リウゥゥム
死体の山の中にただ一人、残された生者は鳳来一人。
そのはずである。しかし。
突如、倒れた鳳来へと歩み寄る女が現れたのだ。
どこから現れたのか、死体の山の中から忽然と立ち上がる。
銀髪であるが、顔は鬼来リサコのそれ。年齢は不詳。
女はしばらくコントロールルームの空間を見渡したが、おもむろに肩を竦めた。
眼球だけを動かして鳳来は女を捉えた。
「・・・生きていたのか?」
「あなたも見た?」
「何をだ・・・何も。」とぼけているのかどうなのか、鳳来は唾を飛ばす。
「見る分けない・・そんなことより、おまえは・・・オリジナルなのか?」
「ええ、当たり前でしょ。わたしはクローンの達人なのよ。」
女は男の体の下に手を入れて体を起こす。鳳来も力を入れてそれに力を貸した。
「傷が開くな・・・」顔を顰めた。「この出血では長くはない。」
「大丈夫、さぁ任せて。」小柄な女は小柄な鳳来を抱き抱えるように司令塔の上に軽々と飛び上がる。「さぁ、ここに横になるの、楽な姿勢で。」
鳳来の体を膝で支え、腕で包み込む。
「やめろ・・・」男は身動きしたが、弱い抵抗であった。
「すると・・・なんだ、あれは・・・あれもクローンだったのか?」
床の上で死んでいるリウゥゥム。同じく鬼来リサコ。
「そうよ。どうせ、あなたは後先も考えずに真っ先に殺すだろうから。普通、予測するでしょ。黙って殺されるバカはいないのよ。あなたに言ってやりたいことは山ほどあるんだから。言わずに死ぬなんて芸当はわたしにはできない。」
覗き込む顔はよく見ると細かい皺が刻まれている。しかし受ける印象は今までのどのクローンよりも若い。「だから隠れて成り行きを見ていたの、ずっと。」
「俺が・・・あいつに殺されたら・・・どうしたんだ?」
「彼はあなたを殺さないわ。だって、ほらあの霊能者が来たじゃない?」
「知ってたのか?」「この船の中の全てをわたしは把握している。あの霊能者、やっぱり連邦の回し者だったじゃない。ドワーフ達にはNASAの関係者だと思わせようとしていたけれど。用心しといて正解だったわ。」
「全部・・・あれは芝居か?」「そう、連邦に見せる為の命がけの芝居。勿論、美豆良や雅己も含めてね。わたし達やあなた達、よね?」
女が床に広がる死体の山にそう呼びかけると床や壁の空間から数はそんなに多くないがドワーフと行方不明の村人達が現れた。
「生き残ったのはこれだけ。」
村人とドワーフ達にマザーが優しく呼びかけると彼等はみなほっとしたようにように膝を折った。
「よくやったわ。さすがわたしとあなたのDNAを持つ者達よ。ほんとうにありがとう。」その言葉で幽鬼のような者達は等しく笑顔を浮かべる。涙を流している者もいた。やり切ったという満足感だ。同じく体を張って演じ切った死者達をねぎらうかのように彼等はそれに触れ、傷だらけの体に口づける。
「なるほど。」今度こそ、苦労する事無く男は笑った。「確かに・・おまえだ。」
「あなたがわたしを捨てて行ってしまった時、どんなに悲しくて寂しかったか。」
本物のオリジナルは愛しそうに男の顔の皺に触れた。
