MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-4

2007-09-18 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-4


           アギュ

ドラコが産れてしばらく、僕は子育てに専念していた。研究所からたくさん人が来たりして、検体としての僕も大忙しだった。ワームミルクと呼ばれるアドレナリンの一種の科学物質を電気エネルギーに変換したものを脳に注ぎ込まれたり、僕自身も精神を安定させるものやら免疫を上げるものやら、もうやめて~ってぐらいの慌ただしさ。卵が憑いた男として僕は有名人?になりつつあった。とどめになんだか嫌みな教官がやって来て、僕が特別クラスに入ることになったと告げたわけだ。

最初に横たわる僕の目に入ったのは銀の指輪だった。間接が弱いニュートロンは指を保護する為にリングを付けていることが多い。その指輪は他のリングより一回り大きく重そうで、保護と言うよりは装飾的な感じがした。流星をかたどっている紋章が取り巻いている。
遊民の有名な一族のものだ。渋い重力のある声が振ってきた。
「あのアギュレギオンと一緒に学べるなんて大変名誉なことである。感謝するがいい。」
「はあ。」僕はちょっと努力してそう答えた。なんとか、顔を上向ける。
教官は不満そうだったが、僕にとっては別にーって感じだった。
あ、でもユウリと一緒に学べるのか。そいつはクラス担任のケフェウスだと名乗った。
その教官は困ったことになかなか帰ってくれず、しまいにはワームがこの目で見たいと言いだした。年配の担任は銀髪を丁寧になで付け、グレイに金の縦縞が入った不思議な瞳をしていた。その爬虫類のような目の所為か、ニュートロン特有の仮面のような表情と相まってどうしても、酷薄な感じがしてしまう。妙に犬歯が出てるように見える、後ろに長い特徴的な頭蓋骨の形はニュートロンの中でも特にカバナ人種出身者特有のものであったのだが、その頃の僕はそんなことですらなんにも知らなかった。
そんな無表情で、どうやったら自分にもワームが見えるようになるか、僕になんとかしろ的事をしつこく言われても困るばかりだ。

終いには僕そっちのけで、後ろの方に控える数人の助手に何か工夫はないかとか言い出した。僕は首を向けるのもたるいから、横になって話を聞いているしかなかった。
そいつらの一人が僕ごと次元レーダーに、つまりとっても強力な電磁波に掛けることとか言い出した時は、あやうく癇癪を起こすところだった。
そんなことしたら僕が死ぬってーの。やりかねなかったので気が気でない。抗議しようと口を開きかける。
「所長の許可が必要ですから、それは無理でしょう。」
僕の代わりに誰かが言ってくれたので感謝する。
その声はニュートロンらしくない、原始星の訛りがあった。
やはり頼りになるのは同じ原始星同志やね。僕は命の恩人を一目見たかったが、首を動かすと眩暈がしたのでやめた。
「生まれたてのワームなら、抵抗が弱いから視覚化ができるのでは?」
「ワームも死ぬ公算が強いですね。」若い声にやんわりなだめられるしつこいオヤジ。
「ふむ。」
教官はおあずけを食ったエサを見るように僕をしばらく眺め・・そして、やっとあきらめたので、僕は心底ほっとした。
「僕のほかにもジュラからの生徒はいるんじゃないですか?」
僕は思いきって声を出した。そいつに見せてもらえばいいだろ、あーん?。
ようするに、シドラ・シデンのことを聞いてみたわけだ。
教官は露骨に顔をしかめた。それが返事だった。シドラは彼に全然、好かれてなさそう。
まあ、僕も好かれなくてもまったく構わないかもね。

