MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8  ベラス・スクール-3



アギュはなかなか機嫌を直さず、夜のピクニックは僕らだけの日々が続いていた。惑星に行かない時、僕らはスクールの回りで追い駆けっこしたり、生徒達の居住空間に忍び込んで隠れんぼしたりもした。カプートも来たり来なかったり。勉強が忙しいとか言っていた。
それで、仕方なくシドラ・シデンとキャッチドラコをやってみた。シドラは別に嫌がらず、かといって喜ぶでもなくたんたんと玉をこなした。シドラの球は重い重量級だ。さすがゴリラ並みの握力を誇るだけある。しかし、怖い顔で無表情でやるんでこっちの気分が盛り上がりようがない。そこそこ動きもいいがカプート程の縦横無尽の反応は望めなかった。僕が相手では、やる気がでないだけかもしれない。だって、ユウリとやるととても楽しそうだし。
ユウリときたら、誰とやってもはっきり言ってバトミントン状態。空振りしてはキャーとかイヤーとか言って、生き生きして可愛いから下手でもなんでも許す。
バラキまでやりたそうな雰囲気があるもんね。でも、それは無理だって言っといた。
どうしたって、カプートがいないと僕はなんとなくストレスがたまってしまう。特別クラスでは体を動かすのも一苦労だもの。スポーツ好きには耐えられないよ。
授業だってスクールの監視体制を知ってしまった今は、現実の中じゃ心から馬鹿ができない気分だもの。

言うまでもなく特別クラスと言ったら、もう特別に監視されているクラスと言って間違いないんだ。その上にニュートロンの焼きもち焼きと差別主義者がまわりにたくさんいて、目を光らせてる二重苦、三重苦。なんせユウリはソリュートで有名人だったし、シドラ・シデンはでかくて目立ちまくりだったしね。
(まさにクラスにそびえ立っていた。しかし、シデンファンが遠巻きながら特別クラスの女子の中にもかなりいたのには驚いた。これは僕もかたなしだったよ。)
とは言え、新参者の僕は二人ぐらいしか知り合いがいなかったから他に行動を共にする人がいなかった。それだけでも、痛いぐらいの視線を感じたもんだ。いやーなありがたくない、そんなスター気分。
そんなだから二人やカプートと思いきり本音で話せる、夢の時間は僕にはとっても貴重だった。ユウリの話によると、アギュはずっとふてくされてるみたい。現実でも授業に出てこなかった。
その上でさらなる嫌がらせにアギュは出た。昼間のユウリを自分の手元に置いて、なるべくスクールに出さないようにしだしたんだ。
おかげで僕はシドラ・シデンとお互い、気の乗らないおしゃべりをする羽目になる。
シデンファンの年下の女の子達に睨まれたり、その中の一人と仲良くなりかけたり、それがばれて今度はシデンに思いきり軽蔑されたり。

(シドラはガンちんとは正反対のタイプにょ!)いやはや、今も昔もストイックな奴だからまったく、やんなるよ。(手本にするって話もあるにょ)そんなことしたら、僕が僕でなくなちゃう、それでもいいの?(ん~それは困るかにゃ?)よしよし、愛うい奴じゃ。

まあ、とにかくいい憂さ晴らしだったよ。勉強に息詰まり気味の僕としては。ニュートロンの女の子達には冷たくされても、めげずにトライすることが大事なんだと言うのがわかっただけでも、僕の方のトラウマはかなり癒された。
シドラ・シデンは女の子との付き合いが苦手で、面倒臭いらしいという点を除けば同じジュラ出身だから共通点もあったし。
まあ、サバサバしてわかり易いし、言われたことを気にしなきゃ結構いい奴じゃん。馬が合うっていうか、ワームが合うっていうか。

(ドラコもバラキと仲良くしてみたにゃ!)
そうそう、苦手克服!努力が一番!
(結構いい奴にょ!)そうだろう、そうだろう。バラキにも僕がそう言ってたって言っといてね、よろしく!(自分で言えばいいのににゃ~)

