MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン-8-3

2009-09-15 | オリジナル小説
         幕間4 革命記念日の夜


その頃、アギュレギオンとシドラ・シデンはカリブ海を望むキューバの首都ハバナにいた。香奈恵はブラジルだと例によって勘違いしていたが。
彼等は今まで何度もカリブ海周辺を訪れている。
今はこの世にない、マイクとリックが固執していたバミューダのトライアングルといくらも離れていないのは奇遇なことである。
バハナの深夜の海辺の街のテラス。革命記念日にあたる今日は12時を回っても街路には人が溢れている。地元民と観光客に寄って満席の賑やかなレストラン。

社長と呼ばれる男はすごく若く、隣の秘書と並ぶと似合いのカップルだと店の人々は思っただろう。銀髪の美しい秘書は店内の男達の無遠慮な視線やウインクにさらされていたが彼らに一瞥も与えることはなかった。
向かい合う、現地の支店長は安定した年輪を重ねた50代の男と見える。しかし、こちらも若々しい。「ここへ来て少し肉が付きました。」と照れて深いグレーの頭髪を浅黒い掌でなでた。隣にいるのは娘というより、孫のように若い娘である。白い肌にやたらに目がでかく目立つ。ユーモアに溢れた赤い口は小さく、どことなく小鳥を思わせる。
その席でも人一倍、さえずっていたのは彼女だった。
「とにかく地殻変動が激しくて。」と彼女がさえずる。「たぶん、オリオンからこちらへたどり着くまでというと・・ここには少なくとも5万年以前に降り立ったはずです。今のこの地球の人類がストレートな遺伝子を保有しているということからですけども。独自な進化がそれほどみられない所からも、長期間凍結された可能性があります。実際は数千年単位の空白期があるはずなんです。それがここへ至る経路の途中なのか、この星の上であったかはわかりません。文明の空白期がある為ですわ。どっちにしても、ここの最初に降り立った証拠はどこかにあるはずなんです。ただし、ひょっとするとすでに地殻の間に埋もれちゃったみたいですね。もう100年近く捜してるんですよ、ねぇ。色々とおもしろいものは発見したんですけど、決定的なものは今だに。ほんと、潜れるところならどこでも潜ったわよね、地面から海面から!、ねぇ支店長?」
「御存知でしょうが、当時の船というやつは・・・なにせ金属ではありませんから。」
支店長が赤い酒を口に運びながらうなづく。
「チシキとしては聞いています。」社長が笑みを浮かべる。
「我が聞いた話では、荒唐無稽な話と思ったが・・・生きた岩石だとか?」
薄い目の秘書が用心深く言葉を選ぶ。「失われた禁為の技術だと。」
「はい。」支店長。隣の娘も真剣なまなざしに変わる。
「アロン・ドト・メテカは当時は画期的技術だったんです。60%も搭載する光子燃料を減らしたんですから。船体のメンテナンス、生存持続の為のエネルギーのほとんどを船体自身が補えた・・・生物ですから自己修復もしますから。それ自体の餌というか生存する糧は宇宙線の中にありますから。この生物が始祖の太陽系の彗星で見つかった時は大変な模擬をかもしたようです。すぐにそれが生息する鉱物を使って合板に加工する技術が発明されました。だから、船体は岩石というには少し違うんですよ。しかし、金属ってわけでもない・・・その中間の物質です。固く、しかも柔らかく絶対零度や60000℃以上の高熱に耐える。しかも中の微生物は宇宙空間で無限に繁殖し生き続けている。微生物が増えれば増える程、船体が丈夫になると言われてました・・・8000年程で衰えた個体は衰弱しそれもまた、若い生物の餌となるのです・・・」
「ただ、亜空間ヒコウはできなかった・・」社長が口を挟んだ。「だから、そのギジュツは衰退したんですか?」
「はい、それもありますが・・主なきっかけのひとつは始祖のアースが滅んだ戦いで貴重な微生物が死に絶えたからです。無限だった供給が不可能になってしまいましたから。それに、あともうひとつは・・例の人類回帰運動の一環で・・生物を活用することに意義を唱える動きがありまして。利用より、保護しろとね。」
「保護とは!」秘書が笑いをかみ殺す。「我ら、原始人類も今だ保護されている。」
「皮肉なものです。中枢の考えることなど。だから、連邦では今は航行している船はほとんど見られません。解体されることもなく、現存していればほとんど走行可能なはずなんですがね。」
「1000万年も経っても動いているのか!驚きだ、」
「かなりの辺境域ならばまだ残ってますよ。民間でも、それに絶対に遊民とかはまだ使っていると思うわ。」
「たぶん、ここにあるならここの船もそれだと思うんですけど。」
「それでしょうね。まちがいない。」
社長は表情を引きしめる。
「まだ、正式ではありませんが。ひょっとしたら、当時の移民船のどれかに『ホシゴロシ』が乗せられていた可能性があります。」
「『星殺し』・・本当ですか?ここに?この地球に?」
「ホシゴロシは始祖のアース二つを滅ぼす為に少なくとも5台が使われました。その後、それぞれの船団に寄って運び出されそのうち2台が所在が明らかです。勿論、みな禁断のギジュツとなりましたから、カイタイされフウインされました。4つ目は、移民先で破棄破壊されたキロクがあります。残りの2つはカバナ・シティにあると信じられて来ましたが、ここにきて連邦が潜ませた情報提供者によって1台しかないことがわかりました。」
「それでは・・ここにあるとしたら・・残りのひとつということですか。」
「ショックですか?」
「考えてもみませんでしたので。ジュリアどう思う?」
さえずるのを止めていた小鳥は身震いする。
「そうなると・・・ますます見つけるのが大変になりますね?もし、地殻の深部にまで落ち込んでいたりしたら・・・始祖滅亡の二の舞になったりしたら、大変です。」
「そうなると勿論、いまだにそれは生きているってことだろうか?」
「起動能力を失ってるといいですね。」
「あくまで。」社長が口を挟む。「実存するカノウセイということです。確証はありません。でも、中枢はその危険性も考えて行動することをワタシに望んできました。」
「そうなのか?」秘書が声を潜める。「やっかいだな。」

