スパイラルゼロ-7 ドラコ・ボール-2
何回か目に、玉が反れてアギュ達の近くに飛んだ。
「うるさいんだよ!オマエら!」アギュがドラコ玉を掴んで投げようとするが空振り。
ドラコはほどけながら、フラフラとアギュの手から逃げる。
「オレがあぶないだろ!オレになんかあったら、どうすんだ?」
どうもしません、はい。
ユウリとシドラが僕らを見て、なんか言って笑っている。うわあ、シドラが笑ってるよ、初めて見たーと動きながらもすかさずチェック。
アギュが空にボールを追うと、バラキが8の字を描いている。ワームも楽しいのかな。
臨界進化体様以外はおおむね好評みたい、このゲーム。
アギュはまだ何かわめいていたが僕は気にせず、取り返したボールを再び手に取った。ドラコもまだまだ、やる気万々。
そして、カプートの目も迎え撃つ勝負師の眼差しだ。
なんと言っても、カプートが反射神経も運動能力も僕と互角だってわかった事は大発見だった。嬉しくてしょうがない。スクールにだって僕と互角な奴なんて、そういないよ。
今度はテニスのように互いの腕で、激しくボールを打ち合った。
「駄目だー、もうタンマ!」さすがに僕も息をつぐ必要を感じ、草の上に体を投げ出す。カプートも座り込み、ゼイゼイ息をした。ドラコもグッタリとしてる。
「ひどいですよ~ガンダルファ~強引だな~明日はきっと筋肉痛です。」
「夢でも~筋肉痛になるの~かな?」
「自己催眠というのがあるし~ほら~思い込むと傷ができたり~するでしょ?
夢でも無意識に~対応して~脳から信号が発信されたりしていますから~。」
「じゃあ、僕らごっつい寝相してたりしてー!」
「ベッドから転がり落ちてたりしますよ。」
わはは、そりゃ愉快。モニターで観察しながら首をひねるケフェウスを思い浮かべた。
そしてふと、気が付く。カプートの顔を覆っていたあの時代錯誤眼鏡がなくなっていた。
気のせいでなく、手も足も伸びて服もすっきり。彼の精神がまとっていた鎧がほころんでいたわけだ。
「おまえ!」
視線ですぐそれに気が付くカプート。僕は思わず、彼の手を押さえる。
「おまえ、それかけない方がずっといいじゃん。」
彼の目はどんよりとなり、うっとしい髪に再び覆い隠された。
「なんか事情があんのね?」僕は察した。
「ひょっとして、モテすぎるのが嫌とか?だったりして。」
カプートはブッと吹き出した。
「女がほっとかんぜ。もったいない。」
「言っときますけど、ぼくはいわゆるそっち系じゃありませんよ。」
こいつも思考が早い。「男女交際は学問の邪魔です。」
「ふ、古っぇ~ダッセェ~!」僕、思わず絶叫。
大笑いするとカプートも笑った。しゃべりも随分、テキパキしてきたし。
んにょ、んにょ! ドラコも地面を這ってくる。あーおかしい。
(カプートも楽しかったにゃ!油断したにゃ!)
思えばこの時も、アギュはずっと側にいたんだよな。
(アギュは結構鋭いにょ。)
どんくさい割にはね。いけずってか、意地悪だもんねー。
「お前、今どき出世目指してんの?」僕は息も絶え絶えに笑いながら聞いた。
「原始体でも下地になる脳はそんなに変らないのです。」
カプートは再び曇った眼鏡を顔にかける。彼の手は意外にも骨太で男っぽかった。
「連邦の中枢に入れれば・・今の原始星政策の見直しをはかることも可能です。」
カプートはもう最初ほどブカブカしてない、衣服の中の広い肩をすくめた。
「とにかく今は勉強です。」
「そうかー」僕は感心してしまった。
「僕なんて軍隊入って生涯安定ぐらいしか考えてないのになー。お前は原始星のみんな のこと考えて、偉いな。すごいよ。」
カプートはすごく照れ臭そうにしたが、僕は本気でそう思ったんだ。
「変えてくれよな。お前ならできるよ、きっと!」
「一緒にがんばりましょうよ、ガンダルファ」
「いや、それは・・」僕は言葉を濁した。
(ガンちんは昔から勉強は今一つなのにゃ)はい、今一つなのでした。っておい!
