犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

「朝鮮日報」の手のひら返し

2023-10-30 23:59:25 | 慰安婦問題

写真:日本大使館前の慰安婦少女像(聯合ニュース)

 『帝国の慰安婦』裁判、大法院判決の翌日、保守系の「朝鮮日報」がこの判決について、盛んに記事にしていました。その多くが日本語版にも翻訳されています。

 まず社説では、

韓国大法院「帝国の慰安婦」無罪判決…常識を確認するのに6年費やさねばならなかったのか

というタイトルで、大法院が、「検察が学問の領域までほじくり返し、裁判所が時流に便乗した判決を下してはならないという常識を確認した」と書きました。さらに、「何の争点も見あたらないのに、なぜこれほど長期間を要したのか」と問いかけ、その理由が、事件を担当した盧貞姫(ノ・ジョンヒ)大法官にあるとしています。

 盧貞姫大法官は、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領に任命された左派の判事。18年8月、前任者の退任にともなって「帝国の慰安婦」裁判を引き継ぎました。それから今回の判決までに5年2カ月を要したのは、文政権の路線(朴槿恵政権が結んだ慰安婦合意を事実上破棄し、反日を掲げていた)に相容れないような判決を、文大統領の任期中に出すのがはばかられたため、判決を先送りし続けたのではないか、という疑問で記事を締めくくっています。

 また、

朴裕河教授に「親日」の烙印を押した人々、韓国大法院判決に立場を表明せず

という記事では、これまで最大野党「共に民主党」が『帝国の慰安婦』の著者の朴裕河(パク・ユハ)世宗大学教授に対して「親日」の烙印を押したり、この論争を無視したりしてきたことを指摘。

 「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、城南市長時代の2015年2月15日に、朴教授の著書を巡る論争を取り上げた記事をフェイスブックでシェアし、この女…まだ教授職を維持しているのか? どうしてこんな人間と共に天を頂いて息をつくことができるだろうか…(泣) 清算すべき親日の残滓(ざんし)たち…」と書き込んだことを紹介。李代表はその後、「この女」という表現を「この教授という人」に修正したんだそうです。

 「この女」(イ・ヨジャ、이 여자)というのは、女性に対する差別語で、「このアマ」というのに近い。李在明がもし大統領になっていたら、このような判決は出なかったかもしれないと思うと、尹大統領が先の大統領選挙に僅差で勝利して、ほんとうに良かったと思います。

 李代表が城南市長を務めていた2016年6月、城南市中央図書館をはじめとする市内の図書館では、『帝国の慰安婦』など朴教授の著書4点を「19禁」(19歳以下への販売を禁じる)に指定したとのこと。

 共に民主党は、2021年8月には、詐欺で告訴された尹美香議員と共同で、「慰安婦被害者関連の歴史を否定・歪曲する動きを処罰する」という内容の「慰安婦被害者保護法改正案」を発議しました。

 大法院が朴教授の差し戻し(無罪趣旨)判決を下した日、共に民主党および李代表は、いかなる公式見解も出さなかったんだそうです。

 28日の【朝鮮日報コラム】に出た、朴裕河を打ちのめしたこん棒という記事が面白かった。

 書いたのは「朴垠柱(パク・ウンジュ)副局長兼エディター」

・学問の自由が勝利した
・挺対協が独占していた「慰安婦の論理」…異なる主張をすると「売国奴」扱い
・学者も、
メディアもひきょうだった

というサブタイトルがついています。

 朴裕河氏が起訴された2014年ごろ、進歩(革新)系のある人物がラジオで「学者は自己の研究が民族の利益に符合するかどうかまず考えなければならない。それを忘れたら保護を受ける資格はないと言ったんだそうです。

 記事は『帝国の慰安婦』の内容を紹介し、同書が、資料に基づき、慰安婦生存者の証言が年を追って変わっていった点を指摘。慰安婦になった年齢は徐々に若くなり、最初は「お金を稼ごうと思って行った」と話していたのに、その後、「ある日突然連れていかれた」に変わったこと。植民地の愚かな父親は「行って金を稼いでこい」と娘の背中を押し、町内に住む遠い親類は純真な女性をそそのかしたこと…、などを挙げています。

 そして、「挺対協」が、この問題に命を懸けて戦いを挑み、文章を抜粋し、話の前後を断ち切り、朴裕河を「売国奴」に仕立てていった。朴裕河を攻撃した後、慰安婦というキーワードは「少女像」という偶像を通して感性的にますます拡散し、さらに大きな国民的支持を受けた。事業として見れば、非常にうまいマーケティングだった。その後、「被告・朴裕河」は大学を定年退職し、挺対協共同代表から国会議員にまでなった尹美香は横領事件の被告になった。
 挺対協のように考えず、尹美香のように語らないからといって学者を脅迫するのは、全体主義的暴力だ。…その暴力を、同じ教授たちも、学者たちも、言論も、見て見ぬふりをした。朴裕河をたたくこん棒が自分たちに向くことを恐れた。記者もそのひきょうな群れの中にいた、と書いています。

 著者の朴垠柱は、「記者もそのひきょうな群れの中にいた」という言葉で自己批判しています。

 朴教授が告発された2014年6月、韓国のマスコミは、告発者の言い分だけを報道し、朴教授に反論の機会を与えませんでした。朴教授は、自身のフェイスブックに、次のように書いています。

 聯合ニュース以外にも、いくつかの新聞が報道したようです。それを見て、またため息が出ました。訴訟人たちが、本に書いてあると言ったことは、大部分、歪曲されています。このような歪曲自体、私に対する「中傷」であり、「名誉毀損」だと思います。歪曲したのが発言者なのか、それをメモした記者なのかはわかりませんが。