教官が帰った後、僕は目を閉じて考えていた。ドラコが意識の片隅で寝ているのが確認できた。不思議な感覚。まだ完全には慣れてはいなかった。
その時、目の前がぼんやりと明るくなるのを感じた。。
「キミ・・・」かすれた声。ワームにしては変。
僕は目を開けて、仰天した。
目の前にいたのはアギュだった。
「わ!ビックリした!」
いつ、来たんだ?なぜここに?僕、混乱。
「キミさ、」アギュはむせた。
「わっ、汚ね!」思わず僕はのけぞった。
「なんだよ!せっかく、話しかけてやってんのに!このオレが!」
アギュはブリブリ怒った。怒ったら、青い火の玉の中の顔の回りだけ真っ赤になった。
瞳の輪郭だけが極端に青い。初めてマジカに見てしまった。
「声帯が薄くなってんだよ、オレは!知ってるだろ?」
知らないとは言わせないとその目が言っていた。でも知らん、そんなの。
アギュの声は少し耳障りだった。その辺、ドラコと似たり寄ったり。

(にょにょ?)まあまあ。

「ユウリから聞いたんだけど。」
それで僕にはすべてが理解できた。こいつもワーム見物なわけ?
アギュはマジマジと僕の頭の辺りを見ていた。
「お前、ワームが見えるの?」
「誰にものを言ってるんだ?」そう言いながらも熱心に覗き込もうと近づいて来た。
「アギュさま、臨界進化さまに。」僕は少し身体を引いた。
「失礼な奴だな。ケフェウスなんてオレが直接、話かけでもしたらチビらんばかりなのに」
「そりゃ、躾がなってないのさ。」僕だってあの教官は嫌いだけど。
「フーン。」アギュは初めて僕をちゃんと見た。
「それってアイツ?、それともオレ?」アギュの思考は早かった。
「ユウリが言ってた面白い奴ってこっち?。」何?ユウリが何だって?
「オマエもユウリが好きなんか」アギュはニヤニヤした。
「おい!人の考えを読むなよ!違反だぞ!」僕、激怒。慌ててできる限りの思考バリアー。
「オマエが悪いんだ。無防備で。オレからすると単純馬鹿過ぎ。」
アギュの全身を覆う光が僕に触れていた。熱くも寒くもない。ウールの毛先が触れてるように包み込まれる。光なのに触感があるなんて。しかも認めたくないが心地よい。
「どうした?臨界進化サマって呼ぶんだろ?」
「誰が呼ぶか!」
「そう呼ぶ奴が一番多いな。まあ当然?」アギュは視線を再びワームに戻した。
「嫌なら好きに呼んでいいぞ。オレが許してやる。」
「ありがたすぎて反吐が出ますこと」こいつには本音を下手に隠しても仕方がない。
「変な奴。卵でワームが授かるだけのことはある。ジュラの人間は皆こうなのか。」
シドラ・シデンに似てるってか。うーん、それはちょと。
でも。お追従や媚びへつらいがこいつにはみんなわかるってことか。そりゃ、性格も悪くなるってもんだ。
と、アギュはワームを指で突つこうとした。
「何すんだ!」僕は跳ね起きた。「やめろよ!やっと寝たのに!」
アギュがワームに触れることができたのに僕は驚いた。
「僕のワームに勝手に触るな!」
「かわいいなあ~」
僕は耳を疑った。アギュはニコニコしていた。気持ち悪う。