「あーつまらん!オレはもう帰る!」
アギュの声がふいに響いた。あれ?あっちにいたと思ったのに。
「あ、今いいとこだから。ドラマで言えば見せ場ね。」僕は手の平を振った。
「オレにはくだらんだけだ。だいたい、オマエらに連邦が変えられるわけないだろ!」
「あれ?立ち聞きなわけ?お進化様とあろうものが。」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
アギュは足を踏みならした。カプートが座ったまま、びっくりしてアギュを見ている。滝つぼにいたユウリとシドラも話を中断。ユウリが立ち上がるのが見えた。
「特にオマエ!オマエごときに連邦を変えることなんか、できるわけないだろが!」
アギュはカプートの肩を掴もうとした。僕が撥ね除けなければ、揺すぶっていただろう。
「乱暴すんなよ。」僕はむっとして言った。「何、熱くなってんだよ。」
アギュの顔はその光よりも真っ青になり、所々に赤い斑点が浮かんでいる。お世辞にも見栄えがするとは言い難い。ユウリがこっちに歩き出す。
「生意気言いやがって!たかが原始星の分際で!」
「・・それはどういう意味でしょう?。その言葉、聞き捨てなりません。」
カプートは居住まいを正し、僕は噛み付く。「お前だって、もとはそうだろが!」
「オレはもう違う!」高ビーに鼻をそびやかす。「オレは進化したんだ。」
このお進化野郎が!。アギュがカプートをペシャンコにしてやろうと思いついたのは確かだった。指を突きつけて、偉そうにまくし立てる。
「オマエみたいな進化もしないただの原始星人が、いくらお勉強したって無駄なんだって話だよ!原始星出身で権力持った奴なんているか?遊民ニュートロンだって厳しいのに。オマエなんかが、対等に扱われるわけないだろ!。オマエが百歩間違って、もしも中枢に行ったってな、何もできるもんかとこのオレサマがジキジキに教えてやってるんだよ!ありがたがれ!」
むく犬カプートは落ち着いて返す。
「確かに・・ぼくは進化しなかった・・でも、ぼくはあきらめない。なぜなら、ぼくは・・あきらめるわけにはいかないんだ、だって、」
カプートは突き刺すように言葉を吐いた。
「ぼくは厄災の星の出身だからです。」
カプートのその言葉にアギュは動きを止めた。いきなり彼は青ざめた。
「何?どういうこと?」僕はまごつく。
一瞬の沈黙だったが、アギュの瞳が不気味に揺れ動くのが見えた。発作の前触れみたいに。僕は思わず、カプートを守ろうと彼の前に出た。
ふいにアギュは狂ったように笑い出した。ヒーヒーと息が鳴る。
ユウリが駆けつける。「狂っちゃった?狂っちゃったの?」
僕は口の動きで言葉を伝える。シドラが苦い表情で面倒くさそうに立ち上がる。
「あーおかしい!」アギュは甲高い声でせき込む。
「アギュ、大丈夫?」おろおろするユウリを無視して、口を拭う。
「そうか、オマエ。そうか!そういうことか!それならなおさら、不可能だ!」
カプートは無言。強い目でアギュを凝視。
むせぶ笑い声のなかに切れ切れに混じる声。「まるで、・・敵討ちってか・・」
「どういうこと?どういうことなの?」と僕。
「連邦を変えるなんてことは、コイツになんかできないってことだ!」
アギュは甲高く言葉を発した。
「じゃあ、あなたはどうなんです?」カプートが静かに問い返す。
「二人とももう、やめて・・」ユウリが心配そうに二人を見比べる。。
シドラが手をあげて合図する。バラキも上空で動きを止めた。
アギュは一瞬泣くのかと思った。それぐらい、いっちまった感じ。
「連邦なんか知るか!」アギュは声を爆発させた。「オレが!なんで、オレが!」
足を踏みならす。「連邦なんか、大嫌いだ!オレは許さない!滅んじまえ!」
ユウリを乱暴に押しのけると僕とカプートに向き合う。
「連邦なんか、どうなったってオレの知ることか!原始人もニュートロンもオレの仲間じゃない!オレに関係ない!」
「関係ないって、お前・・」僕はアギュの剣幕に圧倒されて言葉を失う。
「お前って人類の・・希望の星なんじゃねーの?」つい、半笑いになる。
「オレにもしも、力があればだ!連邦なんか焼いてやる、跡形もなくな!」
むき出しの憎しみに僕はおののく。最高進化どころか、最高危険人物だっての。
「もういい!オレはうんざりだ!ちきしょう!見てろ!」アギュの声がかすれた。
「今にオレは、オレは・・!」
意地悪心が僕をそそのかす。その誘惑をどうしても止めることができなかった。
「そうか、そうだった。どーせ、どっか逃げちまうだろ?お前の仲間みたいに。」
そう言った瞬間、アギュはがすごい目で僕を睨んだ。一瞬で、僕はふっとばされていた。
まるで空気のパンチ。とてつもなく固い、目に見えない塊が稲妻のように走り、僕は目から火花が出た。とっさにドラコが後ろに回り込んでいたらしい。おかげで僕は地面に叩き付けられることはなかったのだが、ドラコが甲高い悲鳴をあげた。
にょー!
