MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

GBゼロ-7

2007-09-21 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-7  ドラコ・ボール-2



何回か目に、玉が反れてアギュ達の近くに飛んだ。
「うるさいんだよ!オマエら!」アギュがドラコ玉を掴んで投げようとするが空振り。
ドラコはほどけながら、フラフラとアギュの手から逃げる。
「オレがあぶないだろ!オレになんかあったら、どうすんだ?」
どうもしません、はい。
ユウリとシドラが僕らを見て、なんか言って笑っている。うわあ、シドラが笑ってるよ、初めて見たーと動きながらもすかさずチェック。
アギュが空にボールを追うと、バラキが8の字を描いている。ワームも楽しいのかな。
臨界進化体様以外はおおむね好評みたい、このゲーム。
アギュはまだ何かわめいていたが僕は気にせず、取り返したボールを再び手に取った。ドラコもまだまだ、やる気万々。
そして、カプートの目も迎え撃つ勝負師の眼差しだ。

なんと言っても、カプートが反射神経も運動能力も僕と互角だってわかった事は大発見だった。嬉しくてしょうがない。スクールにだって僕と互角な奴なんて、そういないよ。
今度はテニスのように互いの腕で、激しくボールを打ち合った。
「駄目だー、もうタンマ!」さすがに僕も息をつぐ必要を感じ、草の上に体を投げ出す。カプートも座り込み、ゼイゼイ息をした。ドラコもグッタリとしてる。
「ひどいですよ~ガンダルファ~強引だな~明日はきっと筋肉痛です。」
「夢でも~筋肉痛になるの~かな?」
「自己催眠というのがあるし~ほら~思い込むと傷ができたり~するでしょ?
 夢でも無意識に~対応して~脳から信号が発信されたりしていますから~。」
「じゃあ、僕らごっつい寝相してたりしてー!」
「ベッドから転がり落ちてたりしますよ。」
わはは、そりゃ愉快。モニターで観察しながら首をひねるケフェウスを思い浮かべた。
そしてふと、気が付く。カプートの顔を覆っていたあの時代錯誤眼鏡がなくなっていた。
気のせいでなく、手も足も伸びて服もすっきり。彼の精神がまとっていた鎧がほころんでいたわけだ。

「おまえ!」
視線ですぐそれに気が付くカプート。僕は思わず、彼の手を押さえる。
「おまえ、それかけない方がずっといいじゃん。」
彼の目はどんよりとなり、うっとしい髪に再び覆い隠された。
「なんか事情があんのね?」僕は察した。
「ひょっとして、モテすぎるのが嫌とか?だったりして。」
カプートはブッと吹き出した。
「女がほっとかんぜ。もったいない。」
「言っときますけど、ぼくはいわゆるそっち系じゃありませんよ。」
こいつも思考が早い。「男女交際は学問の邪魔です。」
「ふ、古っぇ~ダッセェ~!」僕、思わず絶叫。
大笑いするとカプートも笑った。しゃべりも随分、テキパキしてきたし。
んにょ、んにょ! ドラコも地面を這ってくる。あーおかしい。

(カプートも楽しかったにゃ!油断したにゃ!)
思えばこの時も、アギュはずっと側にいたんだよな。
(アギュは結構鋭いにょ。)
どんくさい割にはね。いけずってか、意地悪だもんねー。

「お前、今どき出世目指してんの?」僕は息も絶え絶えに笑いながら聞いた。
「原始体でも下地になる脳はそんなに変らないのです。」
カプートは再び曇った眼鏡を顔にかける。彼の手は意外にも骨太で男っぽかった。
「連邦の中枢に入れれば・・今の原始星政策の見直しをはかることも可能です。」
カプートはもう最初ほどブカブカしてない、衣服の中の広い肩をすくめた。
「とにかく今は勉強です。」
「そうかー」僕は感心してしまった。
「僕なんて軍隊入って生涯安定ぐらいしか考えてないのになー。お前は原始星のみんな のこと考えて、偉いな。すごいよ。」
カプートはすごく照れ臭そうにしたが、僕は本気でそう思ったんだ。
「変えてくれよな。お前ならできるよ、きっと!」
「一緒にがんばりましょうよ、ガンダルファ」
「いや、それは・・」僕は言葉を濁した。

(ガンちんは昔から勉強は今一つなのにゃ)はい、今一つなのでした。っておい!

