スパイラルゼロ-10 シドラ・シデン-2
翌朝、食堂に行くとシドラ・シデンが一人で座っていた。
いつもなら3人でとるのだが、これ幸い。
僕はアサメシを取るとまっすぐ隣に行って腰掛けた。
「ユウリは?」
「朝のお勤めだ。」アギュタイムってことか。「あでも、時間早くね?」
「今日はユウリと食べるのだそうだ。」シドラは自分の食べかすの残った皿を見下ろした。
「いつもの気まぐれだ。おかげで我達も味気ないってもんだ。」
シドラはストローをキュッと鳴らした。
「昨日はご苦労だったな。」
「いえいえ。」
「ユウリの期待によく応えた。」
「はあ。」僕はいごこち悪くなる。
シドラが食事の相手を僕一人で我慢してくれてるみたいだったので、僕は昨日から一番聞きたかったことを勇気を持って聞いてみることにした。
「あのさ、シドラ・シデン・・ユウリが好きなわけ?」
「ほらな。聞くと思った。」シドラが肩をしゃくったのでそこにバラキが控えてるのがわかった。
「我はユウリが好きなのだ。ガンダルファ」
真面目な顔してシドラ・シデンの目は笑っていた。
「この返事で満足したか?」あの~恥ずかしげもなく・・え~と。
「ちなみにユウリには告白済みである。パートナーとしての将来性を検討してもらってる。」
「えーっ!なんだよ、それっ?もう、そんなことまで?」
「我は子供などいらぬ。ユウリがアースに帰るなら我もその星に身を埋めてもかまわないと思っている。」
僕はあきれると同時に感心してしまった。まったく臆面もなく、うらやましいぞ~ほんと勇気あるじゃん。それに比べて、僕ときたら。ふう。告白かあ。昨日の話の後だとなあ。
友達からジワジワ攻める以外の作戦は失敗しそうな気がすんだよなあ。くうー。
なになにゃ?なににゃ? ドラコが興味津々。片言を話し出した。おおっ!お父ちゃんは嬉しいぞ!感激~と思う暇もなく。 はにゃしってなんにゃ~
「バラキ!」シドラの一言でバラキがドラコをゴクンと飲み込んで空間に消えた。
もにょ~
あ、でも待てよ。「お前も女じゃん」
「これだから、田舎者は。」シドラは顔をしかめた。
「中枢ではパートナーを同性にすることは珍しくもない。」
「うーん、確かに・・そういうこともあるとは聞いていたけどさー」
僕ら人類の寿命は格段に伸びていた。子孫を残すだけのことなら性は、もうあまり意味はなかった。実際、ニュートロンの間ではすでにどんな組合わせでも関係なかった。そもそも、肉体交渉なんて奴らはしないしね。
(子供だって、優性遺伝子しか残さないし自分で育てないし。試験官ベイビー達は連邦国家がまとめて面倒をみるってのが普通だもんね。)
もちろん、そういう流れが存在するってことはわかってたんだけど。だってさ、原始星は・・特にジュラは保守的な星なんだもん。
「イヤラシイことしか考えてないから、広い視点を持てないのだ。」
なんだと。その通りだよ、悪いか。はあ、しかし。
「シドラが僕のライバルかあ」
「最大のライバルは臨界進化体だ。」シドラは冷静に問題提起した。
「まあ、取り敢えずそういうことにして置こう。」
「なんだよ、それ?」
「我はおぬしよりも、アギュよりも先にユウリを知った。なにしろ同じ船で来たのだからな。」
前回の招集かあ。その頃はまだアギュは政治的には目覚めてなかったんだっけ。
「最初はおぬしと同じ、ソリュートの腕に魅かれた。」シドラは続けた。
「我はユウリがどれだけアギュの心を開く為に苦心したか、すべて見ていた。
