幕間2 ガンダルファのつぶやき
さて。どうしよう、ドラコ。
イリトへの報告書とやらを書かなきゃならない。
何を書いたらいいと思う?
(好きなこと書くにゃ。おいしかったものとかかにゃ。)
えー!上官に提出する書類にそれはありえなくない?タブーでしょ?
(そうかにゃ?イリトはなんでもデーター送ってって言ってたにょ?地球の名物とかも知りたいって言ってたにょ。)
ええ?そうかい?そうなのかい?信玄餅とかでいいわけ?
(勝沼のワインとかいいにゃ。ドラコ、好きにゃ。)
って、僕の飲んだアルコールの気に酔っぱらってるだけでしょが。
(ほろ酔いにょ。後でゲロ吐いたのはガンちんだけにょ。)
ちぇっと。酒はおいしいけど、飲み過ぎると後がなー。
いや、それどころじゃない。報告書だって。ざっと内容をまとめておこうよ。だいたい、こういうのはアギュの仕事じゃないの?隊長さんなんだし。
(体よく押し付けられたにょ。広報担当だから仕方ないにょ。)
なんだいなんだい、シドラといい、こういう時だけさ。
(シドラはもっとこういうの苦手にょ。)
わかったよ。まあ、いいよ。嫌いじゃないし。
(ならいいにょ。)
新しい赴任地に着任して早いモノでもうここの時間で6年がたったって知ってた?
(ガンちゃん、相変わらずじじむさい表現にょ。
若者のドラコ感覚ではにゃ、あっと言う間にゃ。)
ガキとしてはそうだろ、そうだろうよ、毎日毎日、寝てばかり。僕がアギュやシドラにこき使われてるってのに食っちゃ寝し放題みたいなもんだもんなー。
(それは言い過ぎにょ。ドラコの緻密なアドバイスのお陰で何度も窮地を脱したはずにょ。)
窮地を脱するっていうか、人の道をはずれた気がするって方が正しいよね。まさに
虫の浅知恵。
(虫って言うにゃ~。)
まあ、それはいいとして、(よくないにゃ~)
僕らはアギュ隊長のもと、この太陽系第3惑星に於いて任務を遂行中なんだけども
・・・しかし、あのアギュが隊長だなんてさ。考えても見なかったよなー。しかも、しかも元帥様だぜ。あのアギュがねー、なんだかやっぱり不思議だよなー。
(その元帥様にガンちゃん、タメグチきいてるにょ。)
そうなんだよなー。それって、ほんとうはダメなんだよね。アギュが何も言わないからさー・・・シドラが最初はうるさかったけど。今や、なし崩しですよ。査察とかあったらどうしよう?。
(その時だけ、芝居すればいいにょ?)
芝居、ねえ?できるかな。案外、アギュは気にしないだろうけどね。アギュはさー、変わったもんねぇ。なんか、1人だけ大人になっちゃったって感じ?。しかしなぁ、今更敬語なんて使えないよね。
(ドラコもアギュはちょっと気になったにゃ。どことはわかんないけどにょ・・)
なにさ?
(なんというのかにゃ?)
なんだよ?
(よく、わからないにゃ。なんか匂いが変わったって感じにゃ。)
匂い?
(いいにょ。ドラコの思い過ごしにょ。今度、ゆっくりバラキとディスカッションするにょ。バラキの意見が聞きたいにょ。)
まあ、アギュも色々あったわけだしさ。そりゃ、匂いぐらい変わるでしょーよ。
(・・厳密には匂いじゃないのにょ。うまく説明できないにょ。)
そうかい。僕にはよくわかる気がするね。匂いですむんなら、僕のだって変わったはずだぜ。あの時はほんと、つらかったんだから。まあ、ドラコは誰かを好きになったことなんかまだ、ないだろ?。恋を知らない子供には、わからないかもねーだ。
(ドラコだって、ユウリのことでアギュがショック受けたことぐらいわかるにょ!)
まあ、それぐらいは基本、基本。最低でもわからないとね。(ムカにゃ!)
考えてみれば、ここってユウリの生まれ故郷ってわけじゃない。アギュって、ユウリの思い出の中にどっぷり浸かって生きているよね。
ユウリが産まれた家をそっくり買っちまうぐらいだもん。
しかし、まあ、氏より育ちとはよく言ったもんだ。ここに住んでみればさ、ここがユウリの心のバックグラウンドだっていうのがすごく納得できるよね。(んにゃ、んにゃ。)
僕はものすごく、気に入ったよーここ。この神月とかいう土地は最高じゃん?。なんか、ジュラを思わせるのどかさ。飯はうまいし、空気もうまい。人もおおらかで親切っと来たもんだ。今のところ、気に入らないのは虫の(ワームドラゴンじゃないよ)佃煮と納豆ぐらいかな。
(ドラコもだいたいのとこ、気に入ったにょ。)
ひょっとすると・・最初来たときなんてジュラよりも都会かと思っちゃったもんね。
(ガンちゃんのジュラなら確かにそうにゃ。シドラのとこは都会だからにゃ~。)
ムカッ!ドラコは、ジュラに1回しか行ったとこないだろが!?。いーよ、いーよ、どうせ田舎ですよ。イリトにも散々言われたしさ、ふう。
ただしね、この星の方がそんな田舎のジュラよりもだ、実際はまだ何もかも発展途上で混沌としているんだよね。何より星全体がまとまってないし。国家もバラバラだもんね。国連なんて言ってるけど実権は弱いし、一部の地域なんて喧嘩上等のまんまじゃんか。住民の置かれてる世情も環境もさ、場所に寄って違いすぎるよ。いいとこと嫌なとこが混在しすぎだ。
ジュラのまとまりっていうか、安定感、安心感がまだないんだよなあ。
(ふにゃ?ドラコ、わかんにゃいにゃ。それって、どういうことなのにょ?)
