スパイラルゼロ-6 第23番惑星ベラス-2
その頃
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。
とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」
その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「臨界進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」
イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」
しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。
「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」
その頃
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。
とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」
その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「臨界進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」
イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」
しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。
「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」