バレーボールほどの黒い塊から足が生えてきた。白い子供の足だ。

『この子供は使えないんじゃないのか。』

青白い裸体の子供が畳の上に、ぐったりと横たえられる。目を閉じた顔はハヤトによく似ている。「なんとでもなる。」『我々の協力者たちの命令が行き渡っていれば、上陸部隊はあの子供を黙認するしかないだろう。その隙に・・・お前一人の潜伏ならば容易い。』

「いや、上陸部隊の動きはやはり知っておかなくてはいけない。彼らが探しているもののことは連邦では秘密でも何でもないのさ。」『・・・星殺しか』「連邦はカバナにもあると今も信じているからな」『ボイドに都市を作る条件が星殺しの引渡しだったことは我々貴族の絶対の秘密・・』「だから子供は必要だ。スペアでもなんでも。それと・・・考えがある。ホムンクルスをもう一台だ。」『リオンにいる同胞の人使いが荒いな。』「お互い様だ。」

足から現れたもう一つのそれが床の上に並んで立ち上がると、思念体はガルバへと収まり次元の穴は閉じられた。

「行ってきます。」ハヤトの声がする。

ガルバにではない、『ハハ』に言っているのだ。

「まぁ、原始人だから仕方がない。簡単に愛着を持つとは。」今はまだ目覚めないオビトを見下ろし唇のない口が歪む。

「所詮、あれも捨て駒だ。」


羊どころではないけど

2017-12-04 | 漫画葉書

©MOMOKO KIKUTI

 

やっと、やっと

ようやっと

また出来ました・・・

(全部じゃないです)(恥)

 

この間はヒンシュクポルノ書くは

ちょっと自分でも反省しつつ

 

それにしてもなんか

いろいろあるねんで

血は吐かないけれど

地を這うごとく日々、ほんのちょびっとづつ

書いております!

(気分転換にやったパズルゲームから抜け出せなくなったりもしたけど)

 

これでしばらく更新できそうです

 

とか言いつつ

日々、設定変わり

設定忘れ

誤字脱字、反復無駄文直しつつ

ですので

 

ずらっと入れ替えもあるかも・・・!

 

それより完成したら

また全部乗せ直す?

過去作と比べられるし?

 

どうするかは

まだ決めておりません

(あっ、誤字脱字はできる限り直します・・・気がついたらですけれど)(汗)

 

あと苦肉のイラスト、本文と関係ないもの多数ですので(謝)

 

宜しくお願い致します

 

CAZZ 拝


スパイラル・フォー-13

2017-12-04 | オリジナル小説

不法滞在者の思惑

 

 

話は少し前に戻る。

 

 

「子供をさらえだと。」

しっと男は声をひそめた。

「全くお前は。誰かに聞かれたらどうするんだ。」

そこは猥雑な風俗店の事務所だった。ある地方都市の駅前一等地に建つ大きなビルの一角。かなり大きなチェーン店だが、事務所は狭い。まだ女の子たちが出勤するには早い時間だ。しかしいつ何時、出入りのおしぼりやシーツの取り換え業者、清掃員が、入室しないとは限らない。

 

「俺たちはお前と彼女を匿っているんだ。その代金を支払うと思え。」

「匿っている?ていよくこき使ってるだけだと思いますがね。」

「働いているのはマサミちゃんだけだ、ヒモ。」男は相手の背後を顎で示した。

「本当に働いてくれるとは思わなかったがな。今じゃ、シフトを確認する客が後を絶たない。」

俺だってこうやって店への送り迎えで働いているとほざく相手に男は身を寄せさらに声を落とした。「従業員どもが噂している。美豆良、お前たち、兄妹なのか。」

「だとしたら、それがどうなんですか?オーナー。あんたたちのいた世界でも、モラル的にありえないとでも言いますかね。」

かつて長い間、弁護士を装っていたテベレスは愛想が良く、かつ如才がないと言えた。しかしそんな柔和な外観の裏で『怠惰の王』は、美豆良のうちでほくそ笑んでいるのだ。

兄ではないが・・・もっと悪い、父親ですよと。

しかし父と娘としても・・・二人の見た目年齢は10歳も離れていない。

 