我もワームを持つ者だ。二人の心が交流していくのはなんとなくわかってしまう。
例えどんなに見たくなくてもな。」
「・・それでもユウリなの?シドラ、僕なら」耐えられない。
「あの娘は連邦の辺境から来た。色々事情を抱えている。その辺はある程度聞いたな。」
シドラはカフェオレを飲み干した。
「だからかな。あれは外宇宙には珍しい、心のキレイな娘だ。計算がない。戦略と言うものがない。危険だ。見てられなかった。」
野望、出世、ねたみ、ジェラシー。そういうのか。
「あの娘がアギュを目覚めさせたこと、臨界進化体の側にいつもいることをおもしろくおもわない者も多いのも知ってるな?」はい、それは僕です。いや、でも違う。
それは主にニュートロン達のことだろう。一緒にされたくないぞ。
僕が嫉んでるのはアギュなんだもんな。
「ユウリは中枢に野望なんて持ってない。あの娘の最大の希望は、父親と共に故郷に帰ることだった。今は・・違うのかも知れんが・・それはともかく、」息をつぐ。
「アギュは連邦最大の機密、希望と言ってもいい。出世したい為にアギュとかかわりたがる奴のなんと多いこと。アギュの偏屈な性格と、ここと研究所の代表責任者の所長がそれらをある程度、遠ざけてはいるが・・」
シドラ・シデンとしては異例の長セリフを僕はおとなしく拝聴する。
「嫉妬は草の下に潜む思い掛けない毒蛇だ。一瞬で殺されることもある。素直な心はそれゆえ、頑固だ。ユウリは草むらや薮にためらわず入っていく。誰かが気を付けてやらねば。」
「それがあんたってこと?」ちよっと嫌みだったか。でもシドラは素直にうなずく。
こいつもストレート過ぎて危なくね?まじ心配。
「直球勝負では勝ち目はないと知ってる、ユウリがあれだからな。アギュがかわいそう、とはな。何が、どこが可哀相だ、まったく!あやつは我達とは違う存在なんだ!同じ人間と思っちゃいかんのだ!。」
ストローがバキッと折れる。
「寿命のことだけじゃない。同じ次元にいるのかいないのかもわからなくなる奴とパートナーもないだろ。一人で無駄に年取って死ぬだけだ。」
薄い材質のカップのフタが握力責めで飛ぶ。シドラ・シデンが本気になったら、アギュだってどうまるかわからないと背筋が寒くなる。
「だいたいアギュはおのれが一番、大事なんだ。おのれが寂しいのが嫌だから、ユウリのご機嫌を取ってるだけなのだ。ユウリの寿命を利用してるのだ!」
とうとうカップが粉砕された。残り水と氷がテーブルに飛び散る。
僕は自分のエサを慌ててどかす。
「でも・・ユウリは、アギュを・・好きなんじゃ・・ないの?」
「好きなものか!」やっとのことエサを飲み込んだ僕を睨みつけるので、僕は食欲を失う。
「あれは罪悪感だ。同情だ!母親が子供の心配してるのと一緒ではないか!」
今度はプレートを叩き付ける。ポテトの切れ端が僕の顔に飛んだ。
「何度もユウリに言ったのだがな。色恋ではないと。つまらない約束をしたことを悔やんでるから、自分の気持ちすら見失うのだ。」
シドラは腕を振り回すのを止めて、咳払いをした。
僕が顔からケチャップを拭ってるのを見て、自分を抑えることを思い出したらしい。
「フン。相手は臨界進化体だ。回りもあーだこーだうるさいからな。アギュがユウリにずっといて欲しいとか、わがままを言い出さなきゃ心配することはないのかもな。もし、そんなことを言い出したら・・見てるがいい!」背後のバラキの目も赤く光ってるようだ。思わずドラコにも僕は同情する。
