MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン8-1

2009-09-15 | オリジナル小説
          4.夏の夜を迷走するUFO


(さて、どうしよう)
ガンダルファは思案した。
(どうしたらいいと思う?ドラコ)
(ガンちゃん、予想外にょ)
頭の中でドラコの声が答える。
「ねぇ、大丈夫かな、みんな。」
そんな彼の困惑を他所に隣からしきりに声がかかる。
「見つかった気配ないものね、ね?」
(・・わざと捕まってみたんだけど。こいつまで付いて来るとはなーまったく、困ったなー親の心子知らず状態だよ)
(それ、ちょっと用法ちがうにょ?タトラならわかるにょ)
「ガンタ、みんな逃げたかな?逃げれたと思う?渡はあいつが連れってたけど・・・大丈夫かな?大丈夫よね?トラちゃんにはユリちゃんが付いているし2人一緒ならばなんとかなると思わない?。シンタニとあっちょだって私らが囮になったからちゃんと逃げれたはずよね?」
隣に転がされているのは香奈恵だ。
「だってさ、あいつら捕まえてたら絶対私らに黙ってないでしょ?あちょの家が一番近いからさ、家に駆け込んでくれればさ・・・あのデブの弟が追って行ったのが気になるけど・・・大丈夫、みんなはしっこいからさ?今に助けがくるわよね?」
香奈恵は心細さからか、ますますしゃべりまくる。
「みんな警察にたどりつけたかなぁ?迷ってたりしたら、どうしよう?ねえ?ねえ、ったらねえ、ガンタ、聞いてるの?もしかして、怖くて気絶してたりして?」
「・・・大丈夫だと思うよ。」面倒くさそうにガンタは答える。
(そうにょ。ドラコ、さっきちょっと見て来たにょ。タトラとユリちゃんは仙人に助けてもらったにょ。渡も一緒にいたにょ。ちゃんと村に向かうって言ってたにょ。シンタニとあっちょはわかんないにょ~見つからなかったにょ。香奈恵ちゃんにもいうにょ?)
(言えるかよ、虫の知らせってか。)(虫じゃないにょ!)
(権現山の仙人か~なんか、気になるなるんだよね。どうしてこんな山ん中にすんでんだろ?いくら寂しんぼ好きにしたって食い物とかどうしてるんだろ?完全自給自足でやっていけるものなの?)(犯罪者だと思うにょ!)(そうだよなーでも、この星の犯罪者なら関係ないか・・一応、帰ったら警視庁の指名手配リストとかチェックしてみるか)
「ねぇ!ガンタ、ちょっとびびってんの?答えてよ!」
ガンタは半場、あきらめ口調で諭す。
「声がでかいって。」
その言い草に香奈恵はますます、いきり立つ。
「なによ!こんな時に!落ち着き払っちゃって!いつもはガンタの方が声がでかいじゃないのよ!」
「おい、やめろって。」ガンタ、深くため息をつく。
「なんで香奈恵は逃げなかったんだよ。あれだけ、逃げろっていったろ。」
「何よ、自分だけいいかっこしてさ。相手は2人いたんだから、1人で2人は無理だったじゃない!」
「俺1人で簡単に片付けられたって。」無論、それはドラコとかオリオンの企業機密を使ってなのだが、それは香奈恵の前では使えない技だった。
「無理に決まってるでしょ!ガンタなんか、何も技ないじゃない、私なんて空手部なんだからね・・・そりゃ、入ったばっかだけどさ。」
(ガンちゃん、ほんと信用ないにょ)「うるさいわ。」
「うるさい?うるさいですって?、わかったわよ!ガンタのバカ!」
その言葉はドラコに言ったのだが、怪我の功名で香奈恵はふくれて静かになった。
やれやれと、ガンタは辺りを見渡す。
暗闇に目が慣れたおかげで、薮の陰のランタン一つで木に打ち付けられた「御堂山標高440」と書かれた札が見えた。
頂上は薮が生い茂るばかりで、木はかなりまばらだ。ガンタは薮をすかす。
吹き上げて来る風がまともに顔に当たる。日が暮れると7月とはいえ、気温は肌寒くなってきた。香奈恵の怒っている背中もちょっと寒そうに見える。

