MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-10

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-10  シドラ・シデン-2



翌朝、食堂に行くとシドラ・シデンが一人で座っていた。
いつもなら3人でとるのだが、これ幸い。
僕はアサメシを取るとまっすぐ隣に行って腰掛けた。
「ユウリは?」
「朝のお勤めだ。」アギュタイムってことか。「あでも、時間早くね?」
「今日はユウリと食べるのだそうだ。」シドラは自分の食べかすの残った皿を見下ろした。
「いつもの気まぐれだ。おかげで我達も味気ないってもんだ。」
シドラはストローをキュッと鳴らした。
「昨日はご苦労だったな。」
「いえいえ。」
「ユウリの期待によく応えた。」
「はあ。」僕はいごこち悪くなる。
シドラが食事の相手を僕一人で我慢してくれてるみたいだったので、僕は昨日から一番聞きたかったことを勇気を持って聞いてみることにした。
「あのさ、シドラ・シデン・・ユウリが好きなわけ?」
「ほらな。聞くと思った。」シドラが肩をしゃくったのでそこにバラキが控えてるのがわかった。

「我はユウリが好きなのだ。ガンダルファ」
真面目な顔してシドラ・シデンの目は笑っていた。
「この返事で満足したか?」あの~恥ずかしげもなく・・え~と。
「ちなみにユウリには告白済みである。パートナーとしての将来性を検討してもらってる。」
「えーっ!なんだよ、それっ?もう、そんなことまで?」
「我は子供などいらぬ。ユウリがアースに帰るなら我もその星に身を埋めてもかまわないと思っている。」
僕はあきれると同時に感心してしまった。まったく臆面もなく、うらやましいぞ~ほんと勇気あるじゃん。それに比べて、僕ときたら。ふう。告白かあ。昨日の話の後だとなあ。
友達からジワジワ攻める以外の作戦は失敗しそうな気がすんだよなあ。くうー。
なになにゃ?なににゃ? ドラコが興味津々。片言を話し出した。おおっ!お父ちゃんは嬉しいぞ!感激~と思う暇もなく。 はにゃしってなんにゃ~ 
「バラキ!」シドラの一言でバラキがドラコをゴクンと飲み込んで空間に消えた。
もにょ~

あ、でも待てよ。「お前も女じゃん」
「これだから、田舎者は。」シドラは顔をしかめた。
「中枢ではパートナーを同性にすることは珍しくもない。」
「うーん、確かに・・そういうこともあるとは聞いていたけどさー」
僕ら人類の寿命は格段に伸びていた。子孫を残すだけのことなら性は、もうあまり意味はなかった。実際、ニュートロンの間ではすでにどんな組合わせでも関係なかった。そもそも、肉体交渉なんて奴らはしないしね。
(子供だって、優性遺伝子しか残さないし自分で育てないし。試験官ベイビー達は連邦国家がまとめて面倒をみるってのが普通だもんね。)
もちろん、そういう流れが存在するってことはわかってたんだけど。だってさ、原始星は・・特にジュラは保守的な星なんだもん。
「イヤラシイことしか考えてないから、広い視点を持てないのだ。」
なんだと。その通りだよ、悪いか。はあ、しかし。

「シドラが僕のライバルかあ」
「最大のライバルは臨界進化体だ。」シドラは冷静に問題提起した。
「まあ、取り敢えずそういうことにして置こう。」
「なんだよ、それ?」
「我はおぬしよりも、アギュよりも先にユウリを知った。なにしろ同じ船で来たのだからな。」
前回の招集かあ。その頃はまだアギュは政治的には目覚めてなかったんだっけ。
「最初はおぬしと同じ、ソリュートの腕に魅かれた。」シドラは続けた。
「我はユウリがどれだけアギュの心を開く為に苦心したか、すべて見ていた。
我もワームを持つ者だ。二人の心が交流していくのはなんとなくわかってしまう。
例えどんなに見たくなくてもな。」
「・・それでもユウリなの?シドラ、僕なら」耐えられない。
「あの娘は連邦の辺境から来た。色々事情を抱えている。その辺はある程度聞いたな。」
シドラはカフェオレを飲み干した。
「だからかな。あれは外宇宙には珍しい、心のキレイな娘だ。計算がない。戦略と言うものがない。危険だ。見てられなかった。」
野望、出世、ねたみ、ジェラシー。そういうのか。
「あの娘がアギュを目覚めさせたこと、臨界進化体の側にいつもいることをおもしろくおもわない者も多いのも知ってるな?」はい、それは僕です。いや、でも違う。
それは主にニュートロン達のことだろう。一緒にされたくないぞ。
僕が嫉んでるのはアギュなんだもんな。
「ユウリは中枢に野望なんて持ってない。あの娘の最大の希望は、父親と共に故郷に帰ることだった。今は・・違うのかも知れんが・・それはともかく、」息をつぐ。
「アギュは連邦最大の機密、希望と言ってもいい。出世したい為にアギュとかかわりたがる奴のなんと多いこと。アギュの偏屈な性格と、ここと研究所の代表責任者の所長がそれらをある程度、遠ざけてはいるが・・」
シドラ・シデンとしては異例の長セリフを僕はおとなしく拝聴する。
「嫉妬は草の下に潜む思い掛けない毒蛇だ。一瞬で殺されることもある。素直な心はそれゆえ、頑固だ。ユウリは草むらや薮にためらわず入っていく。誰かが気を付けてやらねば。」
「それがあんたってこと?」ちよっと嫌みだったか。でもシドラは素直にうなずく。
こいつもストレート過ぎて危なくね?まじ心配。
「直球勝負では勝ち目はないと知ってる、ユウリがあれだからな。アギュがかわいそう、とはな。何が、どこが可哀相だ、まったく!あやつは我達とは違う存在なんだ!同じ人間と思っちゃいかんのだ!。」
ストローがバキッと折れる。
「寿命のことだけじゃない。同じ次元にいるのかいないのかもわからなくなる奴とパートナーもないだろ。一人で無駄に年取って死ぬだけだ。」
薄い材質のカップのフタが握力責めで飛ぶ。シドラ・シデンが本気になったら、アギュだってどうまるかわからないと背筋が寒くなる。
「だいたいアギュはおのれが一番、大事なんだ。おのれが寂しいのが嫌だから、ユウリのご機嫌を取ってるだけなのだ。ユウリの寿命を利用してるのだ!」
とうとうカップが粉砕された。残り水と氷がテーブルに飛び散る。
僕は自分のエサを慌ててどかす。
「でも・・ユウリは、アギュを・・好きなんじゃ・・ないの?」
「好きなものか!」やっとのことエサを飲み込んだ僕を睨みつけるので、僕は食欲を失う。
「あれは罪悪感だ。同情だ!母親が子供の心配してるのと一緒ではないか!」
今度はプレートを叩き付ける。ポテトの切れ端が僕の顔に飛んだ。
「何度もユウリに言ったのだがな。色恋ではないと。つまらない約束をしたことを悔やんでるから、自分の気持ちすら見失うのだ。」
シドラは腕を振り回すのを止めて、咳払いをした。
僕が顔からケチャップを拭ってるのを見て、自分を抑えることを思い出したらしい。
「フン。相手は臨界進化体だ。回りもあーだこーだうるさいからな。アギュがユウリにずっといて欲しいとか、わがままを言い出さなきゃ心配することはないのかもな。もし、そんなことを言い出したら・・見てるがいい!」背後のバラキの目も赤く光ってるようだ。思わずドラコにも僕は同情する。
「あ、でも、昨日ユウリから聞いたんだけど、アギュは好きにしろって言ったらしいけど。」
僕は思い出して報告。
「昨日?我が惑星から帰る前か?」
「うん。僕がリングに行った時、最初はアギュがいたんだ。」
「あやつが?」シドラ・シデンは眉を寄せる。凶悪な表情。
「どうだかな。あやつがそんなこと言うとは・・本気とは思えん。」
「じゃあ、冗談?」
「わからん。」シデンは腕を組んだ。
「しかし、メンツがあるから泣いてすがったりする奴ではない。所長にうまく間に立ってもらうか。」
「所長って・・イリト・ヴェガって人?」
話ながら、わずかにうなづく。
「シドラって、親しいの?」
「ユウリも連邦が恩赦と帰還命令を出せばあきらめるしかないだろう。どうにか、あきらめて欲しいものだ・・」
熱く語る彼女。僕の当然の質問は無視されてしまった。しかしまあ。
なんともいじましいシドラ・シデン。ハーッと息を吐く。僕の前の塵のような食べかすが舞い上がる。
「ユウリの星もベースは古風だ。アギュはやがて男ですらなくなる。そうしたら、ハンデは我となんら変らない。」
「そうだね。アギュに比べたら僕らはずっと身近にいられるし。自由だし。」
いつの間にか僕はシデンに親近感を覚えていた。
「おぬしはあきらめろ」
「嫌なこった!」僕はニヤリとした。