例えば、連邦ならさ、嫌~なところは中枢とかオリオンとか解りやすいじゃん。原始星は総じて田舎で平和だとかさ。ニュートロンどもは出世だの名誉だのってギスギス足引っ張り合ってるけど、原始星人は一般的に欲とかなくて目の前の生活を淡々とこなすことに喜びを見いだしてる・・・
(それはそうするしかないからにゃ?)
・・・痛いこと言うなあ。確かに原始人類は野望を燃やしても、燃やしようがないのを最初から知ってるからねえ。原始星政策で人類の遺伝子を温存するために、地元に封じられちまってるからな。産まれた時から役目が決まってる連邦の中じゃ争いなんて起こりようがないかー、ちぇ。
(ガンちゃんとシドラはジュラの出世頭にょ!)
そうだね。でも、ここで打ち止めかな?まあ、いいか。僕は満足。だって、原始星を出られただけでも儲け物だしさ。
(シドラはもうちょっとは出世しそうにょ。)
おい、それって嫌みか?どういうことだよ。確かに、僕かシドラかって言われればシドラさ、そりゃそうさ認めるよ。だけどさ。
(言いたい事わかったにょ。シドラもバラキも出世欲がないのにゃ~シドラはユリちゃんに夢中なのにょ。)
あからさまな贔屓まるだしだよな。僕なんか隅の方でいっつも小さくなってるっての。しかも、姉と弟って設定はどうよ。いくら、宇宙で年令は関係ないっていったてさ。この星じゃ、年功序列だろ?。なんか、立場低いんだよなー。
(ガンちゃんとシドラは同じジュラ出身で外観が似てるから仕方がないにょ?)
そうぉ?そんなに似てるかな。確かにナチュラルでは同じ目と髪の色だけど・・・
イリト参謀の陰謀が感じられる。イリトはシドラのファンなんだろ?アギュが社長ってのは当然としてもさ、なんか依怙贔屓だよな~。
(いじけるのはガンちゃんに似合わないにょ。シドラの方が年長者がどうにいってるのにょ。納得するにょ。)
それはさー、いつもいつも偉そうで人を顎で使うところがあるからだろ。なんたって背もでかいし、押しも強くて迫力満点だからに決まってるんだよ。
おっと。シドラが来たぜ。相変わらず、噂すれば影って感じだな。
「おのれが常につまらん人の悪口を言ってるからだ。」
(バラキレーダーに引っかかったにょ。)
「そんな幼稚な態度だから、弟役なんかにされるのだ。我だって迷惑千万だ。おぬしみたいなのが我の弟だなどとな。ほんとうに身内だったらな、我の弟としてふさわしくなるべく、もっと締め上げているところだぞ。」それだけはやめて、ほんと。
「アギュには正式に抗議したかったのだが・・・これも任務であるから仕方なく我慢したのだ。」
よしよし。まあ、いいや。お互い様ってことで、忍耐強く行こうやさ。それについでだからってことでさ、広報担当としてこの星の感想をインタビューさせてもらおうっと。
(合い変わらず、転んでもただでおきないにょ~)
「ところでどうよ、シドラ?この星、気に入った?」
「我は自分の任地に好き嫌いなどない。」
「またまたー、嘘ばっかり。仕事離れりゃただの人でしょが?」
「任務遂行中の軍人にはプライベートなどないのだ。本来はおぬしもだぞ。」
はいはい、まったくうるさいねぇ。この軍人なりきり陶酔マニアが。
「じゃあ、さあ。さっきユリちゃん達に宿題教えてたの、あれも仕事?。仕事だと思って義務でやってるってわけ?ユリちゃんの世話も?ユリちゃん、傷つくよー。」
(おっ、ガンちゃん一本取ったにょ!)
「フン。そんな些末なことはいい。それより、おぬしアギュとユリの話をどう思うんだ?」
「アギュの話?」(話をそらされたにょ。)
「未知の生物だ。」
「ああ、その話か。もう6年も前の話だけど。」
「それだけじゃない。ここにはまだ他にも、次元生物がいるという話だ。」
「でもさ、同じ次元にいないのなら別に問題ないんじゃないの?。だって、今までの調査員もあまり問題にしてなかったでしょ?まあ、いささか妙な具合になってるけど。」
(なってるのにょ?)
「なってるんだよ!。あの時の例の赤ん坊・・・渡ってちょっと普通じゃないし。そうなると、6年前現れたデモンバルグとかいう奴がいないって思えなくなるじゃないか。実際に確実に見たのはアギュとバラキなんだけどさ。」
(思い出したにょ!黒い渦巻きにょ?おばちゃんに教えてあげれば、きっと喜ぶにょ。)
もうアギュがとっくに報告したさ、おば・・じゃないイリト参謀は大喜び。早速、見学に来るって大騒ぎだったんだから。それをアギュが必死こいて止めたという・・
(なんでにょ?来ればいいにょ。ドラコ、おばちゃんは大歓迎にょ!)
