世界経済の減速懸念が強まる中、スマートフォンは数少ない成長分野。
覇権争いは内部の電子部品にも広がる。従来型の携帯電話向け部品で高いシェアを握る村田製作所がM&Aを通じてスマートフォンでも主導権を狙う。
●周辺部品に領域拡大
「にじみ出し」。村田製作所の村田恒夫社長は自社のM&A戦略をこう呼ぶ。超小型の積層セラミックコンデンサーで世界シェア35%と首位を走る同社だが、ここ数年は周辺の部品にじわりと領域を拡大している。
7月末に合意したルネサスエレクトロニクスからの電波送信用部品事業の買収は、象徴的な事例となる。
材料の混合や焼成度合い、積層方法などあらゆる工程での独自ノウハウの積み重ねが村田製作所の強み。単体の部品で高い国際競争力を持ち、円高下でも2012年3月期に売上高営業利益率13%を見込む。
ただ、スマートフォン市場の膨張が競争条件を変える。高機能化と小型化が同時進行し、開発サイクルの短期化が加速。「端末メーカーは複数機能を一体化した部品を求め始めた」(藤田能孝副社長)。
村田製作所はアンテナスイッチや電波を選別するフィルターを組み合わせた受信モジュールで世界シェア40%超。
一方で、電波信号の出力を上げる送信モジュールはスカイワークス・ソリューションズなど米国勢3、4社がシェアの大半を占めている。
これまでは部品ごとにすみ分けし、端末メーカーに供給してきた。だが「一体化が避けられない」。こんな見方が村田製作所の社内で強まっていった。
●共同開発呼びかけ
「だったら先に動こう」。ルネサスやスカイワークスなどにモジュールの共同開発を呼びかけた。ただし、技術開発の主導権を渡すつもりはない。
ルネサスと共同開発に向けた交渉が始まったのは3月上旬。ルネサスの対象部品の事業規模は年約300億円。米国勢に押され、シェア低下に苦しんでいた。
東日本大震災で主力工場が被災するなど環境が激変し、主力のマイコン事業に経営資源を集中する必要もあった。共同開発は事業買収に発展、村田製作所は、ルネサスの設計部門や知的財産、製造拠点を手に入れる。
モジュール化の流れは村田製作所にとってもろ刃の剣でもある。
付加価値の低い組み立ての工程が増える分、利益率が低くなりがち。協業関係にあった米国勢が新たなライバルになり、組み立てを得意とするアジア勢の攻勢も予想される。
中島規巨執行役員は「先手を打っていく。モジュールを切り分けできないほどに小さくずれば競合他社は追いつけない」という。
ルネサスからの事業買収だけではない。05年以降、村田製作所はパナソニツクやロームから積層セラミックコンデンサー事業を買収。
並行してモジュール小型化技術を持つ米ベンチャーを買収したり、水晶振動子を製造する東京電波に資本参加したりと周辺分野のM&Aを加速してきた。
村田社長は、「無線通信の活躍の場はスマートフォンから自動車やスマートグリッド(次世代送電網)などに広がる」と予測する。成長分野で常に先駆けるために、次のM&Aに打って出る可能性もある。
【記事引用】 「日本経済新聞/2011年8月19日(金)/11面」