その頃のシドラ・シデンは僕より背が高くて、素早く動かすことに長けた鍛え抜かれた体をしていた。控えめに言っても、どっちかと言うと男らしい体をしていた。ユウリも進化体に混ざると頭一つ大きかったが、僕から比べると小さくて可愛い女の子に過ぎなかった。そんなわけで、シドラのでかさは推察すべし。
進化体の奴らも彼女のリーチが届かないところで、ジュラの大猿だのジュラ原人とか呼んでいた。でもシドラ・シデンはまったく相手にしてなかった。だってシドラが本気になったら、瞬殺だよ、瞬殺。

(シドラが聞いたらガンちゃんが瞬殺にょ~)
 だまっててよね、ドラコ。後で「取ってこ~い!」して遊んだるから。
(それ、楽しいにょ?ならいいにゃ!でも、バラキはごまかせるかにゃ~?)

シドラが指をパチリと鳴らすと、一瞬巨大なバラキの頭の一部が現れた。
んにょ、にょ~ ジタバタするドラコをプッと吐き出す。ドラコ果敢に反撃を試みるも玉砕。爪に噛み付くも一振りで僕の上に吹っ飛ばされた。
うにょ~!ドラコ哀れ。バラキの一部はかき消すように見えなくなる。電磁波の名残がチリチリと漂うばかりだ。
「では。そろそろユウリを迎えに行ってやらねば。」
シドラ・シデンは立ち上がると立ち去った。
「ほっとけば、ずっと側に置いとかれる。」
おい、アサメシの後始末は僕かよ。
「アギュが嫌だと言ったら?この前、ふてくされてた時みたいにさ。」
「お付がいなかったら、ぶっとばしてやる。」
「ぜひ、そうして。」
でも僕は彼女がちょっとうらやましかった。告白か~してみるってどうよ。
今はちょっとキビシイけど。
シドラが直球勝負なら、僕は友達からお願いします!って、変化球勝負だ。

(バラキは未だにドラコを赤ちゃん扱いするにょ!むかつくにょ~)
ドラゴンの幼体であるまぎれもない証拠のヒレをヒラヒラさせててますけどね、ドラちゃんや。
(今にマッチョなドラゴンになってバラキを振り向かせて見せるにゃ!)
えって、待って?じゃあ、ドラコってオスって前にバラキってメスなの?

前にシドラが僕のワームの名前を笑ったことがある。
「ドラゴンにドラコってそのまんますぎる名前だな。」だって考えたのは子供の時なんだから。ジュラの子供の夢でしょ。
「じゃあ、バラキって何だよ。」
「フルネームは薔薇騎魔維羅ばらきまいらだ」
シドラは得意そうに鼻を膨らませた。それで僕はこいつは見かけ通りのヤンキーだとわかった訳だけど。ドラゴンの性別までは聞いてなかったよまいったな。

さて食堂に一人残された僕は深く考えるのをやめて、アサメシ二人分を片づけ、ドラコをギュッと固めてポケットの突っ込んだ。ドラコはまだふくれて駄々をこねてたから、うるさいんだもん。
僕のユウリへの想いもちょっとだけ強固なモノになった気がした。
だって確かにユウリだってアギュをあきらめて、もっと身近な誰かと生涯を暮らしたくなるかもしれない。僕だってユウリのアースで一生を終えてみるって選択肢もありかも。とにかく、アギュがいいと言ってるんだ。彼との便宜的な一時の約束に一生心をを縛られるなんて馬鹿げた話だ。アギュもそろそろ大人になってもいいはずだ。違うかい?。
ジュラのドラゴンボーイだって500年は生きられる。ユウリが生きてる限り、時間はまだあるってこと。
ベースが古風なら絶対、男の方が有利だって。

(ユウリに有利ってガンちゃんは言いたいのにょ?)それじゃ、オヤジギャグでしょが。
(そろそろ言い出したくなるお年頃かと思ったにょ)

え?最近のシドラ・シデンとイメージが合わないって?。
確かに、女って変るよな~。軍の編成替えで久しぶりに再会した時は目を疑ったもの。
まあ、すっかりナイスバディになっちまって。ちょっとグッときたかな。でも、口を開けば相変わらずだものな~。今だに男より女にモテてるみたいだしさ。

(ちょっと待つにゃ!なんか来たにゃ!)

おいおい、シドラじゃないか?やべぇ!何しに来たんだ?。
えっ?あ、はい?
アギュが呼んでるって?マジ?マジすか?まいったなー、ほんと。
え?どこ行きゃいいの?通信室?、あじゃあ、ちょっと行って来るわ。
すぐ帰るから待ってて。

(やっぱりバラキにちくられたにょ~)
ドラコ、早くバラキを縛けるようになってくれよ。
(んにょ~それを言われると弱いにょ)

GBゼロ-10

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-10


              シドラ・シデン

「聞かされる身にもなれ。」シドラは僕を睨みつけた。
「そもそもおぬしがまぬけだからつまらぬ立場になるんだ。ガンダルファ」
え?僕ですか?
シドラは僕の隣のユウリに目をやった。

「短い生しか持たぬ者が何を言うか」
押し殺した声で言う。
「臨界進化体は何万年と生きるかもわからない。」
シドラの声はあまりに低くて最後はささやくようだった。
「ましてそなたの種族は短命だ。100年がやっとであろう。」
ユウリの目は濡れていつもよりさらに黒々と見えた。彼女は身を返してシドラを見た。
それで僕からユウリの表情は見えなくなった。シドラはユウリだけを凝視する。
「無益な心配に身をやつす前にさっさとおのれの生を全うしろ。」
「・・ええ、そうなのよね」
長い沈黙の後でユウリはやっと言った。僕の胸も痛たんだ。
「ユウリの命が短いからなんだって言うんだ、シドラ・シデン!」
僕は怒りをシドラに向けた。
「だからアギュとはつり合わないって言うのか?」
足場が定まらないがかまっちゃられるか。
「そのとうり」
シドラ・シデンはここが無重力リングとは思えないほどどっしりと安定して浮いている。
「あの、そういう話じゃないんだけど・・」ユウリが言いかけるが聞いちゃいない。
「短いのは僕らだっていくらも変わらない!でも、でもユウリが思うのは勝手だろ!」
「思っても無駄だと言ってる。」
「あの、思うとか思わないとか、そういう話ではなくて・・私は」ユウリは真っ赤になる。
「もう!・・いいわ。」ため息を付く。
「もう、わかったから。もう、いいのよ。やめて、ガンダルファ」
なおも言いたい僕の手首にユウリが振り返って、そっと指を添えた。それは上気した頬とは反対に、とても冷たい指だった。
「ごめんね。ガンダルファ。変なこと相談してほんとごめんなさい。」
ユウリは力なく笑うと身をのばした。
「自分で決めるから。忘れて。」
無重力を漂うドラコを両手でそっと捕んで僕の手の上に乗せた。ドラコは眠りながら小さくゲップした。あ~なんて平和そう、なんかむかつく。
ユウリが後ろも振り返らず、チューブを蹴って出口へと向うと、シドラもすぐに後を追おうとした。「待てよ!シドラ!」
僕が叫ぶとシドラは振り返り、体だけ遠ざかりながら妙な目つきで僕を見た。
「失恋だな、ガンダルファ」
「なんだってんだ!何様なんだお前!」
ムッカッー!わめいて詰め寄ろうとジタバタするのをシドラは慣性にまかせて静かに待っていた。
僕は力が入りすぎて、あやうく激突しそうになる。シドラは両手で僕の肩をこともなく掴んで安定させる。デカイ手に捕まってもがくハエみたいな気分。シドラ・シデンの目は僕と同じ色、髪も肌も同じジュラの色だった。その目がニッと笑った。
「我もだ。」え?ええー!?
シドラ・シデンはすぐにいつもの表情に顔を戻すと、ものすごい力で僕を来た方向に蹴り出した。なすすべもなく慣性に捕まった僕は、ジェット機のように発射される。
その反動を使ってシドラは勢いよく出口へ、飛んで行く。その姿がどんどん遠ざかる。あー、待ってくれー!叫ぶもむなし。壁に背中から叩き付けられるのも嫌だったが、うまい具合にチューブの中心を僕は押し戻されて行く。コントロール良すぎだっての。馬鹿力がー!スピードが付きすぎてむなしくチューブが手をかする。戻るのどんだけかかるのよ。
あっけにとられたまま、やっとホールのブイを捉えて体勢を建て直した時には、僕だけが無重力空間に取り残されていたというわけ。胸にしっかり抱いたワームのいびきを聞きながらね。

