MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

神との対話

2018-05-30 | Weblog

©Holly Wardburton 1988  Dream3

 

 

 

神との対話と申しましても

どっか(あっちの方?)

行っちゃったわけじゃありませんので

いたって正気(の、つもり)

こういう本がございます(かなり有名?)

この本の真偽はさておいて(各々の判断に委ねまする)

その中の一文

 

『常に目覚めて歩きなさい』

 

これは実践するととっても難しい

特に私のように

「ボ〜ッと生きてんじゃねぇよ!」と某NHKで

チコちゃんに怒られてしまいそうな人間にとっては^^

 

 

難しい真理ではない

降りかかる事象を判断し

常に自分が正しい方向へと生きるためには

必要なこと

 

 

 

わかっちゃいるが

気がつくと目を開けたまま寝ちゃってたりする

海遊マグロのような私なんですよね・・・

 

 

 

 

 

 

 


スパイラルフォーの補足として

2018-05-22 | Weblog

©CAZZ

 

 

先日、どうにかヨロヨロとゴールに滑り込んだ

SP-4でございますがちょっと説明不足のところがありますので

説明(言い訳)させていただきたく思っております。。。。。

 

そういうのウザイ、面倒くさいという方は

今回はスルーしてくださると大変嬉しい

(日頃からこのブログではそういうの最低限にと

   こころ掛けてはおるのですが・・・これでも~~)

 

芸能事務所社長が妙な存在感で出ておりますが

これは本当は4の前にできがっていたはずの霊能者の短編?の中で

登場していたからでありまして(そう言われたってわかんねよ・・・ですよねーごめんなさい)

譲くんが言っていた『過去の事件』もそれを指していたわけです

申し訳ないです。

 

あとエゴワードが故人となってしまったおかげで

新しい文書ソフトでは

通常変換されていた登場人物の名前が出てこなくなってしまいました。

漢字が違ってしまっているのはそのせいです≥≤

このあたり、小さな問題ということでとりあえず押し切ってしまいました(汗、汗)

今後、余裕があれば統一していくつもりです。

(このあたり、アナログ人間であるので・・・正直、よくわからんの。

 内容が内容なだけに旦那に相談できないし)

 

 

しばらくはまたお茶を濁すと思いますが

これからもよろしくお願いいたします

 

CAZZ

愛を込めて!

 

 

 


スパイラルフォー 完成です

2018-05-19 | Weblog

©CAZZ

 

 

長々とお送りした小説、ようやく終わりました。。。。。

というか、一段落?

先がまだあるから・・・。(いったいどんだけ?と自分でも思う)

スパイラル・ファイヴで終わろうか・・・終わりたいな、という希望を持っております。

(まだ全然、エピソードとか全く詰めてないのですけど)

 

多少、先行して書いていた

スパイラル・マイナスを先にお送りする予定です≥≤

 

とにかくフォー!(HGみたく叫ぶ)もまだ完全ではなくてごめんなさいです。

 

できなさすぎて、ほとんど第一稿からお目にかけるという恥ずかしいことになってしまい

ほんと情けない限り・・・徐々に合間を見てまだ推敲を重ねると思いますので

(その都度、ブログも直しますので・・・)

完成まで引きずりすぎて先に書いたことを忘れてたり

色々、赤面ものですが・・・頑張りたいと思ってます(汗)

そんなこんな、どうかお許しください。

 

稚拙で趣味に走った、無責任な作品ではありますが

少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。

 

これからもこんな感じで色々、カード、イラスト等

更新しつつ時間を稼ぎながら、創作続けてまいりますので

新しい作品と合わせてこれからもお付き合いくださいませ。

 

これからもよろしくおねがいいたします。

 

 

 

CAZZ

 

心から感謝と愛を

幸せでありますように

 

 

 

 

 

 

 


スパイラルフォー-50

2018-05-19 | オリジナル小説

招かれざる客

 

牡丹は傘を差してマンションのエントランス前に立っていた。

道路を行き来する人や車、背後を出入りする住人もいたが彼には気付いた様子もない。

エントランスにつけられた監視カメラも彼の姿は写していないはずだ。彼は今、少しだけ現実から斜めにずれた次元にいるのだ。牡丹の視界の先にやがて大きな影が現れた。

公園の茂みを抜け、行き交う車の中を轢かれもせず、平然と歩いてくるのは基成素子のホムンクルスだ。腕に抱くように人間を抱えている。見るからにぐったりとしていた。

「姉さま。」牡丹はニッと笑い声をかける。「ご苦労様です。」

「病気ではない、雨に打たれたせいで熱は高いが・・倒れたのはどちかかというと、空腹だろ。」「それは、腕の見せがいがありそうですね。」料理上手の執事はびしょ濡れの顔を覗き込んだ。「・・・かなり憔悴してますね。思った以上に。いつから気がついていたんですか?」

「不法移民の前から姿をけしたと聞いて時から、気をつけていた。勇二も気づいていたろ。」

「やっぱり。兄さまったら、知らん顔を決め込んでいたんだ。冷たいなぁ」

「扱いに困る客だ。」

「ですね。」牡丹は素子の後をついてマンション内に戻りながら考えている。

二人と女の姿はカメラには残らないだろうが、大理石の白い床には水の跡が点々と筋を残していく。『そんなに面倒な相手なら、いっその事、始末してしまえば早いのに。兄さまも姉さまもわからないなぁ』

そう思う側から弱った体にいいおかゆのレシピを脳のデータからいくつかピックアップする。『まぁ、ぼくは皆様の下僕に過ぎないから、どうでもいいけどね。』

 

 

 

 

カードは揃った

 

 

アギュは再び、非物質世界との間にいる。

もともとのカバナ惑星基地の提督の作戦は、『果ての地球』で騒ぎを起こすことで休戦協定に揺さぶり掛けるだけの目的だったらしい。オメガのDNAをカバナに売った裏切り者の存在、中枢内に疑心暗鬼の種を撒くことだ。それは定期的にカバナ貴族たちに絡んでは囁かれては消える、和平の噂をオリオン側から吹き飛ばすことになるはずだった。

しかしそれは『切り貼り屋』という便利な男がたまたま手に入っていなければ、具体的な計画とはならなかっただろう。

『切り貼り屋』が把握していたニコの最初の計画は、神月の関係者であり外部にいる唯一の鈴木家に近づき馴染みになることだった。鈴木トヨが田町ハヤトを連れて、神月を出入りするようになるように仕向けるのだ。孤児となったハヤトは鈴木夫妻の養子となる。それからおそらく、頃合いを見て鈴木夫妻も排除される。トヨとハヤトを岩田須美恵に引き取らせる為だ。こうしてハヤトは旅館『竹本』の子供として、正式な神月の住人になるのだ。

以降、ハヤトを通して地上軍の動きはカバナ軍に流れることになる。

だが例え『切り貼り屋』が同行することになっても、共に潜入するのがニコであったらば、うまく行かったはずだ。遊民の抜け道を使って『果ての地球』に入ろうとした時点で彼らは確実に拘束されただろう。何しろ、連れの子供達は臨界進化を出した為に封じられたオメガのDNAを持っているのだ。正体が早急に暴かれることなど、提督は承知の上だ。

むしろ、そうなることが前提の計画である。

軍属ニコは確かに『捨て駒』だったのだ。

 

 

ところが。誤算が出現する。

潜入用の道具が完成したところで、ガルバと名乗る傀儡ホムンクルスがその計画を乗っ取ってしまったことだ。提督の作戦は、連邦のサポートを得たガルバだからこそ実現できてしまったと言える。だが、軍部にとって嬉しい誤算と素直に喜べるものではない。協力する遊民組織と表立って対立するわけにはいかず、軍属ニコとの交代を許したカバナ軍部は不信感を抱いたはずだ。小惑星帯のオリオン軍が、破壊された囮に気を取られてオメガの遺伝子を見逃したなどと信じられるはずはない。『果ての地球』の守りがガルバに甘かったのは、何か絡繰があるのではとすぐに疑いだしただろう。