「寂しくて寂しくてクローンをたくさん作ったわ。一人でいるのが辛かったから。おかげでただの素人だったわたしはクローンマシーンの熟練者になってしまった。失敗もたくさんしたけれど、そのおかげでいっぱしの研究者並みにはなれたと思うの。」聞き慣れた低い声を聞きながら鳳来は目を閉じた。
血に染まったもう動かない腕を女はさする。
「作っても作っても・・・あなたとわたししかいなくて。余計にむなしくなったの。」
女は男の頭に自分のそれを寄せた。「だから、子供が欲しかった。」
「・・・子供など・・・」鳳来はつぶやく。「わたし達にはできない・・・与えられない・・」「いいのよ。」女は囁く。「それはもう、いいの。」
言葉は子守唄のように心地よい。
「わたし、クローン技術に精通したって言ったでしょ。わたしね、少しづつ修正するやり方がわかったの。わたし達は男と女のDNAを一つの受精卵で混ぜ合わせて、二つに分けたものでしょ。二つの性をもともと与えた上でホルモンの調整をしたって聞いたわ。少しだけ男よりになるものと、女よりになるものを作ったって。わたしもね、この星の人類のものを利用したわ。かわいそうだったけど・・・何人も殺しちゃった。ドワーフもたくさん産まれてしまった・・・でも、諦めたくなかった。乗りかかった船じゃないの・・・何よりも暇だったしね。そうやって作った卵子と精子、受精卵。それをベースにして・・・とにかく繁殖能力のある体を手に入れたかった・・・それは、叶ったわ。」
「・・・叶っただと?」鳳来の口が驚きで開く。その口元に女も口を寄せる。
「ええ。とうとう子供を作ったの。」「ばかな・・・」「ばかじゃないわ。」
女はいよいよ男を胸に抱き寄せた。「すごく時間はかかったけれど。あなたが殺した鬼来リサコはやっとできた始めての単性の雌・・・美豆良は始めての単性の雄の完全体。その間に大急ぎで子供を作ったの。勿論、自然分娩できる体ではないからその辺の育ちはクローンとおんなじだけど・・・」
リウゥゥムは勝ち誇るように高らかに笑った。
離脱
「さぁ、行こう。」アギュがドラコを促す。(信じられないにょ!いったい、何人いるのにょ?今度こそ、オリジナルの本物にょ?)「そうです。」アギュはうなづく。
「カレラの終焉はワタシ達が覗き見していいものではない。」
(じゃあ、逃げた方は追わなくていいにょ?ドラコなら追ってもいいにょ!きっと気が付かないと思うにょ。)ガンダルファから離れてもお腹が空かない自信なら既にある。「ほっておきましょう。」アギュは興味を無くしたように場をさっさと離脱する。
「ホウチせよ、とはイリトのメイレイなのですから。」
「あとのセキニンはオレ達にはない。」アギュはニヤリとした。「イリト・ヴェガもいささか裏をかかれたな。いや、かかれたこと自体、知っていたのか。食えないオンナだからな。」
「ウラをかかれたのはチュウスウです。イリトはきっとシラを切り通しますからね。」
「シンのメンドクサガリだな。ユカイだ。」
自問自答?を聞きながら、やっぱりアギュはわからない、とドラコは思った。
リウゥゥムの話したことの重要性はよくわからなかったが、このことは後でガンダルファに相談すればいい。アギュも今回は言うなって言ってないし。
契約を守るドラゴン、ご注進にょ!