(その結び方は失礼にゃ!)そう?でも本当のことだもんねー。
(んにょ、にょ~、人が覚えてないからって~小さい時の話は卑怯にょ~!)
あはは、親戚のおじさんやおばさんからよく聞かされる話だね。
(ガンちゃんだって、おねしょとかしたに決まってるにょ!)
証拠なき誹謗中傷は認めませーん!

その日は教室に行っても、ユウリにもシドラ・シデンにも会えなかった。
僕がいなかったことなんて、誰も教師も気にしてないみたいだったので、僕も部屋に帰って今日の出来事をじっくり検討してみることにした。

その夜。
無重力リングでの出来事のすぐ後なので、僕はユウリとシドラ・シデンに会いずらかった。でも、何事もなかったようなユウリの笑顔に誘われるとついついでかけてしまう。
シドラ・シデンも何食わぬ顔で参加。でも、アギュがいるんで聞くのもはばかられる。残念ながら、その件は明日の昼に持ち越すしかない。夜に秘密があるなんて変な感じだったけど。
しかし、困ったことにカプートがいなかった。こんな時に限って!。
ユウリの話では、実験の準備とやらで寝てる場合じゃないらしい。
僕にしてみりゃ、ちょっと気まずい二人とアギュさましかいないなんて困ったぞ。
仕方がないので、試しにアギュをドラコ・ボールに誘ってみたりして。
「オレが?オマエと?」アギュは目をむく。「なんでオマエと?」
「相手がいないし、体もてあますから。」
期待してないもん。僕は投げたドラコを受け止めながら返事する。
「嫌ならいいよ。」
「オマエがどうしてもって、言うなら、オレは考えてやってもいいぜ。」
あら、珍しい。やりたいなら、やりたいって言えよな。ほんともったいぶってんだから。
その時、ユウリと目が合う。その目が語っている。シドラ・シデンの目には冷やかすような笑いが浮かんでるが、仕方がない。
「・・お願いします。」僕は苦虫を噛みつぶしたようにモゴモゴ。
「なんだって?オレには聞こえないなー。」ちっくしょー。
「お願いいたします!臨界進化さま!」もうやけくそ。
「よーし。そこまで言うなら、付き合ってやる!」
なんか、思ったよりほんとに嬉しそうじゃん。やっぱり、単純なヤツだわ。
「オマエ、オレが嬉しがってるとか思ってるだろ?。」
「思ってませんよー。」
「ほんとはやりたかったくせにとか、勝手に思ってんじゃねーぞ。」
「思ってませんて。」しつけー!意識防御レベル最大値設定だっての。疲れるー。
「言っとくが、オレは嫌々付き合ってんだぞ。」はいはい。

思えばカプートにこの間、指摘されていなければどんなに退屈でもそんなことは言い出さなかったと思う。もし言い出したとしても、ユウリにお願いされたって、速攻断っていたと思う。うーん、なんだろ、これってボランティア? 

(ガンちゃん性格悪いにょ~)これは不可抗力だって。

アギュははっきり言ってお話にならないくらい下手くそだった。僕はとにかく彼が取りやすい球を投げなくてはならなかった。少しでも反それたらキサマの球が悪いとか、取れなかったら自分の流体が薄くなってるからだと一々いちいち言い訳する。それでも、それまでとくらべると随分長い間僕はよく耐えたと思う。これが驚いたことに、まったく楽しくなかったわけでもない。アギュは鍛えたら(それもスパルタでね)ものになりそうなところがあった。なんと言っても身軽だし。自由自在な動きはカプートを思わせるキレが、ところどころ(ホントにところどころね)見られた。
ただ、グダグダうるさいのがめちゃんこ腹が立つ。
ユウリはニコニコして僕らを終始見守っていた。シドラと笑いあったりして。
これでユウリに高得点を叩きだそうなんて、あまりにいじましい作戦かも。苦労の割に成果なし。今も、アギュが変な方に投げたボールを、早よ拾って来いってうるさいし。飛んでんだから、自分が行けっての。それにドラコ玉は自分で帰ってくるんだぞ。
さすがに終わりの方になると僕もご機嫌取りに疲れて来た。
「なんだよ。又OBですか。アギュじいさんよ。」
「うるさい。オマエは黙って拾って来い!。」
「ちぇ・・ああ、早くカプート帰って来てくんないかな?」
「なんか、言ったか?」
「いえいえ。じいちゃん耳遠いんじゃないの?」
「言っとくが、アイツなんかよりオレの方が上なんだかんな。」
「なんだよ!その上とか下とか。めんどくせーな。年のことかよ、じじい。」
アギュはプリプリ怒り出す。
「キサマはほんと口が悪いな!オレがどんだけ我慢してやってるか!」
我慢はこっちも一緒だっての。
「とにかく!あんな出来もしないことを言ってる生意気なヤツとオレを比較なんかしたらぶっとばすぞ。この間、みたいにな。」
無様にぶっ飛ばされた僕の姿が脳裏にフラッシュ・バック。カチ~ン。
「オレは偉いの。最高に進化したんだからな。進化してないヤツなんかと一緒にすんな。」
「何が臨界進化だっての。全然、なりたくもないわ!。偉いとも思わねーし!」
「なんだと!この!」アギュはボールをぶつけてきた。
にょ~ん! 「ドラコを粗末にすんなよ!じじい!」 
気が付くと、毎度おなじみど突き合いになっていた。
「バカ、アホ!死ね!」
アギュさまは大変親密なお言葉までかけてくださる。
「お前が死ね!」死ねるもんならだけどね。
「オレは死なねーんだよ、ばーか!」すかさず、アギュは血管を浮かせてどなる。
「うらやましくもないわ!」僕もまけじとどなり返す。
そして、一方的にアギュが立ち去ってゲームは終わりになってしまった。
でもこの間バラキが怒ったせいか、セーブしているらしいアギュは切れたりはしなかった。
「ありがとう。ガンダルファ。」側にユウリが来た。まぶしい笑みが僕を向いている。
「アギュ、楽しそう。」どこが?。
「アギュが自分からスポーツするなんて初めてだもの。今までいろんな人が誘ったりしたのよ。アギュを快活にしようとして・・もちろん、起きてる時だったけど。アギュは絶対、やらなかった・・やろうともしなかったのに。」
「この次元は、勝手が違う。我達しかいない。恥をかかなくてすむ。」
「そうね。プライド高いものね。」ユウリは口を押えた。
「でも、ほんとはやりたかったんだわ。ほんと、楽しそうだったしね、ガンダルファ。」
「あのー僕・・楽しくないんだけど。」
「そうでもなかったぞ。」僕の時はカットイン遠慮なしのシドラ。
「いいコンビだ。」
「そりゃ、ないでしょ・・・」
なんとなく気まずい。頭にシドラの最後の言葉がこだまする。我も。我もってどういうこと?つまり・・シドラ・シデンも・・?あわてて、目を反らす。
でも、ユウリが喜んだからいいかって・・これでほんと良かったのかな?僕。
ほんとこれ、僕の為?
シドラ・シデンのニヤニヤを誰か止めてくれよ。
アギュがケロッとして、滝の方から僕らを呼んでいる。
しかし、疲れた。カプートとだと心地よい疲労なのにね。ほんとカプート、早く帰って来てくれ。
それがその日の僕の心からの感想。