アギュは昼間のユウリを僕らから取り上げて、溜飲を上げたかもしれない。
しかし、ユウリがアギュに呼ばれて授業にも出ないことをケフェウス教官やニュートロン達は喜ばなかった。アギュは相変わらず、他の人には心を開かずほとんど話もしなかったから。シドラ・シデンの話によるとユウリは惑星で行われていたソリュートの実験もすっぽかしたらしい。
「スクールでは実験ができないからな。だが今さらアギュに文句言うのも、なんだと思うがな。もともとケフェウスはユウリを惑星に行かせたくはなかったのだ。」
「ケフェウス教官が?なんで?」僕は不思議に思う。
「惑星に行くと所長がユウリと会う可能性がある。」
意味深なシドラ。「臨界進化体と一番親しい生徒に所長が会いたがらないわけはない。」
「会ったことないの?」白と金色の面影がかすめる。
「夢以外はな。」鼻をならす。「ケフェウスが目を光らせている。」
「あやつはどんなささいなことでも、イリト・ヴェガの望みは叶えたくないのだ。」
だけど、そんな教官室への呼び出しもアギュが行かせなかったとか。
アギュがますますユウリに固執してるなんて噂がまたも広まってしまった。
これには僕もシドラ・シデンもまったく為す術がなかった。

全部、アギュが悪いんだ。(ユウリ可哀相にょ?)まったくだよ。
嫁入り前の娘の評判を落としまくってさ。

しかし。
ユウリは自分の評判なんかまったく気にしなかった。ユウリは僕らには包み隠しもなく二人で昼にしているゲームや議論の話をしてくれたし、それを聞くとアギュって改めてガキだなあと感心してしまった。12歳からいくつも年を重ねていない、500歳。
それに、二人が完全に二人きりになる時間は就寝前に彼女がソリュートを弾く時だけだってことを僕はシドラから聞いて知っていた。アギュにはニュートロンのお付や世話係が常に付いていることとか。だからほんとは、勝手放題な口さがない噂よりも実際はかなり少ない時間でしかなかったんだよね。

そして、何故かアギュは突然機嫌を直した。
もともと気分屋だと思っていたから僕はあまりに気にしなかったけど。
ある日唐突に、彼はピクニックに戻って来た。多分、喜んだのはユウリだけだと思う。
相変わらずのハイテンション。相変わらずの嫌み。
「なんでしょうかね?なにかあったんでしょうか?」
カプートだけはアギュの上機嫌をとても気にしていた。
「カプートこそ何んで心配してるの?」
「ぼくが参加することがずっと、許されてるからですよ。」
「僕らはユウリが呼んでんでしょ?」僕には疑問がなかった。
「そりゃまあ、ユウリがアギュに、お願いしてるからかもしれないけどさ。」
そう思うとちょっと不愉快。カプートがさらに落ち込ませるようなことを言う。
「だってアギュが本気で嫌がったら、ユウリはぼく達を呼びませんよ。」
「まさかー。」僕は厭な気分で絶句した。
「本当です。残念ながら。」彼は髪を気取ってかき上げる。ふざけてんのか?。
僕はふてくされた。「それはどういう、データの組み合わせからなんだよ。」
「これはぼくの勘ですね。」
「全然、物理じゃねーじゃん!」
「物理はすべからく推論、つまり勘から始まるのです。」カプートはもったいぶる。
「あとはそれを証明するだけと言うわけです。」
「証明できるんかよー!」僕はつい噛み付く。
「公式でも作りましょうか。」からかわれていたのにやっと気が付く僕。
「なんだよー!」カプートもニヤリとする。
「でも、本当に公式化できるか、やってみたらおもしろいかもしれません。」
「やめて。お願い、頼むから!。」
二人でこづきあいながら笑いあう、そのすき間をドラコがにょにょとじゃれまわる。器用なワーム。
ふと目を上げると遠くからアギュと目があった。アギュはプイと横を向く。
隣のユウリが困ったような表情で謝る仕草。何もユウリが謝らなくたって。
側に控えるシドラ・シデンはあきらかに面白がっている。
カプートと又、ボールを投げ合いながらも実は僕の心中はおだやかではなかった。
さっき、カプートに言われたこと。それが、どうしても気になった。
それはどこかで、ほんとにそうかもしれないと思ったからだった。

その日、僕とカプートは一日無視され続けた。
アギュに無視されたって僕は平気なんだけどね。
でも、カプートがアギュが近くに来ると引き気味になるのが僕にはわかった。
だから、僕もその日はアギュにはかかわらないことに決めた。
シドラ・シデンが果敢にもユウリの悪い噂のことを抗議した時はさすがに一言、参加したかったが、そんな隙も与えないアギュが
「勝手に、言わせとけ!」とまったく取り合わい。
そりゃ、アギュは自分が何をやっても非難されることがないから、いいんだろうよと遠くで聞いてないふりして恨めしく思う僕。