その時、彼等のテーブルに歩み寄るものに4人は気づき言葉を止めた。
「エンジェル?」甲高い声。それは、ガリガリに痩せた子供だった。通りにたむろして観光客の財布を狙う欧羅巴のジプシーのように、薄汚れた身なりをしていた。ジュリアは顔をしかめて反射的にバックを引き寄せたが、可哀想でたまらない気持ちになる。
「こんな時間まで、お前の親方は仕事をさせるのか。」トルドは驚き呆れながらも、ポケットから小銭を取り出し少女に握らせようとした。
「コドモですか。こんな夜更けに。」「夜更けどころかあと数時間で夜が開けるぞ」「普通はこんな子供は酒場には入れないのですが。」トルドはそうアギュに説明すると店員を目で捜した。
「こういう、ストリートチルドレンが通りにはここにはまだ無数にいるのです。」
「政府が保護しないのか?保護しなければだめだろうが。」
「保護しても自分達のグループがあってそこに戻ってしまうのですよ。」
「保護者とは名ばかりの大人達が悪い仕事をさせているのだ。実の親の場合もある。」
硬貨を手にした子供はジッとアギュから目を離さなかった。
「エンジェル?」子供は甲高い声で再び聞いた。惚けたような表情は少し知能が足りないのかと思わせる。しかし、見開いた大きな鳶色の目は耐えようなく美しかった。
不器用に結い上げた髪から黒く縮れた毛の束がなめらかな小麦色の額にかかっていた。
「エンジェルでしょ?」子供は今度はしっかりとアギュに指を向ける。回りの席の酔漢達がそれを耳にして冷やかすように笑った。離れた席からこちらを振り向く者もいる。ジュリアは困惑して助けを求めるようにトルドに目をやった。
「エンジェル?・・ダレですか?」アギュが繰り返す。
「天使様ですよ。」ジュリアは子供の小さい肩を包み込むように抱いて引き寄せた。
「この方は天使様ではありませんよ。」
プッとシドラが吹いた。「天使ってあれか?羽の生えたファンタジーみたいな奴か。」
「シッ!ここはキリスト教徒が多いのです。茶化してはいけません。」
トルドは思い切って立ち上がると密度の濃いざわめきと紫煙をわけてカウンターへと向かって行った。
アギュは興味を持って少女に目を向けた。
「ワタシはアナタの探してる天使様ではありませんよ。」
少女はうっとりとしたまま、首を振る。
「困りましたね。」やっとトルドが店員を連れて戻って来た。「よく見かける子供かね?」「いや、初めてですね。店の中までなんて。」巻き毛の若い店員はジュリアから子供を引き離した。「お前、家はあるのか?ここは子供が入るとこじゃないぞ。」「手荒にしないで。」「警察に保護して貰った方がいいのでは?。」店員は首を振った。
「こいつはきっと産まれながらの盗人ですよ。施設に入れても無駄じゃないですかね。」「とにかく、警察に連絡してください。」
「はい、わかりましたよ。トルドさん。」
若者は面倒くさそうに「ほら、行くぞ、お前。」子供を店の奥へと連れて行った。
その間も振り返り振り返り、少女の目はアギュから離れなかった。
回りの注目が潮が引くように引いて行った。ジュリアが肩の力を抜いた。
「ユリと同じぐらいか。」シドラが怖い顔でずっと睨みつけていたのだが子供は一度もそちらを見ることはなかった。
「ユリ。」社長が動きを止める。蒼い目が陰る。