表向き、遊民工作員であるガルバが実はカバナ貴族の傀儡であることに気づくのも時間の問題だ。カバナ貴族とオリオン連邦の間で秘密裏の和平工作が行われてることにも。

ガルバ貴族たちは、どんな形であれ『果ての地球』に潜入する口実を模索していた。

地上軍の直属の上司、高官イリト・ヴェガが臨界進化体研究の功績者であること、その現在の研究対象がこの星固有の次元生物であるということまでもが、カバナ・リオンに流されていたからだ。

救いは『その程度』の中枢メンバーがおそらくは、アギュレギオンが『果ての地球』にいることを知らされてないのか、さすがにそれだけは情報として与えなかったということぐらいか。

それでも一部にしか知られていないはずの、最高秘密が・・・・・臨界進化体の現在の身分と居所が・・・・カバナに知られる可能性・・・それが暗示された。

イリト・ヴェガは警戒するはずだった。

彼女はまだ知らないが、アギュレギオンが行ったカバナ・リオンへの攻撃が、それに拍車をかけてしまったかもしれない。

軍部と貴族、どちらからでも同じことだ。

カバナ・リオン側が行動を起こせば、アギュが更迭される可能性が増す。

 

 

アギュは憂鬱だ。

ガルバの計画は頓挫させたが、その代償は大きかったようだ。

鬼来美豆良とテベレスはイリト・ヴェガが連れ去り、鬼来マサミは基成勇二ことイリト・デラの元へ辿り着いた。

だが、このことは大したカードではない、とアギュと418は互いを慰める。

 

 

重要なのは、竹本渡と鈴木トヨ、デモンバルグと巫女、そしてペルセウスまでが揃ったこと。

デモンバルグが隠す古代の秘密が・・・『始祖の人類』をこの『果ての地球』へと運んだ宇宙船の在り処がいよいよわかる時が近づく。そこにある『何か』を連邦が探しているのは、確かだ。『始祖の地球人』がこの地に運んだ、古代兵器、『星殺し』だと言われているが。

果たしてそれだけなのだろうか。

ただ、古代の秘密を解き明かせば『始祖の地球人』たちが自分たちの歴史と記憶、優れた文明、その全てを失って現在に至るその経緯は確実にわかるだろう。

4大天使の記憶でも追えない過去の記録。

カードは揃い、時は満ちる。

いつ更迭が秒読みされ始めるかわからない、アギュの『時』との競争だ。

臨界の頂点に達した今、たやすく拘束されない自信はある。

だが、一体、ここを逃れた自分はどこへと向かうというのか・・・・

 

「アギュ、果たして」418がアギュの思考を中断させた。

「ペルセウスはなぜ、『切り貼り屋』をカバナに返したのでしょう。もしかすると・・・ステーション提督の目論見を知っていて、渡したとも考えられませんか。我々の暴走はともかくとして。ある程度はこうなることを予想していたということは?」

「ワレ々のリンカイがカンセイすることもフクメテか?」アギュの口調は皮肉を帯びる。

アギュはあたりの空気を嗅いだ。以前は留まるのも苦痛だった空間が今はそれほどでもない。

意識的にそこに自らがにじみ出ていくイメージを抱く。

『グアナク』アギュは試しに呼びかけてみる。

近くにいる気配が強まる・・・いや、ずっとそこにいたのか。

物質世界と非物質世界は常に背中合わせだというのだから。

光が現れた。

『・・・チカクにいるとはイッテいたが・・・ホントウにヨベばすぐにクルほどとは。』

アギュは笑ってしまう。ペルセウス人はこの間よりも輪郭がはっきりしている。

『コダイにペルセウスと接触したミコとは、アーメンナーメンと言うナマエだったのか?』

 

『 名前は記録にない ペルセウスに 答えは ない 』

今度は言葉として、はっきりと聞こえた。アギュは驚く。

『グアナクなのか?』

『 グアナクではない 別の個体 しかし グアナクと呼ばれても構わない 名前などあってもない 我々は同じもの ペルセウス 』

意を吟味する。『つまり、オマエはグアナクと同じペルセウス人だということだな?』

『 大きな意味では 』

そう答える姿はかつての『輝くナメクジ』を連想させた。滑らかなで肉枠的に見える。

『 ペルセウスはまだ 移行の過程  物質世界と非物質世界 その間にあるものもいる あなたたちと同じだ 』

『・・・常態としてカンゼンリンカイしていないということか。』そうだと場が震える。

『 物質である言葉 操るものとして グアナクでもある より不完全な私 』

ちょっと尊大になる。『では、オマエにキイテもいいんだな』相手の肯定。

『オマエタチがこのホシまで追ってきたナゾはわかったはずだ。ユウミンもジブンのニクタイを取り戻した。オリオンのテンマツを見届けるというグアナクのコトバはどういうことなんだ?』

『 文字どおり 遊民 カバナ 臨界体の噂 見届ける 一興 』

「ああ?オレに対する興味本位ということなのか。フン、野次馬根性とはえらく物質的ではないか。」アギュは呆れ、思わず言葉を吐き出してしまう。相手も笑った。

『 まだ 不完全 確かに 』 ホントだなとアギュ、嫌味。

「私達はこのオリオン連邦で今の所、ただ一人の臨界した人類なのです。」

割り込んだ418はプライドの高いアギュが聞けない質問をする。

「いい機会です。私は自分たちに何が起こっているのか、これから何が起こるのか知りたい。知らなくてはいけないと思っているのです。だからあなた方のことを教えてください。」

『 ペルセウス 何億、何千万をかけ 今の状態 やがて完全に 次の世界  』

「次の世界?非物質界を得て・・・さらにということ?それは果たしてどういう?」

興奮に418の語尾は震える。

「ペルセウスに起こったことを知りたい。それは、私達にも・・・もしかすると、オリオン連邦にも起こることだというのですか?」

『 オリオン まだ理解できない ペルセウス 理解し受け入れるまで 時がいった 』

 

仮称グアナクは語る。

自分たちがかつて今のオリオン連邦人のように惑星を開拓し、惑星連邦を作り上げたことを。やがて徐々に細部から個体の臨界が始まった。その混乱が集団に広がり、全体へと収束するまでにはあらゆる争いや抗いがあり、やがて諦めと受け入れが生まれていく。

『 今 ペルセウス腕 全体統治する 形ある生物 いない 開拓星 長い時を得て 野生の惑星へ 戻る 移行する 最後の心残り 』

沈黙していたアギュの脳裏に理解が閃く。

「・・・・レンポウにもカバナにもワタシたくないとイウことか。」

『 程なく 整理がつけば 完全に 移行する 』

「つまり・・・このままではいつかペルセウスが吹っ切った時点で、ペルセウス腕の星々は、カバナ・リオンかオリオン連邦が自由にすることになる、そういうことですね。」

オリオン連邦では今や野生の惑星はほとんど存在していない。

人が入植するにあたって全ての惑星は開発管理され、改造された。人類に脅威に当たると判断されたものは全て排除、改良されたのだ。よって、人類が生息する星の共存生物はとても少ない。環境が変わったことでほとんどのものは野生では生きられなくなった。それらは(細菌に至るまで)連邦で研究され尽くされ、データ化されている。死んだものは標本化され、そうでないものは選別され凍結保存(スリープ)された。脅威に当たらないとされたもののいくつかは、資料展示惑星(動物園のようなもの)で観察することができる。研究者専用の惑星から、子供から大人まで庶民が見物する人気の観光コースまで段階化していた。

オリオン人がペルセウス腕に侵入することはそういうことを表す。

おそらくペルセウスの管理方法と全く違う、相容れないと言いたいのだろう。

「愛着のある惑星が蹂躙される、それが最後の気がかりということですか。」

「ソウカ、そういうことか。」418の静かな言葉にアギュも続ける。

「ペルセウスはオリオン人たちがジブンたちとオナジウンメイをたどるのかどうかカクシンがホシイんだな。カプート、オマエと同様にだ。」思わず、418の名前を呼んでいた。「オマエのヨミも当たっているのかもな。カバナがオリオンにチョッカイをかけようとしているトキに、キリバリヤをカバナでカイホウしたことだ。」

