犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

柳錫春の発展社会学講義~『慰安婦問題の真実』

2021-09-27 23:50:54 | 近現代史
5.『慰安婦問題の真実』

 一方「慰安婦問題の真実」を探る努力は、メディアには注目されなかったが、少しずつ進展していた。吉田の証言が「おかしい」と考える人があちこちで現れ始めたのだ。同時代をともにした人々は、吉田が証言したことを、まったく知らないと言った。

 1989年8月17日、「済州新聞」は、吉田が強制連行したという済州島城山浦のボタン工場を訪ね、年寄りたちの証言を確認した結果、そのようなことをまったく知らずにいるという記事を出した。「日本の捏造、破廉恥な商魂に憤慨」という副題がつけられた記事だった。しかし、この記事は反日感情に埋もれ、あまり注目されなかった。

 日本でも同じ疑問を持った人々が現れ始めた。1980年代初頭、日本大使館で専門調査員として勤務した経歴をもつ西岡力が代表的な人物である。彼は韓国語を流暢に駆使し、日本人拉致被害者問題を暴く親韓派ジャーナリストであり、学者である。彼もまた、同時代を生きた人々の経験が吉田証言と一致していないことに注目した。

 西岡の執拗な問題提起に促され、日本では、ついに朝日新聞が、吉田の本の出版からなんと30年以上過ぎた2014年4月、真実究明のための独自の調査団を済州島に派遣した。これらの確認を経て、吉田証言は「一から十まで、まったくの嘘」という事実が満天下に明らかになった。

 結局朝日新聞は、2014年8月5日、吉田証言が捏造であることを社告で明らかにし、16個の関連記事を削除すると発表した。朝日新聞会長は謝罪し、編集局長は罷免された。さらに2017年には、吉田清治の長男が、すでに故人となった父の過ちを代わりに反省する本も出版した。

 西岡は、慰安婦問題を巡って朝日新聞と争ってきたプロセスをまとめ、2007年6月、『よくわかる慰安婦問題』という本を日本で出版した。吉田の嘘の証言が世に出てから、なんと20年後のことだ。この本の帯には、「誰が、いつ、どのように問題を拡散させたのか? その本質を把握するための必読書」と書かれている。また、「現在の状況に即した、新内閣官房長官談話試論を提供する」という破格の提案も含まれている。

 韓国ではまったく知られていなかったこの本は、その後2021年に翻訳され、韓国語で出版された。翻訳本は、「韓国政府とマスコミが語らない慰安婦問題の真実」という挑発的な書名になっている。また、この本の別冊付録には、この問題に関連する日本側の主な資料がすべて翻訳され、まとめられている。

 別冊付録「資料集」には、2015年に発表された「朝日新聞の慰安婦報道についての独立検証委員会報告書」、2014年に発表された「日本政府の河野談話検証報告書」、1996年のクマラスワミ報告書について、日本政府が国連に提出したが、何らかの理由ですぐに撤回された「日本政府の国連クマラスワミ報告書に対する反論書」などが載っている。すべて、慰安婦に関する歪曲を明らかにする、核心的な資料である。

 慰安婦問題をめぐる朝日新聞の意図的歪曲報道は、1991年に始まった。ちょうど韓国で挺対協が出帆したころだ。1991年12月6日、日本の裁判所で、日本国を相手に損害賠償を請求した金学順が訴状には「母に売られ妓生になった」と記載されていたものを、朝日新聞は「日本軍が慰安婦を女子挺身隊として強制連行した」と書き換えて報道した。

 この歪曲を見つけたのが、まさに西岡だ。金学順のこの裁判は、10年かかって2004年、日本の最高裁で最終的に敗訴した。しかし、この過程で明らかになった朝日新聞の蛮行を、韓国のマスコミは一行も報道しなかった。逆に、日本の司法も戦争責任を認めない点で同じ、という非難の報道で一貫していた。韓国の慰安婦をめぐる言説は、このように嘘の山を築き、真実はその下、奥深いところに葬られた。

6. 再び発展社会学

 日韓の左派メディアと活動家たちがこのように連帯して慰安婦問題を歪曲している現実を、韓国民ははたしてどのくらい知っているだろうか? 学生たちは言わずもがなである。また、このような事実を少しでも明らかにすれば、むしろ「日本の極右の手先」という非難を甘受しなければならないのが、昨今の現実である。

 この現実を相手に、筆者は韓国左派の首長、文在寅大統領の反日扇動、「No Japan」のスローガンが最高潮に達していた時、教室で「歴史の真実」を語るという重大な「罪」を犯した。そして、その結果は、検察による起訴であった。刑事法廷で「虚偽事実で慰安婦の名誉を毀損した責任」を負えという公権力を相手に、「虚偽事実ではないし、たとい虚偽事実であったとしても学問の自由として保護されなければならない」という主張をして争っている状況が、愉快なはずがない。

 しかし、いつかは『赤い水曜日』というもう一つの足がかりを介して、『私の戦争犯罪』が積み上げた嘘の山が崩れ、やがて『慰安婦問題の真実』が明らかになり、幽霊のように韓国社会にまとわりついている『反日種族主義』が木っ端みじんにされる日が来ると、筆者は確信している。最後には真実が勝つものだからである。

 そうこうするうちに、2020年8月、私は定年を迎えた。そしてこの記事を書いている今、定年から1年経っている。あの事件が起こって丸2年の歳月が流れた。しかし、この2年間が与えてくれた恩恵がないわけではない。もし今、私がもう一度「発展社会学」の講義をするとすれば、学生に読ませるべき良いテキストが増え、ありがたいし、嬉しい、と言えるようになったからである。

(了)


柳錫春の発展社会学講義~『反日種族主義』
柳錫春の発展社会学講義~『赤い水曜日』
柳錫春の発展社会学講義~『私の戦争犯罪』
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 柳錫春の発展社会学講義~『... | トップ | 柳錫春氏の刑事裁判 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

近現代史」カテゴリの最新記事