なのに。
ユウリときたら、アギュのひたすらオレ様な会話にいつまでも辛抱強く付き合っている。しかも、おもしろそうに笑ったりうなづいたりしてるのだ!。聖母のような微笑みを浮かべ、アギュに話の続きを促したりしてるの彼女を見ると、アギュの話はユウリにとって大変価値のある話題のように思われて、僕の心は乱れた。
しかし、それよりも気になったのは常にユウリの側にいるシドラ・シデンだった。シドラの振るまいが僕にはとても不可解に思えた。シドラはユウリに付き合って話すでもなくいつも二人の側にいる。アギュがいると、ドラコボールにも加わらない。だいたい、あんな退屈なアギュの話を黙って聞いてるなんてシドラに似つかわしくなかった。それが好きとはとても思えなかったのだ。
僕だったら、絶対に絶えられない。チャチャも突っ込みも入れずになんて不可能に近い。
だから僕は、シドラはアギュを監視しているのかな?と漠然と思ったものだ。スクールで聞いた教官達の会話を思い返す。つまり、スパイってこと。
それもシドラ・シデンに似合わないけどね。
ある意味、それはどっちも当たっていたわけだ。

勿論、その真相は後日明らかになるわけだよ。
(ドラコそれ、しってるにょ!言っちゃダメかにゃ~?)ダメ!

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8   ベラス・スクール-2



「我もぬしを完全に信用はしてない。」
シドラ・シデンが僕の気持ちを代言するかのようにカプート言う。
「しかし。我の行けないところでは、おぬしに頼むしかない。」
苦虫を噛みつぶした表情。カプートは黙って頭を下げる。
ってことは、シドラは知ってるんだな。僕以外はってことか。ちぇ。
ユウリは困った顔してそんな僕とシドラを見つめたが何も言わなかった。
「ぼくもソリュートを習っていたんです。」
僕の不満が目に現れたのか、カプートがやんわりと引き受けた。
「かつてソリュートの学科は月に3度、惑星で行われていました。」
「そうなの。これはと言う素質のある人を捜す為に。」
「スクールの全面協力で。」
二人の間に素早い目配せがあったような気がしたのは気のせい?
「じゃあ、カプートもソリュートが弾けるんだ?」
「いえ、ぼくは」悲しそうに「素質がなかったようなのです。」
「惜しかったわ。」ユウリが肩を落とす。「期待の星だったのに。」
「そういえば、我もダメだったな。」シドラも参加。
「残念だったわ。ほんと、期待の星だったの。」涙を拭く仕草。
なんかからかわれてない?僕。ちぇ!
「・・じゃあ、いいや!」僕はやけくそではしゃぐしかない。
「今は聞かないよ。それより、もう一勝負どう?」
面倒臭い時もこれに限るってね。

(ガンちゃん、えらいのにょ~)
ほえ?何が?(カプートにはしつこくしなかったにょ?)
ああ、それか。本人が進んで言いたくないことを無理強いするのはどうかと思っただけだよ。そりゃ、僕だってめちゃくちゃ、気になったけどさ。その時は、きっといつか話してくれると思ったしね。
(そういうとこガンちんの唯一の良い所にゃ?)
ごるぁ、他にもあるだろうが!怒るどーっ!(にょ~っ!!!)