あのねえ~一平卒にあらず文官のお偉いさんがフラフラと辺境の無法地帯をぶらついてていいわけないだろ?あのおばさん(あっと言っちゃったにょ)ときたら絶対、
居座って帰らなくなるに決まってるもんな。そしたら、僕の日常生活はどうなると思うの?管理職の奴らなんて、下をこき使って当然だと思って育ってるんだぜ?仕事だってままならないったらさ。
とにかく、イリトは当分来ないから。オリオンでの今度の総会が終わるまではって、指をくわえて悔しがってたらしいよ。
(そうなのにょ?、残念にゃ。)
全然、残念じゃないって。今にわかるからこの気持ち。
「我もイリトにウロウロされるのは困る。警備上の問題も発生する。手が足りん。」
「おっ、意見の一致。久々だね。」
「正直、我はデモンバルグなどは今だにピンと来ない。おぬしもだろ。バラキのことがなければ、夜迷い事だとはなから相手にしないところだ。アギュの見える世界は我らとはかなり違うからな。」
(でも、この星にはも~沢山の次元の狭間があるにょ。)
「勿論、バラキもそう言ってる。」相変わらず、シドラの後ろに用心棒の先生いるんだね。肩の上がドロドロ渦巻いててさ、不穏な背景背負ってるよ。この星のホラー映画みたいだ。ドラコはともかくバラキはでっかいじゃん?同じ次元でぶつからないの?
(今、ドラコとバラキのいる位置は全然違うのにゃ~ガンちゃんの空間ではすごく近いけど・・・ドラコとバラキのいる空間は微妙に違うのにゃ~ミルフィールみたいに薄く重なってるにょ。)
ふ~ん、そうなんだ~。複雑怪奇。理解できないけど、まあいいや。
「ふふん、我は理解できたぞ。ワームドラゴンは次元に股がって存在するなんてのは朝飯前だということだ。次元なんていくらでもある。何もわざわざ同じ次元でキツキツになってるほど馬鹿ではないと言ってるのだ。次元感知能力は我ら原始体にはほとんどないに等しいからな。頭で理解できたとしても、体感はできない。アギュだったら感知できるがな。それが、臨海進化体の突出した能力なのだから。」
「へーぇ、さりげなく自慢しつつ僕を馬鹿にしてるなぁ。まあ、もう慣れたから、いいや。・・・あれ以後、ドラコやバラキはそいつらしいの見たことないの?」
「ここの惑星の表面の次元はとにかく細かく、小さい。バラキは小さい次元に潜るのはどうやらしんどいようだ。メモリーがでかすぎるのだろう。おそらく、ドラコの方がそういう潜入作業は向いているんではないか?」
(向いてるにょ!隠密ドラコにょ。たぶんそいつじゃない、変なものならよく見てるにょ。)
「えっ?見てるの?何、どんなの見たの?なんでパートナーの僕に言わないのよ。」
(だって言ったってガンちゃんには感じられないにょ?。アギュとドラコが見ているのが同じかもわかんないのにょ。バラキとドラコもたぶん違うにょ。)
「それは能力差ってやつだろう、とバラキが言ってるぞ。」
おい、おどろの向こうでバラキが笑ってるってわけだね。こえ~なぁ。
「それはいいから、どんなのが見えるのかお兄ちゃん達に言ってみなさい。」
(そうにょ~。ガンちゃんもシドラも水の中に潜るにょ?ワームホールもそんな感じするにょ?ここはにょ、その水の中にゼリーみたいなのが一杯浮いてる感じにょ。ゼリーに潜るとモニャモニャするにょ?
(消えたり、できたり忙しいのにょ。)
う~ん。ものすごくざっくりとだけど掴めてきたぞ。
「アギュの会ったデモンバルグではないな。」
「ドラコはアギュの会った・・・非物質生命体とかいうのかな?・・・らしきものならば、ここにきてから頻繁に感じたことあるってわけだね?」
(あるにょ。お日様とか当たると葉っぱの裏とかにキラキラ遊んでるちいさいのとかいるにょ。ああいうのってジュラにも少しいたにょ。)
いたんかい?ちっとも気がつかなかった。
「チェラというものだ。」
「それはおとぎ話の中の妖精だろ?子供の時は信じてたけど・・・まさか、本当にいるなんて・・・ねえ?」
「心の奇麗なものにしか、見えないというな。」
「シドラだって一緒だろ!」
(ほんのちょっとしかいないにょ。ジュラは人間以外に生きてる生物が少ないからだと思うにょ。ほとんど砂か岩ばかりにょ?こんなに生物にあふれて複雑なバランス構造の星はめったにないってタトラが言ってたにょ!)(難しい言葉もドラコ言えるにょら)(ここではパワーとか熱を出しているものの側にもよくいるにょ。妖精さんにょ。ここではドラコもそういうものだと思うにょ。)
いやいや、違うだろ~。
ここの妖精さんってもっと儚くて可愛いイメージだもんね。
(ここはどんなものがいてもおかしくない感じがするにょ。)
無視かよ。そうかとにかくもしも、見かけたらすぐに教えてくれよ。なんと言っても僕にはわかんないしね。よろしく頼むよ。
(いいにょ。でも、渡に聞いた方が早いかもにょ?)
(渡はお化けとか見るって言ってたからにゃ!)