「アギュ?」秘書が目を潜める。「どうかしたか?」
「シドラ。」アギュは我に帰る。「どうやら、失礼しなければならないようだ。」
アギュレギオンは向かい合う2人に頭を下げる。
「ワタシの身内に何かがあったようだ。」
「身内?」「お嬢さんですか?」
「ユリかっ?」シドラが目を見開く。
「ワタシを呼んでいるようなので失礼する。」
「それは、それは。残念です。」
「では続きは後日ですね? 今日は楽しかったですわ。又、お会いするのが楽しみです。こちらもそれまでには色々と資料を違う角度から検討することもできますし。」
小鳥のようなジュリアが笑顔を取り戻し、気を取り直したようにさえずった。
「では、お待ちしています。」トルドが慇懃にさし出す手をアギュは握った。
「はい、また。おそらく明日。いえ、もう今日ですね。今日の夜にここで。」
アギュレギオンは立ち上がり、礼を失しない態度で丁重に頭を下げた。
すでに立ち上がった秘書はそんな社長をせかす。どやしかねない勢いだ。
「行こう!グズグズするべきではない!」
2人は揃って入り口へと向かった。

「彼、いかしてますね。」2人の姿を見送り、ジュリアが支店長にウィンクした。
「本当に臨海進化体なんですかね?ねえ、トルド、ピンと来ないわ。」
「普通の人に見えたし。」
「ふむ。」トルド支店長はグラスのワインを飲み干した。彼はアギュが触れた手を試すように確認する。「普通の手の感触だったよ。」
「臨海しているんなら、肉体はないんではないのかしら?」
どうだろう、とトルドは首を傾げた。
「もしそうなのだとしたら・・・今の姿はおそらく、彼が我々にそう見せてるだけだろうよ。」そしておもむろに笑う。
「とは言っても、私も臨海進化なんてものをこの目で見たことはないからな。彼がここに来るって聞いた時はなかなか信じられなかった・・。まあ、中枢の色々なことなど、もう私にはとっくに遠い話になってしまったがな。」
「私もよ。」
ジュリアは酔いが回って来た人々によって、いささか猥雑な雰囲気に満ちてき出した店内を愛情のこもった眼差しで見回した。それに気づいた馴染みのバーテンダーが遠くから親しみのこもった合図を送って来た。
「私達、お互いここが随分長くなってしまいましたね。」肩の凝る会見を終えた今、酔いが静かに彼女を捕らえ始めている。
「ここに骨を埋めるってのもいいかもな。」トルドがそっと彼女の手の上に自分の手を重ねた。賛成とジュリアが囁く。
「今更、移動命令はないだろう。この星は特殊だから。この星の人類に最も遺伝的に似ていると言う理由だけで選ばれた我々だ。」
「そうでなければ、始祖の遺伝子に近い我々は一生、母星で飼い殺しの身分だ。」
「新しい上司に気に入られなかったら?私、それが心配。だって、臨海進化なんて想像もつかないし。なんでこの星に来たのかしら?」
ジュリアがおのが内の不安を口にするのを、父親にも見えるトルドは包み込むように見つめていた。
「彼はもともとは同じ原始星の出身だと聞いている。同じ原始星人には悪いようにはしないよ。大丈夫だよ。彼より私達はここにずっと長く根を下ろしている。彼には私達が必要だよ。」

店の外では濃厚な真夏の夜が爛熟した祭りの終焉へと静かに向かっているところだ。通りをそぞろ歩くカップルや観光客達もずいぶん数をへらした。それらにサメのような視線を走らせていた肌の黒い男達も疲れが目立つ。特別な日の稼ぎにもそろそろ見切りを付け、恋人の待つ寝床が恋しくなってきた頃だ。抜け目なくそれらに目を配っている陽気な警官もビール瓶を手に帰路につき始めた。
潮の匂いに混ざる、甘い花の香り。果実の熟れた香り。
まだまだ賑やかな通りに望む一軒の店を立ち去った、背の高い男女の2人組。
「どうかしたか?」女がかすかに囁いた。その言葉はここでは理解できるものはほとんどいないものである。虫の羽音のように響いた。歩みを止めず男は微かに眉をしかめた。「シセン・・・でしょうか?」
女も顔を動かしはしなかった。音楽が漏れ溢れていた往来のそこここで人々が群れ集まって思い思いのステップを観光客に披露したりしていた通りは幾分閑散としている。紙コップや皿が散乱する、ランタンが揺れる料理屋の軒に出されたベンチにほろ酔いの老人達が涼を取っている。その大半は椅子からずれ落ちながら船を漕いでいる。路地の暗がりからは押し殺した男女の笑い声が微かに聞こえてくる。
「さっきの子供か?」
「わかりません。そうかもしれない。」
暗い建物の庇につかの間、白い影が過った気がする。もやもやと形を取らない曖昧な何か。嫌な感じではない。誰かが、自分に意識を向けている。それは、好奇心?なのだろうか。アギュは意識を研ぎすまそうとするが、臨海を押さえた今の状態では限界があった。
シドラは肩越しに短い会話をする。
「あの子供は裏口から出されたそうだ。この国の司法機関の人間が連れて行ったそうだ。」「では、それ以外ですね。」再び肩越しの密談。
「・・・バラキにはわからないようだぞ。」
「そう・・・ならば、気のせいでしょう。」
アギュは蒼い目を街の影を浮かび上がらせ始めた真上の空に向けた。ほのかな夜明けの予感が微かに混じり始めているが、まだまだ星どもの天下だ。
月も怪しい飛行物体は見えない。
「それにしても・・・あのコドモ。」
「おぬしの正体に気がついたのではないか?」気遣わし気にシドラが囁く。
「もう、おぬしもわかってるだろう?。竹本の渡もおぬしを見る態度がおかしいぞ。犬も吠えるしな。わかる奴にはわかるんだろうだろうな。おぬしの光だ。きっと、おぬしのどこかから、漏れているんだ。」
漏れるってなんだよ、オレはヒビだらけの花瓶か?、ヒトを割れ鍋みたいにと昔のアギュなら言ったことだろう。
統合された人格などつまらないものだと、アギュは笑いを噛殺す。
「・・・コドモとドウブツは鋭いといいますから。」
「しかし、天使様とはな。」ククッと笑いを噛殺した。
「いっそのこと、この星の神様にでもなって人助けでもしたらどうか?」
「まさか。」アギュの眉間に皺が寄る。
しばしの無言のあと、シドラの笑いは影を潜めていた。
「もしかして・・・トルド達ではないのか?。目をつけられてるのは。」
「トルドとジュリアですか?あの2人はベテランです・・・ワレワレのような新参者とは違います。いまさら、この地でトラブルに巻き込まれることはありえないでしょう。もしもそうだとしても、任して大丈夫です。カレラなら対処できるはずです。それより・・」
「そうだ、そうだった。それどころではないぞ。」