『 遊民 知識 体験 噂 豊富 』

「オリオンとカバナも、同じく、ナガイネンゲツをかけてヒブッシツカイへとイコウするソンザイなのか、カクニンしておきたかったんだろう。だから、オレたちにチュウモクしたんだ。それが、ペルセウスのようにやがてゼンタイのチョウコウなるのか。」

『 カバナ人 臨界 秘密 探る 』

「臨界化は現在はオリオンの原始星人で7人目でしかありませんが・・・やがて、カバナ人やオリオンの遊民、ニュートロンたちにも広がるのでしょうか?」

418のつぶやき。ペルセウスはランプのように輝き、肯定も否定もしない。

オリオンがどのような肯定をたどるのかは、彼らにもわからないのだろう。

物質界から退場しようとしている彼らはもう主体的主役ではない、ただ見守るだけの存在なのだ。「そもそも・・・なぜ、臨界は起こるのですか?」

『 おそらく 』ペルセウスの言葉も速度を落とす。『 必然 』

「必然・・・防ぎようのない?・・・進化ではなく、行程?」418は思考し、沈黙する。

 

 

しばしの沈黙の後、アギュの言葉も重い。

『ペルセウス人、オレはまだオリオンからトウボウするにはヤリノコシタことがある。もしペルセウスがカンゼンにイコウするトキに間に合えば、オレらもそのドコカヘいけるのだろうか。』 

『 望むなら 受け入れれば 』

「ウケイレル?まだ、トウブン、ムリそうだな。オレは」やっとアギュは笑えた。晴れ晴れと。

「オレらがトウボウできたトキに、まだペルセウスが残っていればシメタものだ。」

『 ペルセウス 拒みはしない 

「デモンバルグと古代の関わりを解いた後でだ。」

『 解くがよい 』 

『 時間 その時は 無限 』

 

謎のような言葉を残し、ペルセウスの気配は去った。

だけども彼らが常に側にいる。

アギュを、オリオンの顛末を見届ける為に。

『やはり、オレたちは導かれているのか、操られているのか?』

アギュは次元の高みから降下を始める。

『私は操られててもいいです。人類の未踏の世界に行けるのならば。』

『スベテは・・・コレカラだ。』

「解けるだろうか」口に出した疑問は荒い粒子に削り取られ言葉にならない。

『解くしかない』思考は光となりアギュの中で輝く。

向かう神月にはまだ鈴木トヨがいるだろう。

『なによりも、知りたい。』

「ジブンが解きたいのだ」








スパイラル・フォー 完



スパイラルフォー-49

2018-05-15 | オリジナル小説

雨の中で

 

「岩田くん、ご飯食べてかない?」コスチュームからジーパンに着替えたミカが聞く。

「そうしたいところだけど・・・」譲は手の中のスマホを確認する。編集長からのメールだった。「編集部に帰らないと。今回の打ち合わせもあるし。」

「犯人に魔物が取り憑いてることにするんなら、抜群に面白くしてよね。ロシアの連続殺人鬼が憑依したとかさ。」

「そうだね。それも面白いな・・・」譲は半分、上の空でストーリーを考えている。「一度、星崎さんと詰めないと、なぁ。」「それがいいわ。星崎さんなら、鬼畜なストーリー案をいくつも持ってそうだし!」

「あのね、君さぁ、そういうの、頼むから・・・」「わかってるわよ、編集作業上の秘密は誰にも言わないって、これまでも言ってないでしょ?。これでも『怪奇奇談』の熱烈な愛読者なんだからね。それに私は今や私、基成事務所の忠実な忠実な社員なんですよぉぉ。誰もが知ってる霊能者、天下の『基成先生』と共通の秘密を持てるんならなんだっていいの。もうゾクゾクが止まらないって感じ!」

エントランスを出る時は小雨だったのがみるみる強くなる。二人は駅までの近道をするために

広い公園へと入った。ミカは傘を軽く譲のにぶつける。

「ねぇ昔、ここで殺人事件とか、あったよね。」

「相変わらず好きだよね、本田さん。」時々、ミカって呼んでくれるけれど、仕事が絡む今日は他人行儀だなとミカはほんの少しがっかりする。

元彼との仲は相変わらず、つかず離れず。友達以上、恋人未満。すごく仲のいい親友だ。

ミカだって一人だったら、薄暗くなってきた夕刻に公園に入ったりはしない。

譲と二人だから平気なのだと少しだけ察して欲しい。

「ねえ、基成先生ってさ。」木が覆いかぶさった街灯の下に立ち止まる。「偽もんかと思ってみたりすると、案外本物だったりするよね。」

譲は雨傘の中で肩をすくめる。「素子さんの情報収集力だろ?あれを知った時は僕もショックだったよ・・・だけど。基成先生は次元っていうの?場の違いを見極めるのがすごいんだよな。」

「だよね。」くるりと傘を回して「死者は興味ないけど、生きている人の心を見抜く直感って時々、怖いぐらいだって思う。あれには素子さんは関係ないもの、譲くん、あの女の人って」

「ん?素子さんのこと?先生は『自分は少女だ』って言い張ってるけど・・・」

話が突然、飛んだので戸惑う。

「違うわよ、ほら、あれ。あの人」

ミカの視線の先には公園の大きな池がある。そのほとりに女性らしきシルエットが小さくあった。「・・女の人?」公園外輪の薄暗い茂みの向こう、住宅やマンションの灯り。正直、性別まではわからない。「よくわかるね。」感心すると違う、違うと手を振った。

「最近、あそこにいつもいるのよ。今朝も羊羹買いに行く時も帰った時だって、あそこにいたし。多分、同じ人だと思うな・・・」傘もなく雨に濡れている様子に「ホームレスかなんか?」

「違うと思う・・・服装はいつも同じだけど、小綺麗だし若いし。顔も多分、よく見てないけどスタイルも良くて、綺麗っぽい人だと思うよ。あっ、言っとくけど娼婦とか、そのスジの女の人でもないと思うから。声かける男の人も見たけどすぐ逃げるように行っちゃうんだ。でも、次にここ通るとまた戻ってるんだよね。あの場所に、なんか意味があるんじゃないかな・・・」

「ふーん」足を運びながら譲はそのシルエットへ目を走らせた。早く駅に行かなければ。編集長は7時には約束があると言っていたのだ。ところが、ミカがその袖を引く。

「あの人さぁ・・・きっと基成先生に用があるんじゃないのかな。」「えっ?なんで?」

「私の感なんだけど」もう片方の手でビルの明かりを指差した。「ここから先生の事務所が見えるじゃない。」「ああ・・・確かにね。」そう言われれば先ほど出てきたマンションは公園の外輪を走る道路沿いに建っている。「だけど」「あの人、いつもあそこを見ている気がするんだよ。今朝、なんとなくそう思ったんだ。今もうちの事務所の明かりを見ているのかもよ。」

「そんな、馬鹿な。あっ、ほら」二人の声が聞こえたわけはないのだが、ちょうどその影が方向を変えて動き出した。こちらの方向に重なる。

薄暗い木々の影、まばらな街灯、雨のせいで見通しはきかない。

「先生に相談したいけれど・・・お金が心配とかさ。」

「ああ・・・それはあるかもな。」そう答えた譲には何の意図もない。もっともテレビに出ている有名霊能者である基成勇二の霊視の料金は二桁だの三桁だの噂されている。その噂だけで二の足を踏む相談者がいるらしい、その事実を言っただけだ。

ところが、ミカは俄然とその人物の方へと歩み始める。焦ったのは譲だ。

「ちょっと・・・ミカちゃん!そんな当てずっぽうで」

「違ったなら、違ったでいいじゃない。」ミカはすっかり人助け&営業気分だ。「もしも面白いネタだったら、ミツル出版が費用を持ってくれる場合、あるんでしょ?だったら、お金の心配いらないって、伝えるだけでも良くない?」

「良くないよ!編集長が待ってるんだから。」

「あっ、そうだった。ごめんね!ユズルは先に行っててくれる?」

一瞬、体は駅に向かう。しかし、この暗い公園に見知らぬ人間と一緒にミカを置き去りにするわけにはいかないと思い直す。

「何で余計なことするかな。」お節介なんだから、とひとしきり唸ってから、踵を返した。

女の歩みは緩慢で足の運びが遅い。ミカはもう女の近くにまで達している。何かを話しかけたのだろう。女が立ち止まり、少しよろめく。ちょうど街灯の下だ。譲は早足で追いかける。譲の姿は木立の陰にすっぽり入っていて女からは見えなかったはずだ。近くに連れて譲の歩みはゆっくりになり、やがて止まる。

女はびしょ濡れだ。長袖シャツにジーパン、体のラインがわかる。濡れたショートの髪が顔に張り付いている、その顔にデジャブー感あった。なぜだろう?誰だろう?