「渡か。竹本の子供だな。ユリは赤ん坊の渡をよく面倒みていたな。同い年になった今も仲良しだ。・・・デモンバルグは渡を追って来たようだとかいう話だな。」
(「そうそう。そもそもさ。ユリちゃんがいたってこと自体が驚きじゃなかった?」
「事故死したクローンを望むことは普通だ・・・まあ、あのアギュが子育てする覚悟をしたことは・・・確かに我も驚いた。」
「罪悪感なのかな。でも、ユウリには身内がいないのになんでクローンの許可が下り たのさ?」
「ユリは完全体クローンではないと聞いたぞ。」「誰から?」「イリトが説明してくれた。」
「ちぇっ、ずる~!僕は事前に何も聞かされなかったぞ。このおばちゃんキラーがっ!」
「失礼なこと言うな。日頃の行いの違いだ。イリトの話では、ユリはユウリの保存されていた細胞とアギュの細胞から造られているらしい・・・禁為の技術だ。」
「って!、アギュもずるくねぇ?やりたい放題だな、臨海進化体!」
「おそらく、臨海進化実験の一環なのだろうな。」
「・・待てよ、そういうことなら僕との子供は無理か?」
「バカか、ユリの遺伝子はサンプルだからまずむりだろうが。」
「ちぇっ!汚ねぇな~元帥様はよ~」
「・・いいばかりではないぞ,ガンダルファ。おそらくユリはここから2度と連邦へ戻ることはないはずだ。」
「・・・!。そうか、そういう条件で許可されたのか・・遺伝子実験の子供が研究所から出ることがないのと一緒ってことだね。それならあり得るのか・・」
「もしも、我らがここを引き払う事態になったまら・・イリトは口を濁したが、確実にユリはここに捨て置かれるはずだ。」「そりゃ、ひどい!そりゃないよ!」
「臨海進化体でも従わねばならぬ、それが連邦の原始体保存法だ。」 )
「それはさておき、渡の産まれた時の奇妙な話のことだったよ。ユリちゃんだって、そいつの存在を感じたらしいしさ。そう言われて見るとさ、渡はさー、なんか違うぜ。わかんないけど、どっか普通じゃないよ、妙に落ち着き払ってる気がする。子供にしては。」
「おぬしが落ち着かなさ過ぎるから余計に、そう感じるとしてもだ。我にはよくわからんな。普通の子供に見える。成長が抑制されて言葉が遅れているユリと較べて見てもだ・・・この星の子供としての発達に特に異常なところはないはずだ。」
( 「ところで、どうしてアギュはユリちゃんを成長させないんだろうね?」
「我が知るか。あやつはもともと、変な屈折した愛情の持ち主だからな。
ユウリの時といい。我は奴のことをまだ全面的には信頼していないのだ。」
「ああいう子供ってさ、5年を半年ぐらいで細胞を作ってるわけだから、
ちょっと抑制したほうが体にいいのかと僕は思ってたんだけど。」
「・・・あやつが、そういう思考の持ち主だったか?」
「確かにね。前はそうだった。だけど、変わったからさ。」
「猫をかぶってるのかもしれない。」 (にゃにゃ~んにゃ)
「一度、聞いてみたらどうだ?」
「えっ!やだよ。アギュにだろ?なんだかんだ言ったって上司だし。あいつ、昔はすごい根に持つタイプだったじゃん。」
「変わったって言ったのはおぬしだろ。」
「その点は変わってないかもしれないじゃないか。」 )
「ふーん。だとすると渡の問題のある所って、お化けを見るってことぐらいじゃん?」
「あのな。だいたい魂だの、お化けなどと言う観念は宇宙人類にはないものだ。理解ができん。原始星人類は星によっては差があるがな。最近は生物の残留エネルギーであるとか、精神流体とかいう科学的な捕らえ考え方に変わって来ている。精神流体は脆いもので肉次元を離れると形を取ることが難しいものだとされている。だからだ、精神流体が元気に飛び回って死んだ肉体に入るなど言う話は聞いたことがないのだ。似たものでは・・・古代に開発された電磁システムに入る人工的な疑似エネルギーならともかくな。渡に入ったものはどこから来たのだ?」
「そんなこと検討もつかないよ。そんなことより、ジュラにもさあ、お化けとかいたんじゃないの?。僕は見た事はないけど今だって信じてるよ。」
「そんなことを口にするから我ら、原始体が下等に見られるのだ。産まれてから宇宙しか知らない人類と惑星で育ったものの違いなのだろうがな。我は幽霊など信じたことはないが、我の乳母はよく話してくれたものだ。しかしジュラでだって死んだものは、その辺をウロウロせずに宇宙に飛び去ると決まっている。遥かな神のゆりかごへだ。」
シドラって、乳母がいたの?どんな育ちだよ、似合わね~。
(渡はドラコが多分、見えると思うにゃ。ユリちゃんも見えるけどにょ、ユウリも見えたから不思議じゃないにょ?)
「ふんふん、それだけでも普通じゃないもんな。」
「そういう者はこの星では霊感があるとかいうらしいな。綾子がそう言ってた。」
「綾子って・・・渡の母ちゃんを呼び捨てすんなよ。誤解されるぞ。」
「女同士で何が誤解される?この星はオリオンの中枢ではないぞ。古風な土地だ。」
(シドラは相変わらず、女性にモテているのにゃ~ガンちゃんとはダンチにょ~)
うるさいよ。ドラコ、渡の目の前をうろちょろしてないだろうな?おとなしく隠れてろよ。
(してないにょ。赤ちゃんの頃は確かに見られてたにゃ~記憶がないと思うから大丈夫にゃ)
でも、たまに離れに来て鼠がいるんじゃないかって騒いでたな。なんか、気配するみたいだぜ?
(鼠とは失礼にゃ。)
「ガンダルファ、我は明日からアギュと共に国外に行く。おのれはここでユリや渡をしっかり守るのだぞ。まあ、タトラが付いてるから大丈夫だろうが。」
「あ、またむかつく言い方。」
(ガンちゃん、ドラコも付いてるにょ。)
さて。どうしよう、ドラコ。
イリトへの報告書とやらを書かなきゃならない。
何を書いたらいいと思う?