その日の帰りしなのことだった。
「どうかしたの?シドラ」ユウリがバラキの上で心配そうに尋ねる。
「ん、いやな・・」シドラはバラキに寄せていた体を起こした。
「ワームと内緒話ですか?」
僕の腕の中でドラコがんにょ~んと吠える。
「どうしたの?ドラコ?」
「気のせいかもしれないが・・」シドラも不可解そうな様子。
「惑星でバラキがアギュの気配を感じたというのだが。」
「アギュ?」
「アギュが来てるの?」ユウリはあわてて回りを見渡す。そんなに喜ぶなよなー。
僕もドラコを見る。ドラコはにゃにゃと首をかしげる。
「いないんじゃないの?」いたら、テンション下がりまくりだよ。
「もうここでは感じないそうだ。」
僕らは足下に迫る宇宙ステーションを見た。スクールは平穏な様子。アギュ・ルームが光ってるのも透過して見える。
「勘違いじゃないの?」
「バラキも確信はないと言ってる。」
「ひょっとして、ぼく達とは違う次元を使えば可能かもしれません。かなり離れた次元ですが・・アギュがそこまでできるなら・・」と考え深げにカプート。
「覗きだ、きっと。」僕は容赦しない。
「実はどっかで見てんじゃないの?あいつのやりそうじゃない?。」
「やらないと断言はできないが。」
「アギュはそんなことしないと思うけど。」
ユウリだけがアギュを弁護する。カプートは考え込んでいる。
「アギュは思った以上に臨界化が早いのかもしれませんね。」
「まあ、そこまで暇じゃないかな。」僕は話題を変えた。
「それより、いよいよ明日こそ僕のクラスデビューだよ。特別クラスってどんな感じ?」
「覚悟しておけ。」即座にシドラが応じる。「いけすかない。」
「勉強がとても厳しいわ。スポーツはほとんどないの。」
ますます憂鬱になりそうだよ。
「ひとつ、いい点がありますよ。」
カプートがスクールのドーナツの回りに張り出したチューブを指さした。
「無重力リングを使用できますよ。」
「ああ、あそこはいい。」シドラも笑う。「かなりの運動になる。」
ユウリもすかさず付け足す。
「それに、監視もされずらいの。」
僕は透明なチューブ状の回転してるデッキを見た。ここは無重力の訓練が行われる場所だから、授業でしか使用したことはない。僕の好きな授業のひとつだが、一般の生徒にはとても回数が少なかった。ここが使いたい放題なんて、ちょっと楽しみ。
「いいとこあるじゃん。特別クラス!。」
気持ちが前向きになる。単純だなー僕も。(それでこそ、ガンちゃんにょ!)

そして僕は次の日、一日遅れで特別クラスに移ったわけだ。
「ガンダルファ、こっちよ。」
だだっ広い心細い教室の中でユウリが笑顔で手を振ってくれた時は、ほんとうれしかったな。回りがオッと僕に注意を払うのがわかったので、ちょっと誇らしい。スターの友達ってわけだ。
「お久しぶり!ワームは元気?」
「はい、あの時はありがとうございました。」僕は話を合わせる。背中でにょ~ と相づちの声。勿論、僕とユウリにしか聞こえない。
咳払い。シドラ・シデンが隣にいたので僕はそちらにも最高礼のご挨拶。
シドラに「フン!」と言われながらも二人と並んで座ることに成功。
なんかみんな僕らを遠巻き?ちょっと浮いてるデカイ集団だ。
「わからないことがあったら聞いてね。」
体調最高の現実でマジカで見るユウリはやっぱり、最高にかわいい!髪に付いた記憶端末器に赤い星が付いている。目に鮮やか、よく似合う。ピンクのスーツに映えている。自家製みたい。裁縫なんて原始星の遺物だとか言われてるけど。手先の器用さの現れだ。
ユウリと並んで授業なんて、マジ幸せ過ぎて怖いぐらい。シドラ・シデンにいくら鼻を鳴らされたって平気だっての。

だけど、世間的には出世とみられるこの出来事は、予想外に僕にとって試練となった。
なぜなら、特別クラス入りした僕にかつての上級クラスの仲間たちは一様によそよそしい反応をしたからだ。ワームが授からなかった彼等の何名かはもうすぐ、卒業することになっていた。大半はジュラに帰って高級官僚になる道を進むらしかった。僕はあからさまな羨望と反感をぶつけられた。僕はもう、彼等に歓迎されていなかった。
かと言って、特別クラスにも何人かの原始星出身者がいたが気の合いそうな奴は一人もいなかった。まったくシドラの言った通りだ。
ご挨拶がてら一人一人と注意深く話をしたが、彼等はみんなやせっぽっちで体も心も余裕がなく、ひたすら勉強だけに夢中だった。(勿論みんな僕とは宗派を異にする。)
ユウリとシドラとも積極的に付き合いたい様子もない。カプートみたいに運動にも素質を持ってそうな奴なんか、もちろん誰もいなかった。
特別クラスと言っても準クラス5つを含めて800人ぐらいいたけどね。
いないとは予感してはいたが、実際にカプートがいなかったのは僕にはかなりショックだった。
しかし、卒業した若い特待生も働いてたから、当時の僕はカプートはそっちなのかと考えていた。僕たち、生徒が入れないエリアには教官に教師、講師とか監督とか医療者に指導者、学科研究者とか助手とか、もうウジャウジャいたからね。