「あ、でも、昨日ユウリから聞いたんだけど、アギュは好きにしろって言ったらしいけど。」
僕は思い出して報告。
「昨日?我が惑星から帰る前か?」
「うん。僕がリングに行った時、最初はアギュがいたんだ。」
「あやつが?」シドラ・シデンは眉を寄せる。凶悪な表情。
「どうだかな。あやつがそんなこと言うとは・・本気とは思えん。」
「じゃあ、冗談?」
「わからん。」シデンは腕を組んだ。
「しかし、メンツがあるから泣いてすがったりする奴ではない。所長にうまく間に立ってもらうか。」
「所長って・・イリト・ヴェガって人?」
話ながら、わずかにうなづく。
「シドラって、親しいの?」
「ユウリも連邦が恩赦と帰還命令を出せばあきらめるしかないだろう。どうにか、あきらめて欲しいものだ・・」
熱く語る彼女。僕の当然の質問は無視されてしまった。しかしまあ。
なんともいじましいシドラ・シデン。ハーッと息を吐く。僕の前の塵のような食べかすが舞い上がる。
「ユウリの星もベースは古風だ。アギュはやがて男ですらなくなる。そうしたら、ハンデは我となんら変らない。」
「そうだね。アギュに比べたら僕らはずっと身近にいられるし。自由だし。」
いつの間にか僕はシデンに親近感を覚えていた。
「おぬしはあきらめろ」
「嫌なこった!」僕はニヤリとした。
その頃のシドラ・シデンは僕より背が高くて、素早く動かすことに長けた鍛え抜かれた体をしていた。控えめに言っても、どっちかと言うと男らしい体をしていた。ユウリも進化体に混ざると頭一つ大きかったが、僕から比べると小さくて可愛い女の子に過ぎなかった。そんなわけで、シドラのでかさは推察すべし。
進化体の奴らも彼女のリーチが届かないところで、ジュラの大猿だのジュラ原人とか呼んでいた。でもシドラ・シデンはまったく相手にしてなかった。だってシドラが本気になったら、瞬殺だよ、瞬殺。
(シドラが聞いたらガンちゃんが瞬殺にょ~)
だまっててよね、ドラコ。後で「取ってこ~い!」して遊んだるから。
(それ、楽しいにょ?ならいいにゃ!でも、バラキはごまかせるかにゃ~?)
シドラが指をパチリと鳴らすと、一瞬巨大なバラキの頭の一部が現れた。
んにょ、にょ~ ジタバタするドラコをプッと吐き出す。ドラコ果敢に反撃を試みるも玉砕。爪に噛み付くも一振りで僕の上に吹っ飛ばされた。
うにょ~!ドラコ哀れ。バラキの一部はかき消すように見えなくなる。電磁波の名残がチリチリと漂うばかりだ。
「では。そろそろユウリを迎えに行ってやらねば。」
シドラ・シデンは立ち上がると立ち去った。
「ほっとけば、ずっと側に置いとかれる。」
おい、アサメシの後始末は僕かよ。
「アギュが嫌だと言ったら?この前、ふてくされてた時みたいにさ。」
「お付がいなかったら、ぶっとばしてやる。」
「ぜひ、そうして。」
でも僕は彼女がちょっとうらやましかった。告白か~してみるってどうよ。
今はちょっとキビシイけど。
シドラが直球勝負なら、僕は友達からお願いします!って、変化球勝負だ。
(バラキは未だにドラコを赤ちゃん扱いするにょ!むかつくにょ~)
ドラゴンの幼体であるまぎれもない証拠のヒレをヒラヒラさせててますけどね、ドラちゃんや。
(今にマッチョなドラゴンになってバラキを振り向かせて見せるにゃ!)
えって、待って?じゃあ、ドラコってオスって前にバラキってメスなの?