ドラコはアギュから離れ一路、契約者を目指す。
雅己
「兄貴、なんだって?」鬼来雅己は信じられない言葉を聞いている。
「なんて言ったの?」鬼来美豆良はその言葉を繰り返すことなく、手にした首を抱え直した。2人は鳳来の通った通路の出口に差し掛かっている。雅己は基成勇二から受け取った毛皮をきつく体に巻いていた。
「それより、この首はもう捨てなくてはならないな。外部に持ち出すことはできない。マザーの為に。」
「兄貴!」美豆良は追いすがる雅己を躱しながら、首を顔の前に掲げる。
「テベレス、さぁ、約束した通り俺の体を使うがいい。」
「いいのか?」魔物は一応、確認する。「いつか意識を食い尽くされるぞ。」
「それでいい。」「良くない。」雅己は食ってかかる。
「もう一度、どういうことか説明しろ!」
「だから。」美豆良は面倒くさそうに繰り返した。
「おまえはリウゥゥムのクローンじゃない。この俺も鳳来の純正クローンではない。おまえの母親のリサコも。おまえは俺とリサコの子供だ。」
この星の子
「どうやら・・・行ったようね。」
部屋の中央にリウゥゥムは目を漂わせた。「蒼い光・・何ものなのかしら。」
アギュ、と呼ばれていた。ワームドラゴンもいたようだが、それとは違うらしい。
リウゥゥムの代わりを努めた最も古いクローン体には蒼い光が見えた。鬼来リサコにも。オリジナルであるリウゥゥムには見えはしなかったが、長年の努力の結果かもしれない(鳳来に言わせるとこの星に染まったのだ)何かしらの存在を感じるとる事はできた。そして霊能者の背後に現れたそれ。確かな光。コントロールの空間に生じた熱と圧迫感。そう、まさに次元の中のバグのように。今、それは消えた。
でも、とリウゥゥムは思う。もう、どうでもいいことだ。この星に魔がいてもいなくても、連邦の進化体が新たな進化を獲得したとしても。どっちみち自分達には関係ない。広い宇宙には自分にはまったくあずかり知らぬ存在がいることなど、もう既に知っている。そう例えばワームドラゴンとか・・・そうあと、なんて言ったかしら?人間が最高に進化するとかいう現象だわ・・・そう臨海進化とか言う。ひょっとしてそれかもね?こんな果ての地球に?不思議だけど。
彼女は微笑む。だから、この星に何がいたって不思議はないのよ。
腕の中の男を女は見下ろす。可哀想な人、意固地な人。クローンと言っても、子供達はそれぞれに異なっている。わたしは方向性を出しただけだから、それぞれの思惑が完全には一枚岩にはならなかったように。この人は認めたがらないけれど・・・いわば同じ車を運転している別々の運転手。言われた事だけを忠実にやるロボットではない。あの子達とずっと暮らしていたわたしとこの人はまるで違ってしまったようね。ホムンクルスで兵隊遊びをして王様になっているのがいけなかったのよ。結局、お山の大将で生きることを選択してしまったから脳の刺激が少なかったのかもしれない。頭が固くなるばかり。
見えないもの達をもっと早くに受け入れていたら・・・彼も・・・わたしも何か、運命が変わっていたのかしら?神か悪魔かも知れない・・・先ほど感じた何か。
「そんなことどうでもいいと何度、言わせるんだ。」
何も感じなかった男がじれていた。
「どういうことなんだ?」女は目の前の男だけに気持ちを戻す。
「いい?あの子はほぼ生粋の祖の地球人の子供。」
男は首を振る。「ありえない・・・」
「果てしない遺伝子操作の結果とはいえ、この星の上で産まれた原始人類。」
「両性が・・・あるではないか。」声は弱々しい。
「それはあの子自身もだます為にあえてそうしただけよ。なんの問題も無いわ。2000年のスパンで生きる体なのよ。あれは今も成長段階。25年なんてほんの子供、思春期を過ぎれば次第に片方の性は消えていく。」
憑衣
雅己もまだ受け入れていない。「でも、でも・・・!僕は男で・・・女だろ?」
「マザーはおまえが自分で選べるようにとりあえずそう作った、おまえはな。
俺は女のあそこなんてついていない。」
美豆良はもどかし気に追いすがる雅己を押しやる。