(ガンちゃんは子供のお守りができないにょ~)ああ、できないよ。できませんね。
特に500歳のじじいのような子供なんてごめんこうむるわ。
(それはガンちんも子供だからなのにゃ~)ムッカー、赤ちゃんワームのお守りを散々した僕に向ってなんてこと言うんだ。この恩しらず。
(恩返しに骨は拾ってやるにゃ~)なんだ、どうせなら、殉死してよ。
(それは考えとくにょ~)

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-9  無重力リング-3


僕たちは出口に向って泳ぎ始めた。
随分、時間を費やしてしまっている。そろそろ、怪しまれないとも限らない。
道々、ユウリはまた無言になる。
悪い傾向。ムードメイカーの力不足?
ユウリは突然、壁を蹴ると勢いよく跳ね上がった。
「あぶない!」僕はわけがわからず、追い駆ける。チューブに激突しても、死んだりはしないが打ち所が悪かったら、痣になるよ。
でも、ユウリはすんでのところで素早く膝を抱え込む。キック&ターン。
追って来た僕とぶつかって目から光が散った。
「痛~い!」
「痛いじゃねーよ!」ハスラーにはじかれた玉のように散りながら、怒る。あ~コブが出来るかと思った。
「ガンダルファの石頭!」ユウリは涙を流して笑い転げてる。なんなんだよ、この娘こ。
「お前もだろが!」頭をかかえる僕。
ふと、気付くと素早く体勢を整えたユウリが目の前に迫る。
「ごめんね。痛いのとんでけ~」その痛いのが飛んでった方向をドラコが追う。お~い何、追い駆けてんだよ~。
「これで良し」ユウリが頭をナデナデしてくれる。笑顔のアップ。近すぎ!
僕のバロメーターは一気に上がる。
「なんかさ、やっぱ悩んでんじゃないの?」これは僕の勘だった。

ユウリは、手を伸ばした。
「ドラちゃん、こっち、こっち!」遠くでドラコがにょ~んと答えた。
思えば、不思議だ。ワームが契約者以外にこんなに、なじむなんて。ドラコはまだ赤ちゃんだから?まあ普通は見ることもできないのだから、アギュやユウリが特別なんだろうけど。シドラ・シデンのワームドラゴン、バラキですらユウリには触れることを許しているもんな。
ふと見るとドラコはユウリの腕に落ち着いてしまった。
うにゃ~ん そして、小さなゲップ。

何、食ってきたんだよ、ドラコ。僕の血以外に。
(ガンちんの痛いの痛いのを食って来たにょら~)なんじゃ、そりゃ?

その時のドラコはほんとに、たらふくになったツチノコそっくりだった。腕から肩にかけて、体を長く伸ばした。ユウリに平気で腹を見せてる・・こんなに無防備でいいのだろうか?おーい、契約者は僕だぞー、と叫ぶ。
「ガンダルファはジュラが恋しい?」
ふと、ユウリがドラコの腹をなでてた手を止めた。
突然の質問に僕は詰まった。そりゃ、恋しいような、恋しくないような、でもジュラには誰もいない。それにスクールの生活を僕は嫌いじゃなかった。だって、ここには友達やユウリがいる。
「あたしは恋しい」ユウリの伏せたまつ毛が濃い陰をその肌に落としていた。
「ほんとは恋しくてたまらないの。あたしの産まれた星。私のアース。」
ユウリのまつ毛の下がうるんだように見えた。
「ただ恋しいの。どうしようもなく」
さっきまでの強さの片鱗とはまるで違う顔。なんてユウリは、はかなく、キレイに見えるんだろう。そんなことを思ってるなんて、僕は少し後ろめたくなった。
僕はここに来た子供は結果的にはみんな喜んでると思っていた。将来が開けるんだし。たとえさらわれるようにして来た子供であっても。もちろんアギュを除いてだけど。

「さっき、ソリュートはあたしの父の為って言ったじゃない?」
ユウリはドラコを僕の上に戻した。そして、宙を翻った。無重力を泳ぐオレンジ色の金魚。彼女はバランス感覚がほんとに飛び抜けている。
「ソリュートに目を付けたのは、もともとケフェウス教官なのよ。研究してたって言ってたじゃない?だから、アギュに働きかける手段の一つとして使い手を探していたの。彼は楽器が持つ効能に着目していた。・・それぐらい、アギュに手をこまねいていたってことだけど。」
ユウリの舞いはまだ続く。なんて美しい風景。微かな振動は彼女に同調したソリュートだろう。無重力の空気も揺れる。僕も揺れに身を任して漂う。気持ちよかった。
ドラコを腹に乗せてなでる。ドラコが寝ながらあくびをした。
「あたしは父から離されて混血原始人類を管理する収容施設にいたの。でも、あたしは父からソリュートを受け付いていたから・・特別に中枢の方でソリュートを磨くことが許されていた。その話が来た時、自分から志願したの。」
なんだか心地よくて眠くなりそうだ。まずいぞ。僕は身動きした。
「アギュを起こすことができたら、父の刑期を縮めてもらえるだろうって聞いてね。オリオン・シティでオーデションを受けて副所長のケフェウスが私を指名した・・。彼は成果を挙げたら父の保釈後の身の振り方に着いても善処してやると言ったわ。。父と故郷に帰れるかもしれない・・私は父と共に産まれた星に帰れるならなんでもしようと思った・・私も星に帰りたかった・・その選択は後悔してないけど。」
そうか。彼女は父親の人質だったんだ。そういうことか。眠い目をこする。
「しかしなんて言う、好条件!奴にそんな力があったなんてね!」
これは、教官への皮肉だ。
「ケフェウスに、じゃないわ。」ユウリはスッパリと。「あたしは当時、連邦の事がよくわかってない世間知らずだったから信じてしまったけど。違うの。あんな人に権力なんてあるもんですか!あってはいけないのよ!」
ほんとに心底、ケフェウスが嫌いなんだね。僕も嫌われることだけはしまい。
くわばら、くわばら。ユウリは重々しく言葉を口にする。
「本当に権力があるのは、臨界進化体・・なのよ!」
「アギュゥ?」
「アギュ本人じゃないわよ。彼にまつわる回りのこと。だから、彼を起こしたあたしは特別な位置にたった。そうでしょ?それは、アギュのおかげなのよ。」
ちょっと、それおもしろくないなあ。

