犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~二日目 昼食

2016-09-13 23:54:48 | 韓国便り(帰任以後)

 二日目のお昼はプデチゲを食べました。

 プデチゲの「プデ」は漢字で書くと「部隊」。そしてこの部隊というのは、美軍(米軍。韓国で米国のことを美国(ミグク)といいます)の部隊のことです。

 1950年に韓国戦争(朝鮮戦争)が勃発し、朝鮮半島は混乱の極致に陥りましたが、それが落ち着いたころ、米軍の基地の周辺には、米軍から横流しされた物資を使った食堂が次々とオープンしました。米軍が持ち込んだスパム(缶詰の肉製品)を使った料理が、部隊チゲです。

 材料は、米軍由来の缶詰のハムやソーセージ、韓国伝統のキムチ、その他ネギや豆腐、トック(韓国の棒状の餅)。そこに日本伝来のインスタントラーメンが加わったのは1960年代でしょう。日清食品の安藤百福がチキンラーメンを発明したのが1958年ですから。ですので、プデチゲは米韓日のフュージョン料理ということになります。

 韓国では料理の名前の前に地名を入れてチェーン店を展開する習慣がありますが、部隊鍋の場合、議政府(ウィジョンブ)プデチゲとか龍山(ヨンサン)プデチゲなどが有名。ともに米軍の基地が置かれている町です。

 私が韓国に駐在していたころは、当時の事務所の近くに「ノルブ・プデチゲ」というチェーン店があり、週に1度は通ったものです。

 ノルブというのは、韓国の昔話「フンブとノルブ」の登場人物。意地悪で欲張りのお兄さん、ノルブと善良な弟のフンブの間の、勧善懲悪のお話です。店の名前に選ばれたのがなぜ悪役のノルブなのかはよくわかりません。

 さて、この日に行った店は、オフィスビルの二階にあって、通りに看板が出ていないのでわかりにくい。見上げると、2階の窓には大きく「プデチゲ&トンカス」と書かれていました。トンカスというのはトンカツの韓国式発音(表記)です(韓国人はツの発音ができません)。

(プデチゲとトンカツというのは妙な組み合わせだなあ。これはもしかして「幻想的な宮合」?)

 昔、トンカツ・スントゥブ鍋という料理をメニューに載せている店がありました。その売り文句が「幻想的な宮合(相性)」(→リンク)。スントゥブ鍋の中にトンカツを入れちゃうという大胆な料理です。もしかすると、プデチゲとトンカツもけっこう相性がいいのかもしれません。

 12時を少しすぎたころでしたから、ランチでいちばん混み合う時間。広い店は満員で、私たちは人数が多い(7人)こともあって、10分ほど待たされました。お客さんはほとんどがプデチゲを頼んでいて、トンカツを食べている人はいない。私たちも全員プデチゲです。

 ところが、現地の社長(日本人)が、「これは私がおごるから」と言って、トンカツ3人前も注文。ボリュームのある昼食になりました。

「これは4人分、こっちが3人分」

 アジュンマが運んできた二つの鍋は、微妙に大きさが違います。スパム、挽き肉、キムチ、長ネギ、豆腐、春雨などが入っていて、ガスコンロの上に置いてから、ユクス(だし汁)をタップリと注ぎます。そして、ラーミョン・サリ

 袋入りのインスタントラーメンを「ラーミョンサリ」と言います。普通のインスタントラーメンと違い、粉末スープもかやくも入っていない。乾めんだけが入っている、業務用、鍋専用のラーメンです。

 「サリ」という言葉の意味は、正確なところはよくわからないのですが、鍋物にいれる追加の食材(主に炭水化物食品)のことのようです。「ラーミョン・サリ」以外に、「ウドン・サリ」とか、「マンドゥー(餃子)・サリ」なんていうのも聞いたことがあります。鍋が沸騰したら、このラーミョン・サリを投入します。3人前の鍋には一つ、4人前の鍋には2つ! これをおかずにして、ご飯を食べる。

(トンカツ・サリも来るのかな)

 期待と不安が入り交じったような気分で待っていると、やってきたのは普通に皿に盛りつけられたトンカツでした。さすがにプデチゲの中に投入するというような、乱暴な真似はしないようで、安心しましたがやや残念。

 キャベツといっしょに盛りつけられているところは日本風ですが、肉が薄く、ころもがやけに厚いところは韓国風。トンカツは和食なのか、洋食なのか、よくわかりません。ただ韓国食でないことは確かでしょう。

 一時代前の韓国のトンカツは、「洋風」の色彩の強いモノでした。

 とても大きな皿に、これまたとても大きいが薄いトンカツが載っている。肉は叩いて伸ばし、厚みよりは面積を稼ぐ工夫がされていたようです。トンカツの脇には、オレンジ色の甘めのドレッシングがかかったサラダ、そして砂糖がたっぷり効いたポテトサラダが、きれいな半球の形にかたどって配置され、ごはんも同じ皿に盛られています。それを箸ではなくて、フォークとナイフでいただきます。さらにカップに入った、これまた甘いコーンスープがつく。値段は高く、当時テンジャンチゲ(味噌鍋)が4000ウォンのときに7000ウォンぐらいとられました。ちょっと贅沢なお昼ごはんという感じ。
その後、日本風のトンカツが流入し、トンカツ、キャベツの千切り、たくわん、味噌汁、ごはんという日本風のトンカツ定食が人気を集め、今ではこちらのほうが主流になっているようです。

 プデチゲの味はまあまあ。私には昔食べたノルブのほうがおいしかったように思います。トンカツの味も無難です。とにかく、スントゥブだけでも十分な分量なのに、トンカツまで食べるのは相当な努力を要します。でも、社長がせっかくおごってくれたのに残すのは申し訳ないので、一生懸命食べました。

 出張直後に予約している人間ドックの結果が心配です。


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