犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~二日目 夕食

2016-09-15 23:16:33 | 韓国便り(帰任以後)

 二日目の夜、現地駐在員は私よりも前に韓国入りした出張者も含め連日つきあってくれていたので、この日は遠慮し、個人的な友人と食事をすることにしました。

 在韓20年のKさん、前回の出張ではちょうど一時帰国していてすれ違いでしたが、今回は幸いソウルにいました。

「じゃ6時半にホンデイプクの2番出口で」

 待ち合わせの場所に10分ほど遅れて到着すると、Kさんはまだ来ていない。5分ほど経ったとき、場所を間違えたのではないかと不安になり、Kさんに電話してみました。

「あ、犬鍋さん。あれっ? 今何時ですか」

「6時45分ですよ」


「えっ? わっ、時計が止まってる! すぐ行きます!」


 Kさんが現れたのは7時過ぎ。

「ごめんなさい。時計の電池が切れるなんて、2年に一度くらいなのに、よりによって今日切れるとは」

と、5時25分で止まっている腕時計を示しながら謝ります。

 ホンデイプク(弘大入口)は、芸術関係で有名な弘益大学のそば。おしゃれな装いの若者が多く、トレンディーな街並みを形成しています。

「どこに行きましょうか?」

「あんまりおしゃれな店は好きじゃないから…。モレネ市場みたいなところがいいなあ」

 以前、モレネ市場というディープな一画を探検したことを思い出しました(→リンク

「じゃ、ヨンナムドン(延南洞)にしましょう。キサシクタンがたくさんあるところです。でも最近はちょっと小ぎれいになっちゃいましたが」

 キサシクタン(技士食堂)、というのはタクシーの運転技士(運転手という言葉が差別的だというので言い換えられた醇化語)たちが休憩時間に手軽に食事をとれる、安くて、汚くて、おいしい(こともある)食堂です。

 キサシクタンの定番は、カムジャタンやソンジヘジャングク(豚の血のこごりのスープ)など。私たちはポッサムキムチ(煮豚をキムチといっしょに食べる料理)とカムジャタンのある店に入りました。

 もう一人、共通の知り合いである韓国人アガシを呼んでいました。長らく夜の仕事をしていた彼女は、最近、昼の仕事に転職したとのこと。勤務先はタンサン(端山)。ホンデイプク駅から二つ目です。

「タンサンって工場街ですね。工場で働いているのかな?」


 アガシがやってきたのは、われわれがポッサムキムチの小を食べ終わるころ。

「カムジャタンを頼んでもいいし、店をかえてもいいし、どうする」

「隣にヤンコチクイ(羊の串焼き)の店があるね」

「じゃ、そこにしましょう」


 二軒目は、中国東北地方からきた朝鮮族の店。昔はカリボンドン(→リンク)など、特殊地域にしかなかった店ですが、いまでは韓国人の間でも人気になり、東大門や新村、弘大などにも増えてきました。

「なんの仕事してるの?」

「ロッテの工場。アイスクリームのコーンを作ってるわ」


「ベルトコンベアで…」


「そう。朝の七時から夜の七時まで。休憩は1時間が一回と30分が2回。ノムヒムドゥロヨ(とてもつらいわ)」


「それは大変だ。チャップリンのモダンタイムスの世界だね」


 Kさんは、昔の映画にとても詳しい。

「だからもう辞めるわ」

「どれくらい勤めたの?」


「10日間」


「…」


「労働者のこと、人間扱いしないから。急に、明日は来なくていいから、とか、今日だって明日の日曜日に来てくれなんていわれて。あっちの都合しか考えないのよ。だから、今日で辞めさせていただきます、って言ってきたところ」


 韓国の最低賃金は時給600円ぐらい。外国人労働者(おもに朝鮮族)に対する劣悪な扱いが新聞でとりあげられたりもします。

「て、次は何するの?」

「ちょっと休んで、猫の世話でもするわ」


「そういえばたくさん飼ってたね」


「ええ。26匹」


「26!」


 たしか、前回会ったとき23匹と言っていたから、さらに3匹増えたようです。

 三次会は、駅のほうに向かい、しゃれたワインの店に入りました。

「ワインはぼくが選ぶよ。このまえフランスに行ってきたからね」

 ワインリストにはたくさんの銘柄が並んでいましたが、ほとんどはチリ産。税金の関係で安く輸入できるようです。フランス産はたった一種類だったので、それを頼みました。回りはほとんどが若者で、われわれ3人はやや場違い。ボトルを一本空け、3人とも心地よい酩酊状態に。

 さらに近くのコーヒーショップで酔い醒ましをしていると、いつしか地下鉄の終電がなくなる時間になりました。

 K氏は徒歩で、アガシは深夜バスで、私はタクシーで帰路につきます。最近、韓国の景気が悪くないのか、深夜のタクシーは拾うのが難しい。昔のようなハプスン(相乗り)は禁止されましたが、行き先を聞いてから乗車拒否というのは健在です。なんとかタクシーを拾ってホテルについたのは深夜1時を回っていました。


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