慌てて2人は足早になり、街を見下ろす小高い丘のホテルへと坂を登り始めた。
そして、人気ない細い路地を明るいアプローチを避けるように庭園に向かう裏手の方に2人は曲がって行った。
目に見える人影はなかったが、もしもその2人を追っていたものがあったとしたならば。その者は物陰に隠れた2人の後を追って庭園の白いアーチをくぐった瞬間に、唖然とし困惑を隠せなかっただろう。
なぜなら、門をくぐり抜けた瞬間に2人の姿は深い闇に飲まれてしまったかのように消えてしまい、最早どこにも見出せなかったからだ。

後は満点の星がイルミネーションと存在を競うばかりだ。

スパイラルワン8-2

2009-09-15 | オリジナル小説
ジンの側で渡は目を皿のようにして前方を見つめていた。
「シンタニ、あっちょ・・」
弟がはっと顔を上げる。その足下に倒れてるのは子供2人。
「おれ、こいつら捕まえた。兄貴にほめてもらおうと思った。」
「捕まえてんじゃねー!」ガンタは一足飛びで弟に駆け寄り殴り倒す。もう、ちくしょう!この鬱憤はこいつではらすしかない。
(ガンちゃん!)ドラコが叫ぶ。鱗が飛び散るのがガンタだけには見える。
「動くな。」下から足を引きずり、兄貴達が上がってくる。
仙人は後ろに後退する。兄の手には銃が握られている。「殺すぞ。」
弟にの収穫物に目をやる。「よくやった。」
弟はうなりを上げると跳ね起きざま、ガンタの顎に頭付きを炸裂。ガンタ、目から花火で倒れる。
(ドラコ、大丈夫か?サイレンサーで撃たれただろ?)(大丈夫にょ!弾丸なんかはねとばしたにょ!ガンちゃんを庇ったにょ!知ってるにょ?ドラコがいなきゃ撃たれたのガンちゃんにょ!)(恩着せがましいけど、感謝だ。また頼むぜ、ドラコ!)(まかせるにょ!)ガンタ、取りあえず死んだ振り。顎がジンジンするし。