んにゃ? その時、ドラコが身じろぎした。
「わ!目を覚ました!小っさいなー小さいのに小さい目と口がちゃんとある!」
アギュは馬鹿みたいなことをしきりに感心しながら叫んだ。
「あのなぁ」うっぜいよ、お前!
「この黒くてはっきりしてるのが三次元の目かあ?後の8つは複眼だな。」
 「まだ仕組みがよくわかってないんだよ。」僕はしぶしぶ教えた。
「ワームホールとか異次元に対応してるらしいけどさ」」
「へへーっ」お進化様は間抜けな返事をしつつ、隙をみてドラコの首の下をすばやく掻いた。
「おい!そこ!見たぞ!」ドラコは目をパチパチしていたが しゃわっ・・にゃ? と初めて声らしきものを発し、慌てて僕の中に隠れた。
「おびえたじゃないか!」でも僕は他のことを考えてた。
「良かったじゃん。初めてしゃべって。オレのおかげで。」
又、読まれてる!むむむっ、ちっくしょう!どうしてくれよう!
身もだえする僕をほっといてアギュはさらに僕のベッドに身を乗りだしてきた。
「バラキはごつくて可愛げなくて、オレに触らせてくれないんだ。
 愛想がない、シドラそっくり。」
おいおい、近づき過ぎだろ。お前ってそっち系かよ?
「契約者でもないのにユウリは良くて、オレはダメなんて。ほら、出て来い!」
んにゃ~いにゃ~!「やめろって言ってんだろ!」僕は切れた。アギュの手が僕の脳の中に入るような感覚。ギョッとして思いきり突き飛ばしていた。
「嫌がってるだろが!」
「何すんだよ、キサマ!」
短い間にキミからキサマにまで。僕も出世したもんだ。
「オレにこんなことしてただで済むと思うなよ、ガンダルファ!」
あら、名前も知ってるじゃん。
「ただじゃないなら、おいくらぐらい?」僕が笑うとアギュは僕に掴みかかった!
なんと臨界進化さまが。でも、アギュは僕の敵でなかった。彼は小柄で痩せッぽっちだし、まだ両手で締め上げてぐいぐいする肉体があったからね。格闘技好きの僕に敵うもんか。
「ちくっしょう!ちっくしょう、キサマ」アギュは僕の下でジタバタした。
「キサマなんか、大ッ嫌いだ!死んじゃえ、バカ、アホ!」
小学生並みの罵倒。きゃは、おもしれえ~!十字固めでも、かけちゃうおっかな~?
その時、ドラゴンの契約により加勢しようと思ったのか、ドラコがポン!と僕の頭から飛び出した。んみゃ~っちゃっ! ドラコはプウと一瞬膨らんでから僕らに向かって、小さい炎を吐いた。「あちぃ!」僕も叫んだが、アギュも吠えた。
「被爆だ!被爆!オレ被爆した!」
アギュはベッドの下に転がり落ちるとギャーギャーわめいて、姿が消えた。どうやら部屋に帰ったらしい?アギュはその気になればこんな学校の安普請な内装なんかいくらでもすり抜けられるって噂だし。僕は心配しなかった。
「それより、すごいぜ!お前!」にゃ~にょ~! 威張るワームの姿。
ちょっと可愛いかも?と僕も認める。

(あの時、ガンちゃん初めて褒めてくれたのにょ)
なんせこれが二人の初めての共同ミッションだったんだもんな。あの時のアギュときたら、ププッ。今も笑える。あ、でも、あの後、ドラコ少しだけ大きくならなかった?。金魚が錦鯉になったぐらいだけどさ。
(成長したんにょ。ワームの成長はランダムにょ)あんなことで?
(何事も経験値なのにゃ)うん、確かに。それは言えるな。

これがまあ、臨界進化体アギュレギオンとの初の謁見ってわけなんだけど。
僕も子供だが、アギュもどっこいどっこいだよね。ちょとガッカリした?。もっとかっこよかったら良かったのかな。ごめん、ありのままで。

(親しみがもてるにゃ?)もてるかなー?

GBゼロ-3

2007-09-18 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-3


                 ユウリ

さて、ユウリはアギュを現実世界へと導いたと言われてるけど・・実は、僕の運命も変えているんだ。僕とドラコと。彼女がいなければ、僕らは一緒に死んでたかもしれない。

(ガンちゃんごめんにょ~、ドラコにせいにょ)泣くなよ、ばか。

結局は死ななかったんだし。もし、僕が死んだら卵の中のドラコも死んでいただろって、推察をちょっとドラマチックに言っただけなんだから。すべてはドラゴンが憑く時の通過儀礼ってやつだ。人の能力がワームに劣ると受け止めきれずに人は死んだ。普通、ワームの方は死ぬことはない。体力も精神力も人よりも勝っているからね。でも、卵のままのワームだったら孵ることはできないまま、おそらく幼体は死んでいただろうって話。これはもういない僕の物知りの親友の受け売りなんだけどね。

