MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6  第23番惑星ベラス-2



その頃   
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。

とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」

その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「臨界進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」

イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」

しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。

「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6  第23番惑星ベラス-2



その頃   
もう一万年近く前からみたいだけど、連邦で原始人類と認定された人類は、異なった人種と勝手に混血することは許されなかった。かつて人類発祥のアースを旅立った人類の元種を保存するためだと政府は言う。
(人類はあまりに広がり過ぎ、異なる環境に順応しすぎ、混血しすぎたのだ。僕ら原始体は原始アースからの移動や旅行を厳しく制限されていた。それがいわゆる原始星政策の本当の目的。基本的に僕らは産まれたアースから一歩も出れない、中枢にとっては動物園の保護動物と同じなんだ。)
ただし、この第23番惑星ベラスとベラス・スクールは唯一の例外だった。ここで作られた子供は実験体だから絶対に外に出ることはないのだ。
そんな中で実験の制限が掛っていると言うことは、ユウリの星の遺伝子の特異性を表わしてるってことだ。ってことは、早く位置づけが決まらないと彼女と子供を作るどころかパートナーにもなれないってこと?そりゃ、やばい。早く決めてくれよ。
ここを卒業し、宇宙で暮らす自由を手に入れれば違う原始星同士の人間でもパートナーになることができるんだ。
子供なんか、この際いらなねって思えばね。ニュートロン達みたいに。
始祖の人類からの系統図上の位置がまだ未確認であるユウリの種族は原則的には同族としか今は配合は許されていないはずだ。

とにかくスクールの怖い噂は本当だったわけだ。肉体的に細胞的に、僕らは牧場で繁殖させられていた。
異性とじゃれあった結果、取り出された子供の利用場所。
そこを更に進むとまた毛色の違った研究室が現れた。
さっきの部屋よりもセキュリティは厳しく、大げさなエリア。でも、規模はずっと小さい。
乱立する巨大な試験管の中の裸の子供達。生きてるもの、動かないもの。
「あれはクローン体さ。」アギュが顔を寄せる。「キミのもあるかもな。捜してみろよ。」
「連邦じゃ公式のクローンは3体までだろ。」僕は再び狼狽する。
「それも銀河の端と端に存在しなけりゃいけないって聞いたぞ。」とんだ秘密の小部屋だ。
「だから非公式だっての。」アギュが馬鹿にした。
「実験が終わったら、すべて廃棄されるのです。」カプートの暗い声。
「廃棄って?まさか?僕のクローンもいるんだろ?」
「オレのなんか作りまくってるよ。オレって何千人兄弟?ってね!オレの子も1000人以上さ、すごいだろ!」アギュのはしゃぐ声がわざとらしく響く。
「知ってるか?オマエ、捨てる時は切り刻むんだぜ。生きててもね?」僕は声を失った。
「ほんとオレじゃなくて良かった。」アギュはまくし立てる。
「オレはマスターテープだから手出しができないんだぜ!」
「やめて。」ユウリが顔を覆う。シドラが庇うように引き寄せる。「やめろ。」
アギュはシドラ・シデンに睨まれて、さすがに黙った。
「おもにに臨界進化を人工的に起こさせることが目的です。原始体の組み合わせは色々と試みてるようですが、アギュの細胞がベースになることが多いのです。アギュの細胞は数が限られますから。管理規則がすごく厳しいのです~。」カプートが引き継ぐ。
「ぼく達、検体から取ってもいい細胞の数も定まってるので培養してるんだと思います。」
「12歳までに臨界進化しないと、その後の変化はあり得ないとされてるの。」
ユウリの真っ青な顔。「非公式のクローンには人権がないのよ。」