(好きなこと書くにゃ。おいしかったものとかかにゃ。)
えー!上官に提出する書類にそれはありえなくない?タブーでしょ?
(そうかにゃ?イリトはなんでもデーター送ってって言ってたにょ?地球の名物とかも知りたいって言ってたにょ。)
ええ?そうかい?そうなのかい?信玄餅とかでいいわけ?
(勝沼のワインとかいいにゃ。ドラコ、好きにゃ。)
って、僕の飲んだアルコールの気に酔っぱらってるだけでしょが。
(ほろ酔いにょ。後でゲロ吐いたのはガンちんだけにょ。)
ちぇっと。酒はおいしいけど、飲み過ぎると後がなー。
いや、それどころじゃない。報告書だって。ざっと内容をまとめておこうよ。だいたい、こういうのはアギュの仕事じゃないの?隊長さんなんだし。
(体よく押し付けられたにょ。広報担当だから仕方ないにょ。)
なんだいなんだい、シドラといい、こういう時だけさ。
(シドラはもっとこういうの苦手にょ。)
わかったよ。まあ、いいよ。嫌いじゃないし。
(ならいいにょ。)
新しい赴任地に着任して早いモノでもうここの時間で6年がたったって知ってた?
(ガンちゃん、相変わらずじじむさい表現にょ。
若者のドラコ感覚ではにゃ、あっと言う間にゃ。)
ガキとしてはそうだろ、そうだろうよ、毎日毎日、寝てばかり。僕がアギュやシドラにこき使われてるってのに食っちゃ寝し放題みたいなもんだもんなー。
(それは言い過ぎにょ。ドラコの緻密なアドバイスのお陰で何度も窮地を脱したはずにょ。)
窮地を脱するっていうか、人の道をはずれた気がするって方が正しいよね。まさに
虫の浅知恵。
(虫って言うにゃ~。)
まあ、それはいいとして、(よくないにゃ~)
僕らはアギュ隊長のもと、この太陽系第3惑星に於いて任務を遂行中なんだけども
・・・しかし、あのアギュが隊長だなんてさ。考えても見なかったよなー。しかも、しかも元帥様だぜ。あのアギュがねー、なんだかやっぱり不思議だよなー。
(その元帥様にガンちゃん、タメグチきいてるにょ。)
そうなんだよなー。それって、ほんとうはダメなんだよね。アギュが何も言わないからさー・・・シドラが最初はうるさかったけど。今や、なし崩しですよ。査察とかあったらどうしよう?。
(その時だけ、芝居すればいいにょ?)
芝居、ねえ?できるかな。案外、アギュは気にしないだろうけどね。アギュはさー、変わったもんねぇ。なんか、1人だけ大人になっちゃったって感じ?。しかしなぁ、今更敬語なんて使えないよね。
(ドラコもアギュはちょっと気になったにゃ。どことはわかんないけどにょ・・)
なにさ?
(なんというのかにゃ?)
なんだよ?
(よく、わからないにゃ。なんか匂いが変わったって感じにゃ。)
匂い?
(いいにょ。ドラコの思い過ごしにょ。今度、ゆっくりバラキとディスカッションするにょ。バラキの意見が聞きたいにょ。)
まあ、アギュも色々あったわけだしさ。そりゃ、匂いぐらい変わるでしょーよ。
(・・厳密には匂いじゃないのにょ。うまく説明できないにょ。)
そうかい。僕にはよくわかる気がするね。匂いですむんなら、僕のだって変わったはずだぜ。あの時はほんと、つらかったんだから。まあ、ドラコは誰かを好きになったことなんかまだ、ないだろ?。恋を知らない子供には、わからないかもねーだ。
(ドラコだって、ユウリのことでアギュがショック受けたことぐらいわかるにょ!)
まあ、それぐらいは基本、基本。最低でもわからないとね。(ムカにゃ!)
考えてみれば、ここってユウリの生まれ故郷ってわけじゃない。アギュって、ユウリの思い出の中にどっぷり浸かって生きているよね。
ユウリが産まれた家をそっくり買っちまうぐらいだもん。
しかし、まあ、氏より育ちとはよく言ったもんだ。ここに住んでみればさ、ここがユウリの心のバックグラウンドだっていうのがすごく納得できるよね。(んにゃ、んにゃ。)
僕はものすごく、気に入ったよーここ。この神月とかいう土地は最高じゃん?。なんか、ジュラを思わせるのどかさ。飯はうまいし、空気もうまい。人もおおらかで親切っと来たもんだ。今のところ、気に入らないのは虫の(ワームドラゴンじゃないよ)佃煮と納豆ぐらいかな。
(ドラコもだいたいのとこ、気に入ったにょ。)
ひょっとすると・・最初来たときなんてジュラよりも都会かと思っちゃったもんね。
(ガンちゃんのジュラなら確かにそうにゃ。シドラのとこは都会だからにゃ~。)
ムカッ!ドラコは、ジュラに1回しか行ったとこないだろが!?。いーよ、いーよ、どうせ田舎ですよ。イリトにも散々言われたしさ、ふう。
ただしね、この星の方がそんな田舎のジュラよりもだ、実際はまだ何もかも発展途上で混沌としているんだよね。何より星全体がまとまってないし。国家もバラバラだもんね。国連なんて言ってるけど実権は弱いし、一部の地域なんて喧嘩上等のまんまじゃんか。住民の置かれてる世情も環境もさ、場所に寄って違いすぎるよ。いいとこと嫌なとこが混在しすぎだ。
ジュラのまとまりっていうか、安定感、安心感がまだないんだよなあ。
(ふにゃ?ドラコ、わかんにゃいにゃ。それって、どういうことなのにょ?)