忘れもしない、その日。僕は数日前から熱っぽくて具合が良くなかった。寝ても寝つけず、やっと寝たと思ったら夢見は最低。黒い渦が僕を次々と締めつける。まさにザ・悪夢。
自分のうめき声で目が覚めると、食いしばり過ぎて歯ぐきが痛たいという有り様だ。
それでも僕は敢えて人中にいた。自分の部屋で一人でいるとなんだか落ち着かなかった。
胸騒ぎとでもいうのだろうか、何かにジッと見られてるような説明不能な感じ、みんなに囲まれてないと安心できなかったんだ。アギュ以外の生徒は特別クラスを除いて、表向きまったく野放しだった。僕ら一般学生は休憩室でだべろうが寝てようがお構いなしだった。
僕はひどい顔色をしていたから、だんだん回りも挨拶もそこそこに離れて行った。それが裏目に出た。
教室では授業が始まった気配がした。でも僕はフロアのイスから動けなかった。まずい、と思った時はもう遅かった。展望窓から見えるいつもの惑星の姿がモノクロにしかも歪んでいった。腰から始まった突き上げるような実態のない振動が背骨を伝って頭がクラクラする。無重力酔いのような吐き気と胃を締めつける痛み。全身がぞうきんの様に捩じられ、ガンガンと叩き付けられるような痛みが襲って来た。僕は背中を曲げテーブルの上で身体を支えたが、背骨を砕き肉が裂けるかの苦痛に獣のようにうめくだけだった。両手の上に生暖かい唾液をこぼしながら。そして、あ~っと言う間にどんどん目の前がかすみ急激に遠ざかって行った。抜ける、魂が抜ける~、僕の意識は叫んでいた。僕自身は暗いチューブの中に吸い込まれて遂に消えてしまった。そう、それが僕の臨死体験の始まりだった。お花畑を駆け回る僕。

ところがふと気が付くとお花畑は跡形もなく、故郷の母の手が僕に触れていた。小さな手のひらは燃えるように熱かった。手は僕の背中をさすっている。次第に体が温まり、気分が楽になっていった。
「大丈夫?」母でない若い声がした。目を開けると、大きな黒の靴の先が見えた。僕は床に転げ落ちていたらしい。

「そんな奴、ほっとけ」別の声がした。そのドスのきいた声に聞き覚えがあった。苦労して見上げると見覚えのある輪郭でそいつだとわかった。それはシドラ・シデンだった。
シドラ・シデンはスクールの女子の半数になぜかキャーキャー言われてるいけ好かない奴で、僕とはほとんど口を聞いたことはない。でも特徴のある声と話し方だからすぐわかる。同じジュラの訛りは間違えようがない。
「ねえシドラ」誰かが僕の背中の方にもいて、シドラと話していた。
「ガンダルファは卵が付いてるのね?」
仁王立ちした黒光のブーツは、今や小刻みに踵を鳴らし始めた。
「教官を呼べばいい。そやつに構うのは時間の無駄。そやつの問題。」
いらいらした声に構うことなく、誰かさんは僕の脇腹の下に手を差し入れ、僕を仰向かせた。
なんと。それはカミシロ・ユウリだった。ゲロ発作の最中に、あこがれのマドンナに初めて話しかけられ、介抱されてるなんてラッキー!・・な訳はない。と自分に突っ込みを入れたつもりが、うう~っと言う、うめき声が出ただけ。頼む、頼む、ほっといてちょ~、シドラの言う通り誰か呼んできて、お願いだから。うっぷ。ガクッ!僕、脱力。
「ガンダルファをほっとけないわ。」ユウリは断言した。なんで僕の名前知ってんの?あ、そうかなんだ、シデンが教えたんだ。二人は仲が良いと聞いていた。ユウリがアギュから開放された時には、ガードマンよろしくシドラ・シデンがピッタリ付いているからファンレターを渡す隙すらないとか言う話。
「卵を孵す手伝いをした方が良くはない?」
「命を取られたら、こやつが弱かっただけのことだ。」シドラの答えは冷たい。
「我だってなんとか乗り越えたんだ。
 卵程度のキャパシティもないなら死んでしまえ。」ひ、ひどい。
「でも、シドラの時にはあたしがずっと側にいてあげたわけじゃない?」
「あのな」
「だから、ずっと楽だったんでしょ?」
「・・・」
「卵ってあまり例がないってシドラ言ったじゃない。」
今やユウリの片手は僕のおでこを気持ち良く冷やし、もう片方は胸の上で反対に熱く熱く発光しているかのように感じた。確かに楽、かなり楽。
しかも彼女の膝枕だし。ヒャッホウ~!って、ガクッ!
「おせっかいが。好きにしろ」シドラはフゥーと息を吐いた。
「人が来ないように見張っててやる」シドラはノシノシ遠ざかって行った。