その時、真っ白な人影が数人の取り巻きにかしづかれて通路を歩いてきた。とにかく、真っ白な女性だった。銀と金のスーツと一体化するライン。女王様のような君臨と権力の香り、色素のない顔の中の金色の瞳は鋼のような意思を感じさせる。
「アレが、イリト・ヴェガ。ここの所長だ!」アギュがあざけるような音を立てた。
その時、ふと所長は立ち止まりまっすぐこっちを見上げた。僕は目が合ったと感じ、肝が縮み上がった。
「大丈夫です。見えてません。」カプートが安心させるようにそっと囁いた。
「ただ~ひょっとすると~アギュの気配は感じるのかも知れませんね。」
アギュがバカにした上ずった笑いを出したが、他は息を潜めていた。動けなかったと言ってもいい。
「どうかしましたか?」回りのお付の科学者が話しかける。
イリトはフーッと力を抜き、視線を逸らした。何事もなかったように微笑んでフロア全体を見回した。
「どうですか、みなさん?改ざんの後は見つかりましたか?」
その声は思いがけず、柔らかく母性的だった。僕は彼女が見かけよりすっと長い時間を生きて来た事を直感した。
「2,3怪しい所を発見しましたが、はっきりとしたものはまだ・・」
「どうぞ、そのまま続けて下さい。みなさん、忙しいでしょうが。」
イリトは言葉を切った。やさしい表情とは裏腹に、雰囲気全体に威厳が放たれる。
「最高進化体のDNAの軌跡は常に明確にしておかねばなりません。一つでも疑いがある以上。何度、チェックしてもし過ぎることはないでしょう。」

イリトを見つめる、ユウリの顔色が悪い。
「さあ、もういいだろうアギュ!」シドラが強く言った。「バラキ!」
「おい!誰が出るって言った!、オレは、まだっ・・!」

しかし次の瞬間、僕らは音一つない黒い森の中にいた。
「ありがとう、シドラ。研究所は何度見てもつらいわ。」
まったく、アギュのサド野郎め!
すぐにプンプン怒ったアギュが追いついてきた。
ユウリは微笑もうと努力していた。「あの人も信用できないわ。」イリトのことらしい。
「イリトは規約を守っているにすぎない。」シドラ・シデンが重々しく口を開いた。
「少なくとも、前所長ともケフェウスとは多少は違うと我は思うが。まあ、慎重に見極めたいオヌシの気持ちもわからなくもない。」
「・・果たしてクローンは自分と一緒なんでしょうか?興味ないですか?」
カプートが突然、興奮して口を挟む。なんなんだ、こいつ?。
即座にアギュが言い返す。
「同じな訳あるか!臨界進化しなかった奴などオレと一緒の訳あるか!」
完膚無きまでの否定。
「それはあんたの場合だけだろ!」僕も返す。
「オレの細胞からできた、ウンコみたいなヤツだぞ!」
おいおい。アギュさんよう、それはあんまりだろ。そんなこと言っちゃーまったく、クローンが可哀相になっちゃうよ。
「このことは誰も・・僕らしか知らないんだね?」
「それが最高機密だ。」シドラは最後にバラキからすべり降りた。黒い丈の高い植物が僕らを覆い隠す。バラキは空へと飛翔して行った。
「あたし達にはどうすることもできないの。連邦政府が容認してるから。」
「500年前、政府は臨界進化体の謎を解くためにほとんどの禁為を解放した。」
シドラはアギュを忌々しそうに睨みつけた。「ここ限定でな。」
「オレのせいだって言うのかよ!」
「うるせー!キンキン声出すな!」僕はどなった。僕はまだショックから立ち直っていなかったが、それを見透かしたアギュのニヤニヤ笑いがそろそろ鼻に付いてきた。
「黙ってろ。」
アギュの額の血管が浮き上がる。
夢の中のアギュの方がほんと肉感的に見えるから不思議だ。
「ほらほら、ガンダルファ見て。滝があるの。」アギュが口を開くより早くユウリがすばやく僕を引っ張る。白い小さい手が僕の指を包み込む。
見ると確かに草の向こうに水が流れている。錆びた赤い水だったけど。