前にシドラが僕のワームの名前を笑ったことがある。
「ドラゴンにドラコってそのまんますぎる名前だな。」だって考えたのは子供の時なんだから。ジュラの子供の夢でしょ。
「じゃあ、バラキって何だよ。」
「フルネームは薔薇騎魔維羅ばらきまいらだ」
シドラは得意そうに鼻を膨らませた。それで僕はこいつは見かけ通りのヤンキーだとわかった訳だけど。ドラゴンの性別までは聞いてなかったよまいったな。
さて食堂に一人残された僕は深く考えるのをやめて、アサメシ二人分を片づけ、ドラコをギュッと固めてポケットの突っ込んだ。ドラコはまだふくれて駄々をこねてたから、うるさいんだもん。
僕のユウリへの想いもちょっとだけ強固なモノになった気がした。
だって確かにユウリだってアギュをあきらめて、もっと身近な誰かと生涯を暮らしたくなるかもしれない。僕だってユウリのアースで一生を終えてみるって選択肢もありかも。とにかく、アギュがいいと言ってるんだ。彼との便宜的な一時の約束に一生心をを縛られるなんて馬鹿げた話だ。アギュもそろそろ大人になってもいいはずだ。違うかい?。
ジュラのドラゴンボーイだって500年は生きられる。ユウリが生きてる限り、時間はまだあるってこと。
ベースが古風なら絶対、男の方が有利だって。
(ユウリに有利ってガンちゃんは言いたいのにょ?)それじゃ、オヤジギャグでしょが。
(そろそろ言い出したくなるお年頃かと思ったにょ)
え?最近のシドラ・シデンとイメージが合わないって?。
確かに、女って変るよな~。軍の編成替えで久しぶりに再会した時は目を疑ったもの。
まあ、すっかりナイスバディになっちまって。ちょっとグッときたかな。でも、口を開けば相変わらずだものな~。今だに男より女にモテてるみたいだしさ。
(ちょっと待つにゃ!なんか来たにゃ!)
おいおい、シドラじゃないか?やべぇ!何しに来たんだ?。
えっ?あ、はい?
アギュが呼んでるって?マジ?マジすか?まいったなー、ほんと。
え?どこ行きゃいいの?通信室?、あじゃあ、ちょっと行って来るわ。
すぐ帰るから待ってて。
(やっぱりバラキにちくられたにょ~)
ドラコ、早くバラキを縛けるようになってくれよ。
(んにょ~それを言われると弱いにょ)
翌朝、食堂に行くとシドラ・シデンが一人で座っていた。
いつもなら3人でとるのだが、これ幸い。
僕はアサメシを取るとまっすぐ隣に行って腰掛けた。
「ユウリは?」
「朝のお勤めだ。」アギュタイムってことか。「あでも、時間早くね?」
「今日はユウリと食べるのだそうだ。」シドラは自分の食べかすの残った皿を見下ろした。
「いつもの気まぐれだ。おかげで我達も味気ないってもんだ。」
シドラはストローをキュッと鳴らした。
「昨日はご苦労だったな。」
「いえいえ。」
「ユウリの期待によく応えた。」
「はあ。」僕はいごこち悪くなる。
シドラが食事の相手を僕一人で我慢してくれてるみたいだったので、僕は昨日から一番聞きたかったことを勇気を持って聞いてみることにした。
「あのさ、シドラ・シデン・・ユウリが好きなわけ?」
「ほらな。聞くと思った。」シドラが肩をしゃくったのでそこにバラキが控えてるのがわかった。
「我はユウリが好きなのだ。ガンダルファ」
真面目な顔してシドラ・シデンの目は笑っていた。
「この返事で満足したか?」あの~恥ずかしげもなく・・え~と。
「ちなみにユウリには告白済みである。パートナーとしての将来性を検討してもらってる。」
「えーっ!なんだよ、それっ?もう、そんなことまで?」
「我は子供などいらぬ。ユウリがアースに帰るなら我もその星に身を埋めてもかまわないと思っている。」
僕はあきれると同時に感心してしまった。まったく臆面もなく、うらやましいぞ~ほんと勇気あるじゃん。それに比べて、僕ときたら。ふう。告白かあ。昨日の話の後だとなあ。