ユウリは小さく僕に唄いかけた。するとあら不思議、僕に寄り添うように現れたソリュートが振動を送り始めた。全身が風の中で揺すられてるようだ。体中の毛が気持ちよく波立った。その波は何度も僕を洗う。揺すり上げ、さすりあげる。あまりの気持ち良さに寝てしまいそうだ。でも、突然、意識の中に何かが現れた。なんて言ったらいいか、自分の中に誰かがいたのに改めて気が付いたと言うか。うまく言えない。でもはっきりイメージできた。何かが僕の中でに~に~泣いていた。そいつはモゾモゾ動いていた。小さな虫だ。
「孵ったわ」ユウリがつぶやくのが聞こえた。
「赤ちゃんだな」いつの間にかシドラの声が戻ってきた。
「じきじゃべり出すぞ」
「ねえ、シドラのバラキみたいに、ワームって成獣なんでしょ。」
「いや、幼体は例がある。子供でも意思があるからな。しかし、卵は。待てよ。
 卵があるってことは親がいたはずだ。」
シドラは何か考えているようだった。
「親はどこに行ったのだ?感心しないな。産み捨てとは」
「そういう問題なの?」
「バラキ、おぬし何か知ってないか?」
シドラが背後に声をかけるとそこの空間が歪んで渦になるのが見えた。
「ふん。そうか。ワームは秘密が好きだな。」シドラは唇を曲げた。
半死半生の僕と目が合うとシドラ・シデンはうなづいた。
「我のワームが見えるようになったか?」
僕は頭の中が音で混乱していたが、なんとかうなづきかえした。
歪みの中心に赤い目が見えた。あれが父と母の見ていたワームドラゴンなのか。怖くはなかった。ユウリが頭をしきりになでてくれているおかげかもしれないけど。
「そうだ。」急にシドラが手を打つ。
「おぬしの父は確か前線で大分前にに死んだと聞いた。母はどうした?」
母親はジュラにいる、僕は説明しようとした。でも頭の中がにょ~とかにょおおおおなんて声に埋め尽くされていたので、容易ではなかった。でも一瞬、母は死んだのではないかという強い確信が突き上げてきて、声を遠くに追いやった。
最後に覚えてる母は弱っていたが、ワーム使いらしく目には強い光があった。その目がまじまじと思い出せた。
母は一人で死んだのだろうか。
父が戦死した時、父のワームも命を落としたと聞いていた。それはとても珍しいことだった。それだけお互いの絆が強かったのだ。
ひょっとして。母のワームも母に殉死してくれたのだろうか。今と違い、昔のワーム使いは通常、家族でもワームが見えない者に自分のワームの名前を明かしたりしなかった。
だから、僕は母のワームの名前も知らない。
「泣かないで」ユウリが顔を寄せた。僕は泣いていた。小さい子供みたいに。
「そうか」訳知り顔でシドラはうなずく。
「今人を呼んでくる。休んでろ」そのまま、ズカズカと教室に入って行く気配。
僕の涙は今やとめどがなく流れていた。頭の中で誰かがにょ~にょ~ 泣いててもお構いなく。その涙をユウリの手が優しく拭い続けていた。彼女はもう何も言わなかった。僕は彼女の目を見ていた。彼女の髪と同じ、黒々とした深い目だった。彼女の目も少しうるんでいた。クリーム色のなめらかな肌に、赤い髪の飾りがぼんやりとにじむ。。
やがて騒めきと人の気配が近づいて来た時、彼女はふと僕に屈みこんだ。
「私は、カミシロ・ユウリ。」ユウリが囁いた。
「ドラゴンボーイ、おめでとう」