「マジかよ。・・『ここ』じゃそういうの、ダメだ。頼むから一般人に言うなよ。」

顔をしかめると男は、美豆良へ顔をしかめた。

「宇宙人類のあなたでも、苦手ですか。」

美豆良と対するのはすごく小柄な男だ。

全体に骨格が華奢で男のようだが、女にも見えなくない。ふてぶてしさが漂う表情と口調。クリームがかった肌にたるみもシワもなく若いのか歳なのか・・・全く年齢不詳。細長い毛のない頭、やや真ん中に集まった切れ長の目と細い鼻、小さな口。パーツはそれぞれ特徴がなさすぎるが、一目で異相と感じる。

サメのような歯をのぞかせた。

「『ここ』じゃ下手したら子供ができるだろが。あっちじゃ、もっと洗練されて安全なんだ。基本、プラトニックだからな。そうなりゃ、同性だろうが肉親だろうが、関係ないさ。だけど、肉の交わりってやつはどうにも・・・。」

「ははぁ、あなたたちが宇宙では性交しない、性交できないっていうのは本当なんですね。」

「蛮族の風習、SEXなんか我々は遙か前から、しなくなったのさ。そうしたらできない体になっていっただけだ。だけど、それが進化ってやつだろ。するのはお前ら、原始人だけだ。」

風俗店に君臨する招かれざる異邦人は言葉を切り、サメの歯を舌で濡らす。

「だからこそ、昔はそれがいい商売になったんだ。お前たちは知らないだろうが、『SEX-show』は高い金で売れたんだ。この星のオスとメスを連れ出してな、掛け合わせて、子供を産ませるんだ。出産だってそのまま見世物になる。進化体は性の分離がない。性器もないし、子を育てる子宮もない、出産なんか想像もできない。破水したり出血したりすると、怖いもの見たさで分娩を見に来た客どもは驚愕する。気を失う観客が続出で、そりゃ大興奮だ。熱いショーだよ。飽きられて個体が古くなったら、オスとメスからあっちの世界の記憶を消し、子どもと一緒にこの星に戻せば、まったく問題ない。問題なかったんだ・・かつては。連邦がうるさくなった今は古き良き思い出だ。」

「SEXが見世物であるって話は・・・私も知ってますよ。」

美豆良と呼ばれた男は背後を気にする。

さりげなく顔を伏せたマサミの、表情はわからなかった。

「とにかく、この店の従業員たちは『ここ』の人類なんだから。滅多なことは言うな。」

「私だって、自分から言うわけないでしょ。そういう噂が出るのは、おそらく顔が似ているからですかね。店長が従兄弟とでも言っておいてくれれば、それでいいんだ。そうすれば、みんな、納得する。」

 

不意に後ろから

「店長、さっきの話だけど・・」かすれた声でマサミと呼ばれた女が割り込んできた。

「僕は、子どもをさらうなんてお断りだから。」

「まぁ、そういうな。」

美豆良でもある『怠惰の王』テベレスは背後、部屋の壁際に座る『妹』をいなす。

「ここに身を隠しているだけで、退屈で仕方がない。話だけでも聞こうじゃないか。」

よしよし、そう来なきゃと店長は注意深くドアの外を伺い、鍵をかけた。

「正確には狙いは違う。その子供でおびき出すんだ。その子供を使役しているやつをだ。」

「そいつも『オリオン連邦』とやらの人間なんですか。」

再び、生き生きしだしたテベレスにマサミは眉をひそめた。

鬼来マサミの故郷、群馬僻地の鬼来村を滅ぼしたのは世間で言われている土砂崩れではないのだ。不法移民であった彼らは『祖の人類』から造られたSEXドールの系列であり、不正なクローンたちだった。それゆえに『オリオン連邦』に追い詰められ、連行を拒んで自滅を選んだのが真相。

そのことは、理解している。マサミには怒りはない。深い諦観があるだけだ。

連邦への『復讐』などどうでもよい。

しかし相棒のテベレスは血を好み、血が流れる方向を常に模索し続けていた。かといって、それを諌めるほどの強いものをマサミは持たない。

かつて旧い大陸で名を馳せた魔族『怠惰の王』が、実は怠惰どころかかなりな働き者であることをすでにマサミは知っていた。その魔族がマサミの戸籍上の親族であり遺伝子的には父親となる鬼来美豆良と伝統的な契約をし、取り憑き、その体を自由にしている。

 