例えば、連邦ならさ、嫌~なところは中枢とかオリオンとか解りやすいじゃん。原始星は総じて田舎で平和だとかさ。ニュートロンどもは出世だの名誉だのってギスギス足引っ張り合ってるけど、原始星人は一般的に欲とかなくて目の前の生活を淡々とこなすことに喜びを見いだしてる・・・
(それはそうするしかないからにゃ?)
・・・痛いこと言うなあ。確かに原始人類は野望を燃やしても、燃やしようがないのを最初から知ってるからねえ。原始星政策で人類の遺伝子を温存するために、地元に封じられちまってるからな。産まれた時から役目が決まってる連邦の中じゃ争いなんて起こりようがないかー、ちぇ。
(ガンちゃんとシドラはジュラの出世頭にょ!)
そうだね。でも、ここで打ち止めかな?まあ、いいか。僕は満足。だって、原始星を出られただけでも儲け物だしさ。
(シドラはもうちょっとは出世しそうにょ。)
おい、それって嫌みか?どういうことだよ。確かに、僕かシドラかって言われればシドラさ、そりゃそうさ認めるよ。だけどさ。
(言いたい事わかったにょ。シドラもバラキも出世欲がないのにゃ~シドラはユリちゃんに夢中なのにょ。)
あからさまな贔屓まるだしだよな。僕なんか隅の方でいっつも小さくなってるっての。しかも、姉と弟って設定はどうよ。いくら、宇宙で年令は関係ないっていったてさ。この星じゃ、年功序列だろ?。なんか、立場低いんだよなー。
(ガンちゃんとシドラは同じジュラ出身で外観が似てるから仕方がないにょ?)
そうぉ?そんなに似てるかな。確かにナチュラルでは同じ目と髪の色だけど・・・
イリト参謀の陰謀が感じられる。イリトはシドラのファンなんだろ?アギュが社長ってのは当然としてもさ、なんか依怙贔屓だよな~。
(いじけるのはガンちゃんに似合わないにょ。シドラの方が年長者がどうにいってるのにょ。納得するにょ。)
それはさー、いつもいつも偉そうで人を顎で使うところがあるからだろ。なんたって背もでかいし、押しも強くて迫力満点だからに決まってるんだよ。
おっと。シドラが来たぜ。相変わらず、噂すれば影って感じだな。
「おのれが常につまらん人の悪口を言ってるからだ。」
(バラキレーダーに引っかかったにょ。)
「そんな幼稚な態度だから、弟役なんかにされるのだ。我だって迷惑千万だ。おぬしみたいなのが我の弟だなどとな。ほんとうに身内だったらな、我の弟としてふさわしくなるべく、もっと締め上げているところだぞ。」それだけはやめて、ほんと。
「アギュには正式に抗議したかったのだが・・・これも任務であるから仕方なく我慢したのだ。」
よしよし。まあ、いいや。お互い様ってことで、忍耐強く行こうやさ。それについでだからってことでさ、広報担当としてこの星の感想をインタビューさせてもらおうっと。
(合い変わらず、転んでもただでおきないにょ~)
「ところでどうよ、シドラ?この星、気に入った?」
「我は自分の任地に好き嫌いなどない。」
「またまたー、嘘ばっかり。仕事離れりゃただの人でしょが?」
「任務遂行中の軍人にはプライベートなどないのだ。本来はおぬしもだぞ。」
はいはい、まったくうるさいねぇ。この軍人なりきり陶酔マニアが。
「じゃあ、さあ。さっきユリちゃん達に宿題教えてたの、あれも仕事?。仕事だと思って義務でやってるってわけ?ユリちゃんの世話も?ユリちゃん、傷つくよー。」
(おっ、ガンちゃん一本取ったにょ!)
「フン。そんな些末なことはいい。それより、おぬしアギュとユリの話をどう思うんだ?」
「アギュの話?」(話をそらされたにょ。)
「未知の生物だ。」
「ああ、その話か。もう6年も前の話だけど。」
「それだけじゃない。ここにはまだ他にも、次元生物がいるという話だ。」
「でもさ、同じ次元にいないのなら別に問題ないんじゃないの?。だって、今までの調査員もあまり問題にしてなかったでしょ?まあ、いささか妙な具合になってるけど。」
(なってるのにょ?)
「なってるんだよ!。あの時の例の赤ん坊・・・渡ってちょっと普通じゃないし。そうなると、6年前現れたデモンバルグとかいう奴がいないって思えなくなるじゃないか。実際に確実に見たのはアギュとバラキなんだけどさ。」
(思い出したにょ!黒い渦巻きにょ?おばちゃんに教えてあげれば、きっと喜ぶにょ。)
もうアギュがとっくに報告したさ、おば・・じゃないイリト参謀は大喜び。早速、見学に来るって大騒ぎだったんだから。それをアギュが必死こいて止めたという・・
(なんでにょ?来ればいいにょ。ドラコ、おばちゃんは大歓迎にょ!)