記憶が思い至った時、譲の口は無意識にその名を呼んでいた。

「キライ?」えっ?とミカが振り返る。女が顔を上げる。

やはり、すごく似ている。似過ぎている。

「いや、まさか。だけど・・・だって、女だよな。」譲のつぶやきが聞こえたわけではないだろう。女は身を翻して来た方へと走り出した。足を引きずるように。反射的に体が後を追う。

「ユズル!」ミカがとっさに腕につかまった。「ユズルくん、どういうこと?知り合い?」

「いや、そんなはずないんだ!だけど!・・・なのに、あの顔!」

二人は早足で先方の闇によろよろと走り去った女を追いかけている。

「あれはキライだ!キライだった!」

「キライ?キライくんて・・・あの?!」「キライのわけないんだ、キライは死んだんだから。」「鬼来くんて、生方くんの記憶を乗っ取っていた人よね?、ユズルの大学時代の記憶を塗り替えて。」ミカは事態を咀嚼しようと必死になる。記憶を塗り替えられた岩田譲が大学時代の大親友だった生方を忘れて、そのことで仲間やミカにも恨まれ苦しんだことをこの目で見て知っている。

「転んだ!」譲が走り出す。女が体のバランスを崩して茂みに倒れこむのが見えた。

ミカも全力で追いかける。「鬼来くんて地球外人類の血を引いているんじゃなかったっけ?」

そして一族は絶滅したはずだ。ミカが知っているのはそこまで。ミカの顔の血の気も引いていた。

視界が悪いのが、足元が悪いのが、傘が邪魔なのがもどかしい。

追いつくと岩田譲が遊歩道の端に立ち尽くしていた。傘は下に降ろされ、彼も濡れている。

「消えた・・・?いない、ここに転んだと思ったのに。」

ミカも慌ただしく周りを見回す。傘も放り出して、ちょこまかと動いて周りの茂みを伺った。人が無理やり入ったような跡は見当たらなかった。

「ユズル、ほんとだ、消えちゃった・・・?」譲は呆然としているように見える。

「何か・・・言ったか?」「え?」「どんな会話を?」

「いつもこの池の前にいませんかって・・・何か悩みでもあるんですかって。」そこでミカはぶるっと身震いする。「そうだ、私・・・あの目。あの人、具合が悪そうで。目も虚ろで・・・そうなの、すごく暗い目をしてるように見えて、まさかこの人・・・ひょっとして死ぬつもりでここに毎日、来てたのかもって思ったんだ。基成先生に用があると思ったけれど・・・違ったのかも・・・・」

声は小さくなり、ミカは自分の傘を拾って譲に差し掛ける。

「私は鬼来くんをこの目で見たことはないけれど。一族はみんな、よく似ているんじゃなかったけ?」「そうだ・・・クローンだから」濡れた目を瞬きした。冷静になろうと努めている自身がいる。クローンだなんて嘘くさい言葉を今は信じ、普通に口にした自分に少し笑う。

「そうだ、もし本当にクローンならば・・・似ていても不思議はないんだな。」

「じゃあ・・・生き残り?」

自らがこの星に残した痕跡を消すために、マザーとの約束を果たすために、『鳳来』と呼ばれた男が殺し損ねた、鬼来村を離れた一族の一人なのだろうか。

一つの傘に収まった二人は雨の中、長い間、公園の暗がりを見つめていた。新宿で時計を見てイラついているだろう星崎編集長のことはすっかり頭から忘れ去られている。

ご立腹の彼女からの催促の電話で二人はやがて正気に戻るだろう。

背後には二人が出てきたマンションが林の上に覗いている。

最上階の基成事務所の明かりはまだ付いていた。


スパイラルフォー-48

2018-05-13 | オリジナル小説

兄、姉、弟

 

「なんで急にあの二人のことを気にかけ出したんだ?」

素子が基成勇二の顔色を伺うように口を開いた。

「なんとなくね。」勇二は涼しい顔で牡丹から淡い色のシャンパングラスを受け取る。

「気にかけとくのも、私の仕事かしらと思って。」グラスの中身を口に含み目を閉じた。

「守護天使様から聞かれた時にすぐに答えられるようにですか。」

執事姿の牡丹が無邪気に答え、とりどりに趣向を凝らしたカナッペの乗ったお皿を差し出す。

「美豆良の方はわからない。」高級シャンパンとつまみを味わう基成勇二を見つめたまま素子が続ける。「遊民どもは口が固い・・・と、いうか、関心が低い。鬼来マサミの方は5日ほど前に目撃されたのが最後で、ここしばらく不法遊民の風俗ビルに戻ってないようだ。」

「あら。」勇二は目を開き、素子を見つめる。「二人は一緒にいないのぉ?」

「そのようだ・・・」素子は勇二としばらく視線を合わせた後、逸らす。

「小惑星帯で異常を捉えた、と言う話を聞いたか?」

「タトラを通じて?いいえ、ぜんぜぇん!」拗ねたように口を尖らしてみせる。

「ほら、私はさぁ、あなたと違ってあちらからの評価はまったくぅ、だもん。私の情報は守護天使さまを通さなければ・・・連邦じゃ陸の孤島と同じなのよ、でしょ?」

「どうやら例の風俗ビルで戦闘があったらしい。」

「あらっ、ヤダ!こわ~い!」「もしかして、次元戦ですか?」

勇二は身震いし、牡丹は目を輝かせる。

「小惑星帯が捉えたってことは・・・不法移民同士の小競り合いとかですよね?」

「詳細はわからない。タトラが協力組織の方から探りを入れさせたが、移民たちはもともと口が固い、というか、やはり終わった事象に関心が薄いんだ。ただ、どうやら死人が出たらしい。」「死人?」勇二の眉間にシワが寄る。

「それってまさか?姉様、鬼来美豆良が死んだってことですか?」牡丹はあくまで屈託がない。

「それって、大変!兄様、ただ事じゃありませんよ!ショックすよね?」

「・・・まぁ、美豆良は、ねぇ?自分のマザーに従っただけだけど。もともと、連邦を相手に策略を巡らす度胸があるっていうか、危険を弄びがちな、ああいう子だしさ。」

「確か、魔物が憑いていたはずだが。」イリト・ヴェガが大好物である魔物、次元生物。

素子の問いを無視し、勇二はサーモンとチーズの乗ったカナッペを口に放り込む。

「私が心配なのはぁ、マサミちゃんの方よ。美豆良は死んだって、まぁ、それなりっていうか・・・自業自得な感じだから。」

「そうだな。」

「ここに来ると可能性は・・・高いからね。」

「・・・・」

素子は重いカーテンを少し開き、無言で下を見おろす。マンションの玄関から岩田譲と本田ミカが並んで帰る傘が開く。黒々としたの森と重い垂れ込めた雲との隙間にはまだかすかに落日の残照が残っている。その光で上空から公園の池がかすかに光って見えた。そしてその曇天から・・・