ぐあおおぉぉぉ~っバラキが吠えた。
「よせ、バラキ!」シドラ・シデンは落ち着いていた。
「それは、まずい。この惑星が飛ぶ。」
「カプート、何を言ったの?」
ユウリがオロオロとアギュに寄り添う。「アギュ、どうしたの?答えて、お願いよ。」
アギュは脱力して、しょんぼりと立っていた。
「ごめんなさい。、ユウリ。せっかく招いてもらったのに。」
カプートは心からすまなそうだった。
「やはり、来るべきではなかったのです。」
「そんなことないわ・・アギュ、アギュだって、楽しかったでしょ?」
「そんなにコイツラがお気に入りか!オレはおトモダチなんていらないんだ!
ユウリの手をアギュが払った。
「オレの保護者ずらは止めろ。」
「なら甘えるな。」シドラ、一喝。最悪の空気。
「しかし、怖いですね~」カプートが何事もなかったように、突然仕切り直す。さっき、自分が原因だと認めたのが嘘のような能天気にな口調。思わず、緊張が解ける。
「実際、ワームの能力なら惑星破壊も可能なんでしょうか。次元と次元の狭間で粉々になるんでしょうかね~?へたしたら、ぼく達、世紀の瞬間に立ち会えたわけですよ。考えて見れば惜しい事をしたわけです。ねえ、ガンダルファ~?」
「あのなあ」僕はあきれながら、下敷きになったドラコの上からなんとか立ち上がった。
「大丈夫か?」シドラが聞く。勿論、ドラコのことだ。
んにょ!見た所、傷はない。赤ちゃんワームも一二度膨らんだ後、伸びをした。目をパチパチさせて僕を見る。
「大丈夫だって。」と、頭上のバラキにも報告。バラキは同じワームのドラコの為に怒ってくれたんだ。僕なんておまけなのは知ってますとも。
「臨界進化体とワームのマジバトル!見たかったです~」
カプートはさっきのマジなやり取りなどどこ吹く風。まだ、残念そうにつぶやいてる。
「お前、実際科学者向いてるよ」とため息の僕。つい、蒸し返してしまう。
「厄災がどうしたって?どういう意味なの?」
「アギュ!」ユウリが叫んだ。アギュはユウリを振りきって空へと飛んだ。
「スクールに帰ったんだろ。」シドラがユウリに寄り添う。
「他に帰るところなどないのだ。」そう、僕らもね。
シドラ・シデンがそう言ったと同時に僕らの体を白い光が貫いた。第23番惑星の地平線から光が空へと何本も走る。
「もう、夜明けだわ。」ユウリはとても疲れたよう見えた。僕はちょっと反省。
天罰か、彼女の目は遠ざかる青い光をひたすら見つめている。
「帰りましょう。」ユウリがやっと振り返った。
こうして長い、初めての夢のピクニックが終わった。
僕は自分の部屋で目覚めた。そして、実際ひどい筋肉痛に襲われた。ドラコと共に午後まで寝て過ごすこととなった。それでその日、初めて受けるはずだった特別クラスの授業を欠席してしまったわけだ。とほほ。
アギュが僕を眠らせず脅えさせ、困らせる為に企んでた当初の計画通りになったわけ。
(あの時は死ぬかと思ったにょ)ああ、アギュの攻撃を受けた時のことだろ?。
アギュ怒るとこええー!と、思ったからさ、それからは大分お行儀良かったでしょ?。
(どうかにょ~それはノーコメントにゃ!)
まあ、他にも心境の変化ですかね?