「今、ここ」に留まる理由

 2014年7月12日に、「朝鮮日報」はチョン・ボングァンという大学教授が書いた『帝国の慰安婦』の書評を載せました。内容は、著書に対して批判的な立場で書かれていました。朴教授はそれに対し、朝鮮日報に「反論」の機会を与えてほしいと要請し、朝鮮日報は了承し、朴教授は反論を送りました。しかし、この反論は記事にならなかったということです。

『帝国の慰安婦』朝鮮日報の書評と著者の反論

 そして、朝鮮日報は、2015年にも朴教授に対し批判的な記事を載せています。

韓国マスコミが『帝国の慰安婦』に批判的な理由

 これが、先に紹介した記事で、朴垠柱が書いた「学者も、メディアもひきょうだった」「記者もそのひきょうな群れの中にいた」という言葉の意味するところです。

 朝鮮日報日本語版の記事は、一定期間後に読めなくなるので、全文を載せておきます。

朝鮮日報日本語版2023年10月28日

朴裕河を打ちのめしたこん棒

・学問の自由が勝利した
・挺対協が独占していた「慰安婦の論理」…異なる主張をすると「売国奴」扱い
・学者も、メディアもひきょうだった


 「学者は自己の研究が民族の利益に符合するかどうかまず考えなければならない。それを忘れたら保護を受ける資格はない」。『帝国の慰安婦』を書いた朴裕河(パク・ユハ)世宗大学教授が起訴された2014年ごろ、進歩(革新)系のある人物がラジオでこんなことを言った。学問の自由を否定する全体主義的発言だった。驚くべき発言に、タクシーの中でメモを取った。さらに驚くべきは、出演者の誰も文句をつけなかった、という点だ。「それでも刑事処罰はやり過ぎ」くらいの反論しか記憶に残っていない。

 2013年、『帝国の慰安婦』が配達された日、一息に読んだ。歴史学者ではない人文科の教授が書いたこの本は、朝鮮だけでなく日本、東南アジア、オランダまで広く取り扱い、女性の身体を搾取する国家権力と資本、その中の女性を題材にしていた。フェミニズム的視点だった。痛いほどに直接的な部分も多かった。

 同書は、さまざまなメディアのインタビューを比較し、慰安婦生存者の証言が年を追って変わっていっている点も指摘した。慰安婦になったという年齢は徐々に若くなっていき、最初は「お金を稼ごうと思って行った」と話していたのに、何度かインタビューした後には「ある日突然連れていかれた」に変わっていた。

 慰安婦被害者らはうそつきで、自発的売春婦だと非難しているわけでは決してない。遠い過去を記す被害者の証言は、一貫性を維持するのが困難だ。トラウマ、老化、政治的立場など、さまざまな理由がある。朴裕河は、個人の陳述の限界を超え、資料を通して戦争犯罪である日本の「慰安婦動員」体制を分析した。

 植民地の愚かな父親は「行って金を稼いでこい」と娘の背中を押し、町内に住む遠い親類は純真な女性をそそのかした。もちろん、強制で連れていかれたような少女も、お金を稼ぎにいった婚期外れの女性もいた。国がしっかりしていれば、起きるようなことではない。「強要された自発性」は、植民支配が厳然たる日常の暴力となっていたことを証明するものだ。日本には責任がないと言っているのではない。

 驚くことに、ハルモニたちを助ける「義のある」集団、「挺対協」が、この問題に命を懸けて戦いを挑んだ。文章を抜粋し、話の前後を断ち切り、朴裕河を「売国奴」に仕立てた。そのころ、疑念を抱き始めた。初期に慰安婦研究をしていたさまざまな男女の学者らは追い出され、いつの間にか、挺対協が何人かを掌握した「フレンドビジネス」になっているのではないか。朴裕河を攻撃した後、慰安婦というキーワードは「少女像」という偶像を通して感性的にますます拡散し、さらに大きな国民的支持を受けた。事業として見れば、非常にうまいマーケティングだ。「被告・朴裕河」は法廷に通う間に定年退職し、挺対協共同代表から国会議員にまでなった尹美香(ユン・ミヒャン)もまた横領事件の被告になった。

 公職の候補が生放送でうそをついても「質問に答える、即興的なうそはうそとは見なせない」として無罪判決が出る国だ。フェイクニュースの量産にふけっているメディアを家宅捜索しても「言論にくつわをはめるもの」という論理が出てくる国だ。「うそをつく自由」まで保障しているが、「親日」のレッテルが貼られると生き埋めになる。ひとえに左派が、その鑑別を行う。

 朴裕河の著書は、見事な研究書ではない。「(慰安婦の役割は)性的慰撫を含む故郷の役割だった」というような文章は、性搾取を「哀愁」で包装しており、飲み込むには難がある。

 それでも、挺対協のように考えず、尹美香のように語らないからといって学者を脅迫するのは、全体主義的暴力だ。太極旗部隊ではなく、こういう存在が「極右」あるいは「極左」に当たる。その暴力を、同じ教授たちも、学者たちも、言論も、見て見ぬふりをした。朴裕河をたたくこん棒が自分たちに向くことを恐れた。記者もそのひきょうな群れの中にいた。大法院(最高裁に相当)は10月26日、朴裕河に対する原審判決(名誉毀損〈きそん〉の罪で罰金1000万ウォン〈約110万円)を無罪の趣旨で破棄差し戻しとした。裁判長の盧貞姫(ノ・ジョンヒ)大法官は代表的な進歩派判事だ。

朴垠柱(パク・ウンジュ)副局長兼エディター

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2 コメント

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シェアさせていただきました。 (skanno)
2023-10-30 08:26:51
シェアさせていただきました。
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ありがとうございました (bosintang)
2023-10-30 21:24:53
今回の判決、ほんとうに嬉しく思いました。
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