MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルフォー-37

2018-03-22 | オリジナル小説

見守るもの

 

 

活躍ができなくてご機嫌斜めなシドラ・シデンに連れだされた切り貼り屋とコビト、そして裕子は上空から風俗ビルが何度か光るのを見下ろしていた。これは夢かしら?と少し落ち着いた田町裕子は先ほどから思考を止めようと試みている。それなのにハヤトが死んだ時には難なくできた己の思考が今度は自由にならなかった。

『ここは・・・UFOの中なんだって・・・この人たちは宇宙人なんだから。そうよ、そうよね、コビトの言ってた通り。』手の先にある温かい繋がりの持ち主、傍にいる子供に目を転じる。『この子もそう・・・宇宙人なのよね。私のものではない・・・決して。』

ああ、だけど、それにしても。

先ほど、この子と心が一つになったのだ。それはまるで本当の親子以上だった。その瞬間から、いくらも経っていない気がするのに。心地よい夢から未練たらしく覚めたみたいに、今は虚しい。コビトのことを考えただけでも胸が詰まる。

視線が傍にそれ、そのまた隣にいる子供と出会った。コビトと面差しの似た子供。おずおずとためらいながらもじっと裕子を見つめるが、合うとすぐ目を反らせてしまう。この子の声は一度も聞いていない。慌てて向こうを向かれてしまうと、とても寂しくなる。

この子供は唐突に現れたのだ。コビトの兄弟?・・・オビトというのだという。

移動してすぐ(ワープというらしい)船の中に、この子供がいた。ゆっくりとコビトに近づいてくる、その動きはぎこちない。裕子は連れの顔が輝くのを見逃さなかった。

「オビト!」飛びつくように叫んだコビトは、昔だったら絶対にしなかったことをする。その体をためらいなく抱きしめたのだ。「生きてたんだ!」叫びには涙がにじむ。生々しい喜びを直接ぶつけられ、オビトはびっくりし固まった。成長の遅い小柄なオビトは(あれからコビトの方がさらに背が伸びていた)コビトの下にすっぽりと覆われてしまう。だからオビトはきっと、とても暖かかったことだろう。

トヨが、裕子が、コビトに教えた温もりだ。

「よかった、ほんとによかった!」繰り返される言葉に少しづつ、驚きも溶解する。(オビトも触られることに慣れていないことを忘れてはいけない)オビトの手がおずおずとコビトに回されるまでは、ちょっと時間がかかった。

抱き合う二人を見つめる裕子は、複雑だ。死に損なったと言う思いがある。その上、先ほど心が一つになったと思った子供が自分の手を離した。そのことがさらにショックだった。この子供には裕子の知らない別の世界があるではないかと。この星にはないが、彼がいた世界には・・・こうして歴然とあったのだ。それが裕子を打ちのめした。

「大丈夫か?」誰かが後ろから両肩を支えているのに気がついたのはこの時だ。

「あの二人は、俺が作ったんだ。」裕子は見上げ、『切り貼り屋』と呼ばれた男を見る。

「あなたが・・・」「依頼されて、というか、のっぴきならない立場に追い込まれてってことだが。あの二人は兄弟でもなんでもない。似てるがな。」「ひどいことを・・・!」

そうか?と男は肩をすくめた。横長の目と大きな口。「ひどいわよ!」

大きな声が出た。男は何も言わずに八つ当たりな非難を受け止める。裕子の目はもう涙も出ない。「私は・・・!私はあの子と死ぬつもりだったのよ!なのに・・・」

自分たちの都合で勝手に作り出した男に対しての怒り。だが、それは自分も同じなのだ。親の都合で産み落とし、親の都合で殺してしまった。ハヤトは幸せだったのか?コビトは不幸なのか?。アザの残る裕子の顔はくちゃくちゃに歪んだ。『切り貼り屋』はそのまま彼女を支える。

ついにコビトが気が付きオビトから離れ、慌ててかけもどった。

「どうしたの、かあさん。」視線は『切り貼り屋』と裕子の間を行き来する。「僕はどこにもいかないから・・・もう、心配しないで。」再び、ピタリと寄り添った耳に届く息。

だが、喜びと悲しみと共に裕子は聞き流そうと努める。

『切り貼り屋』はそんな二人をジッと見下ろし、同じように目が離せないでいる羨ましそうなオビトを見つめ・・・オビトと目があうとニッと笑って見せた。

その時、眼下にあるビルがこれまでないほど白く光った。燃え上がったかと思うほどだ。

「おおっ、激しいねぇ。」切り貼り屋』は高らかに口笛を吹く。「遊民軍団、主力を尽くしてますってか。」

裕子にとっては船で始めて存在を認識した背の高い女。シドラ・シデンが腕を組み仁王立ちしたまま、そっけなく。「人ごとぶるな、お前もその仲間だろが。」広範囲ではねと相手は返す。