「なんで、ここには遊民しかいないんです?。それもカバナリオンの人間がいない。」

テベレスは不満だった。「『ここ』は連邦の勢力下だから仕方がないだろう。」

「だけども、鳳来はカバナから来たんではなかったんですか?連邦と敵対するカバナから。」

「鳳来も俺たちもカバナの系列に過ぎない、宇宙遊民だ。『ここ』は『連邦』の星域の辺境、カバナとの前線の境目に最も近い。だから、カバナ系列の遊民が多い、それだけだ。」

頭をかきながら店長は短い足をテーブルに乗せた。

「お前たちが俺のところへ転がり込んだのは、俺たちが『連邦』と対立する『カバナリオン』の人類だと思ったからだろう?。いつの日か俺たちがそれぞれの組織間でドンパチやり出すことを期待していたんだよな?お前らのこの星の上でだ、それでいいのかよ。」

「私は特に。」「やめてくれ。」

マサミの声が勝る。「僕は戦争なんか望まない。」

店長がニヤリとする。「ほんとにつまらん、妹だ。お前とは正反対だよ。」

テベレスは肩をすくめる。「まっ、いいです。」

血が流れる方法は他にもある。流行りのテロとか。

「そんなことより、誘拐の話をしてください。」

「わかった。ただしそいつの正体を聞けば、マサミちゃんは喜ぶまいよ。」

「どういうことだ?。」美豆良の体が身を乗り出す。

「そいつがお待ちかねのカバナ・リオン直属のスパイだからだ。」

 

もちろん、今までもカバナ・リオンのスパイがこの星に侵入するのが全くなかったわけじゃない。ただ、そいつらもこれまではすべて遊民だった。

お前らにはわかりにくいだろうが・・・オリオン連邦とカバナ・リオンが戦争したり休戦したりしていた何千万年間、宇宙遊民同士は互いを割と自由に行き来し続けていたってことだ。もちろん、正規の『連邦遊民』は分岐境界線や、まして前線を超えて商売をしたりしない。いわゆる『不法遊民』と連邦に認定された集団だけだ。

連邦には連邦を牛耳る『中枢』のオリオン人・・・宇宙で育った宇宙人類『ニュートロン』と植民された星で生まれ育った宇宙人類『ヒューマノイド』がいる。

それ以外に人類発祥の地『祖の地球』から近いがゆえに封鎖された『原始星』に『原始星人』がいるが・・・そいつらが『宇宙空間』や『中枢』にいる確率はほとんどないといっていい。

 

「逆に、この星に送り込まれているオリオン人は、ほとんどが『原始星人』だけどな。」

「つまり、それは・・見た目の問題なんでしょうね。」

「そうだ遺伝子が近いから違和感がない。この星の人類の外観は『祖の地球人』そのものだ。宇宙に適応した『ニュートロン』では『ホムンクルス』に乗らないと違和感は隠せないからだ。」

「ホムンクルス・・懐かしいですね。」かつてそれに取り憑いていたテベレス。

『乗り込む』のも『取り憑く』のも大して変わるまい。

『なんだ、宇宙人も魔族の俺と変わらないんだ』とニヤついた。

 

それはさて置きだ、遊民たちも『連邦』と『カバナ』、二つから三つの系統に分かれているのさ。三番目はオリオンとカバナの混血ってやつらだ。

この『果ての地球』は、連邦に偶然発見された時から派遣された原始星人とは別に『遊民』が比較的自由に出入りすることが黙認されていた。

 

「どういうわけか、連邦はこの星に存在を宣言し有無を言わさず征服することも、公式に交易を求めながらゆっくりと統治下に組み込むことを全くしていない。」

「それは、なんでなんです?」

「さあな、俺が考えていることはあるが・・・それは後で話すよ。」

 

この星の不法移民である『遊民』の話をまとめれば、正規の連邦部隊が常駐されて以来、すっかりやりにくくなったってことだ。出入りは完全に管理される。出ることはまだしも、入るのはさらに大変だ。この星の人類に影響を与える行為は禁止され、危害を与えたものは粛清される。

鳳来の組織がいい例だ。そして鳳来も死んだ。

 

「お前らが証人だろ。」「ええ、鳳来は死にました。保証します。」

 

今、残っているのは毒にも薬にもならないと判断された組織だけだってことだ。

遺伝子を汚すこともない、俺とかな。

突然今日、この星を出て行きたくなっても止められないだろうし、ここで死んだとしても遺体が収容されて終わりなだけだ。

 