「おい、こら!宇宙人!」銃を振り回す兄貴はすばやく仙人を指差す。
「てめえか、こんなもの乗り回しやがって!あやうく死ぬところだぜ!」
「宇宙人?こいつが?」ジンは繰り返す。驚きすぎるとリアクションは却って小さくなるものだ。「普通じゃん。」香奈恵がユリに囁く。「8本足とかないの?」
銃を向けられた権現山の仙人は目を丸くして、何か言い足そうにするが結局口を閉じる。
「あんたが宇宙人なのか?ほんとか?」ジンは問いただす。
「そうだ。」兄貴が言い重ねる。「ジンてめぇ、この裏切り者。よくおめおめと戻ってきやがったぜ、馬鹿にしやがって!。おめえも後で殺してやるが、まずは宇宙人が先だ。」
「そうだ、俺の足をこんなにしやがって。生きながらバラバラにしてやる。」
一番、年上の兄貴は足を引きずりながら顔を歪める。
「それよりNASAとかに引き渡したらどうなのさ?」ジンのこの言葉にも仙人は黙って見つめ返すだけだ。「ものすごい金になると思うけどさ。」
「それも、いいな!なあ、生きながら人体実験だ!」銃を持った次男は笑う。
「それはダメだ!」足を怪我した長男が更なる残忍な笑みを浮かべる。「宇宙人だろうがなんだろうが、俺のかたきは俺が撃つ!」
「そうだ、かたきだ!」一番、下の弟が仙人を後ろから殴り倒した。
「さあ、そこでガキんちょどもだ。」ユリと香奈恵に銃口が向く。
「その前に、ちょっと試させてくんない?」神興一郎が渡の手を取ったのはそんな時だった。渡はビクンとしたが、ジンの手ははずれない。
「なんだ?おい、止まれ!」ジンは渡を引きずるようにしながらも、スタスタと円盤に向かう。兄貴が引き金を引く、が引けない。ドラコが銃口を塞いだからだ。
「この!」小柄な男達がジンに躍りかかる。その瞬間、ガンタと仙人が跳ね起きて反撃に転じた。
「うおー!」
「やっつけろー!」香奈恵が、叫ぶ。「ガンタ、かっこいー!」
「さすが武力担当じゃの。」ご隠居も満足の笑み。

ユリは香奈恵の腕の中でもがいていた。ユリが見ていたのは円盤に近づいて行く渡だった。近づくに連れて渡の抵抗は治まり、目は虚ろになって行く。
回りの騒ぎは急速に遠ざかる。『なんだろ?この感じ・・』渡の中で何かが外れる音がする。『何かが呼んでる・・この円盤?・・船?』
「おい!」ガンタがねじ伏せた兄貴が声を出す。彼の驚愕の表情にガンタも振り上げた手を止める。その為に弟に蹴り飛ばされる。仙人ももう一人を押さえつけていた手を止めて、それを見た。
「何、しやがる!それから、離れろ!」
地面に突き刺さった巨大な黒い碁石。そのUFOが再び点滅を初めていた。
ユリが呆然とする香奈恵の腕から逃れでた。しかし、トラが立ちふさがる。

「渡!何をしている!」
円盤の船体の全面に文字のような光が次々と現れる。光の筋が流れる。
渡が手を当てると船体は不気味なうなりをあげ、振動し始める。
「やはりな。」ジンは恍惚として渡の肩を押さえたまま光の渦を見上げていた。
渡の目にはもう何も写っていない。幼い顔に陶酔の表情を浮かべたまま立ち尽くす。
「動けと言ってみるんだ。」悪魔が囁く。「さあ、渡。動けって。」
円盤のすべての機能が渡の頭の中で点滅する。理解を超える設計図、訳もわからないが渡はこの船と自分が繋がっていることを感じる。『うご・・け』
地を削り、円盤の表面が動き始める。光の文字が中心へと凝縮し始める。
「やめろー!」相手をはね飛ばし、駆け寄る3兄弟。銃から弾丸が放たれる。
ジンは黙ってそれを自分の体で受け止める。渡に届かせる訳にはいかない。
1発、2発、兄弟が円盤に到達するのとそれがめり込んだ地面から身を起こすのは同時だった。船体の下から風圧が巻き起こり、ジンは後ろによろめいた。渡もはね飛ばされる。と、円盤の動きは止まった。光も失い、船は再び滑るように平たい地面にゆっくりと着陸した。
口々に雄叫びを上げる3兄弟はもはやコントロール不能だった。弟達が船体にかじりつくように這い上がる。ガンタが駆け寄るより早く、倒れていた渡を兄貴が肩に担ぎ上げた。船体に入り口が開く。まず弟達が転がり込む。次は兄貴だ。
「そいつを放せ!」
船体に飛び乗ったジンが入り口から放たれた、まばゆい光に寄って吹き飛ばされた。
「無茶だ!」彼を受け止めるようにガンタも転がり落ちる。
同時に入り口は塞がれ、円盤は上昇を始めた。
ユリを抱きとめる、トラの耳元で甲高い悲鳴が響き渡った。「ワタル!」
「ユリちゃん!」思わず、トラの手が緩む。
ユリはトラを振り払い前に向かって走りだす。「ダメ!ダメ!」甲高い錆び付いた声帯が軋むような悲鳴だった。
「ユリ!」ガンタが降り注ぐ光の中、辛怖じて抱きとめる。
(ユリちゃん、ドラコに任せるにょ!)
(また、いい加減なことを!)(いい加減じゃないにょ!)
もがくユリの口からは続けざまに、たどたどしい意味不明な声が漏れ続けていた。
香奈恵が呆然と立ち尽くす。
「ユリちゃん、しゃべってる?」その上で円盤が点滅を続けていた。
細かい石や砂が頭上から降り注ぐ。
ジンはしびれた体を振るわせながらそれを見上げていた。庇われたせいで肉体への墜落の衝撃はたいしたものではない。銃弾も体にめり込んで入るが、デモンバルグであるジンにとってはたいしたものではない。しかし、借り物にすぎぬ肉体は動かなかった。かりそめの肉体だけではないジン自体にもかなりのダメージが行き渡っていることを認めるしかなかった。。あの光線、あれはいったい?
「プラズマレーザーじゃな。」トラが泣きわめくユリの後ろに立つ。
「結局、不法侵入者はあいつらってこと?」
ガンタはユリを押さえながら振り返った。
目の端で権現山の仙人を確認する。仙人が意識のない2人の子供を介抱していた。