あのねえ~一平卒にあらず文官のお偉いさんがフラフラと辺境の無法地帯をぶらついてていいわけないだろ?あのおばさん(あっと言っちゃったにょ)ときたら絶対、
居座って帰らなくなるに決まってるもんな。そしたら、僕の日常生活はどうなると思うの?管理職の奴らなんて、下をこき使って当然だと思って育ってるんだぜ?仕事だってままならないったらさ。
とにかく、イリトは当分来ないから。オリオンでの今度の総会が終わるまではって、指をくわえて悔しがってたらしいよ。
(そうなのにょ?、残念にゃ。)
全然、残念じゃないって。今にわかるからこの気持ち。
「我もイリトにウロウロされるのは困る。警備上の問題も発生する。手が足りん。」
「おっ、意見の一致。久々だね。」
「正直、我はデモンバルグなどは今だにピンと来ない。おぬしもだろ。バラキのことがなければ、夜迷い事だとはなから相手にしないところだ。アギュの見える世界は我らとはかなり違うからな。」
(でも、この星にはも~沢山の次元の狭間があるにょ。)
「勿論、バラキもそう言ってる。」相変わらず、シドラの後ろに用心棒の先生いるんだね。肩の上がドロドロ渦巻いててさ、不穏な背景背負ってるよ。この星のホラー映画みたいだ。ドラコはともかくバラキはでっかいじゃん?同じ次元でぶつからないの?
(今、ドラコとバラキのいる位置は全然違うのにゃ~ガンちゃんの空間ではすごく近いけど・・・ドラコとバラキのいる空間は微妙に違うのにゃ~ミルフィールみたいに薄く重なってるにょ。)
ふ~ん、そうなんだ~。複雑怪奇。理解できないけど、まあいいや。
「ふふん、我は理解できたぞ。ワームドラゴンは次元に股がって存在するなんてのは朝飯前だということだ。次元なんていくらでもある。何もわざわざ同じ次元でキツキツになってるほど馬鹿ではないと言ってるのだ。次元感知能力は我ら原始体にはほとんどないに等しいからな。頭で理解できたとしても、体感はできない。アギュだったら感知できるがな。それが、臨海進化体の突出した能力なのだから。」
「へーぇ、さりげなく自慢しつつ僕を馬鹿にしてるなぁ。まあ、もう慣れたから、いいや。・・・あれ以後、ドラコやバラキはそいつらしいの見たことないの?」
「ここの惑星の表面の次元はとにかく細かく、小さい。バラキは小さい次元に潜るのはどうやらしんどいようだ。メモリーがでかすぎるのだろう。おそらく、ドラコの方がそういう潜入作業は向いているんではないか?」
(向いてるにょ!隠密ドラコにょ。たぶんそいつじゃない、変なものならよく見てるにょ。)
「えっ?見てるの?何、どんなの見たの?なんでパートナーの僕に言わないのよ。」
(だって言ったってガンちゃんには感じられないにょ?。アギュとドラコが見ているのが同じかもわかんないのにょ。バラキとドラコもたぶん違うにょ。)
「それは能力差ってやつだろう、とバラキが言ってるぞ。」
おい、おどろの向こうでバラキが笑ってるってわけだね。こえ~なぁ。
「それはいいから、どんなのが見えるのかお兄ちゃん達に言ってみなさい。」
(そうにょ~。ガンちゃんもシドラも水の中に潜るにょ?ワームホールもそんな感じするにょ?ここはにょ、その水の中にゼリーみたいなのが一杯浮いてる感じにょ。ゼリーに潜るとモニャモニャするにょ?
(消えたり、できたり忙しいのにょ。)
う~ん。ものすごくざっくりとだけど掴めてきたぞ。
「アギュの会ったデモンバルグではないな。」
「ドラコはアギュの会った・・・非物質生命体とかいうのかな?・・・らしきものならば、ここにきてから頻繁に感じたことあるってわけだね?」
(あるにょ。お日様とか当たると葉っぱの裏とかにキラキラ遊んでるちいさいのとかいるにょ。ああいうのってジュラにも少しいたにょ。)
いたんかい?ちっとも気がつかなかった。
「チェラというものだ。」
「それはおとぎ話の中の妖精だろ?子供の時は信じてたけど・・・まさか、本当にいるなんて・・・ねえ?」
「心の奇麗なものにしか、見えないというな。」
「シドラだって一緒だろ!」
(ほんのちょっとしかいないにょ。ジュラは人間以外に生きてる生物が少ないからだと思うにょ。ほとんど砂か岩ばかりにょ?こんなに生物にあふれて複雑なバランス構造の星はめったにないってタトラが言ってたにょ!)(難しい言葉もドラコ言えるにょら)(ここではパワーとか熱を出しているものの側にもよくいるにょ。妖精さんにょ。ここではドラコもそういうものだと思うにょ。)
いやいや、違うだろ~。
ここの妖精さんってもっと儚くて可愛いイメージだもんね。
(ここはどんなものがいてもおかしくない感じがするにょ。)
無視かよ。そうかとにかくもしも、見かけたらすぐに教えてくれよ。なんと言っても僕にはわかんないしね。よろしく頼むよ。
(いいにょ。でも、渡に聞いた方が早いかもにょ?)
(渡はお化けとか見るって言ってたからにゃ!)