(いたらドラコがわかったにょ~)僕だってわかる自信あったんだって。
(なんでにょ?)雰囲気とか、体格とかさ。彼の筋肉は本物だったもの。
(キャッチドラコは本格スポーツにゃ!なめたらダメにょ!)その通り。

GBゼロ-8

2007-09-26 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8



            ベラス・スクール

翌日、アギュはピクニックに現れなかった。
体が寝静まった後、僕の意識はシドラ・シデンに起こされた。
「ご機嫌斜めらしいな。」上機嫌で開口一番。
「昨日の今日だからな。」
ユウリが何度も呼びかけても彼は光り輝く自分の部屋から出て来なかった。アギュの部屋の回りは臨界進化体の肉体の方を逃がさない為に最高の次元バリアーや電磁結界が幾重にも張られていた。そのせいなのか、アギュが拒否してるのか、肉体がない僕らにも彼の部屋には入れなかった。
「ぼくがいるからではないのでしょうか~」
帰ろうとするカプートの精神をみんなが引き止める。特に僕。
「カプートの所為じゃないわ。」ユウリが未練たらしくアギュの部屋をまだ見ている。
「あやつは甘やかされている。」
「たまにこんな事、あるの・・彼は傷つきやすいのよ。」
「500歳の純情ボーイってわけかー、たち悪そう。」
「もう、ガンダルファたら。あなたが彼をいじめるからでしょ!」
えー!どちらかと言うと昨日、殺されかけたんですけど・・カプートだっていじめられてたような・・僕が怒られちゃうの?    (ガンちゃん幸薄いにょ~)
「で、どうしますか?今日。」今日のカプートは眼鏡がない。でも、髪はボサボサ。
「もちろん、行くっしょ!」僕はアギュに八つ当たり。「惑星にゴー!」
「我は構わんが?」後ろに目もやる。「バラキもな。」
「そうね。」と、小さなため息。「行きましょうか。」
やっと、ユウリはアギュルームから目を離した。

僕にとっては、2度目の楽しいピクニック。アギュなんかいなくても、僕にはまったく問題じゃない。と、その時、僕はギョッとした。思わず、近くにいたシドラ・シデンの腕につかまってしまったんだから、不覚としかいいようがない。
「おぬし・・?」シドラはドスの利いた低温で不快そうに唸った。
「あれ!あれ見てよ!」僕は夢中で振り返る。「ゆ、幽霊?」
ユウリとカプートがポカンとし、すぐに納得したように笑った。
「ああ、あれね。」
「あれは大丈夫ですよ。よくあります~」
僕が見つけたのは、薄ぼんやりとスクールの回りに浮かんでいる影だった。
「なんだ!」シドラが爆笑した。「あれが怖いのか!」
し、失礼な奴。でも、その時の僕は必死。「なんだよ。あれって!」
「あれは他の生徒の精神流体ですよ~。」
「ほら、他にもピクニックに参加できそうな素質のある子がいるって言ってたでしょう?」
ゆうりは憂い顔を忘れてニッコリ。
僕はぼんやりとした影がフラフラと彷徨っているのを改めてよく見てみた。よーく見ると確かに人の形、子供らしき顔が見分けられた。
「じゃあ、こいつも僕らみたいなの?」
「それは違うな。」シドラ即答。
「おい!ちょっと、君!」僕は構わずその子供に話しかけた。体を掴もうとするが手は素通り、何も掴めなかった。シドラの腕は掴めたのに。
「同じ夢でも私達とは階層が違うのよ。」ユウリが寂しそうにつぶやく。
「努力して同じチャンネルに合わせないと一緒に遊べないわ。」
そういう子供がいくつか、行き場もなくスクールの回りに浮かんでいるのが僕にも感じ取れた。ジュラの夢を繰り返し見た入学当初がふいに胸に蘇ってきた。
「彼等に話しかけても無駄です。彼にはぼくらが見えませんし、声も届きません。」
「当人は夢の中にいる自覚しかないだろう。」
「チャンネルってさ、僕らは合わせられるの?」
「できると思うけど・・」ユウリは言いよどんだ。
「でも、できないわ。ガンダルファも聞いたでしょう?」
「アギュさんが嫌がるからです。」カプートがキッパリと言う。
「そうなんでしょう?ユウリさん」
「アギュが心配してるのは人が増え過ぎると気付かれやすいからなのよ。けしてお山の大将でいたいからだけじゃないわ。」
シドラ・シデンが意義を唱えて鼻を鳴らした。僕もそれに大賛成。
大勢でつるむのは僕だって好きじゃないが、ユウリが熱を込めてアギュを弁護するのは聞いて楽しいわけない。
「言っとくがな、バラキが待ってる。」
僕らの上で赤い目が瞬く。
「バラキさんは待たされるのが大嫌いなんでしたっけね~。」
カプートは巨大な闇に向って大胆に敬礼した。

