MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン8-2

2009-09-15 | オリジナル小説
ジンの側で渡は目を皿のようにして前方を見つめていた。
「シンタニ、あっちょ・・」
弟がはっと顔を上げる。その足下に倒れてるのは子供2人。
「おれ、こいつら捕まえた。兄貴にほめてもらおうと思った。」
「捕まえてんじゃねー!」ガンタは一足飛びで弟に駆け寄り殴り倒す。もう、ちくしょう!この鬱憤はこいつではらすしかない。
(ガンちゃん!)ドラコが叫ぶ。鱗が飛び散るのがガンタだけには見える。
「動くな。」下から足を引きずり、兄貴達が上がってくる。
仙人は後ろに後退する。兄の手には銃が握られている。「殺すぞ。」
弟にの収穫物に目をやる。「よくやった。」
弟はうなりを上げると跳ね起きざま、ガンタの顎に頭付きを炸裂。ガンタ、目から花火で倒れる。
(ドラコ、大丈夫か?サイレンサーで撃たれただろ?)(大丈夫にょ!弾丸なんかはねとばしたにょ!ガンちゃんを庇ったにょ!知ってるにょ?ドラコがいなきゃ撃たれたのガンちゃんにょ!)(恩着せがましいけど、感謝だ。また頼むぜ、ドラコ!)(まかせるにょ!)ガンタ、取りあえず死んだ振り。顎がジンジンするし。


「おい、こら!宇宙人!」銃を振り回す兄貴はすばやく仙人を指差す。
「てめえか、こんなもの乗り回しやがって!あやうく死ぬところだぜ!」
「宇宙人?こいつが?」ジンは繰り返す。驚きすぎるとリアクションは却って小さくなるものだ。「普通じゃん。」香奈恵がユリに囁く。「8本足とかないの?」
銃を向けられた権現山の仙人は目を丸くして、何か言い足そうにするが結局口を閉じる。
「あんたが宇宙人なのか?ほんとか?」ジンは問いただす。
「そうだ。」兄貴が言い重ねる。「ジンてめぇ、この裏切り者。よくおめおめと戻ってきやがったぜ、馬鹿にしやがって!。おめえも後で殺してやるが、まずは宇宙人が先だ。」
「そうだ、俺の足をこんなにしやがって。生きながらバラバラにしてやる。」
一番、年上の兄貴は足を引きずりながら顔を歪める。
「それよりNASAとかに引き渡したらどうなのさ?」ジンのこの言葉にも仙人は黙って見つめ返すだけだ。「ものすごい金になると思うけどさ。」
「それも、いいな!なあ、生きながら人体実験だ!」銃を持った次男は笑う。
「それはダメだ!」足を怪我した長男が更なる残忍な笑みを浮かべる。「宇宙人だろうがなんだろうが、俺のかたきは俺が撃つ!」
「そうだ、かたきだ!」一番、下の弟が仙人を後ろから殴り倒した。
「さあ、そこでガキんちょどもだ。」ユリと香奈恵に銃口が向く。
「その前に、ちょっと試させてくんない?」神興一郎が渡の手を取ったのはそんな時だった。渡はビクンとしたが、ジンの手ははずれない。
「なんだ?おい、止まれ!」ジンは渡を引きずるようにしながらも、スタスタと円盤に向かう。兄貴が引き金を引く、が引けない。ドラコが銃口を塞いだからだ。
「この!」小柄な男達がジンに躍りかかる。その瞬間、ガンタと仙人が跳ね起きて反撃に転じた。
「うおー!」
「やっつけろー!」香奈恵が、叫ぶ。「ガンタ、かっこいー!」
「さすが武力担当じゃの。」ご隠居も満足の笑み。