そしていよいよ、カバナ系の遊民である俺でさえ見たこともない『カバナ・リオン』の側に移る。カバナ・リオンは銀河系のオリオン腕とペルセウス腕の間の空間、ボイドに建設された人工惑星都市だ。その統治が及ぶ範囲に点在する都市衛星群を『カバナ・ボイド』と称する。

『カバナ・リオン』はその中心。人類が『連邦』と『カバナ』に分かれて以来、『カバナ貴族』と呼ばれるやんごとなきカバナ人たちが治めている。

カバナとは大きく分けて『カバナ貴族』と『その他』、以上だ。

遺伝子の保全に積極的でなかったために、系統立てることが不可能になってしまったんだ。

とりわけ『カバナ貴族』というやつらはボイドに建設された巨大な惑星都市から一歩も出ることなく現在に至っているわけで。

ボイドという宇宙空間で、どのように『進化』、あるいは『退化』したのかは下々のカバナ人にはまったくわからないときた。

カバナ人たちの目に触れぬ『貴族たち』への恐れはもはや信仰と言ってもいいものだ。

戦争だってホムンクルス戦になる以前ならもちろん、『その他』達が行ったのさ。

こいつらも連邦のいう『ニュートロン』と全く同じなんだが・・・こっちの宇宙人類は訳もわからん混血や改造をやり尽くした人間たちだってことだ。

ベーッシックな人類とは全く違う姿形をしていても宇宙では誰も驚かないけどな。

『カバナ貴族』も同じだが、ありがたいことにこっちはまず目に触れることがない。

今回、この星に侵入したやつは十中八九、謀略を好み血に飢えた栄えある『その他』だ。

 

「スパイ、戦闘員・・・そいつは私と同じ匂いがしますね。」血を好むのだ。

「喜ぶのはまだ早い。」

「ちょっと待って。」マサミが立ち上がりカウンターへと近づく。

「さっき、この星の出入りは完全に管理されているって言ったじゃないか。」

「そうさ。よく気がついた。」店長は手をひらひらさせ、マサミを見上げる。

「連邦が『カバナ貴族の犬』を入れたってことだよ、お嬢さん。な、いい知らせじゃないだろ。」

「いったいそれはどういうことなんです?」テベレスも首をかしげた。

二人並ぶと嫌でもその風貌の相似が目が付き店長はニヤニヤと

「どういうことかって・・・何かが連邦とカバナ・リオンの間で進行しているってことだ。」

「・・・正規軍への裏切りとか、ですか。」

「さあな。それはわからん。連邦の『中枢』が割れ始めたことだけは確かだ。裏切り者が手引きするこの星へのカバナ軍一斉攻撃の偵察かもしれんし、逆に停戦を破らせる為にカバナへ仕掛けた連邦の罠かもしれん。もっともありそうがない話が・・・まさかの『和平』かもな。」

「それで。」マサミが思案気に「僕たちに何をさせたいの。」

「俺たちは、この星に暮らす遊民はこのままでいたいんだ。ずっとこのどっちつかずの状態を続けたいわけ。そのために火種になりそうなスパイなんか邪魔だってこと。まずはそいつを引きずり出して目的を知りたい。」「知ってどうするんだ。」

「さあな。それは知ってからだ。」「素直に教えると思ってはないでしょう?」

「だったら、始末する。そいつの脳みそと細胞に聞く。だから、手始めにそいつが利用している子供をさらってくれ。そいつが出てきたら、とりあえず、ぶっ殺してくれ。細胞は多い方がいい。生身かどうかはわからんが・・・なるべく、できるなら頭は壊すな。」

「子供をさらい、そいつを引き渡すのはいいとして・・その後は大丈夫なのか。」

「心配するな。入る方もいれた方も公式じゃない。リオンのカバナ人を入れたのは連邦も承知だ、表沙汰にならなければ連邦が停戦を破棄することはない。逆にそのスパイがここで消されたところで、カバナ・リオンが怒って停戦を破ることもまずないはずだ。どちらも表向きにはできないんだからな。」

「わかった。」テベレスは返事が早い。「具体的な話をしてください。」

マサミは呆れながらも肩をすくめている。渋々だが了承の合図だ。

「その前に聞かせてよ。この星のこと。さっきあんたが言ってた考えを。」

 