友達からジワジワ攻める以外の作戦は失敗しそうな気がすんだよなあ。くうー。
なになにゃ?なににゃ? ドラコが興味津々。片言を話し出した。おおっ!お父ちゃんは嬉しいぞ!感激~と思う暇もなく。 はにゃしってなんにゃ~
「バラキ!」シドラの一言でバラキがドラコをゴクンと飲み込んで空間に消えた。
もにょ~
あ、でも待てよ。「お前も女じゃん」
「これだから、田舎者は。」シドラは顔をしかめた。
「中枢ではパートナーを同性にすることは珍しくもない。」
「うーん、確かに・・そういうこともあるとは聞いていたけどさー」
僕ら人類の寿命は格段に伸びていた。子孫を残すだけのことなら性は、もうあまり意味はなかった。実際、ニュートロンの間ではすでにどんな組合わせでも関係なかった。そもそも、肉体交渉なんて奴らはしないしね。
(子供だって、優性遺伝子しか残さないし自分で育てないし。試験官ベイビー達は連邦国家がまとめて面倒をみるってのが普通だもんね。)
もちろん、そういう流れが存在するってことはわかってたんだけど。だってさ、原始星は・・特にジュラは保守的な星なんだもん。
「イヤラシイことしか考えてないから、広い視点を持てないのだ。」
なんだと。その通りだよ、悪いか。はあ、しかし。
「シドラが僕のライバルかあ」
「最大のライバルは臨界進化体だ。」シドラは冷静に問題提起した。
「まあ、取り敢えずそういうことにして置こう。」
「なんだよ、それ?」
「我はおぬしよりも、アギュよりも先にユウリを知った。なにしろ同じ船で来たのだからな。」
前回の招集かあ。その頃はまだアギュは政治的には目覚めてなかったんだっけ。
「最初はおぬしと同じ、ソリュートの腕に魅かれた。」シドラは続けた。
「我はユウリがどれだけアギュの心を開く為に苦心したか、すべて見ていた。
我もワームを持つ者だ。二人の心が交流していくのはなんとなくわかってしまう。
例えどんなに見たくなくてもな。」
「・・それでもユウリなの?シドラ、僕なら」耐えられない。
「あの娘は連邦の辺境から来た。色々事情を抱えている。その辺はある程度聞いたな。」
シドラはカフェオレを飲み干した。
「だからかな。あれは外宇宙には珍しい、心のキレイな娘だ。計算がない。戦略と言うものがない。危険だ。見てられなかった。」
野望、出世、ねたみ、ジェラシー。そういうのか。
「あの娘がアギュを目覚めさせたこと、臨界進化体の側にいつもいることをおもしろくおもわない者も多いのも知ってるな?」はい、それは僕です。いや、でも違う。
それは主にニュートロン達のことだろう。一緒にされたくないぞ。
僕が嫉んでるのはアギュなんだもんな。
「ユウリは中枢に野望なんて持ってない。あの娘の最大の希望は、父親と共に故郷に帰ることだった。今は・・違うのかも知れんが・・それはともかく、」息をつぐ。
「アギュは連邦最大の機密、希望と言ってもいい。出世したい為にアギュとかかわりたがる奴のなんと多いこと。アギュの偏屈な性格と、ここと研究所の代表責任者の所長がそれらをある程度、遠ざけてはいるが・・」
シドラ・シデンとしては異例の長セリフを僕はおとなしく拝聴する。
「嫉妬は草の下に潜む思い掛けない毒蛇だ。一瞬で殺されることもある。素直な心はそれゆえ、頑固だ。ユウリは草むらや薮にためらわず入っていく。誰かが気を付けてやらねば。」
「それがあんたってこと?」ちよっと嫌みだったか。でもシドラは素直にうなずく。
こいつもストレート過ぎて危なくね?まじ心配。
「直球勝負では勝ち目はないと知ってる、ユウリがあれだからな。アギュがかわいそう、とはな。何が、どこが可哀相だ、まったく!あやつは我達とは違う存在なんだ!同じ人間と思っちゃいかんのだ!。」