「あーつまらん!オレはもう帰る!」
アギュの声がふいに響いた。あれ?あっちにいたと思ったのに。
「あ、今いいとこだから。ドラマで言えば見せ場ね。」僕は手の平を振った。
「オレにはくだらんだけだ。だいたい、オマエらに連邦が変えられるわけないだろ!」
「あれ?立ち聞きなわけ?お進化様とあろうものが。」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
アギュは足を踏みならした。カプートが座ったまま、びっくりしてアギュを見ている。滝つぼにいたユウリとシドラも話を中断。ユウリが立ち上がるのが見えた。

「特にオマエ!オマエごときに連邦を変えることなんか、できるわけないだろが!」
アギュはカプートの肩を掴もうとした。僕が撥ね除けなければ、揺すぶっていただろう。
「乱暴すんなよ。」僕はむっとして言った。「何、熱くなってんだよ。」
アギュの顔はその光よりも真っ青になり、所々に赤い斑点が浮かんでいる。お世辞にも見栄えがするとは言い難い。ユウリがこっちに歩き出す。
「生意気言いやがって!たかが原始星の分際で!」
「・・それはどういう意味でしょう?。その言葉、聞き捨てなりません。」
カプートは居住まいを正し、僕は噛み付く。「お前だって、もとはそうだろが!」
「オレはもう違う!」高ビーに鼻をそびやかす。「オレは進化したんだ。」
このお進化野郎が!。アギュがカプートをペシャンコにしてやろうと思いついたのは確かだった。指を突きつけて、偉そうにまくし立てる。
「オマエみたいな進化もしないただの原始星人が、いくらお勉強したって無駄なんだって話だよ!原始星出身で権力持った奴なんているか?遊民ニュートロンだって厳しいのに。オマエなんかが、対等に扱われるわけないだろ!。オマエが百歩間違って、もしも中枢に行ったってな、何もできるもんかとこのオレサマがジキジキに教えてやってるんだよ!ありがたがれ!」
むく犬カプートは落ち着いて返す。
「確かに・・ぼくは進化しなかった・・でも、ぼくはあきらめない。なぜなら、ぼくは・・あきらめるわけにはいかないんだ、だって、」
カプートは突き刺すように言葉を吐いた。
「ぼくは厄災の星の出身だからです。」
カプートのその言葉にアギュは動きを止めた。いきなり彼は青ざめた。
「何?どういうこと?」僕はまごつく。

一瞬の沈黙だったが、アギュの瞳が不気味に揺れ動くのが見えた。発作の前触れみたいに。僕は思わず、カプートを守ろうと彼の前に出た。
ふいにアギュは狂ったように笑い出した。ヒーヒーと息が鳴る。
ユウリが駆けつける。「狂っちゃった?狂っちゃったの?」
僕は口の動きで言葉を伝える。シドラが苦い表情で面倒くさそうに立ち上がる。
「あーおかしい!」アギュは甲高い声でせき込む。
「アギュ、大丈夫?」おろおろするユウリを無視して、口を拭う。
「そうか、オマエ。そうか!そういうことか!それならなおさら、不可能だ!」
カプートは無言。強い目でアギュを凝視。
むせぶ笑い声のなかに切れ切れに混じる声。「まるで、・・敵討ちってか・・」
「どういうこと?どういうことなの?」と僕。
「連邦を変えるなんてことは、コイツになんかできないってことだ!」
アギュは甲高く言葉を発した。
「じゃあ、あなたはどうなんです?」カプートが静かに問い返す。
「二人とももう、やめて・・」ユウリが心配そうに二人を見比べる。。
シドラが手をあげて合図する。バラキも上空で動きを止めた。
アギュは一瞬泣くのかと思った。それぐらい、いっちまった感じ。
「連邦なんか知るか!」アギュは声を爆発させた。「オレが!なんで、オレが!」
足を踏みならす。「連邦なんか、大嫌いだ!オレは許さない!滅んじまえ!」
ユウリを乱暴に押しのけると僕とカプートに向き合う。
「連邦なんか、どうなったってオレの知ることか!原始人もニュートロンもオレの仲間じゃない!オレに関係ない!」
「関係ないって、お前・・」僕はアギュの剣幕に圧倒されて言葉を失う。
「お前って人類の・・希望の星なんじゃねーの?」つい、半笑いになる。
「オレにもしも、力があればだ!連邦なんか焼いてやる、跡形もなくな!」
むき出しの憎しみに僕はおののく。最高進化どころか、最高危険人物だっての。
「もういい!オレはうんざりだ!ちきしょう!見てろ!」アギュの声がかすれた。
「今にオレは、オレは・・!」
意地悪心が僕をそそのかす。その誘惑をどうしても止めることができなかった。
「そうか、そうだった。どーせ、どっか逃げちまうだろ?お前の仲間みたいに。」
そう言った瞬間、アギュはがすごい目で僕を睨んだ。一瞬で、僕はふっとばされていた。
まるで空気のパンチ。とてつもなく固い、目に見えない塊が稲妻のように走り、僕は目から火花が出た。とっさにドラコが後ろに回り込んでいたらしい。おかげで僕は地面に叩き付けられることはなかったのだが、ドラコが甲高い悲鳴をあげた。
にょー!
ぐあおおぉぉぉ~っバラキが吠えた。
「よせ、バラキ!」シドラ・シデンは落ち着いていた。
「それは、まずい。この惑星が飛ぶ。」
「カプート、何を言ったの?」
ユウリがオロオロとアギュに寄り添う。「アギュ、どうしたの?答えて、お願いよ。」
アギュは脱力して、しょんぼりと立っていた。
「ごめんなさい。、ユウリ。せっかく招いてもらったのに。」
カプートは心からすまなそうだった。
「やはり、来るべきではなかったのです。」
「そんなことないわ・・アギュ、アギュだって、楽しかったでしょ?」
「そんなにコイツラがお気に入りか!オレはおトモダチなんていらないんだ!
ユウリの手をアギュが払った。
「オレの保護者ずらは止めろ。」
「なら甘えるな。」シドラ、一喝。最悪の空気。