シドラの脳裏に相棒の巨大ワーム、バラキからの情報が随時、伝わってくる。

「そろそろ、終わる。今ので、カバナの次元の入り口は完全に閉ざされたようだ。遊民軍団がよくやったということだ。我らの出番は無くなった。」

「ってことは・・・あいつ、俺を騙した裏切り者のガルバの野郎、死んだのか。」

「ホムンクルスは、な。」遊民達に介入することはしない方が望ましいのであるが。

シドラ・シデンはコビトとオビトの間に視線を行き来させている裕子を見る。

「彼女の配偶者を殺したのはカバナリオンからの思念体だ。遊民たちではないから、彼らはお咎めなしとなるだろう。」ワームホールを塞ぐ出力増量には近くに潜むバラキの存在も底上げになっている。同じくその存在がこの地で展開する次元戦の存在を小惑星帯から隠す。神月にいるタトラにも捉えられまい。しかし、それだけだ。もっと暴れたかったのは本音。

『全く、宮仕えなどというものは。つまらんこと甚だしい』

シドラ・シデンは興味を失ったようにつぶやき、透明なUFOらしき乗り物はぐんと上空に上がる。実際はワームが作り上げた次元の一部が地球上のごく近いところに露出しているのであり、いわばワームの上に乗っているのと同じなのだが。

そういった全体を把握する能力があるものは宇宙でも滅多にいない。

まして宇宙人類ではない裕子に、理解できたのは発光するUFOと見紛う丸い床の面だ。

まるで空飛ぶ絨毯みたい、いや空飛ぶガラスの床かしらと裕子は考え、少しだけ、笑う。

有るか無しか、にじみ出る涙をぬぐい取る。コビトの前ではちゃんとしてなきゃと思ったからだ。コビトの手を握ることが許されている、せめて今ぐらいは。

それがなくなってしまった後は?・・考えまいとすればするほど考えてしまう。


中休み

2018-03-06 | Weblog

ちょっと小説の内容に変更があります

設定が少し変わりまして

(最初からちゃんとしとけよという話ですよねぇ)

申し訳ないです

 

第一稿をそのまま載せちゃってるもんで

ごめんなさいです

本来なら完成形で載せたいところですが

それ待ってるといつまでもできない予感・・・

 

多分、これからもあると思います

 

変わった時点でなるべくお知らせしていく予定です^^

 

 

 

CAZZ

拙作に目を通してくださっていることに感謝を!

これからもよろしくお願いいたします。

 

 

 


スパイラルフォー-36

2018-03-06 | オリジナル小説

待機するもの

 

その少し前から、地球とカバナリオンを結ぶ線上の宇宙空間、その次元時空にガンダルファとドラコがいる。

(ガンちゃん、ここが怪しいにょ)ドラコが示したのは次元を縫って走る糸よりも細い線だ。

Σ85rの穴を通る時に仕掛けの素地を施したのだろう。それを後に遠隔操作している。

もちろん、ドラゴンを使役するものであるドラゴン・ボーイであるガンダルファにはその線の違和感は伝わっている。普通の人間にはわかるはずもない、次元感覚に長けるニュートロンであってもかなりの能力者でないとそれは知覚できない。

「えらいヘロヘロの心細い人工ワームホールだな。君と僕をつなぐ赤い糸かってのだ!」

(ガンちゃんとドラコの赤い糸はもっと太いのにょ!)まぁ、それは置いといてだ。

「かといって、バカにはできないぞ。次元レーダーをごまかすためにはここまで削るしかなかっただけだからな。」

(複数の次元を使って蛇行に蛇行を重ねてるのにょ。ご苦労さんなことにょ)

「カバナリオンの技術の粋ってやつだな。こんなオモチャみたいなの、あらかじめ存在を知ってなきゃ、正規軍だって誰も感知できないよ。」

(だけど、ドラコとガンちゃんにはすぐにお見通しにょ!)

「あとはタイミングを計って、ここをチョッキン!と切っちまうわけだ。」

(タイミングはアギュが教えるはずにょ?)

「そうでなくても」アギュが現れた。呼ばれて飛び出てビヨヨヨ~ンなのにょ!

「サイゴにかなりのシツリョウを送るつもりだろうから、すぐにワカルことになる。」

ガンダルファは上目遣いにアギュを伺う。

「ってことは・・・イリト・デラの尋問から何か成果があったってことだよな。」

(遊民さんの正体にょ!ペルセウスの人との内証話を隠して、アギュうまくやったにょぉ?)