ユリは香奈恵の腕の中でもがいていた。ユリが見ていたのは円盤に近づいて行く渡だった。近づくに連れて渡の抵抗は治まり、目は虚ろになって行く。
回りの騒ぎは急速に遠ざかる。『なんだろ?この感じ・・』渡の中で何かが外れる音がする。『何かが呼んでる・・この円盤?・・船?』
「おい!」ガンタがねじ伏せた兄貴が声を出す。彼の驚愕の表情にガンタも振り上げた手を止める。その為に弟に蹴り飛ばされる。仙人ももう一人を押さえつけていた手を止めて、それを見た。
「何、しやがる!それから、離れろ!」
地面に突き刺さった巨大な黒い碁石。そのUFOが再び点滅を初めていた。
ユリが呆然とする香奈恵の腕から逃れでた。しかし、トラが立ちふさがる。

「渡!何をしている!」
円盤の船体の全面に文字のような光が次々と現れる。光の筋が流れる。
渡が手を当てると船体は不気味なうなりをあげ、振動し始める。
「やはりな。」ジンは恍惚として渡の肩を押さえたまま光の渦を見上げていた。
渡の目にはもう何も写っていない。幼い顔に陶酔の表情を浮かべたまま立ち尽くす。
「動けと言ってみるんだ。」悪魔が囁く。「さあ、渡。動けって。」
円盤のすべての機能が渡の頭の中で点滅する。理解を超える設計図、訳もわからないが渡はこの船と自分が繋がっていることを感じる。『うご・・け』
地を削り、円盤の表面が動き始める。光の文字が中心へと凝縮し始める。
「やめろー!」相手をはね飛ばし、駆け寄る3兄弟。銃から弾丸が放たれる。
ジンは黙ってそれを自分の体で受け止める。渡に届かせる訳にはいかない。
1発、2発、兄弟が円盤に到達するのとそれがめり込んだ地面から身を起こすのは同時だった。船体の下から風圧が巻き起こり、ジンは後ろによろめいた。渡もはね飛ばされる。と、円盤の動きは止まった。光も失い、船は再び滑るように平たい地面にゆっくりと着陸した。
口々に雄叫びを上げる3兄弟はもはやコントロール不能だった。弟達が船体にかじりつくように這い上がる。ガンタが駆け寄るより早く、倒れていた渡を兄貴が肩に担ぎ上げた。船体に入り口が開く。まず弟達が転がり込む。次は兄貴だ。
「そいつを放せ!」
船体に飛び乗ったジンが入り口から放たれた、まばゆい光に寄って吹き飛ばされた。
「無茶だ!」彼を受け止めるようにガンタも転がり落ちる。
同時に入り口は塞がれ、円盤は上昇を始めた。
ユリを抱きとめる、トラの耳元で甲高い悲鳴が響き渡った。「ワタル!」
「ユリちゃん!」思わず、トラの手が緩む。
ユリはトラを振り払い前に向かって走りだす。「ダメ!ダメ!」甲高い錆び付いた声帯が軋むような悲鳴だった。
「ユリ!」ガンタが降り注ぐ光の中、辛怖じて抱きとめる。
(ユリちゃん、ドラコに任せるにょ!)
(また、いい加減なことを!)(いい加減じゃないにょ!)
もがくユリの口からは続けざまに、たどたどしい意味不明な声が漏れ続けていた。
香奈恵が呆然と立ち尽くす。
「ユリちゃん、しゃべってる?」その上で円盤が点滅を続けていた。
細かい石や砂が頭上から降り注ぐ。
ジンはしびれた体を振るわせながらそれを見上げていた。庇われたせいで肉体への墜落の衝撃はたいしたものではない。銃弾も体にめり込んで入るが、デモンバルグであるジンにとってはたいしたものではない。しかし、借り物にすぎぬ肉体は動かなかった。かりそめの肉体だけではないジン自体にもかなりのダメージが行き渡っていることを認めるしかなかった。。あの光線、あれはいったい?
「プラズマレーザーじゃな。」トラが泣きわめくユリの後ろに立つ。
「結局、不法侵入者はあいつらってこと?」
ガンタはユリを押さえながら振り返った。
目の端で権現山の仙人を確認する。仙人が意識のない2人の子供を介抱していた。

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