「しかし、怖いですね~」カプートが何事もなかったように、突然仕切り直す。さっき、自分が原因だと認めたのが嘘のような能天気にな口調。思わず、緊張が解ける。
「実際、ワームの能力なら惑星破壊も可能なんでしょうか。次元と次元の狭間で粉々になるんでしょうかね~?へたしたら、ぼく達、世紀の瞬間に立ち会えたわけですよ。考えて見れば惜しい事をしたわけです。ねえ、ガンダルファ~?」
「あのなあ」僕はあきれながら、下敷きになったドラコの上からなんとか立ち上がった。
「大丈夫か?」シドラが聞く。勿論、ドラコのことだ。
んにょ!見た所、傷はない。赤ちゃんワームも一二度膨らんだ後、伸びをした。目をパチパチさせて僕を見る。
「大丈夫だって。」と、頭上のバラキにも報告。バラキは同じワームのドラコの為に怒ってくれたんだ。僕なんておまけなのは知ってますとも。
「臨界進化体とワームのマジバトル!見たかったです~」
カプートはさっきのマジなやり取りなどどこ吹く風。まだ、残念そうにつぶやいてる。
「お前、実際科学者向いてるよ」とため息の僕。つい、蒸し返してしまう。
「厄災がどうしたって?どういう意味なの?」

「アギュ!」ユウリが叫んだ。アギュはユウリを振りきって空へと飛んだ。
「スクールに帰ったんだろ。」シドラがユウリに寄り添う。
「他に帰るところなどないのだ。」そう、僕らもね。

シドラ・シデンがそう言ったと同時に僕らの体を白い光が貫いた。第23番惑星の地平線から光が空へと何本も走る。
「もう、夜明けだわ。」ユウリはとても疲れたよう見えた。僕はちょっと反省。
天罰か、彼女の目は遠ざかる青い光をひたすら見つめている。
「帰りましょう。」ユウリがやっと振り返った。

こうして長い、初めての夢のピクニックが終わった。
僕は自分の部屋で目覚めた。そして、実際ひどい筋肉痛に襲われた。ドラコと共に午後まで寝て過ごすこととなった。それでその日、初めて受けるはずだった特別クラスの授業を欠席してしまったわけだ。とほほ。
アギュが僕を眠らせず脅えさせ、困らせる為に企んでた当初の計画通りになったわけ。