「渡か。竹本の子供だな。ユリは赤ん坊の渡をよく面倒みていたな。同い年になった今も仲良しだ。・・・デモンバルグは渡を追って来たようだとかいう話だな。」
(「そうそう。そもそもさ。ユリちゃんがいたってこと自体が驚きじゃなかった?」
「事故死したクローンを望むことは普通だ・・・まあ、あのアギュが子育てする覚悟をしたことは・・・確かに我も驚いた。」
「罪悪感なのかな。でも、ユウリには身内がいないのになんでクローンの許可が下り たのさ?」
「ユリは完全体クローンではないと聞いたぞ。」「誰から?」「イリトが説明してくれた。」
「ちぇっ、ずる~!僕は事前に何も聞かされなかったぞ。このおばちゃんキラーがっ!」
「失礼なこと言うな。日頃の行いの違いだ。イリトの話では、ユリはユウリの保存されていた細胞とアギュの細胞から造られているらしい・・・禁為の技術だ。」
「って!、アギュもずるくねぇ?やりたい放題だな、臨海進化体!」
「おそらく、臨海進化実験の一環なのだろうな。」
「・・待てよ、そういうことなら僕との子供は無理か?」
「バカか、ユリの遺伝子はサンプルだからまずむりだろうが。」
「ちぇっ!汚ねぇな~元帥様はよ~」
「・・いいばかりではないぞ,ガンダルファ。おそらくユリはここから2度と連邦へ戻ることはないはずだ。」
「・・・!。そうか、そういう条件で許可されたのか・・遺伝子実験の子供が研究所から出ることがないのと一緒ってことだね。それならあり得るのか・・」
「もしも、我らがここを引き払う事態になったまら・・イリトは口を濁したが、確実にユリはここに捨て置かれるはずだ。」「そりゃ、ひどい!そりゃないよ!」
「臨海進化体でも従わねばならぬ、それが連邦の原始体保存法だ。」 )
「それはさておき、渡の産まれた時の奇妙な話のことだったよ。ユリちゃんだって、そいつの存在を感じたらしいしさ。そう言われて見るとさ、渡はさー、なんか違うぜ。わかんないけど、どっか普通じゃないよ、妙に落ち着き払ってる気がする。子供にしては。」
「おぬしが落ち着かなさ過ぎるから余計に、そう感じるとしてもだ。我にはよくわからんな。普通の子供に見える。成長が抑制されて言葉が遅れているユリと較べて見てもだ・・・この星の子供としての発達に特に異常なところはないはずだ。」
( 「ところで、どうしてアギュはユリちゃんを成長させないんだろうね?」
「我が知るか。あやつはもともと、変な屈折した愛情の持ち主だからな。
ユウリの時といい。我は奴のことをまだ全面的には信頼していないのだ。」
「ああいう子供ってさ、5年を半年ぐらいで細胞を作ってるわけだから、
ちょっと抑制したほうが体にいいのかと僕は思ってたんだけど。」
「・・・あやつが、そういう思考の持ち主だったか?」
「確かにね。前はそうだった。だけど、変わったからさ。」
「猫をかぶってるのかもしれない。」 (にゃにゃ~んにゃ)
「一度、聞いてみたらどうだ?」
「えっ!やだよ。アギュにだろ?なんだかんだ言ったって上司だし。あいつ、昔はすごい根に持つタイプだったじゃん。」
「変わったって言ったのはおぬしだろ。」
「その点は変わってないかもしれないじゃないか。」 )
「ふーん。だとすると渡の問題のある所って、お化けを見るってことぐらいじゃん?」
「あのな。だいたい魂だの、お化けなどと言う観念は宇宙人類にはないものだ。理解ができん。原始星人類は星によっては差があるがな。最近は生物の残留エネルギーであるとか、精神流体とかいう科学的な捕らえ考え方に変わって来ている。精神流体は脆いもので肉次元を離れると形を取ることが難しいものだとされている。だからだ、精神流体が元気に飛び回って死んだ肉体に入るなど言う話は聞いたことがないのだ。似たものでは・・・古代に開発された電磁システムに入る人工的な疑似エネルギーならともかくな。渡に入ったものはどこから来たのだ?」
「そんなこと検討もつかないよ。そんなことより、ジュラにもさあ、お化けとかいたんじゃないの?。僕は見た事はないけど今だって信じてるよ。」
「そんなことを口にするから我ら、原始体が下等に見られるのだ。産まれてから宇宙しか知らない人類と惑星で育ったものの違いなのだろうがな。我は幽霊など信じたことはないが、我の乳母はよく話してくれたものだ。しかしジュラでだって死んだものは、その辺をウロウロせずに宇宙に飛び去ると決まっている。遥かな神のゆりかごへだ。」
シドラって、乳母がいたの?どんな育ちだよ、似合わね~。
(渡はドラコが多分、見えると思うにゃ。ユリちゃんも見えるけどにょ、ユウリも見えたから不思議じゃないにょ?)
「ふんふん、それだけでも普通じゃないもんな。」
「そういう者はこの星では霊感があるとかいうらしいな。綾子がそう言ってた。」
「綾子って・・・渡の母ちゃんを呼び捨てすんなよ。誤解されるぞ。」
「女同士で何が誤解される?この星はオリオンの中枢ではないぞ。古風な土地だ。」
(シドラは相変わらず、女性にモテているのにゃ~ガンちゃんとはダンチにょ~)
うるさいよ。ドラコ、渡の目の前をうろちょろしてないだろうな?おとなしく隠れてろよ。
(してないにょ。赤ちゃんの頃は確かに見られてたにゃ~記憶がないと思うから大丈夫にゃ)
でも、たまに離れに来て鼠がいるんじゃないかって騒いでたな。なんか、気配するみたいだぜ?
(鼠とは失礼にゃ。)
「ガンダルファ、我は明日からアギュと共に国外に行く。おのれはここでユリや渡をしっかり守るのだぞ。まあ、タトラが付いてるから大丈夫だろうが。」
「あ、またむかつく言い方。」
(ガンちゃん、ドラコも付いてるにょ。)