「連邦がこの星を経過観察し続ける理由か。」店長は足を下ろす。

「経過観察・・・まさにそれさ。それ以下でもそれ以上でもない。思うには・・・連邦は実験しているんじゃないのか。」

「実験?何の」「滅びの実験だよ。」

店長が立ち上がっても身長はマサミの胸までもなかった。

「我ら宇宙人類の祖先は科学進化の極みに達して『祖の地球』を自ら、滅ろぼした。太陽系ごと吹っ飛ばしてしまったのさ。・・・それを再現させて観察したいんじゃないかと思う。自進化をし尽くした人類が、リスクを知りながら・・・どのような思考回路で破滅の道を選ぶのか。それが同じ人類の手によって回避できるものなのか。そんなとこだと思う。『祖の地球』壊滅の工程は資料が少ない。誰もが戦犯になりたくない、自分の関わりを残したくなかったんだ。もちろん、この『最も新しい地球』については・・・本当に壊滅しそうになったら、遅まきにしろ、介入すると思うがな。コレクション好きの中枢にとっちゃ、この星はこの星で貴重なんだろうしな。」

「実験で・・滅亡するかどうか見ているというの。・・・必ず、滅亡に向かうと?」

「だろ?今だって、この星は汚染されて青色吐息だ。」

「そりゃそうだ、あるかもなぁ!」

テベレスが爆笑する。

「確かに私が生まれて以来から見たって、お前たち人間はほんとバカばかりだ。魔物もはびこるわけですよ。」

 

『魔物』ってなんだと店長。あれか、迷信の?そんなもの、いないだろうよ、美豆良。

 

「この星の生物はすでにDNAを含めて保存済みだ。お前ら人間のサンプルもあるだろう。いつ、リセットしてもOK。あとは結果次第ってな。」首をかしげるマサミに

「あくまで俺の考えだし、滅びなきゃいいだけだ。せいぜい頑張れ。」無責任な店長。

 

店長はターゲットが今どこに潜伏し、どんな立場でいるかを説明し始めている。

おとなしく情報を頭に入れていたはずのテベレスが何気なく尋ねる。

「ところでです・・・もしも、スパイが正規軍を刺激したらどうなるんですかね?正規軍が公式にそのスパイを捕えるか、殺したりしたら?」

「それだけはダメだ。面倒になるだけだ。」それでは公式にカバナが停戦を破ったということになってしまう。停戦破りが公になったら・・『中枢』に裏切り者一派がいることが連邦内で公然となったら混乱はどこへ転んで行くかわからない。

なるほど・・なるほどと、テベレスは呟いた。店長が出してきた地図や写真に身を乗り出し、指を指し熱心に質問している。マサミは横目で睨むが、口は開かない。

魔を見ることがない『遊民たち』は知らないのだ。

魔族がはなから信用できるわけがないことを。

美豆良の中でテベレスが明白な企みを抱き出したことを。考えることはたかが知れているが。

 

マサミにはもう何も聞こえない。遠ざかる声を追うつもりもない。

気力が・・・体の力が抜けて行く。

連邦?カバナ?なんのことだ。

自分も自分を作った者たちも・・もともと、この星の住人ではない。

『祖の地球人』の遺伝子をいじって、二つで一つとして作り出され、逃亡したSEXドール。

『鳳来』を愛した『マザー』の自己満足の集大成。

それが自分だ。

『すべてはマサミを生かすために』そう言ってみなが死んだ。

遺伝子上の父とは知らず、兄と慕っていた美豆良すら『マサミのために』と言って魔物に自らを与えるまでしている。連邦にはない『魔物』の未知の力によってマサミを生かすことに賭けたのだ。そうまでして。馬鹿らしい。

なぜ、生かされなければならない?

身勝手。あまりに重すぎる。

目的もなく、ただ、『生き残る』ことだけを目標として?。

それほどの価値が自分にあるとは思えない。

捨てられた・・・置いて行かれた。その気持ちしかない。

残されたものは美豆良の抜け殻と魔物。それにすがって自己を保っている、自分。

マサミは全てがどうでもいいと思った。

テベレスが何か企んだことで不法滞在者たちの思惑が外れたとしても。

それで仮に、この星に何かが起こったとしても・・・それが、どうだというんだ。

 

その時、記憶の奥で何かがチカリと光る。

 

『譲・・・』

マサミは目を硬く閉じる。

最後に見た彼とその彼女。

 

彼だけは幸せでいて欲しかった。