スパイラルワン8-1

2009-09-15 | オリジナル小説
          4.夏の夜を迷走するUFO


(さて、どうしよう)
ガンダルファは思案した。
(どうしたらいいと思う?ドラコ)
(ガンちゃん、予想外にょ)
頭の中でドラコの声が答える。
「ねぇ、大丈夫かな、みんな。」
そんな彼の困惑を他所に隣からしきりに声がかかる。
「見つかった気配ないものね、ね?」
(・・わざと捕まってみたんだけど。こいつまで付いて来るとはなーまったく、困ったなー親の心子知らず状態だよ)
(それ、ちょっと用法ちがうにょ?タトラならわかるにょ)
「ガンタ、みんな逃げたかな?逃げれたと思う?渡はあいつが連れってたけど・・・大丈夫かな?大丈夫よね?トラちゃんにはユリちゃんが付いているし2人一緒ならばなんとかなると思わない?。シンタニとあっちょだって私らが囮になったからちゃんと逃げれたはずよね?」
隣に転がされているのは香奈恵だ。
「だってさ、あいつら捕まえてたら絶対私らに黙ってないでしょ?あちょの家が一番近いからさ、家に駆け込んでくれればさ・・・あのデブの弟が追って行ったのが気になるけど・・・大丈夫、みんなはしっこいからさ?今に助けがくるわよね?」
香奈恵は心細さからか、ますますしゃべりまくる。
「みんな警察にたどりつけたかなぁ?迷ってたりしたら、どうしよう?ねえ?ねえ、ったらねえ、ガンタ、聞いてるの?もしかして、怖くて気絶してたりして?」
「・・・大丈夫だと思うよ。」面倒くさそうにガンタは答える。
(そうにょ。ドラコ、さっきちょっと見て来たにょ。タトラとユリちゃんは仙人に助けてもらったにょ。渡も一緒にいたにょ。ちゃんと村に向かうって言ってたにょ。シンタニとあっちょはわかんないにょ~見つからなかったにょ。香奈恵ちゃんにもいうにょ?)
(言えるかよ、虫の知らせってか。)(虫じゃないにょ!)
(権現山の仙人か~なんか、気になるなるんだよね。どうしてこんな山ん中にすんでんだろ?いくら寂しんぼ好きにしたって食い物とかどうしてるんだろ?完全自給自足でやっていけるものなの?)(犯罪者だと思うにょ!)(そうだよなーでも、この星の犯罪者なら関係ないか・・一応、帰ったら警視庁の指名手配リストとかチェックしてみるか)
「ねぇ!ガンタ、ちょっとびびってんの?答えてよ!」
ガンタは半場、あきらめ口調で諭す。
「声がでかいって。」
その言い草に香奈恵はますます、いきり立つ。
「なによ!こんな時に!落ち着き払っちゃって!いつもはガンタの方が声がでかいじゃないのよ!」
「おい、やめろって。」ガンタ、深くため息をつく。
「なんで香奈恵は逃げなかったんだよ。あれだけ、逃げろっていったろ。」
「何よ、自分だけいいかっこしてさ。相手は2人いたんだから、1人で2人は無理だったじゃない!」
「俺1人で簡単に片付けられたって。」無論、それはドラコとかオリオンの企業機密を使ってなのだが、それは香奈恵の前では使えない技だった。
「無理に決まってるでしょ!ガンタなんか、何も技ないじゃない、私なんて空手部なんだからね・・・そりゃ、入ったばっかだけどさ。」
(ガンちゃん、ほんと信用ないにょ)「うるさいわ。」
「うるさい?うるさいですって?、わかったわよ!ガンタのバカ!」
その言葉はドラコに言ったのだが、怪我の功名で香奈恵はふくれて静かになった。
やれやれと、ガンタは辺りを見渡す。
暗闇に目が慣れたおかげで、薮の陰のランタン一つで木に打ち付けられた「御堂山標高440」と書かれた札が見えた。
頂上は薮が生い茂るばかりで、木はかなりまばらだ。ガンタは薮をすかす。
吹き上げて来る風がまともに顔に当たる。日が暮れると7月とはいえ、気温は肌寒くなってきた。香奈恵の怒っている背中もちょっと寒そうに見える。