「雨が降ってきたようだ。」

その言葉に霊能者と執事は揃って天窓を見上げる。執事がポットを丁寧にテーブルに置いた。

「もし、ここに現れたら・・・兄さま、どうするんですか?」

どうしようか。基成勇二は頭を巡らせた。もう他に頼れる人間はこの星にいないのだ。

しかし、ここには鬼来マサミのかつての同僚、岩田譲が出入りしている。霊能者基成勇二は煩わしいことであると感じていた。しかし内なるデラは・・・。

ため息をつく。

「性別が違ってるから・・・どうにかごまかせるかもしれないけど。」

素子はまだ下を見ていた。窓辺へ執事姿の牡丹が歩み寄る。

『姉さま、ひょっとして黙って始末しちゃおうとか、考えてます?』

驚いたことに牡丹は意識で話しかけてくる。素子は振り向くとギロリと睨みつけた。

『そこまでの価値があるか?』

「ちょっと、そこ、聞こえてるわよぉ!」勇二があくびの腕を伸ばしながら声をあげる。

「私をなめないでよね。何よ、聞こえよがしに!」

「あっ、やっぱり兄さまには聞こえちゃいましたか。ダメでしたね。」牡丹が舌を出す。

「兄さまの能力を見くびってました。」

基成素子は無言で不機嫌な顔のまま、踵を返して部屋を出て行った。

「油断ならない執事さんね。」彼ら二人の兄とされる霊能者は、機嫌は悪くない。

「申し訳ありません、兄さま。」すまなそうに殊勝に頭を下げる『弟』だが。

背後にいるのは神月にいるタトラだろう。笑顔の執事も素子を追うように音もなく姿を消した。

基成勇二はテーブル置かれたポットから手酌でお茶を注ぐ。

素子は記憶を失ったクローンである鬼来マサミには優しかったが・・・オリジナルにはどうだろうか。牡丹はどちらにも無関心だったはずだ。

口に含んだお茶はまだ温かく芳醇な風味が広がる。

『素子より牡丹の方が無害そうに見えるだけに・・・困ったものね。』


スパイラルフォー-47

2018-05-11 | オリジナル小説

大円団? 霊能者事件を語る

 

 

 

「だから、変態男は自分に取り付いた悪魔のせいだって言っているらしいんですよ。」

岩田譲が熱心に話しかけている。「それって、ずっと前に魔物が取り付いて起こした別の事件と似ていると思いませんかね?」「あら、全く似てないわよ。」

基成勇二は面倒くさそうに、しかし即座に否定した。

場所は吉祥寺の井の頭公園に面した新築マンションの最上階、霊能者の個人事務所である。夕方であるが、壁の明かり取り窓は重い雲しか見えない。その真下、間接照明を背景にパースの大きなソファ に勇二と向かい合って座っている岩田譲は長い足を折りたたんでいた。

三十路を過ぎた編集者である彼の服装は未だにラフであり、脱いだスポーツシューズと膨れたリュックは床の上だ。

「あのねぇ、譲くん。譲くんは当事者と言えなくもないから、当然、熱くなってるんだろうけれど。」霊能者、基成勇二は相変わらず小山のようなシルエットだが横からオレンジの光に照らされた顔つやは見るからに健康そうだ。

「いえ、当事者というか・・・まぁ、確かに、ですね。」譲は複雑な顔をする。彼がこの大事件に自分の義理の弟が関わっていると知ったのは、何をかくそう目の前のこの霊能者からだった。と、いうことはこの霊能者の最大のタブーである懐刀、妹、基成素子のハッキング情報ということであることは容易に推察できる。

「鈴木トヨくんの行方不明事案と誘拐された最後の子供とは、今のところ、誰も結びつけてないわよ。事実、あなたの弟は逮捕の日の前夜に発見されたんだし・・・東京の家出した小学生がどこで見つかったかなんて誰も注目していないわ。翌日の深夜に長野で発覚した大事件と比べりゃ比較になるわけないもの。それに、何においても・・・彼は『男の子』なんだから。」

「まぁ、公にならなかったのは、ほんとによかったんですけど・・・正直、実は僕はまだピンときてないんですよね。年も離れてるから、僕とはあんまり行き来もなかったこともありますし。」再婚した父親の家庭とは、妹の加奈枝や弟の渡ほど関わりは深くないのだ。

「それに・・それにしても、女の子と間違われるなんてあるんですかね。」譲は居住まいを正す。「確かに、僕はトヨくんがまだ赤ちゃんの頃、一度、会っただけですけど。それに最近は写真でしか知りません。確かに、かわいらしい顔ですよ。女顔だとは思いますけどね。さすがに・・・それはないんじゃないかと。」

「譲くんには美少年の審美眼はなさそうだもんねぇ。」そういう霊能者を譲は横目で見る。

「僕が先生が言うことに一理あると思うのは、ですね・・・もしも、魔物が取り憑いてたら男と女を間違えることは絶対にないんじゃないかと。そこなんです。」

それもよりにもよって僕の義理の弟だなんて、何やってんだか犯人も。迷惑だ、おかげでこっちは・・・。ブツブツつぶやく譲を面白そうに霊能者は観察した。

話を聞き慌てて神月の母親に確認の電話をした譲は、自分自身がすっかり蚊帳の外に置かれていた事実を確認することとなる。親族から見て月刊『怪奇奇談』などというものは、ただでさえまゆつば物を扱う、扇情的なオカルト雑誌だ。所詮、マスコミなど無責任なもの。よって、購買アップの為に親や子だって売りかねないのが編集者だとは祖父の弁・・・すでに別家庭を構えた父親の子供、義理の弟の件はできるだけ譲には黙っておくことに越したことはないだろう・・・そんな暗黙の了解が旅館竹本の中では成立していたのだ。

母親の須美江にはその電話で、しっかりと釘を刺された。

『あんたの雑誌でトヨくんをネタにしないでよね。そんなことしたらお父さんだけじゃない、私もおじいちゃんもただじゃおかないんだからね、いいわね。』

そんな譲の心の鬱屈を基成勇二は見透かしている。

「あの幼女殺人鬼はねぇ、アホなのよ。もともとそういう奴なの。取り憑かれようが取り憑かれまいが、ああいう凶行に走るような奴だったんだと私にはわかってる。魔物はなし、憑依もなし。そのことはもう、信じなさいって。」

「じゃぁ、じゃあですよ!あいつには何も取り付いてない、それはそれでいいです。あいつが凶行の度に自分の頭の中で声がした、それに従っただけだと言ってるのは先生も知ってますよね?なんたって警察の公式発表ですからね。それって全くの犯人の嘘、作り話ってことなんですか?」

譲だってがっかりしているのだ。「魔物関係の記事として組み立てるのは・・・さすがに無理だって言いたいんですよね、先生は。確かに、確かに・・・ただの連続誘拐殺人事件じゃ、ホラーとUFOが専門のうちの範疇じゃないありませんからね。」

それらは事件系の週刊誌の専売特許だ。オカルト専門誌の出る幕はない。

もちろん、実際は身内が関係しているとなれば、やりようはある・・・いやいや、それはダメだ。母親に殺される。いや、違う。もちろん、弟のことはハナから書く気などはないのだ。

その証拠に、譲は星崎編集長にだって、これだけは言っていない。基成先生にも必死に頼み込んだのだ、だから今も黙っていてくれているはず。

・・・だけども、もったいないことは事実なのである。譲の編集魂が疼く。

これは空前実後の事件なのだ。機代の凶悪事件は発覚してからまだ1週間、巷の話題をすっかりさらっている。月間『怪奇綺談』が何気にその流れに乗っかりたいと思ったとして、誰がそれを責められるだろうか?いや、誰も責めはしない!・・・と、いうのが編集長、星崎緋紗子の考え方なのである。岩田譲はその忠実な部下に過ぎないが、編集長の気持ちが痛いほどわかる。

「記事にならないだなんて聞いたら、編集長、がっかりするだろうな。」

「最近の犯罪者は頭がいいからねぇ、幻聴だ電波だ、そういう風に答えれば精神鑑定に持ち込めると今や、誰でも知ってるもの。それで信じてくれたらめっけもん!言ったもん勝ちってわけよ!」霊能者は興味なさそうにあくびをした。