ストローがバキッと折れる。
「寿命のことだけじゃない。同じ次元にいるのかいないのかもわからなくなる奴とパートナーもないだろ。一人で無駄に年取って死ぬだけだ。」
薄い材質のカップのフタが握力責めで飛ぶ。シドラ・シデンが本気になったら、アギュだってどうまるかわからないと背筋が寒くなる。
「だいたいアギュはおのれが一番、大事なんだ。おのれが寂しいのが嫌だから、ユウリのご機嫌を取ってるだけなのだ。ユウリの寿命を利用してるのだ!」
とうとうカップが粉砕された。残り水と氷がテーブルに飛び散る。
僕は自分のエサを慌ててどかす。
「でも・・ユウリは、アギュを・・好きなんじゃ・・ないの?」
「好きなものか!」やっとのことエサを飲み込んだ僕を睨みつけるので、僕は食欲を失う。
「あれは罪悪感だ。同情だ!母親が子供の心配してるのと一緒ではないか!」
今度はプレートを叩き付ける。ポテトの切れ端が僕の顔に飛んだ。
「何度もユウリに言ったのだがな。色恋ではないと。つまらない約束をしたことを悔やんでるから、自分の気持ちすら見失うのだ。」
シドラは腕を振り回すのを止めて、咳払いをした。
僕が顔からケチャップを拭ってるのを見て、自分を抑えることを思い出したらしい。
「フン。相手は臨界進化体だ。回りもあーだこーだうるさいからな。アギュがユウリにずっといて欲しいとか、わがままを言い出さなきゃ心配することはないのかもな。もし、そんなことを言い出したら・・見てるがいい!」背後のバラキの目も赤く光ってるようだ。思わずドラコにも僕は同情する。
「あ、でも、昨日ユウリから聞いたんだけど、アギュは好きにしろって言ったらしいけど。」
僕は思い出して報告。
「昨日?我が惑星から帰る前か?」
「うん。僕がリングに行った時、最初はアギュがいたんだ。」
「あやつが?」シドラ・シデンは眉を寄せる。凶悪な表情。
「どうだかな。あやつがそんなこと言うとは・・本気とは思えん。」
「じゃあ、冗談?」
「わからん。」シデンは腕を組んだ。
「しかし、メンツがあるから泣いてすがったりする奴ではない。所長にうまく間に立ってもらうか。」
「所長って・・イリト・ヴェガって人?」
話ながら、わずかにうなづく。
「シドラって、親しいの?」
「ユウリも連邦が恩赦と帰還命令を出せばあきらめるしかないだろう。どうにか、あきらめて欲しいものだ・・」
熱く語る彼女。僕の当然の質問は無視されてしまった。しかしまあ。
なんともいじましいシドラ・シデン。ハーッと息を吐く。僕の前の塵のような食べかすが舞い上がる。
「ユウリの星もベースは古風だ。アギュはやがて男ですらなくなる。そうしたら、ハンデは我となんら変らない。」
「そうだね。アギュに比べたら僕らはずっと身近にいられるし。自由だし。」
いつの間にか僕はシデンに親近感を覚えていた。
「おぬしはあきらめろ」
「嫌なこった!」僕はニヤリとした。
その頃のシドラ・シデンは僕より背が高くて、素早く動かすことに長けた鍛え抜かれた体をしていた。控えめに言っても、どっちかと言うと男らしい体をしていた。ユウリも進化体に混ざると頭一つ大きかったが、僕から比べると小さくて可愛い女の子に過ぎなかった。そんなわけで、シドラのでかさは推察すべし。
進化体の奴らも彼女のリーチが届かないところで、ジュラの大猿だのジュラ原人とか呼んでいた。でもシドラ・シデンはまったく相手にしてなかった。だってシドラが本気になったら、瞬殺だよ、瞬殺。
(シドラが聞いたらガンちゃんが瞬殺にょ~)
だまっててよね、ドラコ。後で「取ってこ~い!」して遊んだるから。
(それ、楽しいにょ?ならいいにゃ!でも、バラキはごまかせるかにゃ~?)