アギュも苦笑した。ペルセウスに言われた通りに、デラの私的次元から肉体を取り出すと、すぐに精神流体が戻ってきた。男の意識が完全に戻る前にアギュは立ち去り、尋問には立ち会わなかった。シドラ・シデンが使役するワーム、バラキは空間を提供し、アギュは外から観察することにした。再び、デラの私的次元に戻すわけにもいくまい。何よりイリトに対立している中枢・・・そこに繋がりがあるはずのゾーゾーにはガルバの一連の顛末はもとより、遊民の存在もペルセウスも気づかれてはならないからだ。

しかし、デラが聞き出したことがすべてイリト・ヴェガの知るところとなることはどうしようもなかった。それは、デラの意思ではどうにもならないことなのだから。

 

ペルセウスとの接触は、デラに対してある程度の脚色が必要となる。もちろん、アギュ一人が遭遇したこととしてだが。彼らが非物質領域から来たことはなるべくなら、伏せたいところだったが・・・なぜ、アギュ一人に接触してきたのかを充分に納得させるにはそれしかない。

そのことで自身の臨界状況についてあらぬ疑いを持たれることは仕方がなかった。イリトが思ったよりもアギュの臨界が進んでいることに気がつき、それを中枢に報告すればアギュの自由は著しく制限される。アギュは召喚を免れないが、おそらくイリトはそれを望んでいないはず。

どこまでイリト・ヴェガを信用できるのか。アギュとしても悩むところだ。

結論から言えば、アギュの心配は杞憂に終わった。

『切り貼り屋』と名乗った遊民は思った以上に修羅場をくぐっているらしかった。何を話せば、中枢に連行されるかとか、されないとか、よくよく考えていて尋問慣れしている印象だった。

まず真っ先に自分がペルセウスと関係があることを認めた。『切り貼り屋』が既に不法遊民たちの間でペルセウスに行った男として有名人であったことはすぐに調べがつくとみたのだろう。

下手に隠すよりも上手いやり方だ。頭がいい人間だとアギュは思った。

彼はペルセウス人が彼の精神に仕掛けた壮大な退避次元についての荒唐無稽な話を始めた。そこで彼は自分の知らないところでペルセウスの恩恵に浴していたことも認める。彼とペルセウス人グアナクの間に芽生えた個人的友情によって彼は精神流体を保護され、グアナクの連邦への捨て身の接触によって、それを無事に取り戻すことができたのだと。

何か解放に当たって、ペルセウスから入れ知恵をされているのは確かなようだ。男がペラペラと饒舌に語った内容の裏にはアギュ同様、隠していることが多いにあるのだろう。

 

おかげで、アギュも痛い腹を必要以上に探られないで済んだ。

イリト・ヴェガはペルセウス人については、彼とアギュの説明以上に興味を示さなかった。

そのことはその程度の情報は既に中枢が掴んでいるもの同じだということだ。

 

 

アギュは尋問内容自体に関してガンダルファに隠すつもりなどは全くなかった。

「あのユウミン・・・どうやらナグロスの知り合いだった。カレに会いに来ようとしていたらしい。」

ガンダルファが声をひそめる。

「じゃあ、例の巫女っていうのは神城麗子なのか。ユウリのお母さんの」

曖昧にうなづく。そうでもあり、そうでもないだろう。ペルセウスが惹かれたのは『魂』なのだ。「で、持って・・・それと、このカバナのワームホールはどう繋がるんだ?」

「あのキリバリヤとかいうユウミンの話では、カバナ人はジゲンセイブツを欲しているらしい。」ガンダルファは目を剥いた。それって「イリト・ヴェガと同じじゃんか?なんで、どうして?」

(趣味の完全一致にょ~カバナとオリオンの壁を超えてもうつきあちゃうにょ~)

アギュは遊民の男がペルセウスからカバナリオンに連行されて、この星に潜入する作戦に巻き込まれた経緯などを話す。極秘である和平の話はガンダフファなどは眉唾だとハナから聞き流した。わかった、タトラに言わなきゃいいんだな。、『噂には聞くけど、今更、和平ってどうなんだ?できんのかな、アギュ?』(和平になったらガンちゃん、失業するにょ?)しねえよ、多分。

「とにかくイリトの敵から、この星の次元生物の話が漏れたらしいのです。」

「じゃあ・・・つまり、カバナ人が、絶賛、捕獲中ってこと?」(デラちゃんの商売敵にょ!)

「ホカクしたらソクザにここから送るでしょう。ショウワクセイタイに見つかってフウサされるカクゴでね。」

「ふーん、せっかく作ったのにもう塞がれても厭わないってことか。カバナにとって、どんだけ大事なもの?次元生物って、あの・・・デモンバルグとかが?」

イリト・ヴェガは臨界進化体の研究の口実にしただけで、デモンバルグとアギュを同じものとは捉えていない。正直、次元生物の捕獲はイリトの趣味だ。

そこがわからないカバナ人たちは臨界進化体と魔族を混同している。

「どっちにしろカバナはマチボウケだ。」肩をすくめた。

「ショウワクセイタイもシルことはないようにする。次元レーダーがイジョウをカンチするよりハヤク、ここをフサギ、キュウシュツする。」

「全く連邦を敵に回して、よくやるよ。アギュったらさ。それを言っちゃ、イリト・ヴェガもかな?」(あのおばちゃんのそういうとこ好きにょ)

その時、アギュにはデラからの意識下からの接触がある。デラは私的次元からアギュに呼びかけていた。500光年離れたオリオン連邦にいるイリト・ヴェガの同調クローンであるデラ。

その彼女を経由して送られてくるイリト・ヴェガからの命令だ。

逆らうことなどできない、ためらいがちなデラの言葉。