「ここを出れば近くに隠れ家がある。そこに最低限の医療設備を移した。そこで男性ホルモンか女性ホルモン、どっちでもいい。過剰に摂取すればどちらかになれる。勿論、そのままでいるのも自由だ。だけど、性が変われば顔も変わるぞ。連邦も簡単には追えなくなる。テベレス、おまえが俺に憑衣すれば俺の顔を替えられるか。」
「雑作もない。」雅己に似る女の顔。その顔に巣食う魔物が請け負う。
「さぁ、もう時間がないぞ。」
雅己が絶句した隙に美豆良は首に口づける。
魔物は素早く美豆良の中へと侵入した。
リウゥゥム(オリジナル)
「連邦をだますには、まずあなたをだまさなくてはならなかった。」
リウゥゥムはそう微笑んでパートナーの目を覗き込んだ。
来るべきものが来るとわかったときから、わたし達は雅己をどうするべきか議論したの。わたしとあなたはいい、もう歳だし2人でした約束を果たして無になる覚悟がある。だからここ200年ばかりは完全クローンは作らなかった。すべてを清算して死ぬのに邪魔ですものね。でも、さすがあなたとわたしのクローンだわ・・・みんなの方から言い出してくれた。連邦に連行されるくらいなら、一緒に滅びたいって。そりゃそうよね。他に選択肢がないんだから。可哀想だけど。でも、心がない実験動物みたいに扱われるよりはずっといいわ。過剰に造られたクローンに人権は認められないのが、今の連邦。一番若かった、鬼来リサコも300年は生きたわ。
まったく新しく産まれたのは美豆良と雅己だけ。
「子供こそが・・・最も邪魔なんだ。」鳳来がつぶやく。
「そうね。まったく、その通りだった。」言葉と裏腹にリウゥゥムの目は微笑む。
雅己の存在だけが問題だった。
彼を連邦に渡したくなかった。自由にこの星に生きて行って欲しい。わたしとあなたがこの星に降り立った時のように。例え、業を背負ったままでも。自分なりの存在を精一杯生き抜いて欲しいかった。幸せになれるとか、なれないとかではないの。
昔の約束を守ってあなたが『呪い』を遂行し始めた時は嬉しかったわよ。
あなたを利用出来ると思ったからね。連邦への目くらましに。
わたし達も『神月』という土地に部隊がいるとわかってから探りを入れていたの。
あなたもしたようにね。
ナグロスのいる『竹本』がかかわりを持っていることはわかったでしょ。そこの関係者でその土地から離れているのは岩田譲だけだった。
彼に近づくことは雅己に任せたの。
「おまえは死にたくないから・・・岩田譲を利用しているのかと思った。」
「それで、怒ったんでしょ?」
「そうだ・・・」鳳来は唇を歪めた。女の手が押さえ続けていた鳳来の傷からは血の流れは止まっている。「何が、なんでも約束を果たさせてやるとな・・・」
「相変わらず、短気なこと。いい、あなたはわたしの手の中で踊っていたの。」
魔物に関しては・・・あれはまったくの美豆良の独断。
わたしだってさすがに魔物は半信半疑だったもの。さっき首が話すまでね。
ただ、みんなが感じるというから反対はしなかっただけ。それに信じたい気持ちもあった。だって、面白いじゃないの。
わたし達が選んだこの星がそういう特殊な一面を持ってただなんて。
「あなたの側にいつもいるホムンクルスに魔物が憑いていることに最初に気が付いたのは美豆良なのよ。」
「は、・・・魔物とは。」鳳来の土色の唇が歪む。「こりゃ、びっくりだな。」
「美豆良はドワーフと共に神月やあなたの同行を常にさぐっていたわ。雅己のことも心配だったのね。東京にも何度も行っていた。そして魔物を見つけた。」
まだどこかで意地になっている男を女は穏やかにほぐしていく。
「何度か接触して、説得したみたいね。自分の方が優良物件だってね。もうすぐ死んでしまうあなたよりも、自分と契約しないかって。」
「・・・わたしは契約などしとらん。」
「ねぇ、リャーダ」「その名で呼ぶな。淫売宿の源氏名など捨てた。」
女がリウゥゥムという名を捨てないことも男のいらだちの一つだった。
でも、これもこれでわたしには大事な名前・・・と女はいつも笑い返したものだ。
「魔物はね、たぶんあなたが好きだったんじゃないかしら。」女は構わず続ける。
「説得には随分、時間がかかったみたいだもの。」