シドラが指をパチリと鳴らすと、一瞬巨大なバラキの頭の一部が現れた。
んにょ、にょ~ ジタバタするドラコをプッと吐き出す。ドラコ果敢に反撃を試みるも玉砕。爪に噛み付くも一振りで僕の上に吹っ飛ばされた。
うにょ~!ドラコ哀れ。バラキの一部はかき消すように見えなくなる。電磁波の名残がチリチリと漂うばかりだ。
「では。そろそろユウリを迎えに行ってやらねば。」
シドラ・シデンは立ち上がると立ち去った。
「ほっとけば、ずっと側に置いとかれる。」
おい、アサメシの後始末は僕かよ。
「アギュが嫌だと言ったら?この前、ふてくされてた時みたいにさ。」
「お付がいなかったら、ぶっとばしてやる。」
「ぜひ、そうして。」
でも僕は彼女がちょっとうらやましかった。告白か~してみるってどうよ。
今はちょっとキビシイけど。
シドラが直球勝負なら、僕は友達からお願いします!って、変化球勝負だ。
(バラキは未だにドラコを赤ちゃん扱いするにょ!むかつくにょ~)
ドラゴンの幼体であるまぎれもない証拠のヒレをヒラヒラさせててますけどね、ドラちゃんや。
(今にマッチョなドラゴンになってバラキを振り向かせて見せるにゃ!)
えって、待って?じゃあ、ドラコってオスって前にバラキってメスなの?
前にシドラが僕のワームの名前を笑ったことがある。
「ドラゴンにドラコってそのまんますぎる名前だな。」だって考えたのは子供の時なんだから。ジュラの子供の夢でしょ。
「じゃあ、バラキって何だよ。」
「フルネームは薔薇騎魔維羅ばらきまいらだ」
シドラは得意そうに鼻を膨らませた。それで僕はこいつは見かけ通りのヤンキーだとわかった訳だけど。ドラゴンの性別までは聞いてなかったよまいったな。
さて食堂に一人残された僕は深く考えるのをやめて、アサメシ二人分を片づけ、ドラコをギュッと固めてポケットの突っ込んだ。ドラコはまだふくれて駄々をこねてたから、うるさいんだもん。
僕のユウリへの想いもちょっとだけ強固なモノになった気がした。
だって確かにユウリだってアギュをあきらめて、もっと身近な誰かと生涯を暮らしたくなるかもしれない。僕だってユウリのアースで一生を終えてみるって選択肢もありかも。とにかく、アギュがいいと言ってるんだ。彼との便宜的な一時の約束に一生心をを縛られるなんて馬鹿げた話だ。アギュもそろそろ大人になってもいいはずだ。違うかい?。
ジュラのドラゴンボーイだって500年は生きられる。ユウリが生きてる限り、時間はまだあるってこと。
ベースが古風なら絶対、男の方が有利だって。
(ユウリに有利ってガンちゃんは言いたいのにょ?)それじゃ、オヤジギャグでしょが。
(そろそろ言い出したくなるお年頃かと思ったにょ)
え?最近のシドラ・シデンとイメージが合わないって?。
確かに、女って変るよな~。軍の編成替えで久しぶりに再会した時は目を疑ったもの。
まあ、すっかりナイスバディになっちまって。ちょっとグッときたかな。でも、口を開けば相変わらずだものな~。今だに男より女にモテてるみたいだしさ。
(ちょっと待つにゃ!なんか来たにゃ!)
おいおい、シドラじゃないか?やべぇ!何しに来たんだ?。
えっ?あ、はい?
アギュが呼んでるって?マジ?マジすか?まいったなー、ほんと。
え?どこ行きゃいいの?通信室?、あじゃあ、ちょっと行って来るわ。
すぐ帰るから待ってて。
(やっぱりバラキにちくられたにょ~)
ドラコ、早くバラキを縛けるようになってくれよ。
(んにょ~それを言われると弱いにょ)