犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「帝国の慰安婦裁判」7周年

2021-06-21 23:37:01 | 慰安婦問題
 朴裕河教授の著書『帝国の慰安婦』が元慰安婦9人から名誉棄損で告訴されてから、6月16日で7周年を迎えることを、朴教授のフェイスブックで知りました。

 裁判の経過は以下の通り。

2014年6月16日、ナヌムの家の元従軍慰安婦9人が、『帝国の慰安婦』を名誉棄損として、出版差し止めと、1人3千万ウォンの損害賠償を求める訴えを起こす(民事裁判)。

2015年2月17日、ソウル東部地裁は『帝国の慰安婦』の34カ所の削除を求める仮処分を決定。

慰安婦問題に対する韓国裁判所の認識(リンク

2015年11月18日、ソウル東部地検は朴裕河を名誉毀損罪で在宅起訴(刑事裁判)。

2015年12月16日、民事一審での朴教授の最終弁論(リンク

2016年1月13日(民事一審)、ソウル東部地裁は、原告の主張を認め、9000万ウォンの賠償を命じた。朴は控訴。

朴教授、民事裁判敗訴(リンク

2017年1月25日(刑事一審)、ソウル東部地裁は、名誉棄損についての検察の懲役3年の求刑に対して、無罪の判決。検察は控訴。

『帝国の慰安婦』刑事一審が名判決である所以(リンク

同年10月27日(刑事二審)、ソウル高裁は1審判決を破棄し、罰金1000万ウォンの判決を言い渡した。朴は上告。

朴教授、逆転敗訴(リンク

 刑事裁判の上告審は、2017年の控訴審判決以後、止まっているそうです。民事裁判も、刑事裁判の様子見でストップ。

 もっと詳しい情報は、朴教授のホームページ「法廷から広場へ」で知ることができます(リンク)。

 その後、慰安婦問題をめぐって、さまざまな動きがありました。

 2015年12月、日韓は慰安婦問題について、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」という内容で合意、元慰安婦支援のための「和解・癒し財団」に日本政府が10億円を拠出しました。ところが、2017年に大統領になった文在寅は、この日韓合意を否定し、2018年には「和解・癒し財団」を解散してしまいました。

 元慰安婦をめぐる別の裁判の判決も出ました。2016年に起こされた慰安婦訴訟で、ソウル中央地裁は、20210年1月8日、日本政府に賠償を命じる判決を宣告し、日本政府が控訴しなかったため、判決は確定しました。しかし、もう一つの慰安婦訴訟では、別の判断がなされています。

韓国司法の、慰安婦裁判に対する新判断(リンク

 一方、元慰安婦支援団体に関するさまざまな「疑惑」も表面化しました。

 最大の支援団体である正義記憶連帯(旧挺対協)の元理事長、尹美香氏に対し元慰安婦の李容洙氏が、2020年5月、「自分は挺対協に利用された」、「義援金をもらったことはない」と批判したのです。これをきっかけに、尹美香が慰安婦に対する国庫補助金や寄付金を私的に流用していたのではないかという疑惑が噴出。2020年9月、ソウル西部地検は、詐欺・準詐欺・業務上横領などの6つの容疑で尹美香を在宅起訴しました。尹美香は、2020年4月の国会議員選挙で、「共に民主党」の比例代表で当選していましたが、2021年6月に、土地不正取引に関与していた疑惑が明らかとなり、党から除名処分を受けています。

元慰安婦が支援団体を批判(リンク

 『帝国の慰安婦』訴訟の、事実上の原告であるナヌムの家も、さまざまな疑惑が提起されています。その多くは、元慰安婦のもとに集まった多額の寄付金を慰安婦のためには使わず、他の用途に流用していたというものです。ひどいのは、元慰安婦の故裵春姫さんの契約約定書を捏造して、全財産1億5,800万ウォンを横領したのではないかという疑惑。2020年12月18日、韓国警察は、詐欺や業務上横領容疑で安信権前所長らを書類送検しました。

「ナヌムの家」への疑惑(リンク

 韓国では、2019年7月に、李栄薫ソウル大学名誉教授の『反日種族主義』が発刊され、19年末時点で11万部売れるベストセラーになったそうです。同書は慰安婦問題についても、これまでの韓国の常識を否定し、支援団体を批判する内容が含まれています。

李栄薫『反日種族主義』(リンク

 これらの一連の動きが、現在ストップしている「帝国の慰安婦裁判」上告審にどのような影響を与えるのか、与えないのかはわかりません。

 「帝国の慰安婦裁判」は、元慰安婦による名誉棄損を装っていますが、実態は、ナヌムの家をはじめとする支援団体が、自分たちを批判する朴裕河の口を封じ、社会的に抹殺することを狙った裁判であることは明らかです。

 また、報道では、「言論の自由」という側面に焦点があてられることが多いですが、そもそも告訴内容自体が、『帝国の慰安婦』を意図的に誤読・曲解したもので、その部分こそ正すべきです。

 刑事一審判決は、『帝国の慰安婦』をきちんと読み、朴教授の反論にも時間をかけて耳を傾けた結果の、正しい判断だったと思います。

 一方、控訴審では、原告の主張だけを取り上げ、朴教授にはほとんど反論の機会を与えなかったそうです。判決内容をみると、第一審の判決をきちんと読んだのか、そもそも『帝国の慰安婦』を読んだのかさえ疑われる、お粗末なものでした。

 現在ストップしている上告審がいつ再開されるのか、そこでどんな弁論が行われるのか、どんな判断が下されるのかわかりません。

 朴教授はこの7年間、法廷闘争に奔走し、生活をめちゃくちゃにされてきました。これ以上、市井の学者を苦しめないでほしいです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 死語 | トップ | コロナワクチン交差接種 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

慰安婦問題」カテゴリの最新記事