半導体や電子部品の需要が変調を示している。欧米経済の減速、パソコン販売の不振に加え、頼みのスマートフォンなどモバイル機器需要も思惑よりしぼみつつあるためだ。
電子部品では主要型34社のうち、8社が通期業績見通しを下方修正。震災の影響を脱しつつあった各社だが、回復シナリオの修正を迫られる可能性もある。
●警戒感強める市場
米国半導体工業会がまとめた6月の半導体世界売上高は前年同月比0.5%減の246億8000万ドルだった。前年実績を下回るのは約20ヵ月ぶり。
同工業会のブライアン・トゥーイ会長は「通年では当初の見通し通り、5.4%の成長を実現できる」と表明したが、それ以降、市場は警戒感を強めている。
懸念材料のひとつがパソコンの不振。
調査会社の米IDCによれば、4-6月のパソコン世界出荷台数は前年同期比3%増にとどまり、欧米市場は前年実績を割り込んだ。年間の出荷見通しも2月時点の7.1%増から4.2%増と下方修正している。
スマートフォンやタブレット端末の販売増で苦戦は織り込んでいたが、当初予想より伸び悩んでいるのは明白。
エルピーダメモリの坂本幸雄社長は「台風に近い大雨」とパソコン市場の不振を嘆く。パソコン用DRAMの主力品のスポット価格も東日本大震災後、下落を続け、採算ラインとされる1ドルを割割った状態が続く。
同社の株価は8月19日に年初来、7月初旬の約半値に落ち込んだ。
各社の誤算は、スマートフォンやタブレット機器市場の変調。東芝の小林清志執行役上席常務は8月10日に開いた半導体事業の説明会で「NANDは目標値に対してマイナスのリスクがある」と慎重な姿勢を示した。
モバイル機器に使うNAND型フラッシュメモリーは東芝の屋台骨。通期の営業利益見通しの3000億円のうち、その半分を稼ぎ出す電子デバイス部門の柱だ。
今期は下期に米アップルのスマ-トフォンやタブレット端末の投入を控え、事業の見通しは明るかった。
小林執行役上席常務は、「例年7月に引き合いが強まるが(想定より)遅れている」と指摘。5月以降下落していたNANDの大口取引価格は7月に下げ止まったが、再度の下落の波を懸念する。
●潮目変わる
海外の半導体大手の動きも慎重。半導体受託製造で世界最大手の台湾TSMCは、今年の設備投資額を78億ドルから74億ドに引き下げた。
これまで「投資が追いつかない」と言われていた同社では異例の事態。
半導体製造装置メーカーにはすでに市場の変化が及んでいる。同分野で世界2位の東京エレクトロンの常石哲男副会長は「7月から潮目が大きく変わった」という。
4-6月期の決算公表時点では同社として異例の通期見通しの下方修正を発表。売上高を7300億円から6400億円、営業利益を1000億円から500億円に引き下げた。
日本半導体製造装置協会がまとめた7月のBBレシオは前月比0.12ポイント減の0.84(3ヵ月移動平均の受注額を出荷額で割った値。「1」を上回ると需要が供給を上回っている)。
半導体メーカーの投資抑制は鮮明だが、統計上は明るい指標もある。8月上旬に米家電協会が発表した11年の米家電出荷額は前年比5.6%増の1900億ドルになる見通し。
景気後退がささやかれる米市場だが、タブレット端末の販売が好調で年初の3.5%増を上方修正した。
欧州の半導体メーカー首脳は「スマートフォンやタブレット端末への期待が実態より高すぎただけ」と指摘。半導体装置メーカー首脳も「在庫調整が一巡して年内には回復する」と楽観的だ。
ただ、「モバイル機器市場は燦々と輝いていたが、雲が見えてきた」(エルピーダの坂本社長)のは事実。急ブレーキがかかるとの見方も少なくない。
【記事引用】 「日刊工業新聞/2011年8月30日(火)/34面」