最初にワームドラゴンと契約したのは神話世界のジュラの王様だ。ワームは宇宙に無数に開いたワームホールという穴を群れで移動して生活している。ジュラの太陽系には有史以前から目には見えない巨大な穴が開いていたらしい。ジュラに植民した古代の王が、ワームの最初の契約者になって以来、ジュラの民はワームの力を求め、ワームは気まぐれにその求めに応じてきた。人の求めに応じるワームの旨味は何なんだと思う?。契約者の命?。数千年の命を持つと言うワームがそんなチッポケなものを欲しがるのかな?。案外、僕の親友の言ってた、暇つぶしって説が一番当たってるのかもしれない。ワームは臨界進化体と同じく謎が多い存在だ。
例えば、ワームは契約者の命を食べ尽くすと、他の契約者へと移って行くと言われてる。普通は契約者が途中で死んでもワームは死なない。だから、原始体の中でも長命な方のジュラの人間だったが、ドラゴンボーイと呼ばれる契約者達は半分の500年ぐらいしか生きられない。君達から見るとそれでも多すぎるって?そりゃ、そうだ!失礼。
それはさておき、ワームドラゴン。その姿は肉眼では流れ星のようにとらえられる。ワームの群れが僕らの次元を横切る時、人は長いこと無数の流星群が宇宙をを横切るのだと思っていた。
そして今や連邦には、君も良く知る有名なワーム部隊がある。その仕事は補給船や貨物船を、時には軍艦部隊をワームホールの中、安全に導く先駆けだ。襲われた時はドラゴンボーイもワームドラゴンも先頭で戦った。それはジュラ星系の主な収入源になっている。連邦がダークサイトと呼ぶ勢力やペルセウス連邦と小競り合いを繰り返している前線で、父と母は知りあった。父が戦死した戦いの後、母もボロボロになって産まれた星に帰還した。母はもうワームを駆る体力がなくなっていたから。
そして母は僕を産んだわけ。まあ、それで更に死期を早めと言ってもいいんだけどさ。
ふう。
それはさておき、僕はワームにドラコと名付けた。

(もっとカッコイイ名前でも良かったのにゃ~)
仕方ないだろ。3歳の時に思いついた名前だってーの。
大体、お前は覚えてないだろうけど、大変だったんだ。育てるのにすごい手間がかかったんだぞ。卵からじゃ、基本ができてないもんな。
(覚えてるにょ!ガンちんはいつもいつも怒ってばっかりにゃ!)
赤ちゃんは手が掛るんだよ。
(赤ちゃん言うにゃ~!んみゃみゃみゃ!)イテテ!噛み付くなって。
それより、その頃と比べてもこいつあんまし大きくなってないのよ。
(大きくなったにょ!それはガンちん、言いがかりにょ!)
つまりね僕が言いたいのは、早く僕が間抜けに見えないくらいにせめて大きくなってってこと。(どういうことにょ?)シドラとバラキみたいにさ。
(今だって乗れるにょ!ちゃんとガンちゃんを乗せてるにょ!)
乗れりゃいいってもんじゃないでしょが。
絶対きっと、鯉のぼりに跨がったアホに見えてるからねーだ!
正直、あまり人に見られたくないカッコだと僕は秘かに思うわけさ。
(し、しっつれいな奴にょ~!)

まあ、まあ。
さあ、お待ちかねの次の出会いは、一気に行こう。