「だけど、でも、いいわ。他ならぬ緋紗子ちゃんのためだもの。なんか適当に辻褄合わせてあげるわ。ミツル出版には日頃からいい宣伝してもらってるし。」

「ハァァ・・・恐縮です。」頭をさげつつも、若き編集者のモチベーションは見るからに下がった。編集として膨らませる一抹の真実もなく、全くの嘘、つまり創作物を載せるのは初めてではないのだが・・・正直あまり楽しくはなかった。

「しかし、20年間で12人も殺す奴、絶対、悪いものが憑いてると思ったのになぁ。逆に何も憑いてないのにそんなことする人間がいるって方がショックかも。」

「腐った人間っていうのは案外、いるもんなのよ。何でも魔物のせいにしちゃ人としていけないでしょお。もしも精神科医と同等に霊視の意見が裁判で重んじられるんならば、私がいくらでも証言したげるのにねぇ・・・残念だわ。あの犯人が最初から正気で犯行を行ったのは一目瞭然なんだけどねぇ。」

突然、黄色い声が響きわたる。「ええ~っ!先生、それって、ちょっと待ってくださいよ!あの犯人って、まさか、責任能力なしとかになる可能性があるっていうことですか、先生?

弁護士が精神鑑定を請求してるってことですか?!図々しい、信じらんない!世も末です!」

そうまくし立てながら、お茶菓子を運んできた女の子がそのまま、譲の隣に座る。

図々しくないさ、平等な人の権利だ、と譲は苦々しく応じた。

座ったのは本田ミカだ。譲の大学時代の元カノである。

すでに、葬祭会社を辞め、基成勇二の事務所に勤めて3年となる。

受付、お茶出し、お使い、掃除、なんでもやっている。当時、安定した給料よりもやりがいを取ったと言っていたが、基成事務所のお給料だってそんなに悪くはないはずだ。

「キミ、ほんと場にはまってるよね。まるで水を得た妖怪だな。」

占い師のごとくかかとまで届く黒ずくめレースのデザイナーズワンピにコスプレのような同色のフードを頭から垂らしたミカに譲がジロリと上から下まであらためて目を走らした。

「最近、ますます悪ノリしすぎじゃないか。」本田ミカはへっと舌を出し茶菓子に手を出す。

「まぁまぁ、そう人をうらやましがらずに食べなよ、社畜さん。この羊羹、おいしんだから。」

「そうよ、ミカちゃんが朝から並んで毎日、買ってきてくれるの。それにね、犯人だけどぉね。いたいけな子供12人も殺して無罪だったら、これはもう絶対、暴動になるわよ。相手がたの弁護士を責めちゃダメよ、仕事をしなきゃならないんだし、譲くんが言ったように手順上、仕方ないのよ。いっそのこと、逮捕された例の廃校で死んでてくれてれば四方八方、面倒がなく丸く収まったんじゃないかと私は思うんだけどねぇ。」

「それじゃダメです!当然、裁かれなきゃ!」「真相が明らかにならないじゃないですか!」

譲とミカ二人に即時反撃され、基成勇二は密かにため息をつく。

全く、この地球人どもときたら。

 

基成勇二ことイリト・デラが浄化槽に落とし込み、トヨとハヤトが放置した『変態』は鬼来マサミが余計なことを?してくれたおかげで酷い運命からは逃れられたのだ。

GPSと優秀な警察の捜査により、男は翌日の深夜に発見された。一昼夜半ほど、飲まず食わずで・・・パニック状態だったらしく頭や体は壁に打ち付けた痣だらけで登ろうと何度も試みた指は血まみれだった・・・それでも命に別条はなかった。ただし浄化槽には寒さのため腐敗が遅れていたとはいえ、まだ完全に骨になりきれていな遺体もいくつかあり・・・その腐敗菌に触れていたこともあって、すぐに病院へと搬送されたのだ。精神状態はかなり『きていた』かもしれないが・・・どうにか取り調べができるまで回復した。彷徨っていた幼い魂が生きていた間に、彼が施した容赦ない仕打ちを思えば、マサミのこだわったこの星の『法律』に委ねることが果たして公正なものだったのかとさえ疑われるかもしれない。

 

「犯人の名前、顔、個人情報が大きく世間にさらされたんだから、それでよしとしな。」

いつの間にか、室内に現れた基成素子が大きな液晶画面を譲に差し出す。

「よしとは、できないでしょう・・・って、これって素子さん。」

「またまたハッキングの戦利品だわね。やるわねぇ。」

勇二の一言で譲とミカは画面に釘付けとなる。

家宅捜索された単身者用マンションから、男の犯罪の胸の悪くなるような詳細な記録が押収されていたのだ。USBメモリーに刻まれた犯行の全て。

戦利品を収集するごとく、たまたま通りすがりの気まぐれでさらった被害者の名前や自宅、家庭環境なども男は後付けで調べずにはいられなかったようだ。最初は偶然に頼っていた犯行が、年月を重ねると共に周到に標的を選ぶ計画的な誘拐へと形を変えていったことがそれによってわかる仕組みだ。子供は日本全国に散らばっており、初めての犯行は彼の大学時代だったことも。

卒業後、常に住処を変え仕事を転々としていた犯人は、セメタリーに選ばれた廃校の周辺の土地勘もあった。(最も古い犯行は、当時はまだ廃校でなかった、その近くで行われていた)

このようにもう充分、これ以上はもう吐きそうというほどのケチの付けようがない証拠。

 

「これって・・・『お宝の山』ですよね。」

「編集としては満点、だけど人としてはNGなセリフですよねー、先生。」

「そのままじゃ使えないわよぉ。」「わかってますって。」

「譲くんに星崎さんの『鬼畜』が感染ったんじゃないかしら。」

そう文句を言うミカも画面を読み続けずにはいられない。

「でも・・・これじゃ、逆に精神鑑定するしかないかも。異常だもの、この記録魔ぶり。」

ミカがしきりに残念そうにやばいやばいと繰り返す。「どうしよう、無罪になっちゃう~」

「大丈夫よ、偏執狂的性格はあくまでも、性格。責任能力とは関係ないから。」

「そうだよ、これがあったから、犯人は言い逃れができなかったんだ。」

貪欲に記録を目で追う譲も請け負う。「こいつは良心は確実に欠如はしているけれど、ちゃんと犯行を隠す工作をしている。そんなことまで記録してある、すごい証拠だよ。無罪になんか、なるか。なるもんか、だ。」

「それに、その偏執的記録癖のおかげで遺骨や遺体が、それぞれの遺族にきちんと戻されることになったことは確かだな。」

基成素子の言葉は淡々としていて、ゾーゾーの胸中は計りしれない。

勇二の視線がちらりとそちらに飛ぶが、素子は気付かず窓から見える公園の池を見下ろしている。

「だからってありがとうとは、言えるわけないよね。」ミカの声は怒りに低くなる。

「私だったら12回、殺してやりたい。同じ目に合わせて。」

無事帰宅を信じて待っていた遺族の悲しみと怒りは計り知れないのだ。

だが、その被害児童の幾人かは親自体までも行方不明であることがハッキングされた警察記録には載っていた。明らかに虐待していたと思われる親達もいたことも。

あくまでも犯人が詳細に調べ上げていた家庭事情をベースにしたものだが。

その辺の調査や聞き込みも、時が経ち既に証明は難しいものが多い。

虐待した親たちを罪に問うことはできないだろう。

譲がようやく液晶画面から顔を上げた。

「最後の被害者のことは、まだ調べ上げていなかったんですね。」

「犯行の後で、思い返しながら記録するのが流儀だったんでしょうねぇ。」

「唾を吐きかけてやりたい!」

「ミカちゃん、あなたの貴重な水分がもったいないわよ。」太い指を突き立てる。

「こんだけ動かしがたい証拠があるんだもの。多分、トヨくんの証言は参考ってことですむわ。裁判には名前も出ないで済むでしょ。」もちろん、そうですと譲はうなづく。

「母によると子供を専門に扱うカウンセラーが対応したそうです。」

「翌日には、学校に行ったんでしょ。心が強いわね。」

「ですね。」譲は写真で見た『女顔』を思い浮かべた。

「当人は車の中でずっと寝ていて、気がついたら誰もいなかったと言ってたそうです。だけど、真夜中の廃校ですよ・・・いくら月明かりがあったとしても夜道を3キロも歩いて村の交番までって・・・。確かによく考えるとすごいな。まだ6歳なのに、根性があるよ。」