(あの時は死ぬかと思ったにょ)ああ、アギュの攻撃を受けた時のことだろ?。
アギュ怒るとこええー!と、思ったからさ、それからは大分お行儀良かったでしょ?。
(どうかにょ~それはノーコメントにゃ!)
まあ、他にも心境の変化ですかね?
けしてアギュにブルッタわけじゃないからね。そこんとこ、よろしく。

GBゼロ-7

2007-09-21 | オリジナル小説
スパイラルゼロ-7



       ドラコ・ボール

闇夜の提灯のように深い森を先に立って飛ぶアギュを追い、僕らは茶色い枯葉や黒い色素の草の上をすべっるように進んで行った。するとアギュの青い光に反射して水面らしきものが鏡のように葉隠れに見えて来た。気のせいか滝の音まで聞こえる気がする。これは夢だから実際に聞いてるわけはない。脳が作り出したリアルな音を感じてるだけなんだろうけども。でも人間の現実だって似たようなもんだったりしてね。
水の輝きを目にしたドラコは大興奮。んにゃーお!歓喜の叫びをあげると僕から飛び出す。と、思ったら勢い余って赤い水に頭からポチャン!
うぉーっ!「大丈夫か?ドラコ、溺れてるぞ!」あわてて駆け寄る。
僕らには直接水に触れる実感はないが、淵は赤く錆びてドロドロと深い。僕が水に潜る感覚が掴めず苦闘する間に、空からバラキが尾を水に刺し入れてあっと言う間に救出。
僕らと違う次元を行き来するワームにはまったく、関係ないみたい。ワームの夢ってどこの世界の夢なんだろ?臨界進化体の夢をみたいと言ったケフェウスの言葉をふと思い出す。

「へただ。へた過ぎる。」シデンがあきれる。「空間認識能力が育ってない。」
「悪かったなー!」僕は変なゲップをしているドラコを焦って抱き上げた。
ちょとグッタリしてない、これ?揺するとケフォッと赤い水の玉を吐き出した。
「ガンダルファのことじゃないわよ。」ユウリ。
「ガンダルファのことでもある。」とシドラ。
「いっそキサマも溺れちまえ」むかつく提灯青バエ。
「そのワームは言わば、3次元で溺れているのですね~」カプートが手を貸してくれた。
「ぼく達は実体がないから溺れた気になるだけでしょうけど。この現実から少しだけズレた夢次元?はワームにとってはまだまだ現実なのでしょう。興味深いです。」
「それで?それでさ、うちのドラコは大丈夫なの?」
僕を見上げるワームの涙目を見つめる僕。とっても気分が悪そう。
にょ~お、えぐっ!
「この惑星は鉄分が多いので水も重いのです~。人間なら飲めません。」
「お腹こわすでしょうね。」
ユウリは錆びた水に顔をしかめながらドラコのお腹を擦った。
「ワームなら大丈夫じゃないかしら?。確信ないけど。」
「しばらくおとなしくなるだろう。それだけだ。」
バラキと少し話をしたシドラ・シデンが僕に振り向く。
「おぬしが母親となって教えてやらねばならないとさ。」
「キサマにワームの親が務まるかよ。」えーっ!無理と言う前にアギュに言われる。
「やってやろうじゃないか!」僕もつい、言い返す。
「でもバラキが協力してくれたら嬉しいんだけどさ。シドラ」なんとかならない?
んにょ~んドラコは全身のウロコを震わせて伸びをした。
黒い目に生気が戻ってる。
「なんか、大丈夫みたいだよ。」
「気を取り直したみたいですね~。」
「立ち直りの早さはキサマそっくりだな。」アギュに言われたくありませんって。

その星はジュラにはまったく似ていなかったが、それでもどこか故郷を思い出させた。衛星に来て8年あまり、でも自分がジュラを忘れたことは一度もなかったんだと改めて思わされる場所。勿論スペーススクールにも無機的でない世界、人工太陽に照らされた温室や農園のような場所がそこかしこに設けられていた。内装自体も僕らがストレスを感じないように吹き抜けや曲線が多用されていた。でも例え夢であってもその惑星にいると、僕はスクールがどんなに閉鎖された空間であるかを嫌でも思い知らされたんだ。
僕はその水辺で、始めて本当にリラックスできたのだと思う。
そう身体から精神エネルギーが、磁場流体が独立して遊んでるという信じがたい状態の割にはね。進化体のニュートロン達は証明が難しい状況を、最終的にはなんなく受け入れてしまう原始星の風習を迷信深いとか妄言を信じるとか言って僕らが知性が劣っている良い証拠だと言う。僕ら原始人類は、それぞれの故郷の伝説を大切に保存している親を誇りとし、その物語を毎晩の寝物語として聞いて育つだろう?。独自の宗教が今も残っている星もまだ多いしね。それを僕らを中央から切り離す言い訳にするなんて、ひどい話しさ。そんな認識の食い違いが、連邦の原始星政策を思いとどまる楔にはならなかったってわけだ。