ユウリはちょっと不思議な考え込むような表情を浮かべると微笑んだ。
「あたし、宇宙に来るまえは寝るといつもアースの夢ばかり見たものよ。5歳ぐらいで離れたから記憶もうつろなはずなのに。とっても鮮明でリアルでね、苦しいぐらい。あたしの星の人は魂は千里を走ると言ったそうだけど、寝てる間に心だけは帰ってたりしてね。でも、目覚めると暗い宇宙の真ん中に一人ぼっち。いっそ目覚めなかったら、どんなに良かったか。」ユウリは哀しげな吐息をもらした。
「だからあたし、ピクニックが嬉しいの。本当の夢を見ないですむでしょ?」
「そうか・・」
「こんなにアースを懐かしく思うのは母が産まれた星で、父が母と出会った星だからかもしれないわね。」
「でも、帰れるじゃん。卒業すれば」僕は努めて明るく言った。
「お父さんだっていつか釈放されるし、帰りたかったら帰れるでしょ。ユウリには権利があるっしょ!だって立派にアギュのお守りの役目を果たしてるし。恩赦だって出るんでしょ?・・僕は、たぶんやっぱり軍隊に入ると思うな」なにげに付け加えた。ユウリと同じ部隊なんてステキなのにな、残念。
「そうね。」ふいにユウリの声が変った。どういうこと?僕も突然落ち着かなくなった。

次の言葉を放つのは勇気が言った。でも言わなきゃ。
「もしかして・・アギュの許しがいる・・とか?」言葉にしたら胸がカッと熱くなった。
気がつくと僕は怒っていた。「アギュが許してくれないとか?」
「まさか」ユウリは舞うのを辞めた。
「え?どういうこと?」
「あたしがあの人を起こしたのよ、知ってるでしょ?」ユウリは怒ったように言った。
「あたしがアギュを自分の勝手で、見栄で起こしたの。カンブリアンの囚人の娘なんかに、ちょっとソリュートがうまいぐらいの小娘に何もできるわけないって言う、ニュートロン達に自分の力を見せつけてやりたかったの。」
「ユウリにもそんな気持ちがあったんだ・・」
「もう、ドロドロ!。」ユウリは少し笑った。
「親近感わくなあ。」
「あたしが必死だったからかしら?アギュは夢で会いに来てくれたわ。それから毎日寝てる間に色々、話したわ。アギュはずっと嫌がっていた。でもあたしは説得した。」
ユウリは左右に首を振り続けた。
「説得し、説得し、泣いて懇願し、懇願したの。結局、彼は折れてくれた。あたしが手柄を立てて、それで父の刑期が特赦され、父と再会できるようにって。」
「意外だ。」
「あの人、不器用だけど優しいとこちゃんとあるのよ。」
ユウリがアギュはを褒めるのは、やっぱ複雑な気分。
「あの人、100年ほどならあたしの為に付き合ってやるって言ったわ。」
「恩着せがましいなあ」僕は顔をしかめる。
「じゃあ、もう問題ないんじゃないの?」
「ええ。イリト・ヴェガはあたしをアギュの側に措いときたがるでしょうけど。それはどうにかなるの。私の卒業に合わせて、父も特赦が決まってるの。」
僕はユウリのアースはどこか気になった。僕もそこに行きたいな。
口に出しては、「何が問題なの?」とだけ。

「あたし、アギュに約束したのよ。無理やりあの人を起こした時に・・あたしがずっと側にいるからって。嘘を付いたの。本当は父とアースに帰るつもりだったのに。彼をだましたわ。」
「じゃあ、やっぱりあいつがユウリを縛ってんじゃん!」
ユウリは再び、首を振り続けた。
「さっき、アギュに言われたの。そんな約束信じてないって。最初から当てにしてなかったから、好きにろって。」
え、じゃあ、なんで?
するとユウリは驚くべきことを口にしたんだ。

「あの人がかわいそうで・・」
なんじゃそりゃ?それって?僕はいっぺんで頭から水をかけられた気分。思わず、バランスを崩す。
ユウリは僕の腹から投げ出されても、マイペースで惰眠をむさぼるドラコにジッと目を据えた。
「あたし、父に会いたい、アースにも帰りたい。でも、きっとここを離れたら後悔すると思うの。彼を又、一人ぼっちににするなんて。自分だけ彼を利用して幸せになって、彼をここに置き去りにするなんてどう思う?。そんなことしていいと思う?どうしたらいい?ねえ?」
「それって・・つまり、」
ガンダルファちゃんよう、好きな子にそんなこと言われてるってどういうことよ。やっぱ、お友達、そりゃお友達なんだけどさ。お友達からって言う、期待は打ち砕かれたってことだよね。
僕はやっと声を絞り出した。
「ここを離れられないのは、離れたくないのはユウリってこと?」

「ほんと迷惑な相談だな。」いつの間にか近くにシドラ・シデンがいた。

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-9  無重力リング-2



僕はアギュの来た方へ進んだ。微かにオレンジ色のものが浮かんでいるのが見える。
近づくに連れて、それは人の形になった。
それはまちがいなく、ユウリだった。橙色のヒラヒラしたスーツが機能的ではないが、彼女にはよく映えてる。お日様のようだ。
「おーい!」僕は慣性がもどかしく宙をかいた。この辺はチューブが最大に広いのでジグザグが長くなる。コントロールに神経を使う。
僕はなんとか訓練用のホールに到達した。ユウリに向って、思い切って壁を蹴る。この辺の力加減が難しい。下手するとユウリに激突してしまう。ユウリに避けられたら・・壁か柱に激突だ。
ユウリが振り返る。なんか、変。泣いてた?。心は急ぐが思ったほど思うようには進まない。

やっとたどり着いた時、ユウリの目からは涙は消えていた。思いっきりの笑顔。
「ガンダルファ、お久しぶり!」確かに、現実ではお久しぶりだ。
気のせいか目が赤い?。橙の服の色が反射してるだけかもしれないけど。
「アギュがなんか言ったの?」
「え?なんで?」
「いや、なんとなくだけど・・」僕は静止する為に、透明な鎖につかまってゆっくりと上下運動をしていた。
この辺りは下方にあたる部分に、訓練の為の足がかりとなる透明な柱が壁から何本も生えていて、重りが付いた鎖が張り巡らされてあった。激突しないように、これを避けながら泳ぎ回るのはけっこうしんどい授業だった。無重力に長くいると体の間接や筋が伸びきったような感覚になり全身がだるくなる。無意識に力を入れるくせが抜けないからだ。余計な力を加えるとそれだけバランスを崩しやすい。
「そこでアギュに会ったからさ。」
「そう・・」
「ここにはよく来るの?」
「アギュが目を覚ました時の条件だったの。彼は一人になれる場所が欲しいと言ったのよ。それで、叶えられた。」
「ふーん。なんだ、もともとはアギュ様専用だったんだ。」
「まだ、アギュはこのスクールの電磁結界を破る力はないから。彼が再び自分に閉じこもったり、狂ってしまうよりはいいと思ったのね。」
ユウリの太陽のようなスーツのヒダがユラユラと広がっている。水槽の中の金魚みたいだ。
「だから、ここには今は盗聴も監視もないの。イリト・ヴェガはアギュの人権を最低は守ろうと譲歩してくれたわ。人類回帰主義者だから。前の所長は違ったけど・・。」
「前所長って?」
「ケフェウスの言いなり。」
「あーなるほど!」
ユウリは心なしか沈んでいるような気がした。やはり、アギュがなんか言ったのかな?