「子供だから重大性がわからなかったんじゃないの?」ミカはファイルを素子に返し、譲は素子にコピーをお願いする。「自分がもう一歩のところで、殺されるところだったって気がついてなかったとかね。」

「そうね。そういうこともあるかも。」霊能者は心の中では全く別のことを考えている。

「攫われた時は、車に引きずり込まれてすぐ袋をかぶせられて眠らせる何かを嗅がされたらしい。犯人の顔も見てなかったとか・・・何が起こったかもわかってなかったかもね。」

そんな甘いタマではない、と勇二は思っている。

 

『あの子供は・・・鈴木トヨは特殊能力者っていうか、完全に内側で分離しているようだった。片方の自己は自己というほどの力を持っていないようだけれど。それでもすごく指導的な立場にあることに変わりはない。とても面白い対象だわ、あの子。』

どういう運命が待っているのだろう。鈴木トヨがアギュを見て倒れたことはまだ、イリト・デラは知らない。

今回のことで数奇な運命を背負ってしまったもう一人のことが頭に浮かぶ。

『とうとうマサミくんは一人になってしまった・・・』


スパイラルフォー-46

2018-05-05 | オリジナル小説

新たな謎

 

デモンバルグはフラフラと闇に紛れ出て、深く沈み込んだ。カラスの羽音がしたような。

早くも4大天使へご注進に及んだか。忌々しい天使族め。いや、そんなことはどうでもいい。

思わず口をついて「・・・アーメンナーメン。」そうだ、確か、そんな名前だ。

それが墓の蓋になっていたごとく、封じ込めた亡霊たちが吹き出てきそうになりデモンは慌てて記憶の連鎖を断ち切った。悪魔と名乗る彼にも思い出したくない己の黒歴史でもあるのか。

それでも覆った意識の底から・・・やわらかな声が、手が・・・頰を撫で・・・

「それが、ミコの名か。」電光のように魔物は振り返り、傍にアギュレギオンを見出す。

「しつこいさ!」怒りが稲妻のように放たれるがアギュはわずかに身をそらして避けた。

「ストーカーかっ、俺の!」「かもしれぬ」アギュは取り繕うこともせず纏わりつく。

「オレはそのミコのこと、知らなきゃないようだからな。」

「お前の都合なんか知るか!そんなことより、あのガキの方はいいのか。」

「タトラやユリが手当てをしている。カレはまだ幼い、ヨウリョウが足りなかった・・のかな。いきなりハツドウしたミコのエネルギー全ては受け入れきれなかっただけだ。オマエがそれをわからないわけはない。」

「なんだって言うんさ!?」魔族が睨みつける。その視線は炎を吐くが相手は動じなかった。

「アクマ覚えているはずだ、ヤクソクを。」

「サァ、なんだったかね。」デモンバルグはシラを切る。

「ワタルが成長したら・・・オマエはコダイのフネのアリカに案内する・・・」

アギュは逸らした目の先に回り込む。

「ワタルは18サイになった。パスポートだって取れるし、カイガイにだってイケル。」

しばらく、二人は睨み合い・・・無言で文字通り空間にエネルギーの火花を散らした。

感情の高まりに、ソリュートが胎内で動めくのを感じアギュはそれを必死で押しとどめた。

ここで戦えば、また地上が・・・現実世界が乱れる。

いちいち、カバナリオンの二の舞になってはかなわない。

「ふん、まぁ、それもいいさ。」先に折れたのは魔族だ。大げさに肩をすくめてみせる。

自分でも確かに、いつまでも先延ばしにしても仕方がないと思ったらしい。

アギュもホッと力を抜いた。

「それにしても・・・あの子供が会いたかったのがお前だったとは、驚きさ。」

「ワタルでなくて、ホッとしたんだろ。」それはそうだがと。

「俺が今まで長年、してきたことはなんだったんだか。渡と巫女を合わせたら、電光石火、化学反応みたいに何かが起こるとずっと信じて・・・俺は合わせないようにしていたのにさ。なのにいざ出会ってみたら、巫女は渡には全く興味ないときたもんだ!」

「オコルってナニガ、オコルと思っていたんだ?フタリのデアイで」

それには魔物は答えない。「それにしても・・・」デモンバルグは空中でアギュに向き合う。

「巫女が会いたがったのはなぜ、おまえなのか。ヒカリ?教えて欲しいもんだ。」

「それをオレもシリタイ。」アギュの返事は心から出たもの。

デモンバルグの瞳にも同意の色が浮かぶのをアギュは見のがさない。

トヨの反応はデモンバルグにとっても、予想外だったのだ。

 

 

もちろん、予想がつかなかったのは彼らだけではない。

「なんでなんだ?。」

ユリの問いに渡も首をかしげ続けている。

阿牛家の和洋折衷、大正モダンな応接間の長椅子に横たえられた鈴木トヨはぐったりとしているが息遣いの乱れはない。満ち足りた不思議な笑みを浮かべて眠っているのだった。

しばらくすれば自然に意識も戻ると診断したタトラは水差しを取りに席を外した。

この朝からワーム使いたちの姿は見えない。パトロール中じゃとタトラは説明している。

(詳しいことはわからないが新しい神月の客である『切り貼り屋』とナグロスの姿もないことから、おそらくそちら絡みと思われた。)

「渡には目もくれなかった。」

繰り返すユリの駄目押しに渡は何度目か、肩を持ち上げてみせる。

「夢ではさ・・・僕らしい誰かはトヨくんに、というか、多分さっきの女の人に・・・何度も殺されているんだけどな。テレビを見ているみたいで実感はないけれど、いい気持ちはしないよね。他の夢を見たいのに見れないんだもの。なんか疲れるよ・・・」ため息が出る。「僕はこの子に会うのが怖かったんだ。あの夢が何かわかるかもしれない、自分の中で何かが違ってしまうんじゃないかって。だけど、何か・・・取り越し苦労だったね。」

ユリが寄り添い手を握る。「落ち込むな、渡。」いやいやと渡は首を振る。

「これからも・・・またあの夢、見続けるかなのかなって思って。」

「大丈夫だ、見たとしてもユリがついてる。」渡は真面目一徹なユリの顔を見て笑った。

「そう、ユリちゃんが側にいてくれると見ないで済むんだから、ほんと不思議だよね。」

規則正しく上下するトヨの胸。タトラが持ってきた毛布で包み込む。

「その夢とやらが、二人が呼応している証のようじゃの。」今回、渡の夢の話はユリからアギュへ、アギュからタトラたちに伝わっていた。古代の足がかりの一つとしての真剣な判断材料だ。

「僕の方だけかもしれないけどね。」自嘲気味に返す渡も嫌がってるわけではない。

『鈴木トヨが渡の運命を握っているのは確かなようじゃ・・・だが』

「あの巫女にとっては、そうでもなかったってことじゃろうか。」

渡が気がかりそうに子供を見守る位置に座った。

「それより、トヨくんが会いに来たのは・・・ひょっとしてアギュさんなのかな?。」

それはそれでユリにも大きな問題だった。

アギュはデモンバルグを追って行って姿が見えないまま。

遺伝子上の父親に過ぎないアギュレギオンだが、ユリなりに『父』だと思い、誇りを抱いている。この星の親子関係とは似て異なるものであるが・・・渡に引き続いてアギュまでこの子供に巻き込まれるのはごめんこうむりたかった。ユリは子供の閉じられた長い睫毛を睨みつける。