さて、僕はワームの親としての見本を見せねばならないのかも知れなかったが、取り敢えず無理なんで、まずは一緒に遊ぶことにした。結局、それかい!しかも、僕の元を離れたドラコがカプートやシドラを回って帰ってくるという、超単純なしょーもないゲームだったが、ドラコは嬉々としてやっていた。


(あの頃は何をやっても新鮮で楽しかったのにょ~)
なんだよ、その親父な発言。
(まだまだドラコは歳を重ねなくてはならないのにょ、ため息にょ)
昔のドラコは僕が命じるとコクコクうなづいて言うこと聞いて可愛かったなー。
(ガンちんはすぐ、ジジイになって、体が利かなくなって死ぬにょ?)
おいおい、なんてこと言うだ、この虫は。おだやかじゃないね。
(最終的にはアギュとバラキしか残らないのかにゃ~ちょっと問題にょ)
あのなー、その心配まだ早いってーの!。


そんなちんけなゲームの最中でも僕は気掛かりでならなかった。それは勿論ユウリ、そしてアギュの野郎の二人なんだが。

ユウリはカプートと花を見ていた。カプートが何やら熱心に説明しているよう。彼は植物に屈みこんでいるのでユウリがうわの空なのに気が付いていない。
アギュは上空でバラキをからかおうとしていた。しきりに巨大なワームに近づこうとするが、相手はとても迷惑そう。威嚇しては離れる、でもやっぱアギュしつけー。そんなこんな追いかけっこで、もう何度この星を回ったことか。終いには見上げるシドラ・シデンの目が細くなってきた。険悪な雰囲気。
宵の星のように地平に没し、数秒で暁の光となって山の頂から現れるアギュ。シドラが見ているのが、黒いつむじ風のようなバラキであることはまちがえようがない。しかし、ユウリはどっちだ?ユウリが見ているのはアギュの青い光の方なのではないか?カプートに相づちを打ちながらも目はいつも、青いハエ野郎を捜している。そんな不吉な疑いがムクムクと僕に浮かんできた。どうしよう?。

青い輝きは滝に来てから、落ち着きがなく動き回って目まぐるしい。次にアギュはすばやくカプートに近づくと彼を水に突き落とそうとした。バラキはどこかに雲隠れした模様。ユウリが声を出すが一歩遅い。シドラが彼の襟首を引っつかんで救出。
さすがにアギュもシドラ・シデンはからかわない。

僕は我慢できなくなり、ドラコを肩に乗せユウリに近づいた。その時、恐ろしい事が起こった。
「キレイね。」ユウリはそう言ってアギュの残像を指さし、僕に笑いかけたのだ。
「星の残光みたいじゃない?それとも、原始の宝石かしら?」
その瞳はアギュの光を映し、心なしか青く潤んでいるではないか!