「ケフェウスってさ、あいつ何者なの?そんな権力あるの?ただの先生じゃないのはわかったけど・・」
「あの人は・・」ユウリの顔が一瞬凍り付く。苦手なな虫とかを発見したみたいに。
「あたし達、誰もが嫌ってるわ。」押えきれなくて吐き捨てる。
「僕も生理的に合わないって思ったよ。」ドラコが僕の首の後ろから出てきてうなづく。
んにゃ! 「ドラコもそう言ってる。」
「偉いわ。ドラちゃん!」ユウリはニッコリ言って手を伸ばした。ややデカ目の錦鯉が尾っぽをフリフリ飛んで行く。おい、契約者をあっさり見捨てんなよな。
「ケフェウス教官は副所長だったのよ。」
ユウリはドラコに頬ずりをする。あ、こら、契約者だってまだくんくんしてないのに。
「でも、イリトが降格させたの。前所長の研究費の不正使用での監督責任でね。あの人が、首謀者だって意見もあったんだけど・・前所長が死んでしまったから・・証拠がなかったのよ。」
「そりゃまた、都合よく。なんか壮大な犯罪の香りがしない?」
「あの人、今はスクールの総括管理官なの。そして、ソリュートの練習の顧問をしているわ。」僕は驚いた。そりゃ、お気の毒すぎる話だ。
「でも、なんで?ケフェウスって、ソリュートとなんか関係あるの?」
「いいえ。でも、ソリュートの訓練の統括と実地実験の監督に自ら志願したのよ。」
苦々しい響きがこもる。
「ソリュートで滅ぼされた星の研究をしてたみたい。」
ユウリは僕の方にドラコを放つ。寸詰まりの体がくねる。
「なんか、昔ね、これを楽器じゃなくて軍用で使ってたらしいわ。」
ユウリは手の中から石の欠片をとり出した。わあ、ほんとだ、噂通りちっちぇー!それって、普段どうやって持ってるの、ねえねえ?激しく、興味を覚える。
「ほら、こうやって手首に巻き付けとくのよ。」
「すげえー石じゃないみたい?粘土?なんだかアメみたいじゃん。」手を伸ばして触る。
「あ、やっぱ固い、粘土じゃないや。感触は石なんだけど?なんで伸びるんだろう?」首をひねる。
「あたしの生命波動に共鳴するから、らしいけど・・くわしくは知らないわ。」
「おもしれー!」興奮。
「やってみる?」ユウリは鈍い骨色の  実際に古代魔法生物の化石なんだけど   軽石を手渡した。
「いいの?でも、適性が必要なんじゃないの?」
「あたしも最初はできなかったのよ。アースを出てから習ったんだから。」
やっと、いつもの笑顔が戻った気がする。
僕はその楽器に本気で立ち向かう覚悟を決める。
しかし、数分後。
ユウリから散々ご教授を受けた末に、汗水たらして僕は楽器を投げ出した。
「僕にもソリュートの才能はないみたいだ。」
精神集中。ソリュートは僕の手の中で震えはしたが、何度やってもそれきりだった。無重力の世界で自分の体をブイに足で繋いだ形の伝授の方法に無理があったのかも知れないけど。
「辛抱強く楽器と心を通わせねばダメよ。」ユウリは漂うソリュートをすくい上げた。
それは彼女の手の中で横笛のようなおもしろい形になった。ちえっと僕。その先端に僕から離れたドラコが巻き付く。
にょ、にょ、にょ~ するとそこがワームのように螺線を描いたではないか。
「ひょっとしてワームはソリュート吹けるのかしら。」ユウリが目を輝かす。
ますますもっておもしろくないや。

(笛吹ワームにょ~)アホ面の虫が笛を食わえて、こっけいきわまりないったら。
(ガンちん、うらやましいのにょ~)シドラじゃないが、フンだ!。

「でも、これでどうすんのかね?軍事利用、殴んの?形がかわるから、武器っぽくしてさ?」
ユウリは吹き出した。「いい!それ、いいわね!剣みたいにしてみて・・」
たちまち手の中でソリュートはそれらしい形になる。見事だ。空中細工。
「痛い!」カツン!僕は頭を押えた。
「エヘヘ、必殺剣!なんてね。」ユウリは回りながらブンブン振り回す。
「結構痛いよ、でも軽石みたいだね。」
「やっぱ、切れないもんねえ」
「ま、まさか、切る気だったん?」
「私チャンバラ、子供の時好きだったの」
「お転婆じゃーん。」上段の構えからの緩い一撃を白刃取り。無重力では簡単だ。
「足での白刃取りは認めません!」
「ルール無用のストリートファイトさ。」膝に力を入れて回転させる。
ユウリははしゃいで剣を引いて、ムーンサルトのように身を翻す。
肩で息をしている。なかなかバランスいいじゃん。球技は下手だけどってあ、余計か。
ユウリがあかんべをする。
しかしさ、なんかいい感じじゃない?僕ら。ちょっと体も暖かくなってきたし。
僕らはしばらく必殺剣ごっこに興じる。が、ドラコがヒラヒラと間を飛び交ってはっきり言って邪魔。おまけにドラコがほどいたコードがブイの鎖に絡まってしまった。
「隙有り!」
「わっ!ずるい、タンマ!」
「問答無用!」
焦った僕はコードを引きちぎる。運悪く、その時ランニング装置の端が僕の指先を傷つけた。赤い血の玉が幾つか、宙に飛び散った。
ソリュートソードを掲げて飛び込んで来たユウリが短い悲鳴を上げた。

「きゃ!」ユウリは顔を背けた。
そのまま、勢いの付いた体を僕が受け止める。えへへ、クンクンのチャンス到来か?
しかし、なんか様子が変だ。ユウリの体がブルブル、震えてる!。
「あ、ごめん!」僕はあわてて体を放した。「接近禁止だった?」
狼狽した僕の口調に、彼女は黙って首をふる。
僕は漂う血の塊を見た。ドラコが何を思ったか、それを追い駆けて飛ぶ。僕は傷口を押える。ほんの小さな傷だが、まだ出血している。
「わりい!。汚れちゃった?」
僕はユウリの美しい色の服を見た。血がユウリの方に飛んでしまったのかと思った。
「大丈夫、こんなのなめときゃ直るから!」僕は指を口にくわえておどける。
ユウリは荒い息をしていた。。顔色が悪い。唇が白い。
え?僕のこと、そんなに心配? んにゃ~!
戻って来たドラコが傷口にまとわりつく。
あの、でかすぎるから絆創膏としてはさ。
ユウリは肩で息して呼吸を調えた。
「あたし、血がダメなの・・嫌いだわ・・」
「そ、そうか。ごめん。」
なんと、ドラコがぺろぺろ?してるとこを見ると血が止まってる気がする。こんな効果もあんのか? んまいにょ~
まさか、さっきの血の玉を食べて来たんか?それで味をしめたとか?
やめんか!こ、この巨大モスキートが!
空中でドラコを引き離そうとする。ワームが見えない者から見たらあぶない奴としか見えない。