「そうそう、ここは色々と面白いぞ。」アギュはもう先に立つ。「遊べるんだから。」

GBゼロ-6

2007-09-20 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-6



           第23番惑星ベラス

(ドラコはあの頃は言葉の学習に燃えていたにょ)
でも考えてみれば、言葉なんてお前らいらないじゃん。
(だからこそにゃ!言葉っておもしろいにょら!)おもしろい?どこが?
(はっきり口にするとにゃ?言葉によってにょ?ちゃんと形を取るのにょ!)
あーわかんねぇ。三次元の話じゃないのだけはわかるっす。ねえ?
(ドラコは今じゃすっかり言葉マスターにょ!)
そうかな。さっきも思ったけど、あんまり昔と変ってない気がするけどにょ。
(バカにしたにょ!ガンちんはすぐそうやって人を傷つけるにゃ!)おいおい。
(今の話だって、もう一人忘れてるのにょ!ひどいにょ。)
忘れてないでしょ。話の流れです。おこりんぼドラちゃん。さあ、続けるよ。


「カプートも行く?」
さあ、行こう!となったその時だった、ふいにユウリが後ろに声をかけた。
どこからともなく、のっそりと現れた小さなズングリムックリ。ウヒャー人間じゃん!僕はびっくりした。
カブトムシの幼虫かと思ったよ。
「カプートは恥ずかしがり屋だから、いじめないでね。」心配そうにユウリ。
なんなんだ?この時代錯誤な眼鏡は?アンティークも程がない?コント?絶対、わざとだよね。趣味?ひょっとして、銀河医学もなおせない頑固な対面恐怖症?あふれ出る意識をコントロールできない。でも、ボサボサのうっとうしい髪と眼鏡の歪んだレンズのせいで表情はまったくわからない。サイズの合わないパジャマも、うさん臭さ倍増。体のサイズも一切不明。
多分、男?と僕の本能が告げる。


勿論、思えばこれは彼の意識が僕らに見せているイメージであったわけだけど。言わば、どっかの歴史書から持ってきた精神的鎧のようなものだ。

 そんな技があると知っていたら、僕も夢ではもっとイケメンにしときゃ良かったよ。
(それ以上、イケメンにしてどうするにょ?)
 お、いいこと言うね、ドラちゃん。そうだろ、そうだろ。
(ガンちんのこういう単純なとこが好きなのにょ)
 なんだって?(なんでもないにょ。それよりカプートにょ?)
 そうだった。そうだった。
(カプートはアギュが怖かったのにょ。)
 そうだね。今思えば。僕にとってアギュは怖いというよりは、うざい、めんどいだったけど。
 アギュに力があるとか、影響力があるとかいう考え方はまったくしてなかったからね。
 (回りの空気を読まないからにょ!)
マイペースって言って欲しいね。
 だいたい臨界進化?何、それ?って思ってたし。そんなもんに絶対なりたくなかったしさ。
 アウト・オブ・尊敬外ってわけ。
(そういうざっくばらんなところが逆にアギュには良かったんかにょ~?)
 訂正。ユウリにだろ?
(かわいそうにゃガンちゃんにょ)


僕はカプートに対して自分なりの結論を迫られていた。良く言えば「クラッシックなベーシックオタク。」
僕は声に出して言ってみた。
「イエ~ス。」カプートはいきなり言葉を発した。「まあ~、そんな感じですかね~」
すぐに、脱力。「よろしく~、です。」
まったく覇気がない。つかめない。声自体は悪くないのに。
僕は困ってユウリを見る。ユウリはニコニコしてうなずいた。
「カプートは私が見つけて来たの。目立ってたから。」目立ちすぎだっての。こんな奴、上層クラスにいたっけか?
まあ、10000人ぐらい、生徒がいるからわかるわけないか。
カプートはいきなり大きな書物を取り出した。流行の人類回帰運動家みたいだ。ドラコと話が合いそう。


(言葉と文字は切り離せないにゃ)