アギュは再び離陸し、バラキを捜しに向かう。

「あら、違うのよ!」僕が絶句したので、ユウリは慌てた。顔が赤くなる。
「そういうんじゃないの、誤解しないで。」
じゃあ、どういうんのさーと無意識の僕。
「つい浮かんだことをそのまま口にしただけ。そのままの意味よ。キレイな光ってこと。」なんか言い訳がましくない?「ガンダルファって、以外に疑り深いのねー。」ちょっと、あきれたような声。やばっ。慌てて信じますって。
「あたしは思い出してたの。」再び空を仰ぐ。「似ているのよ。あたしの故郷。」遠い目になる。「水の星と言われていたの。青い星。」
ユウリは僕に映像を送って来た。美しい青い惑星の姿だった。確かにアギュの光の色によく似ていた。
ふーん。じゃあ、まあ、いいか。ユウリがうっとりとしていたのはアギュではなくて、懐かしの故郷なわけだし。でも、ほんと、それだけ?
と、「ばーか、焼きもちかよ」と今度は耳元で声がした。
ちょっと目を離した隙にいつの間にかお進化様が近くにいたのだ。油断していた僕は気持ちが丸見えだったに違いない。
「オレにはそれだけの価値があるってことだ!少しは恐れ入れ!」
「なんだとー!嫌なこった!」
屈辱に震える瞬間、アギュがリアルに僕の髪を掴んで引っ張ったので僕は即座に反撃する。地上に引きずり落とし、体にケリを入れてやった。しかし、この世界ではアギュは現実ほど、鈍くさくない。「うっひゃっひゃ~」とふざけた声を出しながら向こうも蹴り返してきたので、僕も無言で受けて立つ。しばらく蹴りあってる間、ドラコが僕らの回りをピョンピョン跳ねまわる。応援しているつもりかよー?、だったら、こいつを再びプリーズ焼いちゃってくれ!と願う。
「結局、ワーム頼みかキサマは!」調子づく青坊主。
「ここでならオレは負けない!オレだってオマエを焼いてやろうか?」
「もう、二人ともいいかげんにしてよ!」ユウリたまらず声を出す。
「争い事は嫌いよ、あたし。」
「アギュが取っ組み合いするの初めて見ました。」カプートがビックリしてつぶやく。
「バラキ、キルしていいぞ。」シドラ・シデンがむっつりと顎に手をやる。

本当にいいのか
その声は割れ鐘のように僕らの意識を揺さぶった。アギュも僕もピタリと止まり、ドラコは脅えて僕に逃げ込んだ。
意識の欠片も残るまい それが初めて聞いた、バラキの声。声と言うより意思を持った振動だ。森の上からいつの間にか、赤い目が見下ろしている。8枚の黒い羽が広がろうとしている。
「嘘!」僕あわてて掴んでいたアギュを放つ。「冗談でしょ?シドラ」
「冗談だ。」冗談でキルとか言うなよ。
アギュも気を取り直す。
「フ、フン、オレはまあ、大丈夫だろうけどな。これぐらいで許してやるよ。」
もったいぶった顔付きはやっぱり猫に似ている。しかも、目付きの悪い痩せた野良猫。もう一発、殴りたいけど我慢。僕は動物愛護派だもんね。
「意識と体の境がなくなってきてることを思うとアギュさんの方が大ダメージかも知れませんけどね~」カプートが僕にコソッと言う。

アギュは当てつけがましく、ユウリを引っ張って滝つぼの方へつれていった。シドラがすかさず、後を付いていった。
僕はカプートと残された。
「なんだよ。あれ!」むくれる僕。近くに来たカプートが慰める。
「彼は子供ですから。500年、生きてますけど。」
「子供なら子供らしく、可愛くしてろって!。」
「案外、子供は残酷なものです。」
そういう彼の口調は妙に大人びていた。僕はむく犬そっくりの彼の容姿には慰められなかった。ユウリが抵抗もせず、おとなしく付いて行ってしまったからだ。
「なんだ、間延びしなくてもしゃべれるんじゃん。」僕は遠慮なくズケズケ。
「カプートって僕と同じ生徒なの?特別クラス?」
「いえ~まあ~っていうか・・」ストレートパンチの応酬に彼の歯切れが悪くなる。
「まあ、いいや。どうだって。」
僕はむしゃくしゃしていたので、スカッとすることがしたかったのだ。

そういう時こそスポーツだよね。じゃない?

カプートにドラコでキャッチボールをしようと誘ってみた。ドラコは大賛成。
「ぼくは運動はちょっと~」カプートの方は大賛成とはいかなかったが、問答無用。
すかさず、ドラコ玉をぶつける。ドラコさらに大喜び。自主的に丸くなった体をバウンドさせ、何度もカプートを襲う。んにょ!にょ!
「やめて下さい~!」と逃げ惑うカプート。意外に素早いではないか。感心してる間に何度目かに、なんかの加減で彼の手の中にスポリとボールが収まった。
「おっ、うまいじゃん!」んにょ~ん!
カプートの返し玉は最初は超おざなりだったが、やがて僕は同類の手応えを感じ出した。彼の玉は段々と早く、鋭くなっていく。
気が付くと僕らは夢中で投げ合っていた。無重力の中の授業のように縦に横に斜めにと自由気ままに跳ね回る。
にょ~わ~ ドラコがさすがに目を回したようだが僕らそっちのけ。