「ガンダルファのせいじゃないわ・・」ユウリはそれを眺めてるうちに平静に戻る。
「ほら、あたし・・あたしの母は殺されたでしょ?」
「え?うそ!知らないよ!」
「シドラから聞かなかったの?最近、いつも二人でいたって言うから。」
「シドラなんてユウリのことどころか、自分のことだってろくに話してくれないよ。
それどころか、顔を見れば予習復習の話でさ。いつも説教ばっか!もう毎日、みっちりお勉強させられてるよ。」
「あら、あたしもそうよ。シドラ・シデンはとっても面倒見がいいの。」
「嘘つけ。悪意を感じる。トホホ、僕が気に入らないんだろ。」
「大丈夫、ちゃんと勉強してれば怒られないわよ。それに、本当にシデンが気に入らなかったら大変よ。たぶん、半径1メートル以内に寄せてもらえないわ。」クスリ
「それに、そうだったら、それってバラキも気に入らないってことだから。そうなったらとっくに生きてないかもしれないから、だからそんなことないはず。」
ユウリは持って回ったうえにとんでもないことを言う。なんか、それってきっとマジだよ、そんな気がする・・。
思わず、咳払い。
「ま、まあそれは、いいや。それよりさっきの話だけど・・」
「そうそう、あのね、あたしの母は癒し手だったの。父はその惑星に赴任してた他星人だったわけ。それで、その原始星の中で争いがあってね・・他惑星の人と結婚してた母は同じ星の住民に殺されたのよ。父の留守に・・目の前だった・・おじさんが逃がしてくれたからあたしは助かったけど・・」
さっきとは違って落ち着いて、ユウリはなんでもないように話した。
「そ、それは・・!」僕はいったい、なんて言ったらいいんだ?
ユウリは投げやりに手を振り回して叫ぶ。宙に体が漂う。
「戦争よ。つまらない殺し合い。あたし、戦いは嫌!争いも大嫌い!」
そ、そうか・・僕は軍隊志願なんだけど。ゆうりはあわてて付け加える。
「あら、他の人はいいのよ。あたしはご免被るけど。」
「ごめん。ユウリはスポーツ選択してるから、軍隊志望だと勝手に思っていた。」
「あたしはしがない、一般人志望。故郷ふるさとに帰りたいだけの人!」ユウリは手を振る。
「だから、他の人が入隊するのを止めたりしないわよ。それに、連邦の軍隊ならいいんじゃない?まだ、ましだわ。守る側なんだし。犠牲者も少ないしね。」
考え深げに続ける。
「あたしが嫌いなのは、民間人が巻き込まれるような内戦なの。不毛で無意味な殺し合い。」
「でも、ユウリは守られる側じゃないの?志願するなら別だけど・・」
「そうでもないのよ・・」ユウリはため息を付いた。
「ソリュートの軍事利用なんて考えてる人もいるし。・・まったく、困っちゃうわ。私、絶対協力なんかしてやらない!」
ユウリはスルリと虚空に身を踊らせる。僕も続けて身を泳がせる。
「あたしのソリュートはそんなことに絶対、使わせないわ!」
ユウリの強い言葉が無重力を漂う。
「私、父に誓ったのよ。私のソリュートは人を癒す為。そして、父を救う為。」
「ユウリのお父さんて?」
ユウリは反転して僕の方を向く。
「さっき、ソリュートは星を滅ぼしたって言ったじゃない?」
ユウリの目には強い光があった。それは、いつもの優等生的な学園のスターの顔ではなかった。たぶん、彼女はとても芯が強いものを持っているんだ。いつもは穏やかに隠してるけど。僕はしびれた。そういうのって、ちょっと好き。ますますタイプ。
「あたしの父はその滅ぼした方の星の出身。」
ユウリは淡々と続ける。
「母の星は人類が発祥のアースを捨てた時に、ライトサイトにもダークサイトにも付くことを拒んだの。一族は辺境のアースで連邦にもカバナ・シティからも隠れて独自に暮らし続けてきた。」
うんうんとうなづきながら、僕も後を付いて泳ぐ。
「たまに発見されるよね、そんな星。」
ユウリのオレンジの服のヒダが花のように広がる。僕はその花を目指す蜜蜂だ。
「そうなの。あたし達の星も発見されてしまったわ。父はその星の監察官だった。あたしの一族はね、まだ遺伝子情報とかの分類途上だって言ったじゃない?。」
花弁が上空でゆるりと回って動きを止めた。
「原始星政策上、あたしの母は外部の原始星の人間と子供を作ってはいけなかった。」
追いついて浮上してきた僕にユウリは笑いかける。

「あれ?ってことは?」僕はたいして深く考えもせずについ、疑問を口にした。
「そう。いま父は服役してるの。」ユウリはサラリと言う。
「本物の監獄に。」足下に宇宙の監獄と呼ばれるスクールの巨大な概容が広がる。無重力リングの透明な回廊がレンズの役割をして端の方が歪んで見えている。
僕はそのまま間抜けに回りの空気をかいた。
「あたしは禁じられたハーフってわけ。だから、収容所にいた。」ユウリは唇を噛む。
「この連邦には居場所がないの。アギュと一緒ね。」
「なんか・・言葉につまることばっかしだなー」間抜けな僕。
「ごめんね。でも、事実だから隠してもしょうがないでしょ?友達には知っててもらいたいのよ。」と、友達かあ。う~ん、友達からお願いします!ってあったなあ・・
「なんか気の利いたビシッとしたなぐさめとかいえたらなぁ~」ため息。
「あら充分、ガンダルファにはなぐさめられてるわよ。」
え?ほんと?
「いつも、おもしろいこと言って笑わしてくれるでしょ。」
う~ん。ムードメーカーってことで、喜んでて大丈夫かな~。

GBゼロ-9

2007-09-28 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-8


               無重力リング

その頃の学校ってやつは、人類回帰運動まっさかりの最中だった。だからちょっと後戻りした感はいなめないだろうね。こんなに科学や文明が発達したのに、すっかりローテクまっただ中なんだもんね。文字や言葉なんて使ってて。
もっとも、原始星の文化はずっと前から政策によって現状維持を強いられていたから僕らはたいして辛くはなかった。ジュラでは手先を使わない子供はバカになると信じられていたし。歩かない子供は怠け者になると言われ、ちゃんと話せない人間はワームとの交信は授からないと言われた。(ワームは礼儀正しく口うるさいと思われていた。)

(それって、バラキのことにょ?)
わあ!うそ!言っちゃったよ、ドラコ!僕はそんなこと言ってないもんね!知らねえぞー!
(にょ~)あらら、ブルー入っちゃった。大丈夫、言わないからさ。へへ。
(はめられた感はいなめないにょ~)やだな、ドラコ被害妄想だぞ。(ぷう~)

ずっと前からニュートロン達は自分の脳で覚えることを辞めて、記憶端末を持ち歩いていた。それを頭に装着した装置(ヘッドギアタイプ、ヘアバンドスタイル等、おしゃれなのが色々ある)に差し込めば、どんなおバカさんでもある程度の基礎知識を活用することができるようになっていた。さらに高度な門外漢の知識、宇宙船の運転や人工知能を修理するなんてこともできた。
一過性なら、その手の知識メモリー薬を脳の対応する活動領域に直接流し込んだりもする。さらに一定期間保たせるならば、情報記憶細胞を移植して脳に打ち込んだりすることもできる。基礎知識が備わっていれば、その知識が定着する場合もあるし、それはもう、とてもお手軽だ。
ただ。人類恐るべし。人間がロボットに置き換えられてないその最大の理由は、それぞれに「我」が存在する為らしい。つまり、個性ってやつ。それを手放すことを人類はいまだに拒んでいた。
そうなってくると、個人差も大きかった。体内の脳は記憶の容量が限られていた。もとから、細胞を鍛えていないと端末がないとすぐ忘れてしまう奴が出てくる。高い地位に就けばつくほど、どんなに圧縮しても追いつかない膨大な端末や外部記憶脳と接続するコードを持ち歩く奴も続出。なんせ、アクセスできない非常事態が勃発したりすると、緊急時に普通以上に役に立たないんだからお笑いだ。だいぶ前だけど、戦時下の宇宙空間で大きな事故が起きて深刻な問題になったことがある。ピーナッツの皮の向き方さえわからなくなっちまった人類が右往左往する間に事故拡大。
(勿論、中枢にいる本当に優秀な人達はほんの補助的にしか使わないらしい。)
僕みたいな粗忽者は小さいチップをすぐなくしたり、置き忘れたりするから、さらに始末に悪い。
それが最大の原因ではないだろう(人類回帰運動がはじまったきっかけのひとつにはまちがいない。)が、連邦は人民の基礎知識のテコ入れを始めた。
と、言うわけで教育だ。理由はなんであれエリート養成所である僕らのスクールでは特にそれが顕著となっている。雰囲気はまさに進学校。
まあ、ある程度身に付けて置けばあとは端末に頼ればいいわけだが。持ち歩く端末が減れば減るほど、優秀の証。卒業後に詰め込める端末知識の容量も増えるってわけ。
さて、特別クラスではローテクプラス、それが義務づけられていた。
僕ら、原始星人は端末に慣れてないから悪戦苦闘だった。故郷で優秀だった奴は慣れさえすれば、なんてことないらしい。いつだったかカプートなんて、新しい知識が流れ込んでくる瞬間が好きなんです~とか、抜かしてくれたしね。僕は妙に頭がクリアーになるその瞬間、自分の脳が膨張するような感覚が大嫌いだ。いつか爆発してしまうんじゃないか、と心配になる。それにそれを定着させる為に何度もラーニングしなくてはならない。なんてことはない繰り返し応用するだけだから、それも面倒。
装置からは頭の皮膚の表面細胞に痛みがないミクロな針のようなものが複数差し込まれる、そこから脳神経に信号が送られる仕組みなんだけど・・僕は絶対、痛みはあるような気がする。ほんとだって。気になっちゃってさ、落ち着かない。だから、あんなもんはなるべく使わない方がいいと思う。