(向こう側にはなんだって?)(1人だけにょ。なんだか卵みたいのがあるにょ。)
(1人?ずんぐりした奴は?まだ、渡達を追ってるのか?卵ってなんだよ。)
(わかんないにょ。細長いカプセルみたいにょ。怪しいにょ。人は痩せたのしかいないにょ。なんか谷底に向けてなんかで合図してるにょ。渡のママが持ってる携帯じゃないにょ。発信器みたいのにゃ。誰かと話してるにょ。)
(合図?どっちの谷底?下の沢にもう1人いるとかいう仲間がいるのかな?それとも・・・あいつら・・・ひょっとしてここの住人じゃないのかな?・・・もしかして噂の不法滞在者? 体つきは遊民に近いかなとは思ったんだけどさ、どう思う?)
(そこまでドラコに期待するのは無理にょ、タトラに聞くにょ)
(別になんでもいいんだよ。匂いとか、感覚とかさ、ここの住民とは違うとかさ、なんか感じないの?)
(ガンちゃん達のいるこの次元に生きてる人間はドラコにはにょ~みんな同じ匂いしかしないにょ。一緒に思えるにょ~)(そうか・・ちぇ、役に立たないなぁ。)
(そんなこというとドラコ、怒るにょ~もう何も教えてやらないにょ~縄も解いてやらないにょ~ガンちゃんなんか、もっと痛い目に合えばいいにょ!)
(ああ、わかった、わかった、悪かった!ごめんなさいっと!)
ガンタは色々と考えながらおざなりに謝る。
(そうだ、ついでだから縄はずしといてよ。)
後ろ手を持ち上げる。
(どうするつもりなんだろう?逃がしたって大したことはないと思うんだけど・・・僕らは予想外の人質なんだってあいつ、あのいかしたイケメンが言ってたんだしな・・わからん。ところで、あのイケメン、あいつはちゃんと逃げおおせたみたいだなって、おいドラコ?ドラコ!)
(にょ~)
(まだ、怒ってたんかよ。執念深いなあ、過去はさわやかに水に流すのがいかしたワームドラゴンって奴じゃないの?)
(ドラコ、いかさなくていいにょ!)
(何、言ってんだよ、いかさなきゃ!そうだろ?せっかくかっちょいいワームドラゴンに産まれたんだからさ。シドラのバラキみたいにビシッと決めてみたくないの?)
(それは~みたいにょら。)
ドラコが、即座に手の縄に取りかかる。くすぐったいような曖昧な感覚の中、縄がハラリと重みを失う。
(よしよし)隣の香奈恵には気づかれないように手首をもんでほぐす。
「あれっ!」香奈恵が驚いた声を出す。
「縄が外れたわ!ガンタ、あんた?」ガンタは暗闇で顔をしかめる。
(香奈恵のも取ったのか!)
(取ったにょ!)(余計なことを~!)(気を利かしたのにょ)
舌打ちをしつつ、声を潜めて香奈恵にかがみ込む。
「いいか?今度こそだぞ、お前は絶対に逃げろよ。」
「逃げるって、ガンタは?」
「今度こそ踏ん縛ってやる。」
「えっ?私も行く!」
「いいから、お前はそこの薮に潜んで隠れてろって!あっちで騒ぎが起きたらすぐに山を降りるんだ。敵は1人のはずだけど仲間が潜んでたら面倒だからな。また、お前が捕まったりしたら、今度こそ目も当てられないだろ?」
「いやよ!」本当はたった1人で山の生い茂る薮に入って行くのがたまらなく怖い香奈恵なのだった。夕方の暗闇を歩いてる最中、笑った口に虫が飛び込んだ記憶が甦る。「ねえ、じゃあ隠れてるから・・ずっと隠れて見てるから・・ダメ?ガンタがやられちゃったら、逃げるからさ。ねぇ、お願い、1人で山なんて降りれないわよぉ。怖いんだもん・・・」その声には必死に押し殺した泣きべそが潜んでるのを感じ、ガンタは顔をしかめた。いっそ眠らせたろか?その方が邪魔になんないし。でも、後で抱えて降りるのは重そうだしな。
「あのな・・」
迷いながらとりあえず口を開いたその時、ドラコが騒ぎ出す。
(なんか来るにょ!ガンちゃん、近いとこからなんか近づいてるにょ!)
(ダッシュ空間ってことか?深度はどのくらいなんだ?)ガンタは言葉を飲み込み、すばやく頭を巡らす。
(レベル1とか2にょ!)
香奈恵が不満げにガンタの顔を見つめる。
(すごい近いにょ!早いのにょ~!)たまらず、ドラコは甲高い警戒音を発する。
ガンタは山裾へと続く後ろの闇にそれとなく身構えた。
うって変わった男の鋭い眼差しに香奈恵の心臓がドキリとした。しかし、それが悔しくて彼女は思わず大声を出す。
「何よ、何か言いかけたでしょ、今・・・」
ものすごい金属音がわき起こった。