タトラもうーんと唸ったきり、ユリから視線を外した。困ったものじゃと思う。

「渡どの、ひょっとすると・・・もう夢は見ないかもしれないの。」

 

 

 

 

 

 

 


スパイラルフォー-45

2018-05-04 | オリジナル小説

現れた古代の巫女

 

「いらっしゃい。よく来ましたね。」そう当たり障りなくアギュは声をかけた。

それを見あげた鈴木トヨの表情は劇的に変わる。

 

ユリには見えた。渡にも見えた。

その場にいたニュートロン、タトラにも見えただろう。

 

「探してた・・・」子供の声はトヨのものとはかけ離れる。

見知らぬ女、大人の女だ。

「・・・ずっと」どんなに会いたかったことか・・・

 

もっともはっきりと見えたのはアギュレギオン。

 

それは一人の女・・・まだ、少女に近い。

緋色と黄色のグラデーションエネルギーがあたりに球状に立ち上がり広がった。その渦巻く中心。高く複雑に髪を結い上げた娘が、アギュの前にかしずくように膝を折った。目は目の前の臨界進化体から離れない。

服は床まで届く白銀のドレーブ、鮮やかな彩色をされた血のように赤いローブを羽織っている。装身具は一切、ない。見たことのない服装だが、どこか古めかしい。特記すべきはその服の材質だった。布であろう、が、ただの布ではない。ラメのように細やかな光の糸で織りなしたかのようだ。いや、織りなしただけではない。まるでその糸の一本、一本がきらめきを放ち生地を覆い、渦巻く。まるでその光は生きているかのように揺らいでいる。模様が意思を持って常に少しづつ形を変え、マスゲームのごとく模様を作り続けているのだ。ぶれ続けているように見えるのはその娘の体、大きな目を見開くなめらかな顔、その白い肌そのものもだった。肌はラメを施され、内側から底光しているようだ。娘の意思を表に現すように微かに明滅する。

 

うっとりと仰ぎ見られアギュが当惑することと言ったら。

「・・・巫女・・・?」アギュが呟くと、娘はうなづき、涙が二筋こぼれ落ちた。

それから微笑む娘の瞳はゆっくりと閉じられ、その顔は急速に遠ざかり朧にぼやけていった。

下地となった鈴木トヨの顔が現れ・・・音もなく、足元に倒れた。

 

とっさにアギュは顔を振り上げ、降りてきた階段を振り返る。思った通り。

やはり、悪魔がいた。正確には天使と悪魔が。

デモンバルグの顔には計り知れない表情が浮かんでいる。

渡とトヨの出会いを知り、どこからか、慌てて駆けつけたのだろう。

彼も巫女の幻を見ていたはず。

そして彼は、今もまだトヨを通り越して何かを見続けているようだ。

はるか古代を思い出しているとアギュは確信する。

瞬時、アギュはデモンバルグのすぐ前に移動した。

 

 

初めて見る茫然自失したデモンバルグはアギュに気づくのが一拍、遅れた。

「わっ!」身を引きかけた腕をきつく引く。「彼女は、誰です?」アギュの詰問。

「なんだって?」顔を反らす悪魔に再び、問う。「知っているんでしょ?」

鈴木トヨは意識を失ってユリに介抱されていた。渡は何が起きたか理解できず、立ち尽くしている。タトラの視線だけがトヨからアギュの動きを正確に追っていた。

「何を言ってるさ。」不意打ちが成功したかに見えたが、デモンバルグの立て直しも早かった。

アギュの目にしっかりと視線を合わせた時には、すでに落ち着いている。

「何のことやら、な?ヒカリ。あのガキ、お前を見てえらい動揺してたじゃないか。」

そう、それがアギュにもどうしてなのかわからない。

かつてアギュは天使ミカエルの一人に絶対主と間違われたことがある。

彼も『待っていた』とアギュに言ったのだが、それとトヨのや本意は違う気がする。

誰か、具体的な誰かと混同しているのだ。そう直感した。

アギュの困惑を良いことに、魔族はせせら笑いシラを切る。

「お前の方が何か、知ってるんじゃないのかさ。」

そう強情に繰り返す。一瞬は悪魔の不意を打つことに成功したのだが、さすが海千山千の魔族。アギュに教えるつもりはないということだった。

 

「アギュレギオン、あなたにも・・・わからないんですね。」

デモンバルグにトヨの来訪を告げ、そのままついてきた天使、明烏はひたすら状況を傍観し続けることに周知し、自らの驚きを押し隠していた。アギュに失望しつつ。

「あの女は巫女・・・なんですか?」カラスにはアギュほど鮮明には見えなかったが、娘の放ったエネルギーの違和感は正確に伝わっている。

「それはなんとなく、腑に落ちるものがあるけれども」天使の肌がざわついたのだ、鳥肌のように。『今までに感じたことがないものだ。あれは・・・』ギリシャやエジプトの神殿の奥に感じる古代の神の名残、残像エネルギーに近いと思った。現代の信仰とは異質なもの。

『古代神には幸いなことに、会ったことはないけれど。』腕をさする。

旧約聖書の誕生と前後する4大天使とは明らかに違う、エネルギーだ。

朧で捉えどころがなく、計り知れない・・・一瞬でどこからか極限までに満ち溢れ、子供が意識を失うと同時に全てが消えてしまった。

一番古い悪魔と言われるデモンバルグの次に古い記憶を持つ4大天使。

彼らなら、何か見当がつくかもしれない。

すぐさま、4大天使の聖域に駆けつけたかった。

 

アギュとデモンバルグを見つめるタトラの表情は計り知れない。

『アギュどのはデモンバルグを野放しにしすぎではないのかの。』そう思う側から思い直す。

『確かに次元生物を捉えたところで奴の記憶を絞り出すことは至難の技・・・脳から抽出可能な生身の肉体とは違うのだ・・・イリト・ヴェガも容認するしかあるまいの・・』

タトラの立場は直属の上司とも同等と言える。かといって、小惑星帯の誰よりも上だ。

この星の子供にしか見えない外観であるが、実は彼は中枢の『祖の地球』の極秘資料の一部の閲覧も許されている身分だった。

『デモンバルグは古代、この星に流れ着いた『祖の地球人』たちが連れ歩いたというパートナー生物。人口魂からつくられた『ドウチ』であるというアギュどのの推察が確かであるならば・・・』タトラの目が細まる。『しかし、肉体が滅びた後も存在し続けているなどとは・・・資料にはないようじゃ。イリト・ヴェガは、この地に降り立ってからの何らかの技術の向上によるものではないかと思っとるようじゃが。はて・・・』

デモンバルグはアギュレギオンをうまく交わしたようだ。臨界進化体はすぐさま後を追って姿が消える。この後の彼らのやり取りを是非に聞きたいものだとタトラは唇を噛む。

天使も消えたが、果たしてあの二人の次元をたどれるものか・・・

諦めてタトラは足元の鈴木トヨに目を向ける。

『この子供の中にあるものこそ・・・古代の遺物であろう。かつて神城麗子が持っていた、巫女のために作り出された魂じゃ。』

その目はユリに指示され、トヨをソファに横たえている竹本渡へも向かった。

『それはおそらく、創造機関を操る彼の中にも・・・別のものがある。』

 

トヨは内なる巫女となり満たされて、夢の中をさまよっていた。

巫女の魂はこれを持ってトヨの心の奥へと深く沈んでいく。これからは意識から分離した巫女がトヨの視覚に現れ、会話するようなことはなくなるだろう。その代わり、トヨと巫女は深く溶けあった。巫女の力はトヨのものとなるが、トヨはまだそれを知らず、その自覚もない。

夢の中では青すぎる空の只中を進む船をトヨが首が痛くなるほどに夢中で見上げている。

光を吸い込む黒い船が巫女となった目には白銀に輝いて見える。

『ああ、こうして・・・あの船をいつも見ていたっけ』眠るトヨの顔は微笑む。

『・・・あの人がいたからだ』尽きることのない巫女の幸福がトヨをつらぬいていく。