けしてアギュにブルッタわけじゃないからね。そこんとこ、よろしく。
何回か目に、玉が反れてアギュ達の近くに飛んだ。
「うるさいんだよ!オマエら!」アギュがドラコ玉を掴んで投げようとするが空振り。
ドラコはほどけながら、フラフラとアギュの手から逃げる。
「オレがあぶないだろ!オレになんかあったら、どうすんだ?」
どうもしません、はい。
ユウリとシドラが僕らを見て、なんか言って笑っている。うわあ、シドラが笑ってるよ、初めて見たーと動きながらもすかさずチェック。
アギュが空にボールを追うと、バラキが8の字を描いている。ワームも楽しいのかな。
臨界進化体様以外はおおむね好評みたい、このゲーム。
アギュはまだ何かわめいていたが僕は気にせず、取り返したボールを再び手に取った。ドラコもまだまだ、やる気万々。
そして、カプートの目も迎え撃つ勝負師の眼差しだ。
なんと言っても、カプートが反射神経も運動能力も僕と互角だってわかった事は大発見だった。嬉しくてしょうがない。スクールにだって僕と互角な奴なんて、そういないよ。
今度はテニスのように互いの腕で、激しくボールを打ち合った。
「駄目だー、もうタンマ!」さすがに僕も息をつぐ必要を感じ、草の上に体を投げ出す。カプートも座り込み、ゼイゼイ息をした。ドラコもグッタリとしてる。
「ひどいですよ~ガンダルファ~強引だな~明日はきっと筋肉痛です。」
「夢でも~筋肉痛になるの~かな?」
「自己催眠というのがあるし~ほら~思い込むと傷ができたり~するでしょ?
夢でも無意識に~対応して~脳から信号が発信されたりしていますから~。」
「じゃあ、僕らごっつい寝相してたりしてー!」
「ベッドから転がり落ちてたりしますよ。」
わはは、そりゃ愉快。モニターで観察しながら首をひねるケフェウスを思い浮かべた。
そしてふと、気が付く。カプートの顔を覆っていたあの時代錯誤眼鏡がなくなっていた。
気のせいでなく、手も足も伸びて服もすっきり。彼の精神がまとっていた鎧がほころんでいたわけだ。
「おまえ!」
視線ですぐそれに気が付くカプート。僕は思わず、彼の手を押さえる。
「おまえ、それかけない方がずっといいじゃん。」
彼の目はどんよりとなり、うっとしい髪に再び覆い隠された。
「なんか事情があんのね?」僕は察した。
「ひょっとして、モテすぎるのが嫌とか?だったりして。」
カプートはブッと吹き出した。
「女がほっとかんぜ。もったいない。」
「言っときますけど、ぼくはいわゆるそっち系じゃありませんよ。」
こいつも思考が早い。「男女交際は学問の邪魔です。」
「ふ、古っぇ~ダッセェ~!」僕、思わず絶叫。
大笑いするとカプートも笑った。しゃべりも随分、テキパキしてきたし。
んにょ、んにょ! ドラコも地面を這ってくる。あーおかしい。
(カプートも楽しかったにゃ!油断したにゃ!)
思えばこの時も、アギュはずっと側にいたんだよな。
(アギュは結構鋭いにょ。)
どんくさい割にはね。いけずってか、意地悪だもんねー。
「お前、今どき出世目指してんの?」僕は息も絶え絶えに笑いながら聞いた。
「原始体でも下地になる脳はそんなに変らないのです。」
カプートは再び曇った眼鏡を顔にかける。彼の手は意外にも骨太で男っぽかった。
「連邦の中枢に入れれば・・今の原始星政策の見直しをはかることも可能です。」
カプートはもう最初ほどブカブカしてない、衣服の中の広い肩をすくめた。
「とにかく今は勉強です。」
「そうかー」僕は感心してしまった。
「僕なんて軍隊入って生涯安定ぐらいしか考えてないのになー。お前は原始星のみんな のこと考えて、偉いな。すごいよ。」
カプートはすごく照れ臭そうにしたが、僕は本気でそう思ったんだ。
「変えてくれよな。お前ならできるよ、きっと!」
「一緒にがんばりましょうよ、ガンダルファ」
「いや、それは・・」僕は言葉を濁した。
(ガンちんは昔から勉強は今一つなのにゃ)はい、今一つなのでした。っておい!