ガンタは見た。
空間がよじれ耐えられず裂けるのを。
火花が梢を走り空気の焦げる匂いと共に飛び出して来た、船の質量がこちらの場にも凶暴な圧迫を叩き付ける。
ガンタは香奈恵を庇い、2人は折り重なって地面に投げ飛ばされた。
同時に御堂山頂上をかすめて過ぎた物体により、山頂の木々は咆哮をあげる。
山鳴りが頂上から下へと波及して行くのが感じられた。
「ドラコ!」ガンダルファは叫ぶ。
(船にょ!)ドラコは空間に飛び出す。(こっちにょ!)
香奈恵の悲鳴よりも先にガンタは跳ね起きていた。
「ガンタ!?」
気がついた時は斜面を飛ぶように走り降りていた。
暗い薮と木々の中に、焦げ臭い土と燻された木の匂いがもうもうと鼻に感じられる。ドラコが鼻と口に巻き付き砂塵と煙を防いだ。(ほんとに墜落したのか?)
近づくに連れて燻る木々を透かして、チラチラと燃える炎が垣間見え出す。
(冗談じゃない!光子燃料が漏れたりしたら山が消し飛んじまうぞ!)
(ガンちゃん、先客がいるにょ!)
確かに前方の炎の側に人影が見えた。こちらを見るなり叫ぶ。
「摩擦で発火した!このままじゃ、山火事になるぞ!。」仙人だった。
「お前も手伝え!」
「わかった!。」体が動く。
燃えつく炎を足で踏みつける。「追いつかん、これを。」
仙人がまだ燃えてない瑞々しい枝を折り取る。
それからは2人で夢中で枝を振り回した。
枝を折るでかい足音が聞こえた。
「兄貴!」薮から転げ出る、ずんぐりとした影。
「手伝え!」仙人が叫ぶ。
しかし、末っ子の弟は呆然と立ちすくむだけだ。
彼の足下に投げ出された、二つの荷物にも目を止める暇がない。
墜落した物体に注意が向いたのはあらかた消火した後だった。


ガンタは唸った。
地面にめり込んでいるのは、小振りとはいえあきらかな円盤だった。岩がえぐれ、そこはクレーターのように地面が落ち込んでいる。焦げた木はなぎ倒され、草は真っ黒に変色している。底面に模様を浮き出し淡く点滅する船からの灯りの中、倒れた男とそれを引きずる小さな影が動いている。
(このタイプは遊民船か。こんなに小さかったら母船のレーダーにも感知できないかもな。)(次元を使わなかったのにょ。その方がかえってわからないと思うにょ。)
「怪我したのか!?」仙人は弟の側を駆け下りる。
「近づくな!」小さな影は鋭く叫ぶ。仙人はためらうが、足を止めた。
(ガンちゃん、!)ドラコが囁くより早く、ガンタの袖が引かれる。
「あ、あれ!あれって、空飛ぶ円盤じゃないの?」
目を目一杯に見開いた香奈恵だった。顔は傷だらけ、髪には小枝や蜘蛛の巣が付いている。ガンタは再び、目眩を覚える。
「なんで、ここにいるんだよ!」忌々しいたらない。
「なんで上でジッとしてないんだよ!」
「だって!ガンタ、下に逃げろって言ったじゃない!」
「村の方に決まってるだろ!自分で考えろよ、まったく・・・」
尚もいい募ろうとするガンタを香奈恵の指が止める。
「あれ、あれって・・・本当にいたんだUFO?」香奈恵の声は泣き声に近くなる。
「いいから!お前はあっちへ行けって!離れてろって言ったろが!」
「だって・・・!」涙が滲む。「だって、だってガンタ私を1人で置いていくんだもん。1人は嫌だもん!もう、嫌ー!」
気は張っててもまだ、13歳、中学生だ。
パニック突入の香奈恵に抱きつかれ身動きもとれない。
その上、さらに後ろからどやどやと声が近づく。
「ほら、見ろ!やっぱりここに落ちてんじゃん!」
「おいおい、ここは観光名所じゃないぞ!」たまらず、ガンタは叫んだ。
「いよっ!お兄さん!お邪魔しちゃった?」
ジンはガンタが睨みつけるのにも躊躇ない。
「お熱いのう。」ご隠居さんも首をふりふり。
「タトラ!てめぇ、何してんだ!」あきれて力が抜ける。「逃げたんじゃないのか?」
本名を叫ばれたトラはさりげなく口に指を立てる。
「わしらはモノレールでそこまで登って来たんじゃ。」
ユリがニコニコと共に並んで後方のレールを指差した。
「お、おまえら~」ガンタは香奈恵を引き離すと、思わずくずおれた。
(ガンちゃんが貧血おこしたにょ~)
「みんなー!」香奈恵はガンタを飛び越え駆け寄る。
ユリも破顔し、2人はしかと抱き合った。
その背景にジンが鷹揚な構えを解いた。
「感動の光景さ、みんな無事なんだしお兄さんも喜んだらさ。」
「無事なら、ここにいないだろが・・!」ガンタ頭を抱える。

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