「夢の中でも本読むわけ?」
「物理サイコー」あ、そう。仕える神が違うのね、僕たち。
「そんなことどうだっていいじゃん!ソイツはほっといてやれ!」アギュがじれた。
「ユウリがどうしても、連れて行きたいならオレが許してやってもいいけど。」
ユウリはひざまずく。「お願い。アギュ」手を組み合わせおねだりポーズ。
長いまつ毛の下から仰ぎ見るようにしてまさに、特別に生き生きとした表情をみせた。
それを見下ろすアギュの頬には勝ち誇るような赤味が差した。
シドラ・シデンの鼻が盛大に鳴ったが、そんなこと今はどうでもいい。
僕はカッとなった。口が勝手に開く。
「つくづく、自分が中心じゃないと気に入らないのな、お前。」
「実際、中心だろ?」こいつ!。「誰か文句あんの?」涼しい顔。忌々しい。
「それを言ったら身もフタもないだろがっ。」コブシを固める僕。
「事実だから仕方ないです~。行きましょう~ガンダルファさん。」
カプートが僕の手を掴んだ。
「殴っても無駄。時間も無駄。」シドラ・シデンも闇を振り返った。
「バラキ」
黒いとぐろが頭上に立ち上がる。デカイ。思ったよりデカイ。でかいシドラが問題にならないくらいにデカイ。目の前の黒光りするウロコも直径ユウリぐらいある。頭の方はもやもやとした渦に覆われよく見えない。真っ赤な目だけが光っている。ドラコが僕の中に半分隠れたくなるのも無理はない。にょ~。僕はそっと、小さく叩いて励ました。
「さあオレとピクニックだ。」アギュははしゃいだ。「わくわくするな。」
「それにしても」ユウリが僕を見る。オレンジ色の髪飾りに縁取られて、お日様のよう。
白いスーツはパジャマかしらん。うーん、良い輪郭。
「なんか、アギュとガンダルファっていい友達になれそう!」クスリと笑う。
クスリじゃねー!僕とアギュは同時に叫んだ。「絶対にならない!」
「そんなに嫌がらなくても・・」たじろぐユウリ。「ねぇ、シドラ?」
シドラ・シデンはオーッマイガーットポーズで参戦せず。対照的に黒いスーツ。
シドラは利口だ。面倒ごとはとことん嫌いなタイプ。
僕もそうだったんだが。あれ?おかしいな。
僕がブツブツ言ってる間にアギュが高らかに号令していた。
「みんなオレに付いてこい!」アギュの光がみるまに濃くなる。
「バラキ、頼む。」シドラは再び肩をすくめた。
バラキもフン!と言わなかったか?。ペットは主人に似るというし。


(ワームはペットじゃないにょ!)例えだよ、例え。
 しかし、団子状態とはいえ初めて乗ったワームの背中がバラキだったとは。
(ドラコも初めだったにょ!)そ、そうか。ドラコはワームの親がいなかったからなあ。
 うっと目頭を押さえる。(ガンちん、涙が出てないにょ!)
 ところで契約してないのにワームに乗れるのは、やっぱり生身じゃないからなのかな?
(ワームが見える人なら生身でも可能かにゃ?でも、あくまで臨時の特別待遇にょ~)
 聞いたかい?今度、機会があったら試してみるか?。遠慮すんなよ。鯉のぼりに跨がる二人の男、大歓迎だぜ。
(ふ、二人にゃ~大丈夫かにゃ。が、がんばるにょ)