(向こう側にはなんだって?)(1人だけにょ。なんだか卵みたいのがあるにょ。)
(1人?ずんぐりした奴は?まだ、渡達を追ってるのか?卵ってなんだよ。)
(わかんないにょ。細長いカプセルみたいにょ。怪しいにょ。人は痩せたのしかいないにょ。なんか谷底に向けてなんかで合図してるにょ。渡のママが持ってる携帯じゃないにょ。発信器みたいのにゃ。誰かと話してるにょ。)
(合図?どっちの谷底?下の沢にもう1人いるとかいう仲間がいるのかな?それとも・・・あいつら・・・ひょっとしてここの住人じゃないのかな?・・・もしかして噂の不法滞在者? 体つきは遊民に近いかなとは思ったんだけどさ、どう思う?)
(そこまでドラコに期待するのは無理にょ、タトラに聞くにょ)
(別になんでもいいんだよ。匂いとか、感覚とかさ、ここの住民とは違うとかさ、なんか感じないの?)
(ガンちゃん達のいるこの次元に生きてる人間はドラコにはにょ~みんな同じ匂いしかしないにょ。一緒に思えるにょ~)(そうか・・ちぇ、役に立たないなぁ。)
(そんなこというとドラコ、怒るにょ~もう何も教えてやらないにょ~縄も解いてやらないにょ~ガンちゃんなんか、もっと痛い目に合えばいいにょ!)
(ああ、わかった、わかった、悪かった!ごめんなさいっと!)
ガンタは色々と考えながらおざなりに謝る。
(そうだ、ついでだから縄はずしといてよ。)
後ろ手を持ち上げる。
(どうするつもりなんだろう?逃がしたって大したことはないと思うんだけど・・・僕らは予想外の人質なんだってあいつ、あのいかしたイケメンが言ってたんだしな・・わからん。ところで、あのイケメン、あいつはちゃんと逃げおおせたみたいだなって、おいドラコ?ドラコ!)
(にょ~)
(まだ、怒ってたんかよ。執念深いなあ、過去はさわやかに水に流すのがいかしたワームドラゴンって奴じゃないの?)
(ドラコ、いかさなくていいにょ!)
(何、言ってんだよ、いかさなきゃ!そうだろ?せっかくかっちょいいワームドラゴンに産まれたんだからさ。シドラのバラキみたいにビシッと決めてみたくないの?)
(それは~みたいにょら。)
ドラコが、即座に手の縄に取りかかる。くすぐったいような曖昧な感覚の中、縄がハラリと重みを失う。
(よしよし)隣の香奈恵には気づかれないように手首をもんでほぐす。
「あれっ!」香奈恵が驚いた声を出す。
「縄が外れたわ!ガンタ、あんた?」ガンタは暗闇で顔をしかめる。
(香奈恵のも取ったのか!)
(取ったにょ!)(余計なことを~!)(気を利かしたのにょ)
舌打ちをしつつ、声を潜めて香奈恵にかがみ込む。
「いいか?今度こそだぞ、お前は絶対に逃げろよ。」
「逃げるって、ガンタは?」
「今度こそ踏ん縛ってやる。」
「えっ?私も行く!」
「いいから、お前はそこの薮に潜んで隠れてろって!あっちで騒ぎが起きたらすぐに山を降りるんだ。敵は1人のはずだけど仲間が潜んでたら面倒だからな。また、お前が捕まったりしたら、今度こそ目も当てられないだろ?」
「いやよ!」本当はたった1人で山の生い茂る薮に入って行くのがたまらなく怖い香奈恵なのだった。夕方の暗闇を歩いてる最中、笑った口に虫が飛び込んだ記憶が甦る。「ねえ、じゃあ隠れてるから・・ずっと隠れて見てるから・・ダメ?ガンタがやられちゃったら、逃げるからさ。ねぇ、お願い、1人で山なんて降りれないわよぉ。怖いんだもん・・・」その声には必死に押し殺した泣きべそが潜んでるのを感じ、ガンタは顔をしかめた。いっそ眠らせたろか?その方が邪魔になんないし。でも、後で抱えて降りるのは重そうだしな。
「あのな・・」
迷いながらとりあえず口を開いたその時、ドラコが騒ぎ出す。
(なんか来るにょ!ガンちゃん、近いとこからなんか近づいてるにょ!)
(ダッシュ空間ってことか?深度はどのくらいなんだ?)ガンタは言葉を飲み込み、すばやく頭を巡らす。
(レベル1とか2にょ!)
香奈恵が不満げにガンタの顔を見つめる。
(すごい近いにょ!早いのにょ~!)たまらず、ドラコは甲高い警戒音を発する。
ガンタは山裾へと続く後ろの闇にそれとなく身構えた。
うって変わった男の鋭い眼差しに香奈恵の心臓がドキリとした。しかし、それが悔しくて彼女は思わず大声を出す。
「何よ、何か言いかけたでしょ、今・・・」
ものすごい金属音がわき起こった。