鳳来の単性クローンである美豆良。その若い面影を宿した美豆良を持ってしても。
「・・・知るか。」苦々し気に男は毒づく。その毒すらも女は懐かしむ。
「無事、契約してからは・・・魔物はわたし達のスパイとなっていたの。」
ねぇ、知らなかったでしょと。
魔物のことは美豆良に任せて、わたしは大急ぎで雅己と美豆良のクローンを作ることにしたの。あなたに殺される為だけの不完全なものよ。霊視の後で雅己は入れかわっていたの。岩田譲がずっと一緒にいたからあなたはさぞやりにくかったでしょうね。あなたのことだから面倒で雅己と一緒に彼も殺してしまうんじゃないかという期待が美豆良にはあったみたい。でも、わたしはあなたを信じていたわ。だって、彼を殺せば連邦が介入してきて、あなたはここに来てわたしに『呪い』を遂行できなくなるもの。
それはわたしも、最も喜ばない展開。
でも、連邦の霊能者がうまいことしてくれたわ。
もともと充出版がああいう本を作っているから、霊能者が介入してくることは想定内だったけれど、あんなに優秀だとは思ってなかった。霊能者は『呪い』に担ぎ出されて何も出来ず、雅己がおかしくなったことで手を引くと軽く考えていたの。
そして村人が消えて村が消えて、この『鬼来村』は伝説としてだけ残る。この星の人々の記憶の中だけ・・・それが、わたしの贅沢なシナリオ。
せっかくこの惑星で2000年生きたんだもの。それぐらいは許して欲しいじゃない。
この星に『染まった』のでも『女だから』でもないわ。
わたしはきれいさっぱり、跡形もなくっていうのとはそこが違うのね。
あなたは自分が死んだあとはどうでもいい、そういう人だもの。
「雅己ができなければ・・・。」
「そう、最も想定外は雅己。」鳳来の冷え行く体を温め続けているのはリウゥゥムの肉体の熱だ。そのほかの者達はじっとそれぞれにその時を持っている。
「彼を残すことを許して欲しいの・・」
「まったく・・事後承諾じゃないか。」不満げに、しかし鳳来は目を閉じた。
「いい・・仕方がない。」
「良かった。」女もつかの間、目を閉じる。
「では、もうこの船は必要なくなったわ。」
女は自分と男のクローン達に命じる。
「すべて次元防御を100%解除して。この船に繋がったありとあらゆる次元を一気にこのコントロールルームに解放する。」女は彼女が愛した男の耳に再び口を付けた。
コインの表であり裏である。両方を合わせ持ったふたつでひとつ。
「わかるでしょ、次元に生きる微生物達は解放され、この船を保っていたエネルギーの全てが次元と異次元の狭間で行き場を失う。船は耐え切れずに自爆するの。」
「それでいい。」鳳来は女の腕にようやく全体重を預けた。
「・・・おまえの話はいつだって長い・・・」
今、鳳来は女の体温に包まれている。肌も言葉も、吐き出す息、全てから熱を感じていた。鳳来の知らない母親の胎内というものはこのような感じであろうか。
かつて、そこから全力で逃れようとしたのだ。
リウゥゥムという枷から。
しかし。自らを終える今。この時。
「結局・・・ここに戻って来たかったのだな。」
もうひとつの『自分』と死ぬ為に。
つぶやきは微かだった。
すべてが船の立て始めた警告音にかき消される。
集約
「嘆いてる暇はない。」
魔物は首を捨て、雅己を促した。
「美豆良は私であり、私と共に存在する美豆良になっただけだ。」
「でも・・・」雅己は泣いている。孤独で。押しつぶされそうで震える。
「無駄にするな。」魔物は容赦なく叱咤した。
「美豆良の記憶のすべてを私は手に入れた。なんの為におまえと2人、私と契約させたと思う?おまえのおじ夫婦だけではない、自分の肉体までを私に捧げた。すべておまえの為だ。」
そのすべてを受け取ったテベレスはかつてないほど、巨大になり力に満ちた自分を感じている。今ならそう、さきほどの悪魔にも勝てるかもしれない。
しかし、その時。
「あれもおまえの為だ。」
次元の穴の奥で弾ける膨大なエネルギーの爆発。
「誰も彼もがおまえを逃がす為に捧げた。」
魔物は急ぎ、契約者を胸に抱く。
「その思いを受け取って私と来い!」
熱と破壊。
その第一波が到達する前に魔物はそこから逃れている。