僕らはバラキと溶け合って宙を飛んだ。わお!生身じゃなくても夢でもすごいよ、これ!夢で見てもデカイから実際にドラゴン・ボーイとなって、宇宙空間で見たらさぞ壮観だろう。スクールでは、ワームドラゴンはシドラの回りの次元の狭間に隠れていて姿を現すことはなかった。見える人間は少なかったが存在を感じ取れる生徒の中には管理官に苦情を言ったり、体調を崩したりする奴がいたから仕方なかった。
今はバラキは巨体をくねらせている。盛り上がる目の前の背中。ウロコの割れ目と透明なヒレに捕まっている感覚はあるが宙を飛ぶような抵抗感は皆無。寒さも熱も感じない。息もできるし、まるですごくリアルな夢を見ているようだ・・って夢なんだけどさ。ほんとに魂が抜け出したら、こんなだろうと言うよ。自覚があって、思い通りになる夢の中。
そんな夢のキャラバンの先頭をアギュが行く。
アギュの青い光を追いかけるようにバラキも飛ぶ。
無酸素地帯の星の流れ、大気圏突入、惑星の大気の流れを目で楽しむ間も無く、もう僕らはその星の空にいた。第23番惑星も夜だった。スクールにいつも見せている側は真っ暗な大地だった。遥か端の稜線がやがて来る朝の光の予感に光っている。
バラキは高度をどんどん落として惑星の大地と森に近づいて行った。すると所々にかすかな明かり、深い森の中に飛び飛びの施設らしき建物が確認できた。
「あそこは入り口なの。」ユウリがささやく。「研究所本体は地下にあるの。」
「地殻のほとんどを食い尽くしてな。」バラキの頭の上にスクッと立つシドラ。
かっこよかったな~。ドラコと共にしがみつくのがやっとの僕も、自分がワームを操る姿を思い描こうとした。
しかし、麗しい映像をはっきり思い描く前にアギュに邪魔される。
「どんな研究をしてるか、ガンダルファに見せてやれ!」うきうきしながら僕に付きまとうんだから、ほんとうっとしい。
お前は青バエか。
「私達は実体がないから見つからないの。だから大丈夫よ。」ユウリはシドラの足下に横たわり身体をもたれさせている。
乗り慣れたもんだ。落ち着いている。
「君も研究所の実態を知ってるの?」僕は羽にしがみついている、カプートを振り返った。
「うん。もう、見た~。」少し顔色が悪い。実体がなくてもワーム酔いってあるのかね。
「頼む」シドラがバラキの角を優しくなでた。ワームとワーム使いは対等な存在だからね。

あっと言う間に僕らは、地下の施設の中を彷徨っていた。それは一つの都市だった。忙しそうな大勢の人々、様々な会話。あふれ返る情報がドッと迫って来るのは恐怖に近いものがあった。主にカプート、時にはユウリやシドラの力を借りて僕はそれらを選別していった。一番地下の深い層が問題の場所らしかった。地熱の熱さが感じられるような最下層。
大小のたくさんのカプセルやドームが乱立し、組立工場のようにも見える。もしくは養鶏場か動物園のような。細かく区切られたブース、巨大な会議室。その研究所で行われてることがはっきり理解できるまで僕には時間がかかった。カプートが暗い低い声で丁寧に説明してくれた。夢で物理の本を持ち歩くぐらいだ、彼はとてもくわしかった。たぶん、生物や科学技術のことも。シドラが時々、口をはさむ。ユウリは途中から黙って目をそらしてしまう。アギュは終始一貫して、ニヤニヤしながら僕を観察していた。
僕は、僕らから取られた細胞、血液、DNAが何に使われているかを知ったんだ。
もう、だいたい想像できるだろう?。
その部署では、僕らの細胞とそのパーツが遺伝子操作と体外受精を繰り返されていた。ゲージに入ったたくさんの赤ん坊。
「付加をかけて育てるから~通常とは成長が違うのです。」カプートが説明を続ける。
「色々な組み合わせを試してます~小さいカプセルはもっと細かい臓器を培養してます~」
「待って!」僕は慌てる。「色んな組み合わせって、僕たちの子供ってこと?」
ユウリとカプートが顔を見合わせる。アギュがけたたましく笑う。
「もちろんさ!オマエも秘かに子持ちだ!オヤジだ、ジジイだ!」
「え、じゃあユウリと僕とか?」
「にやけるな!」シドラがどつく。
「ユウリの一族は連盟では非公式だから、反中外だ。」
「あたしは保護動物なの。」ユウリがはしゃぐ。
「なんだよ。勝ち誇って!」僕はぞっとした。
「細胞操作なら男女は関係ありません。」カプートがすまなそうに付け足す。
「まさか、シドラとも?」シドラはにやつく。「あらゆる組み合わせと言ったろが。」
「ぼくともアギュのともあるでしょうね~お気の毒です。」
「えー!」まるっきり、テンション下がりまくりだよ。


(ドラコとはあるのかにゃ~)あるわけあるか。DNAもないくせに。(差別にょ~)