僕の大好きな女優、芦川いづみ。
これまでも芦川いづみの映画などに関してかなり頻繁に取り上げてきたが、なんと芦川いづみに関する新たな本が出版されたのだ。そのタイトルは『奇跡の女優 芦川いづみ』。作者は、映画評論家の倉田剛氏で、芦川いづみ作品を細かく掘り下げて解説した、なかなか内容の濃い待望の出版物で、「よくぞ取り上げてくれた!」と思わず叫びたくなるような“奇跡の本”である。
芦川いづみが映画界を引退したのが1968年。僕が産まれる1年前である。その引退から既に55年も経つこともあり、芦川いづみに関する本や文献などは極めて少ない。しかし、2015年に神保町シアターで『恋する女優 芦川いづみ』というタイトルで最初の映画祭が始まったが、この反響は凄く、以降3回の続編企画が開催されて、ちょっとしたブームとなった。当時からファンだったシニア層にとって、芦川いづみは青春の1ページであった筈で、歓喜の中で映画祭に足を運んだ人も多かっただろう。また、僕のようにリアルタイムで芦川いづみを知らない世代も巻き込んで、新たなファン層を確立するというちょっとしたプチ社会現象が起こったが、これはまさに日本映画界におけるささやかながらも奇跡的なムーブメントであり、ある意味時代が芦川いづみを求めているとも言えるかもしれない。“こんな素晴らしい女優が日本にもいたのか!”と思ったが、僕もすっかり時間を超越した彼女の凛とした美しさの虜になってしまった。僕にとってはその理想的な美しさに加え、女優としての魅力に思わず引き込まれてしまったのである。
この映画祭からの盛り上がりを受けて、2019年に文芸春秋から出版された『芦川いづみ 愁いを含んで、ほのかに甘く』は本当にタイムリーな出版だったが、僕も思わずこの本に感動してしまった。彼女の主演作品を多くの貴重な写真を使って取り上げていたり、彼女へのインタビューなども含まれていて、とても素晴らしく充実した本であった。まさに僕にとっては芦川いづみの新たな“バイブル”となった。
そして、今回ついに『奇跡の女優 芦川いづみ』という、またもや感動的な本が出版された。芦川いづみはその女優人生の中で108本の映画に出演しているが、この本では芦川いづみを主演に起用した多くの巨匠監督という観点で映画を解説したり、テーマとして戦争映画、病気をテーマにした映画、ミュージカル映画、フィルムノアール、コメディー映画、働く女性などを切り口に整理して解説されており、また新たな括り・視点で芦川いづみ映画を捉えることが出来たのはとても新鮮であった。また、時代ごとに芦川いづみの映画を捉えて解説されている部分もあり、時代の流れ、ひいては日活映画の栄枯盛衰をふりかえることも出来てとても興味深い内容であった。本の中には(白黒ではあるが)多くの写真なども掲載されており、こうしてまた美しい芦川いづみを見ることが出来るだけでも最高に嬉しいことである。
僕は主要な芦川いづみ映画は既に観ているか、或いはDVDで所有しているのだが、108本も出演作がある中で、未だDVD化されておらず、まだ観賞出来ていない作品も結構ある。そんな作品などもこの本では解説されており、読んでいて益々観てみたくなってしまった。僕が一番好きな芦川いづみ作品はダントツで『あした晴れるか』だが、他にも『喧嘩太郎』、『あいつと私』、『青年の椅子』などがある。これらの作品についても細かく解説されており、改めてそれぞれの作品の時代背景や流れを再認識するのに良い機会となった。
そしてこの本の中でも、特に芦川いづみ映画をLGBTQや妹キャラ/シスターフッドのジェンダー観点で解説している点も大きな発見であった。確かに『青春怪談』などはその気のある映画ではあると思って観ていたが、この視点で改めて他の映画を見ると、多くの場合にLGBTQやシスターフッド的な要素が垣間見れることもわかった。公開当時は、まだ時代として少し早過ぎた面もあったかもしれないが、今振り返ると時代を先取りしたものとしてかなり画期的に映る。その意味で今改めて評価されるべき芦川いづみ映画も多いと感じた。
こうしてまた新たな芦川いづみ本が出版されたことは本当に大きな喜びである。芦川いづみご本人はまだご健在だと思うが、この再評価やブームをどう捉えられているのだろうか。もうメディアに登場することは無いかもしれず、その意味でもまさに伝説的な女優として神格化されているが、もし叶うことなら、一度で良いので、お元気な姿を生で拝見したいものである。そんな思いを密かに心に抱きつつ、これからも彼女の映画を見続けて行きたい!