なんとなく惑星でも、アギュがいないとみんなが生き生きしている気がしたね。
ご機嫌なシドラ・シデンがユウリと話し込んでる間、僕はまたカプートと心置きなくドラコボールを始められたし。
ユウリも気になったが、僕にとっては体を動かす感触はバーチャルでもあらがいがたい。現実では寝相による筋肉痛で欠席中なんだけどね。
肩慣らしの後、カプートがノソッとつぶやく。
「アギュは焼きもちをやいていたんですよね~」
「焼きもち?」僕はポカンとした。「誰に?」
「ぼく達ですよ。」カプートはドラコ玉を空に放り投げてキャッチした。
ドラコはんにょんにょと喜ぶ。
「アギュは産れてから一度も、誰かとキャッチボールなんてしたことないんでしょうね。」
カプートは少し寂しそうに笑った。不思議な奴。アギュなんてどうでもいいのに。
「そうか。優しいんだな。」
「違いますって。誰もが推察可能な歴然たる事実です。」
カプートは肩をすくめた。
「彼はずっと友達なんて持ったことないんです。特に同年代の男友達は、一度もね。」
5歳でスクールに連れて来られ、大人の研究者の中で育ったアギュ。
僕はそれを聞いて少しだけ、アギュがかわいそうになった。
アギュがそれを聞いたら、きっと怒り狂っただろうけど。
それより、試合、試合!