「あーつまらん!オレはもう帰る!」
アギュの声がふいに響いた。あれ?あっちにいたと思ったのに。
「あ、今いいとこだから。ドラマで言えば見せ場ね。」僕は手の平を振った。
「オレにはくだらんだけだ。だいたい、オマエらに連邦が変えられるわけないだろ!」
「あれ?立ち聞きなわけ?お進化様とあろうものが。」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
アギュは足を踏みならした。カプートが座ったまま、びっくりしてアギュを見ている。滝つぼにいたユウリとシドラも話を中断。ユウリが立ち上がるのが見えた。
「特にオマエ!オマエごときに連邦を変えることなんか、できるわけないだろが!」
アギュはカプートの肩を掴もうとした。僕が撥ね除けなければ、揺すぶっていただろう。
「乱暴すんなよ。」僕はむっとして言った。「何、熱くなってんだよ。」
アギュの顔はその光よりも真っ青になり、所々に赤い斑点が浮かんでいる。お世辞にも見栄えがするとは言い難い。ユウリがこっちに歩き出す。
「生意気言いやがって!たかが原始星の分際で!」
「・・それはどういう意味でしょう?。その言葉、聞き捨てなりません。」
カプートは居住まいを正し、僕は噛み付く。「お前だって、もとはそうだろが!」
「オレはもう違う!」高ビーに鼻をそびやかす。「オレは進化したんだ。」
このお進化野郎が!。アギュがカプートをペシャンコにしてやろうと思いついたのは確かだった。指を突きつけて、偉そうにまくし立てる。
「オマエみたいな進化もしないただの原始星人が、いくらお勉強したって無駄なんだって話だよ!原始星出身で権力持った奴なんているか?遊民ニュートロンだって厳しいのに。オマエなんかが、対等に扱われるわけないだろ!。オマエが百歩間違って、もしも中枢に行ったってな、何もできるもんかとこのオレサマがジキジキに教えてやってるんだよ!ありがたがれ!」
むく犬カプートは落ち着いて返す。
「確かに・・ぼくは進化しなかった・・でも、ぼくはあきらめない。なぜなら、ぼくは・・あきらめるわけにはいかないんだ、だって、」
カプートは突き刺すように言葉を吐いた。
「ぼくは厄災の星の出身だからです。」
カプートのその言葉にアギュは動きを止めた。いきなり彼は青ざめた。
「何?どういうこと?」僕はまごつく。
一瞬の沈黙だったが、アギュの瞳が不気味に揺れ動くのが見えた。発作の前触れみたいに。僕は思わず、カプートを守ろうと彼の前に出た。
ふいにアギュは狂ったように笑い出した。ヒーヒーと息が鳴る。
ユウリが駆けつける。「狂っちゃった?狂っちゃったの?」
僕は口の動きで言葉を伝える。シドラが苦い表情で面倒くさそうに立ち上がる。
「あーおかしい!」アギュは甲高い声でせき込む。
「アギュ、大丈夫?」おろおろするユウリを無視して、口を拭う。
「そうか、オマエ。そうか!そういうことか!それならなおさら、不可能だ!」
カプートは無言。強い目でアギュを凝視。
むせぶ笑い声のなかに切れ切れに混じる声。「まるで、・・敵討ちってか・・」
「どういうこと?どういうことなの?」と僕。
「連邦を変えるなんてことは、コイツになんかできないってことだ!」
アギュは甲高く言葉を発した。
「じゃあ、あなたはどうなんです?」カプートが静かに問い返す。
「二人とももう、やめて・・」ユウリが心配そうに二人を見比べる。。
シドラが手をあげて合図する。バラキも上空で動きを止めた。
アギュは一瞬泣くのかと思った。それぐらい、いっちまった感じ。
「連邦なんか知るか!」アギュは声を爆発させた。「オレが!なんで、オレが!」
足を踏みならす。「連邦なんか、大嫌いだ!オレは許さない!滅んじまえ!」
ユウリを乱暴に押しのけると僕とカプートに向き合う。
「連邦なんか、どうなったってオレの知ることか!原始人もニュートロンもオレの仲間じゃない!オレに関係ない!」
「関係ないって、お前・・」僕はアギュの剣幕に圧倒されて言葉を失う。
「お前って人類の・・希望の星なんじゃねーの?」つい、半笑いになる。
「オレにもしも、力があればだ!連邦なんか焼いてやる、跡形もなくな!」
むき出しの憎しみに僕はおののく。最高進化どころか、最高危険人物だっての。
「もういい!オレはうんざりだ!ちきしょう!見てろ!」アギュの声がかすれた。
「今にオレは、オレは・・!」
意地悪心が僕をそそのかす。その誘惑をどうしても止めることができなかった。
「そうか、そうだった。どーせ、どっか逃げちまうだろ?お前の仲間みたいに。」
そう言った瞬間、アギュはがすごい目で僕を睨んだ。一瞬で、僕はふっとばされていた。
まるで空気のパンチ。とてつもなく固い、目に見えない塊が稲妻のように走り、僕は目から火花が出た。とっさにドラコが後ろに回り込んでいたらしい。おかげで僕は地面に叩き付けられることはなかったのだが、ドラコが甲高い悲鳴をあげた。
にょー!