ガンタは見た。
空間がよじれ耐えられず裂けるのを。
火花が梢を走り空気の焦げる匂いと共に飛び出して来た、船の質量がこちらの場にも凶暴な圧迫を叩き付ける。
ガンタは香奈恵を庇い、2人は折り重なって地面に投げ飛ばされた。
同時に御堂山頂上をかすめて過ぎた物体により、山頂の木々は咆哮をあげる。
山鳴りが頂上から下へと波及して行くのが感じられた。
「ドラコ!」ガンダルファは叫ぶ。
(船にょ!)ドラコは空間に飛び出す。(こっちにょ!)
香奈恵の悲鳴よりも先にガンタは跳ね起きていた。
「ガンタ!?」
気がついた時は斜面を飛ぶように走り降りていた。
暗い薮と木々の中に、焦げ臭い土と燻された木の匂いがもうもうと鼻に感じられる。ドラコが鼻と口に巻き付き砂塵と煙を防いだ。(ほんとに墜落したのか?)
近づくに連れて燻る木々を透かして、チラチラと燃える炎が垣間見え出す。
(冗談じゃない!光子燃料が漏れたりしたら山が消し飛んじまうぞ!)
(ガンちゃん、先客がいるにょ!)
確かに前方の炎の側に人影が見えた。こちらを見るなり叫ぶ。
「摩擦で発火した!このままじゃ、山火事になるぞ!。」仙人だった。
「お前も手伝え!」
「わかった!。」体が動く。
燃えつく炎を足で踏みつける。「追いつかん、これを。」
仙人がまだ燃えてない瑞々しい枝を折り取る。
それからは2人で夢中で枝を振り回した。
枝を折るでかい足音が聞こえた。
「兄貴!」薮から転げ出る、ずんぐりとした影。
「手伝え!」仙人が叫ぶ。
しかし、末っ子の弟は呆然と立ちすくむだけだ。
彼の足下に投げ出された、二つの荷物にも目を止める暇がない。
墜落した物体に注意が向いたのはあらかた消火した後だった。


ガンタは唸った。
地面にめり込んでいるのは、小振りとはいえあきらかな円盤だった。岩がえぐれ、そこはクレーターのように地面が落ち込んでいる。焦げた木はなぎ倒され、草は真っ黒に変色している。底面に模様を浮き出し淡く点滅する船からの灯りの中、倒れた男とそれを引きずる小さな影が動いている。
(このタイプは遊民船か。こんなに小さかったら母船のレーダーにも感知できないかもな。)(次元を使わなかったのにょ。その方がかえってわからないと思うにょ。)
「怪我したのか!?」仙人は弟の側を駆け下りる。
「近づくな!」小さな影は鋭く叫ぶ。仙人はためらうが、足を止めた。
(ガンちゃん、!)ドラコが囁くより早く、ガンタの袖が引かれる。
「あ、あれ!あれって、空飛ぶ円盤じゃないの?」
目を目一杯に見開いた香奈恵だった。顔は傷だらけ、髪には小枝や蜘蛛の巣が付いている。ガンタは再び、目眩を覚える。
「なんで、ここにいるんだよ!」忌々しいたらない。
「なんで上でジッとしてないんだよ!」
「だって!ガンタ、下に逃げろって言ったじゃない!」
「村の方に決まってるだろ!自分で考えろよ、まったく・・・」
尚もいい募ろうとするガンタを香奈恵の指が止める。
「あれ、あれって・・・本当にいたんだUFO?」香奈恵の声は泣き声に近くなる。
「いいから!お前はあっちへ行けって!離れてろって言ったろが!」
「だって・・・!」涙が滲む。「だって、だってガンタ私を1人で置いていくんだもん。1人は嫌だもん!もう、嫌ー!」
気は張っててもまだ、13歳、中学生だ。
パニック突入の香奈恵に抱きつかれ身動きもとれない。
その上、さらに後ろからどやどやと声が近づく。
「ほら、見ろ!やっぱりここに落ちてんじゃん!」
「おいおい、ここは観光名所じゃないぞ!」たまらず、ガンタは叫んだ。
「いよっ!お兄さん!お邪魔しちゃった?」
ジンはガンタが睨みつけるのにも躊躇ない。
「お熱いのう。」ご隠居さんも首をふりふり。
「タトラ!てめぇ、何してんだ!」あきれて力が抜ける。「逃げたんじゃないのか?」
本名を叫ばれたトラはさりげなく口に指を立てる。
「わしらはモノレールでそこまで登って来たんじゃ。」
ユリがニコニコと共に並んで後方のレールを指差した。
「お、おまえら~」ガンタは香奈恵を引き離すと、思わずくずおれた。
(ガンちゃんが貧血おこしたにょ~)
「みんなー!」香奈恵はガンタを飛び越え駆け寄る。
ユリも破顔し、2人はしかと抱き合った。
その背景にジンが鷹揚な構えを解いた。
「感動の光景さ、みんな無事なんだしお兄さんも喜んだらさ。」
「無事なら、ここにいないだろが・・!」ガンタ頭を抱える。