「・・ところでさ、厄災の星って何?」
小休止の時、聞いてみた。
「ああ、あれですか?」カプートは草にぺたんと座りこともなげに言う。
「オメガ=スパイロのことですよ。有名でしょ?」
「ああ、アギュの誕生した伝説の星とか。」
「今や、存在そのものが伝説ですけどね・・」
カプートの声には珍しく皮肉な調子がこもった。
「アギュは昔も今も大いなる厄災と呼ばれています。」
その話は僕も聞いていた。アギュの所為で住民バラバラとか言う、気の毒な噂。
「お前もそこの出身なの?」
「ええ・・まあ。第4世代だから、スパイロの土は踏んだことはないけど。ぼく達はみんな親がいないんですよ。知ってますか?ニュートロンみたいに、原始人類なのに人工繁殖なんですから。」カプートはイライラと髪に手を突っ込んだ。
「ああ、慣れないな!夢なのに!この髪形!」
「それって、お前がそんな変装してるのと関係あるの?」
「あ、わかりますか?」
「わかるっての、コメディみたいじゃん。そんなカッコ。」
「カプートに入れ知恵したの、あたしなの。」
振り向くと他の二人が立っていた。シドラはニヤニヤしている。
「ちょっと、凝りすぎだと我も言ったろ。」
「どうしよう、アギュも気が付いていたかしら?」
「気付くでしょ、普通!」僕、バッサリ。
「アギュはもともと自分以外は関心がない。」
シドラが慰める。
「ほら、この目です。」青の縁取りが入った緑瑪瑙のような瞳を指さす。
「スパイロの人間の特徴です。オメガ-θの星系の中でも特に、惑星スパイロの住民
90%にこの縁取りがあらわれます。」目の前に腕をのばす。
「肌も髪も青の色素が強く出やすいんです。惑星の成分の影響ですよ。アギュも青い光が強くでてるでしょ?。きっと関係あるんですよ。」
「そうか、それならアギュならひと目で気が付くってことか。」
「あやつは人の目なんか見ないぞ。」尚も固執するシドラ。
「・・あいつ、厄災の星って聞いたら固まってたよね。」
「スクールの初期にはここはスパイロから連れて来られた子供達の研究施設でした。親達は研究所で・・引き離されたんですよ。それを恨まない子供はいないでしょう?連邦を憎むより、一緒にいたアギュを憎んだ方が簡単です。その時に彼はかなり、色々言われたみたいですね・・彼が引きこもったのはそれが原因でしょう。」
カプートがボソッと言う。
「なんせ大いなる厄災だからな。」シドラは片眉をあげる。
ユウリは沈んだ顔になる。
「口に出さなくても恨みは伝わるわ。まだ幼かったアギュにはすごいストレスだったはずよ。」そんなアギュを起こしてしまったことをユウリは後悔してるのだろうか。
「あの人が今でも人に攻撃的な態度を取るのは、そんなトラウマがあるからよ。人を傷つけるのは、逆に傷つけられるのを恐れているから。だからスパイロの名前は彼の前ではタブーなの。アギュはああ見えて、意外に繊細なんだから。」
へーさすが、純情ボーイだけのことはある。
「でもさ。いつまでもそんなにまわりが庇ってやる必要あんの?」僕、ちょっと意地悪。
「もっとたくましくならないとさ、これから先ずっとやっていけないじゃん。」
彼の場合、本当に永遠に子供のままだってありえるんだから。それってどうなのよ?
「ほら、もうガンダルファ!
お願いだから絶対、アギュの前ではそんなこと言わないでよ!。」
うーん、そんな目でお願いされちゃうと・・ユウリに嫌われるくらいなら言いませんよ。
「口がさけても。」僕は誓った。
「ぼくもどうかしてました・・ぼくは恨みなんて持ってないと思っていたのに・・そんな世代は、ぼくの曽祖父の時代ですから。」
「曽祖父?あでも、スパイロの人間は親がいないって言わなかった?」
僕は無遠慮に突っ込む。
「書類上はいますよ。一緒に暮らせませんけどね。すべて管理されてますから・・」
「いつ臨界進化しないとも限らないからな。」むっつりとシドラ。
「ええ。初期はまだ、連邦政府も何が起こってるのかわからず、事態を把握しきれなかったので緩やかでしたが。前の前の臨界体ぐらいから・・もう徹底的に。どの種族も未だに、それぞれ管理下に置かれています。」
辺境のジュラは原始星の中でも始まりの人類から離れたDNAの位置づけに置かれている。当然、臨界進化なんて出したことはない。そんな星出身の僕にとっては知らないことだらけ。カプートの星は、始祖の血がもっと濃いはずだった。
「別にスパイロだけが特別じゃない。臨界進化が出てしまったら、当たり前の事なんです。アギュ当人を恨むのは筋違いなんです。でも、わかったつもりでもいても、つい口を出てしまったんです。アギュをとっちめてやりたくなった・・まったく・・ちゃんと消化できてなかったのかもしれませんね。」ため息を付く。
「ぼくも大人げない。」
大人げないって、お前いくつなんだよ~。
カプートのつぶやきを僕は聞き逃さなかった。
「例えアギュから絡まれたとしてもだ。」そんなカプートの背中にシドラの片手の喝が飛ぶ。「おぬしはしっかりせねばならん!」とっても痛そう。
筋肉痛になるくらいだから痣にもなるよね、きっと。ププッ。
僕は顔をしかめてるカプートに向き合った。
「あのさ、カプートって実際はいくつなのよ?」
「それは・・」
「ガンダルファ、お願い。」ユウリが僕の肩に触れる。
「その事は今は聞かないであげて・・」
「ユウリ・・?」
「あなたが信用できないわけじゃないのよ。アギュはあなたの思考のほとんどを読んでしまうみたいだから・・知らない方がいいと思うの。」
つまり・・僕が丸見え君だから?ってこと?
「うわーショック!」
「そのうちコントロールできるようになったら教えますから・・」
カプートがすまなさそうに言う。んにょんよ? とドラコがおもしろそうに覗く。
「ただ彼は、カプートは悪い人じゃないから・・信じて。」
「ありがとうございます、ユウリさん。」
カプートのユウリを見る感謝の眼差し。ユウリは口を引き結んで真剣な眼差し。
なんだよ。ユウリにこんな目をさせるカプートに嫉妬!
僕って手当たり次第に嫉妬し過ぎ?。

(純情ボーイなのにょ)殴るぞおい。