ぐあおおぉぉぉ~っバラキが吠えた。
「よせ、バラキ!」シドラ・シデンは落ち着いていた。
「それは、まずい。この惑星が飛ぶ。」
「カプート、何を言ったの?」
ユウリがオロオロとアギュに寄り添う。「アギュ、どうしたの?答えて、お願いよ。」
アギュは脱力して、しょんぼりと立っていた。
「ごめんなさい。、ユウリ。せっかく招いてもらったのに。」
カプートは心からすまなそうだった。
「やはり、来るべきではなかったのです。」
「そんなことないわ・・アギュ、アギュだって、楽しかったでしょ?」
「そんなにコイツラがお気に入りか!オレはおトモダチなんていらないんだ!
ユウリの手をアギュが払った。
「オレの保護者ずらは止めろ。」
「なら甘えるな。」シドラ、一喝。最悪の空気。
「しかし、怖いですね~」カプートが何事もなかったように、突然仕切り直す。さっき、自分が原因だと認めたのが嘘のような能天気にな口調。思わず、緊張が解ける。
「実際、ワームの能力なら惑星破壊も可能なんでしょうか。次元と次元の狭間で粉々になるんでしょうかね~?へたしたら、ぼく達、世紀の瞬間に立ち会えたわけですよ。考えて見れば惜しい事をしたわけです。ねえ、ガンダルファ~?」
「あのなあ」僕はあきれながら、下敷きになったドラコの上からなんとか立ち上がった。
「大丈夫か?」シドラが聞く。勿論、ドラコのことだ。
んにょ!見た所、傷はない。赤ちゃんワームも一二度膨らんだ後、伸びをした。目をパチパチさせて僕を見る。
「大丈夫だって。」と、頭上のバラキにも報告。バラキは同じワームのドラコの為に怒ってくれたんだ。僕なんておまけなのは知ってますとも。
「臨界進化体とワームのマジバトル!見たかったです~」
カプートはさっきのマジなやり取りなどどこ吹く風。まだ、残念そうにつぶやいてる。
「お前、実際科学者向いてるよ」とため息の僕。つい、蒸し返してしまう。
「厄災がどうしたって?どういう意味なの?」
「アギュ!」ユウリが叫んだ。アギュはユウリを振りきって空へと飛んだ。
「スクールに帰ったんだろ。」シドラがユウリに寄り添う。
「他に帰るところなどないのだ。」そう、僕らもね。
シドラ・シデンがそう言ったと同時に僕らの体を白い光が貫いた。第23番惑星の地平線から光が空へと何本も走る。
「もう、夜明けだわ。」ユウリはとても疲れたよう見えた。僕はちょっと反省。
天罰か、彼女の目は遠ざかる青い光をひたすら見つめている。
「帰りましょう。」ユウリがやっと振り返った。
こうして長い、初めての夢のピクニックが終わった。
僕は自分の部屋で目覚めた。そして、実際ひどい筋肉痛に襲われた。ドラコと共に午後まで寝て過ごすこととなった。それでその日、初めて受けるはずだった特別クラスの授業を欠席してしまったわけだ。とほほ。
アギュが僕を眠らせず脅えさせ、困らせる為に企んでた当初の計画通りになったわけ。
(あの時は死ぬかと思ったにょ)ああ、アギュの攻撃を受けた時のことだろ?。
アギュ怒るとこええー!と、思ったからさ、それからは大分お行儀良かったでしょ?。
(どうかにょ~それはノーコメントにゃ!)
まあ、他にも心境の変化ですかね?
けしてアギュにブルッタわけじゃないからね。そこんとこ、よろしく。