幸いなことに、ワーム使いである僕はスポーツ特待生のようなものでお勉強はほとんどしなくても教師に怒られたりは全然しなかった。
その代わり、シドラ・シデンが充分に怒ってくれたからね。とほほ。
「基礎ぐらいせんと軍隊にだって受からん!」
鬼教官と化したシドラに怒濤のしごきを受ける日々。
僕がクラス変えをした頃はアギュのわがままでユウリが昼間はしばらくいなかった。
もう、ユウリがいなくて暇だからってさ。そんな真昼の恐怖も夢で女神に会えれば、ニッコリってわけだ。
だいたい僕は、性分として体を使うことなら得意なんだけどな。
でも、スポーツの時間の参加者、少な!選択してる生徒自体、ほとんどいないでやんの。
肉体の鍛練は軍人希望者が多いから、ニュートロンはもともといないとは思ってたけど。
シドラ・シデンと二人きりでなくてほんと良かったよ。
ユウリもいたし。あと数人の原始星人。主に筋肉を効率良く作り、長期の宇宙生活でも保つ為のトレーニング、無重力空間でのバランスの取り方や泳ぎ方とか、後半は作業スーツを着用しての船外作業もあるらしい。すごい楽しみだ。
ニュートロン専用のパイロット養成学校以外でそんな高度な練習をさせてもらえるところはない。星の数ほどある各種の訓練校だって、原始星の人間は特別の申請がないと入学できないんだからね。

実はワーム使いである僕は、シドラと一緒に特別訓練も受けなくてはならないはずだった。シドラもユウリと同じように定期的に第23惑星へ通っていた。なんでも、そこは訓練用の人工の異次元空間が構築されている部屋があり、そこでワームと戯れたりできるらしい。勿論、それは研究所のワームを用いた実験に協力するってことでもあるらしいが。
「まあ、バラキの機嫌次第だな。」
シドラは楽しそうにその体験の土産話をしてくれる。
「まだ、パートナーとなって日が浅いから。奴らも無理強いはできない。」
「ねえ、(夢でワームに乗るのと)どこが違うの?」
「こればかりはおぬし自身が体験してみないとな。」もったいぶるシデン。
「口では言えん。」
上機嫌のシドラ・シデンはこれでも最大限に口数が多い。
「ちぇ!けち」シドラの目が細くなったが、僕は無視。
「僕はいつからその訓練、受けれるの?」
「もう少し、大きくならんとな。」
これは僕の背のことではなくて、ドラコのことだ。
「引っ張っても無駄だ。」
(にょ~)ドラコが申し訳なさそうに縮む。縮むなよ。

また、ユウリがソリュートの練習だか、研究協力だかでいない別の日。
僕はシドラに聞いた。
「自分からピクニックに起きるにはどうしたらいいの?」
シドラは軽蔑したように僕をチラリと見た。
「起きたいのか?」
「だっていつも起こしてもらってばかりじゃない。」
「フーン!」これ、鼻から空気が抜けた音だからね。しかも、すごく馬鹿にした調子で。
「本来なら、ワームに起こしてもらうのだが。」
「え?シドラはバラキに起こして貰うの?」
「ワームは寝ない。」
僕は肩の上で惰眠を貪るドラコを指さした。
「これって、ワームと違うの?」授業中でもうるさいのよ、イビキ。
「おぬしの勉強がはかどらないのはそれと関係ない。」
「わかってますけどさー。」
「まだ幼体だからだ。」シドラは少し耳をすます。
「以上、バラキ談だ。」
「あかんぼってことか。」
「寝る子は育つ。」

以上、シドラ談だ!。(違うにょ~ドラコは赤ちゃんじゃないにょ~)
まだ言うか!バラキ談。(バラキなんてドラコ、こわくにゃ~ごにょごにょ~)なんか言った?
(んにゃ~)じゃあ、そこで焦ってなさい。

そんなある日。シドラ・シデンが惑星にバラキと研究者達で遊ぶ為にでかけた日。
僕は朝から一人だった。アギュはピクニックに戻って来たが、昼間は相変わらず出て来なかった。ユウリも付き合わされているのか、現れない。
僕はそうそうにさぼりを決め込もうかと迷った。こんな時にカプートでもいればいいのに。
部屋を出て、教室へと外側の回廊を歩いていた時だった。僕は見覚えのある光を外の無重力リングに見つけた。アギュが外にいるらしい。ってことはユウリもいるのだろうか。
僕は回れ右をして教室に背を向けた。

僕は無重力リングへ向う扉を開けた。3つの扉を次々に開けて体をならして行く。
最後の扉を開けて重たいような空気の中に漂い出た。太陽光が当たってないこちら側は肌寒い。反対側はかなり蒸し暑いに違いない。もちろん、透明なゴムチューブのような円管は紫外線や宇宙線から、真空と絶対零度から僕らを守っている優れものだ。
僕は記憶端末のラーニング装置を頭からはぎ取ってコードを首に巻き付けた。僕があまりにあちこちにいろんな物を置きわすれるので、あきれたシドラ・シデンにコードを付けられてしまったのだ。ソリュートらしき音は聞こえなかった。自分の息と服の擦れる音だけが聞こえる。ここに来るのならスポーツ用の白い耐熱スーツの方が良かったのだが、どうにかスクールのどぶねずみ色の制服でも耐えられないことはない。ただ、余分な布が多いので泳ぎずらいのが難点だ。
僕はチューブの内側を蹴りながら慣性を使って泳いで行った。チューブの始まりは狭いのでまだ進みやすい。でもこれも蹴る力とか、方向とか微妙にあってなれないと意外に難しいもんなんだよ。ふざけていてグルグル回転したあげく、吐いてしまった同級生とかいたからね。(もちろん、空気はゲロごと常に浄化されて入れ替わってるからね)
確かにここはカメラで監視はできるだろうが、盗聴は難しい。唇さえ読まれなければね。
かなりすすむとチューブが広くなる。惑星から見てリングの一番頂上に当たる部分はやや小さいホールぐらいある。逆立ちをした状態でスクールの回転するドーナツを見る。ここは回転しない、だから無重力なわけだ。チューブがなければ上か下かとかどのくらい進んだとかの距離感が、自分でわからくなってパニクってしまっただろう。パニックこそが無重力空間での最大の敵と言ってもいい。ストレスで自分を攻撃してしまうんだから、笑えない話だよ。

僕はやっと青い光を遠くに見つけた。そこを目指す。
すると見る間に、青い光の方がこっちに近づいて来た。
アギュの意地悪い顔がかすかに判別できた。
僕はまぶしさに目を細目ながら、挨拶した。
「よう!」
「邪魔すんな。気の利かないヤツ。」いきなりのお言葉。「さぼってんのか。」
「お前もじゃん。」僕はチューブの端に避ける。
「オレはいいんだよ。」不機嫌そうな声が急速に近づく。
アギュは慣性とかいらないのかね?なんの推進力だろ?おなら?
「おならじゃねーよ!」
「ああ、はいはい。特別なんだもんね。500年生きてるし。」
「ほんとむかつくな。オマエ。」とりあえず、キサマから出世。
「そりゃ、お互いさま。」
「ユウリなら、あっちだ。」アギュは通り過ぎる。
「アイツに会いに来たんだろ、どうせ。」
「あんたは帰っちゃうの?」
「むかつくヤツが来たから、気分が悪くなった。オレは寝る。」
「そりゃ、ごめんなさい。」後ろ姿に舌を出す。
「お年寄りは体をいたわらないとね。」
アギュは振り返ると僕を侮辱するような怖い顔を作り舌を出して加速して行った。
ほんと、子供のやることだよって、僕が先か?。

(ガンちんは悪ふざけし過ぎにょ?)自分でも困った癖だと思うけど、なかなか直らな いもんだね。